ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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これでこの物語も本編は終わりになりますよ。


46話 彼等の決着は……

 神を超えし二人の決着を全て見届けるべく、サーゼクス、ミカエル、アザゼル、セラフォルーのトップ四人。そして一誠の事を心底心配し死んでしまわないよう必死に願いつつ見届けることを決めたアーシア。腐れ縁の相棒の願いを見届けるために来た久遠。最後に一誠と多少の関わりをもったことのあるリアスや、ソーナ、そしてその眷属達が転移してきた。

彼等の目の前に広がったのは、全てを破壊尽くされた荒野というのも烏滸がましい戦場跡。

その中でも一際巨大なクレーターの中央で、満身創痍で生きていることが不思議になるほどにボロボロな二人は未だに倒れずに立っていた。

そのあまりに痛々しい姿に男達は息を飲み、女は恐怖のあまり顔を真っ青にして悲鳴を飲み込んだ。

周りに転移してきた者達に気付かないのか、一切反応を示さない二人。

いや、もう気付ける程の余裕もないのだろう。立っていることですら奇跡に近いのだから。

このまま倒れると誰もが思った。

だが、その予想は覆る。彼等は何と………。

 

まだ戦いを止めていなかった。

 

理性など無い獣のような咆吼を上げながら、立っているのもやっとの足でふらつきながら、それでも互いに突き進んで拳を相手に向かって放ったのだ。

そしてお互いの頬を抉る拳。その際、血肉と骨がぶつかり合う音が確かに彼等の耳には聞こえた。

 

「お兄様、もう二人を止めて下さい!」

 

それを見て、顔を逸らしつつリアスが悲鳴混じりにサーゼクスに訴える。

これがレーティングゲームならとっくにリタイアとなり転送されているだろう。だが、これは『ゲーム』ではない。実際の『殺し合い』だ。その悲惨な光景に彼女は我慢出来なかった。

もう勝負は付いた。これ以上は戦う必要は無いと。

それはソーナも同じであり、彼女達の眷属もその意思の籠もった視線をサーゼクスに向ける。

だが、サーゼクスは首を横に振りその願いを否定した。

その否定にリアス達は何故だと食って掛かるように反応するが、それをサーゼクスは答えない。

答えられはする。だが、それを彼女達は理解出来ないだろう。

その理由はあまりにもはっきりとしていて、あまりにも稚拙だから。

だが、それは真理だ。この世の闘争という行為の行き着く答え、その本音。

だからなのか、サーゼクスの変わりにアザゼルがリアス達に答えた。その顔はニヤリと愉快そうに笑っている。

 

「お前等、そんな無粋な真似するんじゃねぇよ。そんなことしたら、それこそアイツ等にぶっ殺されちまうぜ」

「な、何よ! だってもうこれ以上戦えるわけないじゃに。止めなくちゃ、本当にあの二人、死んでしまうじゃないの!」

 

それを聞いてアザゼルはやれやれといった様子で首を横に振る。

その様子にやっぱりと言った様子で引き下がったのは、リアスとソーナの眷属達の中で男である木場 祐斗と匙 元士郎だ。

彼等には何故止められないかの理由が何となくだが分かっていた。。

それは男ならば誰もが思うこと。女でも同じ事を思いはするが、その思いの強さは比べものにならない。

その答えを言うかのように、アザゼルはリアス達に答えた。

 

「まだ勝負はついてねぇんだよ。あいつらの喧嘩はまだ決着してねぇ。あれはまだやり合うだろうさ。どっちかが動かなくなるまでなぁ」

「そんなっ!? 何で!」

「そいつが『男』だからだよ。負けたくないから、絶対に倒したいから。だから奴等はまだやり合うんだよ。そいつを止めようとするなんざぁ、野暮ってもんだろ」

 

それを聞いてリアスやソーナ、そして眷属の女性陣は同じ眷属内の男達に視線を向ける。

視線を一身に浴びた木場と匙は気まずそうな顔をしつつもゆっくりと頷く。

その様子を見て。リアス達は言葉を失った。

男とは、それほどなまでに愚かなのかと。どうして自分の命よりもそんな意地を優先するのかと。それは彼女達には理解出来ない領域のことであった。

だからこそ、アザゼルは皆を納得させるように口を開いた。

 

「意地があるんだよ、男にはなぁ。それこそ、命を張ってでも貫き通したい意地がな。そいつを理解しろとは言わねぇよ。女子供には理解出来るもんじゃねぇしよ。だがよ、覚えておいてくれよ。そいつが『男』ってもんだってことをよ」

 

その言葉に静かになるリアス達。

その中で唯一、アーシアだけは目を反らずに一誠の姿を見続けていた。

 

(例えどんなにイッセーさんがボロボロになっても、それでも、私はイッセーさんのことを信じて待ち続けます。それが、私があなたに唯一出来ることですから……)

 

 

 

 サーゼクス達が転移してきたことに普段なら気付いたはずだが、今の二人は気付けない。

確かに身体はボロボロで、鼓膜も破けたのか音もぼやけてでしか聞こえない。

だが、それ以上に彼等は集中していたために気付かなかった。

目の前に居る存在。自分だけの敵に、彼等はそれだけに集中していた。

 

「がぁあぁあぁぁああぁああぁああぁあぁああぁあああぁああ!!」

「あぁあぁあぁあぁあぁぁあああぁぁあああああぁあああああ!!」

 

もう言葉らしい声は出ない。出せるのは獣染みた咆吼のみ。

だが、それでも叫ぶ彼等からはその闘志が衰えていないことが窺える。

そしてどちらもボロボロの拳を振るい相手を殴る。

顔を、胸を、腹を、殴れる所はどこでも兎も角殴る。ふらつく足取りでゆっくりとしか近づけなくても、力の限りを拳に込めて放つ。

一誠もヴァーリももう限界など超えていた。

身体から血が溢れ出し骨は無事な部分などないだろう。一部などへし折れて身体から飛び出していた。

激痛という激痛が身体を襲い、意識を強制的に停止させようと本能がする。

それを意地のみでねじ伏せ、彼等は拳を振るうのだ。

 

「らぁっ!」

「がぁあっ!」

 

一誠の拳がヴァーリの顔面に突き刺さると、ヴァーリの拳が一誠の腹へと吸い込まれる。

激突と共に弾け飛ばされ、二人は離れる。

その際に血が大地に飛び散り、二人がいる地面は血でまだら色になっていた。

既に死に体の身体。倒れても可笑しくない……否、倒れていなければ可笑しい身体だというのに、それでも二人は倒れない。その目は血で赤くなりつつも相手を睨み付ける。

そして再びふらつく足取りで互いに歩み寄り、拳を交えていく。

骨と骨がぶつかり合う音が響き合い、撥ねた血がびしゃりと地面に叩き着けられる。

その光景は最早決闘と呼べるものではない。それは醜い喧嘩だった。

顔は腫れ上がり血にまみれ、骨が折れていようと気にせずに拳を振るい続ける。

それはあまりにも悲惨で、見る者全ての目を逸らさせるには十分な光景だった。

それでも……そう、それでもだ。

それでも彼等は……負けたくなかった。

 

「ぐるぁあぁぁあぁぁああ!!」

 

一誠が獣染みた咆吼を上げながらヴァーリに向かって殴りかかる。

ヴァーリはその右拳をふらつきながらも躱すと、その伸びた腕に自分の腕を絡ませ、そして力の限りを込めて……。

 

「あぁあぁあぁあぁあ!!」

 

へし折った。

 

「っっっっっっっ!? がぁあぁあぁあぁああぁあぁぁぁああぁあああぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁああぁあああああぁああぁあああ!!!!」

 

その途端に響き渡る一誠の悲痛な叫び。

折られた右腕はあらぬ方向に曲がり、その部分を変色させていた。

その光景を見たアーシアの目から涙が溢れ出る。だが、それでも彼女は見続ける。

これで一誠の右腕はもう使い物にならないだろう。

だが、一誠も又ただでは済まさない。

 

「るぁあぁあぁあぁぁああぁああぁあぁあぁああぁあああぁあぁああぁあああ!!」

「ぐぅぅぅぅううぅぅぅうぅううぅうぅうう!!」

 

残った左腕でヴァーリの左腕を掴むと、持てる力の全てを使ってヴァーリの左の二の腕を握り潰した。

ぐしゃりと何かが潰れる音と共に、力を失ったヴァーリの左腕が垂れた。

骨は勿論、その肉も潰された結果だ。

痛みのあまりに顔を歪めつつ声を押し殺すヴァーリ。そんなヴァーリに一誠はニヤリと笑う。どうだ、お返ししてやったぞと言わんばかりに。

互いの片腕を潰し合った二人。

だが、その闘志は尚も燃え上がる。己の野性をより呼び起こし、人らしからぬ戦いに身を任せる。

腕が駄目になったのなら、まだ使える部分を使って戦うまで。

二人はそう言わんばかりに行動する。

頭をぶつけ合い、倒れながら蹴りを放つ。

既に生きていることでさえ奇跡に近いというのに、それでも二人はとまらない。

体力などもう尽きている。血はもう死ぬ間際まで流れ出ている。激痛は発狂死しても可笑しくないくらいに酷い。

だというのに、それでも二人は、たった一つの意地だけで立ち続ける。

 

((負けたくない!!))

 

それだけが二人の原動力。

その意思のみが二人を突き動かしていた。

だが、始まりがあれば終わりも必ずある。

二人はもうこの最高で最凶な喧嘩が終わることを察した。

だからこそ、二人は最後の、それこそ本当に最後の一撃を放つために力を込め始めた。

左腕だけをヴァーリに向けて拳を握る一誠。ヴァーリも右腕だけを構えて一誠を睨み付ける。

そして両者から光が輝き始めた。

一誠の左腕は赤く輝くと、赤龍帝の籠手が展開される。ヴァーリは白く光ると、その背には白龍皇の光翼が現れた。

お互いに最後の力を出し合い、その顔に笑みを浮かべた。

それは闘争心がむき出しになった壮絶な笑み。こんな風になっても、それでも負ける気は無いと主張する笑み。

 

「テメェの………負けだッ!!」

「オレの………勝ちだッ!!」

 

そして二人は同時に駈け出した。

一誠は左拳を突き出しながら駈け、ヴァーリは翼を使って加速する。

 

「オォォオオォオオォォオォオオオオオォオオォオオォオォオオォオオオッッッッッッッッ!!」

「シャァアァアァアアァアァアァアアアァアアァアァアアァアアァアアアッッッッッッッッ!!」

 

そして互いの最後の攻撃が炸裂する。

その途端、その衝撃がサーゼクス達が居る所まで伝わり、軽く大地を揺らした。

互いの攻撃は顔面にめり込み、その場で動きを止める。

まるで時が止まったかのように停止する二人。

だが、次の瞬間に時は動き出した。

展開された神器がほぼ同時に砕け散ったのだ。

それに伴い、二人は地面に倒れる。

互いに前のめりに倒れ、一切動くことなく辺りは嘘のように静まった。

その姿に一誠がどうなったのか分からないが、それでもアーシアは涙を流しながら駆け寄りたい気持ちを堪える。

まだ動くかどうか? それは少し待ってみれば分かることだった。

結果として、二人は今度こそ意識を失っていた。それでも身体は無意識に起き上がろうとして力を込め、戦おうとしていたが。

その様子を見て、久遠は笑う。

 

「………残念だったな、イッセー。また『引き分け』だ」

 

 

 

 こうして長きに渡るというには短い、約10年ぶりの因縁の戦いは、それでも尚引き分けという形を持って幕引きとなった。

その結果が出次第、アーシアは泣きながら一誠の元に駆けつけ、急いで神器を発動させ治療を行っていた。

ヴァーリもまた、アザゼルに背負われながら冥界の堕天使陣営の方へと帰り治療することになった。

 後日、意識が戻った二人は結果を聞いて苛立ちつつも、再戦のために闘志を燃え上がらせていたのは言うまでも無い。

何せ、まだ………。

 

 

 兵藤 一誠とヴァーリ・ルシファーの決着はついていないのだから。




後は番外編を書こうと思っています。

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