ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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長くしようと思っても一万字が限界でした。つ、疲れた……。


45話 彼等の最終決戦 後編

 忌まわしき力である覇龍。

本来ならば封印されている二天龍の力を生前と同様に振るうことを可能とする極致。その絶大な力は使用者を蝕み、使用した者には全てを破壊する力を与える代わり使用者の寿命を食い尽くす。

多少は使いこなせれば減る寿命を減らすことは出来るが、それでも死へと向かう足を止めることは無い。

その力を使ってきた者達を彼等は過去、何度か見た事がある。

だが、それでも今の二人の姿に彼等は驚愕していた。

 

「な、何だ、あの姿は………」

「あれがあの覇龍……なのですか……」

 

サーゼクスとミカエルからそのような言葉が漏れる。

何せ、今まで使い手を見てきた彼等でもあの二人の姿は初めて見たからだ。

通常というのはどうかと思うが、本来の覇龍というのはより身体が有機的な物に変化し、巨大化して文字通り龍の形を取る。

だが、二人のサイズは変化前と変わらない。そして龍の形とは違った人型をしていた。

赤龍帝はより鎧が分厚くなり、両腕が2倍近く巨大化。そしてその尾はより力強さを感じさせる強靱さを感じさせ、元々姿勢が悪いこともあってか猫背がより獣らしさを醸し出す。

そこに居たのは龍というにはあまりにも凶悪であり、寧ろ恐龍とでも言うべきだろう。その身に纏うは全てを破壊尽くす暴君の覇気である。

対して白龍皇はより鋭角的な鎧姿となり、その身に備えられていた翼は元々の二枚から更に増えて四枚に。全身から発せられるのは、龍というにはあまりにも神々しく、神龍と言うべきかも知れない。神と名乗ることをその場の全てに知らしめるカリスマを見せ、戦う姿だというのにその姿は美しい。

まさに真逆。片やこの世の暴力を集めたような赤。もう一方は神聖さを発揮する美しい白。

その対極にある両者は、それまで彼等が見てきたどの使い手達よりも異常であった。

その答えを求めるべく、サーゼクスとミカエルはアザゼルの方に顔を向ける。

今戦っている二人の内の一人、白龍皇の身内とでも言うべきアザゼルなら何か知っているかもしれないと思ったからだ。

そして二人の考えは的を射ている。モニターを見ていたアザゼルは驚く素振りは見せず、赤龍帝を見て感心した様子を見せていた。

 

「あなたは何か知っているのか、アザゼル」

「出来れば説明していただきたいのですが」

 

二人の言葉を受け、アザゼルは少しだけ愉快そうに笑う。

 

「いや、まさか赤腕も『アレ』に至ってるとは思わなかったぜ。本当、あいつはヴァーリの言う通り、人間超えてんだろうぜ。でなけりゃありえねぇよ」

「その言い方だと、何か知っていそうだね」

「勿体ぶらないで下さい」

 

妙にテンションの高いアザゼルに焦れったく感じながらサーゼクスとミカエルが問うと、アザゼルは笑いを堪えながら説明を始めた。

 

「『アレ』はヴァーリが言うには、覇龍のその先らしい。通常、覇龍は壮絶な力を発揮する代わりに使用者の寿命を削る。だが、そいつは莫大な力にその使用者が耐えられないからだ。そしてその力故に暴走する可能性もあって、その原因は神器内に残り続けている歴代所有者の残留思念だ。呪いと言い替えてもいい。コイツのせいで使用者は精神に異常を来し、平然とはしていられなくなる。破壊衝動とこの世の全てを憎悪する念に浸食されてな」

 

そこまでは彼等が知っている覇龍の情報。

だが、アザゼルが言うには今戦っている二人は『その先』に至っているらしい。

それがどうして面白いのか、アザゼルは笑いながら説明を続けた。

 

「だがな……そもそも寿命を削るのはその力に耐えきれないためだ。なら、耐えられる程の肉体を、魂を持てば良い。そんな巫山戯た話があるかって思うんだが、それを実際にアイツは成したんだよ。己の肉体と精神を極限まで鍛え上げ、覇龍すら耐えきれる神すら怖れる身体と心を手に入れた。これだけでも可笑しすぎるってのに、更に続きがあるんだから爆笑もんだよ」

 

そこで耐えられなかったのか、アザゼルは遂に笑い声を上げながら笑い始める。

その声に周りは何事かと思ったが、それでも二人の姿から目が離せずにいた。

それでもサーゼクス達はアザゼルから目を離さない。

アザゼルは一頻り笑って満足したのか落ち着きつつ、話の続きをする。

 

「ヴァーリの奴はなぁ……何と、神器内にある歴代所有者の残留思念相手に精神世界で戦いを仕掛けて、全員分叩き潰したんだよ。徹底的に完膚なきまでにな。それで自分こそが歴代白龍皇最強を証明して見せたんだ。それにより、残留思念は全員だんまりを決め込んだ。アレはその結果だよ。覇龍すら耐えうる身体と精神、そして呪いとでも言うべき残留思念共を全員屈服させること。その二つにより、覇龍は更にその先に至った。あの姿は二天龍の生前の力を発揮しつつ、それ以上に自分達の力を発揮する姿。神器を超えた奴の証明、自分の全てを発揮出来る究極の姿だよ。それがアイツ等の姿の正体だよ。まさか赤腕も同じように至ってるとは思わなかったがよ」

 

クックックッ、と笑いを押し殺しながら語るアザゼルにサーゼクスとミカエルは言葉を失う。

つまりあの二人の姿は、それまであった神器の領域を超え、本当に神を殺せるほどの力を出すための、謂わば神が与えた奇跡すら超えた姿。

あの二人が己が信念をかけて鍛え抜き、呪いすらねじ伏せて得た新たなる力。

人間が神を超えた瞬間とすら言っても良い。三元世界の全てが彼等が成し得た異形に驚愕するだろう。

人間が神を超えた瞬間なのだから。

それを知り、この場にいる全ての者達は言葉を失う。

それはそうだろう。この両者の戦いは、それこそこの世界に於いて初の、『神すら超えし者』による戦闘になるのだから。

それが如何に凄まじいかなど、彼等では想像も出来ない。

だからこそ、皆モニターに映る彼等の姿に注目していた。

その息を飲む雰囲気の中、それでもアーシアだけは戦っている一誠のことを信じて見つめるのみであった。

 

(どうか、イッセーさんを………)

 

 

 相対する両者は、互いの姿を見て闘志を燃え上がらせながら笑う。

特にヴァーリは一誠の姿を見て実に愉快そうに声を上げた。

 

「成る程……それが貴様が至った姿か。あの歴代所有者共の残留思念に打ち勝ったか」

「ゴチャゴチャと五月蠅かったんでなぁ。全員ぶっ飛ばしてやったよ。そう聞いてくる辺り、テメェも同じみてぇだな」

「無論だ。全員倒しねじ伏せた」

 

両者とも完結に至った経緯を話す。何てことはない事だといわんばかりに。それが如何に困難で異常なのかなど気にもせず。

そして一頻り笑った後、二人はその身に纏う殺気とオーラをより濃密な物へと変えていく。

もうここから先は話す事などない。ここから先は拳でかたるべきだと。

そしてどちらも動かない。そのタイミングを両者とも計っていた。

この姿から繰り出される一撃はそれだけで全てを破壊する威力を持つ。故に容易には動けない。

そんな両者が睨み合う中、二人のそれまでの激戦によって砕かれた大岩の一つが崩れた。

その瓦解音が鳴ったと同時二人は動いた。

 

「オォォオオオォオオォオオォオオオオオオオオオオオオオォオオオッッッッッッッッッッッ!!」

「シャァアアァアアァアアアアァアアアァアアアアアァアアアァアアッッッッッッッッッッッ!!」

 

全てを壊さんとばかりに咆吼を上げながら二人は行動に移る。

一誠はそれまでの左腕を地面に叩き付ける突撃ではない。その強靱な尾が鞭のようにしなり上げ、大地に向かって叩き着けられた。その途端に拳以上の威力が大地をえぐり取り、巨大なクレーターを作り上げる。その威力の反動によりヴァーリに向かって一誠は飛び出した。

それはさながら赤い流星。

相手の全てを殲滅せんとする赤い凶星だ。

対してヴァーリは行動自体は変わらない。だが、倍に増えた翼による飛行速度はこれまでの比ではない。

まさに光の速度にも匹敵するのでは無いかという程の速度で一誠に向かって突撃を仕掛ける。

そして両者の拳が激突した途端……。

 

冥界が揺れた。

 

それは視界だけの話ではない。体感的な意味で揺れたのだ。まるで建物の前を大型トラックが通過するかのように、その場にいる全ての者達にはそう感じられた。

両者の拳はそれだけに留まらない。

その威力は相殺しきれず、周りの全てを破壊していく。

空は裂け、大地は穿かれ、世界は悲痛な叫びを上げる。

その威力はまさに爆発。全てを飲み込み消滅させていく。

そして両者ともそこから弾かれた。

一誠は両足を踏みしめ大地を削り取りながら後へと下がり、ヴァーリは大空へと翼を大きく広げ吹き飛ばされないよう踏ん張る。

そして両者の間にあった物は全て消滅し、そこには何もかもが無くなっていた。

唯一あったのは、まるで爆心地のような跡。

破壊された跡だけがそこにぽっかりと空いていた。技も魔力も無い、ただの拳の一撃。それだけなのに、その威力は魔王の攻撃と遜色のない破壊を見せつけた。

その威力に絶句する者達。これが人間とルシファーの血を引くとは言え半端者が行った事とは信じられなかった。

これこそが神の想定を超えた者達の力。だが、それはあくまでも一端に過ぎない。

弾かれた両者は次の攻撃に移る前に笑い出し、実に楽しそうな笑い声が戦場に響き渡る。

 

「あっはっはっは! いいねいいね、やっぱりこうじゃなくちゃなぁ。この全力を出せるこの感触……最高の気分だ。テメェもそう思うだろ、ヴァーリ」

「ああ、そうだ。今までここまでの力を振るえる相手などいなかった。コカビエルは勿論、アザゼルであってもだ。もし貴様と会わなければと思うとぞっとする。だからこそ……こんなに嬉しいことはない!」

 

自身の真の力を全力で振るえることが嬉しくてたまらなかった。

渇望に渇望を重ね、やっと実現したこの戦い。それまで溜め込んでいた『全力を出したい』という願望を唯一叶えてくれる相手との戦いの歓喜は二人を満たしていく。

だからこそ、より熱く、雄々しくぶつかり合いたい。

一誠は再び尾をしならせると、地面に思いっきり打ち付ける。その反動でヴァーリがいる上空に飛び上がり、身体を回転させながらヴァーリへと襲い掛かる。

空へ向かうその姿はまるでミサイルのようだ。

対してヴァーリは光翼を光らせながら一誠を迎え撃つ。

 

「見せてやろう、この力を!」

 

そう言った途端、ヴァーリの姿は……消えた。

 

誰が見てもそのようにしか見えなかった。それ自体はその戦闘を見ていた者は何度も見てきたが……ミカエルやサーゼクスですら姿を見失った。

その事に二人は驚きを隠し得ない。それまではいくら早くても見失いはしなかった。だが、今回のヴァーリの動きを二人は見えなかったのだ。

そして一誠の目の前に現れたヴァーリは拳を振り上げて一誠の顔面に拳を叩き込んだ。

 

「ぐぅっ!」

 

一誠の口から苦痛に呻く声が漏れ、身体が空中で錐揉み回転する。

だが、ダメージを負ったのは一誠だけでは無かった。

 

「ぐぅっ……まさかあの一瞬で反撃するとはな……」

 

ヴァーリもまた、身体を空中でふらつかせた、

そして手を頭に添えている。

先程の攻防は誰が見てもヴァーリが殴ったようにしか見えない。なのに何故、ヴァーリもダメージを負ったのか。

その答えは空中で浮遊しつつ体勢を整えている一誠が言った。

 

「ちっ、仕返すだけで精一杯だったか……まったく驚いたぜ。まさか全力でも見切れねぇくれぇに速いんだからよ」

 

一誠が殴られた時、咄嗟に一誠は身体が回転するのを利用してヴァーリの側頭部に裏拳を叩き込んだのだ。

それによりカウンターを受けたヴァーリもまたダメージを負った。

まさかあの一瞬にそんな攻防が行われただなんて誰が思おうか。だからこそ、その攻防に後から気付いたサーゼクス達は驚きを隠せない。

そして一誠は再びヴァーリを睨み付ける。

それはこの一瞬にして現れたタネを明かすためだ。

そしてヴァーリもそれに答えるべく、再び一誠に向かって攻撃を仕掛けた。

 

「オォオォオオォオオォオオォオォオオォオオォオオオオオォオオオ!!」

 

一誠に向かって咆吼を上げながら突進するヴァーリ。その速さだけでも凄まじい。

だが、それだけではない。

 

『Divide、Divide、Divide、Divide』

 

機械的な音声と共にヴァーリの姿がかき消え、即座に一誠への距離が縮まっていく。

そして一誠の目の前に現れると共に高速の拳を繰り出した。

今度はその絡繰りに気付いた一誠は喰らうまいと反撃の拳を振り上げ、ヴァーリを迎え撃つ。

その瞬間、激突する轟音が空間に響き渡った。

その発信源である一誠とヴァーリは、互いの顔面に拳をめり込ませていた。

 

「ぐぅぅぅぅううぅうううう」

「がぁあああぁああぁあああ」

 

呻き声を洩らしつつ互いに拳を振り切ろうと力を込める。

結果、何かが軋み上げる音が鳴る。

そして二人とも同時に弾き飛ばされるように離れた。

その顔の鎧は罅が入り始めている。

一誠はヴァーリの顔を見ながらニヤリと笑うと、その答えを言い当てた。

 

「テメェ、そいつはまさか……距離を半減してんのか?」

「正解だ」

 

言い当てられたことが嬉しかったのか、ヴァーリは喜びを顕わにした声で答える。

 

「正確に言えば『空間』だ。この鎧、白龍神皇の閃光鎧は白龍皇の鎧の能力をより拡大させたものだ。本来ならばかなりの力を使って行う『Half Dimension』。それをこの鎧は短時間で短く制御することが可能となった。それによりオレは貴様に突進を仕掛ける際、その速度を殺す事無く空間に半減を重ね、ショートカットで一気に接近したというわけだ。だが、まさかこうも簡単に見破られるとはな」

 

種明かしをしたところで何ら困ることなどないと自身を持って答えるヴァーリ。

そんなヴァーリの説明を聞いた一誠はより闘志を燃やしながら笑う。

 

「ただでさえ速ぇのに、その上そうきたか。いやはや、やるじゃねぇか」

「それに合わせる貴様も貴様だがな」

 

そして再びヴァーリが動き出した。

超高速移動とショートカット。この二つを合わせたヴァーリを止められる者などそうはいない。魔王クラスでさえ見切れないのだから。

だが、向かってくるヴァーリに向かって一誠は笑いかける。

それはこれからその得意な鼻っ柱をへし折ってやろうとするイタズラめいた邪悪な笑みだ。

 

「だったらコイツはどうだよ!」

 

両拳を構えると共に、その拳が赤く光り輝き始める。

 

『Boost、Boost、Boost、Boost!』

 

機械的な音声と共に一誠の両拳が濃密な光を纏い始め、その力は見ただけでもと途轍もない量を秘めていることが誰の目から見ても分かった。

そして一誠は目の前に向かって来るであろうヴァーリに向かって左拳からその力を解き放った。

 

『explosion』

 

その拳から放たれたのは、巨大な光の柱。

全てを飲み尽くさんとする破壊の本流がヴァーリに向かって襲い掛かる。

 

「ちっ!」

 

それを辛うじて回避するヴァーリ。この姿になっても尚、一誠の砲撃を避けるのに苦労するようだ。だが、一誠の砲撃はまだ終わらない。

 

「まだまだぁっ!」

 

『explosion、explosion、explosion』

 

それは逃げることを許さない破壊の津波。

一誠の拳から放たれた莫大な力が込められた砲撃はヴァーリが回避しようとしているであろう場所を蹂躙し、ヴァーリは咄嗟の回避を余儀なくされ一誠に接近することが出来なかった。

 

「オォオオォオオォオオォオオォオオォオオオオォオオオオオォオオオ!!」

 

『Divide、Divide、Divide、Divide』

 

回避出来ないと判断した最後の砲撃に向かってヴァーリは手を翳すと、途端に本流は小さく弱くなっていく。

それでも上級悪魔の砲撃を遙かに凌ぐ威力を持ったそれをヴァーリは手刀で切り裂いた。

切り裂かれた砲撃は遙か遠方の山に激突し大爆発を引き起こして山その物を消滅させる。

その光景は実に壮大であり、見ている者の度肝を抜いた。

そんな高威力の砲撃を難なく切り裂いたヴァーリは、未だに煙りを上げる腕を振り煙を吹き飛ばすと一誠に向かって皮肉を込めた声をかけた。

 

「砲撃は苦手だとどの口が言う。先程のより輪をかけて強力じゃないか」

「あんなもん、ただ溜め込んだ力をぶっ放しただけだろ。砲撃なんて大層なもんじゃねぇ」

 

あの大規模破壊をやってのけた砲撃を笑い飛ばしながらそう言う一誠。

そんな彼は突き出した拳を引くとカラカラと笑う。

 

「やっぱりテメェの拳でぶん殴んねぇとなぁ……喧嘩ってのはよぉ!」

 

そう叫ぶとともに、尾をしならせて宙を叩き着けた。

そこには何もないというのに、まるで空間が爆ぜるかのような炸裂音と衝撃が走り、一誠の身体を地上で行ったのと同様に弾き飛ばす。

そのままミサイルのようにヴァーリに向かって突進する一誠。その拳は思いっきり振りかぶられ、ヴァーリを殴ろうと意気揚々とした様子が感じられる。

そんな一誠に対し、ヴァーリもまた負けじと凶悪な笑みを浮かべながら拳を構え超高速での一撃を持ってして迎え撃つ。

 

「ラァアァアァアァアアァアアァアアァアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」

「シャァアァアァアアァアァアアァアアアアアアァアアアアアアアッッッッッッッ!!」

 

お互いの咆吼を上げながらの一撃が互いの身体へとめり込む。

その一撃によって爆発したかのような衝撃が走り、双方の鎧を砕く。

そして二人とも自分の骨肉が砕ける感触と激痛を感じながらも更に踏み込み、拳に力を込めて押し切ろうとする。

だが、拮抗した力は鬩ぎ合い両者を離さない。

そして二人は口元から血が垂れてくる感触を感じながら笑い、更に拳を放つ。

超至近距離からの一撃。

この姿になる前も同じような攻防があった。その時でさえ威力は凄まじいというのに、今の姿となってはまさに一撃必殺ならぬ、一撃必滅。

同じ力量を持つ双方だからこそ、こうして相対することが出来るがそうでない者ならば彼等の一撃で塵一つ残らず消滅しただろう。

それ程の力を平然と振るう彼等は最早人間の域をとうに超えている。

一誠の全てを打ち砕く豪腕がヴァーリを砕かんと迫り、ヴァーリの神速の拳が一誠の鎧を削り取る。

一誠の姿はヴァーリほど能力面に進化はしていない。より一誠の戦闘スタイルに特化され、倍化能力の向上が図られた程度。

だが、その力はそれまでの赤龍帝の鎧とは比べものにならないくらい凄まじい。殴るための打撃力の向上が主に行われ、その拳は一撃で地形を変える。

まさに暴力の化身。その暴力は一誠の意のままに振るわれ、全てを消滅させる。

力の極致とでも言うべき一誠に対し、ヴァーリはまさに技と速さの極致。

一撃の威力は一誠が上だが、手数と加速によって増した拳の威力はヴァーリもまけていない。一誠も野性の勘とでも言うべきものと獣染みた反応速度でその神速の速さについて行く。

故に両者の力は拮抗し、互いに削り合っていく。

一誠の拳が思いっきりヴァーリにめり込んだのなら、その瞬間にはヴァーリの手刀が一誠に三撃攻撃を喰らわせる。

ヴァーリの神速の手刀が一誠の身体を大きく切りつければ、それを耐え抜き一誠の絶大な威力の籠もった拳がヴァーリの身体へとめり込む。

そんな攻防を何回も繰り返していき、互いの鎧は罅割れ砕け、無事なところは何一つとして無くなっていく。

双方とも見るも無惨なまでのボロボロな状態。だが、その戦意は衰えるどころかより高まっていき、一誠は笑い声を高らかに上げながらヴァーリへと攻撃を繰り出す。対するヴァーリも高まっていく戦意と高揚感に笑い声を上げながら一誠へと仕掛ける。

それは何度も行われていく。

空中で、地上で、場所は一切関係なく、二人の攻撃はその余波だけで大地を粉砕し木々を吹き飛ばす。

それはまさに天変地異。

たった二人の戦闘の余波、それだけで地形が変わり樹海は消失していく。

一誠の拳が大地にぶつかれば大地は崩壊し全てを無に帰す。ヴァーリの手刀から飛ばされた衝撃波が嵐の如く木々をなぎ倒し、それが通った後には生命は何一つとして存在することを許されない。

それですら余波に過ぎず、直にその威力を身に受けている二人はまさに神すら超えている存在と言えよう。

赤き破壊神と白き幻神がぶつかり合う様は圧倒的なまでに壮絶で、目を覆いたくなるほど悲惨で、それでいて魅せつけられるほどに美しい。

破壊のみが結果として表れる戦闘。だが、この戦いを見ている者達は目を奪われ離せずにいた。

それ程に、この二人の戦いは衝撃的だった。それこそ、過去の三大勢力の大戦以上に。

そして戦いは膠着状態から動き出す。

一誠が拳を振るい、時にその強靱な尾で打ち払う。ヴァーリが手刀や拳打を放ち、四枚の翼による殲滅砲撃を放つ。

そういった攻撃の末に、彼等が立つ大地は何もない荒野へと変わっていく。

互いの攻撃でもう鎧は朽ち果てる寸前であり、鎧から溢れ出す血から立っているのもやっとの状態だろう。

だが、それでも戦意と殺意は収まることを知らない。燃え盛った炎は尽きることを知らず、二人の闘志をさらに滾らせていた。

 

「はぁ…はぁ……やっぱりやるなぁ……えぇ、ヴァーリ!」

「そ、そう言う貴様こそ、あの時とは桁違いだ……イッセー!」

 

互いにそう言い合い笑い合う。

それは青春の風景に見えなくもない。だが、その身から発する闘気と殺気、そして壮絶な笑みを見ればそんな物は吹き飛んでしまう。

この場にあるのは一騎討ち。いや、二人からすればそんな大層な物ではないのだろう。ただの喧嘩だ。

互いに負けたく無いから。

ただの意地の張り合い。

だが、それは十年近く前から続いていた切望。故に、この切望の先を求めるべく、二人は動いた。

既に満身創痍。だからこの先、出せても一撃が限界だろう。

故に、二人は必殺の一撃を持って決めることにした。

両者の距離は二人がこの姿になったときと同じ距離。

その位置から二人は力を溜め始める。

一誠の身体から吹き荒れる赤きオーラがその量を増し、赤き嵐となって吹き荒れる。その嵐の中、一誠の両腕は鎧が開きより拳が大きくなった。

そして顕わになる手の甲の宝玉。それは胸の宝玉と共に輝きを増していき、やがては赤く光り輝く。その様子はまさに、臨界を超えた力を内包しているようだ。

ヴァーリもまた、負けじと力を溜める。青きオーラは竜巻と化し、彼の周りの全てを吹き飛ばす。その竜巻の中、ヴァーリの鎧に埋め込まれている宝玉もまた光り輝き始めた。その輝きは最初は淡く、そして段々と強さを増していき神々しい輝きを放ち始める。

二人が力を溜めていく姿は幻想的で美しく、それでいて高まり続ける力は聖書の神ですら超えてサーゼクス達でさえ測りきれなくなっていく。それこそ、彼の無限の龍神や夢幻の龍神と比べても良い程に。

そして臨界まで力を高めた二人は最高の一撃を放つべく動く。

 

「見せてやるよ……これがっ! これだけが俺の唯一自慢出来る、自慢の拳だぁあぁあぁあぁああぁああぁあぁああああああ!」

「見せつけてやる! 長年待ち続けてきた間に魂を込めて鍛え抜いたオレのこの一撃を!」

 

そう互いに言い放つや、赤き凶星と白き流星は飛び出した。

一誠はその強靱な尾を使い空間を弾き飛ばしながら、ヴァーリはその四枚の翼と能力を使って神速の突進を仕掛ける。

その星が流れた後には光の残像が残り、あたかも流れ星のように美しい光景を見せた。

 

「オオォォオォオォォオォォオォオォォォオオォオォオオオオオオオオオッッッッッッッッッッッッ、『ロンギヌスゥゥゥッッッッブリッドォォオオォオォオォオオォオオォオオォオオォオオォオオッ!!!!』」

「ハァアァアァアァアァアアアァアアァアアアアァアアァアアァアァァアッッッッッッッッッッッッ、『白龍閃滅斬ッッ!!』」

 

だが、この光景は美しいと同時に……恐ろしい。

神を超えし者が放つ最強の一撃。それがぶつかり合った途端…………。

 

 

 世界は光に包まれた。

 

 

 

 

 二人の戦いを見ていた者達は使い魔に持たせたカメラからの映像を見ていたわけだが、最後の攻撃が激突した途端、その衝撃でカメラが使い魔ごと消滅してしまった。

その際の最後の映像が光で埋め尽くされた光景だった。

だからこそ、皆そう感じた。それと共に物理的に冥界が大地震が起きたかのように揺れ、彼等は足下が揺らぎ立っていられなくなる。

この城から二人が居る樹海までの距離はそれなりに長く、二人がどんなに激突し合おうとその被害は出ないはずであった。それだけの距離が離れているというのに、その激突の衝撃は地震となってこの冥界を鳴動させたのだ。

それは彼等にとって、信じられない程衝撃的なことだった。

だからこそ、一早く復活したサーゼクス達は慌てて周りの声をかける。

少しでも早く落ち着かせ混乱をさけるために。だが、それでも彼等の顔から驚愕の念は消えない。

そして落ち着いた所を見計らって転移魔方陣を展開し始めた。

 

「二人の戦いの行く末を見たいという者はこの転移魔方陣の方に来なさい。ただし、命の保証は出来ません。あの二人がぶつかり合った跡がどうなっているのか……それは私でもわからないのだから」

 

それを聞いて戦く周り。

魔王であるサーゼクスや天界のトップであるミカエル、堕天使の総督であるアザゼルでさえ分からないと言わしめる状態の場所に踏み込む勇気があるかどうか。それを聞かれ、大半の者は恐怖に駆られ身を引いた。

だが、そんな中、真っ先に前に出る者がいた。

 

「わ、私、行きます! イッセーさんの元に!」

 

それはこの三大勢力が集まる中で異端とでも言うべき『人間』であるアーシア・アルジェントだった。

彼女の瞳には確かな意思の光が籠もっている。その瞳を見てサーゼクス達は無言で頷いた。

惰弱であるはずの人間が真っ先にそんな危険地帯に出向くと言ったことに周りはさらに驚いた。

そして次に前に進んだのは、人間の男である久遠だ。

 

「まぁ、アイツが思いっきり楽しんでるんでね。最後まで見守ってやるくらいはしますよ。それぐらいなら無料でしてやってもいいと思いますから」

 

久遠はニッコリと笑いながらサーゼクス達や周りにそう言った。その顔に恐怖は一切感じられない。

それを皮切りにリアスやソーナといった一誠と関わりがあった者達も前に進み出た。

彼等は皆、知りたかったのだ。二人の行く末を。

それ以上前に出る者がいないのを確認したサーゼクスは転移魔方陣を起動させ、ミカエルやアザゼルと共に、二人が戦っている樹海へと移動した。

 

 

 

 そしてサーゼクス達が転移先で見たのは、何もない荒野だった。

地平線の彼方まで何もかもがない。それこそ、木の一本や大岩の一つとして無い。空虚な荒野がずっと続いていた。

荒野というのも憚られるだろう。それ以外に表す言葉がないとも言える。実質で言えば、爆心地や戦場跡。大地はクレーターで変形しており平らな部分などほぼない。立っているのも困難な状態だった。

サーゼクス達はこの光景を見て確信する。

 

冥界の地図が確実に変わってしまったと。

 

この広大であったはずの樹海は存在を滅され、ただの荒野へと成り果て山々は粉砕されて山の体を成さない。

それを立った二人の人物によって引き起こされたことが何よりも恐かった。

だが、同時に暗い歓喜が身体を走り抜ける。

これが、限界を超えた先の風景なのかということを、戦う者として彼等はその胸に刻みつける。

そして彼等の視線は当事者を見つけた。

一番巨大な、それこそ大きな都市が一つ丸々と入りそうな程に巨大なクレーターの底で、二人はいた。

あの猛威の象徴とも言える鎧は全て剥がれ落ちて生身の状態。身体は血まみれで無事な部分など見つからない。

人間であるのなら確実に死んでいるであろう重傷。悪魔だろうと堕天使だろうと例外なく動けないほどの損傷。

だというのに、二人はまだ立っていた。

ふらつく身体を意地で支え、死に体の身体だというのにその目はまだ死んでいない。闘志を醸しだしながら互いに睨み合い、ふらふらとした足取りで相手に向かって歩き始める。

その様子は誰が見ても倒れると思うだろう。

だが、二人は倒れない。

それどころか………。

 

「がぁぁああぁあああ!!」

「あぁあぁあぁああっ!!」

 

互いに血まみれの拳を持って、相手の顔面に拳を叩き着けていた。

 

 

 

 まだ、二人の『喧嘩』は終わっていない。

 


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