ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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ここで新たなる形態の登場です。


44話 彼等の最終決戦 中編

 互いに遂に顕した禁じ手の姿。

神器における禁じ手とは、使いようによっては世界の均衡を崩すほどの力を発揮する。世界に仇なすかも知れないが故の禁じられて手、故に禁じ手。

そして二天龍が封印されし神器の禁じ手とは文字通り……『世界を殺す』

二人が禁じてを発動した事により、冥界が揺れた。

空間が歪むかのような程のオーラが噴きだし、世界が二人に対し恐怖するかのように啼く。

そう感じられるほど、二人から感じられる力は壮大だった。モニターで見ている者達はその力に騒然とする。

力の大きさで言えば現魔王と同じかそれ以上。それだけでも驚きだというのに、それを片方は人間が出しているというだから言葉も失ってしまうほどに衝撃的だった。

そんな力を人間が持てる訳が無い。持てば肉体と精神が絶えきれずに消滅してしまうはずだ。悪魔でさえ耐えられるかわからない程にその力は大きい。

だというのに、目の前のモニターに映っている人間はそのような様子は一切無い。寧ろより活き活きとすらしているようだ。

その様子に驚愕する者達の中、アザゼルが周りに聞こえるように口を開く。

 

「ヴァーリが言うには、アイツは人間であって人間じゃねぇんだと。アレは人間の限界を超えちまった別のナニカだよ。そうじゃなきゃ説明出来ねぇだろ。あんな力を振るうのが普通の人間であってたまるかよ。謂わば人間版超越者って奴だな」

 

それを聞いて周りは思う。人が人を辞めるのではなく超えたとしたら、あんなになるのだろうかと。それは言い替えるなら、人間は下等なんかでは無いという証明ではないだろうか。

周りがその事に驚愕している中、アザゼルは笑い、サーゼクスは愉快そう笑みを浮かべ、ミカエルは人の可能性を見て驚きを表す。

そしてアーシアは、驚く周りの反応など気にせず、ひたすらに一誠の事信じ続けていた。

 

 

 

 互いにやっと全開間近の力を振るえる形態になった二人は、自分の身体から溢れ出る力に満足そうな笑み浮かべる。

それまでの戦いでも手を抜いていたわけではない。だが、禁じ手に至ってやっとこの二人は満足がいくように力を使えるのだ。

それにより、やっとまともな喧嘩が出来ることに喜ぶ一誠。ヴァーリも同じく、戦いがより本格的になった事に喜びを顕わにする。

全身装甲のため、互いの表情は見えない。だが、その身から昂ぶる殺気とオーラを見れば、如何に歓喜しているのかが窺えるだろう。

 

「オォォオォォオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!」

「アァアァアァアアァアアアアアアアアアァアアァアアアアッッッッッ!!」

 

その喜びに身を震わせながら、二人は同時に動いた。

一誠は背中からオーラを噴出させてヴァーリへと突撃する。その姿はまるで赤き流星のようだ。

ヴァーリもまた、一誠に向かって突撃を仕掛ける。

攻撃その物は先程までと変わらない翼を使っての高速の拳。だが、その速度は今までとは桁違いに違い、サーゼクス達でも追いつけるのがやっとの程の速度であった。

まさにその姿は白き閃光。

そして激突する赤き流星と白き矢。

その激突の瞬間、世界があまりの威力に悲鳴を上げた。

繰り出したのは互いに拳。拳同士がぶつかり合っただけだというのに、二人の足下はその衝撃だけで爆発し消し飛んだ。

まるで爆心地のように吹き飛ぶ大地。衝撃はそれに留まらず辺りにあった大岩すら消滅させていく。

ただの一撃でこの有様。

空間は震え上がり、その波動は二人の周りへと広がり更に破壊していく。

それだけでも凄まじいが、まだこんなものではない。これは始まりに過ぎないのだから。

 

「いいねいいねぇ、そうだよ、こうこなくちゃなぁっ!!」

「あぁっ!!」

 

そして始まる拳の応酬。

一誠の力の籠もった一撃がヴァーリを打ち砕かんと襲い、ヴァーリの高速の拳が一誠に降りかかる。

至近距離における一撃必殺の威力が籠もった拳が繰り出され続ける。

一誠はヴァーリの拳を力ずくで弾き、また回転して弾き飛ばす。ヴァーリは当たれば一撃で致命傷を負うであろう拳を受け流すことで逸らし無力化していく。

二人の間で数多の拳が交わされ防がれる。その足下の大地は両者の攻撃の反動に耐えきれず割れ始め、拳の余波は衝撃破となって空間を揺るがしていた。

幾度となく続く拳の応酬。二人とも大ダメージは負っていないものの、掠るだけで鎧に罅が入り始める。

直撃すれば鎧が粉砕されるのは目に見える。その威力を直に受ければどうなるかがわかるはずだというのに、二人の顔に畏れや恐怖はない。

寧ろ二人とも凶悪な笑みを浮かべ喜んでいた。

一撃一撃が致命傷となる攻撃の応酬、その生と死が常に過ぎ通る中、彼等はそのギリギリの感覚を楽しんでいた。

喧嘩とは、戦いとはこうでなくてならないと。

そしてどちらもジリ貧になりかけたところで距離を取る。

至近距離での応酬は確かに攻撃が当たりやすい。だが、その分威力はどうしても減らざるをえないのだ。だからこそ、この膠着をどうにかすべく二人は距離を取った。その動きは野性の獣のように俊敏であった。

そして一誠は拳を構えると共にその身に纏うオーラがさらに吹き荒れる。

構えた拳の宝玉、そして胸にある宝玉が閃緑色に輝きを増していき、その輝きは直ぐに一誠を包み込まんとするかのように膨れ上がっていく。

そして一誠は動いた。

閃緑色の輝きはまるで濃縮されていくかのように収まり、そのまま彼が構える左拳へと集まっていく。

その拳を一誠は叫ぶと共に突きだした。

 

「喰らえぇええぇええ、ドラグブリットォォオ、バァアアァアアァアアストォォォオオオォオオォオォオオッッ!!」

 

突き出された拳に一瞬だけ閃緑色の光が球となって出現し、次の瞬間には光の柱となってヴァーリに向かってもの凄い速度で放出された。

 

「ちっ!?」

 

まさか砲撃をしてくるとは思わなかったヴァーリは驚きつつもそれを寸での所で回避する。

無事に回避したヴァーリだが、その砲撃が通った跡は高温のあまりに溶け出していた。そして避けられた砲撃は遙か彼方にある山へとぶつかった。

そして一瞬にして空を覆うほどの大爆発を引き起こし、爆発が収まると共に山は消滅して消え去っていた。

その威力に皆が息を飲む。何せ彼が放った攻撃は一撃で冥界の一撃を変えてしまったのだから。

こんなものを喰らえばいくら上級悪魔だろうと一撃で消滅してしまう。そんな一撃を人間が出したというのだから、それをもう人間だと見なしてよいのかわからない。

だが、ヴァーリは驚く様子などない。自分のライバルなら、これぐらいやって当然だと思っている。

だからこそ、もう一撃放とうとしている一誠に向かって目にも止まらない速さで間合いを一気に詰めた。

 

「いくら威力が高かろうが、タメの時間が長すぎる! そんな遅い砲撃が決まると思うなよ!」

「ぐぅぅぅううううううううう!」

 

一誠が再び砲撃を放とうとした一瞬を狙って接近し、一誠の胸に拳を叩き着けるヴァーリ。

一誠はその攻撃を受けて呻き声を上げつつ後へと後退した。

当たる瞬間に咄嗟に身体を反らしたことで多少ダメージを減らすことが出来たが、それでも受けた部分の鎧には放射状の罅が入っていた。

そして離れたところで一誠は少し呆れた様子でヴァーリに言う。

 

「砲撃ってのは苦手だ。少しやってみたくてぶっ放したが、やっぱり俺には合いそうにねぇ」

「あんな馬鹿げた威力の砲撃を放った奴が何を言う。普通のだったらアレで戦況が変わるくらい凄まじいというのに」

 

そんな一誠にヴァーリも呆れた声で返す。

互いにそう言いつつも、そのことを楽しんでいた。

だからこそ、二人は更に白熱する。

 

「いくぞ、イッセー!」

「来い、ヴァーリ!」

 

再び激突し合う赤と白。

先程の砲撃など物ともせず、ヴァーリは一誠に砲撃を放つ。

一誠ほどの威力は無いが、規模や速度は向こうが上であり絶対に避けられない。

一誠はその砲撃の嵐を独楽のように回転しながら突進して中に飛び込み、迫り来る砲撃を悉く弾き飛ばしていく。

そして砲撃の嵐を突っ切ると、ヴァーリに向かって拳を振るう。

 

「らぁあぁああぁああああぁああぁああああああああああ!!」

「ちぃぃいいぃいい!!」

 

砲撃の嵐から飛び出して来た一誠の拳を寸でのところで避けるヴァーリだが、その胸には一誠が受けたのと同じような罅が走っていた。

どちらも多少はダメージを負ったわけだが、この程度では怯まない。

互いにより戦意を燃えたぎらせ、更にオーラを噴き出す。

噴き出したオーラは二人の周りを蒸発させていき、戦場はまさに焼けた荒野へと変わり果てる。まるで火山の噴火口間近の光景のようだ。

大気が熱で燃え上がり、大地は割れて溶岩のように溶け出す。

そんな中を、赤と白は駆け巡る。地上を、空中を駈けては激突を繰り返し、その度に衝撃が辺りへと走り物質を崩壊させていく。

 

「オォォォオオォォオォォオォオォオォォオオォォオオオオオオオオ!!」

「カァアァアァアアッァアァアアァアアアアアアアァアアアアアアア!!」

 

互いの咆吼が空に木霊し世界を震わせる。

やっているのは喧嘩と言う名の殺し合い。

だというのに、当人達はとても楽しそうだ。

顔を凶悪な笑みで染め上げ、殺気と闘志が籠もった拳を繰り出す二人。

二人の戦いにこの戦場がついて行けず、更に荒野が広まっていく。

拳一つで巨大なクレーターが出来上がり、砲撃の一発で大地が爆ぜる。

その身体を覆う鎧は所々が砕け始め、中の肌が露出し血が流れ出る。

こんな激戦して無事なわけがない。致命傷とまではいかないが、それでも充分にダメージを負っていく二人。

だが、死ぬような怪我でない限り二人が止まるわけがない。

やられたのならやり返す。拳と拳が交わり、足で相手を蹴り飛ばす。

それが楽しいのか、口を切って血が出ても二人は笑って拳を繰り出していた。

倍化した力に半減の力が加わり元に戻る。

故に能力に意味は無く、あるのは純粋な個の能力のみ。

だからこそ、二人はより燃え上がる。

これは赤龍帝と白龍皇の戦いではない。

一誠とヴァーリという個人の戦い。

そこに二人以外の存在が干渉することなど許されない。例え相棒であるドライグやアルビオンとて例外では無いのだ。

そして二人の戦いはしばらく膠着が続いていく。

じり貧というには破壊が過ぎ、既に戦場となった樹海の半分近くが荒野と化していた。

 だが、ここにきて少しばかり差が出てきた。

一誠はこれでも人間。集中力は少しばかり散ってしまうのは仕方ないかも知れないことであった。

だが、この戦いにおいて気を緩めるということは……死に直結する。

その隙をヴァーリが気付かないわけがなかった。

 

「はぁあぁあぁああああああああああああああああああ!!」

 

気迫の籠もった叫びと共に一気に距離を詰めると、手刀一閃。

一誠はそれに反応が少し遅れてから避けるが、避けきれなかった。

ヴァーリの手刀が通り過ぎた後、一誠の左腕が身体から落ちていった。

そして離れた所から噴出する血。

それに気付くと共に激痛に襲われ、一誠の口から苦痛の叫びが上がった。

 

「ぐぅぅがぁぁあぁっっっっっ!!」

 

ほんの僅かな集中力の乱れ。

その一瞬によって、一誠の左腕は切断されたのだ。

その光景を見ていた者達は唖然とし、アーシアは一誠の様子に泣きそうになる。

その叫びはあまりにも痛々しく、聞く者すべてに幻痛を抱かせる。

しかし、一誠はこれで終わらなかった。

苦し紛れとは言えヴァーリに砲撃を放ち接近させないよう牽制。そして地面に降り立つと斬り飛ばされた左腕を回収した。

まさかあれから反撃が来るとは思わなかったヴァーリは砲撃を少し掠り、追撃出来ずに退いた。掠った部分は消し飛んでおり、あと少し身を退くのが遅れたら間違いなく致命傷を負っていただろう。

一誠と同じように地上に降りるヴァーリ。

その目は一誠を捕らえていたが、何やら興味深そうな感情が込められていた。

何故腕を回収したのか、それが気になったからだ、戦場で斬り飛ばされた部分など持っていても邪魔でしか無い。直す術も無いのに何故回収したのか? その答えは一誠が痛みを堪えつつも笑いながら見せた。

 

「面白いモン見せてやるよ」

 

一誠はヴァーリにそう言うと、回収した左腕を元に合った部分に無理矢理押しつける。当然そんなことでどうにかなるものではない。

だが、右腕と胸の宝玉が光り輝くと共にその力を発揮した。

 

『Boost、Boost、Boost、explosion!!』

 

その輝きが左腕も包み込み、そして光が収まると共に……。

 

左腕は元通りに繋がっていた。

 

その事実に見ていた者達は驚愕し、アーシアは信じられないような目で一誠を見つめる。彼女の神器を使えば出来そうだが、一誠にはそんな能力は無い。なのに何故治っているのか? それが彼女には分からなかった。

だが、ヴァーリはそれを見て直ぐに気付き、愉快そうに笑った。

 

「成る程、そうきたか。貴様……腕の細胞の増殖速度……回復力を倍化させて繋ぎ直したな」

「正解」

 

ヴァーリの言葉に一誠は痛がる素振りなど見せずに自信満々に答えた。

一誠がやったのはヴァーリが言った通り、回復力を倍化して修復を早めて左腕を繋ぎ直したのだ。

と言っても、ただ倍化させただけではこうはならない。人間はイモリのように切れた腕を再生させることなど出来ないのだから。

これは手術と同じ事。まずは切り離された部分があってやっと成り立つ。

失われた部部の接合部をちゃんと合わせ、そこの部分を倍化して再生力を高めて急速に修復する。それにより腕をつなぎ合わせたのだ。通常の手術も行うことは一緒であり、糸で正しくつなぎ合わせ、それを本人の再生力でゆっくりとだがつなぎ合わせていく。それを急速に、それでいて乱暴に行ったというわけだ。

常識外れにして異常。普通ならまず考え付かないような手。

それを一誠は行った。見ていたヴァーリは内心で感心しつつも闘志を燃え上がらせる。

そして同時にそれまで思っていた事を一誠に言った。

 

「いつまでそうしてる気だ?」

「あぁ、どういう意味だよ?」

 

再び対峙し合いながら睨み合い、ヴァーリが言ったことに一誠が返す。

それに対しヴァーリは素直に、それでいて楽しそうに笑いながら言う。

 

「いつまで隠している気だと聞いている。貴様、まだ隠しているだろう」

 

一誠がまだ全力でないことを見抜いての発言。

それが周りには信じられなかった。まだあれ以上があるのかと。

それに対し、一誠はヴァーリに笑いかける。

 

「そういうテメェも同じだろ。知ってんだぜ、その先があるのはよ」

 

自分が隠していた事もそうだが、ヴァーリが出していないことも一誠は知っていた。

つまり互いに勿体ぶっていたのである。もっと全部を楽しみたいがために。

それが分かり、互いに大声で笑ってしまった。

何が可笑しいのかは分からないが、可笑しくて笑ってしまったのだ。

そして笑い終えると共に、両者に流れる空気が変わった。

静かな空気が流れるが、それは嵐の前の静けさのようだった。まるで爆発するかのような一瞬の間のようでもある。

そして二人は更なる高み……禁じ手の更に上へと至る。

一誠は拳を真上に上げ、全身に力を込める。ヴァーリは静かに立つが、その気配はより存在を色濃くしていた。

そして互いに口にする……封印されし究極の力を解放する言葉を。

 

『我、目覚めるは覇の理を神より奪いし二天龍なり。無限を嗤い、夢幻を憂う。我、赤き龍の覇王と成りて、汝を紅蓮の煉獄に沈めよう』

『我、目覚めるは覇の理に全てを奪われし二天龍なり。無限を妬み、夢幻を想う。我、白き龍の覇道を極め、汝を無垢の極限へと誘おう』

 

それは本来、使い手の寿命を削ること発動する最悪の力。

その代わりに封印されし二天龍の力を生前並みに発揮することが出来る。

だが、一誠とヴァーリは止まらない。

何故ならば、彼等が至ったのはこの『先』なのだから。

 

『『覇龍進化!』』

 

そして世界が崩壊する。

全てが赤と白に染まり、何もかもが吹き飛んでいく。

そのオーラの中で、両者のシルエットが変わる。

一誠はより獣のような姿へと、ヴァーリはより神性を感じさせる姿へと。

そして赤と白のオーラの嵐が収まると、二人の姿が現れた。

それは異形。

今までの全ての二天龍の使い手でもなり得なかった姿。

その姿に見ていた者達は全て言葉を失い、そして畏れを抱く。

赤龍帝の鎧の姿は今までと違う。白龍皇の鎧も同じだ。

その新たなる姿を、二人は同時に口にした。

 

『覇龍進化、赤龍暴帝の重鎧殻』

『覇龍進化、白龍神皇の閃光鎧』

 

それが、覇龍の先に至った彼等の答えだった。

 

 

 


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