ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
随分と長かったような気がしますね。ですが、残りも頑張って書ききれるよう頑張ります。
昔の事を懐かしみつつ二人は今に目を向ける。
目の前に居るのは、待ち焦がれた最大の敵。
戦場となる場所は、過去に出会いぶつかった因縁のある所。この二人の戦いにおいて、これ以上無いほどにお膳立ては揃っている。
だからこそ、今から始まるであろう戦いに二人は歓喜する。
やっとケリが付けられると。どちらが上なのかはっきりすると。あれから自分がどれだけ成長したのかを確かめたいと。そして……やっと戦えると。
故に待ちきれないと二人は同時に動いた。
覇気の籠もった咆吼を上げると共に神器を展開する。
一誠は左腕に赤龍帝の籠手を展開し、ヴァーリは白龍皇の光翼を背から広げた。
その途端に赤と白のドラゴンのオーラが二人の身体から噴き出し、辺りへと吹き荒れる。
本来、この二人の全力はこんな物ではない。二人とも禁じ手に至っているのだから、わざわざこのような初期の力を出す理由はないのだ。
だが、それでも二人は出した。手始めという意味もあったが、それ以上に彼等は知りたかったのだ。あれから自分がどれくらい強くなったのかを。
だからこそ、当時と同じ状態でまずは仕掛ける。
一誠は左拳を構えるつつ、自分の内にいる相棒のドライグに喜びと興奮が入り混じった声で話しかけた。
「ドライグ、全部の負荷を外すぜ! 野郎を前にそんな邪魔なモンは必要ねぇ! 最初から思いっきり行く!」
『あぁ、相棒! 全力で行くぞ!』
その返事と共に、左腕の籠手から人工的な音声が流れた。
『explosion!』
音声と共に、今まで一誠を押さえ込んでいたありとあらゆる負荷の力が解除される。それを感じ、一誠はニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。
この男が今までの赤龍帝と違うところは、その力の使い方。
戦闘だけでなく、自分に掛かるあらゆる負荷に力を使い、倍化して自らの身体を責め続けているのだ。これまでの赤龍帝はそのようなことはしない。彼等はただ、その力を破壊にのみ使ってきたから、一誠のような考えを持つ者はいなかったのだ。
と言っても、一誠はそこまで修行熱心と言う訳では無い。自分で必死に頑張るのが面倒だった一誠は、身体に掛かる重力などを倍化することで鍛えざる得ない状況に自らを置くことで仕方なく鍛えられるようにしたのだ。だが、それは通常に鍛えるのとは桁違いに過酷な物だった。最初は軽い負荷も慣れれば更に倍化していく日々。それによって一誠の身体は常人では考えられない程の負荷にも耐えられるように鍛え抜かれていった。
その負荷は日常生活に於いても継続しており、常に一誠に重くのしかかる。
その力から今、一誠は完全に解放されたのだ。
別に悪魔の様に魔力が上がったり何かが上がったりといったような感じは周りには感じられないだろう。だが、身体が断然軽くなりスッキリとした感覚を一誠は爽快感と共に感じ、力が全身から漲ってくる。
だからこそ、その身から発する獣の様な殺気はより色濃く出た。
「つぁ~、イイ感じだ。ここまでスッキリしてんのは初めてかもしんねぇ」
開放感から気持ちよさそうに声を出す一誠。その身は解放された野性の獣のようであった。
そんな一誠に対し、ヴァーリも似たように声を出す。
「やはりこの状態が一番スッキリとするな」
どうやら一誠が考えていることとヴァーリが考えていることは似たような物らしい。ヴァーリもまた、一誠同様に神器の力を使って自身に枷を付けていたようだ。
それを解放し、互いに本当の意味で全力を出す準備を終える。
そしてこれからやり合うであろう殺し合いに心を昂ぶらせ、同時に動いた。
「ラァアァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」
「オォオオオオオオオオオオオオオオォオオオオオオオッッッッッ!!」
一誠は咆吼を上げながら地面に拳を叩き着けると、その反動を利用して突進を仕掛ける。彼の常套手段である攻撃法だが、殴られた地面は今まで以上に深いクレーターを刻み込んだ。
対してヴァーリは高速で向かってくる一誠を撃退しようと、此方も負けない速度で飛翔した。その姿は白い閃光の矢のようであった。
そして両者の拳が激突する。
その途端、凄まじい衝撃が彼等の周りに発生し、周囲にあった物が全て粉砕され吹き飛んだ。
たった一撃の攻撃同士の激突。だが、それは初手にしては過剰とも言える破壊を辺りに撒き散らした。
それだけに二人の戦意が窺えるものだろう。
初手から全開で殺しに来ている。勿論殺意を持っているわけではない。結果として殺し合いになってしまっているだけで、二人の間にあるのは殺意に近い闘志のみである。死んだのならそれまでで期待外れ。この程度は受け止めて当たり前だと両者とも思っている。だからこそ、手加減などしない。最初から全開で行く。
二人は初撃のぶつかり合いは引き分けであり、同時に弾かれるように後へと退く。
そして互いに笑い合った。
「いやはや、やるじゃねぇか! あん時よりも格段に強ぇぜぇ」
「貴様こそ、前とは比べものにならないほどに拳が重くなっている!」
互いに過去の相手よりも強くなっていることを実感し喜ぶ。
その笑みはとても普通では無い、野獣のような凶悪な笑み。
見ている者達は二人の顔を見てきっとこう思うだろう。今戦っているのは人や悪魔では無い……獣だと。
「なら、もっといくぜぇ、ヴァァァアアアアリィィィィィィッ!!」
「来い、イッセェエェエェエェエエエエエエエエエエエエッ!!」
お互いに戦意をより燃え上がらせるかのように叫ぶと、次の攻撃を放つべく行動する。
一誠は先程と同じく拳を地面に叩き着けるが、その反動で前へと飛び出しつつも身体を回転させ始める。
遠心力による拳の破壊力の上昇、それが一誠が自然と学んだ打撃術だ。
それに対し、ヴァーリは白龍皇の光翼をより大きく広げると、その翼から魔方陣が展開される。そしてそこから数え切れない程の魔力弾が一誠に向かって襲い掛かった。ここで勘違いしていけないは、ヴァーリが悪魔と人間とのハーフだということ。当然ヴァーリは魔術が使えるのだ。そこが一誠との違いと言えよう。
自分に向かって辺りを埋め付くさんと殺到する魔力弾の嵐。その嵐に向かって一誠は退くことなく突き進む。
「オォオォオォオォオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!」
咆吼を上げながらその嵐に飛び込むと、自分に向かってくる魔力弾を片っ端から回転を利用して叩き落とし、尚進む。
そして嵐を突き抜けると共に、ヴァーリに拳を振るった。
「オラァッ!!」
「っ!」
一誠の拳を寸でのところでヴァーリは避ける。
だが、拳を完璧には避けきれなかったのだろう。頬から軽く血が滴り落ちてきた。その血を触りながら拳が掠ったことを察し、ヴァーリは更に笑う。
その笑みに対し、一誠は少しばかり不満そうな声を上げる。
「そんなちんけなモンで止まるわけねぇだろ。もっと行こうぜ、なぁッ!!」
「まったく、化け物め。今のアレで中級の悪魔なら致命傷を受ける程の攻撃だというのに、その嵐に入ってほぼ無傷とは……いや、だからこそ面白いッ!」
決して手を抜いたわけではない。
だが、普通ならとっくに消滅していても可笑しくない攻撃を受けてもダメージを全く受けない一誠を見て、ヴァーリの戦意は更に燃える。
「ならば今度はこっちから行くぞ!」
「来いよっ!」
そして今度はヴァーリから仕掛ける。
白龍皇の光翼が大きく広がると共に、ヴァーリの姿が一気に近づく。確かにこの神器の能力は半減だが、その形をしているからに翼としての機能も勿論持ち合わせている。つまり、一誠が出せないような高速での戦闘を可能とする。
ヴァーリは一誠が追いつけない程の速度で一誠に近づき拳を放つ。
「はあぁッ!」
「ぐぅっ」
そのまま高速で離れては急接近をしかけて攻撃を繰り出すヴァーリ。
一誠の方が拳の威力は上だが、ヴァーリの方が速く手数も多い。
そのため、一誠が攻撃を受けてから反応して反撃を繰り出すも、そこにヴァーリはいない。既に別の方向から攻撃を繰り出してくるのだ。
まさに手も足も出ない状況。いくら一誠より拳の威力が低いと言っても、普通の異形からすれば凄まじい威力であることに変わりは無い。そして加速していることで威力は更に上がっているのだ。そんな攻撃を受け続けるのは、いくら一誠でも耐えられる訳が無い。
だからこそ、一誠はヴァーリを退けるべく動く。
「アァアァアァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」
獣の様な叫びを上げると、全身から赤いオーラを噴き出させる。
そしてそのまま拳を上に振り上げると、籠手の宝玉が光り輝いた。
『Boost』
力の倍加により、拳がより赤く光り輝く。
そしてその拳を自分の足下に向かって殴り付けた。
「ドラグブリットォォオ、バァァアアストォオォォオオオオオオッッッッ!!」
『explosion』
その音声は力の発動時における音声。だが、今この時ばかりはそうではない。文字通り殴り付けられた地面は一誠の周りも含めて、
爆発したのだ。
まるで地面で爆弾が炸裂したかのように、押さえつけられていた力が噴き上がるかのように真っ赤な光が地面から噴き出し辺りを崩壊させていく。
その衝撃によって一誠に攻撃を仕掛けていたヴァーリは吹き飛ばされてしまった。
「なっ!? ぐぅぅ……」
そのまま近くにあった岩に激突し止まるヴァーリ。その衝撃に顔を苦痛に歪めた。
「まさかあの攻撃をそんな手で弾くとはな」
一誠の方に顔を向けつつそう言うヴァーリ。それは防がれた事への驚きよりも、乱暴とも言える手段で強引に弾き返した一誠への喜びが現れていた。
自分の宿敵がこの程度でやられるわけが無いと信じているからこそ、そんな返し方をされたのが楽しかったのだ。自分の予想を超える相手に、ヴァーリはワクワクしてしまう。
その期待に応えるかのように、額から血を流しつつ一誠はヴァーリに笑いかける。
「中々にいい攻撃だぜ、正直追いつけなかったよ。だがなぁ……退く気はねぇ」
「そうでなくてはな!」
互いの敵がこの程度でやられるわけが無いとわかっているからこそ、二人は更にぶつかる。
まだこの程度は序の口に過ぎす、出だしにすぎない。
だが、その戦闘は上級悪魔のそれに匹敵する破壊力を見せつけていた。
二人はお互いの成長を喜びながら互いにそれを見せつけるかのように攻撃し合う。
一誠はヴァーリへ攻撃する際に籠手の能力である倍化を本来の意味で使用し攻撃の威力を高め、ヴァーリは一誠に半減をかけてその力を半分に落とす。
だが、これは結局の所二人には意味が無い。
本来、半減の力は相手の力を半減し自分に回すというもの。だが、一誠の力はそれこそ桁違いであり、下手に取り込もうものなら途端にオーバーヒートを起こしかねない。ヴァーリ自身は耐えられるが、神器の方が耐えられなくなる可能性があるのだ。故にが半減した力は即座に外へと排出している。
倍化し半減する。それは増えたり減ったりを繰り返し、落ち着くのは元々の力。
つまり二人のぶつかり合いとは、神器の能力を使ったものではない。自分の力のみによる純粋なぶつかり合いだ。
意地と意地がぶつかり合い、物理現象として二人の拳が激突し合う。
二人が激突する度に大地は砕け、空間は悲鳴を上げる。
一誠の拳が大地にクレーターを作り上げ、ヴァーリの拳が周りの木々や岩を衝撃でなぎ倒していく。
二人が暴れる様はまさに天災。人や悪魔の身では出来ようも無い程に周りの空間を変えていく。
そして激化する二人は更に力を発揮していく。
「こんなもんじゃねぇだろ! もっとだ、もっと行くぜぇえぇえぇえぇええええ!!」
「当たり前だ! まだこんな物ではない!」
二人はその場で止まると、更に互いの神器を展開し始めた。
一誠は左腕だけでなく、右手、そして両足が赤い鎧に包まれる。そして彼の身体から発せられる赤きオーラが更に激しく噴き出した。
これは禁じ手には至りはしないが、それでもその力に近づいている、謂わば半禁じ手。一誠は両腕と両足に部分的とは言え禁じ手に至った状態で展開したのだ。
それはヴァーリも同じく、背中の羽以外にも両腕が白い鎧で包まれていた。
両者ともより力を発揮したことにより、世界が二人の威圧に飲み込まれる。
その圧倒的な威圧感は映像で見ている者達でさえ飲み込まれ言葉を失い始めていた。
「オォオォォォォオオォオオォオオオオオオオオオオオオオオオッォオオ!!」
「シャァアアァアァアアァアアァアアアアアァアアアァアァアアアアアア!!」
まるで世界を切り裂くかのように雄叫びを上げる二人。
そして二人の激突は更に過激になっていく。
赤と白、二つの力の塊が激突する度に衝撃が走り世界が怯えるかのような轟音が轟く。
大地は見る間に姿形を変え、何も無い荒野へと変貌していった。
一誠の拳がヴァーリの頬を捕らえ、ヴァーリの拳が一誠の腹を抉る。
その度に激突音とは別に肉と骨がぶつかり合う音がする。映像でしか彼等の戦う様子を見ていない者達でも、その生々しい音が伝わってくるかのようで耳を塞ぎしゃがみ込む者達が出始める。
そんな戦闘をしているというのに、二人の顔は寧ろ笑っていた。
その目は常に闘志に燃え上がり、殺気の入り交じった笑みが顔を彩る。
二人はまさに、この過激な戦いを心から楽しんでいた。
だからこそ、こんな『お遊び』で満足出来るはずが無い。
お互いにぶつかり合っては離れ対峙する。
その度に血が流れるが、二人とも致命傷らしい致命傷は負っていない。まだ体力も充分にあり、その戦意は衰えることを知らず更に燃え上がる。
互いに言葉は無い。その凶悪な笑みだけが楽しんでいることを知らせている。
だからこそ、次は互いに動いた。
爆発するかのように膨れ上がる赤と白のオーラ。
そのオーラの中で、一誠とヴァーリのシルエットが形を変える。
『Welsh Dragon Balance breaker !!』
『vanising Dragon Balance breaker !!』
その音声と共に膨れ上がった赤と白のオーラが破裂し吹き荒れる。そして赤と白の嵐が収まると、そこには赤い鎧を纏った一誠と、白い鎧を纏ったヴァーリが対峙していた。
それはお互い禁じ手に至った姿。世界を変えかねない危険な力をもった超常者。
二天龍の力を存分に振るえる神をも殺せる力。
その力を体現するかのような姿となった一誠とヴァーリは互いに対峙し合う。
「いいねいいねぇ。そうこなっくっちゃなぁ! ここから先は初めてだからなぁ!」
「あぁ、そうだ。ここから先はあの時の続きではない。今のオレと貴様の戦いだ!!」
そして赤と白は互いを倒すべく、閃光となってぶつかり合った。
その瞬間、確かに世界は壊れた。