ハイスクールD×D 赤腕のイッセー 作:nasigorenn
公開授業と言う名の茶番も無事に過ぎ去り二日が経った。
この日、この時間、この駒王学園の理事長室は異常な空気に包まれていた。
一般の生徒にはまったく感じられないであろうものだが、それを知っている者ならば全身から冷や汗を掻くくらい、その空気は重圧である。
それもそのはずだ。現在、この部屋には悪魔、堕天使、天使の三大勢力のトップが集結しているのだから。
魔界の王たる魔王二人、それに聖書に名を残す程に有名な堕天使と天使。
そのような大物が集結している場所が普通の空気になるわけがない。
その空気の大本である彼等もこの雰囲気を感じ取っているのだろう。その表情にリラックスしたような様子は無い。
仮にも過去は互いに争い合っていた種族達。戦意は無くとも、そう簡単に打ち解けられるものではない。
と言っても、それはあくまでも天界と各陣の勢力の者達のみで、悪魔と堕天使……正確に言えば魔王サーゼクス・ルシファーとアザゼルの二人はそんな様子はあまり無かった。
「そういやこの間のアレ、どうしたんだよサーゼクス。上さんに怒られるって焦ってたろ」
気安く魔王に話しかける堕天使の総督。
その様子にその場にいた悪魔達……リアスやその眷属、それに生徒会であるソーナとその眷属達は表情を顰める。
彼等からすれば不敬だと叫びたい所だろう。だが、この会談の場で始まってはいないとは言え不用意な発言はするべきではないと判断し言わないことにする。
気安く話しかけられたサーゼクスはというと、特に気にした様子もなく苦笑を浮かべながらその問いに答えていた。
「いやぁ、結局バレてしまって怒られてしまったよ」
周りの者達は知らないが、二人はとある店でそれなりに会話をする仲である。
だからこそ、気軽に話し合う二人を見て周りは驚きを隠せずにいた。
それで多少は緊張が解れるかと言えば、そうでもない。
ここが彼のラーメン屋であるのなら、サーゼクスもアザゼルも自分の立場など気にせずに寛いでいただろう。
だが、二人ともここに来たのは遊びでは無い。
これからの三大勢力についてを決める重大な会談をしにきたのだから。多少はやはり緊張するのであった。
そのような緊張渦巻く室内、周りがピリピリとしている中で一人、目を瞑り静かにしているヴァーリがそこにいた。
この会談にはアザゼルの付き人として参加しているヴァーリだが、その胸中は正直会談などどうでもよかった。
彼が望むのはただ一つ。
彼の宿敵との殺し合いを合法的にして貰うことのみ。
それさえ成せれば、後のことはどうでも良いのだ。もしこの提案が認められなかったのなら、ヴァーリは無理矢理にでも宿敵と戦うつもりでいた。
それに丁度良い『誘い』も来ているので、アザゼル達を裏切るのは多少気が引けなくもないが、悪くないと思っている。
その事を考えながら静かにしていると、やっとこの場の全員が待ち望んでいた人物達がこの部屋にやってきた。
扉が開く理事長室。その扉の奥からやってきたのは、この学園の制服を着た男子二人と女子一人。
女子は美しい金髪をした可愛らしい少女であり、この場に入る前から緊張していたことが窺えるくらい萎縮していた。
対して男子の二人からは緊張した様子はまったくない。
片方は黒髪をしたどこにでもいそうな明らかに目立たない男子。彼は人に受けそうな笑みを浮かべ、入り次第社交的な挨拶を周りにしていく。
そしてもう片方の男子、茶髪をした気だるそうな男子は面倒臭そうな感じにノロノロと部屋に入って来た。
それを見たリアス達は驚きに目を剝いた。
彼等人間に魔王達に挨拶をしないのは不敬などと言うつもりはないが、だからといってここまで緊張感がないのは如何なものなのかと。
そんな人間達……アーシア・アルジェント、久遠、それに兵藤 一誠にむかってサーゼクスとアザゼルが軽く話しかけきた。
「やぁ、赤腕。来てくれて何よりだよ。それにアーシア・アルジェントと久遠くんもね」
「その割りには遅刻してるけどなぁ」
一誠達が来たことに歓迎の意を表すサーゼクス。それに対し、アザゼルは一誠達が10分ほど遅れて来たことをからかう。
そう言われアーシアは顔を真っ青にして可哀想なくらいに謝罪をしながら頭を下げるが、一誠達はそうならない。
久遠は笑顔のまま謝るが、一誠に至っては謝る気などなさそうであった。
「そう思うんだったら掃除なんてもんをやらせるんじゃねぇよ」
そう、一誠達がこの場に来るのに遅れた理由、それは教室の掃除が原因であった。
学生足る者、放課後には多少なりとも校内清掃の義務が生じるものである。
そして運悪く、一誠達は教室の清掃をするよう当番が来てしまったというわけだ。
普段の一誠ならばまずサボるであろうものだが、今回の会談には一誠と久遠以外にも、もう一人参加する者がいる。
きっとこの学園でも随一の真面目な少女、アーシアが参加するのだ。
真面目な彼女が掃除をサボるなどということは絶対に無い。
だから彼女は一生懸命掃除をしていたのだが、このままではいつまで経っても終わる気配が無い。だからこそ、しょうがなく一誠達も手伝うことなり、結果として遅れてしまったというわけだ。
それを聞いてサーゼクスは苦笑を浮かべる。
「それは申し訳ない。だが、学生はそう言うことをするのも学園生活の一環だからね」
「そんなもん、さっさと適当にすませりゃぁいいのによぉ。大方アーシア・アルジェントが真面目にやってて放って置けなかったところか。あの赤腕がお優しいことで」
呆れ返りながらからかうアザゼルを一誠は一瞥する。その瞳にはうるせぇよ、という意思が込められていた。苛立ちと照れ隠しの二つが入り交じり、一誠は何とも言えない表情を浮かべていた。
そしてその目は直ぐにヴァーリの方に向けられる。
それを受けてヴァーリもまた、目を開けて一誠と目を合わせた。
殺気こそ放ってはいないが、二人とも待ち望んだものが目の前にあると喜びに笑う。
その笑みを見てサーゼクスは口を開いた。
「では、せっかく揃ったのだから始めよう……会談を」
その声により、この世界を揺るがしかねない会談は始まった。
会談の話し合いは恙無く進んでいく。
話の大本は主に今回暴れ回ったコカビエルの真意。そして実際にコカビエルと戦った者達の報告を皆が聞いていく。
相対して見なければ分からないとも多く、それ故の報告である。
「………以上、私、リアス・グレモリーとその眷属の報告を終えます」
「私ソーナ・シトリーも彼女達の報告に偽りが無いことを証言致します」
リアス達が報告を終えると、その話を聞いていた各々は軽く頷く。
だが、実の所それで何か変わったと言うことは無い。酷く言えば、リアス達はコカビエル自体には何も出来なかっただから。
協会の最初の任務であるエクスカリバーの奪還という点では確かに達成はされたが、その程度と言えなくも無いのは実情。
それはこの場に居る皆が分かっていることであり、報告しているリアスも内心恥じていた。
「ご苦労だった、下がってくれ。では次に赤腕、君の話を聞きたい。いいかな?」
サーゼクスにそう話しかけられ、一誠は面倒臭そうに話し出す。
「報告もクソもねぇと思うけどよぉ。あんたから依頼を受けて言ってみたら校庭でふんぞり返ってるコカビエルとその飼い犬相手に遊んでいる姫さんが居た。そんでもってコカビエルに喧嘩を売って殺し合って、丁度良い所でそこでスカしてる奴に邪魔されたんだよ」
報告というのは正確に物事を使える事を言うのだが、一誠のそれは報告というよりもただの文句であった。
やる気の無い声でそう言いつつヴァーリにジト目を向ける。
ヴァーリはその視線を受けて多少呆れた様子を見せていた。
それに気付いた周りの者達がざわめき始める。アザゼルの付き人として来たこの男は何者なのかと。
それに対し、アザゼルは子供が新しく手に入れた玩具を自慢するかのようにヴァーリの事を紹介し始めた。
「こいつの名はヴァーリ。ウチん所で世話してる『白龍皇』だ」
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
その発言に驚くリアス達。
あの時彼女達は確かにヴァーリの姿を見たが、あれは神器を纏っていた姿であり、生身は見たことが無かったのだ。それがまさか自分達とそんな歳の変わらない青年だとは思わなかったのだろう。
ヴァーリはその紹介するアザゼルを見て苦笑する。
発言権があるわけでは無いが、ここで先に言わなければアザゼルの立場も多少とは言え悪くなる可能性がある。そう判断し、一誠の報告に被せる形でヴァーリも話し始める。
「此方は勝手に暴走しているコカビエルを連れ帰り組織で裁くために出てきたんだ、アザゼルに命じられてな。そして暴れ回っている奴を見つけたが、そこにいるイッセーとの戦いの末に決着が付きかけていた。あの戦いを見るに、敗者は絶対に死ぬ。そうなればこちら側も困るので介入させて貰ったというわけだ」
ヴァーリの言葉も発言として認め、サーゼクスやミカエル達は報告を聞き終える事とする。
そして此度の騒動の大本たるコカビエルの上司に当たるアザゼルに問う。
「報告を聞く限り、君もそれなりに止めようとしたことも分からなくも無い。だが、それでも説明はして貰いたい」
サーゼクスの声にアザゼルは予想していたといった様子で返事を返す。
「まぁ、そうなるだろうな。最初に言ってはおくが、悪かったとは思ってる。あの馬鹿のコントロールが出来なかったのはオレの落ち度だ。だが、そいつはヴァーリに命じてケジメは付けさせたつもりだ。流石にオレが直々に出るとサーゼクスは兎も角他の奴等から文句を言われるだろうからなぁ。あの馬鹿は連れ帰った後にオレ等なりに裁判にかけてコキュートスの最下層に厳重に封印の刑に処した。かなりかけたから一生掛かっても出られねぇとは思うが……赤腕、お前さんとまた喧嘩するために出て来るって息巻いてたよ」
軽い冗談めいた発言にミカエルの眉が若干上がる。
「本当に悪いと思っているのなら、誠意を見せるべきだと私は思うのですが」
「そうカタッ苦しいこというなよ」
真面目にそういうミカエルにアザゼルは苦笑を浮かべつつそう言う。
それが癪に障ったのだろうか。ミカエルは言葉に棘を含ませつつもアザゼルに問う。
「つまり、今回のコカビエル暴走の件は勝手に暴走した部下が行った事、ということでよろしいですか。貴方の様子を見る限り、事前に知っていたのに放置していたような節が見られますが?」
「あいつが戦争をしたがっていたのは知ってるが、だからといって今の世でやろうとは思わなかったんだよ。それにオレは戦争なんて御免だ。そんなもんに時間を割くくらいなら自分の好きなモンに時間をかけたい」
それが本音だということをこの場に居る殆どの者達は疑うが、実際にアザゼルを知る一誠や久遠、ヴァーリやサーゼクスは納得する。
この男なら確かにそう言うだろうと。
アザゼルの本質は子供と変わらない。夢中になってるもの以外はやらない。
だからこそ、戦争など眼中に無いのだろう。
争うことが好きだと思われていることがそんなに心外なのか、アザゼルは深い溜息を吐くと共に周りを見渡す。
「オレは今の世って奴が好きなんだよ。やりたいことやって、ラーメン屋で知り合い相手に愚痴零しながら酒煽って、それなりに楽しくやってる。だからオレは戦争したくねぇんだよ。まぁ、もう面倒臭ぇ! とっとと結ぼうぜ……和平をよ」
これ以上の話し合いが面倒だとばっさりと言い切るアザゼル。
それを聞いた周りは皆驚き目を見開くが、もとからそのつもりであること知っていた一誠や久遠、ヴァーリは驚かない。
そしてそれを察していたサーゼクスも笑みを浮かべながらそれに応じる。
「もう少し過程を踏みたかったのだがね」
「面倒だろ、一々小難しい建前ばっかり話してるのは。結局どの勢力だって望んでたろ。お互いに睨み当たって仕方ねぇし、やり合うだけ種が減って存亡の危機が早まるだけだなんだからよ」
「そう言われては形無しですけどね」
アザゼルの発言にミカエルが呆れつつも賛同の意を表す。
結局どの勢力も考えることは同じであり、いつまでも終わりの見えない、行っても自分達に明日の無い戦争などやりたいわけがないのである。
だからこそ、今回の一件で3つの勢力は皆和平を結ぼうと考えていたのだ。
「そもそも神と先代魔王が始めた戦争に付き合う理由はもうねぇんだからよ。聖書の神も先代魔王達も死んだ。だが、神が居なくても世界は廻るって奴だ。オレ等は生き残った責務として、世界を回していかねぇとな。そのためには速く和平を結ぶのが手っ取り早い」
アザゼルの言葉にミカエルとサーゼクスが頷き返す。
各自思うことはあれど、行き着く先はそこになる。
自分達の種のために、世界のために自分達は何をすべきなのかということを。
そして結ばれる三大勢力の和平。
その歴史的瞬間に立ち会えたリアス達は感動のあまりに言葉を失っていた。アーシアも同様であり、無意識に涙を流している。
これにより会談は終わりとなるはずだが、その前に一つ、和平が決まった後に話さなくてはならないことがある。
アザゼルに向かってその事を直ぐに言うよう睨み付ける一誠とヴァーリ。
その視線を受けて仕方ない奴等だと呆れつつもアザゼルは周りに話しかける。
「さて、和平が決まった事でめでたいところ悪いが、出来れば直ぐに話し合わなきゃならない話がある」
「話し合わないといけない事ですか?」
「それは一体……」
不思議そうな顔をするミカエルにもしやと思い浮かぶことがあるのか顔を真面目な物に変えるサーゼクス。
二人の表情を見てアザゼルはニヤリと笑うと、その話を発表する。
「実はな……ウチのヴァーリと赤腕が殺り合いたいんだとよ。まぁ、神器の宿命って奴もあるから分からなくもねぇだろ。だが、そんなことを勝手にされたら困るのはオレ達三大勢力だ。流石にするなとは言えねぇし、無理矢理にでも止めようとすれば、それこそ過去の戦争の再現になりかねん。そこでだ」
そこで一旦言葉を切ると、溜めを作って愉快そうにアザゼルは言った。
「オレ等でこいつ等の戦いをプロデュースするのはどうよ」
それを聞いた途端、周りは理解が出来ないのかポカンと口を開けてしまう。
だが、理解したミカエルと元々考えていたサーゼクスはがアザゼルの言いたいことを皆に説明する。
「つまり貴方はこう言いたいのですね。両者が戦い合えば途轍もない被害が出る。それを此方で戦場を提供するなどして被害を極論減らそうと」
「また、下手に敵に回せば危険極まりない二人の望みを叶えることによって誰も傷付かないようにするというわけだね。確かに下手に勝手にされるよりも管理した方が有り難い。しないというのは……」
説明しながらサーゼクスは一誠とヴァーリに目を向けるが、すでに二人とも殺る気が漲っていた。それを見て無理だと悟る。
「無理のようだからね。確かに和平が成功した今の我等には重大な問題だ。その解決策としても申し分ない」
サーゼクスとミカエルの算段はもう付き始めている。
周りの者達から反対の声が上がるも、彼等はトップの言うことを聞くしか無い。
だからこそ、この場で新たに決まった赤龍帝と白龍皇の戦い。
それを発表しようとした瞬間、突如としてそれは訪れた。
「「「「「「「!?」」」」」」」
まるで空気が固まったかのような感触が世界を満たしていく。
その感触に縛られたのか、理事長室内にいるリアスの眷属やソーナの眷属達が動きを止めた。
まるで時を止められたかのように。
その事実に思い当たる節があったのか、サーゼクスはリアスの方に顔を向けて問う。
「リアス、今ギャスパーは何処に?」
「今ギャスパーはいつもと同じ部屋にいるわ、お兄様。あの子はまだ力の制御が不完全だからこの場に連れてくるわけにはいかなかったの」
その話を聞いてサーゼクスは確信する。
それと共に外には広大な結界が張られ、数え切れない程の転送魔方陣が空を覆い次々に様々な者達を転送させていく。
「なっ、これは一体!?」
驚く者達を落ち着けるようにアザゼルがゆっくりとした様子で口を開く。
「こいつぁ……テロだよ」
「テロリスト……ですって?」
信じられないといった様子のリアスにアザゼルは笑いかける。
「どうも少し前からキナ臭い話を聞いてなぁ。三大勢力の和平を怖れてなのか、はみ出し者や危険分子ども集めてる奴らがいるって話だ。確か……『禍の団』だったか。そんな名前の奴らだよ」
それを聞いたリアス達は相手が如何に危険なのかを知る。
それと同時に自分の眷属がどうなっているのかを察した。
つまりこの空間が停止させられたかのようになっているのは、自分の眷属の神器を何かしらして暴走させた結果だということ。
敵の手に堕ちた眷属のことが心配で仕方なくなるリアスは取り乱しかけ、慌ててサーゼクスに話しかける。
「お兄様、もしかしてギャスパーは!?」
「落ち着きなさい、リアス。少なくても殺されてはいないだろう出なければこのように神器を発動させることは出来ない。たぶんだが、洗脳か何かしらされて神器を暴走させられているのだろう」
極めて冷静に勤めるサーゼクス。
その視線は外へと向いており、転送されている人物達を見て相手がどのような者達なのかを判断する。
「あの恰好は……魔女達か。それに悪魔やそれ以外にも……やれやれ。どうにもアザゼルの事は言えなさそうだね」
「お互いに一枚岩じゃねぇってこったなぁ」
からかうアザゼルに苦笑を浮かべるサーゼクス。
マイペースに話す二人に焦った様子で周りがどうするか話しかけていく。
特にこの場は敵の狙いだということも合ってか、外から火力を集中させての集中砲火を浴びせられていた。
それを防ぐのはミカエルと共に来た天使達、そして久遠であった。
「攻撃は苦手だけど、防御は得意なんだよね、俺」
その術にソーナやリアスは驚く。
人間であるはずの、戦闘をしない久遠がどうしてこのような強固な結界を張れるのか? それが彼女達を驚かせた。
それに対し聞けば、久遠は口元に人差し指をやってこう答える。
「企業秘密、だよ」
この緊急事態に何を言っているんだと突っ込みたくなるところだがそれどころでは無いのでリアス達は止めておく。結果として強固な結界に守られているこの部屋はそう簡単に傷付けはできないだろう。
だからこそ、少しでも状況を打破すべくリアスはサーゼクスに提案を出す。
それは自身の眷属であり、現在囚われ神器を暴走させられているギャスパー・ヴラディを助け出すというもの。そのためにはレーティングゲームにある一つのルール、『キャスリング』と呼ばれる王と他の駒の位置を変える能力を使いたいということであった。
それを聞いたサーゼクスは危険を承知で許可をする。
現状、敵の流れを食い止めるためにはギャスパーの時間停止を解く必要があるのだ。
それを早速実行に移すよう行動に移るリアス。ソーナは久遠と一緒に結界をより強固にしていた。
そんな中、アーシアはというと……。
「お前さんはここで留守番だ。ここが一番安全だからよ」
「は、はい……」
アザゼルの直ぐ側に居るよう命じられた。
この場所において、アーシアは役に立たない。回復しか出来ないのだから仕方ないのだが。
そのことがアーシアの心を責める。だが、それを見越したかのようにアザゼルはアーシアに笑いかけた。
「お前さんは怪我人が出たら治療してやれ。それはお前さんだけにしか出来ないことなんだからな」
「は、はい!」
アザゼルにそう言われ気を確かに持ち返事を返すアーシア。
そんなアーシアに笑顔を向けつつ、アザゼルは彼女を守るように側に居る。
このままでは防戦一方。きっと外に居る禍の団の者達も自分達の有利を信じて疑わなかっただろう。
だからこそ、気付けなかった。
自分達が何をしたのかと言うことに。
それを理解しているサーゼクス、アザゼル、ミカエルの三人は『二人』に話しかける。
「お前等、言いたいことは分かるがここで苛ついてるんじゃねぇよ」
「申し訳無いが外に出て時間を稼いでもらえないでしょうか」
「まぁ、君達二人なら時間稼ぎ所か全滅させてしまいそうだね」
三人の視線の先に居るのは………。
殺気立ったあまりにオーラが噴き出しかけている二天龍。
せっかく決まりかけていた話を邪魔されたことにより、彼等は知らないうちこの二人の憤怒を買ったのだ。
そのまま二人はゆっくりと、しかし確かな足取りで窓際まで歩いて行く。
そして同時に視線を外に向けた。
「言われるまでもねぇよ。せっかく決まりそうだったのに邪魔しやがったんだ。その落とし前……きっちり付けてもらわねぇとなぁっ!!」
「あぁ、そうだ! やっと待ち望んでいた時を邪魔された。それを許せるほど、オレは温厚では無い!!」
自身が感じた怒りを吐き出すと共に、彼等は同時に神器を発動させる。
『Welsh Dragon Balance breaker !!』
『vanising Dragon Balance breaker !!』
それと共に吹き荒れる赤と白のオーラ。
その余波だけで理事長室内の内装や調度品が吹き飛ばされて破壊されていく。
それが収まると共に現れたのは、赤き鎧を纏う一誠と、白き鎧を纏うヴァーリであった。
その姿は神々しさを感じさせると共に、破壊の気配を嫌でも感じさせる。
その存在感は魔王達以上であり、リアス達は勿論、アーシアも見入ってしまう。
そしてどちらも同時に動いた。
その怒りを体現するかのように、膨れ上がった力が軽い爆発を引き起こす。
大気が炸裂したかのような轟音と共に、二人は結界を内側から破壊して飛び出して行く。
「テメェら、ぶっ飛ばしてやるぜぇぇえぇええええええええええええええ!!」
「貴様等、オレ達の戦いに邪魔を入れたのだ。その罪、万死に値する!!」
そして赤と白の閃光が空を駆け巡ると共に破壊と殺戮を巻き起こす。
その光景を張り直した結界越しで見つめながらアザゼルは呟く。
「お前等のやりたいことはわからなくいもねぇが、だからといって時は考えねぇとなぁ。でないと……2匹の凶暴な龍の逆鱗に触れちまうんだからよ」
その呟きは誰の耳にも届かない。
だが、聞こえなくても見ていれば分かるだろう。
あの二人の怒りを買うと言うことがどういうことなのかを……。