ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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今回はあまりシュールにならないよう少しネタを入れてみました。


3話 狙われている彼

 リアス・グレモリーは不満に思っていることがあった。

それは、ここ数年自分達の周りでおかしな者達が動いていることである。

駒王学園への入学を機に、彼女は実家からこの街の管理を任された。

この地には彼女の他にもう一人上級悪魔の家系の者がいるが、主に街の管理をリアスが、学園の管理をその者が行うよう役割分担がなされている。

土地の管理においてリアスがすべきことは、この地の管理者であるリアスの許可もなく地に踏み込んだ者の排除と治安維持だ。それも人外の者達に対しての。

時には大公の命により、侵入した凶悪な『はぐれ悪魔』の討伐も行う。

それらが彼女の職務なのだが、そこに実は問題があった。

どうも彼女は大公の信頼を得ていないらしい。

いや、別にそういった訳ではないのだが、リアスに下る討伐命令には少々可笑しなものがあった。

例えば、討伐対象があまりにも弱い場合。

命じられたからにはしなければならないのだが、相手にならない者ばかりだと言うのは可笑しな話だろう。そこでただ自分が強いと自惚れているのなら気にならないだろうが、リアスはそんな自惚れはしない。

過去に何度か、大公の命がリアスに下る前に危険なはぐれ悪魔が侵入したことがあった。

それを独自の情報網で知り、リアスの独断でそのはぐれ悪魔を討伐しに向かったことがある。だが、結果は予想外であった。

リアスがそのはぐれ悪魔の隠れ家に着いた時、既にかの悪魔は息絶えていたのだ。

彼女が見たのは無残に両腕が引き千切られ、頭が潰された死体のみ。それをやったと思わしき者の影も形もそこにはいない。

やった犯人を捜そうにも手がかりはあまりなく、強いて言うのなら地面などに出来上がっている大きなクレーターくらいだろう。

それからも度々凶悪なはぐれ悪魔が侵入してくるが、リアスが叩く前にすでに皆死んでいた。

その明らかにおかしい事態にリアスは大公にきつく問い詰めると、大公からこんなことを聞かされた。

 

曰く、荒事専門の者に依頼していると。

 

そのことに憤慨したリアスであったが、大公から現魔王であるサーゼクス・ルシファーの身内に何か遭ってはいけないということで安全重視にしたていることを言われては言い返せない。リアスは敬愛している兄に迷惑はかけたく無いのである。

だが、それとリアスが管理者としての責務を果たしているかは別問題であり、彼女は自分の配下達と共にその『荒事専門の者』について探し始めた。

そして見つけ次第、事情を説明して辞めてもらうよう説得するために。

金が目的なら、その大公の依頼より高い金額を払うつもりである。グレモリー家は冥界でもかなりの財産を有している家であり、個人が一生遊んで暮らせる金額くらい平然と出せるのだ。

それで手を打とうと思って探してみるが、まったく捕まらない。

はぐれ悪魔の潜伏先に向かえば既に悪魔は死んでいて姿は見えず、周りの目撃情報を集めようにも夜なので人がいない。

何も見つからないことに焦るリアスであったが、そこで妙な噂を街で聞いた。

曰く、

 

『仲介屋』に仕事を依頼すれば、どんな仕事であろうとしてくれる。

 

というものである。

そう、『どんな仕事』でもである。

調べれば眉唾ものだが、殺人に強盗、傍は人さらいなど多岐に渡る。

そこでリアスはその仲介屋について、自分達のはぐれ悪魔討伐について関わりがないか調べた。

そこで浮かび上がってきたのが、一人の男である。

年齢不明、身体的特徴不明、名称不明。

まさに謎しかない人物。だが、そんな者にも一つだけ特徴があった。

 それは左腕が赤いということ、この者が『赤腕』と呼ばれていることを彼女は知った。

 

 

 

「く、屈辱だわ………」

 

暗い地下で、一人の女が怒りに打ち震えていた。

黒いボンテージを着た豊満ま肢体はまさに妖艶で、男ならば誰もが欲情する魅惑の身体である。顔もとても美しく、まさに美女と言っても良い女性だが、残念なことに今はその顔が怒りで歪み美しさを少し損なわせていた。

彼女の名はレイナーレ。

嗜好の堕天使を目指すため、独断でこのグレモリーの管理地に侵入した堕天使である。

彼女の狙いは、とある神器(セイクリッドギア)である。その所有者は近々この街にやってくるので、その者をから奪い取る予定だ。

神器……それは『聖書の神』が作ったシステムで不思議な能力を所持者へ与える特殊な異能。歴代の英雄や伝承に出て来る傑物達も神器を持っていたと言われている。

それは時にこの世の理を覆すこともある存在。その持ち主に通常では有り得ない異能の力を授ける。中にはドラゴンや魔獣といった幻想の生物の魂が封じられている物もある。それら全ての神器には共通点があるのだ。

それは……人間、もしくは人間の血を引く者のみにしか宿らないということ。

『聖書の神』が作ったシステムは人間にしか適応されないのだ。それを後から強制的に抜き取り移植すれば他の種族でも使えるのだ。

ただし、抜き取られた者は大体死ぬ。

それを知った上でレイナーレはその者の神器を奪おうとしている。

だが、彼女が今怒っているのはそれとはまったく関係がないことであった。

ただ、たまたまだった……一人の少年から神器の気配を感じ取ったのは。

どういった神器かまでは分からないが、神器とは得てして強力な物。

これから行う作戦に邪魔が入るのは何としても阻止したい。

一番警戒すべきはこの地の管理者であるグレモリーだが、不確定要素も潰して置いて損はない。

なら殺せばいい話なのだが、ここで彼女の悪癖が出た。

その少年を己が魅力で籠絡し、そして裏切って殺そうと考えたのだ。

絶望に沈みながら死んでいく様を見て嘲笑おうとしていた。

堕天使ならではの下衆い考え。

その暗い愉悦を胸の内に抱き、少年を誘惑するべく告白を仕掛けた。

だが、ここで一つ大きな誤算があった。

レイナーレは自身の美貌に自身を持っている。

端正な顔達に瑞々しく滑らかな肌、豊満で形の良い胸、くびれた腰に引き締まった臀部。

全てが雄を誘惑するのに充分な魅力に溢れている。

それを持ってすれば、人間の男如き籠絡するなど何てことはないと。

それほど自信があったレイナーレだが、何と振られたのだ。

それも一考すらせず、即答で。

それはもう、完膚なきまでに振られた。

今まで自分の美貌に自信を持っていたレイナーレがたかが人間の男に振られたなどと、彼女のプライドが許さないのだ。

 

「レイナーレ様、落ち着いて下さい」

「そうっすよ、レイナーレ様。そんなマジにならなくても」

「そうです。レイナーレ様の魅力に落ちなかったのはきっとそいつが不能野郎だったからですよ」

 

怒りに打ち震えているレイナーレを心配して部下であるドーナシーク、カラワーナ、ミッテルトの以下三名の堕天使が声をかけて慰める。

ドーナシークは紺色のコートを羽織った男で、ミッテルトはゴスロリの衣装を着た少女、カラワーナはスーツを着崩して着ている女性である。

部下三人に慰められているレイナーレは、流石に自分のみっともない所を見せたと恥じて体裁を取り繕う。

 

「そ、そうよね。この私に反応しないなんて、男として不能でも無い限り有り得ないことだわ」

「その通りですよ。なぁ、ドーナシーク」

「あ、あぁ、その通りです。私はとてもレイナーレ様が魅力的だと思いますよ」

「そいつがロリコンって場合もありますからね~。あれ、もしかしてこっちの方がヤバイっ!?」

 

怒れる上司を必至に宥める部下達。

それは傍から見て会社員の上下関係と差がない。どの種族だろうが組織だろうが、この上下の図は変わらないのかもしれない。

そんな上司の怒りを収めるべく、三人を代表してドーナシークが前に出た。

 

「そんな男の風上にも置けぬ不能者など、レイナーレ様が手を下すまでもありません。その者は私が処理いたしますので、レイナーレ様は本命たる例の作戦のために御身を休めていて下さい。最悪、グレモリーの一族とやり合う可能性も出てきますので」

「そうね……そうさせてもらうわ。ドーナシーク、頼んだわ」

「はっ!」

 

ドーナシークは一礼すると、外へ向かって歩き出した。

その背中を見ながらレイナーレは近くにあったソファでに座り込み、怒りを静めるべく残りの部下二人に命を下す。

 

「カラワーナ、貴方は作戦の再確認とはぐれエクソシストの士気を高めてきなさい」

「はっ!」

 

その命を受けてカラワーナもドーナシーク同様外へと向かう。

そしてレイナーレは最後に残ったミッテルトに向かってごろりと寝そべりながら命を出した。

 

「ミッテルトは近くのコンビニに行ってジュースと水羊羹買ってきて。あ、もちろんジュースは0カロリーのやつだからね」

「なんでウチだけこんな扱いなんっすか~。まぁ、ウチもプリン買いたいからいいっすけど」

 

上司のイマイチ投げやりな命に仕方ないな~、といった感じに頷いて外に出て行った。

 

 

 悪魔と堕天使、敵対する双方だが、奇しくも狙いは同じ『赤腕』であった。


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