ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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可笑しいですよ。一誠の時より長くなってしまいました。文が……。


37話 彼が焦る間に彼女は…

 コカビエルが駒王学園で暴れ回り、それを鎮圧した一誠。

だが、その後はすこぶる機嫌が悪いと言うべきか、焦れったそうにしている様子を見てアーシアは心配してしまう。

一誠があの夜に帰って来た後に話の経緯は大体聞かせてもらったアーシアであるが、この男に限って詳細なことを説明するほど頭が良いわけが無い。

結果、アーシアが分かったことは今回の件が無事に全て終わったことくらいであった。

普通ならばその詳細を聞きたいと誰もが思うだろう。当事者がどうなったのか? 聖剣を奪った者達はどうなったのか? 元協会の人間であるアーシアならば尚更に。

だが、アーシアは追求しなかった。

気にならなかったと言えば嘘になるが、それよりも一誠が無事に帰ってきたことが純粋に嬉しかったのだ。

故に彼女はそれ以上のことを求めない。ただ、大切な家族が無事であったことだけで充分だったから。まぁ、イリナにだけはより細かく伝えていた事に不満は覚えたようであったが。

しかし、それでもアーシアは一誠を心配し、そして彼を気遣い聞かないことにした。きっと一誠ならばどんなことでも絶対に大丈夫だと思えるから。

それは一誠の事を何よりも信頼しているからである。彼女の中で、一誠は家族であると同時に最も想いを寄せる異性でもある。そのような大切な存在のことを彼女は何よりも愛しているのだから。愛している人の事を信じられなくては女として終わっているというものである。

これに関してはクラスメイトの入れ知恵であり、そう言われる度に彼女は顔を真っ赤にして恥じらう。その様子の愛くるしさから皆の弄られ役になるのはご愛敬というものだ。

そのように、全幅の信頼を寄せる一誠が何か焦っている様子だが、アーシアは信じて見守るのみ。きっと話せる時がくればきっと話してくれると彼女はどことなく分かっているから。

だからこそ、アーシアはいつもと変わらない。

一誠がくれた年相応の青春を謳歌することにする。それが彼女なりの一誠への感謝だと信じて。

そんな彼女だが、一誠が帰ってきてから直ぐに驚くことになった。

何故なら、彼女と一誠がいるクラスに新たな転校生がやってきたのだから……。

 

 

 

 

 イリナが回復し帰投命令により本国に帰った翌日。

一誠は妙にカリカリしつつもアーシアと一緒に学園へと登校する。

その際、稀に機嫌の悪さが出てしまってかアーシアを怖がらせては気まずそうに謝る一誠。そんな一誠にアーシアは大丈夫ですよと、天使のような微笑みで返す。

その様子は熟年の夫婦か、もしくは初々しいカップルに見えなくもないだろう。周りからの視線が二人に集まり、その所為でアーシアは顔を真っ赤にして恥じらい、その様子が殊更に道行く男達の視線を集める。

それと同時に一誠の方へと妬みの感情が籠もった視線を向けられるわけだが、一誠の纏う滲み出した殺気に瘴てられ即座に目を逸らす。

そんな様子が面白かったのか、途中で合流した久遠に笑われたのは言うまでもなく、その後に一誠の拳が久遠にめり込んだのはいつものことであった。

 そんな朝のやり取りを終えてアーシアと一誠は席に付く。

一誠は早速眠りに就こうと机の上で蹲り、アーシアには級友達が早速話しかけにきた。

 

「ねぇねぇ、アーシア知ってる?」

「何がですか?」

 

いきなりテンションが高めの級友に驚きつつも、彼女は可愛らしく聞き返す。

すると級友は興が乗ったのか、更に意気揚々にアーシアに話しかける。

 

「何と……今日、このクラスに転入生がやってくるんだって!」

「へぇ~、そうなんですか~!」

 

それを聞いてアーシアも少しばかり興奮する。

新しい生徒が来ると聞いて彼女なりにドキドキしたからだ。

前は迎えられる側であり、今回のように迎え入れる側になったのは初めての経験である。故にアーシアは緊張すると同時に期待と不安を胸の内で膨らませる。

どんな人が来るのだろう、仲良く出来たら良いな、などと言った期待。そして恐い人だったらどうしようといった不安である。

かつて聖女として祭り上げられていた少女には有り得ない程に人間染みていて、実に年相応の反応と言えるだろう。

そして周りの級友は更にヒートアップしていく。

 

「どんな人が来るのか知ってる?」

「いや、聞いてないわ。でも、やっぱり男の子がいいなぁ、格好良いの」

「そうよね~、ウチには碌な男子がいないから」

 

自分達の希望を口々にする級友。

期待に胸を膨らませるその様子は実に年頃の少女らしく、それでいて遠慮がない。

特に後半の部分を言った生徒が目を向けた先には机で眠る一誠、そして少し離れた所で周りの女子達が退いていることも気にせずに猥談を繰り広げる元浜と松田の通称『変態ツインズ』。

その発言に賛同するかのうように周りの女生徒達も頷くが、アーシアだけはそうではない。

 

「そ、そんなことありません! イッセーさんは凄く素敵な人です!」

 

周りの意見を否定すべく、興奮に顔を赤く染めながら力の限り反論をするアーシア。

そんなアーシアの反応を見て、級友達はイタズラをする子供の様な顔をしてアーシアの言葉を返す。

 

「そう? 確かに兵藤くんってあの馬鹿二人に比べれば害はないけど、それでも全然目立たないじゃない。それに機嫌悪いのか、たまに物言いがぶっきらぼうになることがあるし」

「確かにイッセーさんは少し不器用な人ですけど、それでもとっても優しくて一生懸命な人なんです! それに家族には凄く優しく笑いかけてくれますし」

 

言われた言葉に一生懸命に返すアーシア。

勿論周りの級友達も本当に一誠のことを馬鹿になどしていない。

言っていること自体は本音だが、それだけのことであって邪険には思っていない。

なのに何故こうもアーシアを煽るようなことを言ったのかと言えば、言われて一生懸命に反応するアーシアが可愛いものだから見て弄くり回したい、そんな感情からである。詰まるところ、彼女達の中で既にアーシアは弄られキャラのポジションが決まっているというわけだ。

そのことをアーシアは勿論理解はしているのだが、それでも一誠のことを引き合いに出されると分かってはいても我慢出来ないのだ。

そして弄くられる度に真っ赤になって恥じらうアーシアを見て、周りの女生徒は皆和みながらも賑やかに会話に花を咲かせていくのであった。

そんな女子達と違い、先程指された男子である元浜と松田は妙にテンション高めに会話に熱を入れていく。

その内容は女子達と同じ転入生についてだが、それは女子達以上に欲望にまみれている。

曰く、凄いスタイル抜群の美女が転入してこないかな、といった感じのことから、その美女の転入生に思春期丸出しな欲望をぶつけたいなど。

女子が殆どのクラス内でそのような話をすれば当然退かれることは必須。それは誰が見たって分かることなのに、それでも恋人が欲しいなどと戯れ言を口に出来るこの二人はある意味大物なのかも知れない。

そんな話を一誠は眠気で薄れつつある意識で聞くが、全くと言って興味など湧かなかった。

今の彼はそれどころではなかったから。その心はただ、ある男と戦いたいということで一杯になっているのであった。

 そんな一誠を差し置いて時間は進み、担任教師が教室内に入ると生徒達に緊張が走る。

その胸中にあるのは勿論、その新しく来るであろう転入生についてだ。

それが担任にも伝わってくるのか、苦笑を浮かべる担任。

そんな担任にアーシアは苦笑してしまうが、自分も同じようなことが気になっている身としては何も言えない。

そして担任は皆の待ち望んでいるであろう言葉を口にした。

 

「この様子だともう皆知ってるだろうけど、このクラスに転入生が来る」

 

それを聞くと共に盛り上がりを見せる生徒達。

分かってはいることだが、直に教師から聞かされれば確実になるからであり、若者達は皆確定したことを喜ぶ。

その賑やかとも騒がしいとも言うべき騒々しさに一誠は更に身体を丸めた。

いくら短気の一誠だろうと、力の使い所というのは分かっている。故にいくらこの五月蠅さに青筋を立てようとも、何とか堪えて飲み込むことにした。

自分達がそんな危険な獣を前にしているとは思いもしない生徒達はさらにはしゃぎ、その様子に担任が静まるよう注意を促す。

そして少し収まりを見せたところで、やっと担任が廊下にいるであろう転入生に声をかけた。

 

「それじゃ入って来てくれ」

『はい』

 

担任の声に返事を返すと共に開く扉。

そしてその扉から入って来たのは……女生徒であった。

短い青髪に緑色のメッシュの入った少々独特的な髪色の頭をし、制服越しにでも分かるメリハリのある女性らしい身体。

その表情はクールな印象を与え、可愛いと言うよりも美しいや格好良いという印象を与えていた。

その少女の姿に皆息を飲む。

凜々しい美しさに皆見入ってしまったからだ。

だが、それとは別の感情を浮かび上がらせている者がいた。

それは……アーシアであった。

アーシアが浮かべている感情、それは驚きである。

何故なら、彼女はその少女の事を知っているから。

それは向こうから見ても察せられたのか、その転入生は周りに聞こえるように少し大きく、それでいて良く通る声で自己紹介を始めた。

 

「ゼノヴィア・クァルタと言う。あまりこういったことに慣れていないため、上手く紹介出来ないことを許して欲しい。こんな私だが、どうかよろしく頼む」

 

その表情に違わないクールな物言い。

それを聞いた途端、再びクラス中が湧いた。

女子が、それもスタイル抜群の美少女が来たことでテンションの上限が超えた元浜と松田は勿論、同性でありながら格好良いと女子達も騒ぐ。

それを担任は仕方ないなぁと言った様子を見せながら静まるよう言うのだが、そう簡単には静まる気配を見せない。

その喧噪の中、アーシアは驚きを隠せず、一誠の苛立ちは深まるばかり。

それでも耐えた一誠は称賛に値するだろう。その身から沸き上がる苛立ちを滲ませつつもぶつけなかったのだから。

もしぶつけたのなら、この教室は一撃で吹き飛んでいることだろう。

そんな危険な状態に晒されているとは露程も知らない生徒達は何とか落ち着き始める。

それが彼女、ゼノヴィアには歓迎されているように見えたのだろう。ゼノヴィアは嬉しそうに微笑みながら担任に促され、自分の席に付いた。

アーシアが驚いたのは無理もない。

何故なら、その少女は本来ならば学生などやっている者ではない。

彼女こそ、アーシアが少し前に出会った教会の戦士ゼノヴィア・クァルタなのだから。

 

 

 

 突如クラスに転入してきたゼノヴィア。

そのことに驚きを隠せないアーシアであったが、それでも同時に喜ばしくもなった。

彼女とは少しばかり『仲違い』をしてしまっているが、それでもこれからは友人として仲良く出来ると思えるから。

そんな期待を胸に秘めるアーシア。そんなアーシアにゼノヴィアは休み時間に入ると同時に話しかけて来た。

 

「その……今少し良いだろうか?」

「は、はい!」

 

ゼノヴィアに話しかけられて声が上がるアーシア。

その様子に少し困った様子を見せるゼノヴィアだが、取りあえずはアーシアから許可を得たと判断したゼノヴィアはアーシアに席を立って貰い、教室から一緒に出て行くことに。

そして人気のない場所まで来ると、二人は相対する。

真正面から見られ、少しばかり緊張するアーシア。そんなアーシアに対しゼノヴィアは………。

 

「あの時はその………すまなかった」

 

頭を下げて謝ってきた。

そのことに驚き、アーシアは慌ててしまう。

 

「あの、その、えっと!………あ、謝られるようなことなんてないですよ、私」

 

覚えもないのに謝られ、どうして良いか困惑するアーシア。

そんなアーシアにゼノヴィアは真剣な表情で顔を上げつつ、何故謝るのかをより正確に話し始めた。

それは一誠の部屋に泊まった時に言った自分の発言の事。アーシアを不敬な魔女と罵り蔑んだあの発言である。

あの時はそれが当たり前だと思っていた。

神の信徒として、それが当然だと。

一誠に言い負かされた時は悔しくて仕方なかったが、それはその分自分が信じていたからだ。

 

「別にそんな謝るようなことじゃないですよ。その、主を信じる人ならそう思うのも無理もない話ですし」

「いや、そんなことはない。主を信じていようが、それで人を傷付けて良い訳がなかったんだ。あの時の私は人として当たり前のことですら、分かってはいなかった。無知で愚かだった。そんなことにすら気付かなかったんだから」

 

だが、それは違う。

ゼノヴィアは知ってしまったから。

今まで自分が信じていたものが『嘘』だったのだと。

そんな嘘を信じ続け、そのせいでアーシアを傷付けたとゼノヴィアは凄く後悔した。

知ってはならないことを知り、それ故に教会を追放された。

その際にゼノヴィアに向けられた視線。その冷ややかで冷酷な蔑みと侮辱の籠もった視線を受けて、彼女は思い知ったのだ。

如何に自分が酷い事をしてきたのかということを。

だからこそ、ゼノヴィアは謝りたかったのだ。アーシアという、同じように追放された者に。

その遅すぎる謝罪、そしてゼノヴィアの真剣な顔を見て、アーシアも真剣に受け止める。

だが、その表情は穏やかな笑みに包まれていた。

 

「そこまで仰るのでしたら、その謝罪と懺悔を聞き入れます。それだけ思い悩んで下さったことに寧ろ私の方が申し訳無い気持ちで一杯です。ゼノヴィアさんはただ、協会の人間として精一杯頑張っていたんですから。だから……これでお相子にしましょう。お友達になるのに、そんな負い目なんて持感じていてもいいことなんてありませんから。だから、これからはお友達として仲良くして下さると嬉しいです」

「アーシア………」

 

朗らかにそう言うアーシア。

その言葉にゼノヴィアは救われたように感じた。

自分はあんなに酷い事を言ったというのに、彼女はそれを受け止め、その上で禍根を流して仲良くしようと言ってきた。

その器の広さを改めて感じさせられたゼノヴィアは改めてアーシアに感謝する。

そして如何に自分が愚かだったのかを思い出すが、それに捕らわれぬように気を付けた。

そんなゼノヴィアを見てアーシアは微笑むと、改めてゼノヴィアに手を差し出す。

 

「ですから……これからもよろしくお願いします、ゼノヴィアさん!」

 

差し出された手を見て、ゼノヴィアは救われたような気分になる。

そして同時に、これから仲良く付き合って行くであろう友人の求めに応じて彼女も又笑顔でその手を取った。

 

「あぁ、よろしく頼む、アーシア」

「はい!」

 

互いに握手し合い、笑い合う少女達。

この二人の間には、もう蟠りはなくなっていた。

 

 

 

 そして時間が過ぎ、放課後に。

いつもは一誠と一緒に帰っているアーシアだが、この日は仕事が入ったことにより一誠は久遠と共に先に帰った。

だからと言うわけではないが、アーシアはゼノヴィアと一緒に帰ることにする。

本当ならば『部活動』に出ているはずゼノヴィアだが、この街に不慣れということもあって街の案内を買って出たアーシアの厚意を受けることにした。

その事情を携帯に四苦八苦しながら『部長』に伝えた所、さっそく友人ができたのだから寧ろそうするべきだと言われた。

彼の魔王の妹は身内に慈愛深く、青春を推奨する性格だからだろう。その事をゼノヴィアに説明する様子はきっと姉か母親のような顔をしていたに違いない。

そんな慈愛に満ちた部長からの許可も得たことで、アーシアとゼノヴィアは一緒に下校し始めた。

そして帰りながら街の案内をするアーシア。

その様子は心の底から楽しんでいるようで、そんな笑顔を向けられるゼノヴィアもまた、教えて貰えることに感謝すると共に楽しんでいた。

ゼノヴィアは前では任務もあって気にも留めなかったが、今は見るもの全てが珍しく輝いて見える。

その興味深そうな様子はアーシアにも伝わり、案内して良かったと彼女もまた喜んでいた。

その案内の殆どは一誠や久遠と一緒に廻った所ばかりなのはご愛敬である。

そして日もすっかりと沈み始め、夕暮れが辺りを照らし始める。

そんな黄昏時の中、アーシアとゼノヴィアは公園のベンチに座り身体を休めていた。

元から体力があるゼノヴィアは兎も角、あまり体力の無いアーシアはハシャぎすぎて疲れたらしい。

人気が無くなった公園で二人、案内した所についての会話で盛り上がりを見せる。

そのことに、楽しいと二人とも感じていた。

それは一誠達と一緒にいるのとはまた違った、同世代の同性の友人との触れ合い故である。やはりそういったところは男と女では違うものだろう。

だが、そんな楽しさの中に、ゼノヴィアはある気がかりがあった。

別に不満などない。

初めての学園生活で暖かく迎えて貰え、そしてアーシアに心から許して貰いこのように親しくさせて貰っている。こんなに暖かく迎えてもらえて不満など出るはずがない。

では何なのか? 

それは、彼女の今の状態にある。

ゼノヴィアという少女はもう敬虔な信徒ではない。

いや、今でも主への心は変わってはいないが、その身体はそれとは真逆。その肉体は主の敵である悪魔へと変貌していた。

コカビエルとの戦いの際に聞かされたとある重要なこと。それを聞かされた彼女は己の存在意義が崩壊しかけた。

それまで信じていたことが全て覆り、何もかもが信じられなくなった。

だからこそ、何も出来なくなってしまう。

信じたくなどなかった。ただ堕天使が言った戯れ言だと思いたかった。

だからこそ、彼女は教会にその疑惑を突き付けたが、結果はアーシアが遭ったことと同じような扱い。

迫害され蔑まれながら教会を追放された。

それが彼女に伝える……その戯れ言が真実だということを。

それまで信じてきたもの全てに裏切られたゼノヴィアは、もうどうして良いのか分からなかった。そのまま自殺しても可笑しくない精神状態であったが、そんな状態でも自然と身体は動き、半ば無意識にこの駒王町へと戻ってきた。

当時は何故戻ってきたのか分からなかったが、今のゼノヴィアになら少しはわかる。この町は、彼女が初めて年相応に友人と過ごした所だから。任務とはいえこの地にイリナと来て、失敗しては騒いで……今まで教会で過ごしてきたのとはまったく違う時間を過ごした場所だから。

それが今にしてみれば楽しかったのだろう。その残滓を少しでも感じたいと街中を歩いていた所を『部長』に見つかり、そして声をかけられた。

信徒としては嫌うべき敵である悪魔だが、もう何も信じられない彼女は部長に対して特に何かを感じるということはなかった。ただ、空虚な気持ちが胸を支配していた。

それを察してか、部長はゼノヴィアを学園の部室へと連れて行く。

そしてそこでゼノヴィアの話を聞き、彼女に一つの道を示した。

それが部長の眷属への転生。そしてこの学園で普通の学生として青春を謳歌しないかという提案。

何も信じられないゼノヴィアにその提案は甘美に聞こえた。

もう信じられないものに縛られる理由は無く、聖剣を持っているが故に今まで味方だった教会には命を狙われることはわかりきっている。そんな状態に後ろ盾を得られるのは実に喜ばしいことだ。悪魔となれば、教会も易々とは手出し出来ない。だがそれ以上に心惹かれたのは、普通の生活、年相応の青春を送れるということであった。それは彼女がこの町に来て初めて知った、暖かな願いだから。

それを聞き、彼女はその提案を承諾。今はこの地を総べる悪魔『リアス・グレモリー』の眷属となったわけだ。

そのことは通常の人間に言うべき事ではない。

だが、アーシアに限ってはそうではない。

彼女はゼノヴィアと同じように他の勢力に身を寄せているということもあるし、彼女自身がすでに半分ほどこちら側に浸かっている。

既に気配で察しているのかもしれないが、それでも……ゼノヴィアはアーシアに隠し事をしたくなかった。

だからこそ、この楽しい時間を打ち切り彼女はアーシアに真面目な顔を向けた。

 

「その……アーシアに聞いて貰いたいことがあるんだ」

 

その言葉にアーシアは静かに頷く。

どうやらアーシアも何かしら察しているようだ。この心優しい少女は人の心の機微を感じる感受性が強い。故に何かゼノヴィアが言いたそうにしていると分かっていたのだ。

アーシアの顔を見て決意を固めたゼノヴィアは、そのまま告白する。

 

「私はもう……敬虔な信徒ではないんだ……。その……この身は悪魔へと転生した……」

「…………そうですか」

 

必死に告げるゼノヴィアにアーシアは静かに返事を返す。

その静かな空気にゼノヴィアに恐怖が走り始める。人間止めて異形になったなどと、嫌われたのではないかと。

だが、それでも言わずにはいられなかった。自分の事情を知っているアーシアには聞いて欲しかったから。

そのままゼノヴィアはアーシアに何故学園に転入してきたのか、何故悪魔になったのかを小さな声で途切れ途切れになりつつも語り始める。

その中には勿論、触れてはならない禁忌も入っていた。

これは言うべきでは無い。だが、それでも……ゼノヴィアは聞きたかった。自分とは違うアーシアの意見を。

既に追放された身なので、今更それを知ったところで何かあるというわけではない。だからこそである

 

「アーシア、君は知っていたか……主がもういないことを」

 

自分は新しく出来た友人に酷い事をしているとゼノヴィアは思う。

アーシアも追放されたとはいえ敬虔な信徒だ。そんな信徒に向かって神の不在を言うなど、自分がされたように全てが信じられなくなってしまうかもしれない。

それでも、彼女は知りたかった。アーシアが出す答えを。

それに対しアーシアは多少は驚きを見せるも、特に取り乱した様子もなくゼノヴィアを見つめ返す。

 

「そうですか……確かにそれは驚きました。でも……聞いてもそこまで驚かない自分がいて不思議な感じがします」

「っ!? き、君は今、この世界が秘匿している禁忌を知ったのだぞ! 敬虔な信徒ならば、誰もが我を失う程に衝撃的な事実を。なのに何故、そんなに取り乱さずに居られるんだ! 今まで信じてきたものがすべて嘘だったのに! 何故だ!」

 

アーシアの答えにゼノヴィアは逆の意味で驚いた。

前回会った時もそうだったが、アーシアは追放されてもまだ敬虔な信徒であった。

だというのに、この取り乱さない様子は信徒として可笑しい。

そんな様子を見せるアーシアはゼノヴィアを見つめながら少し笑う。

 

「自分でも驚いてはいるんですが、そこまでショックではないんですよね。たぶん、これもイッセーさんの御蔭かも知れません」

「赤龍帝の御蔭……」

 

そこで思い出すのは、コカビエル相手に全く退かず、寧ろ押し切ろうとするほどの戦闘力を見せつける一誠の姿。それがゼノヴィアの脳裏に過ぎった。

確かにあの戦闘能力は凄まじいが、それがどうしてアーシアに関わるのだろうかと。

そんなことを考えているのがバレてしまっているのだろう。アーシアは苦笑を浮かべつつも懐かしそうに話し始める。

 

「イッセーさんによく言われたんです。いるかもわからない主にすべてを感謝するなと。でも、イッセーさんはこう言うんです。別に信じるなとは言わないし、祈ることを止めろとも言わないと。その言葉を聞きながら生活してきて、私、分かったんです。全てを主に感謝するのは、それをしてくれた人達に失礼で、信じることは自由ですけど、それを人に押しつけるのは傲慢だって。だからでしょうか……主がいないと聞いても、そこまで驚きが湧いてこないんです。私にとって主とは信じたいものであって、その実体というのは必要ないんじゃないかと。イッセーさんが私にこうも言ってくれたんですよ。信じるのは個人の自由で、それは心の支えになるものだから止める必要は無いって。だから、私は思うんです。主はその信じる人の心におわすものだって」

 

それを聞いてゼノヴィアは何となく納得した。

主は人々の心の中にいる。

確かにその通りだろう。実際に姿形を見たこともない存在を信じるというのは、そう言うことなのかも知れない。その存在の有無は関係無く、信じるからこそあるのだと。

それが人々の心を支える柱となる。

昔なら真っ先に否定していたが、今のゼノヴィアになら理解出来た。

だからこそ、同時にアーシアに感動と感心を抱く。

 

「アーシアは強いな。私は何も信じられなくて自暴自棄になったというのに」

「そんなことないですよ。私もきっと、イッセーさんに合わなかったら同じように自暴自棄になっていたのかもしれませんから」

 

褒められて恥ずかしそうにするアーシア。

そんなアーシアを素直に尊敬するとともに、ゼノヴィアの胸はスッキリとしていた。求めていた以上の答えを聞けて、彼女も又救われたのだ。

 

「すまないな。こんなことを聞かせてしまって」

「いいえ、いいんですよ。それでゼノヴィアさんの心が軽くなるのなら、私はいくらでも聞きます」

 

夕暮れの中、笑い合う二人。

ゼノヴィアは笑顔を向けるアーシアを見ながら改めて思った。

信仰心など関係無く、彼女は『聖女』なのだと。

人の心を救えるのは、同じく優しい心をもった存在なのだ。

だからこそ思う。アーシアとならとても仲良くなれる、唯一無二の親友になれると。

 そして二人は明日また会うことを約束しながら帰路へと付いた。

こうして二人は友人となり、翌日も仲良く過ごしている。

 これが一誠がヴァーリとの再戦に闘志を燃え滾らせている間に起こった、アーシアの一幕である。

尚、一誠が参加を決めた後日、アーシアも会談参加するようアザゼルから連絡が来た。

理由は一誠と交友がある事と神器、そして彼女の今の立場故に来てもらいたいからであると。

 

それは偏に、その会談で何かあることを臭わせていた。

 

 

 

 

 


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