ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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最近感想で酷いことを書かれてばかりな気が……。
あまり難しく考えずに、さらっと楽しんでくれると嬉しいです。


35話 彼は歓喜する

 再び出会った一誠とヴァーリ。

燻っていた炎は再会と共に燃え上がり、両者とも即座に仕掛けようとする。

だが、ここでは如何に強者である二人であろうとも、騒ぎを起こすことなど許されない。

此処は裏で有名な特殊な店。

この店に訪れようものなら、例え魔王だろうが堕天使の大幹部であろうが身分などというものは存在しなくなる。

皆等しく客である。

そして営業を妨害する輩は例え客であろうとも許されないのだ。如何にそれが極悪の悪魔であろうが冷徹無比の堕天使であろうが、騒いだ瞬間にはこの店の店長からの怒号と長年中華鍋を振るってきた豪腕から繰り出される豪速の中華鍋を投げつけられる。

その威力は人間だとは思えないくらい凄まじく、常連であるサーゼクスは中級悪魔の結界を貫いて直撃したところを見たことがある。

裏の世界で如何に強かろうが、この店ではただの客。

そして騒ぐ者には容赦ない中華鍋の洗礼が襲い掛かるのである。

故に、入って早々殺し合おうとした二人は見事に店主の怒号を浴びせられ、中華鍋を投げつけられたのであった。

そして現在、燃え上がった炎はまるで上から押し潰された彼の如く消火され、一誠とヴァーリは互いに睨み合いつつも鍋が激突したところを押さえていた。

その顔は戦意を燻らせつつも痛みを堪えている。

そんな二人をそれまで観客のように見ていたアザゼルは笑った。

 

「お前等、ヤル気が漲ってるのは若い証拠だが、時と場所を考えろ。いくら悪名高き赤龍帝と白龍皇だろうとここではただの客だ。あの店主を前に暴れるのはオレだって恐くて無理なんだからよ」

 

からかうかのように言いながらビールを呷るアザゼル。

そんなアザゼルに賛同するかのように久遠も頷き返し、痛みもあってか取りあえず拳を収める二人。

そんな二人に投げつけた中華鍋を回収しつつ店主が声をかけた。

 

「おい、この悪ガキ共! いくらテメェ等が調子をこいていようが、ここはラーメン屋だ。騒ぐんなら余所れやれ、余所でな。そんな殺気だってねぇでとっとと注文しろ、このボケナス」

 

そう言われ不満が在り在りと出る一誠とヴァーリだが、もう一度あの中華鍋を喰らうのは御免だと思い注文をすることにした。

そして店主は二人の注文を聞いた後に久遠とアザゼルの注文も聞いて厨房へと戻っていく。

久遠は一誠に奢ると言った手前文句は言わなかったが、それを良いことに一誠は叉焼麺の叉焼特盛りを注文した。

その所為で久遠も又、妙に渋い顔になる。

そんな空気の中、久遠はぶすっとした一誠の代わりに改めて此度の件を聞きに掛かった。

 

「それで、どうしてお忙しい総督様がこんな寂れた所に?」

 

まずは軽く挨拶がてらに話しかける久遠。

そんな久遠にアザゼルは上機嫌に笑いながら答える。

 

「おいおい、何でも何もここはラーメン屋だろ? ラーメン喰って酒飲みに来たに決まってるじゃねぇか」

 

もっともな意見にそれはそうだと思うだろう。

ラーメン屋に来て何をするかなど決まっているのだから。

その答えを聞いて久遠は苦笑を浮かべるしかない。そしてどこから聞いていたのか、厨房から怒声が飛んできた。

 

「おい、久遠! 何処が寂れた店だってッ!! テメェ、あまり失礼なこと言うんだったら叉焼一枚抜くぞ!」

「んなぁっ!? おやっさん、そいつは勘弁してくれよ~!」

 

色々な裏の情報が飛び交う場所故なのか、店主の地獄耳も相当なものらしい。

店主の怒声に久遠は情けない顔で頼み込む。その様子を見てアザゼルは笑いながら酒を呷るが、一誠とヴァーリは一切表情が揺るがない。

双方ともひたすらに睨み合い続ける。

そんな二人を気にせずに久遠とアザゼルは軽い世間話を始める。

先程のアレはワザとであり、場の空気を少しでも緩和しようとして久遠が仕掛けたことである。これで多少はより軽く話しかけることが出来る、所謂交渉術の一つだ。

そして今回の一番の件をいつ聞こうか機会を窺っているところであったが、その様子に一誠はついに痺れを切らした。

笑い合う二人に向かって目を向けると、燻った殺気を吐き出しながら声をかける。

 

「そんな世間話なんざぁどうでもいいだろ。久遠、一々周りくどいんだよ、テメェはよぉ。おい、アザゼル! 俺が聞きてぇのは一つだけだ。何でこいつがこんな所に……テメェの所にいるのかを聞きてぇんだよ!」

 

一誠は二人からヴァーリに向かって視線を向けつつ問いかける。

その視線を受けたヴァーリは殺気の籠もった視線を受け止めつつ負けじと睨み返す。

そんな二人の様子を見てアザゼルは軽く溜息を吐き、仕方ないと呆れながら答えた。

 

「そうピリピリすんなよ、赤腕。何で白龍皇が俺の所にいるかって? そんなもんは問題じゃねぇんだろ。お前さんが気にしてるのは、居るのになんで教えなかったかってことだろうよ。そんなもん、教えたらどうなるかなんて決まってんだろ。だからだよ」

 

アザゼルとしては、今の世で二人に戦いを起こさせたくはない。

今は三大勢力が衰退し拮抗している状態であり、余計な問題は起こしたくないのである。

そう答えるアザゼルだが、それを両者が認めるわけがない。

ヴァーリもまた、アザゼルが内々に一誠と通じていたことを前回の一件で知ったばかりなのだから。

二人に睨まれアザゼルは苦笑しながら更に酒を呷る。

そして空になったグラスを置くと、二人を静めるためにも説明を軽く入れ始めた。

 

「ヴァーリはちょっと訳ありでな。世間に知られると色々と面倒になるんで今まで隠してたんだよ。それでウチの仕事の手伝いを内々でして貰ってたわけだ。だからお前さんとは面を合わせなかったんだよ」

 

その訳を知っているのは、アザゼルと本人のヴァーリ、そして『神の子を見張る者』の一部の大幹部のみ。

それ故に、それは秘匿されてきた。

それを聞かされて一誠は不機嫌になりつつも納得せざる得ない。

彼にだって訳ありな事などいくらでもある。それを暴こうとするほど一誠は追求心は強くない。事情など人それぞれである。

その言葉にヴァーリも不満ながらに納得する。

彼も又、如何にアザゼルが今の世をどう思っているのかを知っているから。

だが、それでも燻っていた炎は消えることは無い。

再び会えばどうなるか……それは互いに分かっているからこそ、二人は更に睨み合う。

赤龍帝と白龍皇、その因果な関係もそうだが、それ以前に一誠とヴァーリ、この二人はそれ抜きにしても敵だと認識し合っている。

だからこそ、戦いは避けられない。

本当は今すぐにでも始めたいというのが本音だが、店主の手前と言うこともあって押さえている二人。

そんな二人を前に、殺気だった雰囲気などまったく気にした様子も無くどんぶりを配る店主。

 

「おい、ガキ共! 殺気立ってねぇでとっとと喰え! 今度何か五月蠅くしたらそのどんぶりを顔面に叩き付けるからなっ!」

 

脅迫めいた怒声を浴びせつつも厨房に戻る店主。

その背中を見ながら久遠は一誠やアザゼル達に笑いかける。

 

「とりあえず………喰うか」

 

それを聞いて、取りあえず四人はどんぶりに箸を付け始めた。

 

 

 

 

 それから二十分弱の時間が経ち、四人のどんぶりは空になっていた。

人間であろうが堕天使であろうが悪魔であろうが、食事をすれば多少は気が緩むのは一緒であり、それまで二人の間に流れていた物騒な雰囲気も多少は緩み始めていた。

それを見計らってか、少し酔いを見せるアザゼルは上機嫌に一誠達に話しかけてきた。

 

「実はな……今日ここに来たのは、何もラーメンを食いに来たってわけだけじゃねぇんだよ」

 

それを聞いて久遠は顔は顔を多少真面目な物に変える。

アザゼルのぱっと見浮かれた様子の中に、何かしらの気配を独自の感性で感じたのだ。

それに対し、一誠は良く分からないのかジロリとアザゼルに目を向けるのみ。ヴァーリは知っているだけに目を瞑る。

そしてアザゼルは楽しげに口を開いた。

 

「お前さん達に一応教えておこうと思ってな。まぁ、会えなかったら久遠に連絡でも入れようと思ってたところだ。実は少し前に悪魔側と天界側から会談の申し込みが来てなぁ。まぁ、会談って言う名の罵倒会みたいなもんだが。ウチの馬鹿が暴走したんで、その監督責任を問われるってわけだ。そこで実際に戦った奴等には皆から呼び出しが掛かるんだよ。赤腕、多分お前さんはサーゼクス辺りに頼まれるんじゃねぇか」

 

三大勢力のトップが集まって行われる会談。

それに招集をされるだろうとアザゼルは一誠に言ってきた。

今の世で集まる各勢力のトップ。それが如何に此度の会談が重要なのかが窺える。

そんな重大な会談に呼ばれると言うことは、普通に考えれば名誉な事なのだろう。

だが、この男がそんなものなど感じるわけがない。

聞いた直後から面倒だという意思が表情にありありと出始める一誠。

そんな一誠を見て久遠は苦笑を漏らす。

 

「確かにお得意様だから多少は融通するけど、流石にそんなもんに出ろって言われてもなぁ」

 

久遠の言葉に一誠も肯定の意思を表す。

一誠からしたら、自分の生活にちょっかいをかけてきた奴に喧嘩を売っただけに過ぎず、一々そんな会談に顔を出す義理なんてない。正直面倒だとしか思えない。

そんな一誠と久遠を見て、アザゼルは素直な奴等だと笑う。

きっとサーゼクスなら莫大な報酬を出してでも一誠を出席させようとするだろう。直にコカビエルと戦い、そして下したのは一誠なのだから。

一誠からすればそんなことは絶対にないというだろうが、体面的にはそうなる。

この男は自分が気に入らなければどんなに金を払われても仕事を受けない気質だ。そこに戦いの気配がなければ尚更。故にこの会談には絶対に出ない。

だが、そうされると面倒になるのは悪魔側だけではない。堕天使側にも不都合が出て来る。

だからこそ、アザゼルは一誠にも会談に出席して貰いたい。

アザゼルはそのために、ある餌を一誠にぶら下げることにした。

金ではない、どんなに凄い報酬でも届かない程に凄まじい、一誠が望むものを。

それを考えると薄ら寒い気配が身体を走り、笑みに少しばかり恐れが混じり始める。

 

「そんな顔すんなよ、出たくねぇって面が在り在りと出てるぜ、赤腕。そんなお前さんには素敵な情報を教えてやるよ」

 

それを聞いた一誠は面倒臭そうな顔のままアザゼルに視線を向ける。

 

「何だよ、それ?」

 

不機嫌なのと疲れが入り交じった声を出す一誠にアザゼルは満足そうに笑った。

 

「この会談、三勢力の収まり所は和平だ。どの勢力もそれで手打ちにしたがってるからな。それで終わりになるんだが、オレはそこで更に一つ、あることを話し合いに出したいと思う」

 

自慢そうに話すアザゼルに久遠が面白そうだと反応する。

この二人はどことなく似ている部分があり、面白そうなことには食い付く性分である。

久遠の反応を見て更に笑みを深めるアザゼルは一誠からヴァーリの方へと視線を向け、そして軽く言葉を口にした。

 

「もう少し待ってろ。それでお前の願いも叶うからよ」

 

それを聞いたヴァーリは一瞬だけきょとんとしたが、直ぐに笑みを深めた。

まるで鋭利な刃のように危険な笑みに、一誠は敏感に感じ取り無意識に構えてしまう。

だからこそ、気になってくる。アザゼルがこれから先に言おうとしたことを。

一誠の顔を見て、アザゼルは更にニヤリと笑う。まるでこれから言うことが楽しみで仕方ないかのように。

 

「オレが会談で出す名案、それは…………」

 

そこで一旦言葉を切り、溜めを作るとアザゼルは楽しさを前面に出しながら発表した。

 

「お前さんとヴァーリの決闘だよ」

 

 それを聞いた途端、一誠は自分でも気付かない内に笑みを浮かべていた。

その笑みはまるで獣のような獰猛な笑みであった。

それにより、再び店内は殺気が渦巻く物騒な雰囲気が充満していった。

 

 

 

 


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