ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

34 / 73
33話 彼はリベンジに望む

 駒王学園での騒動を終えて、一誠と久遠は共に帰る。

その道中、久遠は携帯を片手に引っ切りなしに電話をかけて話をし、此度の依頼の達成や報酬の確認、被害の状況などを話し合っていく。

その間、ずっと一誠は不機嫌であった。

学園が無事だったのは素直に喜ばしい。それは泣き崩れながらも感謝を言うソーナを見ればそう思えるものだ。それに学校が無事なら追試が受けられるし、街が無事なら自分の住処も無くならないし、孤児院の皆も無事なのだから、普通に考えれば文句なしに喜ばしい。

だが、それでもこの男は不機嫌であった。

ソーナと会った時は急に泣き崩れたソーナを見て驚いた事もあって表には出さなかったが、今は久遠しか居ないので隠す必要も無い。

だからこそ、その苛立ちは凄まじい。

久遠は通話を終えると、苦笑しながら一誠に話しかけた。

 

「さっきから何不機嫌な面してんだよ? 依頼は無事に達成、報酬の5000万もガッポリと手には入って懐も温けぇ。確かにお前は不完全燃焼って感じだけど、あれだけボコれば勝敗なんて決まってるもんだろ。どっちが勝ってるかなんて誰が見たって分かる。お前だって充分楽しんだんだし、これ以上ねぇくらい万々歳だろ」

 

久遠にそう言われ、一誠は更に顔を顰める。

確かに久遠が言っていることも間違ってはいない。

依頼は成功したし、報酬の御蔭で懐に多少の余裕くらいは出来るかもしれない。

コカビエルとの喧嘩を止められたのは気に喰わないが、それでも充分暴れられてそれなりに楽しめた。

だが………その止めた奴が問題なのだ。

一誠は若干殺気を漏れ出しながらも久遠を睨みながら問う。

 

「お前……アイツの事、知ってたのか?」

「アイツって?」

「あの白い奴の事だよ! 白龍皇の光翼の使い手、ヴァーリの野郎の事だっての!」

 

一誠が不機嫌な理由。

それは今までずっと会って、そして『全力』で殺り合いたかった相手がお得意先の一つの所に居たということ。

つまり直に交渉を行う事もある久遠ならば、知っていても可笑しくは無いのだ。

一誠の事情を知る久遠がもし、知っていて黙っていたのならば、一誠は黙ってはいない。

溢れ出る怒気を感じて久遠は冷や汗を掻きつつ、少し慌てた様子でその返答を返す。

 

「いや、俺だって知らなかったよ。確かにアザゼルの旦那やシェハムザの旦那から直に仕事を受けるときもあるけどよぉ、そういった話は聞いた事ねぇよ。そもそも、知ってたんならお前さんにイイ値でその情報を売ってるっての。俺だってそれなりに驚いてるんだからな、さっきの白いのにはよぉ!」

「そうか……」

 

それを聞いて一誠は苛立ちつつも納得する。

久遠はいつも嘘や冗談を言うが、真面目に苛立っている一誠を相手にしているときは一切そう言った事を言わない。

それを分かっているからこそ、一誠は久遠が言っていることが本当の事だと理解した。

だが、それで納得したからと言って苛立ちが収まるわけではない。

未だに苛立ちを滾らせている一誠を見て、久遠は仕方ないなぁと呆れ返っていた。

 

「そんなに苛立つなよ。確かに俺も驚いたけどよ。お前さんと対を成す神器を持ってる奴が堕天使の陣営にいたっていうんだから。だけどよ、それは同時に疑問が出て来る」

「何がだよ?」

 

久遠の話に一誠は乗ることにした。今は少しでもこの苛立ちをどうにかしたいと、気を紛らわせたかったからだ。

話に乗って来た一誠を見て、久遠はニヤリと笑いながらその疑問について話し始めた。

 

「そんな強い奴がいるんだったら、そもそもなんで俺等に依頼をするんだって話になんだろ。自分の所にそんな強い奴がいるんだったら、俺等に依頼するよりもそいつを使った方が断然安上がりだ。こいつは予想だが、多分な……そいつが表立って使えないか、もしくは使いたくないかだ」

 

それを聞いた一誠は首を傾げる。

彼のような脳筋からすれば、その事情というのは全く理解出来ないのであった。精々は見つかりたくないということくらいしか理解出来ないだろう。

そんな一誠に対し、久遠は呆れつつも話を続ける。

 

「どちらにしても、その答えは公になりたくはないってところだな。神器って線でそうだとは思えねぇ。現にお前は使いまくって有名なわけだしなぁ。ってことは、それ以外ってことになるって辺りなんだろうよ。イッセー、お前何か知ってるか?」

 

そう言われても、一誠は特にヴァーリについて知っているわけではない。

過去に一度だけある場所で会い、そして戦った。

別に戦う依頼があったわけでも、いがみ合うような理由があったわけでもない。

ただ、互いに目が合った途端に分かった。理解してしまった。本能がそうだと告げた。

 

目の前にいる奴は唯一無二の自分の敵だと。

 

外敵でも宿敵でもない。

自分とは相容れに『絶対的な敵』。

憎んでいるわけでもないし、怨みがあるわけもない。

ただ、奴は自分が倒すべき存在だと認識したのだ。

その後戦ったのは言うまでも無く、結果は出ずじまいであった。

だからこそ、一誠がヴァーリについて知っている事など、名前くらいの物だった。

 

「いや、俺もあまり知らねぇよ。知ってるのはあん時に名乗った名前くらいなもんさ。ヴァーリって名をなぁ」

「まぁ、お前さんに聞いたってそんなもんしか出てこねぇのは分かってたさ。ヴァーリねぇ……」

 

一誠が当てにならないことは知っていたが、念の為聞いて久遠は考える。

一誠も同じように考え込み、当時の事……出会った時の事を思い出そうとするが、特に何も思い出せなかった。

そのまま二人で歩いて少しすると、久遠は顔を上げて手を軽く打つ。

 

「よし、取りあえず……これ以上考えるのは止めるか。どっちにしても情報がねぇんじゃどうしようもねぇ。今度アザゼルの旦那にでも会った時に問い質せばいいさ」

 

久遠の提案に一誠も頷き返す。

 

「それもそうだな。考えたって出ねぇもんは出ねぇ。なら、そんなこと考えたって無駄にしかならねぇしよ。それに……奴は言ってたんだ。近いウチに必ず会うってよ。なら、そん時に思いっきりやれれば、それでいい」

 

結局はそこに行き着く。

ヴァーリが何者だろうが何処で何をしてようが関係無い。

再び会ったとき、その時に『あの時』の続きを行えれば、それで一誠は良いと結論付けた。

それを聞いた久遠は少し呆れ返ったが、同時に一誠らしいと思った。相手がなんであろうと、自身がやりたいことは決まっているのだから。

その人に左右されないぶれない意思は見ていて危ういが清々しい。それが面白いと。

だからこそ、こいつと組むのは止められないと久遠は思うのだ。

二人ともそこに行き着いた所でこの話題は終わりとする。

後は普通に帰るだけだが、珍しく久遠は一誠にあることを提案した。

 

「なぁ、この後時間あるか? あるんだったら、ラーメンでも食いに行こうぜ。勿論、俺の奢りでな」

「マジかよ!?」

 

自ら奢るという久遠の提案に目を輝かせる一誠。

人間、たまにはそういった事をしたくなるときもあるというもの。

その提案に勿論貧乏の中の貧乏である一誠は食らい付く………ところだが、今回に限っては渋った。

 

「っ………いや、今回は……いい……」

 

それを聞いた久遠は一誠の顔を、それこそコカビエルという古の堕天使と真っ向から戦うと言った時以上に信じられないような物を見る目で一誠を見た。

 

「おい、どうしたんだよッ!? まさか白龍皇と会ってどこかの螺子抜けちまったのか!」

 

仰々しく驚く久遠に一誠はそうじゃないと強く答える。

彼だって本当はその提案に凄く乗りたい。

貧乏人にとって無料の食事なんて、まさに御馳走なのだから。

それを渋る理由、それは…………。

それを久遠に教えると、久遠はキョトンとした後に思いっきり笑い出した。

 

「あっはっはっはっはっは!! おいおい、マジかよ。この業界でもかなり畏れられてる『赤腕』がまさか、そんなことで……ひゃっひゃひゃひゃ! あぁ、腹痛ぇ~!」

「うっせぇ、笑うんじゃねぇよ! こっちは結構ガチでまじぃんだからよ!」

 

笑う久遠に怒りながら一誠は叫ぶと、そのまましばらくはそのネタでかわかわれながら帰路に付いた。

勿論、奢りは無しでだ。

 

 

 

「イッセーさん、大丈夫ですか!!」

「あぁ、何とかな」

 

部屋に戻るとアーシアが泣きそうな顔で一誠に駆けつけてきた。

その様子に一誠は苦笑を浮かべつつアーシアの頭に手を乗せて軽くポンポンと叩く。

それをされたアーシアは泣きそうだった顔から一転し、顔を真っ赤にしつつも嬉しそうに笑った。

そんなアーシアを少し羨ましそうな目で見つつ、身体を引き摺ってイリナが一誠へと話しかける。

 

「大丈夫だったの、イッセーくんっ!? あのコカビエル相手に戦ったりなんかして。全身真っ赤だよ」

「え……ッ!? キャァアアアァアアアアア!! イッセーさん!!」

 

イリナの言葉を聞いてそれまで嬉しそうに笑っていたアーシアは一誠の姿を見て驚愕する。

まぁ、誰だってボロボロで真っ赤に染まった制服姿をしているのなら、驚かない者なんていない。

そんな二人に一誠は面倒臭そうな感じで少しうんざりしながら答えた。

 

「あぁ、こんなになっちまってたか。こりゃぁもう着れねぇなぁ……もったいねぇ。まぁ、仕方ねぇか。取りあえずがもう止まってるし乾いてるから問題ねぇよ。だから二人してそんな面すんな」

 

一誠の様子から見て大丈夫だと判断したイリナは胸を撫で降ろし、アーシアはそれでも心配なのか一誠の身体をぺたぺたと探るように触る。

そんな二人に呆れつつも、取りあえず一誠はイリナに事の顛末を話す。

 

「お前の相方のゼノヴィアだったか。アイツは取りあえず無事だよ、死んでねぇ。それでバルパーとやらの爺さんは死んだ。何か喚いてたけど、気にするような事でもねぇ。コカビエルが邪魔だつって消滅させれたよ。フリードってぇ野郎は知らねぇ。見てねぇからな。んで当のコカビエルだけどよ……喧嘩の途中で邪魔された所為でケリが付かなかった。まぁ、魔方陣はぶっ壊されたようだし、その聖剣とやらもへし折られたらしいし、問題はねぇだろ」

 

実に大雑把な説明にイリナは追求したくなったが、一誠の不機嫌な顔を見て止めた。どちらにしろ、一誠の説明がどうあれ、現在も街が健在している以上、コカビエル達の企みは失敗に終わったということなのだから。

一誠はその説明を終えると、その場で急に着替え始めた。

 

「キャッ、イッセーさん!?」

「イッセーくん、一体何を!?」

 

驚く乙女二人。

二人とも一誠の猫背気味ながら鍛え抜かれた鋭くも引き締まった身体に注目してしまい、顔を真っ赤にして両手で顔を隠す。まったく隠れていないが。

そんな二人に対し、一誠は気にすること無く平然と答えた。

 

「今日は疲れたからもう寝るんだよ。こんなボロ切れ着てても仕方ねぇしな。何よりも明日は大切なもんがあるから早く寝る」

 

そう言ってそのままラフな服装に着替えると、床にゴロっと寝っ転がって寝息を上げ始めた。

その様子に真っ赤になっていた二人だったが、顔を見合わせて同時に笑った。

そして二人も、もう寝ることにして部屋の電気を消した。

 

 

 

 翌日になり、イリナはまだ戻りきらない体力を回復すべく一誠の部屋で留守番をすることに。

そして一誠とアーシアは制服に着替えて意気込んだ様子で登校し始めた。

 

「イッセーさん、頑張りましょうね!」

「あぁ!」

 

可愛らしく意気込むアーシアに一誠もそれなりにやる気を見せて頷く。

この日、この二人には前から準備していた敵と戦う。

 

そう、追試と言う名の大敵と………。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。