ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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就職すると本当に書ける余裕が無くなりますね、精神的に。


32話 彼は約束する

 突如として現れた二天龍のもう一角、バニシングドラゴンの姿を見てリアス達は息を呑んだ。

神々しいまでの純白の鎧、そして蒼き燐光を輝かせる翼。

とても一誠と同じ神滅具とは思えないくらい、その姿は美しい。

その美しさに目を奪われつつも、リアス達はこれから起こるであろうことを想像し恐怖した。

彼等の世界では凄く有名な言い伝えがある。

 

『二天龍が相まみえる時、それは大災厄を引き起こす』

 

赤龍帝と白龍皇、この二つは生前から争っていた。

何故争い合っていたのかは誰も知らない。だが、その熾烈な争いは確かに凄まじいものであった。何せ当時の三大勢力を壊滅間近まで追い詰めたのだから。

そして神器にされてもその争いは続いていく。

ドラゴンの強大な力を持つ者は得てして強者と惹き合う。

それ故なのか、赤龍帝と白龍皇は互いに惹き合い、そして神器保有者達は運命に決定付けられたかのように争うのだ。

だが、常に同じ時代に現れると言うわけではない。

どちらかしか顕現しない時代もあった。だが、両者が同じ時代に顕現したときは必ずと言って良い程に戦い合ってきたのだ。

その戦いは途轍もなく激しく、必ずと言って良い程に莫大な被害を出して来た。

だからこそ、天災のような被害を出すことから古来からそう言われるようになったというわけだ。

その最厄がこうして出会ってしまった。

その邂逅に立ち会ってしまった。

だからこそ、リアス達は恐怖に顔を凍り付かせてしまう。

これからどのような事が起こるのか……考えたくも無かった。

あの『兵藤 一誠』の攻撃を片手で止めるような存在だ。

そんな強者が一誠と戦い合えば、コカビエルが仕掛けた崩壊の魔方陣など無くてもこの町が壊滅することは目に見えるのだから。

そんなリアス達を置いて、赤と白は対峙する。

両者の間にあるのは、押さえる掌と押し通そうとする拳。

その両者によってゴリゴリと骨が削れるかのような音がこの場にいる者達に響いていく。

 

そして押し通そうとする赤………兵藤 一誠は目の前にいる白に顔を向けていた。

鎧で見えないが、その表情は壮絶な笑みに彩られていた。

 

「よぉ、久しぶりだなぁ………」

 

拳にかける力を抜かずに一誠は白に話しかける。

それは久しぶりに知人にあった時のような声。

だが、それにしては尋常ではないほどの殺気に満ちあふれていた。

コカビエル並みの実力者で無ければ間違いなく恐怖し戦意を喪失しそうな程の濃密な殺気。

それに瘴てられ、リアス達は呼吸が止まりそうになった。

まさに心臓を鷲掴みにされているかのように彼女達には感じられただろう。それ程までに、今の一誠は『恐い』のだ。

その殺気を直にぶつけられても、白はたじろぐ事はない。

そして今度は白から一誠に向かって声をかけてきた。

 

「あぁ、そうだな。十年くらいか……」

 

その声は纏っている鎧と同様に美しく、聞く者を惚れ惚れとさせる。

だが、そんな美しい声でも確かに彼女達は感じた。

その美しさの裏に隠されている、夥しい程の闘志と殺気を。

そのような苛烈な殺気を放ちつつ、一誠は白に向かって気軽に話しかける。

 

「そこを退けよ。オレはそこの堕天使と喧嘩してたんだからよぉ、横から手出してくるんじゃねぇ……えぇ、ヴァーリッ!!」

 

話し方は軽い感じなのに、まるで煮え滾った溶岩のような怒気が籠もった声で一誠は白……ヴァーリに言う。

その全てを焼き尽くさんといわんばかりの憤怒に対し、ヴァーリは冷静な声で返す。

 

「そう言うわけにはいかない。この男は『神の子を見張る者』の大幹部だ。アザゼルに叛旗を翻し暴走したその罪は、組織によって裁く。貴様に殺させるわけにはいかない。アザゼルからその男を連れてくるよう言われているのでな」

 

一誠の炎のような憤怒に対し、まるで吹雪を連想させる程に冷徹な声でヴァーリは答える。

両者のやり取りは聞いてるだけでも恐怖を感じさせ身体が震える。一触即発の雰囲気に二人の周りの時が止まったかのような感じた。

その緊張状態がまるで風船が膨らんでいくかのようにその場の殺気を膨らませていく。

 

「何だよ、テメェ、あの総督の知り合いかよ」

「奴には色々と世話になっている身だ。だからこそ、頼まれた事を引き受けている」

 

その言葉を聞いて一誠は苛立ちに、更に殺気を放つ。

アザゼルがヴァーリのことを隠していたことがむかついたからだ。

大方出会えば二人で喧嘩し合い、途轍もない被害を出すとでも思っていたのだろう。戦争反対派のアザゼルにとってそれは都合がよろしくない。

昔からの言い伝えというのもあるが、もしかしたらアザゼルはヴァーリから聞いているのかもしれない。

一誠とヴァーリの因縁を。

一誠はそんなことを少しだけ考え、そして直ぐに止めた。

だからどうした。イイ感じに喧嘩をしていたというのに、目の前の奴は横からちょっかいをかけてきた。そんな無粋な事をする奴を許せる程、一誠は大人ではない。

それを伝えるかのように更に拳に力を込めていく。

 

「それはつまり……ここで俺と『あの時』の続きをしようってことか」

 

その言葉を聞いた途端、ヴァーリの手から負けじと更に力を込められた。

そして身に纏う殺気が静かなものから一誠のような燃えたぎるものへと変貌した。

 

「それは此方も望むところだ!………と言いたいところだが、そう言うわけにはいかん。アザゼルに迷惑をかけるのは本意ではない。だから……今はしない」

 

互いの殺気、そして対極するドラゴンのオーラがぶつかり合い、空間が悲鳴を上げる。意識などしているわけがない。ただ、溢れ出た物が結果として周りの物を破壊し始めていた。

まさに少しでも何か刺激されれば爆発するような、そんな状態にリアス達は目を見開いて息を呑んだ。

しかし、それは永くは続かなかった。

急に二人はその殺気とオーラを収め始めたからだ。

急に静まる二人にリアス達は驚いてしまう。彼女達はこれから起こるであろう激戦に巻き込まれないよう、全ての力を防御へと回そうとしていた。

だが、それが起こらなかったのだから驚きもするだろう。

互いに拳と手を下げた二人を見れば、尚更に。

二天龍相まみえる時、必ず戦いが起こる。

それが覆されたのを、彼女達は初めて見た。

そして等の本人達は戦意はそのままに、互いに拳を収めた。

 

「ちっ………ノリ気でもねぇ奴と喧嘩出来るかよ。それにアザゼルにはそれなりにこっちも仕事を回して貰ってる。そいつの頼みを潰すのは、仕事上よくねぇ………はぁ、仕方ねぇか」

「別に戦いたくないわけではない。本当ならば、今すぐにでも『あの時』の続きがしたいが、こちらも仕事がある。それに……そのような状態の貴様と戦っても面白くなどない。ヤるのなら………全力の貴様とだ」

「いいねぇ……」

 

新たに戦い合うと決めた二人から完全に殺気が無くなっていく。

それにより、周りの空間は嵐が過ぎ去ったような静けさを取り戻していた。

 

『残念だな、白いの』

 

突如として一誠の左腕の籠手から声が発せられ、その声に驚くリアス。

一誠の声とは全く違う声。それは彼女達にとって初めて聞く異常な物だった。

まさか神器が意思を持ち話すなど、彼女達は知らなかったからだ。

一誠の籠手……中に封印されているドライグの声に対し、ヴァーリの身に纏う鎧から返事が返ってきた。

 

『まったくだ、赤いの。互いに最凶の使い手に巡り会え、そして待ちに待ったというのに』

『何、どうせこいつ等のことだ。こうして再び会い、あの戦意を見せたのだから。再び戦い会う時は近いだろうよ』

『それもそうだな。なら……次に会う時を楽しみにしているぞ、ドライグ』

『あぁ、こっちもだ、アルビオン。今度こそ……』

 

『『俺が勝つ』』

 

ドライグとアルビオンが互いに闘志を燃え上がらせる。

それを聞いて使い手たる一誠とヴァーリは笑みを深めた。

互いの相棒が殺る気を漲らせているのだから、此方も喜ばしいものである。

だからこそ、一誠とヴァーリは互いに背を向けた。

ここから後に言葉はない。互いに再び出会い、そして戦うことを約束した。

なら、近いうちに必ず来るだろう。互いに全力で殺し合う喧嘩をする時が。

一誠はそのまま背を向けて歩きだそうとしたが、その前にコカビエルに向かって少し大きな声をかけた。

 

「なぁ、コカビエル! あんた、かなり強かったよ。こうして途中で止められたのは残念だけどよ……楽しかったぜッ!!」

 

それは一誠なりの別れの言葉。

せめてそれだけでも言いたかったと、その思いを込めた言葉であった。

それを聞いたコカビエルは満身創痍の状態だが、満足そうに笑う。彼も本気になったこの戦いに満足したから。

それだけを言い終えると、今度こそ一誠は歩き始める。

ゆっくりと、しかし確かな足取りで歩く一誠。そのまま赤龍帝の鎧を解除し、真っ赤に染まった制服姿を晒すと気にした様子もなく歩いて行く。

そして反対側では、ヴァーリがコカビエルへと歩いて行く。

 

「貴様は勝手が過ぎた。その罪は組織によって裁かれるべきだ。よって力尽くでも連れて帰る。それにこの魔方陣を解除しなければならないのでな……少しばかり寝ていろ」

 

ヴァーリはコカビエルに向かってそう言うと、その瞬間に姿が消えた。

そして直後にコカビエルの前に出現し、コカビエルの腹を思いっきり殴る。

それは消えたのではない。単純に速すぎて見えなかっただけであった。

その加速に拳の威力を乗せた打撃を叩き込まれたコカビエルは、砲弾の様に吹っ飛び校舎に激突して校舎を崩壊させた。

崩れていく校舎に目を見開くリアス達。それと同時にこの学園に張っていた崩壊の魔方陣が破壊された。

 

「少しやり過ぎたな。どうも奴と再び会ったものだから、闘気が押さえられないようだ」

『しっかりしろ、ヴァーリ。これで殺してしまっては元も子もないのだからな』

 

そんな会話を相棒としつつ、ヴァーリはコカビエルを回収に向かい、その途中で死にかけている白髪の青年も拾う。

そして気絶しているコカビエルを回収すると、凄い速さで上空へと飛び去ってしまった。

 

 

 

 こうしてこの場での激戦は終わり、町は救われた。

その光景は見ていたリアス達は、目の前で起こった出来事を信じられないかのように目を瞬かせることしか出来なくなっていた。

 その後、血まみれの一誠を見てソーナが泣き崩れながら感謝の言葉を一誠に伝え、その言葉に苦笑する一誠がいた。

 


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