ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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30話 彼は喧嘩を売りに行く

 もうすっかりと日が暮れた闇夜が辺りを支配している中、一誠と久遠は歩いていた。

ゆっくりと歩む二人の顔は、実に黒い笑みで満たされている。

まるでこれから起こるであろうことを楽しみにしているかのように。

子供の様に純粋で、悪魔以上に黒々しい感情。その感情を二人はゆっくりと自分の中で味わうかのように楽しんでいた。

そんな二人が歩いて行く先は……駒王学園。

既に一誠の目的と久遠の持ってきた依頼は口にしなくても共通していた。

お互いにそれが分かっているのは、この二人がそれだけ一緒に仕事をしてきたという証と言っても良い。

だが、それでも久遠は仕事として一誠に伝えなければ成らない。

その内容を……。

 

「イッセー、今回の仕事の依頼人は魔王『サーゼクス』様。内容は、駒王学園で戦っている姫さん達が死なないように援護、及び魔王様達の援軍が来るまでの時間稼ぎだ。報酬は5000万、前回と同じ分け前で考えればかなりどころじゃすまねぇくらい良い額だ」

 

実に嬉しそうに話す久遠に、一誠も笑う。

これからやる『簡単な事』だけで、そこまでの高額が手に入るというのだから、喜ばない訳が無い。彼の魔王の過保護な所は少々アレだが、それを差し引いても良い仕事と言える。

それに輪をかけたかのように、久遠は一誠に笑いかけた。

その笑みはイタズラをする子供のようでいて、悪い大人の悪意が混じり合っている笑みだ。

 

「と、これが表立って魔王様が出した依頼。個人的には、『倒しても良い』ってよ。良かったじゃねぇか、前に比べれば格段に単純で」

「あぁ、まったくだ。生け捕りだの半殺しだの、面倒が無くて済むってのはかなりいい」

 

これからするであろう事が如何に困難なのか、誰もが聞けば嫌でも理解出来る。

いや、まず出来ないと誰もが断言するだろう。

たかが人間が、異形の中でも伝説に近い程に上の存在と戦い合って生き残ることなど出来ないと。

だが、一誠はそんな当たり前の事など笑い飛ばす。知ったことではないし、知ろうとも思わない。

ただ、単純に彼は思う。

中途半端ではないという事は、単純で実にわかりやすいと。

一誠にとって、一番シンプルな物ほど分かりやすく、そういったことを一誠は好む。

聖書に載るような程に凄い堕天使相手に戦い、そしてぶちのめす。

これ程単純で明快な答えはそうは出ないだろう。だが、この男にとってはそれが当たり前なのだ。

故により一誠の笑みは深まり凄みを増す。

これから喧嘩を売りに行く気でいた。他の勢力から何かしら文句が来るかも知れないが、そんなこと知ったことではない。

それを気にせずに暴れられるというのは、中々に有り難い。それで金が貰えるというのだから、尚更だ。

彼自身、そこまで言われてる者と戦えるということに胸を躍らせていた。

だが、その感情は格闘家や競技選手のような清々しいものではない。

骨肉がぶつかり砕け、血肉が弾け合うという殺し合いを楽しみにしている。

戦うことが好きで、相手が死ぬまで戦い合うのが一番スカっとする。

溌剌でありながらおどろおどろしい、そんな黒い感情。

その感情に胸を躍らせながら、一誠は久遠と共に歩く。

久遠の方も仕事の話を持って来た直後から気付いていた。

一誠の部屋に運び込まれて寝かされていたイリナを見て大体のことを察したからこそ、あの時久遠は笑った。

彼女がボロボロになる原因など、一つしかないのだから。

そして今にも溢れそうな一誠の闘気を感じれば、自ずと答えは出て来る。

それがイリナの敵討ちならまだ人情があるものだが、そうでないということも久遠は知っている。

この男はそんな事では動かないと。

ならば、この男が此処まで滾っている理由など実に単純だ。

気に喰わない事をされたか、これからされるかも知れないということ。そのどちらかだろう。

だからこそ、やろうとしている奴を叩き潰しに行こうとしてる。

単純にして明快、この男の行動理由はシンプルなのだ。

だからこそ、一緒にやっていて『楽しい』と感じる。

腹黒い久遠ではあるが、彼も又、スカッとするのは好きな方だったりするといわけだ。見ていて楽しいし、周りが驚きに間抜け面を晒している所を見るのも面白い。

そんな二人だからこそ、どんな危険な仕事であろうとも楽しんで仕事を受ける。

傍から見れば普通に高校生が歩いているようにしか見えないだろう。

だが、近づいてみればきっと誰もが気付くはずだ。

その年齢の人間がして良いわけがない程に、荒んだ黒い表情をしていることに。

片方はこれから殺し合うであろう相手への闘志を燃やし、もう片方はこれから起こるであろう騒動に驚く周りの反応を楽しみにして。

そして二人は歩いて行く。

 

敵がいるであろう駒王学園へと……。

 

 

 

 

 

 駒王学園は現在、まさに最前線と化していた。

学園内の敷地では、堕天使の大幹部『コカビエル』が上空を陣取り、地上では協力者『バルパー・ガリレイ』がイリナから奪い取った擬態の聖剣を三本を一つに纏めた聖剣に統合させ、よりオリジナルへと近づけた聖剣『エクスカリバー』を完成させた。それを使い、リアス達を窮地へと追い込む最凶のはぐれ悪魔払い『フリード』。

リアス達はそれ以外にも、地獄の門番の異名を取る魔獣ケロベロスを相手に苦戦を強いられていく。

それだけでも厄介だというのに、早くコカビエルを倒さねば設置された特殊な魔方陣が起動し、町全体を崩壊させるという。

時間制限の付いた窮地に、彼女達は焦らされていく。

そんなリアス達のためにも少しでも被害を出さないよう、ソーナ達は学園の外で結界を張っていた。

彼女達生徒会が全員張った強固な結界。

だが、それもコカビエルの前では紙も同然の物に過ぎない。

どんなに彼女達が優秀な悪魔であっても、古の対戦を生き残った強者の前ではただの若者に過ぎないのだから。

それでも彼女達は額に汗を垂らしながら必死に結界を維持する。

中から伝わってくる衝撃から、如何に熾烈な戦いが繰り広げられているかが想像出来る

きっとリアス達は決死の覚悟で頑張っているのだろう。だからこそ、少しでも彼女達のためにも頑張らねばと、ソーナ達も頑張っている。

少しすれば魔王達からの援軍が来ると信じて、ひたすらに絶え続ける。

そんなソーナ達の前に、彼等はやってきた。

 

「よぉ、会長」

 

その声はここ最近、ソーナが良く聞いていた声。

愚痴を聞いて貰っていたり、勉強を教えたりと、実に人らしい時間を過ごさせてくれた男の声であった。

その声と姿を見て、ソーナは驚きに目を見開く。

 

「なっ……何で兵藤君がここに………」

 

その声に他の生徒会の者達も気付いた……その男達の姿に。

それに気付いてか、久遠は愛想の良い笑みを浮かべて挨拶し、一誠はそのまま会長に話しかける。

 

「なぁ、会長。この先にデカいカラスがいるって聞いたんだけどよ。本当か?」

 

その言葉が何を表し、そして一誠の表情を見てソーナは即座に察する。

そして一誠を止めに入った。

 

「やめなさい、兵藤君! いくら貴方があのフェニックスを倒したと言っても、この先にいるのはそれ以上に強い、それこそ魔王様と同格の強さを持った化け物です! 勝てる訳がありません! 命を粗末に扱うような真似をしてはいけませんよ!!」

 

ソーナは一誠の事を思ってそう言った。

彼が強い事は知っている。正直、自分よりも強いのかも知れない。

だが、それでも……あんな化け物相手にどうなるとは思えない。彼は強くても、それでも人間なのだから。

あんな化け物相手に、いくら頑張っても人間では限界がある。

悪魔でもあるのに、人間では更に限界は近い。

だからこそ、ソーナは一誠を止める。彼に死んで欲しくないから。

何よりも、彼はこの件に無関係なんぼだから、巻き込んで良いわけが無いのだ。

そう思いソーナは一誠を止める。

だが、一誠は引く気など一切見せず、歩を進める。

そして一誠を補佐するかのように、久遠は会長へと笑顔で話しかけた。

 

「やぁ、会長さん。相変わらず美人だねぇ。会長さんが言いたいことも分かるけど、それでも此処を通してくれないか。一応魔王様からのご依頼でね。援軍が来るまでの時間稼ぎをしろってさ」

 

明るく楽しげにそう語る久遠を見て、ソーナは驚いてしまう。

いくら強い人間だからといっても、そんな事を魔王が依頼するなんて思わなかったのだ。

だが、それでも彼女は此処を通すわけには行かないと表情を強ばらせる。

 

「お話はわかりました。確かに魔王様なら貴方達に依頼するのも理解は出来ます。ですが、それでも………通せません!」

「おいおい、また随分と強情だなぁ。まさか、人間如きが出しゃばるな、とでも言う気かい?」

 

久遠のからかいが混じった言葉にソーナはそうじゃない、と首を強く振る。

 

「いいえ、違います。確かに彼が強いと言うことは認めます。ですが、それ以前に彼はこの駒王学園の生徒。生徒会長として、生徒を危ない目に遭わせるわけにはいきません」

 

確かにその言い分は正しい。

だが、この場ではその言葉も場違いとしか言いようがないだろう。

それでも、ソーナは一誠に行って貰いたくなかった。彼を死なせたくなかったのだ。

この一週間近くの間、一緒に過ごした時間はソーナにとって、年相応の普通の少女として過ごした楽しい時間だった。それを感じさせてくれた一誠とアーシアに彼女は感謝している。だからこそ、一誠には死んで欲しくなかった。

これは彼女なりの感謝の形だった。

それを聞いて、久遠はやれやれと苦笑する。

そして今度は一誠がソーナに話しかけた。

その表情は気まずいような、苦笑しているような、そんな顔をしていた。

 

「会長が心配してくれるのは嬉しい。けどよ……こっちも請け負った仕事だ。受けたからにはやるってのが当然のことだ。だから退いてくれねぇか」

 

そのままソーナに話しかける一誠は此処で一旦言葉を切ると、妙に気恥ずかしいのかそっぽを向いて続きを口にした。

 

「それによ……明日は追試なんだよ。せっかく会長に教えて貰ったんだから、成果ってもんを見せてぇじゃねぇか。それが会長に教えてもらった恩の返し方ってもんだろ」

 

そこから一誠は笑いながらソーナに言った。

 

「前にも言っただろ。『何か困ったときにでも声をかけてくれ。俺で出来る事なら手を貸すよ』ってよ。今がその時ってもんだろ。今あんたは困ってるって面してるんだからよ。あんたはこの事態に困ってる。俺は学校が壊されると追試が受けられねぇ。お互いに問題を解決するには、どうすればいいのかわかるよな」

「そ、それは………」

 

一誠の物言いにソーナの心が揺れる。

一誠が言っていることはもっともな事だ。問題を解決するには、その問題の根源を叩くしかない。

そんな事、今の戦力ではまず出来ないだろう。

だが、彼になら………。

もしかしたら、と期待しそうになってしまう自分がいた。それだけ一誠の自信に満ちあふれた様子は彼女を説得させる。

その揺れ動く心に、一誠は知らないうちに最後のトドメを刺した。

片手を前に出して申し訳なさそうに謝るかのように、一誠はお願いしてきたのだ。

 

「なぁ……頼むよ、会長」

「っ!?」

 

その妙に不器用なお願いに、彼女の心は傾いてしまった。

一見情けないような感じなのに、何故か納得出来てしまう。

ソーナはもう引き留めるの無理だと察すると、結界の一部にだけ人が通れる程度の穴を開けた。

 

「すみません……お願いします……この学園を……私達を助けて下さい」

 

その言葉を聞いて周りの者達は驚愕する。

まさか会長が譲るとは思わなかったのだ。

そしてそれを聞いた一誠はニヤリと笑みを浮かべ、会長に向かって返事を返した。

 

「あいよ」

 

そして穴の中に入っていく一誠と久遠。

二人の背を見送る会長はただ思う。

どうか、生きて帰ってきてくれと………。

 

 

 

 戦況はより傾き、リアス達はもう限界間近だった。

一時は木場 祐斗が苦悩の末に禁手へと至り、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』を創造。それにより、四本を統合したエクスカリバーを破壊し使い手であるフリードを撃破した。

だが、それで戦況が変わる訳ではない。依然として元凶のコカビエルは健在なのだから。

ゼノヴィアが聖剣『デュランダル』を抜刀しその猛威を振るうも、一人で相手をするには数が多かった。

何とか四匹の内リアス達と共に戦い三匹まで倒すも、残り一体は一番強力な個体だったために、倒すのにかなりの力を使ってしまったのだ。

そして木場 祐斗が作り出した聖魔剣を見て、バルパー・ガリレイがとある考察をし、そして察してしまった。

 

この世に神はいない。

 

それは教会の信徒全てが知ってはならない禁忌。

信仰心というものを根本から無意味にする答え。

だが、それが真実だと木場 祐斗の作り出した聖魔剣が伝えるのだ。

何故なら、聖と魔は本来混じり合わないのだから。

その答えを知ったバルパーは直後にコカビエルによって殺された。

理由なんて物は特に無い。ただ、もう必要無いから殺した。

そしてバルパーが語ろうとしていた続きをコカビエルは語り始めた。

過去の戦で古の魔王達も聖書の神も死んだのだと。

それを聞いたゼノヴィアはショックのあまり戦意を失ってしまう。彼女は敬虔な信徒故に、その事実はあまりにも過酷だった。

それは悪魔達であるリアス達でさえ驚愕してしまう。今までの構図がひっくり返る程の事実だったから。

その声は既に一誠達にも聞こえてはいた。

だからどうした、この男は気にも留めずに尚も歩を進める。

そんなことは関係無いと、この男は進み続ける。

そしてリアス達の前に姿を現した。

 

「ど~も~、仲介屋で~す」

 

久遠の軽い声が周りの空間に響くが、この重苦しい空気の前には翳んでしまう。

だが、それでも皆の耳にはすっかりと聞こえてきた。

 

「なっ、何で貴方達が……」

 

リアスから驚きの声があがり、周りの配下達も同じように驚く。

それはゼノヴィアも同じであり、信じられないようなものを見る目で一誠を見てきた。

そしてコカビエルは特に驚くような様子は見せず、訝しげに一誠達に目を向けた。

 

「何でこんな所に人間がいる?」

 

その答えを示すかのように、一誠はコカビエルの顔を睨み付け、そしてニヤリと笑った。

それと共に噴き出すドラゴンのオーラ。

その波動は周りにあった物を全て薙ぎ払い、灰燼に帰す。

その荒れ狂うオーラの中で、一誠は相棒と話をしていた。

 

「ドライグ、せっかくの大物だ。思いっきり行くぜぇッ!!」

『あぁ、そうだな。まさか古の戦争を生き抜いた堕天使と戦うとはなぁ! 久々に俺も滾ってきたぞ、相棒! 力は八割と言った所か!』

「あぁ、そいつで十分だ。『あの野郎』以外に『奥の手』を使う気はねぇんでなぁ!」

 

その会話の終わりと共に、出現させた赤龍帝の籠手から音声が流れた。

 

『Welsh Dragon Balance breaker !!』

 

更に赤きオーラは吹き荒れ、リアス達でさえ吹き飛ばされそうになる。

そのオーラに向かって、それまで死に体だったケロベロスの一体が突如として襲いかかって来た。

リアス達は最後の一体を仕留めきれなかったのだ。

 

「なっ、危なッ!?」

 

いきなり事に声を上げてしまうリアス。

だが、それは杞憂に終わった。

 

「邪魔だ、犬っコロ!!」

 

その叫びと共に、吹き荒れるオーラの嵐に突っ込んだケロベロスは骨が砕け肉が弾ける音と共に吹き飛ばされた。

建物ほどある巨体が遙か上空へと飛び上がる。

その絵空事のようにしか見えないような光景にリアス達は驚きのあまり言葉を失ってしまう。

そして飛んで行ったケロベロスの巨体は見事、コカビエルへと飛んで行く。

 

「ふんッ!」

 

飛んで来たケロベロスをまるで蚊を叩き落とすかのように光の槍を投げつけ消滅させるコカビエル。

その視線の先……ケロベロスが飛んで来た方へと目を向けると、そこには………。

 

全身赤い鎧姿の者がいた。

 

吹き荒れるオーラの中、まるで悠然と佇む大樹のように立ち、その鎧の者はコカビエルへと目を向ける。

その姿を見て、コカビエルは咄嗟に察した。

目の前の者が先程の人間だということを。そして、この男が使っているのが、過去の戦で苦しめられた『赤龍帝』の力が込められた神器を使っていることを。

そして一誠はコカビエルに話しかけた。

 

「何でここにいるって? 気まってんだろ………喧嘩をしにきたんだよ、アンタとなぁ!」

 

その言葉を聞いたコカビエルは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 


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