ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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25話 彼は情けない

 学生の本分である勉学。

それまで学んだ知識を試すためにある、学生ならば誰もが逃れることの出来ないテスト。その中でも特に個人の将来を左右すると言っても良い二大テストの一つ、中間テストで見事大敗を喫した一誠とアーシア。

別にアーシアに対しては単なるケアレスミスであり、充分に情状酌量の余地はあるだろう。

元から外国の人間であり、これまで学校に通ったことが無いのだからいきなりのテストで良い点が取れないのも当然かもしれない。ただでさえ日本語で標記されている物なのだから、つい最近日本語を学び始めたアーシアには酷というもの。

だが、それでも健気に努力をするアーシアは、充分皆を納得させる成績を出していた。今回は偶々答えを書く覧を間違えてしまったため、赤点になってしまっただけなのだ。答えその物は間違っていない。

だが、一誠に関しては間違いなく自業自得である。

この男、テストがあると分かったところで勉強しようなどと思っていない。

頭の悪さを自他共に認める一誠は、どうせ勉強しても無駄だろうと判断し、してこなかったのだ。

それでも赤点を見て気分が憂鬱になるのは、面倒な事への落胆である。

誰しもが思うだろう、そんなに嫌なら真面目に勉強すれば良いのに……と。

だが、それでも絶対に勉強しないのがこの男だ。

別に意地でも何でも無い。ただ……面倒臭がりなだけであった。

そんな如何にも駄目な男と些細なミスで失敗してしまった少女の二人は、この先にあるであろう『追試』という名の救済措置、もしくは悪夢の続きを打ち破るために二人で勉強をすることにした。

 

 

 

 

「イッセーさん、何処に行くんですか?」

 

純真無垢な笑顔を浮かべ、アーシアは隣を歩く一誠に問う。

勉強をすると決めた所で移動を始めたわけだが、一誠はアーシアに行く先を伝えていない。

それは案に伝える必要がない程に距離が近いからなのだが、それでも問われたのなら答えるのが道理。

一誠は何とも言えない顔でアーシアに答えた。

 

「あぁ、何、所謂……真面目な奴が好む所だよ。好きこのんで行きたいような所じゃねぇが、あそこほど勉強しやすい所もねぇからなぁ」

「?」

 

不思議そうに首を傾げるアーシアを連れて尚も歩を進める一誠。

そんな一誠を信じてアーシアは着いていく。一誠の事ならば、彼女は何でも信じられる。それだけ一誠の事を信頼しているから。

そして一誠はアーシアを連れて向かった先にあったのは、とある一室であった。

教育機関ならば、必ずと行って良い程にある部屋。学校の知恵と英知を集めた場所。

かつては勿論、現在でさえ勉強嫌いの一誠が世話になっている所。

その名も………。

 

『図書室』

 

そう、二人は勉強をするべく図書館に来たのだ。

アーシアはその存在を知ってはいたが、こうして来たのは初めてであり、目を輝かせた。

その様子を見て一誠は軽く笑うと、力を抜いてその扉を開ける。

その先に広がっていたのは、これまでの学園とはまた違った雰囲気を漂わせる一室であった。

古い書物特有の香りが部屋を満たし、ノスタルジックな感じがまるで室内の時を停止させているように感じさせる。

そんな異質な空間を見て、アーシアは目を輝かせた。

 

「わぁ……これが図書室なんですね~!」

 

その存在は知ってはいたが、初めて図書室を見たアーシアは感動する。

その生い立ちの所為か、世間知らずな所があるアーシアは些細な事でも感動する所があり、そんなアーシアの様子を見ては一誠は苦笑を浮かべる。

そして二人で部屋に入るなり、適当に席を探し始めた。

これがまだテスト前だったのなら皆テスト勉強のために訪れて満席になっている所だが、既にテストも終わった後ということもあって現在はガラガラである。

それでも多少の生徒は残っており、皆読書なり勉強なりに勤しんでいた。

それに習い、一誠とアーシアもあまり物音を立てないようにして部屋の奥へと向かい、そしてあまり人気のない席を見つけ二人で座った。

そして普段は殆ど使わない教科書を引っ張り出す一誠にアーシアは嬉しそうに笑う。

 

「イッセーさん、頑張りましょうね!」

 

元気良くそう言ってきたのは、彼女なりに一誠と一緒に何か出来るということの喜びからである。

だが、それを受けた一誠は返事を返す代わりに人差し指を口元に翳した。

 

「あ、すみません………」

 

それが世間一般に於いて、静かにしろというジェスチャーであることはアーシアでも理解出来る事であり、その意味を察した彼女は顔を赤くしながら慌てて口を押さえる。

彼女でも知っている常識……。

 

『図書館では静かに』

 

である。

勿論漫画などでの受け売りであるが、心優しい彼女ならそれを真の意味として受け止める。図書室は皆が静かにしているのだから、迷惑をかけてはいけないと。

ちなみに一誠の場合は、単に睨まれるのが面倒だからである。

この男、凄みを効かせた顔をすれば忽ち悪人面だ。そんな男に睨まれたとあっては、その日の内に一誠の事が学園中に知れ渡ってしまう。勿論、悪い方向で。

そうなると、色々と面倒になることが予想出来るために一誠は黙っていた。

暴れるのは暴れるときだけで良い。それ以外は普通に過ごしたいのが一誠である。

 そして勉強を始めるわけだが、その勉強は進む速度が各自で違う。

元から頭の良いアーシアは直ぐに集中し始め、テストの範囲の問題をスラスラと解いていく。日本語もゆっくりと読めばある程度は分かるので、漢字の読み間違えにさえ気を付ければそれほど問題にはならない。

対して一誠はまったく進んでいない。

アーシアと違い、この男は本当に頭が悪い。

学力が悪いといったことや、IQが低いなんて生優しい物ではない。知恵の輪を渡せば力で無理矢理引き千切るといった答えを出すくらいに脳筋なのだ。

そんな残念なオツムの人間が出来る勉強などたかが知れている。

同じ学年の、それも片や異国の不慣れな少女よりも学力の低い男。それがどれだけ情けないか、勉強する姿を見ているだけでも伝わってくる。

それでも、一誠がこれまで追試を無事にやり遂げてきたのはそれなりのコツを掴んでいるからであり、その点で言えばアーシアよりも効率良く勉強出来ていると言えなくも無い。

再び言うが、だったら追試でなく本番でそれをすれば良いのではと思うだろう。

だが、本番よりも同じ範囲を二度目なら、其方の方が圧倒的に有利に問題を解けるのは明白である。

つまりそう言うこと。

既にやっているからこそ、追試の出るであろう問題の傾向もある程度予測が付けられるからこそ。これまで一誠は何とか学園の残れていたのだ。

だが、それが………。

 

「あの。イッセーさん……ここが分からないんです……」

「あぁ? どんな問題だ……よ……」

 

アーシアに勉強を教えられる事とは関係が全くない。

本当に分からないと困った様子で聞いてきたアーシアに対し、一誠は苦笑いを浮かべた。

その問題は一誠がどう見たって分からない問題なのだ。

彼の経験からすれば、そんな難しい問題が追試に出ることはない。だが、そうだとは言い切れないのも確かなのだ。ここでもし、そんな問題は出ないと答えればアーシアは一誠を疑うこともなく信じるだろう。だが、それで追試にその問題が出てしまったら、流石に一誠は責任を取ることが出来ない。

勿論、アーシアはそのことを許してくれるだろうし、気にしなくて良いよ笑顔で答えるだろう。だが、そうされたのならば、一誠の心は罪悪感で押し潰されるかもしれない。

この男、戦闘時以外は案外ヘタレなのである。

そこで返答に困り、どうすれば良いのか困る一誠。

そんな彼に、その救いの声はかけられた。

 

「そこはこうすれば解けるわよ」

 

その声を聞いて声の出所へと振り向く一誠とアーシア。

二人の視線の先には、眼鏡をかけた女子生徒が立っていた。

美しい顔立ちに眼鏡をかけ、スレンダーな身体をした女子生徒。見た限り、一誠達よりも一つ上の三年生のようだ。

その女子を見て、一誠は見覚えがあった事から話しかけた。

 

「あれ? 確かあんた………あんとき森にいた……」

「覚えていてくれたみたいですね。久しぶりです、兵藤 一誠君」

 

一誠は名前を呼ばれて少し警戒するが、それはアーシアの喜びの声でかき消される。

 

「あ、解けました、ありがとうございます!」

「そこは少し癖がある問題ですが、それさえ気を付ければ後は基本と変わりませんよ」

 

問題の解き方を教えて貰い、喜んでお礼を言うアーシア。

そんなアーシアを見て微笑む女子に、問題を教えられなかった手前、一誠は何も言うことが出来ない。

そしてアーシアの感謝を受けながら、その女子は二人に改めて自分の名を名乗った。

 

「私は支取 蒼那。この学園の生徒会長をしている者よ」

 

それを聞いてアーシアは顔を赤くして慌て始める。

いくら世間知らずな彼女でも分かる。生徒会長というのが如何に偉いものなのかが。

 

「はわぁ、生徒会長さんですか! す、すみません、馴れ馴れしくしてしまって……」

「そんなことはないわ。一生懸命頑張って勉強してる生徒の手助けをするのも生徒の長として当然のことです」

「はぁ……格好いいです……」

 

女子のその凜々しい態度に頬を染めて憧れるアーシア。

そんなアーシアとは別に、一誠はその女子の名を聞いてやっと思い出した。

彼女……支取 蒼那……本当の名を、ソーナ・シトリーだということを。

殆ど面識は無いが、久遠が言っていたこの町を管理するもう一人の悪魔で、主にこの学園の管理を行っている。

得意先でも無ければ関わりも無いため、ほぼ忘れていた。

それを見透かされてなのか、ソーナは笑みを浮かべつつ一誠に話しかける。

 

「貴方には助けられましたから、是非ともお礼を言いたく。まだ生徒会が始まる前だったので少し読書でもしようと思って来たのですが、貴方に会えるとは思いませんでした。勉強ですか?」

「そんな殊勝なもんじゃねぇよ。ただの追試対策だ」

 

それを聞いて、ソーナは少し興味深そうに一誠を見る。

彼女の周りにいる者達は皆成績が優秀な物ばかりだ。だからか、赤点を取って追試を受けるという人間は初めて見た。

それが実に興味深い。

そして二人のノートとやっている勉強を見て、ソーナは何か思いついたのか手を前に軽く合わせると一誠に提案してきた。

 

「もしよろしければ……勉強を教えて差し上げましょうか。分からないところがあったら何でも聞いて下さい。これで少しでも恩を返せれば良いのですが……」

 

その提案に一誠はどうするべきか悩んだ。

無料で教えて貰えるならそれに越したことは無い。だが、彼女にそうして貰える義理も無いのだ。そこの所はきっちりしている一誠は、この善意に対し判断を迷う。

だが、一誠がその返答を決める前に、アーシアから声が上がった。

 

「はい、よろしくお願いします、会長さん!」

 

それを聞いて、一誠は仕方なく会長の提案を呑むことにした。

別にアーシアが喜んでいるからではない……とは言い切れないが。

もうこう言い出しては断ることは出来ない。断れば妹が悲しむと分かるから。

それに何より、現状一誠ではアーシアに何も出来ないので、素直に提案を受け入れることにした。

たまにはこういうのも良いかと思いながら。

 

 

 こうして、この日から一誠とアーシアは会長から勉強を教えて貰うこととなった。

 

 

 

 


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