ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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今回はオリジナル技が出ます。


22話 彼は敵のために礼を言う

転送させられた一誠の目の前に広がったのは、冥界の空がよく見える闘技場ような所だった。

周りに観客は居ないが、此方を覗き込んでいる視線が数多く感じられる。

一誠は軽く周りを見渡した後、真正面にいる人物を見て口元をつり上げた。

向こうも一誠を見て、怒りの籠もった視線を向ける。

 

「貴様……良くも俺の顔に泥を塗ってくれたな!」

 

ライザーが憤るのも無理は無い。

彼は今まで順調に事を運んできた。

このまま行けば見事に魔王の身内に一人なれたはずなのだ。

それが後一歩という所で邪魔されたのだから、怒らずにはいられない。

しかも邪魔したのが見下している人間とくれば、その怒りも一塩に激しく燃え上がるもの。

ライザーは今にも一誠を燃やさんと血走った目で睨み付けていた。

殺気に満ちた視線を受けて上機嫌に一誠はライザーに嗤う。

 

「別にアンタに怨みはねぇんだが、これも仕事って奴だ。大人しくボコられてくれりゃあ手加減はしてやるよ」

「何をぉおっ!! 人間如きが舐めた真似をしてくれるぅ!!」

 

一誠に煽られ更に怒りを滾らせるライザー。

既に戦闘状態へと入っている彼は怒りを顕わにし、炎の翼を広げて辺りの大気を焼き始める。

その熱気は近くに居る一誠は勿論、二人の様子を見ているリアス達悪魔にも伝わって来た。

その様子を見て、一誠は更に愉快そうに笑みを浮かべる。

それは目の前にある玩具でより遊べると喜ぶ子供のような気持ち。それでいて、直ぐに壊れてはつまらないと悪意に満ちた表情でもあった。

 

「ドライグ……結構面白そうだと思わねぇか。ここ最近のキメラを追っかけ回すより余程面白そうだよ、この感じはよぉ」

『強者との戦いを求めるのが二天龍の定めとは言え、相棒のそれは正直俺でも退くぞ。普通ならとっくに逃げ出しているところだが……確かに言う通りだ。やはり戦いこそが俺達にはふさわしい!』

 

大いなる力の化身であるドライグでさえ退く凶暴性を顕わにする一誠。

それこそが、ドライグが一誠を一目置く理由でもある。今までの赤龍帝にはない思考、力の運用、そして狂気すら打ち破る凶暴性。一誠はある種において、最強の赤龍帝と言っても良い。だからこそ、ドライグもこの相棒のことを気に入っている。故に戦いとなれば両者ともノリ気になるのだ。

上機嫌に笑う一誠が更に癪に障ったのか、ライザーは炎の翼を更に滾らせ殺気立っていた。

それが更に嬉しかったのか、一誠は上機嫌にドライグに話しかける。

 

「せっかくだ。二分の一解放でいくぜぇ!」

『それでも半分しか出さないのか。それもあの不死のフェニックス相手に』

 

一誠の言葉に多少呆れ返った声で返事を返すドライグ。

一誠が常に力に負荷を与えて押さえていることから半分でいいのか、と聞き返す。

相手は不死のフェニックス。死なない相手に余裕を嚙ましていていいのかと言いたいのだ。

それに対し、一誠は気軽に答えた。

 

「つまり、いくら殴っても壊れねぇサンドバックってことだろ?景気が良くていいじゃねぇか」

『まったく……不死の相手に対してもそのような言葉を吐くか、相棒! もはや流石を通り越して呆れるしかないぞ。だが、それぐらいの方が気概があって良い!』

 

そう答えると共にサーゼクスから試合開始の合図が発せられた。

その直後に動いたのは、ライザーである。

 

「燃え散れ、人間っ!!」

 

殺気と共に両腕から発された煉獄の炎が一誠へと向かって放たれる。

炎は轟音を立てながら一誠へと向かって行き、大気を焦がしながら牙を剝く。

一誠はその速さに反応出来なかったのか、その炎の直撃を受けてしまった。

爆音と共に一誠がいた所が燃え盛り、見ている者達の視界を真っ赤に染め上げる。

その光景に悪魔達は歓喜の声を上げた。

人間如き矮小な存在が悪魔に楯突くからこうなるのだと。

良い気味だと一誠を罵っていく。

それを聞いたリアスはその言葉を口にした悪魔達をキッと睨み付けるが、それでもその言葉が止むことは無い。

どうしようもない憤りに身を焦がしながらリアスは久遠の方に目をやる。

こうもあっさりと殺されてしまったのだから、悲しむなり何なりとしているはずだと。自分と同じように怒っているのだと。

だが、目を向けたリアスが見たものは、リアスの想像を外れたものだった。

 

久遠は………少し呆れ返りつつも笑っていたのだ。

 

あいつは仕方ないなぁ、と言わんばかりに苦笑を浮かべていたのだ。

ごうごうと燃え盛っている炎を見て、どうしてそんな風に笑えるのかリアスには理解出来ない。あれ程仲が良さそうだったのに、涙一つ流さないなんてどういう精神をしているんだと、リアスは久遠の精神を疑う。

だが、何故久遠がそのような笑みを浮かべているのかを、彼女はこの後直ぐに知ることになる。

 

「どうだ、人間、フェニックスの炎はっ! まぁ、もう死んでいるかもしれないから聞こえないだろうけどなぁ!」

 

燃え盛る炎を見てライザーが嘲りの声を向ける。

いくら神器を装備していようと、防御もせずに直撃したのだから無事なわけがない。悪魔でさえ致命傷を受ける程の威力の炎に、人間が受ければ死んでしまうのは当然のこと。

だからこそ、自分に愚かにも挑んできた一誠を嘲り笑うライザー。

だが、その余裕に満ちた表情は直ぐに歪んだ。

何故なら、突如として炎の中から声が聞こえてきたから。

 

「いいねぇいいねぇ、この感じ。前に戦った堕天使の100倍は歯ごたえがありそうだ」

 

その言葉と共に、燃え盛っていた炎は噴き出してきた真っ赤なオーラによってかき消され、その中心にいた一誠はゆっくりと立ち上がる。

その姿を見て、ライザーは驚愕し声を上げた。

 

「な、何ぃっ! 何故生きている! それに貴様、その姿は一体……」

 

ライザーが驚いたのは、勿論生きていたからだが、それ以上に一誠の姿を見て驚いていた。

何故なら………。

 

一誠の両腕が籠手に包まれていたから。

 

通常、神器の形は変わらない。

変わるときというのは、そういった変形機巧があるものか禁じ手に至らない限り形状はそうそう変わらない。それもまだ形が変わる程度ならありそうなものだが、それが別の部分にも展開されたりするということはない。

そのはずだと言うのに、一誠は全く同じ籠手がつい先程まで何も付けていなかった右腕にも装着されていたのだ。

だからこそ、その姿に驚いた。

明らかに可笑しな姿に。

一誠は驚いているライザーの顔を見てニヤリと口元をつり上げる。

 

「別に驚くようなことでもねぇだろ。ただ、少しばかり力を発現させただけだ。これでもまだ半分以下なんだからよぉ。こんなんで驚いてたらこの先驚き過ぎて何も言えなくなっちまうよ」

 

その言葉と共に再び噴き出す赤きオーラ。

しかし、先程のそれとは違いその規模や出力は桁外れに上がっている。

一誠は辺りに燃え残る炎を右手を軽く振ってかき消すと、ライザーに向かってゆっくりと歩いて行く。

その様子は挑戦者のそれではない。

まるで王者の如き堂々としたような歩み。だが、高貴さの欠片など微塵もない。元々姿勢が悪いせいで猫背なのだが、そのためか、その歩みは獲物に向かってゆっくりと歩んでいく獣のそれだ。

ライザーはその歩みに若干ながら後ろに退いた。

それは無意識のうちに行われた行為。それを自覚したライザーは、自らに怒りを抱いた。

 

(今、俺は何故後ろに退いた? あの人間を……恐れたというのかっ!? そんな……巫山戯たことが、あってたまるかぁあああぁああぁあああぁあああ!!)

 

内心の怒りをより一誠に叩き付けるべく、ライザーは一誠に向かって更に吠えた。

 

「あの程度の炎を散らした程度で調子に乗るなよ、人間!! 貴様には更なる炎を見せてやろう!」

 

ライザーは自身の炎を更に燃え上がらせると、その炎を一点に集中して一誠に放つ。

轟々と燃え上がる炎が再び一誠へと襲い掛かっていく。

先の炎以上に燃え上がるそれを受ければ、いくら神器持ちの人間であろうと燃えて消滅するだろう。

だが、一誠は不敵な笑みを浮かべたまま止まる事をしない。

ゆっくりと距離を詰めていく一誠に、当然の如く炎は激突した。

その直後に起こる爆発。

一気に燃焼した炎は一誠は勿論、その周りにあった全てを巻き込んで燃え上がる。

すべてを焼き尽くす地獄の業火。

だが、それでも彼は……一誠は歩みを止めない。

燃え盛る炎の中を悠々と、まるで涼風を浴びているかのように進んでいく。

 

「どうしたどうしたぁ! そんな炎じゃ俺は火傷一つ出来ねぇぞ! もっと来いよ、おいっ!!」

 

獰猛な笑みを浮かべる一誠は焦げ目一つ身体に着けずに尚も進む。

まったくダメージを負っていない一誠のの様子にライザーはぞわりとした恐怖を感じ、それに抗うかのように更に身体を燃え上がらせる。

 

「貴様は一体何なんだぁああぁあぁああぁああぁああぁあああ!!」

 

まさに燃えたぎる炎のような叫びと共に放出される豪炎は、放たれた先にあるもの全て燃やし尽さんとする。

だが、一誠にその猛威が振るわれることはない。

一誠に当たる前に、彼の身体から噴き出す赤きオーラが全てを吹き飛ばしているからだ。それにより、ライザーの炎は全て一誠に当たる手前で吹き飛ばされて散ってしまう。

一誠が炎の中から変わらない姿で、変わらない笑みを浮かべて向かってくることに、ライザーの心は不気味な恐怖に侵食されていく。

 

「がぁあぁあぁああぁあぁああぁああぁああぁあああああああ、きっさまあぁああぁあぁあああぁああああぁあああああああっ!!」

 

目の前にいるのが人間だとは、もう思わなくなっていた。

人間の形をした『ナニカ』が自分に向かって歩いてくる。

それは彼にとって、もっとも怖いと感じた。

人間ではない。人間ならそれまでの攻撃でとっくに灰なって消滅している。

悪魔なら……自分より下位の悪魔なら、ゲームのシステムでとっくに戦闘不能として転送されているはずである。

それ以外の人外だとしても、ここまで平然としていられる者はいないだろう。

なら………これは何なのか?

いくら炎を浴びても、まるで涼風に当たっているかのように表情一つ変えない。

身体に焦げ目一つとしてついていないことから、本当にダメージを負っていないのだろう。

そんな頑丈で不気味な存在を彼は知らない。

そんな、人間でも異形でもない者を彼は理解出来ない。

つまり彼の目の前で此方に向かってくるのは……人の皮を被った化け物だ。

通用しないという現実と信じたくないという思いが激突し、ライザーは半狂乱になりつつも豪炎を放っていく。

一誠にぶつかる度に大爆発を引き起こす闘技場。

それでも尚も一切の損傷をすること無く不敵な笑みを浮かべ続ける一誠は、遂にライザーの目の前に立った。

 

「よう、待たせたなぁ」

「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ!?」

 

ニヤリと獲物を見つめるような一誠にライザーは言葉が出なく、喉がひくつく。

身体が萎縮し動きが鈍くなるが、それで攻撃せねばと拳を固めライザーは殴りかかった。

 

「あぁああぁあぁああぁぁああぁぁあああっぁあああぁああぁあああ!!」

「おせぇよっ!」

 

だが、ライザーの拳が一誠に届く前に、一誠が放った右拳がライザーの顔に突き刺さった。

 

「オラァァアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

そのまま咆吼を上げながら力一杯ライザーを殴り飛ばす一誠。

ライザーは右拳を顔面にめり込まされた後に、闘技場の壁面へと叩き付けられ壁を粉砕しながらめり込んだ。

上がる土煙が晴れると、そこには鼻がひしゃげ鼻血がが止まらず、歯が砕けて口の中を血まみれにしているライザーの姿があった。

一誠はその様子を観察するように見つめている。

まさか不死と称される悪魔がこの程度で終わりだとは思えないだろうと、獲物が立ち上がるのを待っていた。もしこの程度で倒れたのなら、不死の名折れも良いところだ。

そんな残念なことにはしてくれるなよ、と一誠は視線に込めてライザーを見つめていた。

そしてその期待に応えるかのように、ライザーは立ち上がった。

その目は怒りで我を忘れ血走り、血で呼吸が困難になっているというのに荒く呼吸をしていた。

 

「ぎっざばぁあぁああぁああぁぁああぁああああああぁあ!! ごそずごろずごろずごそずごろずごろずごそずごろずごろずごそずごろずごろずごそずごろずごろずぅううううううううううううううううううううううう!!」

 

喉が血でやられ荒れたしゃがれ声が闘技場に木霊する。

そしてライザーの身体が燃え盛り、全てが炎に包まれる。その炎が静まると共に、先程まで見るも無惨になっていたライザーの顔は元も美しい相貌へと戻っていた。

ライザーは己の顔の様子を感じてニヤリと笑うと、したり顔で一誠に向かって叫ぶ。

 

「どうだ、人間! これがフェニックスの力だ。いくら貴様が馬鹿力だろうと、この不死の前には無意味! さっきまでは侮っていたが、最早貴様を人間とは思わん! この化け物めっ!」

 

ライザーの言葉を聞いて、一誠は更に笑みを深める。

 

「いいねぇ、そうこなくっちゃなぁ。この程度で終わりだってんなら、わざわざ来た意味がねぇからよぉ。もっと楽しませてくれよ、焼き鳥くぅん~!」

「きっさっまぁああぁああぁあぁあぁああぁああぁあああ!!」

 

一誠の明らかにへたくそな挑発に激昂するライザー。

彼は怒りのあまり、もう些細な事でも爆発する様になっていた。

今度は一誠が先に動き出す。

地面に向かって左拳を叩き付けると、その反動を利用してライザーに向かって突進する。

その速さに目を見張ったライザーだが、上空へと逃げることで回避。

空を切った一誠の拳は闘技場の壁へと激突し、闘技場の壁を崩壊させた。

その威力に驚きの声を上げる観客にライザーは舌打ちをしつつ、自身の炎を最大限に燃え上がらせる。

そして拳の一点に圧縮し、一誠に向かって拳を振り下ろした。

 

「コレで終わりだ、化け物っ!! 灰すら残さずに燃え散り消滅しろぉおおぉおおおぉおおおおぉおおおぉおおおおおおおおおお!!」

 

咆吼一閃。

ライザーの拳から放たれた炎はそれまで圧縮されていた力を解放し、まさに炎の鳥『フェニックス』の形を取って一誠へと突進していく。

その炎を目にして、一誠は更に目を輝かせながら拳を構えた。

 

「いっくぜぇえええええええええええええええええええええええええ!!」

 

獣のような咆吼を上げながら一誠は両拳を地面へと叩き付けると、その反動を使ってライザーが放った火の鳥へと突進しこれを迎え撃つ。

空中に飛び出した一誠は身体を横では無く縦に回転させ、その遠心力で両拳の威力を高めると共に火の鳥へと殴りかかった。

両者の攻撃が激突した途端、闘技場全てを吹き飛ばす程の大爆発を引き起こし、観客達が見ているであろうモニターをノイズで一時的に使用不能にしてしまう。

その砂嵐の向こう側では、あまりに巨大な力を放ったばかりに疲弊するライザーと、最早跡形もなくなった闘技場が広がるのみであった。

その瓦礫を見てライザーは勝利を確信し叫ぶ。

 

「ざまぁみろ、化け物が! このフェニックスに刃向かうからこうなるのだ!」

 

そのまま己が勝利に笑うライザー。

だが、その笑みは次の瞬間に崩れ去った。

未だ土煙を上げる闘技場跡地の瓦礫が一気に吹き飛んだのだ。

 

「くははははっ!! いやぁ~、中々にいい攻撃だったぜ、さっきの鳥はよぉ!!」

 

全ての瓦礫を吹き飛ばした跡地には、赤いオーラを噴き出しながら高笑いをする一誠がいた。

その顔は子供の様に無邪気でいて、それでいて実に雄々しい笑みを浮かべている。

その様子を見て、ライザーは何もかもが信じられなくなった、

自分の力も。悪魔という種族その物の優位性も。そして何より、目の前の存在に常識が通用するのか、ということが信じられなかった。

自分は何と戦っているのか分からなくなる。

人間の皮を被った化け物?

いや、最早化け物ですらないナニカだ。

フェニックスの最大火力の炎を受けて、多少煤けた程度で愉快そうに笑う目の前それはライザーの知る全ての異形から外れていた。

だからこそ……ライザーは未知の恐怖に心がへし折れた。

それまで心を保たせていたプライドも、つい先程の最大火力の攻撃を受けても血の一つも流していない一誠を見て完璧に砕け散ってしまった。

もう何もかもが失われつつあるライザーは、その瞳に怯えの色を映しながらも、それでもと一誠に向かって突進した。

もう自棄であり、無謀だと分かりきっていてもそうぜずには居られなかったのだ。

もしここで逃げれば、自分はリアスの婚約者としての地位を失うだろう。

だが、それ以上に人間から逃げた臆病者だと全悪魔達から罵られ蔑まれるのは耐えられない。それは本当に自分の全てを本当に否定することだから。

 

「がぁああぁああぁああぁあああぁあああああ! 化け物ぉおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉおおおおおおお!!」

 

捨て身に近い特攻に対し、一誠は上機嫌にそれに応じる。

途轍もない速さで一誠に迫ったライザーは速度を殺さずに燃え盛る右腕で殴りかかる。

一誠はその拳を避けずに左手で受け止めた。

その瞬間、拳と掌がぶつかり合ったとは思えない程の音と衝撃が闘技場跡地に響き渡る。その衝撃からライザーの拳に如何に凄まじい威力が込められていたかが窺えるだろう。

だが、ライザーはまだ止まらない。

止められた右拳に力を込めつつも、空いている左腕を燃え上がらせながら一誠に殴りかかってきたのだ。

 

「死ねぇえぇえぇえぇえええええええええええええええええええええええ!!」

「悪くねぇ拳だ! 殺す気がビシビシと伝わって来やがる!」

 

超至近距離から放たれた神速の燃え盛る左拳を一誠は空いている右腕で受け止めた。

再び凄まじい音と衝撃が響き渡り、両者の身体をい貫いていく。

そのまま鍔迫り合いのように力比べへと発展していく二人。

ライザーは血走った目で一誠を殺さんと睨み付け、一誠は愉快そうにニヤリと笑みを深める。

ぱっと見の表情では明らかにライザーが殺気立っているのだが、その実ライザーの瞳には一誠への恐怖がにじみ出ていた。

それを見抜いたのか一誠は面白そうに、だが少し寂しそうに笑った。

 

「どうやら……ここまでみてぇだな」

「な、何がっ!」

 

一誠の言葉にライザーは食って掛かるように反応する。

 

「テメェの限界が……だよっ!!」

 

一誠はライザーにそう叫ぶなり、受け止めていたライザーの拳に思いっきり力をかけて………。

 

「っ!?!? ぐあぁあっぁうあうあぁぁあああああああががががががががががががががあがががががががっがががが!!!!」

 

握り潰した。

 

凶悪とでも言うべき握力を持って、文字通りライザーの拳を握り潰したのだ。

手の中で潰れる肉と砕ける骨の感触。

それを気にすることもせずに一誠は原型が無くなるまで握り潰し、そして下へと振り落とした。

一誠の手から離されたライザーの手は、もう手の形をしていなかった。

その現実と激痛にライザーは声にならない声を上げてのたうち廻る。

だが、それも少しの間だけ。

少し前に見た通り、ライザーの両手を炎が包み込み、元の損傷のない手へと再生させる。

その事実に一誠は笑い、今度は此方から攻める。

その場から型も何も無い、ただの力任せに振り上げた拳でライザーに殴りかかった。

振るわれた右拳がライザーの頬にめり込み、その反動を利用して反対の左拳がライザーの鳩尾へと突き刺さる。

その威力に身体をくの字に曲げるライザー。口元からは胃液が溢れかえっていた。

既に普通なら死に体。だが、相手は不死のフェニックス。

更に一誠は拳を振るっていき、文字通り『サンドバック』となったライザー。

骨が折れ砕け、鼻が潰れ、皮膚が浅黒く腫れ上がる。

だが、フィニックスの力によりそれらの損傷は直ぐに再生する。

しかし、それまで受けてきた痛みは……痛みを受けてすり減っていく精神は再生しない。

ライザーの戦意はもう殆ど砕け散っていく。

逃げ出したい。でも、この化け物から逃げられる訳が無い。故にどうすることも出来ないと、彼はもう諦めてしまった。

いくら身体が治ろうが、勝てるビジョンが浮かばない。身体が、心が追いついていかない。

一誠は殴っては壊れ、壊れては再生するライザーにある程度満足すると、左拳でライザーを殴り飛ばした。

そして満足そうに笑い、ライザーに告げる。

 

「それなりに楽しかったぜ。だから礼代わりに……『技』を使ってやるよ!」

 

そう叫ぶなり、一誠の身体を覆っていたオーラが更に猛々しく噴き出し、それらが両腕の籠手へと集中していく。

 

『Boost!!』

 

そして籠手が真っ赤な光に包まれ、今にも臨界を突破しそうな程に光り輝き始めた。

一誠は赤く光り輝く両拳を構えると、先程ライザーの最大攻撃とぶつかり合った時と同じように地面に拳を叩き付けて上空に跳び上がる。

そして空中で見えない壁を殴り付けるかのように拳を振るい、縦回転しながらライザーへと突進する。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおお!! 『ドラグゥゥゥッブリッドォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

獣の如き咆吼を上げながら両拳を振るう一誠は、ライザーへと遠心力が乗った最大威力の拳を振るう。

それが激突する瞬間、

 

『explosion!!』

 

両腕に込められ圧縮されていたオーラが解放された。

それらが作用し、途轍もない破壊を生み出す。

両拳はライザーの胸にめり込み、その破壊の力でライザーの肉体を弾けさせた。

腕や足が飛び散り、肉体の各所が四方に飛ぶ。

顔と上半身の半分以外殆どが消失し、ライザーは残った身体が地面へと落下する。

それでもまだ、その威力は留まる事を知らない。ライザーの肉体が弾け飛んでもまだ突き進む一誠の両拳は地面に突き刺さり、その空間を鳴動させる。

そして地面を砕きながら尚もクレーターを広げていき、ついにはその空間その物を破壊しにかかった。

それを感じ、サーゼクスは慌てて結界の強化を施した。

その結界すらも突き破らんとする威力に顔を顰めつつも堪え、やっと収まる。

ゆっくりと拳を地面から引き抜く一誠。その周りは瓦礫一つ無く、元からあった闘技場も全て崩壊し何も無くなっていた。あるのはただ、巨大すぎるクレーターのみ。

一誠は起き上がるとライザーの方に目を向ける。

生きているのか危うい状態のライザーであったが、あれほど破壊されても尚、その肉体は再生していた。

傷一つ無い肉体に戻るライザー。

だが、その目は光を灯していない。

彼は失神していたのだ。

最早戦意も何もない。全てを出しても適わなかった彼の精神は保たなかった。

結果、失神し意識を失った。

その光景にそれまで見ていた悪魔達は言葉を失っていた。

信じられない物を見たと、何も言葉を発することが出来なかった。

悪魔が人間に負けたこともそうだが、それ以上に人間が起こした大規模破壊が信じられなかったのだ。魔王が慌てて結界を張っていなければ、こちら側にも技の余波が来て甚大な被害が出ていただろう。

故に言葉を失う。

目の前で起こったことが理解出来ないのであった。

その中で唯一、それを理解していたサーゼクスが笑みを浮かべながら、二人の決着が付いたことを全員に伝わるように声高々に言った。

 

「勝者、赤腕!!」

 

その声は一誠達にも伝わり、一誠は右腕にも展開した籠手を解除した。

人間の勝利という快挙。だが、その勝利を祝福する者は殆どいなかった。


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