ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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まだライザーとは戦いません。
結構心理描写が多いです。


21話 彼は下らない事でも命を賭ける

 一誠が結婚式が行われる城に突入する少し前。

久遠と一緒に人気の無い廃墟に向かっていたときの話。

仕事をこの時点では受けると言っていないのに、一誠は何かを確信したかのようにぐんぐんと進んでいく。

その背に久遠は戸惑いつつも追いつき、そして一誠に問い出す。

 

「おい待てって、イッセー! どういうことか説明しろよ」

 

呼び止められ振り返る一誠は、彼にしては珍しく馬鹿にするような目で久遠の事を見ていた。いつもならば、その目は久遠が一誠に向けている視線である。

 

「おいおい、まだ分かんねぇのかよ。ここまで来て分かんねぇってのは相当アレだぜ。一回病院で看てもらった方が良いんじゃねぇか?」

「テメェに言われたくねぇよ! いきなり何か決め込みやがって! いつもは人の説明を噛み砕かねぇと理解出来ねぇオツムのくせに、逆に自分が分かってて他が理解出来ねぇからってドヤ顔しやがって! あぁ、まぁいい! 取りあえずちゃんと分かるように説明しろ!」

 

これから行う事は途轍もなく危ない事。下手をすれば全悪魔を敵に回すかもしれないという大事になるかもしれないというのに、一誠は気にした様子も無く久遠と道すがらギャアギャアと騒ぐ。

そして騒ぎながらも、一誠は珍しく説明する側に回って久遠に話し始めた。

 

「俺が直ぐに答えなかったのはなぁ……気にくわなかったのさ」

「気にくわなかった?」

「あぁ、そうさ。あの魔王が言ってることも大体分かる。テメェの面子を考えれば仕方ねぇかも知れねぇ。そのために俺達に依頼してきたのも分からなくもねぇ。俺と違って立場ってもんがあるから動けねぇのも仕方ねぇ。あの魔王様は真面目だと話してて思ったよ。それでも家族を救うために少しでも行動を起こそうとした。そいつは褒められる。だったらテメェで何とかしろって言いたくもなるが、世の中上手くいかねぇってことくらいは俺でも分かる。少なくともあの魔王は頑張ってたよ」

 

そこで一旦言葉を切る一誠。

彼なりに魔王であるサーゼクス・ルシファーを評価しての言葉だ。

家族のために何かをする。それは一誠が行っていることにも当然通ずる物があり、彼個人としては好感が持てる。

だが、そこで一誠は口調を厳しい物に変えた。

 

「だが、その妹である姫さんはどうだ? 一回負けただけで諦めたのか? それ以降一切の行動も起こさずに何もしてねぇんだろ。してたらあの魔王が俺達にあんな依頼なんてしねぇ。諦めて何もしねぇ奴を助けるなんて事、俺はいくら金をつぎ込まれようと受ける気はねぇ。諦めたら、そこからは何もねぇんだからなぁ」

 

それは一誠の持論。

世の中一番しぶとい奴は諦めない奴だ。

それも明るいものだけではない。執念や妄執といった悪感情も含まれる。

これらに通ずる最もシンプルな思いは『諦めない心』だ。

それを持っている奴は、どのような状態や状況になろうとも活路を見いだす。

そして状況を逆転させるべく、それまで以上の力で反抗するのだ。

その強さこそ、人が最も持っているであろう本能……生存欲である。

三大欲求の更に上、最上部に位置するこの欲こそ、人の根幹。

それを本能で分かっている一誠は、諦めない者のことが嫌いでは無い。その強さが好きだから。

教会から追放され、更に周りから裏切られても尚、信仰を捨てないアーシアのことを気に入っているのは、その諦めない心が強いからだろう。

逆にすぐ諦める者のことは嫌いなのである。

体裁や状況で諦めることは仕方ない。

実際、一誠は逃したタイムセールの品物をいくら諦めないようにしようとも、その時はもう手に入らないのだから。

だが、心までは諦めていない。

次回のセールでは絶対に手に入れると闘志を燃やすのだ。

そのように、心の底では諦めていなければ、まだ見る価値はある。

本当に価値が無いのは、心まで完璧に諦めた時だ。

 

「だから俺は確かめたいのさ。あの姫さんがもう『諦めちまった』のか、そいつをよ。そのためにこうして待ってたってわけだ」

「道理でお前にしては不気味なくらい歯切れが悪りぃと思ったよ! そんなくだらねぇことで返事引っ張りやがって!」

 

またこいつはぁ、と呆れ返る久遠。

二人が連んでから結構経つ。それ故に相方がどのような性格をしているのか、お互いにある程度把握している。だからこそ、久遠は呆れ返っていた。

兵藤 一誠とは、所謂…………面倒な性格の男なのである。

シンプルかと思えば妙に複雑な一面を持ち、何よりも自分の信念とでも言えるような物には絶対に考え、そして譲らない頑固者。

だが、それ故に絶対に裏切らない。

それが分かっているからこそ、久遠も一誠と連んでいるのだ。

二人して廃墟に向かいながらこうして話し合い、何故一誠が未だに返事を渋っていたのかを知った久遠。

そんな久遠に更に一誠は無茶な事を言い出した。

 

「あぁ、それと俺はあの魔王に渡された転移魔方陣入りの招待状は使わねぇ。あれはお前が使ってくれ。その代わり俺を転送してくれよ。その城の上によ」

「別にそいつはいいけどよぉ……何でそんな面倒臭い真似するんだ?」

 

一誠の発言に何かしようと企んでいることを察する久遠。

それについて何をしようとしているのかを聞こうとする久遠に、一誠はニヤリと愉快そうに笑う。

 

「なぁに、せっかくのお祝いの席なんだろ。だったら花火を上げてやろうじゃねぇか。派手な花火をよ」

 

 

 

 そして一誠は宣言通り結婚式が行われる城の上空へと転送され、空中で赤龍帝の籠手を展開し、そこで力をほんの僅かだが解放。

赤き龍のオーラを纏いながら落下すると共に身体を回転させ、遠心力の加わった左拳を城へと叩き付けた。

結果、轟音を響き渡らせながら城の天井を崩壊させ、瓦礫と共に城へと突入した。

そしてリアスを見つけるや否や、周りを威圧するかのように殺気を放ちながら話しかけ、その真意を……本音を吐き出させた。

それを聞いて一誠はニヤリと悪どい笑みを浮かべ、上機嫌にサーゼクスに仕事を引き受ける旨を伝えた。

その事に内心では喜びつつも、このような入り方をされて驚いているサーゼクス。

そんな彼を正気にさせるかのように、その部屋の出入り口から大きな声が一誠にかけられる。

 

「テメェ、何勝手に報酬安くしてんだよ! 俺はそんなこと一言も聞かされてねぇぞ!」

 

その声に周りにいた悪魔達は一斉に声の方を向く。

その視線が集まる所にいたのは、一人の『人間』であった。

真っ黒い髪をした、何処にでもいそうな普通の人間。

だが、この悪魔達が集まる場では酷く別の意味で目立ってしまっている。

何が目立つかと言えば、そのあまりにも『普通』なことだろう。どこに居ても違和感がない。例え悪魔達が集まっているここにいても、違和感が全く感じられないのだ。

それが明らかに異常であることは、この場にいる力の強い者ならばわかるだろう。

それぐらい彼は自然に溶け込んでいた。

彼………正規の手段である招待状を使って中に入ってきた久遠は若干キレながら一誠に吠える。

吠えられた一誠は空いている右腕で久遠を押さえるように動かしながら答えた。

 

「そう言うなよ。遅れたってのはこっちが悪いんだからよ。それぐらいはいいじゃねぇか。お前も良く言ってんだろ……仕事は誠意だってなぁ」

「確かにそう言っちゃぁいるが、それでもこの額でそれはきつ過ぎんだろうが!! そもそも、返事が遅れたのはテメェのせいだろ!」

「だから言ってんだろ、悪ぃって」

 

まったく誠意の感じられない謝罪に怒りをどうすることも出来ない久遠はワナワナとしつつ、少しすると疲れたかのように脱力した。

彼は知っているのだ、一誠がこうと言い出したら絶対に曲げないことを。

それに関してもう諦めをつけた久遠は、そのままゆっくりと歩き出しながらサーゼクスに話しかけた。

 

「いやぁ~、相方が遅れてしまって申し訳無いです。どうも、毎度御贔屓にしていただきありがとうございます。今回は突然返事を返してしまって申し訳無い」

「い、いや、確かに驚いたが……それでも引き受けて貰えて嬉しいよ」

 

サーゼクスの声を聞き、今まで理解が追いつかず置いてきぼりになっていた悪魔達はやっと気を取り直し、そして騒ぎ始める。

何故人間がいるのだと。

何故人間如きがサーゼクスに気安く話しかけているのかと。

一体城の警備はどうなっているんだと。

様々な事が持ち上がっては騒ぎ憤慨する。

いきなり侵入者が現れ、しかもそれが彼等の長たる魔王と何かしら話しているのだからそれも当然の反応と言える。それも彼等が見下している人間なのだから、尚のこと。

だが、その喧噪は再び止むことになる。

 

「うっるっせぇえええええええええええええええええぇえぇええぇええええええええええええええ!!」

 

一誠の苛立ちが込められた叫びと共に噴き出すオーラ。

それにより彼の足下はえぐり取られ、辺りに散らばった瓦礫が吹き飛び城その物が揺れる。

その殺気立った迫力に皆がそれまで騒ぎ立てていた口を紡ぐ。

目の前にいるただの『人間』をに対し、彼等は本能的に恐怖を感じたのだ。

口を開こうものならば殺されると、見下していた存在に対して彼等は確かに退いていた。

一誠は周りを黙らせると、それまで一誠の存在感に飲み込まれそうになっていたライザーに目を向ける。

その目はまさに、肉食獣が獲物を見つけたときの目であった。

強者が叩き潰すと決め、愉悦を込めた笑み。

それを向けられたライザーは背筋が凍り付いたかと思う程に固まる。

だが、それでもプライドにかけて、自らを奮い立たせて一誠を睨み付ける。

 

「貴様、どういうことだ! 何故人間如きがこのような祝いの席にいる!」

 

彼の言葉は周りに居る悪魔達の総意であった。

それに対し答えたのは、一誠ではなくサーゼクスである。

 

「それについては私から説明しよう」

 

サーゼクスの言葉に再び周りは騒がしくなる。

何故サーゼクスが説明するのかと。それはつまり、目の前に現れた人間はサーゼクスが何かしら関与しているということを示唆している。

尚も騒がしく動揺を顕わにしている悪魔達に対し、サーゼクスは周りにも聞こえるよう、ゆっくりと、しかし確実に説明を始めた。

 

「此度の両家の結婚に関し、私は少し不満に思うところがあってね。片や成人して何度もレーティングゲームを経験している猛者。もう一方はまだ成人しておらず、レーティングゲームのやったことがない。その上配下の数は全然に揃っていない。それでは勝利など目に見えて分かるというもの。そのような不利な条件で戦わされて負けてはあまりにも不憫だろう。ハンデもなしに戦わされたのだから。故に私からちょっとした余興を用意した」

 

そこで一旦言葉を切ると、一誠に向かって軽く手を向ける。

そして一誠に向かってサーゼクスはクスっと笑った。

その笑みに一誠も笑い返す。

 

「彼……人間の中でも特に強者と言われている、通称『赤腕』と新郎は戦って貰おうか。コレに関して可笑しいと思われるかもしれない。だが、逆に言い替えよう。『人間如きに負けるような者にグレモリーと結婚する価値があるのか?』とね」

 

それはこの場にいる全ての悪魔への挑発。

たかが人間に及び腰になっている者は悪魔としてどうなのか、と。

それを聞いて頭に血を昇らせる者は数多くいただろう。その中でも一番怒りを滾らせたのは、勿論その渦中の張本人であるライザー・フェニックスだ。

 

「それはつまり、俺の実力を疑われているということですね。魔王、サーゼクス・ルシファー様」

「別に君が強いということは知っているよ。だが、それでもあのレーティングゲームは一方的だったのでね。あれの延長戦とでも思えばいい。何、彼は本当にただの人間だよ。神器を持っているとはいえ、それだけだ。『人間如き』に負けるフェニックスではないだろう」

 

丁寧な口調だが殺気だった目でサーゼクスを睨むライザーに、サーゼクスは不敵な笑みを浮かべてそう答える。

その挑発にライザーは見事に乗った。

 

「いいでしょう。魔王様が押すあの人間、見事我が炎で燃え散らせてご覧に入れましょう!」

 

その返事を聞いて周りの悪魔達も乗り出す。

そしてサーゼクス本人も内心では上手くいったと笑った。

彼はそのまま周りに聞こえるよう大きな声で一誠とライザーが戦うことを発表する。

 

「それではこれより、赤腕とライザー・フェニックスの両者による決闘を行う! レーティングゲームのシステムを応用することで死にはしないが、それ相応の大怪我は覚悟するように。これで赤腕が勝てば、ライザー・フェニックスはリアス・グレモリーの伴侶としてふさわしくないとし、此度の結婚を取り消しにする。ライザー・フェニックスが勝ったのなら、莫大な褒美を与えた上に、このルシファーの席に座る者としての候補に加える。以上、両者とも決死の覚悟で挑みたまえ!」

 

それを聞いて盛り上がる悪魔達。

ライザーには羨望の眼差しと激励の声が、一誠に侮蔑と嘲りの声が飛び交う。

圧倒的な敵地。

だというのに、一誠は不敵な笑みを崩さない。

そして久遠もまた、余裕に満ちた笑みを浮かべている。まるで周りを気にしていないかのように、悠々としていた。

そのまま一誠とライザーは急遽作られた結界内の空間に転送されることになり、先にライザーが転送されていく。

そして今度は一誠が転送される番になったが、転送される前に一誠を呼び止める者がいた。

 

「ねぇ、どうして? どうしてこんな危ないことをするの!」

 

それはそれまで渦中にいたはずなのに、何故か蚊帳の外へと出されてしまっていたリアスだ。

彼女は何故一誠がこんな危ない真似をしているのか理解が出来ない。

いくら報酬が良かろうと、相手はフェニックス。不死鳥の悪魔、不死の存在。

そのような化け物相手に戦うなど、いくら強い神器を持っているからといって正気ではない。勝ち目などないのだ。

それなのに何故? いくら何でもリアスには信じられなかった。何故戦うと決めたのかと。

 

「そんなにお金が大事なの! 別にお金なんて他の方法でいくらでも手に入れられるわ! でも命は二度とは手に入らないのよ! それなのにどうして!」

 

悲痛な叫びを上げるリアス。

そんなリアスに一誠は少し気まずそうな顔をして答えた。

 

「別にそんなだいそれたもんじゃねぇよ。確かにウチのモンにお前さんを助けろって言われてるけどなぁ……それだけじゃねぇ。俺はアンタから既にもらってるからよ……報酬を」

「報酬………?」

 

何の事かわからないという顔をするリアスに、一誠はニヤリと笑った。

 

「一週間ちょっと前に貰っただろ。そいつだよ」

 

それを聞いてリアスは思い出す。

一週間前くらいに、学校の屋上で話を聞いて貰ったことを。

 

「でも、あれはただ話を聞いて貰っただけで……それに私は貴方に確かに渡したわよ……メロンパンを……」

 

確かに一誠は話を聞く代わりにメロンパンを貰った。

つまりそれでチャラなのである。一誠がこの話を持ち出す理由にはなっていない。

それに対し一誠は足下から転送されつつある中、リアスに向かって笑いながら言った。

 

「まだだ。まだ……野菜ジュースの分は働いてねぇ。だから受けに来たのさ。こいつであの時の話はチャラな」

 

そして一誠は転送された。

その転送の光を、リアスは信じられないような目で見つめている。

まさかあの時軽いお節介で渡した物がこんな事を引き起こそうとは、誰が思おうか? そして、そんな物のために命を賭けて戦うと決めるなんて、どうかしてるとしか言いようが無い。

馬鹿げている。信じられない。巫山戯ている。頭が可笑しい。精神が異常だ。

数々の言葉がリアスの頭を過ぎるが、リアスはただ、一誠に向かって感じた感情は一つだけだった。

 

 

『格好良い…………』

 

それが彼女が初めて異性に感じた感情だった。




あれ? 何だかリアスがヒロインのようになっていますね。
でも、ヒロインではないので(たぶん……もしかしたらタブ増やさないといけませんかも……)

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