ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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やっとライザー戦一歩手前。結構疲れました……。


20話 彼は人の意思を尊重する

 ラーメン屋での依頼の話、その返事を返せずに時間は過ぎて土曜となった。

それまでの間に久遠からは、幾度となく一誠の説得が行われた。だが、それでも一誠は首を縦に振らない。

一誠にとって、決して嫌な仕事では無い。

寧ろ報酬だけ見るのなら、寧ろ受けた方が良いとさえ思っている。

一億円………久遠と分けても5000万円。

それはあまりにも魅力的な金額だろう。

だが、それでも一誠は渋る。

断ってはいないのだ。しかし、やるとも言っていない。

一誠にしては随分と珍しい歯切れの悪い状態に、最初こそ怒っていた久遠であったが、結婚式が段々と間近に迫っていくにつれて寧ろ一誠を心配し始めた。

それはアーシアも同じであり、最初こそ望まない結婚をさせられるリアスが可哀想だから助けるべきだと一誠に進言を何度も何度もしていたが、はっきりしない一誠のことが寧ろ心配になってそのことを更に強く言えなくなってしまう。

そのように、彼を知る者ならば誰もが見ても分かる一誠の変化に久遠もアーシアも戸惑ってしまう。

そして結婚式当日である土曜になったところで、久遠は気まずそうに一誠に話しかける。

 

「イッセー……どうするんだよ、あの依頼。未だに魔王様から連絡が来ねぇって辺り、たぶんまだお前のこと、待ってると思うぞ」

 

久遠の声に対し、一誠から反応はない。

その様子に今度はアーシアが声をかける。

 

「イッセーさん…………」

 

二人の心配を含んだ声に一誠はそれまで反応を返していなかったが、やっと顔を上げた。

その表情は寧ろ清々しさすら感じさせる程に、溌剌とした顔をしている。

 

「やっと来たか………待ってたぜぇ、この時をよぉ……」

 

「「え……?」」

 

一誠のその言葉に久遠とアーシアは二人でほぼ同時にそのような声を出して惚けてしまう。

何せ、それまで全然反応を返さなかった一誠が急にそんな反応をしてきたのだから。

一誠はそんな二人に向かって少しだけ申し訳なさそうに謝る。

 

「二人とも、悪かったなぁ。実はよ、待ってたんだ、俺は。今日をよ」

「はぁ? それってどういうことだよ?」

「イッセーさん、どういうことなんですか?」

 

一誠の言葉の真意を掴めない二人は、不思議そうに一誠に聞く。

普段は久遠の言葉の真意を掴めないことが多い一誠という構図だが、今回に限っては真逆である。そのことに久遠は尚更一誠に食いかかる。

二人の問いかけを受け、一誠はしたり顔で答えた。

 

「今日じゃなきゃ、あの先輩の居所はわかんねぇだろ。だから待ってたんだよ。今日って日をなぁ」

「それって………」

 

一誠の言葉を聞いて、アーシアは口元を押さえ感激する。

それがどういう意味なのか? 勿論誰でも分かるだろう。

久遠もそれに続いて喜びを顕わにする。

 

「イッセー、やっと受ける気になったか! まったく、ヒヤヒヤさせやがって!」

 

喜びながら一誠の背を叩く久遠。

だが、一誠はここで予想外の事を言い出した。

 

「悪いな、久遠。まだ受けるとは言ってねぇ」

「はぁ!? どういうことだよ。そこまで来といてそいつはねぇだろ! だったら何で行くなんて言い出したんだ、お前! いい加減はっきりさせろよ!」

 

持ち上げられた後に一気に落とされたことで、久遠の顔がかなり怒りに歪む。誰だってこうされれば怒りたくもなるだろう。

そんな怒りを顕わにする久遠に一誠はニヤリと笑いかけた。

 

「そいつはあの先輩に会ってから決める。だから久遠……とっとと行くぜ」

 

一誠は久遠にそう言うなり、外へと向かって歩き始める。

 

「あ、ちょっと待てよ、イッセーっ!!」

 

その背を見て慌てて久遠は一誠の背を追いかけ、アーシアはそんな二人を見て顔を綻ばせた。

何故なら、彼女はここに来て一誠の真意を理解したから。そして彼女は一誠の見えなくなっていく背を見ながら思う。

 

(本当に………不器用でぶっきらぼうで……でも、とても優しい人です……)

 

 

 

 冥界のとある城にて、そこでは盛大なパーティーが行われていた。

その場に集まっているのは、悪魔の中でも特に階級の高い貴族達。彼等がここに集まっている理由は一つしか無い。

この度行われるグレモリー家とフェニックス家の結婚式、それがここで行われるのだ。正確に言えば結婚決定のお披露目式とでも言うべきだろうか?

それにより、この場には格有数の貴族悪魔達が集まっていた。

 

「いやぁ~、純血悪魔同士の結婚とは、めでたいものですなぁ」

「そうですね~。これでより、我々の種族は繁栄しますね」

 

口々に皆からそのような祝福の言葉が上がる。

勿論それは表だけのことであり、裏では何を思っているのか、知りたくも無いような程に悪意と嫉妬で満たされている。

そんなうわべだけの言葉を聞いて、仕方なく式に参加していたリアスの下僕一行は顔を顰めていた。

 

「皆、祝う気なんか全く何というのに、何でこんなことをしなければならないのかしら?」

「僕達が不甲斐ないばかりに部長は………」

「………部長……」

 

皆悔やんでいた。

前のレーティングゲームにて、皆リアスのために頑張った。だが、結果は見ての通り惨敗。それにより、皆の主はこうして望みもしない結婚をさせられることとなった。

それが何よりも悔しい。主の望みを叶えられずして何が下僕だろうか?

だが、それでも主の結婚式に参加しないわけにはいかなかった。これ以上、主の顔に泥を塗るわけにっもいかなかったから。

 その思いはこの場にいる彼女の兄にして現四大魔王の一人。サーゼクス・ルシファーも一緒であった。

魔王としての立場から考えれば望ましいこの結婚式。

だが、家族としては最愛の妹が望まない結婚をさせられるというのは耐えられなかった。

その相反する立場からのジレンマが彼を苦しめる。

彼なりに手は打ったつもりだ。

もし受けて貰えたのなら、彼は自ら茶番を演じることでこの結婚式を潰していただろう。

だが、彼がした依頼の返事は帰ってこなかった。

他に依頼すればよかったのではないかと思うが、彼にとってその久遠が最もなお得意様であり、そして最も信頼の置ける部外者であったから。久遠以外に考えられる人物は居なかった。

だからこそ、彼はこの結婚式に関して、もう諦めを感じつつあった。

コレは仕方ない事なのだと。身内としては納得がいかないが、魔王としては喜ばしいことなのだと、自分を納得させつつあった。

そのように、リアスの結婚を望まない者達も含めたまま、この結婚式は進んでいく。

そして遂に奥の扉から出てきた男女の二人。

真っ白いウエディングドレスを纏ったリアスと、同じく真っ白い衣装を纏ったフェニックス家の三男、ライザー・フェニックス。

二人の美貌を見て、その場から感嘆の声が上がり拍手が巻き起こる。

それを手で軽く制してから、ライザーはこの場に来た貴族悪魔達に感謝の言葉を述べていく。

その堂々とした立ち振る舞いは勝者のそれであり、見ていたリアスの下僕達は惨めさを噛み締める。

 

「この結婚が私達、悪魔のさらなる繁栄を目指して……」

 

ライザーの口から語られる標榜、それが例え真実でなくても皆聞くのに集中する。

そしてライザーが言い終えた瞬間、突如として………。

 

城の天井が崩れ落ちてきた。

 

轟音と共に落ちてくる天井に、その場にいた貴族達は悲鳴を上げながら逃げ出していく。中には防御結界を張りつつ後退する者もいた。

 

「何事だ、一体!!」

 

突然起こったことに辺りは騒然とし、ライザーは驚きながらも警戒し、声を張り上げる。

そんな騒ぎの中、リアスの下僕達やサーゼクス、そしてリアスと旧知の仲であるソーナは見た。

落ちてきた天井がもうもうと煙りを上げる中、その中からゆっくりと動き出す一つの影を。

煙が晴れていくと共に見え始めた、真っ赤な左腕を。

そこには一人の青年が立っていた。

茶色い髪をした、何の変哲もない『人間』。

その左腕からは凄まじい赤きオーラを滾らせながら、その少年はその場から動かずに首をゆっくりと巡らせ、そして声を上げた。

 

「あ、見つけた。よう、先輩。久しぶりだな」

 

その声をかけられた人物……リアスはまるで信じられないような物を見たような顔で声を出した。

 

「ひょ、兵藤くん………何で………」

 

天井を破壊してこの部屋に入ってきた人物……一誠はリアスの様子を見て、少し気まずそうにした後に、ゆっくりと口を開く。ニヤリと口元をつり上げながら。

 

「なぁに、ただの気まぐれだよ。ぶっちゃけて言やぁ、ウチの乙女の味方様が助けろって五月蠅いんで様子を見に来ただけだ。だが、まぁ……一応の確認だな」

「な、何を………」

 

一誠にそう言われ、リアスは何とか返事を返す。

その光景に誰も何も言えなかった。

侵入者にして良い対応では絶対に無い。それは主賓であるライザーが一番分かっている。だからこそ、ライザーは動こうと、妻となる女を守ろうとしようとした。

だが、出来なかった。

まるで何かに押さえつけられているかのように、一誠が発する威圧感が途轍もなかったから。左腕から溢れ出すオーラがただの人間であるはずが無いということを理解させるから。

皆が一誠一人によって殆ど動けない中、一誠はリアスにゆっくりと問いかける。

 

「なぁ、アンタ……もう諦めてるか?」

「な、何を……」

「アンタはもう、結婚するしかないって諦めてるのか?」

「だって、もう……ゲームで負けてしまったし、するしか………」

 

それを聞いて一誠はリアスを睨み付ける。

その殺気めいた睨みにリアスは怯んだ。

 

「そうじゃねぇよ。アンタはどうなんだ! 結婚するしかないって諦めてんのか、それでも嫌だって心底思ってんのか、どっちだ!!」

 

その声に、まるで糾弾出されるかのように責められるかのように問われた問題に対し、遂にリアスの皮が剥がれた。

 

「そんなの……嫌に決まってるじゃない! 私は確かに貴族だけど、それでも普通に人を好きになって、普通に恋愛して結婚したいの! グレモリー家のために結婚するのは仕方ない! でも、せめて、相手は私が愛した人じゃなきゃ絶対に嫌よ!」

 

リアスがこれまでずっと溜め込んでいた感情。

それを吐き出し。聞いた周りは唖然とする。

そんな中、その答えを受けた一誠はニヤリと、納得した笑みを浮かべた。

 

「いいねぇ、そうだよ。その答えを待ってたんだよ! 誰からでもねぇ、自分の気持ちってやつをよぉ! 嫌なら嫌ってそう言やぁいいんだ!」

 

一誠は笑みを浮かべながら事の成り行きを見守っていたサーゼクスに向かって振り返る。

 

「おい、魔王様。妹さんはそうらしい。だから……受けてやるよ、この仕事! 報酬は返事が遅れた分、半分で十分だからよ!」

 

その叫びと、仕事を受ける証を立てるかのように、その城から赤い光の柱が立ち上った。


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