ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

20 / 73
あまりこの作品の一誠らしくは無い感じになっていますが、それは次回のフラグです。


19話 彼ははっきりと答えない。

 さっきまで世間話をしていたら、その話の根本にいる人物から電話がかかって来た。

その事実に久遠と一誠は何かツボに入ったのかゲラゲラと笑い、アーシアは魔王と聞いて慌てる。

 

「な、何で魔王が! ど、どうしたらいいんですか、イッセーさ~ん!」

「別にそんな慌てんなよ。ただ電話が掛かってきたってだけだぜ」

「そうそう、一応はお得意さんだからね。驚くようなことはねぇって。寧ろこのタイミングで来たって所が笑えて仕方ねぇ~!」

 

アーシアは笑う二人にそう言われはするが、それでも彼女は混乱してしまう。

何せ今まで教会で育てられた少女なのだ。悪魔は敵だと教えられてきた少女の前に、いきなりその王様が連絡を入れて来たのだから驚くなと言う方が無理なのかも知れない。一般人的な感覚で言えば、家で留守番していたら、某国の大統領からいきなり電話が掛かってきたに等しいのだから。

目の前で起こっている事に困惑するアーシアを尻目に、久遠は笑いを堪えながら携帯の電話を繋げた。

 

「っく……はい、もしもし。仲介屋の久遠です。魔王様にはいつも御贔屓にしていただき、誠にありがとうございます」

 

笑いを堪えながら丁寧語で営業トークのように話し始める久遠。

それを見て一誠は猫被ってやがるとアーシアに分かるよう久遠に指を指して笑う。

 

『いや、此方こそいつも無理難題を押しつけて済まないと思っている。それで申し訳無いんだが、今回もまた仕事を頼みたくてね』

 

携帯のスピーカーから聞こえたのは、落ち着きのある青年の声であった。

その声を聞いてアーシアは若干ながらに驚く。

魔王と言えば邪悪な存在の親玉。その声は聞く者全てを恐怖させる恐ろしい声をしている、と言われている。

しかし、実際に聞いてみれば普通の人と大差がない声なのだから、如何にそれまでの教えが一方的な言いがかりなのかが良く分かる。

そんなアーシアに笑みを返しつつ、さらに久遠は魔王に向かって話す。

 

「それはまたどうも。ちなみに聞きますが、それはここ最近噂になっているグレモリー家とフェニックス家の結婚に関係ありますかな」

『おや、もう知っていたのかい。流石は情報第一の仲介屋だ。しかし、良く分かったね。その情報は外部に漏れぬようにしていたはずなのだが?』

 

電話越しから魔王が感心する声を上げる。

それを聞いて、一誠と久遠は噴き出しそうになるのを必死に堪えた。

何せ、この二人は今から恐れ多くも、悪魔の王をからかおうというのだから。

そのための布石をつい先程久遠が巻き、一誠はそれに気付いたからこそ、二人して笑っているのだ。

久遠は腹を押さえながら、喉がひくつくのを堪えつつサーゼクスの疑問に答える。

 

「いえね、私達も今知ったばかりでして。何でも、この間サーゼクス様がラーメン屋でその件について酔いながら愚痴を漏らしていたと聞きまして。その原因が妹君の望まないご結婚だとか」

『ぐぅっ…………ま、まさか聞かれていたとは。確かにあの時は悲しみのあまり悲嘆に暮れてはいたし、かなりの酒が入っていたとは言え……』

「店長が教えてくれました。その後奥さんに引きずられて行ったことまで、全部」

『ぐはっ!? そ、そんな所まで見られていたとは……』

 

携帯越しでも精神に多大なダメージを受けたことが分かる声を出すサーゼクス。

その声を聞いて一誠は再び腹を押さえて悶え苦しんでいた。勿論、笑いを堪えるのに必死になっているからである。

それには流石のアーシアも同じで、少しばかりだがクスクスと笑ってしまった。

今まで学んできた魔王像が悉く破壊されていく光景は、確かに可笑しくて笑えるだろう。

もう彼女の中の魔王像は崩壊し、残されたのは普通の人間と変わらない人物像であった。

サーゼクスの様子を聞いて久遠はからかうことに満足したのか、軽く咳払いをして話を戻す。

 

「まぁ、魔王様から連絡が来た時点で大体の話は予想出来ましたけどね。改めてお話を伺っても?」

『あぁ、そうだね。そう言ってくれると此方も有り難い。それで依頼したいことなんだが………正直に言おう』

 

そこで一端言葉を切るサーゼクスに、皆の意識が集中する。

そして一拍の間の後に、サーゼクスは言った。

 

『妹の結婚式で新郎を倒し、結婚式を台無しにしてもらいたい。そして結婚を解消したいんだ』

 

その話を聞いた久遠は何となく予想はしていたと言った感じの顔をし、一誠はサーゼクスのシスコンもここに極まれりだと心底思った。

それに対し、アーシアは少しばかり喜ぶ。

やはり望んでもいない結婚を家族が認めている訳ではないとわかったから。

家族はやはり家族の事を想っているということが、今の生活を送るアーシアには凄く嬉しいことだから。

その話を聞いた久遠は漏れ出しそうになる笑い声を噛み殺し、冷静に勤めようと一回深呼吸した後に再びサーゼクスに話しかける。

 

「それはまた無理難題な話ですね。当然、ご自分が仰っていることがどういう意味なのかはお分かりで?」

『あぁ、分かっている。この結婚は純血悪魔にとってかなり重要な事だ。当然、私の一存でどうになるものではないし、我々悪魔にとって今後のためにも両家の良縁は好ましい』

 

それは魔王としての立場の意見。

確かに悪魔の今後を考えれば、純血悪魔の結婚は好ましいことである。

だが………。

 

『魔王として、今後の悪魔の未来を考える者としてはこの結婚は歓迎するべきことだ。だが、それでも………家族としては、やはり反対だ。結婚はやはり好き合う者とするべきだ。私がそうしたようにリアスにも、彼女が好きになった人と結婚してもらいたい。いくら両家のためとは言え、そんな好きでも無い男と結婚するなどと生け贄のような行為、正直反吐が出る』

 

家族としてはやはり認められないのだろう。

誰だって好きでも無い者と結婚などしたいとは思わない。それが両家の深まりを強める政略結婚であるのなら、尚のこと。本人の意思をねじ曲げてまで強引に進めるこの結婚に彼個人は反対なのである。それも彼が結婚しているというのにシスコンというのがかなり大きかったりするのだが。

語気が多少荒くなり始めているサーゼクスに、携帯越しに落ち着くよう久遠は声をかける。

 

「魔王様、落ち着いて下さい。確かに組織の長としての判断は結婚が正しい。ですが個人として、家族としての魔王様の感情も正しいものです。両者を両立させるのはとても難しい」

『分かっている。君の言う通り、両者の意見を摺り合わせるのは難しいことだ。このように対極ならば尚更。妥協点もないのだから、どうしようもない。だが、それでも………私は反対なんだ』

 

はっきりと反対の意思を口にするサーゼクス。

久遠はそれを聞いて口に笑みを浮かべる。その口調から、その意思が揺らぐことが無いことが分かったから。

 

「魔王様の意思が堅い事はわかりました。ですが、当然反感が起こることはお分かりですよね。何か手立ては?」

『あぁ、それについては考えてあるよ。そのために君から彼……今世の赤龍帝である赤腕の協力が必要なんだ』

 

それを聞いた一誠はそれまで傍観者を決め込んでいたのだが、自分の名が出たことで興味をそそられたらしく、久遠から携帯をひったくった。

 

「あ、おい、イッセー!?」

「もしもし、アンタが魔王、サーゼクス・ルシファーかい」

 

電話の向こうにいるのが魔王だと知っていても、一誠は態度を変えること無く話しかける。

その様子に久遠はあちゃ~と額を押さえ、アーシアは流石に焦る。向こうは電話越しとは言え魔王なのだ。一国の王相手にして良い態度では無い。

 

『そうか、君が赤腕か。その名は冥界でもかなり知れ渡っているよ』

「そいつは結構。別に社交辞令がしてぇってわけじゃねぇんでな。アンタのその案が聞きたい」

『そうだね、では簡潔に説明しよう。君には結婚式当日に式に乱入してもらい、そこで新郎であるライザー・フェニックスと戦って貰いたいんだ』

「つまり俺に結婚相手をボコれと」

『まぁね、否定はしないよ』

 

一誠とサーゼクスの会話を聞いて、それまで黙っていた久遠が口を挟む。

 

「ですが魔王様。それだと、どう考えてもイッセーが悪役にしかならないのですが」

『そのままならね。だから彼が式場に入ってきた所で私がこう言えばいい。「彼は私が特別に呼んだ強者の人間だ。もし彼に勝てないようなら、フェニックスもその程度ということ。そのような者をグレモリーと一緒にさせるわけにはいかない」とね』

「成る程。そういうことですか」

 

久遠はサーゼクスが言っていることがどういう意味なのかを理解し、ニヤリと笑う。その笑みを見て、一誠は久遠にどういうことかを聞く。

 

「どういうことだよ、久遠。一人で納得しやがって」

「はぁ~……本当、お前って頭が悪いよなぁ。まぁいいや。いいか、悪魔の政情ってのは貴族階級で行われている。当然身分の上下があるんだが、得てして全員同じ共通した考えがあるんだよ」

「何だよ、それ?」

「悪魔ってのはなぁ……基本人間を下に見下すんだよ。まぁ、今話してる魔王様やグレモリーの姫さん、シトリー家の姫さんなんかはそんなことねぇんだが、人間は身体能力や寿命、魔力の差なんかが他種族に比べて弱いからな。だから見下されやすい」

 

それを聞いた一誠は若干苛立ち拳を握り始めた。

別に人間のために怒っているのではない。

ただ、久遠の話を聞いた限り自分が馬鹿にされているように思ったからこそ、怒り始めているのだ。もし、そのような事を吐く悪魔が目の前にいるのなら、一誠は容赦なくそいつの顔面に左拳を叩き付けているだろう。

その怒気にアーシアは少し怖がり、店主は一誠に店のモンを壊すなと釘を刺す。

そんな一誠に苦笑を浮かべながら、久遠は何故サーゼクスがそんな事を言い出したのかを説明する。

 

「いいか、いくら魔王様でもこの結婚は邪魔出来ねぇ。でもな……もしその新郎が人間如きに負けるような軟弱な奴だとしたら、流石にそんな奴と結婚させようとは思わねぇだろ。つまり魔王様はお前をけしかけることで、フェニックス家の三男坊に結婚相手失格の烙印を押そうってわけさ」

「大体は分かった。要はその結婚相手をボコって弱ぇってことを周りに見せつければいいってことだろ」

「そういうこと。変に考えなくてもいい単純な話だろ」

 

一誠は小難しく考えるのが面倒になり、かなり単純に自分の中で話を纏める。

それを聞いて久遠が大体を肯定する。

 

『まぁ、久遠君が言っている通りだ。いくら名家とは言え、流石に人間に負けるような者をリアスの夫とは誰も認めないだろうからね。それで報酬だが………一億でどうだろうか?』

 

「「一億っ!?」」

 

サーゼクスの出して来た報酬金額に久遠とアーシアが驚愕の声を上げる。

久遠は過去最高の、それこそ一攫千金並みの報酬に驚き目を輝かせる。アーシアは普段はのんびりとした少女だが、流石に金銭感覚は普通な常識人であり、如何に一億という金額が凄まじいのかを理解しているからである。

その報酬に久遠は一誠に詰め寄り、即座に叫ぶ。

 

「おい、イッセー! 絶対にこの仕事受けるぞ! 一億なんて額があれば、今後の人生バラ色決定だぞ! しばらく遊んで暮らせる! それどころか一生安泰だ!」

 

テンションが一気に上がる久遠に対し、一誠はその破格を突き付けられても表情を喜びには変えない。

そんな一誠に久遠が食って掛かる。

 

「どうしたよ、イッセー! 一億だぞ、一億! それだけあればお前だってもう毎日の食事や生活に困ることも無くなるってのによぉ!」

 

食らい付く久遠に対し、一誠は少し沈黙した後に静かに答えた。

その様子はとても喜びに満ちているような表情ではない。

 

「いや、この仕事……まだ決められねぇ」

「はぁっ!? 何考えてるんだよ、お前は! 一億だぞ、一億! 悪魔一匹ボコるだけで一億! 考える必要なんてねぇだろうが!」

 

尚も食い付く久遠に一誠は返事を返さず、そのままサーゼクスに向かって返答を返す。

 

「この仕事、まだ受けるかどうかは決められねぇ。悪いが最悪、他を当たってもらうかもしれねぇ」

『そうか………少し残念だが、断られたわけではないからまだ待つことにしよう。リアスの結婚式は今週の土曜の午後一時からだ。それまでに返事を聞かせてくれ。では……』

 

サーゼクスは一誠にそう伝えると、通話を切った。

切られた携帯を見て、久遠は正気を疑うような目で一誠を睨み付ける。

 

「何でやるって言わなかったんだよ! 一億なんて報酬、それこそ一生手に入るかわからねぇ代物なのによぉ! お前、馬鹿じゃねぇのか!!」

 

批難する久遠に一誠はただ無言で返す。

普段ならこんな風に言われれば即座に食って掛かる一誠だが、今回は言い返すことをしない。

彼の脳裏に過ぎったのは、屋上で見たリアスの諦めが含まれた笑みであった。

それが仕事の話を聞いた時から思い出されて消えることがない。

一誠はそれが気に掛かり、歯切れの悪い返事を返したのだ。

そして久遠はそんな一誠が考えていることに気付き、呆れ返って悲嘆に暮れた。

 

「その様子じゃどうせまた下っらねぇこと考えてやがるな! あぁ、もう、何でこいつはこうも損得勘定だけで動かねぇかなぁ~」

 

そのままショックに悶える久遠を尻目に一誠とアーシアは残っているラーメンっを啜り始めた。

その気まずい空気をアーシアは感じながらも、一誠の何とも言えない顔を見つめていた。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。