ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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後半がぐだぐだしてるかもしれません。
結構難しいです……。


16話 彼は手加減して捕まえる

 遡ること数時間前。

一誠は久遠と共にとある廃墟に来ていた。

そこは以前はぐれ悪魔が隠れ家にしていた所だが、一誠が仕事で討伐した後は誰も侵入していない。

何故そんな所に来たのか?

それはこれから行う事を人目に着かないようにするためだ。

 

「イッセー、準備は出来てるか?」

「元からするような準備もねぇよ」

 

いつもと変わらない笑みを浮かべる久遠に一誠は呆れるように答える。

その返答を聞いた久遠は特に気にする様子もなく、何もない空間に手を翳した。

 

「『転送魔方陣、展開』」

 

久遠の声と共に手から光りが放たれると、それは大きな魔方陣の形へと変わった。

それは久遠が持つ力の一つ。自分と対象を別の世界、別の空間に転移させる事が出来る。魔力でもない、まったく別の力だがそれが何の力なのかは一誠も知らない。

一誠は『久遠がそういう力を使える』ということを知っているだけ、それ以上知る気がないのだ。

昔それで何故自分で戦わないのかということを軽く聞いたが、帰ってきたのは少し諦めの入った笑みと、『俺は戦闘向きじゃないんだよ』という言葉だった。

その表情からそれ以上は何も聞かないようにしている。

久遠は展開された魔方陣を見て満足そうに頷くと、一誠に顔を向けて行くよう促す。

 

「んじゃ行きますか……お仕事にさ」

「あぁ」

 

久遠に一誠は返事を返すと、二人は魔方陣に向かって歩いて行く。

そして二人は魔方陣を通ると姿形なく消えた。

何も居なくなった廃墟の中、光る魔方陣は二人が通った後、ゆっくりと光を失い、そして消失した。

 魔方陣を通った先、そこは深い森が広がっていた。

見知った光景から一転し、一誠達の目の前には見たこともない動植物、そして人間界では有り得ない色をした空の色であった。

そう、ここは一誠達がいた世界ではない。

 

冥界……そう呼ばれている世界だ。

 

冥界と言っても地獄やそういった類いではなく、悪魔や堕天使達が生きている世界。

一誠達と同じように生活し、同じように暮らしている。

その世界にある森……今回の依頼であるキメラが逃げ込んだ先である『使い魔の森』に一誠達は転移してきたのだ。

 

「ふぅ~、相変わらず冥界の空気は美味くねぇなぁ。知ってるか、普通の人間が吸うと毒なんだぜ、この空気」

 

辺りを見渡しながら軽く身体を動かす久遠は冗談めいた感じに一誠に話しかける。

確かに久遠が言う通り、冥界の空気は人間にとって毒同然であり、普通の人間は長くは居られない。吸い続ければ死ぬだろう。

 

「んなことは知ってるよ。それに俺等は普通じゃねぇ。違うか?」

「違わねぇ」

 

呆れた様子で答える一誠に久遠は笑い返す。

確かに人間には毒だが、特殊な力を持っている人間はその力を使えば空気内の毒素とでも言うべき物を防げるのだ。

久遠は冗談も程々にした所で、改めて一誠に話しかける。その際の表情はいつもより多少悪どい物へと変わっていた。

 

「さて、ではお仕事の復習をしようか、イッセー」

「別に今更な気がして仕方ねぇけどなぁ」

 

毎回の如くこうして仕事前に依頼の確認をさせられる一誠は辟易しながら返事を返す。世の中確認といのは何かに付けて行うべきことである。それがどのようなことでも、するに越したことはない。

 

「今回の仕事は二重依頼だ。大公からは討伐を、制作者からは生け捕りを依頼されてる。普通に考えりゃ矛盾してて無理だけど、そこでより儲ける方法として考えたのが嘘の達成だ。イッセーにはそのままその対象であるキメラと戦って貰う。いいか、絶対に殺すなよ。それで生け捕りにしたそいつを制作者に渡して金を頂けばこいつは終わりだ。大公には駆除しましたって嘘でも吐けば金は出すだろうよ」

 

久遠のしたり顔の説明に一誠は顔を顰める。

改めて聞いても、やはり腑に落ちないことがあるからだ。

 

「何度聞いても思うけどよぉ……流石に大公とやらがそんな嘘信じると思うのか? 連中だって馬鹿じゃねぇだろ。普通に殺した死骸くらい持ってこいとか言ってくるもんだろ、そこは。そこんところどうなってんだよ」

「ふっふっふ~、そこを待ってたぜ。勿論、連中はそこまで馬鹿じゃあない。だからさ……用意して貰ったんだよ、死骸をな」

 

一誠の疑問に久遠はニタリと笑う。

その悪どい笑みに一誠はまた何か企んでいるな、と思った。

 

「さっき言った制作者がいたろ。そいつ、今回の件で作ってたキメラを処分されたんだと。その際に出た死骸をちょっとくすねてもらったってわけさ。それを大公に渡せば証拠問題もOKってわけ。まぁ、識別されないようお前さんに認識出来ないくらいミンチにしてもらうけどな。それぐらい、朝飯前だろ」

 

その答えに一誠は深い溜息を吐いた。

勿論、この相棒のちゃっかりにした所に感心しているということもあるのだが、それ以上に人に投げやりな部分に呆れ返っているのである。

 

「俺は今すぐにでもテメェをミンチにしたくなってきた」

「そう言うなよ。これが一番確実性が高い方法で一番儲けられるんだからよ」

 

儲けと言われれば一誠は断れないし文句も言えない。

高収入が手に入るのなら、文句など言えないのである。

文句がないと分かった上で久遠は笑みを浮かべると一誠に明るく話しかけた。

 

「っていうわけで、今からお前はこの森にいるキメラを捕まえてこい。俺は危ないんで退避させてもらうからよ」

 

そう言うなり、久遠の身体が急に地面に落ちた。

その地面を見れば、いつの間にか転送魔方陣が展開されている。

 

「あ、クソっ! テメェ、俺に探すの投げやがったなぁ!」

 

そのまま抗議代わりに久遠に殴りかかる一誠だが、一誠の拳が届く前に久遠の身体は全て魔方陣に吸い込まれていった。

空振りした拳はそのまま木に激突し、木を激しく揺さぶった。

 

「クソ、あの野郎! 後で覚えて置けよ」

 

苛立ちを顕わにしながら一誠は森の中を進み始めた。

何故彼が怒っているのかと言えば、それはキメラを探すのが非常に困難だからだ。

はぐれ悪魔などは確かに理性が崩壊している者が多いが、それでも元知性のあった者としての行動が出る。だからこそ、その隠れ家などが廃墟が多いのである。

だが、魔獣というのはそうはいかない。

獣である以上知性的な行動は取らず、本能的に動くので居場所が特定し辛いのだ。

それでも自然界にいるものなら生態を調べればある程度の特定は出来る。

しかし、今回の相手は合成獣。生態など混じり過ぎて特定できるようなものではない。故に探す方法は一つしか無い。

自らの足でひたすら探し続けろ。

久遠はそれを一誠に押しつけたのだ。自分は面倒だからと。

だからこそ、一誠は怒りながら森の中を歩いて行く。その怒りがにじみ出しているせいか、一誠の付近にいた魔獣達は皆挙って一誠から逃げ出す始末。それだけ彼は苛立っていた。

 そして始まったキメラ捜索。

最初こそ苛立っていた一誠だが、姿を全然見せないキメラに段々と辟易し始めていた。

キメラの外観はある程度久遠から聞いていたが、それらしい姿は一向に見えない。

聞いた姿はユニコーンのような角を生やし、鋼殻を身に纏った獅子という話。だが、一誠からすれば猫と差が無い。

一般的な区別では猫は愛玩動物、獅子は猛獣と判断される。だが、一誠からすれば畜生であることにかわらないのである。

だからか、探すことに飽きてきた一誠は何もない空間に向かって悪態を込めた声を上げる。

 

「クソ猫~、何処だ~! まったく、何でこんな目に遭わなけりゃならねぇんだか……」

 

声をかけたところで反応が返ってくると言うことも無く、帰ってくるのは沈黙のみ。

それが尚更一誠の虚しさに拍車をかけ、呆れ返る以上に苛立ちを募らせていく。

その殺気の所為でこの森の生物は皆怯え姿を現さない。

湖に近づけばウンディーネが一誠の濃い殺気を感じて湖の底に息を殺して隠れ、その辺にいたスライムは仲間が以前消滅させられたことを覚えているのか、その恐怖で自ら自己消滅する。

御蔭で一誠の前には虫の鳴き声ひとつない、生命の感じが一切感じられない空間が続いていく。

未だに見えないキメラ。それを文句を言いながら探す一誠。

捜索を始めてから二時間が経過する頃には、一誠の苛立ちがピークへと差し迫り始めていた。

 

「あぁ~~~~面倒臭せぇ!」

 

ガシガシと後頭部を掻く一誠のの頭では、もう面倒だからこのままこの森ごとキメラを潰そうかを真剣に考え始めていた。

この森は結構広大だが、一誠の『本気』を使えばそれも余裕で出来る。

それがどれほどの破壊を招くのか、想像を絶すつことは確実だろう。

後5分探して見つからなかった本当にそうしようと決めた一誠は直ぐにでも出来る様に赤龍帝の籠手を発現させる。

そして再び探そうとしたところで、森が震えるような咆吼が鼓膜を叩いた。

それが何処なのかを確かめるべく、一誠は拳を地面に叩き付けて上空へと跳躍。

そして見つけた…………捜し物であるキメラを。

周りには他にも何人かいたが、それまで苛立って精神的に追い詰められていた一誠の目には入らなかった。

見つけた瞬間に笑みを浮かべずにはいられない。

一誠はそのままオーラを噴出させながらキメラに向かって下降する。

その落下の勢いのまま、それまでの苛立ちも込めて思いっきりキメラを殴り付ける一誠。その表情は捜し物が見つかった喜びで満ちている。

 

「やっと見つけたぜ、このクソ猫! 大人しくしろよぉ! 何せテメェを生け捕りにしなきゃならねぇんだからなぁっ!!」

 

まるで百獣の王のように咆吼を上げながら一誠はさらに追撃をかけるべく、地面に左拳を叩き付ける。

その拳の威力に大地は悲鳴を上げるかのように鳴動し、ソーナ達をその場から動けぬよう縫い付けた。

それほどの威力の攻撃の反動を使って、一誠は砲弾の如くキメラに向かって飛びかかった。

先ほどは不意を突かれ攻撃を受けたキメラだが、今度は確実に一誠を捕らえ敵として認識している。故にキメラはその場で向かってくる一誠に咆吼を上げながら魔力の弾を吐き出してきた。

それは先程、その余波だけでソーナ達のグループの大半を戦闘不能に追い込んだ攻撃である。その威力を知っているからこそ、ソーナは見ず知らずの一誠に叫んだ。

 

「危ないっ!!」

 

だが、ソーナの叫びも虚しく一誠に魔力弾は激突し、一誠は盛大な爆発に巻き込まれた。

その爆風に飛ばされぬよう身体に力を込めるソーナ。

その光景を目の当たりにして、彼女の顔は悲しみと後悔に染まる。

せっかく助けてくれたのに、その少年に何も返せなかった。彼は自らが危険だというのにかかわらず、見ず知らずの自分を助けてくれたというのに、自分は彼の窮地にただ叫ぶことしか出来なかった。

そのことを後悔することしか出来ない。

だが、いくらソーナが後悔しようとも、彼が生き返ることなければこの窮地が覆ることもない。

だからこそ、彼女は気をしっかりと持って爆炎の向こうにいるキメラを睨み付けた。

 

「せっかく助けてもらった命に代えても、あの魔獣は絶対にっ」

 

決意を込めた声で叫ぶ彼女だが、その言葉は途中で途切れてしまう。

何故か? それは彼女の決意を揺るがすことが起こったからだ。

彼女の目の前で燃えさかる炎の中、ゆらりと蠢く人影を彼女は見つけた。

その人影は若干驚いた様子を見せ、キメラに向かって言葉を発する。

 

「いやぁ~、まさかこうなるとは思わなかったぜ。御蔭でせっかくの制服が台無しだ。良くもやりやがったな、このクソ猫!」

 

その声と共に人影から赤いオーラが噴き出し、そのオーラによって燃え盛っていた炎はかき消された。

その中心には、先程爆炎に飲み込まれた一誠の姿があった。

怪我をした様子は見受けられないが、一誠が着ていた制服は所々煤けて小汚くなってしまっている。

 

「あ~あ~! 制服どうしてくれるんだよ。ウチの学校の制服、結構高いんだぞ!」

 

一誠は自分の服が汚れてしまった事にショックを受けたようで内心へこんでいた。

この非常時に自分の命よりも着ていた服の金額を心配する彼に、ソーナ達は唖然としてしまう。

 

「あ、あの……大丈夫ですか!」

「あん?」

 

一誠の様子に驚いていたソーナだが、気を取り直して一誠に声をかける。

その様子は本当に心配していることが窺えるくらい必死な表情をしていた。

その声に対し、一誠は声の方を向いてやっとソーナ達がいることを認識した。

 

「あれ? あんた達、誰だ? その制服ってことは……ウチの学生だろ?」

「その……私達は生徒会で……」

 

急に予想外のことを聞かれ、ソーナは戸惑ってしまい咄嗟にそう答えてしまった。

本当はそんなことを聞きたいのではない。

目の前にいる彼が誰なのか? 助けてくれたお礼が言いたい。危ないから後は私達に任せて避難して欲しい。

聞きたい事や言いたいことは山ほどある。でも、その一つでも口から出すことが出来なかった。

彼女はただ、一誠を見ることしか出来なかったのだ。

口籠もるソーナに何なんだと言わんばかりに首を傾げる一誠。

だが、その後に言葉は続かない。

何故ならソーナが何かを言おうとした瞬間、まるで全てを切り裂くかのような咆吼が二人に叩き付けられたからだ。

それは先程一誠に魔力弾を放ったキメラの雄叫び。

倒したと思っていた敵が生存していたことへの憤怒がこの叫びには込められていた。

その叫びを聞いて身を震わせるソーナ。

対して一誠は思い出したと言わんばかりに凶悪な笑みを浮かべた。

 

「さっきは良くもやりやがったなぁ、クソ猫! 今度はこっちがテメェにくれてやるよ! 制服の分、きっちりぶん殴ってやる!」

 

そう叫ぶや、先程と同じように地面に左拳を叩き付ける一誠。

その反動を使って再びキメラに向かって突進するも、これでは先程と同じように魔力弾で迎撃されるだけである。

だが……。

 

「同じ手は喰わねぇよっ!」

 

一誠は地面に拳を叩き付けた際、反動で飛ぶ身体に捻りを加え横回転させる。

その回転による遠心力を加えつつ突進する一誠に魔力弾は向かうも、その回転から繰り出された拳によって打ち弾かれていく。

弾かれた魔力弾はあらぬ方向へと飛んで行き、ソーナ達が居る辺りから少し離れた所で爆発していく。

その行動にキメラは更に魔力弾を吐き出していくが、一誠の回転しながらの突進は衰えることなく進んでいき、ついにキメラの間近まで迫った。

 

「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおお!!」

 

気迫の籠もった咆吼と共に左拳を思いっきり振るい一誠はキメラに殴りかかる。

放たれた拳はキメラの顔に激突し、その猛々しい牙をへし折りながらめり込んでいく。

そしてその威力を爆発させるかのように、キメラは殴られた方向に吹き飛ばされた。

吹き飛ばされたキメラは森の木々を何本もへし折りながら飛ばされ、勢いが弱まり岩に激突したところで止まった。

普通の生物ならとっくに死んでいるであろうダメージ。だが、この生物は戦闘用に作られたキメラである。普通の生物とは耐久力が違う。

キメラはダメージにふらつきつつも起き上がると、更に激怒を顕わにして咆吼を上げた。それはこの森全てに響き渡るような、空間を振るわせるような程に凄まじい叫び声。

そして身体を前傾姿勢にするなり、一誠に向かって角を向けながら跳んだ。

それもただ跳んだのではない。先程一誠がやったように、身体を回転させての突進である。

回転が加わり一誠に向かって突き進むその姿はまさに鉄鋼弾。

その攻撃はソーナ達は知らないが、あの蒼雷龍を屠った攻撃であった。

あの巨体を一撃で四散させた威力は、例え上級悪魔であろうとも無事ですむ訳が無い。

そのことを肌で感じたソーナ達は咄嗟に防御を身構える。

余波であろうともかなりの威力があることを本能で察したから。

だが、一誠は違う。

一誠は向かってくるキメラに向かって負けない程の雄叫びを上げると、更にドラゴンの赤きオーラを身に纏いながら迎え撃つべく左拳を地面に叩き付けて突進する。

 

「おぉおおおおおおおおぉおおぉおおぉおおおおおおおぉおおおおおおお!!」

「ぐがぁああぁああぁあぁああぁあああぁああぁああぁああああああぁあ!!」

 

お互いの咆吼が重なり合い、地響きのようにソーナ達の鼓膜を叩き付ける。

耳を塞ぎたくなるほどの轟音だというのに、ソーナ達は誰一人として耳を塞ぐ事無く互いに打ち砕かんとする一誠とキメラに見入っていた。

両者の突進、拳と角が激突すると、その衝撃が広がり大地を揺らした。

 

「がるぅぅぅうううううううぅうぅうっくぅうぅぅうぅううううううぅううう!!」

 

一誠を貫こうと唸り声を上げながら更に力を込めるキメラ。

それに対し、一誠はニヤリと口元をつり上げ嬉しそうに吠えた。

 

「悪くねぇ突進だ! だが、俺の拳はもっとすげぇっ!!」

 

そして森に鳴り響く何かが砕け散る音。

それは…………キメラの角がへし折れる音であった。

角を砕いた拳はそのままキメラの脳天へとめり込み、カウンターの如くキメラを殴り飛ばした。

両者の威力を一身に受けたキメラは再び吹き飛ばされ、そして木々を倒しながら地面へと倒れた。

抉られた地面がずっと続いていくことから、それがどれほどの威力だったのかが窺える。

そしてキメラはというと起き上がる気配がなく、その顔は白目を剝き、口からはだらりと舌を出した状態で気絶していた。

その様子に一誠は満足そうに頷き、それまで緊張状態にあったソーナ達は力が抜けてその場でしゃがみ込んでしまった。

 

「まったく……手こずらせやがって」

 

文句を洩らしつつ一誠はキメラに近づいて行くと、その間から魔方陣が展開される。

そして輝く光の中から現れたのは、いつもと変わらない笑みを浮かべる久遠であった。

 

「よう、イッセー。お疲れさん」

 

久遠が一誠に向かって軽く手を振ると、一誠はそれに合わせて久遠に左拳で殴りかかった。

 

「うぉっ、危ねぇ! いきなり何しやがる!」

「うるせぇ! 一人でキメラを探させやがって! 一発殴らせろ!」

「テメェに殴られたら死んじまうよ、この馬鹿!」

「だったら死ねぇ、このボケ!」

 

一誠の主張を聞いて久遠は拳を避けながら口論をし始める。

その光景は子供が口喧嘩をしているようで、見ていたソーナ達は呆気にとられた。

それまでの殺伐とした雰囲気が一気に霧散してしまい、そのやり取りは両者が取っ組み合いになったところで止まった。

 

「だから悪かったって言ってんだろ。こっちだって色々やらなきゃならねぇことが多いんだからなぁ」

「うっせぇ! 悪いと思ってんならテメェの分け前の二割寄越しやがれ」

「ふざけんな! 鐚一文でも出さねぇよ」

「んじゃ三割だ」

「何で増えてんだよ! あぁ~もう、仕方ねぇ! 一割だ。一割以上は渡さねぇ」

 

そんなやり取りをしていた二人だが、久遠は呆気にとられているソーナに向かってにこやかに笑いかけた。

 

「いや~、シトリー家のお嬢様には申し訳無いことをしたなぁ。せっかくの遠出を台無しにしちまって申し訳無いね」

「あの……貴方は……」

 

笑いかける久遠にソーナは静かに問いかける。

すると久遠はクスっと笑って答えた。

 

「俺の名前は久遠。しがない仲介屋だよ。んであっちが『赤腕』なんて呼ばれてるイッセーだ。まぁ、何かあったらここに連絡ヨロシク。美人なら割安で引き受けるよ」

 

久遠はそう答えながらソーナに営業スマイルで名刺を渡す。

それを受け取ったソーナは名刺に目を通し、それがリアスの言っていた『仲介屋』であること理解した。

するとそれまで茅の外にいた一誠が久遠に話しかける。

 

「あれ? お前こいつ等のこと知ってんのか?」

「お前、それでも駒王学園生かよ。この人は俺等の学園の生徒会長様だぞ。トップの人間くらい覚えておけよ」

 

久遠にそう注意され、一誠は何とか思い出そうと頭を捻るが中々出てこない。

付き合いのある人物なら兎も角、滅多に関わらない人物だと彼が名前を覚えているということはないのだ。

そのまま二人はソーナ達を尻目に撤退準備を始める。

一誠はそのまま地面に座り込み小汚くなった制服をどうするかを考え、久遠は何かしらの術式を使ってキメラを拘束した。

 

「あの、その魔獣をどうする気なのですか?」

 

キメラをどうするのか気になったソーナは一誠と久遠に問いかけると、一誠は面倒臭そうに地面に横たわり、代わりに久遠が茶目気を混ぜた笑みを浮かべながら答えた。

 

「そいつは残念ながら守秘義務でね、言う訳にはいかないんだ。まぁ、悪いことにはならないから安心しな。それよりお嬢様の下僕の方を心配しなよ。皆かなり疲れてるみたいだしよ」

「っ!? それもそうですね。すみません、心配をかけて貰って」

「いいってことさ。まぁ、あまり俺等のことを追求するのは勘弁して欲しいかな」

 

そんな二人の会話に一誠は呆れ返った様子でソーナに声をかける。

 

「別に難しいことじゃねぇよ。あんた等は偶々運がなかったってだけだ。だからそれ以上は気にせずにとっとと帰れ。それがお互い気にしなくて済む」

 

一誠はソーナにそう言うなり起き上がると、久遠の元へと歩き出す。するとキメラの元にいる久遠が足下に魔方陣を展開し辺りを目映く輝かせた。

 

「んじゃお嬢様、俺等は帰るんで。お互い気軽に深入りせずにいきたいものだね。それじゃ」

「そういうこった。んじゃな」

 

ソーナ達に向かって別れを告げる二人。そんな二人にソーナは急いで声を上げた。

 

「ま、待って!」

 

しかしその声が届く事はなく、二人は光の中に消えていってしまった。

そのまま光の残滓を見つめるソーナに、椿姫は心配して声をかける。

 

「会長、あの者達は……」

「…………わかりません。ただ……お礼を言えませんでした」

 

その事が心残りだと語るソーナ。椿姫はただ、そんなソーナを見つめることしか出来なかった。

そんな二人を見て、匙 元士郎は心に誓う。

二度とこんな目に会長を遭わせないためにも、強くならなければ……と。

 

 

 

 こうしてソーナ達、生徒会グループの使い魔の森探索は終わった。

尚、人間界に戻った一誠には更にキメラの死骸を識別不明になるまで殴り潰す仕事が待っていたのは言う今でもない。

 

 


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