ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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これでレイナーレ戦は終了しました。
妙に長かったですね~。


12話 彼は帰る

 レイナーレを文字通り『半殺し』にした一誠は、オーラこそ押さえはしたが依然籠手を展開したままであった。

理由は単純………まだ戦いの気配を感じるからだ。

本能的に感じる生と死の臭い。それが一誠の本能を刺激する。

別にもう戦う相手はいない。もしかしたらさっきまでの戦いの余韻がそう感じさせるのかも知れない。

だが、それでも一誠はそれを感じて最低限の警戒は解かないでいた。

そのままレイナーレに目を向けると、辛うじで呼吸をしていることが分かり取りあえずは依頼内容に応えられたことに安堵する一誠。

ついついテンションの上がり下がりが激しかったため、力加減が上手く出来ず殺してしまわないのか心配だったが、どうにかなったらしい。

レイナーレの意識が戻りそうにないのを見て確認すると、一誠はそのままアーシアのいる所へと歩き始めた。

十字架に貼り付けられたアーシアは一誠とレイナーレの戦闘の余波で吹き飛ばされ、教会跡の瓦礫から少し離れた所まで飛ばされていた。

普通の人間だったら大怪我をしていてもおかしくないが、その前に張っていたレイナーレの結界で怪我をせずに済んだようだ。

御蔭で怪我もなく無事なアーシアであったが、それでも貫通してきた余波によって気を失ってしまい、こうして今も尚十字架にくくりつけられたままであった。

 

「おい、大丈夫かよ、あんた」

 

気を失っているアーシアに一誠はいつもと変わらない声をかける。

そこには先程まであった荒々しさはまったくない。平常時の情けない駄目な一誠の声であった。

アーシアはそんな一誠の声を聞いて目を覚ました。

 

「ん………ア、アレ…ワタシ………アッ!? イッセーサン!!」

 

目覚めると共につい先程の光景を思い出して慌てるアーシア。

そんなアーシアに一誠は再び平常時の声をかける。

 

「よ、おはようさん。良い夢見れたかよ」

「ア、アノ、ダイジョウブ、デスカ! サッキ 、ヤリ、イッパイ!」

「あぁ?……あぁ、さっきのアレか。あんなモンでやられる程俺は弱くねぇよ」

 

一誠はそう答えながらアーシアに近づき、十字架に縛り付けていた縄を解く。

十字架から解放されたアーシアはそれまで感じていた恐怖と緊張から力なく地面にペタンと座り込んでしまった。

年頃の、何の修羅場も潜ったことのない少女がこんな目に遭えば当然の反応である。

アーシアはそのまま安心して泣き始めてしまう。

自分が無事だったこともそうだが、それ以上に一誠が無事であるということに。

彼女は善良な人間だ。自分よりも他人を心配してしまう。だからこそ、心優しく美しい。

アーシアは二つの安堵に心を満たし、涙を流しながらも喜ぶ。

 

「ヨカッタデス。イッセーサン、ブジデ………」

 

その様子を見て一誠は気まずそうに頬を掻く。

 

「泣くことはねぇだろ、たく……」

 

まさか泣き始めるとは予想していなかったので、何とも気まずくて仕方ない。

年頃の少女に泣き出されてしまい、一誠は内心どうして良いか分からなかった。

孤児院の弟や妹達を泣き止ませるのにも酷く苦労していた一誠に、年頃の少女を泣き止ます術などあるはずがない。

だからこそ、ただ見ていることしか出来なかった。

アーシアはそんな一誠に恥ずかしながらもどこか暖かい気持ちを感じる。

まるで父親や兄に見守られているような、そんな気持ちに。

だが、その割にドキドキと高鳴っている鼓動は父や兄に向けられるものではない。

その感情がなんなのか? それに彼女が気付くのは少ししてからのことである。

アーシアはそんな初めての気持ちを抱きつつ、少しずつ泣き止んでいく。

涙が止まり、何とか見える様になってきた目は一誠の左腕に吸い込まれるように向いた。

普通とは違う、真っ赤な籠手。そしてその籠手から感じる圧倒的は存在感。

それが普通の物ではないことは、アーシアが持っているモノと同じ感じから理解出来た。

 

「ア、アノ、イッセーサン……ソノ、ヒダリテ………」

「ん? あぁ、こいつか。こいつはお前が持ってるモンと同じだよ。神器って奴」

 

一誠は泣き止んでくれたことに胸を撫で降ろしつつそう答えると、アーシアは笑顔になった。

それは自分と同じ存在に出会えたことによる喜び。

心細かったアーシアにとって、この上ない支えとなった。

 

「イッセーサン、ワタシ、オナジ……」

「ま、そういうことだ。こいつであの堕天使をぶっ飛ばしたってわけだ。あんなもん、屁でもねぇよ」

 

泣き止んだことで多少気が楽になった一誠はアーシアに向かって多少巫山戯るようにそう言うと、アーシアはそれが可笑しかったのかクスクスと笑い始めた。

これは一誠が持つ唯一の慰め方。孤児院の弟や妹達に使ってきた方法だ。

そのためか、最近生意気盛りになりつつある弟から『一誠兄ちゃんって不器用だなぁ~』と言われているのは一誠の少ない悩みのタネである。

籠手を出している以上警戒こそ解いてはいないが、二人の雰囲気は穏やかなものとなっていた。

そんな二人に第三者は声をかけ辛そうにしていたが、流石にこのままでは事態が進まないと思い行動に移した。

 

「良い雰囲気の所悪いね、お二人さん」

「キャッ!?」

 

急に知らない声に話しかけられ驚くアーシア。

そんなアーシアとは違い、分かっていたかのように一誠は声がした方に顔を向けた。

 

「おい、何が良い雰囲気だよ。随分と遅かったじゃねぇか……久遠」

 

呆れ返った一誠に久遠はいつもと変わらない笑顔を浮かべる。

 

「そう言うなよ。お前が暴れてる所なんて危なすぎて近づけねぇんだからよ。安全が確認出来るまで近づきたくねぇ」

 

そう一誠に言うなり、久遠はアーシアの方に視線を向けた。

アーシアは見知らぬ男に見られ、咄嗟に一誠の背に隠れてしまう。

 

「あんたがアーシア・アルジェントか。写真で見るより断然可愛いねぇ」

 

まるでナンパをする若者のように話しかける久遠にアーシアは一誠に助けを求めるかのように問う。

 

「イッセーサン、コノヒトハ………」

「こいつか? こいつは久遠って言うんだ」

 

一誠は面倒臭そうに久遠のことを簡潔にそう答えると、久遠はニッコリと笑顔を浮かべてアーシアに自己紹介を始めた。

 

「どうも初めまして。俺の名は久遠、下の名前はないただの久遠だよ。そんでもってそこの一誠の大親友さ」

「ふざけんな! 誰が大親友だ、誰が!」

 

久遠の自己紹介に一誠が即座に突っ込む。

目の前の男に大親友などと言われた瞬間、怖気だったのは言うまでもない。

一誠にとって久遠はそんな相手ではないのだ。

 

「こいつはただの腐れ縁だ。仕事の窓口、良く連むだけだ」

「まったく~、一誠くんったらっ照れちゃって~!」

 

否定する一誠を茶化す久遠。

それに一誠は我慢が出来なかったのか、左手を軽く握り久遠に見せつけるようにした。

 

「おい、殴んぞ」

「おっとそいつは勘弁だ。お前に殴られたら大怪我じゃすまねぇからな」

 

流石にやり過ぎたと判断いたようで、久遠は両手を挙げて後ろに下がる。

アーシアには二人のやり取りが本当に楽しそうに見えて、彼女が心から望んでいた友人というのはこんな感じなのだろうと思った。

彼女から見て、二人はまさに親友に見えた。

久遠は一誠相手に軽く巫山戯た後、改めて一誠に顔を向ける。

 

「それで……依頼対象は何処行ったよ。お前のことだから殺してはいないと思うけどよ」

 

一誠はは久遠に返事を返す代わりに左手の親指を突き立てて久遠の後ろを示す。

久遠は示された方向に振り返ると、瓦礫に突き刺さっているレイナーレの見るも無惨な姿を見つけた。

それを見て額を押さえる久遠。

それは無残な姿を見たからではあるが残酷さから目を背けたいからではない。

 

「おいおい、もう死にかけじぇねぇか。何やり過ぎてるんだよ、一誠。下手すりゃ依頼が失敗しただろうが。」

「別に半殺しにしちゃいけねぇとは言われてねぇだろ。寧ろこの程度に抑える方が大変だったんだから文句言うんじゃねぇよ」

 

呆れ返る久遠に一誠は面倒臭そうに答える。

依頼は生け捕りにしてこい、と言うことなので半殺しにしても問題ではない。だが、それで死んでしまっては元も子もない。

久遠は少し悩んだ後に、アーシアに向かって話しかけた。

 

「悪いんだけどアーシアちゃん。お前さんの神器でこのぼろ切れ、治してくれないか? このままじゃ死んじまうんだよ。そうなると俺等は非情に困っちまうんだ。だから……お願い」

 

久遠は手を前に出して拝むようにアーシアにお願いする。

その様子から本当に困っていることが窺え、善人であるアーシアはその願いに心良く応じた。

 

「ハイ、ワカリマシタ!」

 

そしてアーシアは虫の息のレイナーレを見て、あまりの酷さに息を飲みつつも両手をレイナーレに翳し神器を展開する。

両手の中指に出現した指輪から暖かで幻想的な光が発せられると、光に照らされていたレイナーレの傷が再生されていく。

その様子を見た一誠は特に顔を変えることはなかったが、久遠はやるじゃんと感心していた。

そして瀕死状態だったレイナーレはアーシアの御蔭で戦う前の状態まで戻る。

その後に意識を取り戻す前に久遠ががレイナーレに近付き手を翳すと、レイナーレの身体を光が包み込み拘束した。

何らかの術を使ったのだろうが、そこに感じる力は魔力や光の力とは違う異質の物であった。それを感じ取りはしたが、アーシアは特に聞こうとはしなかった。

 

「よし、これで動けねぇだろ。ありがとよ、アーシアちゃん。御蔭で依頼人に怒られずに済みそうだ」

「イエ、ソンナ……ワタシ、デキルコト、シタダケデスカラ」

 

久遠は一人満足すると、アーシアに向かって礼を言う。

それを聞いて慌てるアーシア。謙虚さが大いに出ており、見ている者を和ませる光景であった。

アーシアは助けてくれた一誠と久遠への感謝を神へと捧げようと手を前に組み目を閉じた。

だが、一誠は神への感謝言う前にそれを止めさせる。

 

「やめとけよ、祈りなんてな」

「エッ…ナンデ……」

 

祈りを止められたことにアーシアは目を丸くするが、一誠は気にせずアーシアに言う。

 

「感謝してんのは自分だろうが。それを一々カミサマとやらに祈るってのは違うだろ。その気持ちってのはテメェが感じてることだ。なら、それはテメェだけが感じていいことなんだよ。何もしてねぇカミサマとやらに感謝する必要はねぇ」

 

敬虔な信徒に真っ先に喧嘩を売るような発言にアーシアは少し困ってしまう。

今までしてきたことをするなと言われて戸惑わない者などいない。それもアーシアの様に神を心棒している者なら尚更。

困ってしまうアーシアに一誠は少し呆れたような声でアーシアに言う。

 

「それにな。感謝の気持ちを相手に感じるのはいいけどよ、その本人の前でまったく違う奴にも感謝されんのは癪だろ。スンナとは言わねぇが、一々声に出さねぇで心で思ってる程度にしておけよ。口に一々出さなきゃ見捨てる神様なんて、心が狭すぎて神様失格だろ」

「ハ、ハイ!」

 

一誠はそう言うなりニッとアーシアに笑いかけると、アーシアは顔を赤くしつつも頷いた。

一誠が言っていることもあながち間違ってはいないのである。

これで後は久遠がレイナーレを堕天使陣営に引き渡して終わり………なのだが、そうも行かないのが現状である。

その証拠に……。

 

「その堕天使を何処に連れて行こうと言うのかしら……仲介屋さん」

 

一誠達がいる瓦礫の山の上空から4つの影が降りてきた。

漆黒の蝙蝠のような翼を持った4人の男女………悪魔達である。

その中でも一際目立つ紅い髪をした女性、この地を治める悪魔の一族であるリアス・グレモリーが一誠達に向かって話しかけてきた。

その声は一見普通に話しかけているようだが、中身は警戒心がありありと見てとれる。

 

「おやおや、これはグレモリーの姫様。ご機嫌麗しゅう」

「挨拶は結構よ。それよりも私の問いに答えてくれないかしら?」

 

不敵な笑みを浮かべながら久遠に問いかけるリアスを見て、一誠は久遠にだけ聞こえるように小声で話しかける。

 

「おい、久遠、ありゃ相当怒ってんだろ。テメェが残りの二匹を押しつけたことがばれたんじゃねぇのか?」

「それはねぇだろ。俺等がやり合う前に既に向こうは仕掛けてたんだからよ。そいつとは別件だ。どうせ何で俺等がそこの堕天使をシバいたのか気になってんだろ」

「あぁ、そういうことか」

 

いきなり現れたリアスに驚いてアーシアは一誠の背に隠れる。

その行動にすっかり懐かれたな、と視線で冷やかす久遠に一誠が睨み返すと、しびれを切らしたのかリアスが少し大きめの声で久遠に話しかけた。

 

「ひそひそと何を話しているのかしら。何かよからぬことを企んでいるというのなら、その時は…」

 

そこで言葉を切ると、左手から紅黒い魔力の塊を出現させる。

それがリアスが受けついだ力……『滅びの魔力』である。ぶつけられた対象を文字通り消滅させる力。その壮絶な破壊力を誇るそれにアーシアは本能で恐怖を感じ一誠の服の裾をキュッと引っ張った。

 

「あなた達を滅ぼすわよ」

 

殺意を込めたリアスの発言に3人の眷属も呼応する。

朱乃は手から雷を生み出し、祐斗は魔剣を手に構え、小猫がファイティングポーズを取った。いつでも戦えるよう臨戦態勢である

だが、それを見ても二人は動じない。

一誠はまるで脅しをかけるかのようにリアス達を睨み付け、久遠は営業スマイルを向ける。

ただそれだけの事なのに、リアス達は額から冷や汗を流していた。

一誠からは百戦錬磨の玄人の威圧感を、久遠からは何やらわからない不気味な気配を感じて。

それを察しているのか、久遠は一歩前に出てリアス達に先程の問いに答える。

 

「別に良からぬ事なんか考えてないって。俺達がここに居るのはお仕事だよ、お仕事」

「仕事………ですって?」

「あぁ、そうさ。今回のお仕事はそこで寝てる堕天使のお嬢さんの回収だよ」

 

久遠はあっさりと仕事内容をリアスに言う。

普通、こう言った場合は秘匿義務だのなんなのとあったりするものなのだが、それを特に気にした様子もなく久遠は語る。

それを聞いたリアスは何故一誠達がいるのかを理解し、そして不敵な笑みを更に浮かべた。

 

「大体わかったわ。それであなた達がいるのも納得出来るわね。でも、それではいそうですかと素通りさせるわけにはいかないわ。大人しくそこの堕天使を渡してくれない。この地に侵入して勝手に暴れ回った者をそのまま生かしておくなんて、グレモリーの沽券に関わるもの。容赦無く殺さないとね」

 

殺気を込めた笑みに対し、久遠はやれやれといった様子で答える。

 

「そいつは出来ない相談だね。何せ依頼人が生かして持ってこいって言うんだよ。そいつを破るわけにはいかない。それこそ、此方の沽券に関わる問題だ」

 

両者はまったく譲らない平行線。

この先の話し合い次第では再び戦いへと発展するだろう。

その気配を感じてか、一誠は更に口元をニヤリとつり上げる。

その笑みを見たリアス達は背筋をが凍り付くかのような感触に捕らわれる。

つい先程まで2人の堕天使を殲滅したリアス達だったが、その最中に勿論教会の崩壊

する音を聞いている。そして教会を見れば、そこにあるのは爆心地のような跡。

それが一誠一人によって引き起こされたことだと予想するのは容易なことであった。

今回の騒ぎの張本人である堕天使を神器持ちの人間が打ち負かした。

その事実がリアス達の緊張を更に煽る。

下手には動けない。そうリアス達は思い、慎重に言葉を選ぶ。

だが、リアスが答える前に久遠が笑ったまま口を開いた。

 

「因みに、今回の依頼人は堕天使の総督、アザゼルだ。総督直々のご依頼なんでなぁ、さすがに殺されるわけにはいかねぇんだよ。それとも姫様、ここでその堕天使殺して戦争をしたいのかい?」

「っ!?」

 

久遠の言葉にリアス達は息を飲んだ。

まさかただの堕天使討伐にそのトップが関わってくるとは思わなかったからだ。

そう言い終えると共に久遠はニヤリと笑う。

その勝ち誇った笑みを見て内心屈辱を感じながらも黙るリアス。

確かに久遠が言う通り、この場であの堕天使を消滅させれば戦争の火種になりかねないのだ。

それ故に何も言えなくなる。

それを見てこれ以上は何もないと判断した久遠は一誠達に踵を返す。

 

「んじゃ、そう言うわけだから俺達は帰らして貰うぜ。文句があるんなら堕天使陣営に直談判するこった。んじゃ」

 

久遠がそう言いながら一誠とアーシアと共にその場から歩き始める。

そのまま立ち去るかと思われたが、その前に一回だけリアス達に振り返った。

 

「そうそう、何かご依頼があるときは仲介屋をご利用に。低い金利でも確実な仕事、それが売りなんでな」

 

そう言うなり、今度こそ一誠達はその場から去って行った。

リアス達はただ、その後ろ姿を見続けることしか出来なかった。

 

 

 こうして、アーシア・アルジェントを巻き込んだ騒動は終わりを迎えた。

この後、レイナーレは久遠によって堕天使陣営に届けられ投獄された。

そして騒動に巻き込まれたアーシアに関して、一誠は何も出来ないので全てを久遠に任せることにした。けっして悪いようにはならないだろうと。

堕天使側もそれについては謝罪があり、出来る限りの償いはするとのことだったので。

 

 後日、その選択が一誠を過去最悪に苦しめることになるとは、この時思っていなかった………。


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