ハイスクールD×D 赤腕のイッセー   作:nasigorenn

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最近ヒロインがアーシアでもいい気がしてきましたね~。


9話 彼は助けることを決める

 ドーナシークが敗れてから数日が経ち、悪魔と堕天使が双方行動を開始しようとする中、一誠は変わりなく過ごしていた。

相変わらずの金欠生活。だが、それを苦しくは感じても後悔はしていない。

自分が決めた行動の結果の金欠。誰に言われたわけでも無い、自分の選択。

そこには自由があった。彼が愛する自由が。

そんな自由気ままな金欠生活を満喫している一誠の所に、急遽その話は来た。

 その日の夜は昨夜と違い、分厚い雲で空が覆われており、月明かり一つ見えない闇夜であった。

ちょっとした用事で出掛けていた一誠が自宅に戻ると、扉の前にニヤリと笑う久遠が立っていた。

久遠の姿を見て、一誠は露骨に嫌そうな顔をする。

彼の経験上、久遠が夜に来て愉快そうに笑う時というのは、専ら碌な事が無い仕事を持ってきた時だ。

彼はそんな風に笑う久遠の所為で過去に何度も酷い目に遭っている。

今回もそんな類いが来たと思い、一誠はそんな表情をしてしまったのである。

そんな一誠を見て、久遠は苦笑を浮かべた。

 

「おいおい、そんなに嫌そうな顔すんなよ」

「お前がそんな顔をするときに持ってくる仕事ってのが禄でもねぇもんばっかりだからそんな面になんだろ」

「その分美味しいんだからいいだろ」

 

そう言われ、その事実に一誠は口を噤む。

確かに禄でもない目に遭うのだが、その分報酬も高額なのである。

それに助けられたことも一度や二度ではないため、こうして一誠は黙って仕事内容を聞くことにする。

 

「それで、今度は何なんだ? また何処ぞの悪魔のペットの魔獣探しか? それとも使い魔の森で暴れ回ってるスライム退治か? どっちも二度とゴメンだぜ、俺は。ペットって聞いて行ってみりゃあ、コカトリスだったりして危うく石にされかけたり、あの気持ち悪いスライム共を蒸発させるのには苦労したんだからよぉ」

 

過去にあった事例を挙げることで文句を言う一誠。

だが、それでも仕事の話を聞くことに変わりないと分かっている久遠はそのまま文句をスルーして話し始めた。

 

「今回はもっと単純でシンプルな奴だから安心しろよ」

「前回も似たような事言ってたよなぁ。それで行ってみたらオルトロスの群れに追いかけ回されたんだけどなぁ、俺は」

 

顔は笑顔で、でも怒りのマークはばっちり浮かべた顔をする一誠。

そんな一誠の精神状態を察してか、久遠は少し慌てて話を進めることにした。これ以上おちょくれば絶対に痛い目に遭うのがわかっているから。

 

「今回はそんなもんじゃねぇよぉ。いいか、良く聞けよ」

 

そこで一端区切ると、久遠はニヤリと不敵な笑みを浮かべ話し始めた。

 

「いいか、今回の依頼はな……何とっ! 堕天使の総督様からの依頼だぜ!」

「総督?………って確かアザゼルとかいう堕天使だったよな? 堕天使で一番偉いって奴」

「そう、そいつだ。そんなお偉いさんからのお仕事、報酬は何と1000万! ここまで破格なのは久々だぜ、マジでよぉ」

「おいおい、マジかよ! そいつは凄いな」

 

依頼報酬を聞いて驚く一誠。

そこまで高額な依頼は最近では殆ど無かったので、成功させればとてつもない金が手に入る。

その金額を聞けば先程まで憂鬱だった気分も一瞬にして転じ、テンションも上がってくる。

 

「そうだろぉ! そしてこの仕事の内容だが……とある堕天使を連れ帰ってくることだ」

「とある堕天使?」

「ああ、何でもこの町に侵入して何かをしでかそうとしてるらしい。この町は悪魔の管轄だ。そんな場所で敵対勢力である堕天使が騒動を起こせば、最悪戦争になっちまう。それが総督さんは嫌なんだとさ。だから事を起こす前にふん捕まえて欲しいってさ」

 

それを聞いて一誠は特に難しくは考えない。

悪魔と堕天使の争いそのものに興味など無く、立ち塞がるなら誰であろうが何であろうが打ち砕くだけだからだ。それが一誠の基本的な考え方。

一誠の反応を見て久遠は特に問題無いと判断し、話を更に深く話す。

 

「それでこのグレモリーの姫さんの庭で悪さを働こうとしてるヤンチャな堕天使の名はレイナーレっていう女の堕天使だとさ。そいつが部下三人を連れて潜伏中ってわけだ。ちなみに部下は男が一人に女が二人。名前は確か男がドーナシークで女二人がカラワーナとミッテルトって名前らしい。これ、レイナーレ達の写真な」

 

久遠はそう言いながら一誠に写真を渡した。

その写真を見て、一誠は顔を微かに顰める。

その表情を久遠は見逃さなかった。

 

「イッセー、何か知ってるって面だな」

「ん、あぁ。このレイナーレとか言う女は知らねぇが、ドーナシークってのは知ってるよ。この間殺り合った」

 

それを聞いた久遠は少し驚くと、額を軽く押さえ来た頭痛を堪えた。

今回の依頼、最低でも首謀者は確実に生け捕りにするよう言われている。その部下も出来れば生存が望ましいと頼まれているのだ。

久遠は結構軽い感じの人間だが、それでもこの仕事にはそれなりに真面目だ。依頼されたからには依頼人のリクエストには出来得る限り答えたい。それなりにプライドもある。だからこそ、どんな仕事だろうとごり押しでこなせる一誠とタッグを組んでいるわけだ。だからこそ分かる。

一誠と戦った奴がどうなるのかを。

 

「なぁ、イッセー…もしかして………」

 

久遠の苦しげな問いに、一誠も気まずそうに顔を逸らしながら答えた。

 

「その………殺っちまった」

「あぁ、もう! お前って奴は……」

 

予想していた最悪の答えを聞いて額を押さえる久遠。

一誠は慌てて訳を話した。

 

「仕方ねぇだろ! 何せ向こうから来たんだからよぉ! 向こうは戦る気満々だったんだからこっちだってそれには応えねぇといけねぇだろうが!」

 

その言い訳に久遠はキレた。

 

「ふっざけんなよ、イッセーッ! 普通そういうときは逃げるもんなんだよ! 何勝手に戦ってんのかね、君は~! この脳筋男!!」

「んだとっ!! 毎回毎回禄でもねぇ仕事ばっかり持ってくるテメェにそんなこと言われたくねぇよ! この碌でなし!」

 

そして互いに額をぶつけ合い睨み合う。

毎度の如く、お互いに意見がぶつかればこうして主張を譲らない。

睨み合いはすれど、そこから先が平行線なのは今までの経験で分かっている二人は仕方なく離れると話を進めることにする。

 

「まぁ、殺しちまったもんを今更言っても仕方ない。依頼人は『出来れば』生かして捕まえろって言われただけだし、本命のレイナーレが生きてれば最低限は達成出来んだろ。どっちみち文句は言われるだろうけどなぁ」

「どっちにしても戦うのは目に見えてたんだし、遅いか早いかの違いってやつだろ。本命が生きてりゃ文句はねぇんだろ。だったらそれでいいじゃねぇか」

 

そう言い聞かせることでお互い気を取り直す。

前向きと言えば聞こえは良いが、もはや過ぎた事は仕方ないという開き直りである。

久遠はそのことを自覚しつつも話す。

 

「それでこのお馬鹿御一行が企みって奴が、これまたヤバイもんなんだよ」

「どうせ毎回ヤバイもんばっかりだろ。今更出し惜しみしてんじゃねぇよ」

「そう言うなよ、雰囲気ってのは大切なんだからなぁ。まぁいいか。それで奴等の目的は………ある神器らしい」

 

それを聞いた一誠は大体の予測が出来た。

この異形犇めく業界に入って良く耳にするのが神器の話である。なら、それを狙っているということがどういうことかも分かるようになる。

 

「つまりこういうことか? そのお馬鹿御一行はこの町で神器を持ってる奴から抜き取る算段を付けてるってことだろ」

 

それを聞いて久遠が笑う。

 

「正解。連中、そのためにわざわざ外国から持ってる奴を騙して呼び寄せたらしい。何とまぁ真剣なことだ。で、その哀れな子羊の持ってる神器ってのが凄いんだよ」

「どう凄いんだよ」

「あぁ、何でもどんな傷でも治すって言われてる神器らしい。それも天使や堕天使が使う光の力と違って悪魔でも癒やせるって言う万能回復器って奴だ。名は『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』って言うらしい」

 

それを聞いて一誠は何となく納得した。

確かにそんな便利過ぎる道具があるというのなら、誰でも欲しがるだろう。

引く手数多の状態では狙われても仕方ない。

 

「それで、そんな哀れな神器所有者の名前が『アーシア・アルジェント』って名前の綺麗な金髪をした少女だ。こりゃまた随分な上物だな」

 

それを聞いた一誠はとあることに引っかかった。

 

「なぁ、久遠。そいつはアーシア・アルジェントって奴で合ってるのか?」

 

それは一誠が知っている心優しい少女なのかどうか。それを確かめるべく、一誠は久遠に話しかけた。

 

「お前が会ってるのかまでは知らないが、確かにご本人だろうよ。『聖女』、『癒やしの女神』、そして………『魔女』。全て彼女が呼ばれてきたらしい二つ名だ。アーシア・アルジェントの名は教会内でもかなり有名な話だぜ。悪魔をも癒す異端の魔女だってな。今じゃ教会を追放されてはぐれ神父ならぬはぐれシスターしてるよ」

 

久遠はそう言いながら一誠に持っていた写真を渡す。

その写真を見て一誠の予感は確信へと変わった。

そして会った時の記憶を思い出し、そこからこの話への繋がりを見つける。

 

「成る程な……そういうことか」

「何か知ってるのか?」

 

思わせぶりな一誠の台詞に久遠が聞き返す。

一誠は何とも言えない顔で答えた。

 

「つい少し前に空腹でぶっ倒れてた時に助けて貰ったんだよ。今思えば普通じゃありえねぇくらい天然入った奴だったよ」

「やっぱり会ってたのか。世の中は狭いって本当に感じるよ、俺は」

「まったくだ。それでその時にその子を教会まで案内したんだよ。何でも赴任するために海外から来たって言うからなぁ。あの寂れた教会に」

 

ここまで言えば大体は分かるだろう。

久遠はその話を聞いて一誠に笑いかける。

 

「そこまでわかってんなら簡単だろ」

「そうだな。そのお馬鹿御一行はあそこの寂れた教会にいる。それで騙されたアーシアはそのままあそこで神器を抜き取られるってことだろ」

「正解。良く出来たなぁ、一誠。花丸やろうか?」

「いらねぇよ」

 

コレまでの話で、相手の目的、居場所が判明した。

なら、後はいつ仕掛けるかという話になる。しかも今回は時間制限付きと言うこともあって少しばかり慎重にならなければならない。

一誠は久遠の顔を見ながら聞く。

 

「んで、いつ仕掛けるんだ? アーシアが抜き取られた後じゃまずいだろ。出来ればすぐにでも仕掛けてぇんだけどよ」

「あれ、随分と真面目じゃないか? いつもならもっといい加減に聞き流して、実行となったら考えずに突っ込むのによ。もしかしてアーシアとやらに惚れたか?」

「馬鹿言え……助けられたお礼代わりに言ったんだよ。『困った事があったら声をかけてくれ、そうしたら助けてやる』ってな。声が出せなくても明らかに助けなきゃならねぇだろ、そんな事態じゃなぁ。約束したんだから、そいつは守らねぇといけねぇ。テメェが決めた約束はな」

 

若干真剣な眼差しでそう言う一誠に久遠は仕方ないといった顔をした。

 

「またお前の持論か。『自分で決めた約束は絶対に守る』だっけか。随分と律儀だねぇ~、イッセーくんはさ」

「うっせぇ。取りあえずそう言うわけだ。そのレイナーレとかいう堕天使を伸してアーシアを助ける。それで文句はねぇだろ」

「ま、俺としてもレイナーレが捕まえられればそれでいいから文句はねぇよ。仕事がこなせれば誰も文句は言わない。好きにしな」

「あいよ」

 

一誠は久遠の許可を得たことでやる気を更に出す。

まぁ、許可されなくてもやる気ではいたのだが。

そんな一誠を見て久遠は深い笑みを浮かべながら最後の話をする。

 

「んじゃ仕掛けるのは明日の夜だ」

「何でだ?」

「ああいう儀式には月の満ち欠けとかが重要になってくるんだよ。明日は満月だからな。何よりも………俺の勘だ」

 

にたりと笑いながらそう言う久遠の言葉を聞いて、一誠は納得する。

ここ一番で一番重要なのは知識よりも勘だってことを一誠と久遠は理解している。だからこそ、それを重要視する。

 

「ああ、分かった。んじゃ、明日殴り込みだな」

「そういうことだ。白馬の王子様ヨロシクに颯爽と囚われの姫を助けて来い」

「うっせぇよ!」

 

 こうしてまた、一誠も動き出す。

この堕天使騒動もそろそろ終末へと向かっていた。


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