やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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王佐の才

 夏蘭達と少し話していると兵が1人、華琳に帳簿を持って来た。受け取った帳簿に目を通している華琳は目に見えて機嫌が悪くなっていった。

 

「これの責任者を直ぐに呼びなさい」

 

 華琳は見ていた帳簿を叩きながら帳簿を持ってきた兵に指示を出した。かなり機嫌の悪そうな華琳に兵は怯えながら返事をして、直ぐに責任者を呼びに走って行った。

 あれは怖い。もし、バイト先の店長があんなんだったら俺は絶対にそのまま家に帰っちまう。まあ、華琳相手にそれをすれば家まで追っ手をかけられそうだが……って詰んでるじゃねーか。

 

「な、なあ、どうしたんだ。何か問題でもあったのか?」

 

 恐る恐る、華琳に聞いてみる。下手に関わってとばっちりを食うのは嫌だが放って置いてより機嫌が悪化すれば、結局良く一緒にいる俺に被害が来る可能性が高い。多少の火の粉が降りかかっても、華琳の怒りを鎮火させて置かないとえらい事になるかもしれん。

 

「責任者が来れば分かるわ」

 

 にべもなく華琳は言った。

 華琳が確認していた帳簿に何が書かれていたんだ。余程の内容じゃないとここまで機嫌が悪くなる事はないだろ。

 内心ハラハラしている間に夏蘭と冬蘭が体を寄せてきた。

 

「これ、どうすれば良いんだ?」

「華琳姉様がここまで不機嫌になるなんて……ここはそっとこの場を離れた方が良いかもしれません」

 

 夏蘭と冬蘭が俺の耳元に顔を寄せて小声で話しかけてきた。出来る事なら俺も冬蘭の案に乗りたいところだが、後が怖いから無理だ。あと耳元で囁くのは止めて欲しい。惚れてしまう。

 居心地の悪い時間をしばらく我慢していると、先程の兵が一人の少女を連れて戻ってきた。

 

「おまえが今回の糧食調達の担当?」

 

 華琳が開口一番に厳しい口調でそう聞いた。自分の事ではないのに胃が痛くなりそうな状況だ。

 

「はい。必要な量を用意しております。何か問題があったでしょうか?」

「必要な量? ……指定した量の半分しか用意されていないじゃない!」

 

 華琳と少女の会話で何故華琳が不機嫌になったかは直ぐに分かった。用意された食料が半分では怒って当然だろう。しかし、少女は怒る華琳相手に平然としている。これは何か思惑があるのかもしれないな。

 

「思惑ですか?」

 

 冬蘭が突然俺に聞いてきた。

 

「えっ、口に出てたか?」

「いえ、声にならない程度でしたが唇の動きで分かりました」

 

 華琳や少女には聞えない、小さな声で冬蘭は言った。

 何それ怖い。ほんとに油断ならない奴だ。

 

「それで思惑というのは?」

「……もしかしたら、わざと目立つ間違いをして自分に注目させようという策かもな」

「それではもう目的は果たせていると?」

「あくまで可能性の話だ」

 

 冬蘭の問いに俺が答えている間に、少女の斜め後ろへ夏蘭が静かに移動していた。いつでも少女を斬れる位置だ。

 怖っ、ここにいるのは怖い人間ばっかりか。俺と冬蘭の話を聞いていて少女が華琳に対して何か良くない事を企んでいるのではと危惧したのだろう。

 

「このまま出撃すれば、私達は行き倒れになる所だったわ。その場合、あなたはどう責任をとるつもりかしら?」

「いいえ、そうはなりません。理由は三つあります。聞いていただけないでしょうか?」

 

 華琳の詰問に少女は即座に答え、逆に理由を聞いて欲しい言った。

 

「……いいでしょう。それ相応の理由があるのなら許しましょう」

 

 華琳の言い方では相応の理由が無ければ本気で斬りかねない。流石にそんな所は見たくないんだがな。必要なら多少フォローする事も考えないといけないか。

 

「もし理由を聞いても、ご納得いただけなければ斬り捨てていただいて結構です」

 

 少女が自ら命を賭けた。それだけ三つの理由とやらに自信があるのか、それともただの馬鹿なのか。

 

「まず一つ目。曹操さまは慎重なお方です。糧食に関してもご自分で最終確認をなさいます。問題があれば、こうして責任者を呼ぶはずなので行き倒れになる事はありません」

 

 馬鹿の方だったかな。華琳に会う為にわざと間違えたなんて自分から告白してしまうとは……。

 華琳が夏蘭に目配せして「斬れ」と言った。

 

「待て、待て、待て、ストップだ。ストップ。落ち着け華琳。理由はあと二つあるんだから」

 

 慌てて止めに入ると華琳は驚いた顔で俺を見た。

 

「八幡、いきなり現れないで。驚くじゃない」

 

 俺ずっとここに居たんですけど、それどころか少女が呼ばれて来る前に会話してるんですが。

 

「俺は最初からここに居ただろ。それより残り二つの理由を聞いてからでも斬るのは遅くないだろ」

「……そうね。それで残りの二つは何?」

 

 何とか止められた。もしこの場に居たのが夏蘭ではなく春蘭だったら止める間も無かったかもしれん。嫌な汗が流れる。あと助けてやったのに少女が俺の事を恨みの篭った目で見ている。何でだよ。

 

「はい、二つ目は糧食が少なくなれば、身軽になった輜重(しちょう)部隊の行軍速度が上がります。それによって、遠征そのものにかかる時間は大幅に短縮出来ます」

 

 少女の語る二つ目の理由には少し無理がある。糧食を半分にして身軽になっても、遠征にかかる日程まで半分にはならないだろう。

 そんな事は華琳も承知だと思うが、最後まで聞いてから判断すると決めたので、華琳は途中で止めたりはしなかった。

 

「……で、三つ目の理由は何かしら?」

「はっ、三つ目は……私を軍師として使っていただければ遠征にかかる時間はさらに短くなるでしょう。よって、糧食はこの量で必要分を満たしております。どうか、この荀彧(じゅんいく)を曹操さまの軍師としてお使い下さい!」

 

 華琳に促されて少女・荀彧(じゅんいく)が自分を軍師にしてくれと懇願した。

 じゅんいく? ゲームかなんかで聞いた事があったような。かなり能力値が高い軍師キャラだったと思う。

 

「荀彧、貴方の真名は?」

桂花(けいふぁ)と申します」

 

 華琳の問いに荀彧は躊躇もなく真名を明かした。それだけ、この機会に賭けているのだろう。何せさっきは命も賭けていた位だ。

 

「桂花……私の事を試したわね?」

「はい」

「私は他人に試されるのが嫌いよ」

 

 華琳の声が低くなる。これはマズイ流れだな。フォローした方が良いな。

 

「華琳、ちょっと待ってくれ」

「……何かしら?」

 

 華琳の声がさらに低くなった様な気がする。うん、すっごく怖い。でもここで俺が引けば、目の前で荀彧の首がポロりしちゃう。

 

「試された事が気に喰わないのなら、こちらも荀彧を試してみたら良いんじゃないか? 相当自信があるようだし、こういう類の人間は無礼だと言って斬られるより、無能だと言って斬られる事の方が効くんじゃないか?」

 

 俺の言葉に華琳は少し考えてから頷いた。

 

「桂花、私を試した度胸と、智謀によって私との面会を勝ち取り自身を軍師として売り込む事を果たしたその手腕、気に入ったわ。あなたを仮の軍師として受け入れるわ。ただし今回の遠征であなたの立てた作戦が有効で無かったり、あなたが十分だと言った糧食に不足があった場合はその命で(あがな)ってもらうわよ」

「御意に!」

 

 荀彧は華琳に返事をすると、元の仕事も残っているので輜重部隊が物資の積み込みをしている現場に戻って行った。その去り際に何故か俺の事を睨んでいた様な気がする。まあ、気のせいだろう……気のせいだよな?

 

「八幡様、睨まれてたぞ。何かしたのか?」

 

 夏蘭にも桂花が俺の事を睨んでいる様に見えたのか。気のせいじゃ無いっぽいな。面倒な。

 

「何もしてないぞ」

「「ホントに?」」

 

 夏蘭と冬蘭の疑うような声が重なる。この姉妹は俺の事をどういう風に見てるんだ。

 

「八幡、何かしたなら早めに白状しなさい。これから長い付き合いになるかもしれないのよ」

 

 華琳お前もか。

 

「それで……貴方から見て桂花はどう見えたかしら?」

 

 華琳の声のトーンが変わった。ここからは真面目な話の様だ。

 

「……無能には見えなかったな。華琳に軍師として仕えたいという願いにも嘘は感じなかった。むしろ、華琳の事を試した割には華琳を見る目は信じ切っているような目だったぞ。まあ、俺はその辺りに危うさを感じたが」

 

 俺の言葉に華琳は頷いている。夏蘭と冬蘭は意外そうな顔で俺を見ている。

 

「ちゃんとした軍師みたいだ」

「今は有能そうに見えますよ」

 

 こいつ等。こんな2人と上手くやっていけるんだろうか。いや、無理だな。そもそも生まれてこのかた上手くやれる奴なんて俺にはほとんどいなかったわ。荀彧には嫌われているみたいだし、今回の遠征は気の重い旅になりそうだ。

 

 

 

 

 

 




お読みいただきありがとうございます。

明日も更新出来ると良いなと思っていましたが無理っぽいです。

しかし、半分位は書けているので次の更新は1週間もかからないと思います。

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