やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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 仕事、それはやりがい。

 仕事、それは社会との関わり。

 仕事、それは高みを目指す為の手段。

 

 全て違う。仕事は生きる為にやらざるを得ないものである。

 そう、誰が仕事なんぞ()(この)んでやるんだ。やらなくて良いなら一生したくない。むしろ働いたら負けまである。しかし残念なことに俺は早くも敗北した。

 

「遠征後の休み? 一日で十分でしょう」

 

 華琳様の有り難いお言葉で、休みは一日と決定してしまった。そして、その一日も寝て起きたら終わっていた。

 今の俺は仕事に向かう哀れな社畜。一つ救いがあるとするなら、今日の仕事は単調で面倒な事務仕事ではないことだ。今日の仕事は張三姉妹のアイドル化である。

 護衛兼助手兼お目付け役の冬蘭と共に華琳の屋敷から歩くこと十分ちょっと、街の外れの空地にポツンと小さな建物があった。能楽堂の様な屋根付きの舞台とそこに併設されるように頑丈そうな小屋が建っている。小屋の方が我が比企谷プロの事務所になる。つまりここが張三姉妹をアイドルにする為の拠点であり、今日の仕事場である。

 

「元からあった建物を改造しただけとはいえ、良く半日でこれだけの物を」

「李典さんの工作技術は凄いですね」

 

 感心する俺に冬蘭も相槌を打つ。

 我らのジェバンニこと李典が半日でやってくれました。そのうち小さな砦くらいなら一夜で造りそうだな。

 李典脅威の技術力に慄きつつ事務所の扉を開ける。中では既に張三姉妹が待っていた。

 

「よお、待たせたか」

「い、いえ大丈夫です」

 

 三女で眼鏡っ子の張梁(ちょうりょう)が声を震わせ、俺に答えた。彼女だけでなく張角や張宝も萎縮気味で、視線を俺から逸らしている。

 どうもかなり怖がられているようだ。まあ少し前まで敵だったし仕方ないか。プロデュースを続けていれば、そのうち慣れるだろう。

 

「大まかな今後の予定はもう聞いてると思うが、お前達にはアイドルになってもらう」

「あの……あいどるというのは何ですか?」

 

 張梁の質問を受けた俺の脳裏にアイマス、ラブライブ、プリパラ、そして戸塚が思い浮かんだ。まさに彼、彼女達はアイドルとは何かを体現している。

 

「アイドルってのは愛と希望の象徴であり、人々の憧れの的だ。これからお前達には歌と踊りで人々を魅了する一流のアイドルになってもらう」

「それなら今までとあまり変わらない活動で良いという事ですか?」

「まあな。ただこれからは俺の出す指示に従ってもらう」

 

 三姉妹は多かれ少なかれ不満が顔に表れている。

 今まで自由気ままにやってきたのが、人の下に付くことになるのだから窮屈に感じるのだろう。しかし俺の指示を受ける事は彼女達にとってもプラスになるはずだ。

 

「もちろん出すのは口だけじゃない。この事務所、それと併設している舞台を手始めに支援もしていく」

「あっ、やっぱり隣の舞台って私達の為なんだぁ。すごーい!」

「姉さん単純過ぎでしょ。美味しい話には裏があるって決まってるから」

 

 つい先ほどまでビビりまくってた張角だったが、一転して明るい笑顔になった。

 それに対して張宝は「美味しい話には裏がある」というこの世の真理と言うべき忠告をしている。しかしそれを俺の前で言っちゃったらダメだろう。姉の張角とは違う方向のキャラだが、抜けているのは一緒のようだ。

 長女と次女が愛すべきアホキャラなのは分かったけど、肝心の話が進めにくい。そこで残った張梁へ視線を移すと。

 

「姉さん達は少し黙っていて。もちろん指示は聞きます。でも私達は出来ればもう危険な事は……」

 

 打てば響く。張梁はこちらの意図をくみ取り控えめな調子で意見を言った。

 張梁の心配している事については問題ない。物理的な戦力ではないし、囮などをやらせる予定もない。

 

「こちらの要求としては、人気者になってくれればそれで良いだけだから危険は少ない。それに人を集めて歌や踊りを披露する際には、うちの兵を配置するから、あんたらが旅芸人をやっていた頃より安全だと思うぞ」

 

 宣伝、ライブ、物販と全てこちらが主導でやる。当然、投入される人員は兵が中心になる。例えライブで客が興奮して暴れても、うちの怖い人達に鍛え上げられた屈強な兵士達にかかればどうとでもなる。

 しかし、張宝は違う印象を受けたようだ。

 

「それって監視……」

 

 張宝は俺に見られている事に気付いて途中で口を(つぐ)んだ。

 実はあながち張宝の誤解とも言えない。なにせ黄巾党の前科がある。三姉妹の扱いは慎重にしなければならない。とはいえ余り悪い印象ばかり持たれては今後がやりにくくなる。

 

「護衛だ」

「ええ、護衛です」

 

 完全に言い切った俺と冬蘭へ、三姉妹の反論は誰からも出なかった。

 納得して貰えたようで良かった、良かった。さて、そろそろ話を先に進めないと仕事が終わらない。

 

「問題無いみたいだから具体的な話に移るぞ。二週間後に隣の舞台で客を集め、新生数え役満・姉妹のお披露目をする」

「いっぱい集まると良いな~」

 

 張角が小さく呟く。

 こちらが全て主導するのだから、その辺りは抜かりない。

 

「心配はいらない。確実に客は集まる。だがその時、新生と銘打つのだから新曲が欲しい。そこで今日から新曲の歌と振り付けを練習する」

「し、新曲、ですか。急に言われても用意するのに時間が……」

 

 現実的な張梁が難色を示す。しかし、そもそも前提を勘違いしている。

 

「曲はもう用意してある」

 

 というか既存の曲だ。ただこの世界で知っているのが俺だけなので、新曲として出して問題ないだろう。デレマスの曲なので、オタクっぽくない北郷は知らないだろう。それにこの時代には著作権もジャスラッ〇も存在しないのだ。

 ドヤ顔で用意してあると言ったまでは良かった。だが、ここで一つ大きな問題に気付く。この世界ではスマホが繋がらない。

 あ、あれ、オフライン状態で、で、出来たっけ? そもそも電池切れ間近なんですが。どうすりゃいいんだ。 

 結論、俺が歌って振り付けも実際にやって見せる必要がある。

 俺が歌うのか。ここで、こいつらの前で。

 張三姉妹は端的に言ってプロだ。プロを前にしてぶっつけ本番で歌を振り付け有りで歌うのか。素人の俺が。冗談としても笑えない。

 さらにもう一人厄介なのがいる。冬蘭である。俺を弄る事を趣味にしているような少女だ。何を言われるか分かったものではない。いや、この場で何か言われるだけなら憤死するだけで済む。あらヤダ死んでるじゃないですか。しかし、この件を華琳辺りに……想像しただけで震えが止まらん。

 

「ん? どうしたんですか?」

 

 俺の様子がおかしいと気付いた冬蘭は小首をかしげて尋ねる。普段なら小悪魔的な印象を受けただろう。しかし今の俺には「どうした。早くやって見せろよ」と嗤う悪魔にしか見えない。

 苦境、しかしこういうのは恥ずかしがればより弄られるもの。ここはアイドルになったつもりで歌うしかない。やってやる。大事なのは笑顔、そして笑顔。

 

「鮮やかな色まとう波紋は~~~~♪」

 

 両手の動きに注意、しなやかに軽やかに。

 集中しろ。恥ずかしがっている余裕なんて無いぞ。

 

 

◇◇◇◇◇

 

「眩しい空へと♪」

 

 ここは屋内なので空は見えない。しかしそこに空があるように指差す。

 気付けば曲は終わりを迎える。

 ゆっくりと指を下す。

 

「はあ、はあ、はあ、疲れた」

 

 なんとかやり終えた。いろんな意味で終わってしまった。

 乱れた息を整えながら冬蘭と三姉妹の様子を窺う。冬蘭はなんとも言えない表情をしている。

 

「あ~……これを戦闘時に敵の前でやって戦意を喪失させるんですね。分かります」

「違うっ!」

「絶対効きますよ。なんだか気持ち悪くなってきましたから」

 

 おいおい、例えそれが事実だとしても口に出さないでくれ。八幡泣いちゃうだろ。

 これはダメだったか、と思っていると意外な意見が出た。

 

「良いと思います」

「えええっ! 正気なの、人和ッッッ!!?」

 

 張梁が落ち着いた声で俺の歌を認める。それに張宝が声を荒げた。

 俺の歌を認めた張梁を正気なのか疑うとは失礼な。千年以上先に進んだ歌なんだぞ。

 

「姉さんもおかしいと思うでしょ!?」

「う~ん、難しいことはちょっと」

「全然難しくないでしょっ!」

 

 張宝が張角に話を振ったが、思ったような反応ではなく声を荒げている。見かねた張梁が割って入る。

 

「姉さん落ち着いて。さっきの歌は私達用の歌だから、男が歌うと変に感じただけよ」

「うん、歌自体は良かったと私も思うよ~」

「そ、そうかな?」

 

 張梁と張角の言葉で張宝の態度が軟化した。まあ、本人が嫌だって言ってもやらすけどな。俺にここまでさせておいて、拒否するなんてことは許さん。

 俺はこちらに注目させる為に二回手を叩く。乾いた音に三姉妹の視線が集まる。

 

「納得したなら時間に余裕はないから、早速歌を覚えてもらうぞ」

「「……はーい」」

「アイドルは一に笑顔、二に笑顔、三四がなくて、五に笑顔だ。客の前でそんなしけたツラ晒す気か」

 

 士気の低い三姉妹に喝を入れる。俺はこの瞬間からプロデュースの鬼になる。これも全てはアイドルによる士気高揚と諜報戦を行う計画の為だ。けっして先程歌を披露させられたうえ、酷評された恨みではない。断じて違う。

 

 二週間後、ライブは大成功を収める。広場を埋め尽くす客、客、客の海。俺が教えた新曲も大好評だった。予想外だったのが物販である。職人による似顔絵をウチワへ貼り付けた物が、相当高値にもかかわらず飛ぶように売れた。これなら金銭面でも大きな役割を果たせるかもしれない。




おまけ

張宝「私達にかかればこんなもんね」
張梁「比企谷さんの指示は大体出来るようになりました」
張角「これでもう完璧なアイドルだね」
八幡「アイドルはそんなに浅くないぞ」

張宝「他に何かやる事があるって言うの?」
八幡「ああ。キャラ作り、個性的な人柄を演じるんだ」
張梁「想像もつきません」
八幡「例えばこんな感じだな」

八幡「アイドル目指してウサミン村からやってきたナナですよぉっ、キャハ☆」
八幡「え、年齢ですか? 永遠の十七歳ピチピチです。キャハッ☆」
張宝「うわキッツ……でも十七って事は一番近い張梁で決まりね」
張梁「えっ!?」
八幡「いやこのキャラをやるとしたら張角だ」
張宝「なんでよ?」
八幡「ナナさん十七歳だから」
姉妹「???」

知らなくて良い事ってあるよね。
安部菜々さんは二十七歳説が有力らしい(私には分からん)
ちなみにデレマスはアニメ勢でゲームはやったことない。ガラケーだから(涙)

何故使用曲がTrancing Pulseなのか。何故トライアドプリムスなのか。
その答えに至るヒントは「千葉」

あと真・恋姫†夢想 -革命-を予約しているんですが、華琳の胸なんか萎んでませんか?大丈夫ですか。貧乳は好きですが、華琳の胸は美乳です。

読んでいただきありがとうございました。

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