やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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白き御遣いと黒き御遣い 3

 みんなで頑張って黄巾党をやっつけましょう、と張り切る劉備に返した俺の言葉により微妙な空気が漂う。うちの連中には受けているんだが、劉備達は俺のネガティブな発言へどう反応して良いのか分からないようだ。

 うん、笑えば良いと思うよ。それかスルーして下さい。お願いします。

 

「さて、そっちは戦い終わってすぐだから兵を休ませる必要があるし、こっちも今ここにいない軍師と少し打ち合わせをしたいから話は一旦ここで終わりで良いだろ。後でまた来るから続きはその時に」

「ちょっと待ってくれ。聞きたい事がっ」

 

 微妙な空気に耐え切れず、口早に言って場を解散させようとする俺を北郷が引き留める。そこに華琳も加わる。

 

「確かニホンがどうとか言っていたわね。貴方達は天から来たはずではないの。それとも私達の天と呼んでいる場所がニホンなのかしら?」

 

 華琳は矢継ぎ早に聞いて来る。非常に厄介な流れだ。

 華琳はこれまで俺の過去について深く詮索することはなかった。それを良い事に俺も偶に馬鹿話として黒歴史を少し明かすくらいで、詳しい話をしたことはなかった。それは現代日本や三国志関連の話をして、歴史が大きく変わってしまうのを恐れたからだ。さらに根本的な問題として、ここと俺の知っている歴史の関連性自体かなり怪しいのも警戒を強める一因になっている。

 これらの話題は俺にとって触れるとどうなるのか全く分からない、正直避けたい話題なのだ。が、誤魔化すのにも限界がある。北郷や華琳だけでなく、この場にいる全員から注がれる視線に、逃げ道が無いことを悟る。

 

「天と日本は違う。日本ってのは俺達が住んでいた国の名前だ。一回死んでこっちに転生したから、あの世から来たって扱いで、天の御使いなんて言われているんじゃないか?」

 

「「えっ!!???」」

 

 俺の説明に全員が驚愕する。

 天の御使いというのは、そのまま天国から来たって人という意味だと俺は考えていたんだが違うのか。

 事故死からの異世界転生って設定、一時期流行ったし俺も似たような状況だと思っていたんだがな。あれ? そういえば異世界転生モノの定番である特典を俺は貰ってない。超絶強くなったり、イケメンになったりするアレだよ、アレ。あんな痛い思いしたのに何も無いとか、やはり俺の異世界転生は間違っている。

 それにしても北郷まで驚いているはどういうことだ。

 

「なんで北郷まで驚いているんだ。お前も俺と同じだろ?」

「……いや、俺は寝て起きたらこっちに来てた」

「はあ?」 

 

 俺と北郷はお互いに何言ってんだ、こいつという表情で見詰め合う。

 もしかしたら北郷は自分が死んだ自覚が無いのかもしれない。寝ている間に死んだり、本人が意識する間もなく即死してしまった可能性もある。その場合苦しんだ記憶が無いのは羨ましい。

 北郷はまだ信じられないようで、呆然としている。

 

「なあ、何かの間違いじゃないのか?」

「少なくとも俺はトラックに轢かれて体も動かせないくらい酷い怪我をして、そのまま意識が無くなった。そして気付いたら事故に遭う半年以上前の姿でここにいたからな。死んだって考えるのが自然じゃないか」

 

 

 北郷はかなりショックを受けている。いや北郷だけでなく、この場のほぼ全員が困惑している。唯一あまり動揺していないのは意外にも春蘭だ。

 

「ふむ、どうりで死人の様な目をしているわけだ。一回死んでいるからなんだな。あと【とらっく】とはなんだ?」

 

 アホだから俺の言った事をそのまま信じて戸惑わない。逆に他の奴は死人が生き返ったり動いたりするはずがないとか、天からの御使いなのだからそれ位あり得るのではなどと考えてしまっているのだろう。

 

「しかし、流石は天の御力といったところか。息もしているし、体も温かくて死体とは違う。これで一度死んでいるとは」

 

 春蘭、ぺたぺた触るな。頬を引っ張るな。

 春蘭はうっとうしいが、今はそれよりショック状態の北郷をどうするべきか。人を気遣うなんて柄ではないんだが仕方がない。

 

「……まぁ、あれだ、知らない間に死んでしまったのかもしれないのはショックだよな。でも今、こうして生きているんだからそんなに落ち込むなよ」

「あ、ああ、そうだな。まだ実感はないけど大事なのは今とこれからだよな」

 

 自分で言っていてむず痒いが、一応効果はあったらしい。顔色は悪いが北郷が答えた。後ろで冬蘭と華琳が小声で「相手を追い込んでおいて次に優しい言葉を掛けて懐柔する」「ずいぶんな悪党ね」と囁き合っている。

 そこまで計算してないから、悪党と評した言葉とは裏腹に楽しそうな目で俺を見るのは止めろ。何を期待しているんだ。

 

「……日本に帰るのは無理そうだな」

 

 北郷が大きな溜息と共に呟いた。このイケメンリア充なら俺とは違い、向こうでもさぞ楽しく生活していたことだろう。帰れる見込みがなくなればショックも大きかろう。それでも泣き喚かない分、神経は太いのかもしれない。

 

「俺をこっちに連れて来た者だと名乗った奴がいたから、そいつと話せれば何とかなるかもな。頭巾を被っていて顔は分からんが、多分さっきも話に出ていた占い師と同一人物だと思う。探して見つかるかどうかは怪しいもんだが」

「ありがとう、今は桃香達の手伝いの方が大事だから、時間が出来たら探してみるよ」

「じゃあな、また後で」

 

 今度こそ一旦自陣に戻るべく歩き出す。ちらっと劉備達の様子を窺うと、北郷を囲んで何か話しかけている。ショック状態の北郷を気遣っているのだろう。占い師が見つからなくても、どうせ今みたいに周りの美少女達が慰めてくれるんだから気楽にいけよ。それに比べてこっちはなんだ。さっきから華琳達が無造作に体を触ったり引っ張ったりするんだが。

 

「春蘭の言う通り死体ではないわ」

「しかし、死んだ魚みたいな目をしている理由は分かりましたね」

「ふと気になったのですが、もう一回死んだらどうなるんでしょう?」

 

 

 華琳、死体ではないのは見れば分かるだろ、分かるよな?

 夏蘭、目は元々だから。

 冬蘭は恐ろしいことを言うなよ。春蘭辺りはマジで試しかねんぞ。

 歩きながらもう一度北郷の方を見る。劉備達は北郷を甲斐甲斐しくフォローしているようだ。うらやましくなんてない。うらやましくなんてないんだからね。俺もイケメンだったら、あちらさんのようにハーレム系ラノベ主人公みたいな扱いになっていたのだろうか……いや、ないな。全く想像出来ん。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「───────────というわけだ」

「ぐぎぎぃぃぃぃ」

 

 自陣に帰って来た俺が荀彧に劉備達の陣営でのいきさつを説明すると、荀彧は奇妙な鳴き声を上げた。他人にはお見せできない(つら)をしている。華琳が関羽や劉備に興味を抱いているということまで教えたのがいけなかった。とはいえ黙っていてもすぐに気付くだろうし仕様がない。

 

「ぶち壊しなさい。その協力関係、今すぐぶち壊しなさい」

「華琳の意向を無視すんのか?」

「うぐぅ……」

 

 華琳第一の荀彧なので激しい葛藤に苛まれている。華琳の望みに応えたいという思いと嫉妬心がせめぎ合っているのが、手に取るように分かる。そして、荀彧は葛藤の末に絞り出すように言う。

 

「……劉備や関羽とかいう何処の馬の骨とも知れない女は、華琳様が注目する程の人物だったの?」

「あ、ああ、少なくとも関羽の武力は春蘭にも引けを取らない、と思う」

「劉備の方は?」

「武力や智謀が優れているようには見えなかったな。その代わり人柄が良い」

「ひとがら~?」

 

 そんなものが何の役に立つんだと言わんばかりの荀彧。だが人柄が良い、人に好かれるというのも一つの能力だ。どんな戦いでも多数派の方が有利な場合が多い。数は力だよ荀彧!!

 

「人気者ってのはそれだけで厄介な相手だよ」

 

 終身名誉ボッチの俺が言うんだから間違いない。学校でそういう奴らに嫌われると針のむしろになるからな。ソースは俺。

 そして、何より厄介なのが華琳が劉備に何を望んでいるか、だ。関羽のことは自分のものにしたがっているのが丸分かりだが、劉備については違う。そういう目では見ていない。かと言って取るに足らない相手とも思っていないはずだ。もし、劉備をただの甘ちゃんだと思っているのなら、さっさと関羽を引き抜きにかかっているだろう。むしろ華琳は劉備が強くなって自分のライバルとして立ちはだかることを望んでいそうで怖い。

 

「敵ってのは弱ければ弱いほど良いし、少なければ少ない方が良い。解決しなければならない問題は簡単なほど良いよな」

「当たり前でしょ。あんたと同じ考えだなんておぞましいけど」

「……華琳も同じだと思うか?」

 

 俺の問いに荀彧は黙り込む。華琳はアホで弱い敵より、(さか)しく誇り高い強敵を望んでいるような気がしてならない。荀彧も思い当たる節があるようだ。

 

「まさか華琳様は劉備に自分の好敵手となるのを期待しているとでも言うの!?」

「本人の口から聞いたわけじゃないから分からん。分からんから俺は勝手に出来るだけ劉備達と敵対関係にならないように動くし……敵対した場合も考えて準備がしたい」

「その口振り、私に何かさせる気?」

 

 含みを持たせた俺の口調に荀彧は眉をひそめ、自分の体を隠すように抱きしめ距離を取ろうとする。この流れでエロい事を要求するわけないだろ。そんなのキ●ガイか、薄い本の住人くらいだろ。

 

「大したことじゃない。ちょこっと糧食を持ち出したいだけだ」

「ああん!?」

 

 怖い。めっちゃメンチ切られてる。しかし、俺の作戦に糧食が必要であるし、黙って持っていくと糧食の管理をしている荀彧はもっと怒るから引くに引けない。仕方ないので俺のやろうとしていることの一部を説明することにした。

 話は単純。相手は将の数こそ揃っているが、末端の兵と物資は質、数ともに乏しい劉備陣営である。少量の糧食でも有難がるはず。それに場合によっては陣営の切り崩しにも使える。ずっと物資に乏しい状態でも今までは耐えてきたのだろう。しかし、一度贅沢(ぜいたく)を味わってしまうと、元の貧しい状態がより辛くなる。あちらの名のある将はともかく兵に対してウチの影響力が強くなるって寸法だ。

 まあ、最初は敵対行動にならない程度の情報を得るのと、友好的であるというアピールに使うだけだ、と笑っていると耳元に何かの気配を感じる。

 

「悪い人ですね~」

 

 耳元でねっとりとした声がして、ぎょっとする。慌てて振り返ると笑顔の冬蘭がそこにいた。

 

「おまっ、いつからいたんだ!?」

「最初からです」

 

 荀彧へ確認するように視線を送ってみるが、荀彧も俺同様驚いているようで首を横に振る。冬蘭は動揺している俺達にお構いなしに。

 

「面白い話ですが、一つ致命的な問題があります」

「「えっ!?」」

「八幡さんに敵の懐柔なんて出来るんですか。脅したり挑発したりするのは得意でも、ねえ?」

 

 その指摘は正しい。友達一人作れない俺にはハードルが確かに高い。いや待て、作れなかったんじゃない。必要ないから作らなかっただけだから。あと敵って言うなよ。敵対しないのが第一目標だからな。

 

「でも安心してください。こういう時の為に隠れて聞いていたんです。私なら怪しい見た目の貴方と違って警戒されないでしょう」

「あ、はい」

 

 笑顔の冬蘭に俺は頷くしか出来ない。正直今は劉備達よりお前の方が怖いぞ。心臓が止まるかと思った。




読んでいただき、ありがとうございます。
投稿が遅くなってすみませんでした。

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