やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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白き御遣いと黒き御遣い 1

 所属不明の軍が黄巾党を蹴散らし、散り散りに逃げようとする残党も俺達が対応して、戦いはあっけなく終わった。戦闘が終わると同時に所属不明の軍、俺が官軍(仮)と呼ぶ相手に使者を立てた。戻って来た使者の話では、相手は官軍ではなく義勇兵ということだ。それと話があるなら会いに来てくれれば時間は作るとのことだ。それを聞いた春蘭がブチ切れた。

 

 

「何処の馬の骨とも知れぬ義勇兵風情がっ! 華琳様を呼びつける気か!!!!」

 

 

 すさまじい怒声を春蘭が上げていたが、実は既に義勇兵達の陣の目の前である。これでは今更な話である。華琳は最初から相手が自分達と会うと確信を持っており、使者を出すのとほぼ同時に義勇兵の陣へ向かっていたのだ。

 

 まあ、無名の義勇兵が仮にも官職に就いている華琳を相手にする態度として、褒められたものではない。だから春蘭の気持ちも分からないではない。ただ、華琳自身が先程戦場で見かけた黒髪の美女に会いたくて、待ちきれずに自分から出向いているのだから、春蘭の怒りはここではお門違いだろう。

 

 

「落ち着いてください春蘭姉様。華琳様が問題にしていない事を私達が殊更騒ぎ立てるのは、華琳様の意に反する事になるかもしれませんよ」

 

「うっ、いや、しかしだなぁ」

 

 

 怒りで暴れ出しそうな春蘭を冬蘭が(なだ)める。付き合いが長いせいか、冬蘭も手慣れたものだ。そんなやり取りをしている春蘭達を置いて、華琳はずんずん義勇兵達の陣の中へと進んでいく。それに俺と夏蘭が付いて行く。他の者達は留守番だ。まさか主要なメンバー全員を連れていくわけにもいかない。荀彧が恨みがましい目つきをしていたが気にしない。この職場でこれ位の事で一々気にしていたらハゲるか胃に穴があく。ブラックな職場で働く社畜は、時に鈍感であることを求められる……ん? 俺って社畜なの?

 

 それにしても今の華琳は遠慮というものが欠片も無い。義勇軍の下っ端っぽい兵士が「上の人間に取り次ぐのでお待ちください」と必死に言い募るが、気にせず義勇軍の陣地中心へ足を進める。華琳の立ち居振る舞いや服装などを見れば、義勇兵達から見て自分達より立場がかなり上な人間なのは明らかである。その為、力ずくで止めるわけにもいかず、華琳の歩みを止められる者はいなかった。

 

 華琳に付き従いながら、俺はさりげなく義勇軍の陣の様子を観察する。率直な感想を言うなら、うちの軍と比べてひどくみすぼらしい。武具などの身なりだけでなく、全てが貧弱である。

 

 まず、一人一人の兵の体格からして違う。うちの兵は見るからに鍛えられているのが分かる姿だが、ここの兵達は一般人っぽいのが多い。さらに食事が足らないのか痩せ気味な者が目立つ。ただ士気は低くない。勝ち戦の後というのもあるだろうが、目に力がある。

 

 物資面でも差が大きい。武具だけでなく、物自体が少ない。物資の集積場所らしきものも見えたが、軍の規模の割に小さい。うちならこの規模でも、もっと集積場所を大きくする必要が出るくらい食料や資材を用意する。まさかこの戦力で、俺達が想定しているより短期間で黄巾党を殲滅出来るとは思っていないだろう。単に用意出来なかっただけだと思う。

 

 どんどん進んでいく華琳、それに付いて行く俺と夏蘭。周囲の様子を観察しているだけの俺とは違い、夏蘭の方は華琳や俺を護衛する役目がある。ここの義勇兵達が敵対してくるとは思えないが、馬鹿正直に無防備な状態でいられるほど世の中甘くない。その為、夏蘭はかなり緊張感を持って華琳の斜め後ろの位置を歩いている。少し遅れていた春蘭と冬蘭も足早に追いついて来る。

 

 そして、ついにこの義勇軍のトップ連中と思わしき集まりを発見する。

 

 若い女が二人、そのうちの一人が華琳がご執心の黒髪の君。それと小柄な少女が三人、若い男が一人の計六人が集まって何か話している。そこで黒髪の女がこちらに気付き、警戒を露わに誰何(すいか)の声を上げる。

 

 

「何者だっ!?」

 

 

 こちらを睨んでいる黒髪の女に、華琳は気分を悪くするどころか嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

 

「我が名は曹操。世を乱す黄巾党討伐の為に軍を率いている者よ」

 

「ええっ、曹操さんっ!? さっき使者の人が帰ったばっかりなのに!?」

 

 

 華琳の名乗りに黒髪ではない方の若い女が驚く。そら驚いて当然だろう。まさか使者が帰るとほぼ同時に、その主が到着するなんて普通は考えない。

 

 

「相手の返事を聞くまで何もせず、ただ待ち呆ける人間などこの乱世に飲まれるだけよ」

 

 

 威厳に満ちた大物らしいセリフを恰好良く言っている華琳。いやいや、お前はそこの黒髪の女目当てに急いだだけだろ。少なくとも理由の9割はそうだと断言出来る。さっきからずっと黒髪の女から視線を外さないし、そんな様子を見ていれば分かるからな。

 

 

「まるでこちらの返事なんてどうでも良いみたいに聞こえるな」

 

 

 この場にいる俺以外で唯一の男が口を挟む。そちらへ視線を移す。

 あちらの美少女達の中心に変わった服装の男が混じっている。まるで学園物のエロゲー主人公が着ていそうな白い学ランっぽい制服である。何者なんだコイツ。どっかのコスプレ会場から紛れ込んだと言われても信じてしまいそうだ。だが、改めて周囲を見てみると華琳達の服装もかなりキテいる。実際の三国志の時代にこんな格好をした者はいなかったはずだ。そう考えると、あの男の服装もこちらの世界では普通なのかもしれない。

 

 俺があーだこーだと考えているうちに、その男へ華琳が言葉を返す。

 

 

「今回の場合、私達に会わないという選択はありえないでしょう。未知の軍が近くに現れ、その軍から接触があった。そこで無視を決め込むなんて考えられない。そんな愚者なら最初から私も会おうと思わないわ」

 

 

 後半は挑発するかのような華琳の言い様に男は沈黙する。空気が悪くなりそうなところで、さっき驚いていた若い女が流れを変えようと割り込んでくる。

 

 

「あ、あの、はじめまして曹操さん。私は劉備と言います」

 

 

 りゅうび、まさか劉備じゃないよな。劉備と言えば曹操のライバルだぞ。こんな自信無さげな表情で名乗った女が、まさか、ありえないと凝視する。優しそうな、ともすれば気の弱そうな顔、少し視線を下げると豊かな胸……何故か一、二歩分彼女の体が遠ざかる。不思議に思い視線を上げ、彼女の顔をみると困ったような表情でこちらを見ている。

 

 

「ぅぅ、何か私変ですか?」

 

「いや名前を聞いたことがあるような気がして、な」

 

 

 俺は何気ない様子を装ったのだが、不意に尻に痛みを感じた。何者かが抓っている、というか冬蘭だ。こんな事をするのは冬蘭しかいない。後ろへ振り向くと、呆れたような顔をした冬蘭がやはりいた。

 

 

「(何をやっているんだ)」

 

「(それはこちらの台詞です。怯えさせてどうするんですか)」

 

「(えぇぇ、あれって怯えてるのか)」

 

 

 冬蘭と小声で言い合う中、ショックなことを知った。ちょっと見ていただけで女から怯えられるってどういう事だ。俺が凶悪な性犯罪者にでも見えたのか?

 

 

「劉備と言ったわね。怯えることはないわ。彼は私の軍師で……まあ、敵対でもしない限り害はないわ」

 

 

 うんうん、華琳の言う通りだ。こう見えても俺はうちの陣営では一番無害だぞ。多分俺が一番弱いしな。だから、りゅうびを庇うみたいに前に出てきた黒髪さん、そんな目で睨まないで良いんだぞ。いやホントに怖いので止めてください、お願いします。

 

 

「ああ、いえ、気にしないでください。急にじっと見られて動揺しちゃっただけだから」

 

 

 りゅうびが困ったように笑顔を作って、そんなの気にしないでくださいと両手のひらを振る。こちらに来てからは出会ったことの無いタイプの人間だ。こちらに来てからは極端な人間ばかり相手にしていたので、なんだか和んでしまう。ここでコミュ(りょく)のある人間なら、冗談や自虐ネタでも挟んで自己紹介をするところだろう。しかし、残念ながら俺はそんなものを持った覚えはないので「うっす」と小さな声で返しただけだった。

 

 そんなコミュ障な俺を見かねたのか、それとも場の空気が悪くなるのを嫌ったのか、冬蘭が軽い感じでりゅうびへ話し掛ける。

 

 

「初対面だとちょっと戸惑いますよねぇ、この人の目。でも中身の方は見た目ほど腐っていないので安心してください。あっ、私は曹操姉様に仕える曹純と言います。よろしくお願いいたしますねっ」

 

 

 フォローしてくれているのは分かるが、その言い方だと中身も多少腐ってますよね。ええ確かに腐ってますが、性根とか。ともかく、冬蘭の被った猫は出来が良く、りゅうびの緊張は解れたみたいだ。

 

 

「曹純の姉で曹仁だ」

 

「夏侯惇」

 

 

 しかし、ここで友好的とは言えない夏蘭と春蘭の名乗りである。春蘭に至っては名前しか言っていない。折角和みかけた空気を台無しにしかねない夏蘭と春蘭の脳筋コンビに、溜息を吐きたくなる。まあ、俺も人のことは言えないがな。

 

 

「鈴々の名前は張飛って言うのだっ!」

 

 

 俺の心配は、ちょうひと名乗った少女の明るい声によって杞憂に終わる。ピリピリした空気になりかけていたのが少し和らいだ。しかし別の心配事が再燃する。【りゅうび】と【ちょうひ】ってのは、やはりあの劉備と張飛なのだろうか。しかし、この小柄な少女が張飛なのか。こちらの陣で留守番中の季衣も同じ位の身長だから、ありえなくはない。

 

 それにしても劉備と言えば三国志における最大のビッグネームである。さらに将来、曹操の前に立ちはだかるラスボス的な相手とも言える。こんな所でいきなりラスボス登場とか勘弁してもらいたい。

 

 まさか、こんな厄介事が突然発生するとは思っていなかったので、心の準備も出来ていない。それにどう対応すべきか少し考える時間が欲しいところだ。それとも、とりあえず確認をとるのが先決か。

 

 黒髪の女へ目を向ける。彼女がもし五虎将、もしくは諸葛亮あたりの名を名乗れば確定と考えて良いだろう。黒髪の女はまだ固い表情をしているが、ちょうひが自己紹介を催促するように彼女へ笑顔を向けている。少しの間を置いて渋々といった感じで彼女は名乗る。

 

 

「……私は関羽雲長だ」

 

 

 もうこれ絶対劉備様御一行だ。確定だよ。まだ名前の分からない男と二人の少女もどうせ大物なんだろ。

 

 

「わたしは諸葛亮、軍師をやっていましゅっ、あっ、か、嚙んじゃった。はわわ、こ、こんな時に噛んじゃうなんて!」

 

「お、落ち着いて朱里ちゃん。むしろ緊迫した空気がやは、和らいだからよ、良かったよ! あっ、わた、私はほーとうです。同じくぎゅ、軍師でしゅ」

 

 

 何だ、この可愛い生物は。噛み噛みな二人の少女の自己紹介に頬が緩んでしまう。うちに欲しいな。ハッ、いや待て、それどころじゃない。諸葛亮に鳳統だとっ! この小学生みたいな少女達がっ!! この世界は張飛も含めてどうなっているんだっ!!!?

 

 いかん、とにかく一旦落ち着こう。こいつらが三国志で有名なあの劉備達なのはもう間違いないだろう。そして、この小学生みたいな二人が諸葛亮と鳳統……頭がおかしくなりそうだ。しかし…、もうこの世界はこういうものだと切り替えた方が良いのだろう。曹操達で納得していたつもりだったが、流石に漫画とかで印象に強く残っている関羽や諸葛亮が女性化している方がショックがデカい。

 

 関羽といえばヒゲだろ、ヒゲ。それに諸葛亮は権謀術数や軍略に長けた軍師だろ。何かある度に孔明の罠だと言われるくらい狡猾な人間のはずだ。こんな可愛らしい小学生みたいな少女が、敵にわざと弓矢を撃たせて10万本の矢を手に入れたり、空城の計で敵を騙したりするのか。にわかに信じがたい。信じがたいが、こちらの季衣も同じくらいの身長で、大人の男を空高くブッ飛ばしたりする。その実力を低く見積もるのは危険だ。

 

 それと未だ名乗っていない劉備側で唯一の男も気になる。こちらに来てから出会った有名な武将や軍師は全員女だった。もしかしたら特別な何かがあるのかもしれない。俺が男に注目していると、劉備が男の隣に来た。

 

 

「それでこちらが私たちのご主人様ですっ」

「はあ~? ご主人様ぁ?」

 

 

 語尾にハートマークが付きそうな劉備の紹介に、俺はつい声を漏らしてしまう。劉備達のご主人様って何者だよ。つーか、ご主人様って呼び方はなんなんだ。もしかして、この男がそう呼ばせてんのか。キモっ、だがそこにシビれる! あこがれるゥ!

 

 

「貴様、我らの主に何か思うことがあるのか?」

「気を悪くしたならすまない。俺はそちらの劉備さんやアンタがこの軍のまとめ役かと思っていたからな」

 

 

 関羽は俺の反応に不快感を覚えたようだ。低い声で詰問してきた。ただそれだけで心臓を握りしめられるような緊張を覚える。それを表に出さず、とりあえず謝っておく。ビビったのがバレるのは今後、敵対する可能性も考えて好ましくない。弱味を見せるのは避けた方が無難である。でも関羽の睨みがマジで怖いので謝っておく。口だけの謝罪はタダだしな。

 

 俺の心のこもらない謝罪は関羽にはあまり効果が無いみたいで、その表情は未だに厳しい。だが、他の者には効いたようだ。ご主人様とやらが場を取り持ってくれる。

 

 

「いや、気にしないでくれ。実際に俺は飾りというか象徴みたいなもので、この義勇軍を動かしているのは劉備達さ」

 

 

 爽やかイケメンである。それにしてもコイツは何者なんだ。ゲームやアニメ、あとは横山光●三国志をパラパラっと読んだ程度の知識では見当もつかない。

 

 

「象徴ね……どこぞの名家の人間なのか?」

 

「違う違う。俺の名前は北郷一刀、自分では普通の人間だと思ってるけど、周りから天の御遣いだって言われているんだよ」

 

 

 俺の疑問に男は苦笑しながら答えた。

 いやいやいや、天の御遣いって言った? 目の前の男が一気に怪しく見えてくる。あっ、天の御遣いなんですか実は俺もなんですよ、などと軽くは考えられない。普通なら胡散臭(うさんくさ)い事このうえない。しかし、同時にこの男が名乗った【ほんごうかずと】という日本人のような名は、俺と同じ境遇なのではないかとも思わせる。分からん。どうなっているんだ、この劉備の義勇軍は。俺をここまで混乱させ続けるなんて。

 

 考えがまとまらず、一旦落ち着こうと息を深く吸う。そして、混乱し自然と狭くなっていた視界を拡げるように周囲をゆっくりと見回す。そこで気付いたのは華琳と春蘭の二人と、夏蘭姉妹の反応が違うということだ。四人とも多かれ少なかれ驚いているように見えるが、前者は比較的落ち着いており、後者は視線が俺と華琳の間を行ったり来たりしている。華琳はともかく春蘭が落ち着いているのは不自然だ。もしかしたら何か知っているのかもしれない。俺の考えはすぐ本人によって肯定される。

 

 

「……ふむ、では貴様が白き御遣いということか」

 

 

 春蘭が何気なく呟いた言葉に、俺は華琳達と初めて会った時のことを思い出す。あの時、確か華琳達は俺を【黒き御遣い】と呼んだ。【天の御遣い】ではなく、わざわざ色を付けて呼んだのは、他にも御遣いが存在すると知っていたからか。

 

 劉備の方は無邪気に春蘭が白き御遣いを知っていることを喜び、屈託ない笑顔を浮かべる。

 

 

「あっ、ご主人様のことを知っているんですね。もしかして黄巾党や盗賊の討伐で名声が広まってきているのかもっ!」

 

「喜んでいるところ悪いのだけれど、貴方達の噂は耳にしていないわ。ただ、私達は以前占い師から白き御遣いと黒き御遣いについて話を聞いただけよ」

 

 

 自分たちの働きが評価されたのかも、と喜ぶ劉備だったが華琳はそれを否定する。「ええぇ……そうなんですか」と残念そうな劉備だったが、ふと真顔になる。

 

 

「それじゃあ曹操さん達もあの頭巾を被った占い師さんと会ったんですね。私達もあの人から話を聞いてご主人様と会えたんですよ」

 

「そう。あの怪しい女は方々(ほうぼう)で同じような事を言っていたみたいね」

 

「あっ! でも私の聞いたのはほとんどがご主人様についてでした。黒き御遣いさんは既に他の人の所でお世話になっているみたいだったので」

 

 

 華琳と劉備の会話で黒き御遣いへ話が及ぶと、張飛が話に入って来る。

 

 

「もし黒い方の御遣いさまが他の人の所に行ってなくても、鈴々達とは上手くやれないと思うのだぁ」

 

「り、鈴々ちゃんっ!?」

 

「桃香様、鈴々の言う通りです。あの占い師の説明によれば黒き御遣いは、ご主人様とは対極の存在とのことです。さらに、多くの者に背を向けただの、仁や愛が無意味だの不穏な内容の説明も多く、共に歩んでいくのは難しいと思われます」

 

 

 張飛の言葉に驚く劉備だったが、そこに関羽の追い打ちがかかる。その追い打ちは見事に俺の精神へのダイレクトアタックとなった。多くの者に背を向けたねぇ、その通りだから反論のしようもないが、あのクソ占い師はアッチコッチで俺の過去を言って回っているのか。しかも、それが回りまわって本人である俺の目の前で語られるとか。い、嫌すぎるぞ。

 

 

 劉備は張飛と関羽を「黒き御遣いさんも天の御遣いなんだから、悪い人じゃないと思うよ」と(たしな)めている。それを視界の端に収めつつ、劉備のおかげで少しだけ回復した俺は、華琳に近付き小声で耳打ちする。

 

 

(おい、そんな話は聞いていないぞ)

(そうだったかしら?)

 

 

 平然と返す華琳へ俺は少し語気を強める。

 

 

(他にも御遣いがいるなんて重要な情報を言っていないのは問題だぞ。軍師にとって情報がどれだけ重要か、分からないお前でもないだろ)

 

(私は貴方を選んだ。この件に関して重要なのはそれだけよ)

 

 

 華琳が耳打ちしている俺へと顔を向け、互いの視線ががっちりと絡む。俺が華琳へ耳打ちする為に近寄っていたので、顔が触れそうな距離だ。顔が熱くなりそうで、俺はすぐに視線を逸らしてしまう。華琳がフッと微笑んでいるのが雰囲気で分かる。

 

 

(まあ、これからは情報をなるべく共有するようにしましょう)

 

 

 俺と華琳の会話が一応の決着しようという時、春蘭がとんでもない爆弾を場に落とす。

 

 

「張飛と関羽と言ったか、貴様たちは黒き御遣いが仲間に相応しいかどうか考える必要など無い。黒き御遣いは曹操様に仕えているのだから、元々貴様らの下につく可能性は存在せん」

 

「「えっ、えええええええええええ!!!!!」」

 

 

 劉備達が驚愕する中、華琳と冬蘭が小さく溜息を吐いている姿が見える。その気持ちは痛いほど分かる。わざわざ相手にこちらの手札を晒してどうする。華琳を含めて、うちの陣営は情報の取り扱いについて、一度きちんと話し合う必要がありそうだ。などと半ば目の前の状況から現実逃避をしている俺がいた。




読んでいただきありがとうございます。

当初の予定ではこの話でもう少し進むつもりでしたが、長くなり過ぎたので前・後編に分けます。場にキャラが多いと話が長引く、長引く。

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