やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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黄巾の乱 所属不明の軍と黄巾党の戦い

 敵に包囲された秋蘭達の救出と敵の殲滅が無事終わり、俺たちは張角三姉妹のいる黄巾党の本隊を目指して行軍していた。つい先ほどまで。では今はどうしているのか。

 

 

「ふむ、やはりあの砂煙は戦闘の影響で舞い上がっているようだな」

 

「マジか……」

 

 

 秋蘭の告げた内容にげんなりする。今俺達は行軍を一時停止している。それは先程俺達の進路上、ここから大体1km以上離れた辺りで大規模な砂煙が上がっているのを確認したからである。

 

 まあ、黄巾党の本隊にも大分近付いているはずなので、十中八九戦闘による砂煙だと予想はしていた。それは華琳達も同じで軍を一時停止させ情報収集と対応の協議をしようとしたのだが、偵察を出す前に遠目が利く秋蘭が先の言葉を告げたのだ。

 

 ちなみにこの場にいるのは俺、華琳、秋蘭、冬蘭の四人だけだ。他の面子は直ぐ戦闘になっても良いように陣形を組むなど兵の指揮をしている。距離はあるとはいえ砂煙の原因が俺達の敵で、さらにこちらに攻撃を仕掛けてくる恐れもある。こっちから見えているのだがら、あちらからも見えていても不思議ではない。その為、陣営の主だった者を全て一か所に集めて悠長に話し合う余裕はなかった。

 

 

「それにしても秋蘭は良くこの距離で見えるな」

 

「ふっ、遠間の敵を射るには先ず相手が見えていなければならないからな。他の者よりは眼は良い方だ」

 

 

 感心する俺に誇るでもなく秋蘭は言った。

 あれか、アフリカの狩猟や家畜の遊牧で生活する人達がめちゃくちゃ視力が良いのと同じやつか。俺からするといくら遠くの物がハッキリ見えても、米粒みたいに小さくしか見えないと思うのだが。もしかして望遠鏡みたいに拡大して見えるのか。もうそれ自分と同じ人間なのか疑問なレベルである。

 

 

「戦っている奴らの片方は多分黄巾党だろ。もう一方は官軍か、それとも義勇兵か……」

 

「ああ、片方は黄巾党で間違いない。見たところ数が多いのは黄巾党側だが押されているようだ」

 

 

 俺の推測を聞いて秋蘭が目を凝らす。そしてもたらされたのは久々の朗報だ。黄巾党側が劣勢ならこちらも楽が出来るかもしれない。しかし、肝心な事をまだ聞いていない。

 

 

「戦っているのは黄巾党の本隊か?」

 

「いや、それはないな。黄巾党の本隊は数十万人もいるらしい。あれはどう見てもそんな規模ではない」

 

 

 秋蘭がかぶりを振る。

 はあーめんどくせえ。まだメインディッシュはおあずけのようだ。どうせなら前方で戦っているのが黄巾党本隊で、しかも倒される寸前なら最高だった。それでトドメという美味しい所だけ持って行けたら言う事無しなのに。俺の淡い夢が露と消えたかと思ったが、そこで良い事を思い付く。

 

 前方の戦いは俺達の本命である黄巾党本隊のものではない。そのうえ放っておいても黄巾党側が敗けそうである。つまり─────────

 

 

「ん? じゃあ面倒だからゴホッ……ではなく、ここはもう一方の奴らが勝っているみたいだし手柄は譲って、俺達は先を急ぐってのはどうだ?」

 

 

 黄巾党と戦っているのが官軍か義勇兵かは知らんがここでの手柄は君達のものだ。ほら、せっかくの手柄を横取りしちゃマズイからね。俺たちは遠慮しておこう。

 その遠慮深い俺の提案に待ったをかけたのは華琳だった。

 

 

「そういう訳にはいかないでしょう。あそこで戦っている連中がこちらを認識しているかは分からないわ。けれど、もし戦っているのが官軍でそれなりの地位を持っている者だった場合、後でバレたら非協力的だったと責められる可能性があるわ」

 

「あと八幡さん、本音が漏れてますし」

 

 

 華琳の懸念に冬蘭が何か小声で付け足している。さっきの俺の発言は半分以上冗談だから、ホントだぞ。それにしても確かに華琳が言うような事態もありえる。しかし、そういう文句を言う奴は援護したらしたで、手柄を横取りしようとしたとか言うんじゃねえの?

 

 ったく、厄介だな。色々なしがらみってやつは。やっぱしがらみの無いボッチが最高ってことだな。と言いつつ最近の俺はそのしがらみにガッチリ絡まれている感がある。まあ、この乱世を一人で生きていくなんて無理ゲーだから仕方ないっちゃ仕方ないが、これでは終身名誉ボッチの名が泣くな。

 

 うだうだと愚痴を脳内で垂れ流しつつ、華琳の危惧する事態を回避しながら出来るだけ楽な対処法を考える。

 

 

「んー……それじゃあ、とりあえず黄巾党の背後を取るように動くってのはどうだ? 後は乱戦に巻き込まれないように遠距離から弓でチクチクやってりゃ良い。既に官軍(仮)が優勢みたいだから、それくらいで勝負は決まるだろ」

 

「おおぉ、官軍(仮)に協力すると見せかけながら最小限の労力で事を済ませようという非常にいやらしい策です。それとカッコカリって響き、そこはかとなく馬鹿にした感じがありますね。流石は八幡さん」

 

 

 冬蘭から【さすおに】ならぬ【さすはち】を頂きましたー。しかし全然褒められている気がしない。あと、人をいやらしいとか言うな。そこだけ聞いたら何だかエッチな人みたいだろ。

 

 

「人聞きの悪い言い方は止めろ。効率的と言え、効率的と。この厳しい現実を生き抜く為にはこういう(かしこ)さも必要になるんだよ」

 

「賢さと言うより小賢しいと言った方が正しいでしょう」

 

 

 華琳のツッコミは激しいものではなかったが、素で言われた方が何かダメージが大きい。

 

 

「ぐっ……それなら他にどういう策があるんだ?」

 

「はあ? 何を言っているの。貴方の策でいくつもりよ」

 

「おい」

 

 

 ついジトーっとした目を華琳に向けてしまう。さっきの小賢しいってのはダメ出しじゃなかったのか。俺の非難がましい視線にも華琳はどこ吹く風である。

 

 

「別に小賢しいからといって悪い考えというわけでもないわ。むしろ今の状況には相応しい策よ。神算鬼謀を発揮するような場面でもなし、損失覚悟で蛮勇を示す場面でもない。とても妥当な考えだと思うわ」

 

 

 ええ……じゃあ小賢しいとかマイナスイメージのある事を言わなくても良いんじゃないですかね。などと心の中で愚痴っている俺をよそに華琳は何故か舌なめずりをしそうな蠱惑的な表情を浮かべる。

 

 

「それより気になるのは少数でありながら黄巾党相手に優勢な軍の方よ。貴方の案ならあの所属不明の軍の実力を測りやすいわ。もし見所がありそうなら……」

 

 

 華琳は優秀な人材の収集に貪欲だ。そのうえ相手が見た目の良い少女ならなお良い。今のところ官軍(仮)は前者の条件を満たしそうなので華琳も注目しているのだろう。その目つきは肉食系のそれである。

 

 それじゃあ、まあ華琳さまの望み通りの人材なのか確かめに行きますか。

 

 俺が提案した策を実行へ移すべく冬蘭へ目配せする。すると冬蘭はニコっと無言で微笑み返してきた。キュンっと来た。もう一度視線を送る。今度は首を少し(かし)げながら微笑み返された。MOTTO!MOTTO!

 

 

「い、いや、そうではなくて」

 

「はい、各部隊への指示ですね。黄巾党の背後を取り、攻撃は牽制程度で十分と」

 

 

 混乱気味な俺が改めて意図を説明しようとすると、冬蘭は真顔でそう言った。おい……。

 

 

「ちゃんと伝わっているならさっきのは何だったんだよ」

 

「話の流れからどうして欲しいのかは分かりますよ。しかし言葉も無く、何かをして貰おうとか何処の熟年夫婦ですか。段階を飛ばし過ぎなので少し」

 

 

 ぐぬぬ、咄嗟に気の利いたことが言えずに顔をそらす。伝わっているんだから良いじゃねーか。言いたいことがあるなら最初から口で言え、口で。完全にお前が言うな、である。しかし、年齢=彼女がいない歴の男に美少女の笑顔とか反則だから。画面下に【こうかはばつぐんだ!】と出てもおかしくないくらい効くから止めて。

 

 俺が全国の魔法使い予備軍を代表して冬蘭へ物申すべく顔を向けると、残念ながら彼女はいなくなっていた。残っているのは呆れた表情の華琳と生温かい目をした秋蘭だけだった。

 

 

「冬蘭なら春蘭達へ指示を伝えに行ったわよ。冬蘭とは上手くやっているようね。その調子で桂花ともそろそろ上手くやりなさい」

 

 

 荀彧に関しては完全にあっち側の問題だと思うんだが。一方的に嫌われているからな。それでも最近はそこそこ上手くやっているぞ。話し掛けても罵詈雑言が三回に一回しか飛んでこない。なんか悲しくなってきた。

 

 

 

 

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 俺の発案通りこちらの軍は、戦闘中の黄巾党の背後へと回ろうと動き始める。そこからの戦闘の展開は早かった。既に劣勢な状況でどう見ても味方ではない軍勢(俺達黄色い布なんて付けてないから)に背後を取られそうになれば、当然黄巾党は焦る。元々まともな隊列も無いような状態だったので、背後に備えようとする兵とそれ以外の兵で押し合いへし合いである。

 

 官軍(仮)はそこを見逃さない。なんと中央突破を敢行する。こちらと挟み込む形になっていたのでジワジワいくのかと思ったが、一気に勝負を決めに来た。彼らは易々と黄巾党を真っ二つに切り裂き俺達の方へと抜けて来た。だが彼らはさらに反転、混乱状態の黄巾党へ再度突撃する。彼らはそれを何度も繰り返す。

 

 それは小魚の群れに襲い掛かるサメなどの捕食者のようだ。小魚の群れは何度も切り裂かれ散り散りになる。こちらはバラバラに逃げようとする敗残兵の対応だけで良かった。

 

 

「勝負にならないな」

 

「ええ、そうね。……見なさい」

 

 

 華琳が指差した方向を見る。長い黒髪をなびかせ薙刀のような武器を振るい黄巾党の兵達を蹴散らす美女がいた。混乱状態でまともな抵抗も出来なくなった黄巾党相手なので官軍(仮)の戦っている誰もが活躍している。しかし、彼女はその中でも突出した存在感を示している。彼女が武器を振るうたび、賊は刈られた草のように薙ぎ倒されていく。近くにいる黄巾党の兵は恐れおののき、彼女に付き従う兵達は奮い立つ。まるで彼女を主役とした劇だ。

 

 フッと華琳は笑う。

 

 

「取るに足らない雑魚相手でも真に秀でた者は実によく輝くものね。……欲しいわ」

 

 

 華琳は背筋がぞくぞくするような笑みを浮かべている。何処の誰かは知らないけれど、黒髪さん逃げてー。うちの華琳さまはノンケでも平気で喰っ……いや流石にレイ●はしないか。そういう話は聞かないよな。俺が知っている百合相手は皆合意のうえのはず。

 

 面倒なことにならなければ良いが。華琳を見てそんな事を考えていたら、華琳がこちらに目を向けた。

 

 

「どうかした。心配そうな顔をして、もしかして妬いているの?」

 

 

 妬いてないから。ホントのホントに妬いてなんかいないんだからね。うん、男のツンデレは気持ち悪いな。戸塚? 戸塚は性別・戸塚だからOK。そもそもツンデレじゃないし。

 

 

「嫉妬とかそういうのではなくて、面倒な事になりそうだなーと思っただけだ。嫉妬するのは他の奴らだろ」

 

 

 この後、俺が思っていた以上の面倒事が待っているのだが、この時の俺はまだ知る由もなかった。

 眼前の戦い自体はこちら側にはほとんど死傷者は出ず、無事に終了した。しかし、剣や弓でやるものだけが戦いではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。


いやー黒髪の美しい少女かー。持っているのは薙刀みたいな武器かー。どんな青龍偃月刀でしょうねー。
ダレナンダロウナー(棒)
官軍(仮)って実は官軍ではなく、どこの義勇兵なんだろー。


エロゲ版の華琳さまも強姦はしていないはず、多分。確か。……してませんよね?
記憶が曖昧です。

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