やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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邂逅

 俺をここに連れて来たと言った女性が姿を消し、彼女が「俺を必要とする人」と指差した土煙が直ぐ傍まで来ていた。数十人の馬に乗った人達が俺を囲む。古代の兵士の様な格好でかなりの迫力だ。

 何なんだこの集団は?

 騎馬の集団の中から3人の女性が歩み出た。3人以外は同じ格好をしている。恐らくこの3人が集団のトップなのだろう。周りの態度を見れば分かるし、何より本人達に他とは違う存在感があった。

 特に真ん中の少女は凄まじい。3人の中では一番小さいのについ跪きたくなる様な貫禄みたいなものを感じる。

 いや、小さいというのは全体的な話であって胸のことではないよ?

 中央の少女は3人の中では一番背が小さい。金髪で青い瞳なので日本人ではないだろう。あとドリルが2つ頭についている。俺から見て左にいる女性は赤を基調とした服を着ている。瞳も赤っぽい。カラコン? 髪は黒髪で腰の辺りまである。俺から見て右にいる女性は青を基調とした服を着ている。髪も青みがかっている。染めているにしては自然な色合いだ。

 全員似合ってはいるが奇妙な出で立ちだ。少なくとも千葉でこんな格好をした人間を俺は見たことが無い。しかしコスプレの様な仮装といった感じは一切しない。とても自然である。それに3人とも非常に美しかった。そして3人それぞれ違ったタイプの美しさだが2つ共通点が有った。

 1つ目は髑髏のデザインの物を身に着けている。よくよく見れば周りの兵士みたいな人達も髑髏のデザインの兜や肩当をしていた。

 2つ目は怖いという事だ。俺は人間観察が趣味のような所がある。むしろ集団の中にいる時、俺は基本1人だから周囲の人間を観て察する事しかしないし出来ない。だから観察眼だけは自信がある。そして、その観察眼が告げている。

 

この3人はヤバい。

 

 怒らすと大変な事になる。絶対に。陽乃さんと初めて会った時も危険を感じたがこの3人はより物理的な危険を感じる。

 3人の中でもリーダー格だと思う中央の金髪美少女が話しかけてくる。

 

「貴方が黒き御使いかしら?」

「いや違う……と思います。御使い? って何の事だか」

 

 

 つい敬語になっちゃった。だって怖いんだもん。それと何その滅茶苦茶中二臭い呼び名。仮に俺がそう呼ばれる者だったとしても頷きたくないぞ。中学時代の俺や材木座……材ナントカと言う奴なら喜びそうだが。俺が否定すると黒髪の女性が掴みかかる勢いで怒鳴ってくる。

 

「嘘を言うな。頭巾を被った占い師がこちらに黒き御使いがいると言ったのだ。それに貴様の服装は見たことも無い様な物だ。天から来た黒き御使いに違いない」

 

 天って……天って何処だよ。

 そんな地名聞いたこと無いぞ。それとも空の上に人が住んでいるとでも思っているのか? そんなこと本当に信じている人とはちょっと仲良くする自信が無いです。あっ、そもそも人と仲良くする事自体少なかった。

 仲良く出来そうにない黒髪の人が詰め寄ってくるが青い人が止める。

 

「まあ、待て姉者。そんな調子では話が出来んぞ」

 

 この青い人とは仲良く……出来るとは言えないが話はし易そうだ。あと、今姉者って言ったか。凄い呼び方だな。やっぱこの人とも仲良く出来ないわ。素で姉者とか言っちゃう人はちょっと無理だわー。

 

「私達は頭巾を被った占い師に天の御使いが此方に降り立つと聞いたのだ。そして占い師は天の御使いを得れば天下を獲れるとまで言ったのだ」

 

 う、嘘だろ。それ信じちゃったの。ねえ本当に? 普通信じるかそんな言葉。俺が普通とか言っちゃうくらい可笑しいぞ。

 

「私達も頭から信じていたわけではない。もしかしたらと思ってな」

 

 怪訝な顔をしている俺を見て青い人が弁解する。

 そらそうだ。でも貴方の姉者は絶対信じてたよ。それにしても頭巾を被った占い師か……。多分俺をここに連れて来たって言っていた女かその仲間だろう。何を言っているのはさっぱりな女だった。アイツに比べれば青い人は話が通じそうだ。

 

「天は兎も角、頭巾を被った怪しい女には俺も会いましたよ。少し前までここにいましたし、貴方達を指差して俺を必要とする人って言ってました」

「嘘を吐くな!我々は占い師と話して直ぐ馬でここまで来たんだぞ」

 

 口を開くたび怒鳴るのは止めて欲しい。反射的にビクッとなってしまう。

 

「まあ仲間がいた可能性もあるし、同一人物とは限らないん……じゃないかと」

「確かに」

 

 意外と素直だな。いや意外ではないか。単純そうだし。

 青い人と金髪の少女は生暖かい目で黒髪の人を見ていた。

 アホの子なんだろうな。同じアホの子でも由比ヶ浜と違って肉食系、いや肉食獣といった感じだが。

 

「落ち着いて話したいから街に付いて来てもらっていいかしら?」

 

 金髪の少女の提案に頷く。

 こんな所でいても仕方が無いので当然である。それに提案の形だったが兵士に囲まれている状態で断り様がない。断ったが最後彼女達が態度を豹変させて力づくで、となっては目も当てられない。

 

 街に着くと料理屋(たぶん)に入った。時間帯の関係か客は少なかったが青い人が店の人に声をかけるとその客達を帰らし貸切状態にした。やっぱり偉い人なんだろう。

 金髪の少女の対面に座ると青い人が質問を始めた。

 

「では、先ず名前は?」

「比企谷 八幡」

「比企谷 八幡。おぬしの生国は?」

 

 ショウコクって何だろ。こちらに意味が伝わってないのが分かったのだろう。

 青い人が言い直す。

 

「生まれた場所は何処だ」

「日本の千葉です。」

「この国に来た目的は?」

「意識がない間に頭巾の女が連れて来たみたいです」

 

 あの女、色々言ってたけど只の誘拐犯じゃね。

 

「天の御使いという呼び名に心当たりは?」

「ないです」

「……華琳さま」

 

 青い人が溜息を吐いて金髪少女に振り向く。

 華琳って名前なのか。意外と普通の名前だった。もっとこう、カトリーヌとかそれっぽい名前を名乗っちゃうかと思っていた。

 その華琳が首を横に振る。

 

「日本や千葉なんて地名聞いたことないわ」

 

 日本語喋っているのに日本を知らない? どういうことだよ。しかも、この人達にスマホとお金を見せたが初めて見ると言っていた。スマホ知らないとか何処のど田舎だよ。お金に関してもやはり初めて見る物で細工が緻密だと驚いていたし。

 そういうキャラ設定なの。痛い子なの?

 

「この貨幣の細工は凄いわね。細工が細かいうえ寸分も違わない精度で作られているわ」

 

 華琳は硬貨を何枚か並べて見比べてしきりに感心していた。

 少し面白い事を思い出した。

 

「お酢と汚れていい布を用意してくれませんか」

 

 理科の授業かテレビで観た情報なのかは忘れたが、この人達なら驚くんじゃないかと少し悪戯心が出た。

 布に酢を染み込ませ十円玉を擦って見せた。十円玉は瞬く間に美しい銅本来の色と輝きを取り戻した。

 

「どういうこと!?」

「すごいな」

「華琳さま、お下がりください! こ奴、妖術使いかもしれませぬ」

 

 華琳と青い人は驚いただけだったが黒髪の獣は剣を抜き立ち上がった。

 

「待ちなさい春蘭!斬っては駄目よ!」

 

 あっぶな。華琳が止めなきゃ斬られていた。ちょっと驚かしただけで命の危機かよ。

 

「これは妖術じゃない。誰でも出来る事です」

 

 酢を染み込ませた布を机に置いて他の十円玉を渡す。

 

「やってみれば分かります」

 

 3人は代わる代わるに試して歓声を上げた。

 一番喜んでいたのは春蘭だった。なんとなく分かった。こいつアホの子だわ。

 そして代わりに3人が持っていたお金を見せてもらった。それを見て俺は嫌な予感を覚え始めた。見せてもらったのは銅貨だった。真ん中に四角の穴が開いていた。

 俺はこれと似た様な物を見た事がある。それは世界史の資料集で、古代中国で作られた貨幣として写真が載っていた。時代は確か秦だったか、漢だったか正確なことは分からない。ただ一つ確かなことは千年以上前の貨幣という事だ。だが目の前にある銅貨はそんなに古い物には見えない。

 この3人が妄想癖のあるガチのコスプレイヤーで、この銅貨もレプリカである可能性も考える。しかし、どう見てもそういう類の人間には見えない。

 

 まさか……俺はタイムスリップしたのか?

 

「今の王朝は何王朝ですか?」

「何を言っているの。漢王朝に決まっているでしょ」

 

 おう……マジか。

 3人が俺を呆れた顔で見ていたが、そんなは事気にならなかった。3人とその護衛っぽい人達に囲まれた時から可笑しいと思っていたんだ。鎧等を身に着け馬に乗るわ。街についても車一台見なかった。

 どうすんだよ、これ。

 俺が呆然としていると華琳に袖を引っ張られる。

 

「ねえ、聞いてるの? この貨幣を何枚か譲って欲しいの」

 

 どうやら俺が呆然としている間に話しかけていたらしい。

 

「ああ、何だったら全部あげますよ……。その代わりここの事をもっと教えて欲しいです。あと当面住む場所も、行く所が無いんですよ」

「いいわよ。元々、貴方を探して連れて来たのは部下にする為だったから。ただ実際貴方に会って部下にするのを止めようか迷っていたのよ。目が敗残兵みたいだったから。」

 

 あの女、傷は直しても目は治さなかったんだな。だがあっさり住む場所は確保できた。そういえば俺の事を得られれば天下が獲れるとか何とか言われて真に受けたんだったな。

 

「名前をまだ教えていなかったわね。私の名は曹孟徳。それから彼女達は、夏侯惇と夏侯淵よ」

 

 ん? 今なんて言った。

 

「えーと。もしかして曹操さん?」

「ええ、何処かも分からない様な所から来たのに私の名を知っているのね」

 

 曹操と夏侯惇と夏侯淵のセットってそれ何ていう三国志。但し、全員女。

 タイムスリップではないかもしれない。余計に混乱してきた。何なんだここは?

 

 




3人が初対面で八幡の目について何も反応しなかったのは占い師から事前に目が濁っているって聞いていたからです。書き忘れたわけじゃないんだからね。








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