やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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黄巾の乱 前哨戦4

 鬼気迫る勢いで俺を追い掛けて来た敵騎兵。春蘭率いる主力部隊を突破し、さらに数え切れないほどの矢をその身に受けても止まらなかった化け物じみた彼らが、たった一人のおっさんによって秒殺されてしまうという信じられない光景を見て俺は少しの間唖然としていた。

 

 

「滅茶苦茶つえー……」

「ほら大丈夫だったでしょ」

 

 

 冬蘭は事も無げに言うが、俺からすると驚きしかない。あのおっさんは絶対名のある武将に違いない。冬蘭の部下にこれほど凄い人材が隠れているとは予想外だった。しかし、よくよく考えると有名武将の中には名家の出ではない、下から成り上がった者もいるだろう。俺は三国志の武将の生い立ちまでは知らないし、そういう事もあると思う。

 

 

「それにしても凄いのが部下にいるんだな。近いうちに優秀な将になるんじゃないか」

「彼の場合、うちでは普通くらいの強さですよ」

「はあっ? いやいやいやありえねーよ。普通って、あんなのが普通なわけあるか!?」

 

 

 冬蘭が嘘を吐いているとまでは言わないが、話をちょっと盛り過ぎだ。あのおっさんが普通なら冬蘭の部下達はどんな人外集団なんだよ。ありえない、ありえないと俺がハッキリ否定すると冬蘭が少しムッとして周囲の部下を呼び寄せた。

 

 

「皆さん、あの位のことなら出来ますよね?」

「うちの部隊では出来ない者の方が少ないでしょう」

 

 

 冬蘭の呼びかけに応じて集まった数人の部下のうち一人が当然の事のように言った。集まってきた彼らは賊と比べて体格が良く、戦いの素人である俺から見ても強そうである。さっきのおっさんと比べても遜色の無い実力がありそうだ。と言う事はマジで冬蘭の部下はあんなのばっかりなのか。

 

 恐ろしいな。

 

 元々冬蘭の物腰が柔らかいのは半分くらい演技だと俺も思っていた。しかし、冬蘭の部隊がまさかバリバリの武闘派だったとは意外だ。俺が恐々と冬蘭を見ていると、

 

 

「私の部隊は精鋭ですけど、先程の敵をあっさりと倒した理由はそれだけではありませんよ」

「えっ?」

「よく考えてみてください。冷静さを失い全力で私達を追いかけ、こちらの本隊に激突し何とか突破したところをありったけの矢で射掛けられたんですよ。いくら狂気に近いまでの闘志を持っていたとしても動きは鈍くなっています。冷静に当たれば問題ありませんよ」

 

 

 冬蘭の説明の八割、九割は納得できるが「冷静に当たれば問題ない」という部分に関しては怪しいものだ。それって【ただし冬蘭隊に限る】とか注意書きがあるんじゃねえの? まず、あんな狂人じみた相手に冷静でいられるか。さらに一人で複数人を相手にするとなればハードルは上がるだろ。

 疑わしげな俺の表情を読み取ったのか冬蘭の語気が少し強くなる。

 

 

「それにですね。私の部下は元々腕利きを集め、特別な訓練を経て、幾つもの実戦も潜り抜けているんです。素人に毛が生えたような賊相手に遅れをとったりしませんよ」

 

 

 完全に初耳である。腕利きを集めて特別な訓練って、それ何て言う特殊部隊。冬蘭達は俺の補佐ということになっている。つまり実は知らない間に俺の周辺が特殊部隊で固められてたのかよ。これからは気軽に声なんてかけられねーな。元々彼らへ気軽に声を掛けた事など皆無だが。厳ついおっさん達と気軽に喋ることが出来るようなコミュ力なんて、ボッチの俺にあるわけが無い。

 冬蘭と話していると本隊の方から歓声のようなものが聞こえてきた。

 

 

「「おおおおおぉぉぉぉぉぉ」」

 

「こちらの勝ち鬨ですね。どうやら終わったみたいです」

 

 

 冬蘭の言葉を聞いて、俺は体が軽くなった。それだけ緊張していたのだろう。戦場は初めてではないが、やはり実際に相手から直接狙われるのはキツかった。ほっと一息つくと、そのまま座り込みたくなるが、その欲求を抑える。

 

 

「ふぅ……華琳達に合流するか」

「ええ」

 

 

 一応今回の戦いは終わったみたいだが次もあるし、何より秋蘭達の無事を早く確認したい。馬を本隊の方へ向けた。冬蘭達も後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が本隊と合流してすぐ、秋蘭達もやって来た。こちらから向かおうとしていたのだが、秋蘭達は秋蘭達で俺に誘き出された敵の背後を突こうと村から打って出ていたので、そのまま合流する形になったのだ。そして秋蘭達には意外な同行者がいた。それは以前勧誘した楽進、李典、于禁の三人だった。

 どういう事情なのか聞きたいところだが、先に華琳が仲間を労う。

 

 

「皆無事のようね。秋蘭、季衣、私達が着くまで良く持ち堪えたわ。他も者も賊の殲滅、おおむね見事だったわ。それで、そちらの三人は?」

 

 

 緊張気味な三人に代わって秋蘭がまず話し始めた。

 

 

「華琳様、こちらの三人はあの村の者です。三人は義勇兵として村人を良く指揮し、おかげで被害が抑えられました」

「そう……確か以前私の街で会ったわね。楽進、李典、于禁という名前だったわね。あなた達の働きで私の大切な部下が助かったわ。ありがとう」

 

 

 華琳も三人を覚えていた。俺が覚えていたのだから当然と言えば当然か。それにしても楽進達の村だったとは凄い偶然だ。

 華琳の感謝の言葉に、楽進が恐縮しながら一歩前に出て頭を下げる。

 

 

「礼を言わねばならないのは我らの方です。村を助けていただきありがとうございます」

「民を守るのも私達、官の務めのうちよ」

「あ、あの、それでお礼というわけではありませんが先日のお誘い……受けようかと」

 

 

 楽進の申し出は有難いものだったが、華琳はすぐ受け入れたりしなかった。

 

 

「理由を聞いても良いかしら?」

「はい、今回村を襲った連中には他にも首謀者や多くの仲間が別の場所におり、これから曹操様達はその討伐に向かうと聞きました。そこで曹操様達に我らも同行し協力して討伐を成功させれば、今回のように村が賊の大軍に襲われる心配も無くなると思いまして」

 

 

 今回の賊は殲滅したといっても、大本が残っていたのでは何時また襲われるか分かったものではない。それと先程俺達が賊を瞬く間に殲滅した実力を見て勝機を感じたのだろう。

 

 

「分かったわ。実力の方は秋蘭が褒める程なら問題ないでしょうし、頼りにしているわよ」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします。我が真名は(なぎ)、この真名と命を曹操様達にお預けいたします」

 

 

 楽進が頭を下げると李典、于禁の二人もそれに続く。

 

 

「うちは真桜(まおう)言います。ほな今後ともよろしゅうお願いします」

沙和(さわ)は沙和なのー。お手柔らかにお願いなのー」

「ええ、あなた達も期待しているわよ」

 

 これから敵の首謀者と本隊を叩きに行くというタイミングで、実力者の新加入は有難い。華琳も満足そうに三人を見つめていたが、ふとその視線が俺へと移り、目が合った。

 

 

「それはそうと、彼女達を見込んだ目に間違いはなかったみたいね」

 

 

 三人の勧誘を華琳へ勧めたのは確かに俺だ。持ち上げられて悪い気はしないが、楽進達の勧誘を勧めた一番の理由が知っている武将の名前だったというものなので複雑な気持ちだ。

 

 

「八幡の目は濁ってはいるが、曇ってはいないのだな」

 

 

 なんか上手いこと言ったという表情をしている夏蘭に少しイラっとくる。曇りより濁りの方がイメージ悪いし。つーか夏蘭の言葉を聞いて皆笑っているのが納得いかな……いこともない。色々あったせいで奉仕部に入った頃に比べて濁りは酷くなっているだろうし、こればっかりは仕方が無い。逆に今更俺の目が少女マンガみたいなキラキラお目目になっても困るだろ。

 

 

「まあ、白河の清きに魚も住みかねて、なんて話も俺の住んでいた国ではあったからな。澄み切った状態より、ちょっと濁ったくらいの方が良い事もあるんだよ」

 

「「……?」」

 

「清らか過ぎる水では魚も棲みづらい、ということね」

 

 

 俺の話を聞いて何のことだかさっぱりだ、という面を晒している春蘭・夏蘭コンビとは違って華琳はある程度分かったみたいだ。

 

 

「ここで言うところの魚は人で、清廉潔白ではあるが厳しすぎる政治を行った者への皮肉だな。つまり俺の目の濁りは良いことであるという結論に至る」

「濁りすぎて沼みたいになっていたら、魚も棲みにくいと思いますよ」

「沼にだって雷魚(らいぎょ)(なまず)ぐらいいるだろ」

 

 

 冬蘭の茶々に俺が言い返すと華琳がニッコリと俺へ微笑みかけた。笑顔ではあるが、どうも猫が獲物をいたぶる時のような雰囲気も感じる。

 

 

「それなら貴方を好んで傍に置いている私達は雷魚や鯰といったところなのかしら?」

「い、いや、それは……」

 

 

 口ごもる俺に、華琳は「冗談よ」と軽く流す。そして茶化すような空気を改め、真面目な表情でこう続けた。

 

 

「今回の仕事も見事なものだったわ。ここまで巧みに相手を操るなんて流石は天の御使いといったところね」

「その呼び方は止めてくれ。まるで仙人かなにかみたいだ」

「そうか、賊を挑発して村から引き離したのは八幡の手管だったのか。村からでは八幡の姿までは見えなかったが、敵が瞬く間に陣から飛び出していなくなった時は驚いたぞ」

「今回の第一功はあなた達囮部隊よ」

 

 華琳と秋蘭の賛辞がこそばゆい。それに俺としてはあまり上手くやれたという実感が無い。何故なら俺の印象では、作戦中の大部分が必死に逃げている時間だったからだ。

 

 

「褒めてもらえるのは有難いが、こっちは必死こいて逃げているだけだったからな」

「策ばかり弄して、普段から鍛えていないから慌てることになるんだ」

 

 

 自嘲気味な俺に春蘭が苦言を呈する。それは逃げている最中に俺自身痛感したことなので、ぐうの音も出ない。ホント、乗馬はもっと練習しないと敵から逃げるのすら覚束ない。剣? 矛? 何それ美味しいの? 直接闘う方はとっくの昔に諦めている。季衣と初めて会った時、季衣の攻撃で賊が宙を舞っているのを見て俺は悟った。

 

 あっ、これ次元が違うわと。

 

 鍛えてどうにかなる話ではない。当初こちらの世界に来てすぐの頃は、ほんのちょっぴりだが剣を学ぼうと思ったりもした。しかし、そんなものは全く役に立たないとハッキリ思い知った。こっちの武将と俺との力の差は、地球人とサイバイマン位ある。クリリンや天津飯? 鼻が無かったり三つ目の人間がいてたまるか。あいつらは地球人にカウントされねえ。

 必死こいて鍛えてもヤムチャってしまう未来しか見えない。それなら自分を鍛える時間で強い兵士を増やす算段をした方が効率が良い。

 

 

「本来戦いというものはだな。正面からガツンっとぶつかって気合で叩き潰す力、それが一番大事だ」

「そりゃいくらなんでも極論過ぎるだろう。正面から無策で突っ込むなんて被害が増えるだろ」

「私だって何の考えも無く言っているわけではないぞ」

 

「「えっ???」」

 

 

 春蘭と新規加入組の楽進達以外の全員が驚きの表情で固まった。春蘭と【考え】という言葉は相容れないもの、それが彼女のことを知っている俺達の共通認識だ。

 

 

「待てお前達、その反応はどういう意味だ? それに華琳様まで何で驚いているんですかっ!?」

 

 

 流石に華琳にまでそんな反応をされてはショックを隠しきれない春蘭だった。でもな春蘭、お前の普段の言動を省みれば仕方がないことだぞ。軍議でのお前はいつも【正面から叩き潰す】や【気合】などのお決まりの言葉しか言っているイメージが無いからな。多分みんな、お前の頭の中には筋肉が詰まっていると思っているぞ。

 しかし、華琳もこの流れで春蘭へその厳しい現実を突きつけるつもりはないようだ。

 

 

「……ゴホン、それで春蘭、貴方の考えとはどういうものか聞かせなさい」

 

 

 誤魔化した。あの華琳が誤魔化した。言いにくい事でもズバっと言いそうな華琳ですら誤魔化すしかないとは、春蘭恐るべし。まあ言いづらいわな。どうでも良い奴が相手ならともかく、本気で自分を慕っている相手だとな。

 

 

「……はい、分かりました。良いか、八幡。敵の不意を打ったり、策で弱らせた敵を相手に勝つのは当たり前だ。そんなことを繰り返しても強くなれるわけがない。いつも策を張り巡らせ、準備万端で戦えるわけではない。いざという時に困ることになるぞ」

 

「「……」」

 

 

 意外、春蘭の説明はまともだった。予想外だった為か、皆コメントに困って黙ってしまう。

 

 

「な、なんなんだ。その反応はっ! 普段お前達は私をどういう目で見ているんだ」

 

 

 正直に言ってしまっても怒らないなら言うんだが、春蘭はまず間違いなく激昂する。だから俺は何も言わないし、他の者も何も言わない。

 

 

「ぅぅ……なんなんだ。とにかくっ! 厳しい実戦を経ていない兵は、大事なところで脆いぞ。策を弄してばかりではいかんのだ」

 

 

 俺達の反応に困惑しつつも、春蘭はそう言い切った。とっさに言葉が出なかった俺だったが、思いがけない所から助け舟が現れる。

 

 

「もっともらしい事を言っているけれど、そこの男が無様に逃げ回っていた原因の半分はアンタでしょ」

 

 

 荀彧がぶすっとした表情で春蘭へ毒舌をかます。

 それは別に構わないんだが、今の【無様】ってわざわざ言う必要あった? お前の毒舌は挨拶代わりかよ。荀彧の毒舌には文句を言いたい。今までの分も含めてガッツリ言いたい。しかし、それより気になる部分があった。

 

 

「俺が逃げ回っていた原因の半分というのは、どういう事だ?」

「今回あんたの仕事は敵を私達本隊のもとへと誘き出すところまでよ。でも、あんたは本隊とすれ違った後も追われていたでしょ」

「ああ、敵の一部がこちらの本隊を突破しやがったからな」

 

 

 怒り狂った敵に追いかけられ、命からがら逃げ切ったと思ったのに敵が突破してきた時は、絶望しそうだったぜ。

 

 

「その突破された原因が夏侯惇なのよ」

「はあっ!?」

 

 

 荀彧の衝撃的な発言に、俺は思わず声を上げながら春蘭の方を見る。そこで春蘭は目を逸らしやがった。

 おい、本当なのかよ。春蘭の反応を見るに、何かやましいことがあるのは確実みたいだ。

 

 

「あんたが誘き出した敵を、私達本隊が迎え撃つ。その際にこちらの兵数が少なく見える様に布陣し、機を見計らって兵を横へと展開させて突然大軍が現れた様に見せかけ、敵の動揺を誘うという作戦だったでしょう?」

「ああ……そ、そうだな」

 

 

 なぜか異常なまでにヒートアップして説明を始めた荀彧に、俺は圧倒されて少しどもってしまう。どういうこと? ここで怒るとしたらお前じゃなくて俺だろ。そんな風に釈然としない中、荀彧の説明はその熱を高めていく。

 

 

「そこで重要なのは兵を展開させる時機を見極めることでしょ。早すぎても遅すぎても駄目、この私が細心の注意を払って機を窺っていたのに……何処かの馬鹿がよりにもよって、兵が横へと展開する前に突撃を始めたのよ。それに釣られて一部の兵まで前進を開始したせいで、兵が十分に展開しきれないまま敵と接触、影響の大きかった右翼を突破されてしまったの」

 

 

 荀彧が怒りのあまり、今にも地団太を踏みそうな様子で春蘭を睨んでいる。

 そういえば作戦会議の時に、兵を展開するタイミングの見極めについて荀彧はかなり気負っていた。作戦を立案した俺からの挑戦とか、挑発だとか言っていたと思う。

 実際のところ、俺には荀彧へ挑発などの意図は無かった。あの時は春蘭に発破を掛けたつもりが、そこに荀彧まで反応してしまっただけである。しかし、荀彧としては兵の展開のタイミングを完璧に見極め、俺を見返すつもりだったのだろう。それを春蘭に水を差されて怒っているようだ。

 まだ文句を言い足りない感のある荀彧をとりあえず放置して、俺は気になった事を春蘭に聞いてみる。

 

 

「それにしても何でいきなり突撃なんてしたんだよ?」

「お前が敵に勢いを付けすぎたと言っていたから……だな。こうガツンと一発、出鼻を潰してやろうと思って」

 

 

 俺の疑問に春蘭は言い辛そうにしながらも理由を告げた。

 

 

「それで敵に突破されたら意味ねえーだろ!」

「出鼻どころか、ほぼ全体を潰すことに成功したのだから問題無い」

「あるわっ、問題大有りだ! 俺が追われてるだろっ!」

「冬蘭の部隊が付いているのだから多少の追っ手くらいで慌てるなっ!!!」

 

 

 怒り狂った敵に追い回された恐怖の分、俺の語気は荒くなった。それに春蘭が怒鳴り返す。

 

 

「冬蘭の部隊は最精鋭だぞ。数人の賊相手なら物の数ではないはずだ。つまりお前を追った敵など数のうちに入らん、存在しないも同然ということだ」

 

 

 その実力の一端を垣間見ているから冬蘭隊が精鋭なのは理解している。リアル夏侯惇っぽいおっさんは滅茶苦茶強かったし、そのおっさんが部隊の中では普通レベルというのだから驚きだ。でも春蘭の理論は飛躍しすぎである。存在しないも同然って、言い訳にしてもブッ飛んでいる。

 

 

「いくら冬蘭隊が強くても、敵が突破した事実までは無くならないからな」

「はあー……春蘭」

 

 

 俺の指摘にバツの悪そうな表情をしていた春蘭だったが、華琳が長い溜息と共にその名を呼ぶと身を(すく)ませた。

 

 

「今回は全体に大きな影響を出さなかったことを鑑みて、多くの敵を倒した功績で失態を相殺にするわ。だから罰は与えないわ……但し今後は軍師陣の指示は守るように」

「はい……」

 

 

 罰は無いとの華琳のお達しである。しかし、華琳の呆れた様な表情を向けられてションボリしながら返事をしている春蘭は、既にそれ自体が罰を受けているみたいなものだ。春蘭の場合、物理的な罰より華琳に責められる方が余程効きそうだ。

 

 

「それと八幡、貴方も慌てる程のことではないわ。貴方に付けている冬蘭の部隊は私の軍でも特に精鋭よ。あの程度の賊に追われたくらいでどうにかなる様な者達ではないわ」

「まさかあそこまで強いとは思っていなかったんだよ」

「将についてはある程度把握しているようだけれど、貴方の立場なら各部隊の実力や特徴も知って置かなければならないわよ」

 

 

 華琳の言うことは正しい。今までの俺はその辺りが曖昧な認識だったと思う。春蘭達はともかく、兵達もその辺の賊よりは強いだろうな、くらいにしか考えていなかった。春蘭達については既にある程度分かっているが、それぞれの部隊にまでは目が向いていなかった。思い返してみると、どんな部隊かも知らない相手に命を預けていたのか。背筋が寒くなるな。

 

 考えが足りていない。

 

 俺には戦闘能力が無いのだから、頭で勝負しなければならない。それなのに味方の兵についてすら把握しきれていないとは危機感が足りなかった。気を引き締めなくてはいけない。

 華琳が天下を望むなら、将来的には関羽や諸葛亮なんかを相手にする可能性が高い。関羽は春蘭や夏蘭がいるからそんなに心配していないが、俺の相手は諸葛亮だぞ。羽扇(うせん)片手に悪辣な罠を仕掛け、「今です!」とか言って俺を陥れようとするんだろう。勘弁してくれ。正直俺は知力勝負で勝てる気がしないぞ。

 かくなる上は─────────────

 

 

「味方の実力の把握は当然として、そこからさらに強化していかなくては」

「あら、随分やる気じゃない。それなら丁度良いわ。そういう事は冬蘭が一番得意よ。参考になさい」

 

 

 超他力本願な俺の方針だったが、華琳は何をプラスに捉えたのか普通に助言をくれた。

 

 

「冬蘭は幼い頃から部下や使用人の扱いが上手かったのよ。だから優秀な兵を与えていたら、今では私の軍でも最精鋭部隊にまで育ったの」

「すげえな」

 

 

 冬蘭の見た目、どう見ても俺より年下なのに人の扱いや育てるのが上手いってのは稀有な能力である。人使いの荒い奴なら何人か知っているが、育てるのが上手いって、むしろ自分自身がまだ成長途上なのにな。

 

 

(褒められているのに何故か侮辱された様な気がするのは気のせいでしょうか?)

 

 

 冬蘭がぶつぶつ小声で何か言っている。何を言っているのか分からないが、気のせいだと俺は思うぞ。まだ慌てるような時間じゃない。

 

 

 

 

 

 

 




八幡 「やめて……私を罠に掛ける気でしょう? 横山光輝三国志みたいに」
???「はわわ……」




長い、長すぎる。私には五千字超えの話はキツイっす。しかも登場人物が多いのが、またキツさを増幅します。可愛い女の子は多ければ多いほど良いんですが、それを書くとなると難易度が……。

この話に入れる予定だった冬蘭隊のおっさんとの会話は、次の話でやります。

読んでいただきありがとうございます。

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