やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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黄巾の乱 前哨戦1(作戦会議)

 秋蘭達の危機に一時は軍の士気が低下しそうになる。

 

 自分達が到着するまで秋蘭達が持ち堪えている事を祈るしかないのかと嘆く春蘭。そこで華琳は到着するまでの時間を逆に利用して、作戦を立てる事が出来ると言って鼓舞した。

 

 それに【秋蘭や季衣が名も通っていない様な相手に時間稼ぎすら出来ないとでも?】という言葉にはその場の誰もが納得した。

 

 分厚い雨雲がかかった様な雰囲気の行軍だったが、華琳は見事にその雨雲を晴らして見せた。そんな華琳が俺と桂花を見る。

 

 

「それで、軍師として何か考えはあるかしら?」

 

 

 何かと言われても俺の戦術に関する知識なんて、ゲームや歴史などで学んだ程度である。とはいえ今の春蘭よりはまともな策を出せるだろう。先程伝令が報告した内容を思い返す。

 

 

 敵の数は四千から五千程度。

 

 今回の敵は今までの暴徒より統制されている。ただし、正規兵ほどではない。

 

 秋蘭と季衣が率いる兵は五百。そこに村の義勇兵三百が合流している。

 

 本隊であるこちらは七千五百。数の上ではこちらが有利である。

 

 戦場の状況は、防御柵によって囲まれた村で秋蘭達が防衛戦を行っている。

 

 柵の内側は何の変哲も無い村なので、敵に入り込まれると守り辛い。

 

 村の周囲は見通しの良い平野。

 

 

 そもそも選択肢は少ない。秋蘭達も何時までも耐えられるわけではない。大掛かりな仕掛けをする時間は無いと考えた方が良いだろう。

 

 

「……そうだな。必要なのは出来るだけ早く村へ着く事と、村を包囲している敵を引き離す事か」

 

 

 状況を整理しようと、一度口に出す。特に誰かに聞かせる為に言った訳ではないが、俺の言葉に華琳と桂花は頷いていた。それに比べ春蘭の方は首を傾げている。

 

 

「訳が分からんぞ。騎馬隊で先行する以外に早く着く手段があるのか? それに何故敵を村から引き離すのだ? 村にいる秋蘭達と我々で挟み撃ちにしてしまえば良いではないか」

 

 

 俺としてはただの独り言だったのだが、こうもハッキリ聞き返されると答えない訳にもいかない。

 

 

「例えばだが、直ぐに使わない糧食や装備を少数の見張りを付けてここに置いていけば進軍速度は上がる。但し、今から戦う予定の相手以外に賊がこの辺りにいたら物資を奪われる危険性があるがな」

 

「賊の心配は少ないでしょ。何度か周囲に斥候を出したけれど、それらしい報告はなかったわ」

 

 

 意外な事に桂花は俺の物資の一部を置いて行くという案を否定しなかった。むしろ肯定的に見える。何も言っていないが華琳も特に不満は無さそうだ。

 

 春蘭は俺の言っている内容を本当に理解しているのか怪しいが、一応頷いている。

 

 

「そちらについては分かったが、村から敵を引き離すというのは、どういう意味があるんだ?」

 

「秋蘭達が守っている場所が、俺達の街の様な城壁に囲まれているのなら、そのまま攻めても問題無いんだがな。報告を聞く限り柵自体、即席で作った物らしいし。こちらが突撃をして圧力をかけた結果、柵が耐えられずに破られるかもしれん」

 

 

 即席の柵では数千人分の圧力に耐えられないかもしれない。現物を見た訳ではないが、楽観視する事は出来ない。

 

 まだ何か言いたそうな表情の春蘭へ、俺はさらに説明を続ける。

 

 

「万が一にも敵に村へ侵入されると厄介だ。それに乱戦になれば秋蘭達の危険も増えるし、今回は開けた場所での野戦の方が良いだろう」

 

「知らない村の中で乱戦なんて避けるべきね」

 

「それに将の能力だけでなく、兵の数と練度まで勝っているのだから、余計な要素が絡まない方が良いという事ね」

 

 

 桂花と華琳が確認するように言ったので、俺は頷いた。それにしても流石華琳である。説明していない部分まで察してくれるので話が早い。

 

ただ、約一名付いて来れているか不安な者がいる。チラっと春蘭の方を見てみると、案の定理解出来ていない様子だ。完全に固まっている。フリーズしたパソコンかよ。

 

 固まってしまった春蘭を見た桂花が、呆れた様子で首を横へ振っている。

 

 

「夏侯惇、貴方は余計な事を考えなくていいわよ。どうせ貴方の仕事は主攻なんだから。敵を村から引き離すのは……」

 

 

 何故か桂花が俺の方へと視線を移す。凄く嫌な予感がする。

 

 

「そこの男と曹純が適任でしょ」

 

 

 嫌な予感はすぐに的中した。よりにもよって囮かよ。そら、憎まれ役はお手の物だが最前線なんかに行きたくないぞ。

 

 桂花はそんな俺の不満そうな顔に気付いたのか。春蘭ではなく俺の方を向いて説明を続ける。

 

 

「仕方が無いでしょ。私だってアンタなんか使いたくないけど、これが適材適所よ」

 

 

 こうもハッキリ言われてしまうと、俺も否定しづらい。俺だって最初から分かっているんだ。春蘭と夏蘭は小細工をさせるより、ここぞというタイミングで突撃してもらった方が力を発揮するってのはな。

 

 今回は張角三姉妹のいる黄巾党の本隊との戦闘が控えているのだ。コチラの被害を最小限にするのは当然として、中途半端に叩いて残党狩りに時間がかかってしまうなどという事態も避けたい。出来れば一気に片を付けたいのだ。

 

 大きな策を仕込む時間が無く、それでも早く敵を殲滅したい。そこで春蘭と夏蘭の突撃である。うちの軍で最大の攻撃力を誇る二人の突撃を最善のタイミングと状況で敵にぶつける事が出来れば、勝負を一気に決められる。

 

 それと華琳には春蘭が突撃するまで近くにいてもらう必要がある。何故なら秋蘭がいないので春蘭の手綱を握れる人間が華琳しかいないのだ。春蘭が入れ込みすぎて突撃のタイミングが早くなり、十分に村から離れる前に本格的な戦闘になってしまっては困る。

 

 そして、そうなると必然的に囮役は冬蘭と俺へ回ってくる。

 

 桂花が残っているって? 俺と桂花では戦力的に不安過ぎるうえ、二人しかいない軍師が揃って最前線で囮役をやるなどありえない。それと、これまで俺が見た限り、冬蘭と桂花はどうも相性が悪い。一見するとノリの軽い冬蘭を桂花は好きになれない様だ。冬蘭の本質は【軽く】など無く、普段の態度の半分くらいは演技だと俺は思うのだが……まあ、今言っても桂花がすぐに納得することはないだろう。

 

 結局、囮役を冬蘭と俺でやるのが一番妥当だろう。俺が敵を誘き寄せる策を立てて大まかな流れを指示し、実際の兵の統率を冬蘭がこなす。不本意ではあるが、まさに桂花が言った通りの適材適所だ。それにしても、なんでこうヤバイ役どころばっかり俺が適材なのか。

 

 

「はあー、気は乗らないが仕方ねえか。それじゃあ、後は本隊のぶつけ方だな」

 

「何を言っているんだ。お前が誘き出した敵を私と夏蘭で粉砕する。それだけの話だっただろ」

 

「大雑把に言えばな。だが、態々馬鹿正直にぶつかってやる必要はない」

 

 

 そう、大掛かりな策を仕掛ける時間は無いが、馬鹿正直にいくこともない。俺は天邪鬼なんだよ。

 

 俺が口を歪め笑みを浮かべて言うと華琳が続きを促す。

 

 

「何か考えがあるようね」

 

「大したものじゃない。本隊の一部を伏せておけば良いんだよ」

 

(ひら)けた平野でどうやって伏兵を隠すと言うんだっ!」

 

 

 華琳へ答えた俺に春蘭が噛み付くような勢いでツッコミを入れてきた。

 

 

「伏せると言っても伏兵じゃない。実際にうつ伏せになっておくんだよ。縦に長い陣形を敷いて、前列を騎馬隊で固める。それで後方の兵が地面に張り付いていれば、丘や高台の無い開けた平野では近付くまで敵からは見えない。敵がこちらを侮って向かって来たところで……うつ伏せになっていた兵達を立たせて陣形を横に広げれば」

 

「敵からすれば突然、大軍が現れた様に見える……のか? そんな子供騙しでは相手を一瞬動揺させるくらいではないのか」

 

 

 俺の説明を聞いて春蘭が首を傾げる。そこで俺は挑発するように鼻で笑う。

 

 

「その少しの動揺で十分だろ。お前達ならな」

 

「っ! 当然だ!!!」

 

 

 春蘭は一瞬ムッとしたが、直ぐに気合の入った返事が返って来た。春蘭の扱い方が最近分かってきた気がする。というか分かり易過ぎだ。

 

 

「フンっ、面白いじゃない」

 

 

 俺と春蘭のやり取りの横で、何故か桂花まで気合の入った表情で俺を睨んでいた。いやホント、何でだよ。俺は何も面白くないんだが。

 

 

「その作戦だと伏せていた兵を立てさせ突撃させる機を見極めるのが重要じゃない。少しでも早ければ此方の攻撃より先に相手が動揺から立ち直ってしまい、遅ければこちらの陣形が整う前に相手の攻撃を受け止める羽目になってしまう。並の軍師には難しい事だけど、華琳様の軍師ならこれくらいの見極め出来て当然と言いたいわけね。その挑発、乗ってあげるわ」

 

「お、おう」

 

 

 ええ……挑発? した覚えなんてないんだが。まあ、やる気になっているのなら良いのか? これ以上何か言って藪蛇になったら困るしな。やる気が()る気に変わって俺へ向けられたら大変だ。こいつの場合、冗談抜きでそれがありえるからな。

 

 俺に言いたい事を言った桂花は華琳へ「任せて下さい完璧に差配して見せますから」と意気込んでいる。

 

 触らぬ神に祟りなし。桂花の意識が華琳へと移ったのを良い事に、俺は闘志に火が付いた桂花を刺激しないよう、気配を消してゆっくりと距離をとっていく。自然にその場からフェードアウトするボッチの特殊スキルである。久しぶりに使ったが良い出来で、上手く逃げられたと確信を持った。しかし、この世界はそう甘くはなかった。

 

 小さく笑う声が聞こえる。

 

 

「本隊組は気合十分のようね。……それに囮役の方も桂花の言う通り適材ね」

 

 

 視線を感じて華琳の方を見ると、ばっちり目が合う。彼女は笑みを浮かべていた。

 

 

「焚きつけるだけ焚きつけておいて、逃げる手管も完璧と言ったところかしら?」

 

 

 元の世界でも高い効果を発揮したフェードアウト術が、全く効かなかった。所詮一般人相手にしか使っていなかったスキルである。同じ様に効くと考えるなど甘い考えであった。

 

 華琳のせいで見事に桂花と春蘭の意識がこちらへ向く。おかげで目的の村の近くに付くまで、延々と二人の相手をする羽目になった。こいつら一人ずつならまだ扱い易いのだが、二人揃うと凄まじく面倒くさい。あっちを立てればこっちが立たず、どちらか一方を宥めても、もう片方が混ぜっ返す。そのうえ性格が真逆なので、二人同時にあしらうのも難しい。本当に面倒臭い奴等だ。

 

 俺は秘かにステルス技術の向上を心に誓う。

 




本当は短くするつもりだった秋蘭達の救出と凪達との合流。
今後の展開的に早く軍師としての経験を積むエピソードを入れる必要があったので、長くなっています。もっと駆け足で行きたいのですが、なかなか思い通りにはいきませんね。


今回、ボッチステルスが華琳によって破られました。八幡は自分が甘かったと思っています。しかし、華琳は一度八幡の気配隠蔽にしてやられているので、対応出来ただけです。注意して使えば、初見という条件込みで武将クラス相手でもそこそこ効くだろうと思います。

読んでいただきありがとうございます。

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