やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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†御使い†

「……その張角という旅芸人が各地で発生している暴動の原因だと言うの?」

 

「ああ、多分な。彼女とその姉妹達の向かうと言った先々で暴動が起こっている。それも偶然と呼ぶには重なり過ぎている」

 

 

 俺は夏蘭達と共に行きつけの料理屋から戻ると、華琳へ張角三姉妹が暴動に何か関係しているのではないかと説明した。ただ話を聞いた華琳は、あまり納得した様子ではなかった。

 

「根拠としては薄弱ね」

 

 

 華琳だけでなく、夏蘭と冬蘭も訝しげな表情をしている。俺としてはほぼ確信を持っているが、その理由の全てを華琳達へ説明出来ないのでもどかしい限りだ。とは言え俺の知っている歴史をそのまま教える訳にもいかない。

 

 まあ、それならそれでやりようはある。簡単な話だ。華琳達が納得出来る根拠を作ってしまえば良い。

 

 

「暴動を鎮圧した時に捕まえた奴らが何人かいるだろ。そいつらで確かめれば良い」

 

「いくら尋問しても首謀者に関しては、頑なに喋らなかったと聞いたわよ」

 

「大丈夫だ。こういう取っ掛かりさえあれば手はある」

 

 

 俺の言葉に華琳達はどういう事か見当もつかないといった表情である。そこで俺は華琳達にも分かるよう簡単に説明する。

 

 

「いいか、別に口を割らせる必要なんて無いんだよ。こんなのは軽く揺さぶって、そいつの反応を見れば大体分かるもんだ」

 

「そんなに上手くいくものなのか?」

 

 

 夏蘭が疑いの眼差しを俺に向けている。こういうのは口で言うより、実際に見せた方が早い。

 

 

「ふっ、疑うならお見せしましょう。天の尋問というヤツをね」

 

「「うわぁ……」」

 

 

 その場のノリで少し芝居がかった口調で言ってみると、三人ともドン引きである。いや、ちょっとふざけただけで、その反応は酷くないか。

 

 

「怪しさ倍増です。……やたら変な石を買わせたがる占い師くらい胡散臭いです」

 

 

 冬蘭が呆れている。しかしな、冬蘭。ゼロに何を掛けてもゼロなんだぞ。つまり、俺は普段から怪しい所など無いのだから倍にしても怪しくないんだぞ。

 

 それにしても、こっちの世界にも霊感商法なんてやっている奴がいるんだな。いや、むしろこっちだからこそか。初めて華琳達に会った頃に妖術使いだ、なんだと騒いでいたし、こちらは迷信深い者が多いのかもしれない。そういう所は時代の差なのか。これは今からやる尋問にも活かせるんじゃないか。

 

 最初は軽く鎌をかけて反応を見るだけで良いと思っていたが、試してみる価値はあるな。今後も使えるかもしれないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 早速夏蘭が暴徒を一人、牢から連れて来る。連れて来るというか、持って来たと言った方が正確か。両手両足を縄で縛られた暴徒を夏蘭が担いで部屋へ入って来た。

 

 

「私が付いているから暴れても問題無いがな。念の為に縛っておいた」

 

 

 夏蘭がそう言って元暴徒、現在芋虫状態の男を俺の前に転がした。男を担いでいる姿はまるで人攫いであったが、余計なことは言わないでおこう。

 

 さて、先ずは床に転がされた男を観察してみる。

 

 男はしばらくの間、牢に入れられていたせいか薄汚れているが、それ以外はいたって平凡な見た目だ。中肉中背で顔も特別柄が悪いわけでもない。以前、冬蘭と尋問した盗賊に比べると何処にでもいそうな見た目である。突然縛られて牢から連れ出され、知らない人間達の前に転がされて若干の怯えも見てとれる。

 

 これはチョロそうだ。

 

 男が不安そうに視線を泳がせていると、丁度目の前にいる俺と目が合った。

 

 

「な、なんだ、お前。お、お、おれは何も喋らんぞ」

 

 

 男がどもりながら言ったセリフ、それは完全にフラグである。

 

 こういうのは演出が重要だ。なるべく、それっぽく見える様にした方が効果は高いだろう。男から不気味に見える様、不敵な笑みを浮かべてみる。男が一瞬目を逸らした。

 

 

「……俺はお前達のような罪人を裁く天の御使いだ」

 

 

 イタタタタ、自分で言っていて鳥肌が立った。名前の前後に【†】とか記号を付けそうな名乗りだ。元の世界でやったら良くて失笑、下手すりゃオツムを心配されるレベルである。しかし、目の前の男は失笑するどころか震えだしそうな様子だ。結構本気で天から自分達を裁きに御使いが現れたと思っているのだろう。

 

 

「お、おれは罪、罪人なんかじゃねえ」

 

「村を襲い、人を傷つけ略奪をしておいて良く言う。これから、お前とその仲間を罰を与えるが……もし自分の行いを悔い改め、俺達に協力するなら罰も軽くなるぞ」

 

「おれに何をさせるつもりだっ」

 

 

 男の声は震えている。

 

 

「お前達が何故暴れるのか、その理由と首謀者を教えるだけで良い。簡単だろ?」

 

「……ハッ、天の御使いだとか偉そうに言っておいて、そんな事も分からないのか」

 

 

 俺の問いを聞いて男は急に態度を変えた。天の御使いというのがインチキだと判断したのだろう。俺が本物の御使いでないなら怖くないといったところか。

 

 男が俺を馬鹿にしたような目で見る。それもすぐに終わる。こいつを奈落の底へ落とす言葉を俺は告げる。

 

 

「償いをする気があるか試しただけだ。しかし、無駄だった様だな。お前も、お前が庇う首謀者もより重い罰が妥当なようだ」

 

「ば、馬鹿にするなよ。脅したって、おれは何も教えんぞ」

 

 

 強がる男へ俺は意識的に口元を歪めて見せる。もったいぶる様にポケットからスマホを取り出す。もう充電する手段が無い為、普段は切っているスマホの電源を久しぶりに入れる。

 

 

「お前から何かを聞き出す必要は無いんだよ。こいつでお前の魂の一部を抜き、心の内を暴いてやるからな」

 

 

 男は俺が何を言っているのか正確には理解していないだろう。俺も自分で言っていて良く分からん。とりあえずヤバそうだと思わせられれば良い。

 

 華琳達も俺の邪魔をしないように黙って見ている。夏蘭が話したそうにしているが、冬蘭に口を押さえられているのが視界の端に見えた。

 

 俺はスマホを男に向け、カシャっと写真を撮る。きちんと撮れているか画面を確かめた後、男にその画面を見せつける。

 

 

「ほら、お前の魂の一部を抜き出してやったぞ」

 

「ひぃぃぃっ! お、おれが、おれが板の中に入ってる。どう、どうなってるんだ!?」

 

 

 俺は男の肩へ手を置き、初めて見るカメラにビビりまくる男へ追い討ちをかける。

 

 

「さあ、首謀者の名前を暴き出してやろう。……ほう、見えるぞ。張という字が見えてきた」

 

 

 男は目をぎゅっとつぶり、脂汗をダラダラと流しながら俺の声を聞かないようにしているようだ。しかし、そんな事は許さない。

 

 

「どんなに耐えようとしても無駄だ。もう既にお前の魂の一部は抜き出しているのだからな。……ほら、もう分かったぞ。首謀者の名前は張角というのか」

 

 

 俺が張角と言った瞬間、男はビクリと身を竦める。その顔は唇まで蒼ざめている。その反応から誰が見ても俺の言葉が当たったのは明らかだ。だが、まだ終わりではない。

 

 

「……他にも見えるぞ。そうか。張角には姉妹がいるんだな。はあ~姉妹揃って重罪か。どんな罰が相応しいかな。天の裁きは厳しいぞ」

 

「お、お赦しを……どうかご慈悲をっ! あの()達は何も悪く、悪くありません。おれ達が勝手に暴れただけなんです」

 

 

 もう完全に俺の言葉を信じ切ったようで、男は必死である。ここまでくれば、まな板の鯉である。

 

 

「慈悲と言ってもなあ~。自らの罪を償う気も無い奴にかける慈悲など存在しないだろ。折角一度は機会をやったのに、お前はそれを無駄にしてしまったからな」

 

「どうかっ、どうかお赦しください御使い様! なんでもしますからっ!」

 

「そうか、それは良い心がけだな」

 

 

 思いの外上手くいった為、つい笑みを浮かべてしまう。すると男は今日一番の怯え方を見せた。どういう事だ。

 

 

 

 

 男は知っている事を洗いざらい喋った。用済みとなった男は兵を呼んで牢へ戻す。男がいなくなると華琳達が口を開いた。

 

 

「インチキ占い師どころでは無かったわね。どちらが悪人か分からないわ」

 

「今のを見ていると、この男をここで斬っておいた方が世の為ではないかと思ってしまうな」

 

 

 いや、そんな物騒なこと思うなよ夏蘭。それと華琳は部下が仕事を頑張ったんだから褒めろよ。

 

 

「うーん。こういうの、本当に板に付いてますね。外道な感じの八幡さん、私は嫌いじゃないですよ」

 

 

 冬蘭が俺の腕を抱えながらニコっとしながら言った。破壊力抜群、でも俺は外道じゃないから。

 

 とにかく欲しい情報は大体得られた。特に有益だったのは張角三姉妹の居場所である。これで終わりの無いかに思えたモグラ叩きもすぐに終わらせられる。─────────そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 結論から言えば、先にやらなければならない事が出来てしまった。張角三姉妹の居場所から少し離れた場所で大規模な暴動が起こったと報告が入ったのだ。今までのものとは規模が違い、戦力を分けて討伐する事も出来ない。素早く暴動を鎮圧し、張角達が移動する前にそちらにも向かわなければならない。

 

 直ぐに出発出来る兵を率い、季衣と秋蘭が偵察隊として向かった。後から華琳自ら本隊を率いて合流する予定である。ちなみに俺も本隊組だ。そして俺達本隊組の出発間際、今更ながら官軍から一連の暴動が黄巾党の仕業であり、これを鎮圧するようにと各諸侯へ通達がなされた。その諸侯の中にはもちろん華琳も含まれていた。

 

 黄巾党と官軍、それに官軍の要請を受けた諸侯達の激しい戦いの波がやって来る。しかし、既に首謀者やその行先を把握し、討伐の行軍準備を終えて出発しようという俺達は、確実に彼らより一歩も二歩も先んじているはずだ。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
お待たせしました。省略する予定だった所を書いてしまい、また遠回りしてしまいました。短くいくつもりが、どんだけ尋問好きなんだよという……。



夏蘭「俺は†天の御使い†だ(笑)」
冬蘭「お前の罪は天から使わされた俺が裁く」ズビシッ(指差し)
八幡「やめろおおおおぉぉ」

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