やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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嫉妬

尻が痛い。いや変な意味ではないぞ。だから腐女子の皆さん、ウォーミングアップは始めないでくださいお願いします。これは馬に乗るという慣れない事を長時間やっているせいで痛くなっただけで、深い意味はないからね、ホント。

 それにしても周りの連中が平気な顔をしている所を見ると、訓練次第で何とかなるんだろう。今の俺は乗馬の練習をこちらの世界に来てから始めたので、未だ馬の上に乗っているだけの状態だった。

 まあ、出発前から色々あったが、今回の遠征はここまでは順調だった。俺の尻以外は。

 秋蘭がこちらを気遣って近寄って来た。

 

「八幡、辛そうだが大丈夫か?」

「……尻がかなり痛いぞ」

「ん? ……ああ、それは慣れるしかないな」

 

 いっそ荷物だけ馬に載せて俺は馬から降りて行きたい。今のところ行軍速度は歩兵の足に合わせた小走り程度の速さなので、それでも付いていけるだろう。その事を常に俺の傍に控えている夏蘭や冬蘭にも言ったのだが、即却下されてしまった。

 曰く、馬に乗れないのではこれから困る。早く慣れる為にも辛くても乗り続ける必要がある。

 夏蘭に真顔でそう言われては我慢するしかない。車や電車が恋しい。自転車でも良いから欲しい所だ。

 

「それにしても大変な事になったな」

「荀彧の事か?」

「そうだ。八幡が華琳様に桂花の事を試してみた方が良いと進言しなければ斬っていたと夏蘭が言っていたぞ」

 

 秋蘭の言う通り、あのままだと荀彧は斬られてしまっていたかもしれん。

 

「それと、何故八幡は桂花の事を真名で呼ばない。華琳様に私達は真名を呼び合うように言われたではないか」

「だって荀彧本人が俺に真名を呼ばれるの、すげえ嫌がってたじゃないか。嫌がられてるのにわざわざ真名で呼ばなくても良いだろ」

 

 真名を呼ぶ前から俺は荀彧になんか睨まれてたからな。火に油を注ぐような真似はしたくないぞ。

 俺の場合、人に嫌われる事は今更あまり気にならない。だが、接点の無かった相手にここまで敵意を向けられるのも珍しい。これから同僚として長い付き合いになるかもしれないのに面倒な事だ。いっそ無視してくれた方がやり易い。

 

「何か嫌われるような事をしたのか?」

「華琳にも同じ事を聞かれたが、俺にも分からん」

 

 秋蘭は何でそんな疑わしげな目で俺を見るんだ。俺が嫌われる様な事をすると思うのか? えっ、思う? でもな秋蘭、俺はアイツとは接点ゼロだぞ。

 

「気になるなら本人に聞いてみよう。おおーい、桂花!!」

 

 近くで黙って俺と秋蘭の会話を聞いていた夏蘭がいきなり大声で荀彧の事を呼び始めた。

 止めろ、マジで止めて、止めてください。

 

「いや、呼ぶなよ。面倒だから……って来ちゃったし」

「曹仁、私に何か用?」

 

 荀彧がこちらに近付いてきた。嫌われているみたいだからって、普通いきなり直接本人に理由を聞くのかよ。何考えてるんだ。いや、特に考えて行動している訳ではないんだろう。出会ったばかりだが夏蘭は春蘭に負けず劣らず短絡的な所がある。今回も本人の言う通り、分からないから聞いてみようと言う事だろう。

 

「桂花は何で八幡の事を嫌っているんだ?」

「「……」」

 

 ホントやめろ。いや、止めてください夏蘭様。いくら何でも直球過ぎるだろ。せめて俺のいない所で聞いてくれよ。荀彧も含めて全員固まってしまったぞ。しかも沈黙が気まずいし。

 

「……別に、生理的に受け付けないだけ」

 

 沈黙はかなり長い時間だったが、荀彧が最終的に言った内容はこれまた酷い物だった。奉仕部の頃に雪ノ下が挨拶代わりに言っていた毒舌に慣れていなかったらショックのあまり引き篭もっていたかもしれん。

 

「ふーん、じゃあ仕方がない」

 

 仕方ないってなんだ。納得するなよ、夏蘭。そしてこの気まずい空気を何とかしろよ。お前のせいだぞ。

 

「桂花、八幡は華琳様も認めた軍師候補だ。お前も華琳様の下で軍師をしたいのなら、仮に生理的に受け付けなかったとしても態度には気をつけろ。味方の軍師同士が不仲だと士気に関わる」

「わ、分かっているわよ」

 

 

 秋蘭の言葉に荀彧が理解はしているが、感情的には受け入れ難いといった感じで答えた。特に秋蘭が「華琳様も認めた」と言った所で忌々しげな表情をしていた。

 

「用がこれだけなら私はもう行くわよ」

 

 そう言って荀彧は離れて行った。

 何か視線を感じて周りを見回すと秋蘭、夏蘭、冬蘭が俺の顔を見ていた。

 

「……何だよ」

「気にしない方が良いと思いますよ。生理的に受け付けないと言うのなら仕方が無いですよ」

 

 冬蘭、それはどういう意味かな。どんな人間にも生理的に受け付けないタイプの相手がいるから気にしても仕方がないって意味か、それとも俺の顔が生理的に受け付けなくても仕方がない顔って意味なのかな。これでも顔の造形は整っている方だと……そうだ。この世界は時代も元いた所とかなり違うし、好まれる顔のタイプが違うのかもしれん。

 

「目さえ何とかなれば大丈夫だ」

 

 夏蘭が俺の肩に手を置き何の気休めにもならない事を言った。

 この目は治らないからどうしようも無いだろ。それに先程の荀彧の様子を見る限り、『生理的に受け付けない』というのとは別の理由もあるみたいだ。

 俺が華琳に認められている事が気に喰わないらしい。命がけで自分を売り込む位だから余程華琳の軍師になりたかったんだろう。だから、先に軍師候補になっている俺が妬ましいという事か?

 

「なあ、秋蘭。荀彧は自分を軍師として売り込む為に糧食を半分しか用意しないなんて無茶をやった訳だが、他に軍師になる方法は無かったのか?」

「軍師の募集はしていないから軍師になりたいのなら一文官として地道に出世していくか、武将として名を上げたうえで作戦立案や領内の統治などで軍師としての適性を見せていくしか無いだろうな」

「軍師の募集していなかったのか!?」

 

 俺の疑問に秋蘭は驚愕の事実を告げた。

 今の華琳の陣営には軍師はいなかったはずである。いるのは候補である俺だけだ。それなのに何故募集をしていないんだ。まさか、軍師の仕事は俺1人で全てやれって事なのか……。

 これはアレだ。見習い・研修期間中だから報酬は少なめで済むしね。どんだけブラック企業なんだよ。

 

「軍師の募集は難しいのだ。経歴を偽る者が多いし、実力を見ようにもある程度仕事ぶりを見てみないと分からないのでな。かと言って軍師としての重要な仕事を仕官して来たばかりの人間にいきなり任せる訳にもいかん」

 

 秋蘭の言葉を聞く限り、やはり荀彧が俺を嫌っている理由は嫉妬もあるようだ。俺だけ一足飛びに軍師候補になっている事が腹立たしいのだろう。まあ、特別扱いされている奴がいれば腹も立って当然だ。俺だって自分以外の奴が優遇されていたら心の中で呪う。でも優秀で俺の仕事を黙って勝手にやってくれる奴なら特別扱いで軍師になって欲しい。何だったら俺がそいつを特別扱いするまである。

 

「八幡……そんな軍師はこの世に存在しないぞ」

「そんな奴がいたら八幡はクビになるんじゃないか?」

「寝言は寝てから言って下さいね。あっ、でも目の方は永眠してる方と同じ様な見た目なので……」

 

 秋蘭、夏蘭、冬蘭の3人が口々に俺の心の中の考えを否定した。それにしても夏蘭と冬蘭の俺に対する言葉が辛辣過ぎて帰りたくなって来た。と言うのは嘘だ。この2人に関しては荀彧から感じる様な敵意は感じない。だから大して気にはならない。それにしても───────

 

「もしかして口に出ていたか?」

「ああ、優秀で俺の仕事を黙って勝手にやってくれる奴が欲しいとかブツブツ言っていたぞ」

 

 俺の問いに夏蘭が呆れたような調子で答えた。

 なんだよ。居れば絶対便利だろ。ただ夏蘭の言う通り、そんな奴がいたら俺が不要になってしまうかもしれん。それはマズイ。などと下らない事を考えていると春蘭が急いだ様子でこちらに向かって来た。

 

「華琳さまがお呼びだ。前方に正体不明の集団がいるらしい」

 

 春蘭の『正体不明の集団』という言葉にその場の空気が引き締まる。こういう場合、だいたい相手は賊と相場は決まっている。

 

「うむ、すぐに行こう」

「承知」

「分かりました。向かいましょう」

 

 秋蘭達は直ぐに返事をし、華琳の元へと向かう。だが、俺はその場に止まってしまった。

 戦いになるかもしれない。そう思うと緊張が高まっていく。華琳達が強い事は知っているが、今から命のやり取りをするかもしれないと思うと気分が悪くなっていく。もしかしたら自分が、もしくはつい先程まで会話をしていた誰かが死ぬかもしれない。全身が強張るのが分かる。

 ただ、いつまでもここに居る訳にもいかない。俺は先に華琳の所へ進んでいる春蘭達の背を追った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お待たせしました」

「いいわ。丁度偵察からの報告を受けるところよ。報告を」

 

 華琳の元に着くと先ず秋蘭が声を掛けた。華琳の前には片膝を付いた兵士が1人いた。その横には荀彧が既に控えている。

 

「はっ! 前方にいる正体不明の集団は三十人程で、旗も無く不揃いな服装や装備から野盗かと思われます」

「……もう少し様子を見るべきかしら」

「再度、偵察隊を出しましょう。今度は夏侯惇と比企谷の指揮で兵の人数も増やして行いましょう」

 

 兵士の報告を受け華琳が思案していると荀彧がそう提案した。

 余計な事をするな。未だに緊張の取れない状態なのにいきなり実戦は勘弁してくれ。

 

「そうね。兵は五十連れて行きなさい。あと八幡には冬蘭も付いて行くように」

 

 俺の願いもむなしく華琳はそう命令した。

 行くのは嫌だが断る事も出来ない。それと確認しておかないといけないことがある。

 

「なあ、その数と春蘭を連れて行くって事は偵察は偵察でも威力偵察ってやつだよな?」

「いりょく偵察? ……何かしらそれは」

 

 やっぱり通じないか。華琳でも分からないという事はこちらの人間にはこういう言葉は通じないんだろう。普通に日本語で会話が成立しているから、この時代に無いような言葉でも通じるかと思ったんだが。

 

「えーと、相手から隠れて情報収集するんじゃなくて、戦ってみて情報を得ようって事だよ」

「そういう事ね。威力偵察……分かりやすいわね。今回はその威力偵察で良いわ。具体的な方法は貴方に任せるわ」

 

 これで戦う事はほぼ確定だ。また荀彧が俺を睨んでいるが気にする余裕など今の俺には無い。

 

「緊張しているんですかぁ?」

 

 冬蘭がニコニコしながら俺の顔を覗き込んできた。天使の様な笑顔だ。これを別の奴がやってたら煽ってんのかと思うが。

 

「してるよ。これが初陣だからな」

「安心して良いですよ。春蘭姉様がいれば三十人程度の盗賊なんて勝負にならないです。そ・れ・に、八幡さんには私が付いてますから」

 

 冬蘭が当然の事のように言う。これは惚れる。手に持った矛が怖いが頼もしい。自分より小さな女の子に守られて情けなくないのかって? アホか、絶対この子も俺より何倍も強いから。

 初陣に恐怖や緊張は未だある。しかし、少しだけ体が軽くなった様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。


話が進まない。時間が無い。文才が無い。

ないない尽くしですね。戦いまでが遠いです。

2月に比べて時期的にも忙しくて時間がなかなか取れませんが、なんとか最低でも週1更新は維持したいです。

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