やはり俺の真・恋姫†無双はまちがっているฺฺ   作:丸城成年

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第1章 出会い……英雄は八幡という男を知る
プロローグ


 出席を取る面倒な講義が終わり、一息つくために至高の飲み物であるMAXコーヒーを飲みながら歩く。するといつの間にか大学の敷地を出ていた。今日はまだ出席しないといけない講義があるのだが、無意識のうちに帰巣本能が働いたのか教室ではなくアパートに向かって足が動いてしまったようである。俺の中の野生が溢れ出し理性を凌駕したのだ。ヒッキーマジワイルド!!……違うな。

 一瞬大学に戻ろうかと考えたが、別に毎週欠かさず出席しなくても単位は取れるみたいだし、このまま帰宅してしまおうか。

 

「まだ焦る時間じゃない」

 

 この頃独り言が増えた気がする。

 大学に進学して半年、一人暮らしにも慣れバイトも始めたが親しい人間は未だに一人もいない。そもそも作ろうともしていないのだから、終身名誉ボッチである俺に自然発生的に友人が出来るなどありえない。

 最近ふと考え込むことがある。かつて俺は雪ノ下と由比ヶ浜に「本物が欲しい」と言った。だが同時に俺の望む「本物」など存在しないとも半ば理解していた。

 自分自身でも己が望む「本物」がどんなものか明確に示すことの出来ない。そんな曖昧なモノ。あるかどうかも分からないモノ。

 なにより例え存在したとしても今の俺にそれを手に入れることは出来ない。出来るはずがない。自分からその可能性を投げ捨てたのだから。

 俺は間違ったのだろう。「本物が欲しい」と言いながらみんなとの距離を置くことを選んだ。自分が望む「本物」が何なのかを真剣に考えず目をそらし、手を伸ばさず、距離を置いておいてどうやって手に入れるというのか。

 当初進学先の大学は実家から近いところを考えていた。だが最終的にあえて遠方の大学を選んだ。理由はいくつかあったが結局のところ俺の臆病さが原因だった。なぜか?

 手を伸ばして手に入れることが出来なかったら辛すぎるからだ。しかし失敗を怖れて求めることをしなかったその結果、それは望んだものとは真逆のものとなった。

 奉仕部……あの場所にいたころの俺は愚痴や文句ばかり言っていた。それでも本当はあの場所が好きだった。雪ノ下や由比ヶ浜との関係も気に入っていた。全部もうない。俺はどうすれば良かったんだろう。

 かつて雪ノ下との会話で俺は「誤解は解けない。もう解は出ているんだからそこで問題は終わっている」と言った。それに対して雪ノ下が言ったのは「それなら、もう一度問い直すしかないわね」だったと思う。

 誤った解を出して全てを失った俺は、もう一度同じような選択を問い直されることがあるのだろうか? そんな考えがふと頭に浮かぶことが最近増えた。

 答えの出ない考えを一旦止め、飲み終わったMAXコーヒーの缶を捨てる為にゴミ箱(缶用)を探す。ちょうどいい事に自販機を見つけた。自販機の横にはきちんとゴミ(缶用)があった。そちらに向かって歩道を歩く。

 いきなり近くでドーンという激しい衝突音が聞こえた。

 反射的にそちらを向くとトラック同士がぶつかり片方のトラックがこちらに弾き飛ばされるよう……に……。凄まじい衝撃が……。い、た……か、だ……。

 

 自分がどうなっているのか分からない。

 視界がぼやけ、痛みで体をまともに動かすことも出来ない。

 いや、体を動かすことが出来ないのは痛みのせいではないのかもしれない。体が重く酷く息苦しい。

 ずっとヒュー、ヒューと煩わしい音が聞こえていたが、今やっと自分の呼吸音だったことに気付く。

 体はどんどん重く息苦しさも増していく。

 こんな終わりなのか?

 全て捨てて逃げ出した先で何の意味もなく死ぬのか?

 そんなことってないだろ。

 やがて意識も薄れていく。

 

 事故だった。珍しくもない交通事故だった。被害者の少年にとっては何の意味もない死だった。彼は最期に倒れたまま右手を虚空に向かって上げた。

 それは何かを求めるような姿であった。

 

 

 

 

 

 

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「ちょっと其処のお嬢さん、貴方面白い相が出ているわよ」

 

 陣留の刺史である華琳は腹心である春蘭と秋蘭と共に街を視察していたところ、突然怪しげな占い師に声をかけられた。

 

「なんだ貴様は!華琳様は貴様のような怪しい占い師に用はないぞ!」

 

 頭巾を被り顔もまともに確認できない占い師を春蘭は怪しみ華琳の前に出る。

 得体に知れない相手であった。

 分からないのは顔だけではない。年齢も分からず、何よりも強いのか弱いのかも測れないことに春蘭は警戒心を強めた。しかし華琳は警戒するどころか面白そうなものを見つけたと占い師に近づいた。

 

「……面白い相ね。どの様にも解釈の出来る曖昧な言で誤魔化す様なら承知しないわよ」

「華琳さま~。こんな胡散臭い占い師など放っておきましょう!」

 

 春蘭の言葉も一度興味を惹かれた華琳を止める事は出来ない。

 

「春蘭、話を聞くだけ聞いてみましょう。……どうなの、貴方に私を楽しませる自信はあるかしら?」

 

 占い師はゆっくりと頷き、右手で天を指す。

 

「これよりしばらく後、天より二人の御使いが降り立ちます。彼らの内、いづれかを得れば貴方は天下を獲るでしょう」

 

 聞いていた三人は唖然とする。

 天の御使いという者が降り立つということもさることながら、現在ただの刺史である華琳が「天下を獲る」というのは荒唐無稽であるし、現皇帝に対して不敬どころか反逆者と断じられても可笑しくない。おべっかとしても不穏なものである。

 唖然としていた三人であったが、直ぐに慌てて周囲を見回す。今の発言を誰かに聞かれていれば厄介なことになる。幸い周囲に人は無く安堵した。そして、華琳は占い師を睨みつける。

 

「貴方、自分の言葉の意味を理解しているのかしら。不敬罪、もしくは反逆罪で処刑されてもおかしくないわよ」

 

 華琳の言葉にも占い師は気にしている様子はない。

 

「問題ありません。近く今の世は終わりを告げ、乱世となりますので」

 

 確かに今の世は既に乱れ始めている。政も官も腐敗がすすみ皇帝もその実権は失って久しいとは言われている。しかし、ここまではっきりと言う者を三人は初めて見た。華琳はこの占い師にさらなる興味を持ち出していた。

 

「先程言っていた二人の天の御使い。どちらか一人でも得られたらその乱世を勝ち抜くことが出来るという事?」

「はい、その通りです」

「それでは二人とも手に入れれば?」

 

 占い師は首を横に振る。

 

「二人は相反する者。今はまだ並び立つことは出来ません」

「そう、では二人はどのような者なの?」

 

 占い師は左手で西の方向を指差す。

 

「ここより西に進みし地に降り立つは白き御使い。白き御使いは仁愛の御使い。多くの者を愛し、多くの者に愛される者。彼の周りには自然と人が集まり、そこに大きな和を創るでしょう」

 

 次に右手で東を指差す。

 

「ここより東に進みし地に降り立つは黒き御使い。黒き御使いは智謀の御使い。多くの者に理解されず、多くの者に背を向けし者。その濁りし眼の前ではいかなる虚言、虚飾はおろか、仁も愛も意味を失う。彼の謀からは何者も逃れられない」

「白い御使いでいいんじゃないでしょうか。いい奴っぽいので」

 

 占い師の言葉を聞き春蘭は特に何も考えず、白の御使いを勧めた。しかし、妹の秋蘭は違う意見だった。

 

「しかし姉者、黒き御使いは即戦力のようだぞ。私も文官の仕事は出来なくはないが、基本は武官だ。うちに不足している優秀な文官ならば是非欲しいところだぞ」

 

 二人の言葉に華琳はどちらの御使いを選ぶか決めた。

 

「黒き御使いにするわよ。多くの者に愛される天の御使いなんて、事と次第によっては邪魔になるわ」

 

 春蘭がどういう意味なのか理解できずに首をひねる。それを見た秋蘭が説明する。

 

「我々の陣営の中に華琳様より白き天の御使いの方が好きだ、という者が多くなると厄介だろ」

「そんなことは許さん!!」

 

 春蘭と秋蘭姉妹のやりとりを微笑ましく見ていた華琳は頷く。

 

「まあ、単純に言うとそう言うことね。では東に向かうわよ」

 

 歩き始める前に華琳は秋蘭に目配せする。秋蘭はその意を汲みとり占い師に金銭を渡そうとする。しかし、占い師はこれを断った。

 

「お代は結構です。貴方達の行く末を陰ながら見させていただくだけで十分です。あと、黒き御使いはなかなか厄介な者ですよ」

「私には扱いきれないと?」

「いいえ、貴方なら上手く使うでしょう。ただ私はその先を期待しているのです。貴方が彼を理解し、彼を変えることを……」

 

 占い師は意味深な言葉を残し、微笑みながら去っていった。

 比企谷 八幡が三人の英雄と出会う少し前の話であった。




読んでいただきありがとうございます。

2017年9月26日若干修正

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