機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-06「破滅呼ぶ流星」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミネルバがユニウスセブンへ向かってひた走っている頃、それに先行する戦艦が3隻、作業現場へと現着していた。

 

 3隻はいずれもナスカ級戦艦。前大戦時からザフトで運用されている量産型の戦艦である。

 

 この内、ボルテールとルソーはジュール隊、マクスウェルはエルスマン隊に所属している。

 

《こうして改めて見ると、デカイな》

「当たり前だ、住んでるんだぞ俺達は。同じような場所に!!」

 

 モニター越しに告げられたディアッカ・エルスマンの軽い調子の言葉に、イザーク・ジュールは厳しい調子で答える。

 

 双方の部隊の隊長は、前大戦以前からの付き合いになる友人である。もっとも、本人達に言わせれば「腐れ縁」であるとの事らしいが。

 

 かつてはアスランと共に、ザフト最強と謳われたクルーゼ隊に所属していた2人は、今やそれぞれ一個部隊を任されるに至り、こうして有事の際に命令を受けて出動していた。

 

《それを砕けって今回の仕事が、どんだけ大ごとか、改めて判ったって話だよ》

「お前は先の見通しが甘いんだ。ヘラヘラしてないで、もっと危機意識を持て!!」

《何かそれ、お前にだけは言われたくないんだけど》

「どう言う意味だ!?」

 

 イザークが叫んだ時だった。

 

 赤服を着た少年と少女が、イザークの背後に立って敬礼する。

 

「隊長、出撃準備、整いました!!」

「隊長のファントムも、いつでも出れます」

 

 報告を聞き、イザークは頷く。

 

「よし、ルイン、アキナ、お前達にとっては初陣になるが、今回は戦闘ではない。落ち着いて、先輩諸氏の指示に従って行動するんだぞ」

「「はいっ」」

 

 元気に返事をする2人。

 

 少年の方がルイン・シェフィールド、少女はアキナ・コールアンと言い、何れもジュール隊に配属されたばかりの新人パイロットである。

 

 2人とも士官学校を出たばかりである。成績的には赤服を着るくらいだから優秀なのは違いないが、それでも訓練と実戦は違う。そう言う意味では、今回のような作業を経験させて実績を積ませるのは好ましかった。

 

《な~んか、お前がそうやって隊長みたいな事やってると、すげー違和感があるんだけど》

「貴様にだけは言われたくないわ!!」

 

 茶化すディアッカに対し、部下の手前である事も忘れてイザークは怒鳴り返す。

 

 そんな隊長達のレベルの低いやり取りを、ルインとアキナは、呆気に取られた調子で見詰めていた。

 

 

 

 

 

 シンは当てがわれたザクのコックピットに座り、システムを次々と立ち上げていく。

 

 自国の機体では無いとは言え、流石に2度目となるので今回は操作に淀む事は無い。

 

《モビルスーツ発進、1分前》

 

 メイリンの声が、スピーカーを通して聞こえて来る。

 

 その声を聞きながら、シンは先日のミネルバクルー達とのやり取りを思い出していた。

 

 あの時の事は、正直、言い過ぎたかもしれないと言う反省が無いでもない。

 

 しかしそれでも、自分が間違った事を言ったつもりは微塵も無かった。きっとまた別の場面で同じ事を誰かに言われたら、シンは同じような行動をとるだろう。

 

 地球に住む者にとって、地球が滅亡するなどと言う話は、決して冗談などでは済まされないのだ。

 

 だが、

 

 あれ以来、アリスとは一言も口を聞いていない事が気になっていた。

 

 折角友達になれるかも、と思った矢先にあんな事になってしまい、シンとしても忸怩たる物がある。

 

 何とか出撃前にもう一度話したかったのだが、結局それもかなわないまま、時間となってしまったのだ。

 

 まあ良い。今回は戦闘ではなく破砕作業の支援だ。別に命の危険がある訳じゃないのだから、戻ってからゆっくり話せば良いだろう。

 

 そう、シンが楽観的に考えた時だった。

 

《発進停止、状況変化!!》

 

 緊張したメイリンの声が聞こえて来る。

 

 その不吉な響きが、妙にシンの耳にこだましていた。

 

 

 

 

 

 ボルテール、ルソー、マクスウェルの3隻から、メテオブレイカーを携えたゲイツRが次々と発進していく。

 

 メテオブレイカーは3本足の台座の下からドリルを射出し、それを地中深くで爆破する事で隕石を破壊する事ができる装置だ。これを複数打ち込む事ができれば、ユニウスセブンを砕く事はそう難しい事では無い。

 

「行くぞ、ジュール隊長殿が急げってよ」

 

 現場指揮の為に、愛機である黒いザクファントムで出撃してきたディアッカが、おどけ交じりに命じる。

 

 背部に背負っている装備は、スラッシュウィザードと呼ばれる上級者専用の装備だ。肩部に2門のガトリング砲を装備し、ビームアックスも通常の物よりも柄が長く折り畳み式で、斧と言うよりはハルバードのような印象を受ける。

 

 ディアッカは全体の指揮をボルテールに座乗するイザークに任せ、自分は現場で直接指揮する為に部隊に同行したのだ。

 

 既に部隊はユニウスセブンに取り付こうとしている。これなら作業も上手くいくだろう。

 

 そう楽観的に考えた時だった。

 

 出し抜けに飛来したビームに貫かれ、2機のゲイツが吹き飛ばされる。

 

「なッ!?」

 

 更に、立て続けに飛来したビームによって、次々とゲイツがやられて行く。

 

 ディアッカもまた、自身に飛んで来たビームを回避しながら驚愕をあらわにする。

 

 攻撃? 馬鹿な、いったい誰が!?

 

 素早く周囲を見回すディアッカ。

 

 すると、凍った大地から、次々と湧きだして来る黒い機体が目に付いた。

 

「何だよ、こいつ等は!?」

 

 言いながら、肩のガトリングを放つディアッカのザク。

 

 しかし敵は、余裕すら感じさせる動きでディアッカの攻撃を回避する。

 

 機体の各所に設けられたブースターが高い機動力を連想させる機体。だが、その姿は間違いなく自軍のジンだった。

 

 そのジンが、次々と飛来してゲイツRに攻撃を仕掛けていく。

 

 ビーム攻撃を受けて火球に包まれるゲイツR。同時にメテオブレイカーも破壊されて行く。

 

 焦りが生じる。

 

 こちらはディアッカのザク以外は、作業を行う為に非武装で出撃している。攻撃を受けたらひとたまりも無かった。

 

「ちっくしょう!!」

 

 ビームアックスを展開して、斬り込んで行くディアッカ。

 

 まさか、こいつらが、この事態を引き起こしたと言うのだろうか?

 

《ゲイツのライフルを射出する! ディアッカ、メテオブレイカーを守れ。俺もすぐに出る!!》

 

 イザークの声が叩きつけるように聞こえてくるが、今のディアッカにはそれに答える余裕すら無かった。

 

 戦えるのはディアッカのみ。果たして相棒が駆けつけてくれるまで、皆を守りきれるかどうか。

 

 一方、サトーは碌な抵抗もできないでいるゲイツを、侮蔑と共に叩き落として行く。

 

「こんなヒヨッコどもに!!」

 

 言いながらサトーのジンはビームカービンを放ち、ゲイツのコックピットを撃ち抜く。

 

 彼の駆るジン・ハイマニューバ2型は、各種スラスターを増設して機動力を極限まで高めたジンの最終発展型である。既にジン自体が旧式化し、これ以降発展の余地が無いとして少数生産に留まり、より拡張性の高いゲイツRに取って代わられ表舞台から姿を消した機体ではあるが、極限まで追求した機動力はゲイツRと遜色無く、また取り回し易いビームカービンライフルや、日本刀をデザインして切れ味を増した重斬刀など、接近戦においてはまだまだ充分一線で活躍できる機体である。

 

 加えて、パイロットの能力差もある。

 

 サトーの部下達は皆、先の大戦において最も苦しい時期を最前線で戦って来たベテラン達である。戦後に入隊し昨日今日モビルスーツに乗ったような若造達に負ける言われは無かった。

 

「我等の思い、やらせはせんわ!! 今更!!」

 

 彼の背後では、尚も滅びを刻もうとするユニウスセブンが、地球に向かって流れて行こうとしている。

 

 ゲイツ隊は母艦から射出されたライフルを手に反撃を開始するが、その攻撃もサトー達にとっては欠伸が出る程に甘い。

 

 次々と攻撃を回避し、ゲイツに逆撃を加えていくジン隊。

 

 サトー自身も重斬刀を抜き放ち、ライフルを構えたゲイツを容赦なく切り裂く。

 

 所詮は偽善者共の作り出し偽りの世界で、安穏と暮らしていた連中だ。自分達の死を賭した信念、そして死んでいった同胞たちの無念にも気付かず、かつての敵と共にのうのうと暮らす者達。

 

 奴等に鉄槌を下し、持って全てのコーディネイターの目を覚まさせてやる事こそが、我等の真の使命であり、全てのコーディネイターが歩むべき道なのだ。

 

 サトーは重斬刀を振り翳し、更にゲイツへ斬り込もうとする。

 

「クッ 来ないで!!」

 

 それは、アキナの駆るゲイツだった。

 

 士官学校では優秀な成績を収めたアキナ。努力の甲斐あって、精鋭であるジュール隊に配属された事からも、彼女が非凡である事は間違いない。

 

 しかし、相手が悪すぎた。

 

 サトーのジンはアキナの射撃を軽く回避すると、ビームカービンライフルの銃口をゲイツRに向けた。

 

 これで終わり。

 

 何の感慨も無く、そう思った瞬間だった。

 

「やめろォォォォォォ!!」

 

 別のゲイツRが、ライフルを放ちながら突っ込んで来た。

 

 とっさに後退して回避するサトー。

 

 アキナを助けに入ったのは、彼女同様にボルテールからライフルを受け取ったルインだった。

 

「アキナ、大丈夫か!?」

《ルイン!!》

 

 アキナ機を守るように立ちはだかり、ライフルを放つルイン機。

 

 だが、体勢を立て直したサトーは、ルインの攻撃も軽く回避してしまう。

 

「筋は悪くない。それだけに、惜しいな」

 

 低い声で言いながら、容赦無くライフルを放つサトー。

 

 その一撃がルイン機の右肩を貫通。ライフルごと右腕を吹き飛ばしてしまう。

 

「グアッ!?」

《ルインッ 危ない!!》

 

 のけぞるように吹き飛ばされる、ルイン機。

 

 アキナが悲鳴を上げる中、重斬刀を振り翳して斬り込んで来るサトーのジン。

 

 その刃が振り下ろされようとした瞬間、

 

 ビーム刃が一閃され、サトーはとっさに後退する。

 

「アキナ、ルインを連れて後退しろッ 他の者はメテオブレイカーの護衛を!!」

 

 2人を守るように立ちはだかったのは、青いスラッシュ・ザクファントム。イザークの機体である。長大なビームアックスを構え、漆黒のジンを威嚇している。

 

 アキナは腕を破壊されたルインのゲイツを抱え、ボルテールへと後退していく。その間にイザークはディアッカと連携してメテオブレイカーの護衛に当たる。

 

 隊長の到着により、統制を取り戻す作業部隊。

 

 だが、更なる変化が間もなく起こった。

 

 突如、別方向から飛来したビームが、作業中のゲイツやメテオブレイカーを次々と吹き飛ばして行く。

 

 それだけではない。その攻撃はゲイツのみならず、敵のジンまで一緒に攻撃しているのだ。

 

《何だ、新手か!?》

 

 戸惑うディアッカの横で、イザークは接近する機影を捉え、熱紋照合する。

 

 解析結果を見て、イザークは思わず呻く。

 

「カオス、アビス、ガイア・・・アーモリーワンで奪われた機体か!?」

 

 なぜ今、ここでこいつ等が出て来るのか!?

 

 攻撃しながら接近して来る3機の機影を見詰め、歯ぎしりするイザーク。

 

 ただでさえ、作業は遅れている。このままでは本当に間に合わなくなってしまう。

 

 そんな焦慮が、イザークを支配しようとしていた。

 

 

 

 

 

 ミネルバから発進した、インパルス、セイバー、ブレイズザクファントム、ガナーザクウォーリア、そしてシンの駆るブレイズザクウォーリアも、ユニウスセブンと指呼の間の場所まで辿りついていた。

 

 既に先着したジュール隊とエルスマン隊が何者かの襲撃を受けているらしいという報告は受けていたので、各機共に武装を装備した上での出撃である。

 

 しかし、そこで愕然とする。

 

 確かに謎の敵は存在している。漆黒のジンがゲイツ隊に攻撃を仕掛けているのが見える。

 

 だが同時に、よく見慣れた3機の姿も見る事ができた。

 

《あいつらッ!!》

 

 ルナマリアが驚愕の声を上げる。

 

 厄介な時に厄介な連中が出て来てくれた物である。

 

 しかも悪い事に、先に姿を現わした謎の敵もジン、つまりザフト軍の機体を使っている。あの連中に、ザフト軍と謎の敵を区別する事はできないだろう。現に今も、彼等の攻撃によってゲイツやメテオブレイカーが破壊されている。

 

《状況は混沌としているが、俺達のやる事は変わらない。ジュール隊とエルスマン隊を支援する。目的はあくまでも破砕作業だと言う事を忘れるな》

 

 アスランから指示が飛ぶ。

 

《だからって、撃ってくるなら排除しないと、作業もできないじゃないですか!!》

 

 少女の叫びと同時に、インパルスが加速する。

 

《アリス!!》

 

 それに続いて、レイの白いザクも速度を上げる。

 

 先行するインパルスの背中を、シンは無言のまま見詰める。

 

 シンにも経験がある事だが、メンタルと言うのは、かなりの割合でパイロットに影響する。出撃前にあんな事があって、果たしてアリスは普段通りの実力が発揮できるかどうか心配だった。

 

 その時、すぐ横を飛ぶルナマリアのザクから通信が入った。

 

《状況はこんなになっちゃったけど、どうする? 今からでも引き返す?》

「・・・・・・馬鹿にするな」

 

 茶化すようなルナマリアの言葉に、シンは反射的に強気な言葉を返す。

 

 何で同年代の彼女に、そんな事を言われなくてはならないのか。

 

 速度を上げて前に出るシンのザク。それに苦笑するようにしながら、ルナマリアも後に続いた。

 

 

 

 

 

 戦闘の状況は、ミネルバからも確認できていた。

 

 3軍が入り乱れる戦場へ、ミネルバの艦載機隊も飛び込んで行くのが見える。

 

 それにしても異様なのは、ザフト軍を待ち構えていた漆黒のジンであろう。

 

「つまり、ユニウスセブンを動かしたのは、こいつら、と言う事だろうか?」

「えええッ!?」

 

 モニターを見ながら苦々しく発せられたカガリの言葉に、アーサーが驚愕の声を発する。

 

 彼が驚くのも無理は無いが、状況から考えて、そう判断するのが自然である。

 

 つまりこれは自然現象では無くて人災。れっきとしたテロリズムと言う事になる。

 

「いったいどこの馬鹿がッ!?」

 

 吐き捨てるように言うアーサー。

 

 確かにこうなる時になるのは相手の正体だが、しかし急務は別の所にある。

 

「そうなると、尚更あれを地球に落とす訳にはいかないわね」

「ああ、そうだな」

 

 タリアの言葉に、デュランダルも頷きを返す。

 

 こんな形でテロの成功を許したとあっては、いったい何のために、あの苦しい戦争を戦い抜いたのか判らなかった。

 

 だが、現実は非情の時を刻み続ける。

 

「ユニウスセブン、更に降下角プラス1・5! 加速4パーセント!!」

「ジュール隊、カオス、アビス、ガイアと交戦中!!」

「エルスマン隊、ジンの攻撃を受けています!!」

 

 次々と入る報告に、焦りは足元を浸すように増えていく。

 

 ジン部隊だけでも厄介だと言うのに、その上、事情を知らないまま戦いに介入しているカオス、アビス、ガイアにより、作業部隊は甚大な被害を被っている。

 

 このままでは、本当に手遅れとなってしまう。

 

 

 

 

 

 シンがユニウスセブンに接近していくと、横合いから2機のジンがビームを浴びせて接近してくるのが見える。

 

「このッ こいつ!!」

 

 シンはその攻撃を回避しながら、自身もザクのビーム突撃銃を放つ。

 

 しかし、相手もシンに劣らず手練である。

 

 ザクのビームを回避して、そのまま距離を詰めて来る。

 

 重斬刀を抜いて斬りかかって来るジン。

 

 対してシンも、ビームトマホークを抜いて応じる。

 

 すれ違う一瞬。

 

 相手の刀より一瞬早く、シンの斧がジンの頭部を断ち切り、更に返す刃でスラスターも切り裂く。

 

 だがその時、別方向から放たれたビームが、作業中のゲイツ隊を吹き飛ばすのが見えた。

 

 緑色の機体。カオスだ。

 

 兵装ポッドを展開したカオスは、作業中のゲイツや、設置されたメテオブレイカーを片っ端からなぎ倒して行く。

 

「やめろォォォォォォ!!」

 

 そのカオスに対し、突撃銃を放ちながら突進するシンのザク。

 

 カオスの方でも接近するザクに気付いて振り返るが、それよりも一瞬早く、ザクはカオスを蹴り飛ばす。

 

 流されて行くカオス。しかし、すぐに体勢を立て直し、ライフルと兵装ポッドで反撃してくる。

 

 こうなると、今度は火力に劣るザクの方が押される番である。

 

「クッ!?」

 

 シールドを掲げて後退するシン。

 

 正直な話、ここでこいつ等と戦うのは時間の無駄でしか無い。アーモリーワンでの行動を見る限り、強奪部隊が地球軍である可能性は高いが、ならばなおさら、今ここにいる理由は、彼等とシン達とでは同じと言う事になるからだ。

 

 それだけに、この状況は苛立たしい物でしか無かった。

 

 一方、ステラはその頃、ルナマリアの赤いザクと対峙していた。

 

 ルナマリア機の放つオルトロスの火線を巧みにかわしながら、獣形態で氷の大地を走り接近していく。

 

《お前等のせいかよ、こいつが動きだしたのは!?》

 

 アウルの叫びが、ステラの耳に飛び込んで来る。

 

 そのアウルが操るアビスも、圧倒的な火力でゲイツやメテオブレイカーを吹き飛ばしていた。

 

 こいつ等のせい・・・・・・こいつらは、悪い奴等!!

 

 更に疾走するステラのガイア。

 

 悪い奴等は、殺す!!

 

 闘争本能の赴くままに、ガイアを駆けるステラ。

 

 その目の前に迫る、ザク・ルナマリア機。

 

「お前等のせいでェェェェェェ!!」

 

 一閃するグリフォンビームブレイド。

 

 しかし、それよりも一瞬早く、ルナマリアは機体を上昇させてガイアの攻撃を回避させた。

 

「チッ!!」

「クッ!?」

 

 振り返るルナマリア。

 

 同時にステラも、ガイアを人型に変形させてビームライフルを放つ。

 

 火線が交錯する。

 

 しかし、そのどちらも、相手を捉える事は無い。閃光は虚しく、氷の大地を抉る。

 

「何で、何で堕ちない!?」

 

 苛立ったように叫ぶステラ。

 

 そこルナマリア機はオルトロスを放って来る。

 

 だが、その太い火線が命中する前に、ステラのガイアは飛び上がり、再び獣形態になると、浮遊するがれきを足場にしながら突撃する。

 

「こいつッ!!」

 

 とっさに振り仰ぎ、オルトロスを構えるルナマリア機。

 

 ほぼ同時に、ガイアのビーム砲が火を噴く。

 

 閃光が、互いの機体を交錯する。

 

 ルナマリアの一撃はガイアのビームライフルを吹き飛ばし、ステラの攻撃はザクの右足を薙ぎ払った。

 

「「クッ!?」」

 

 互いに舌打ちする少女達。

 

 両者の戦いは、決定打を奪えないまま延々と続いていた。

 

 

 

 

 

「議長は、現時点でボギーワンを、どう判断されますか?」

 

 進まぬ作業に苛立ちを感じながら、タリアはデュランダルへ尋ねる。

 

「海賊と? それとも、地球軍?」

「難しいな・・・・・・私は、『地球軍とはしたくなかった』のだが」

「どんな火種になるか判りませんものね」

 

 アーモリーワンを襲撃された時点で、もし彼が早々にガーティ・ルーを地球軍と断じていたら、その時点で地球とプラントは再び戦争状態になっていたかもしれない。デュランダルはその事を危惧したが故に、今まで直言を避けて来たのだ。

 

「だが、この状況ではそうも言っていられないな」

 

 会話を聞いていたカガリが、そう口を挟む。

 

 タリアもカガリと同じ意見であるらしく、頷きを持って応じる。

 

「ええ、非常に際し彼等を地球軍、もしくはそれと準ずる部隊だと認めるなら、この場での戦闘は何の意味もありません」

 

 彼等の存在が、状況を混乱させている。せめてガーティ・ルーの部隊だけでも撤退してくれたなら、もう少し状況はマシになるのだが。

 

「最悪、私達が、あのジン部隊を庇っていると思われ兼ねんか」

「えええッ そんな!?」

 

 デュランダルの言葉を聞いたアーサーが、素っ頓狂な声を上げるのを、タリアがやんわりとなだめる。

 

「仕方がないわ。もしあの機体がダガーなら、あなただって地球軍の関与を疑うでしょう?」

 

 その通りだ、とカガリは思う。

 

 そしてもしムラサメやアストレイだったら、オーブ軍の関与が疑われていてもおかしくは無い。

 

 それだけ、この問題は微妙なのだ。

 

 この状況、放置したら賽の目は最悪を刻みかねない。

 

「ボギーワンとコンタクトは取れるか?」

 

 デュランダルが何かを決意したように言う。

 

「国際救難チャンネルを使えば」

「ならばそれで呼びかけてくれ。我々はユニウスセブン落下阻止の為に、破砕作業を行っているのだと」

「はい」

 

 まずは誤解を解く。その上で協力体制をとる。それが叶わないまでも、相手に撤退を促す事が急務だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作業部隊は、ようやくユニウスセブンの地表へと辿り着いていた。

 

 しかし、作業を始めようとする度にジンや、あるいはカオス、アビス、ガイアの妨害を食らい、作業は遅々として進まない。

 

 そうしている内に犠牲も増え、折角のメテオブレイカーも破壊されて行く。

 

 イザークとディアッカは必死に応戦し、何機ものジンを返り討ちにしていたが、それでも多勢に無勢である。防ぎようが無かった。

 

《このォ、いい加減にしろっての!!》

 

 言い放ちながら肩のガトリング砲を放つ、ディアッカのザク。

 

 しかし手練のパイロットが操るジンは、その攻撃を巧みに回避して向かって来る。

 

 そこへ、ビームアックスを翳したイザークのザクが斬り込み、1機のジンを斬り捨てる。

 

「クソッ このままではきりが無いぞ!!」

 

 爆発を背に見ながら、イザークは苛立ちを込めて叫ぶ。

 

 そうしている内にも、更に1機のメテオブレイカーがアビスの攻撃を受けて破壊される。

 

 もう、保有するメテオブレイカーの数は残り少ない。

 

 敵のジンもだいぶ数を減らしてはいるが、まだまだ執拗に湧きでて来る。

 

 ミネルバ隊の応援も、カオス達に阻まれて充分な援護ができないでいる。

 

 そして何より、タイムリミットは刻々と迫っていた。こうしている間にも、ユニウスセブンは地球に向けて落下しているのだ。

 

「何とか・・・・・・何とかならんのか!?」

 

 苛立たしくイザークが叫ぶ。

 

 その時、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その役目、僕が引き受けました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如、戦場に響く涼やかな声。

 

 次の瞬間、今にもゲイツ隊に取り付こうとしていたジンが3機、立て続けに飛来した閃光によって腕や頭部を吹き飛ばされて後退する。

 

「何ッ!?」

 

 目を見開くイザーク。

 

 その彼の視線に、鋭くターンして飛来する、青い機体の姿が映った。

 

 手には2丁のライフルを持ち、かつてのエールストライカーのようなバックパックを背負っている。ただしエールとの違いは、4枚の翼の先端に、それぞれスラスターが増設されている事だろう。かなりの高機動型の機体である事が窺える。

 

《こちらは僕が引き受けます。みんなは、ユニウスセブンを!!》

 

 言いながら、突如現れた謎の機体は、両手のライフルを放ちながら、ジン部隊を牽制しに掛る。

 

 またたく間に、武装や頭部を撃ち抜かれて戦闘不能になるジンが続出した。

 

 そのあまりに洗練された戦いぶりに、思わず作業部隊の者達が見とれてしまう。

 

「何をしている、貴様ら!!」

 

 そこへ、イザークの叱咤が飛んだ。

 

「急いで作業に戻れッ 時間が無いのだぞ!!」

 

 その声に、慌てたように作業が再開された。

 

 

 

 

 

「大型の熱紋探知。ブルー20チャーリー、高速で接近中、これはッ!?」

 

 レーダーを見ていたバートが、驚いたように声を上げる。

 

 その姿を見て、カガリは口元に笑みを浮かべた。彼女が待ち望んでいた存在が到着したのだ。

 

「戦艦クラスです。識別信号はオーブ軍の物です!!」

 

 その報告を受け、デュランダルはカガリを見る。

 

「・・・・・・姫」

 

 デュランダルの言葉に、カガリは無言のまま頷く。何が来たのかは、彼女には判っているのだ。

 

「オーブ艦より映像通信。メインスクリーンに出します!!」

 

 モニターが点灯すると、そこには白を基調したオーブ軍の正式軍装を纏った若い青年が立っていた。

 

《こちらは、オーブ軍宇宙艦隊所属、戦艦武蔵。私は艦長のユウキ・ミナカミ二佐です。本艦はただ今現場に到着。ユニウスセブン破砕作業中のザフト軍を支援します》

 

 そう言うと、スクリーンの中のユウキは敬礼する。

 

 対してタリアも、シートから立ち上がって返礼を返す。

 

「ザフト軍戦艦ミネルバ艦長、タリア・グラディスです。貴艦の援護に感謝します。尚、敵の中にはジンを使った部隊がおります。我が軍の識別コードを送りますので、それに従い誤射を避けるようにしてください」

《感謝します》

 

 そこへ、カガリが前に出る。

 

「頼むぞ、ユウキ」

 

 声を掛けるカガリに対し、ユウキは敬礼を解いて笑顔を向ける。

 

《や、カガリ、久しぶり。まさかザフトの戦艦に乗って現われるなんて思わなかったよ》

「こ、こらッ 状況を弁えろッ ここにはデュランダル議長だっているんだぞ!!」

 

 指摘されてユウキは、今更その事に気付いた、とばかりに改めて敬礼する。

 

《おっと、これは失礼しました。ではアスハ代表、後はお任せを》

 

 そう言うと、そそくさとばかりに通信を切ってしまう。

 

「なかなか、良い部下をお持ちですな、姫」

「・・・・・・自国の恥を晒して申し訳ない。あのバ・・・あの者には、後で厳重に注意しておく」

 

 今にも怒鳴り出したいのを押さえるように、カガリは震える声でそう言う。

 

 そこへ、ミネルバを追い越すように、戦艦武蔵がユニウスセブンへ向かうのが見える。

 

「アスハ代表、あれが・・・・・・」

 

 タリアの言葉に、カガリは頷きを返す。

 

「武蔵は大和型宇宙戦艦の2番艦に当たる。1番艦で得られたデータを元に、各種の改良を施し完成した、我がオーブの最新鋭戦艦だ」

 

 大和型戦艦の名前はタリアも知っている。前大戦時、カガリが座乗したクサナギと共に戦った殊勲艦であると言う。攻撃力と防御力に重点を置いた設計は、1番艦竣工から2年経った現在でも比類無く、砲撃戦においては今持って世界最強と言われている。

 

 だが、今問題にすべきはそこでは無かった。

 

「・・・・・・あの、代表。あの艦首の装備は、いったい何ですか?」

 

 その質問に、カガリは一種言い淀んだ。

 

 なぜなら、大和なら長大な艦首部の先端にバスターローエングリンの砲門があるところを、

 

 何と武蔵は、巨大なドリルと、更にその後方に回転式の無限軌道を備えているのだ。

 

「あれは、その・・・・・・接近戦時における艦の攻撃力を増すと同時に、敵陣に対し地中から侵攻し敵拠点を叩く為の装備だ・・・・・・との事、らしい?」

 

 最後が疑問文になっている辺り、言っている本人も自信が無いようだ。

 

「・・・・・・あの代表。それ、もしかして、騙されていませんか?」

 

 タリアとデュランダルが、心なしか可哀そうな子を見るような目をカガリに向けて来る。

 

 その為、カガリは非常に居心地の悪い想いをするのだった。

 

 そんなミネルバブリッジでのやり取りはさておいて、武蔵は落下するユニウスセブンを目指して突撃を開始していた。

 

「状況を報告せよ!!」

 

 ユウキの指示を受けて、各部署から報告が挙げられて来る。

 

「ユニウスセブン、落下角43度、速度Bプラス。大気圏落下まで、およそ80分!!」

「現在、ユニウスセブン地表付近にて交戦を確認。ミネルバからの識別情報から、敵機の割り出しを行います!!」

「先行したカリヤ一尉が、敵部隊と思しきジンと交戦中!!」

「ハーネット隊、発進準備完了。いつでも行けます!!」

 

 報告に対して頷くと、ユウキは続いて指示を飛ばす。

 

「ハーネット隊、発艦開始。カリヤ一尉には引き続きザフト軍援護を指示。本艦もユニウスセブンへ接近せよ!!」

 

 巨大な衝角を携え、戦艦武蔵は滅びを告げようとするユニウスセブンへと向かった。

 

 

 

 

 

 キョウ・カリヤ一尉は、最前線に立つや、目にもとまらぬ程の速度でビームライフルを操り、向かって来るジンを次々と打ち倒して行く。

 

 彼の駆る機体はストライクAと呼ばれる機体であり、オーブ軍が戦後になって完成させたストライク級機動兵器である。因みにAとはアストレイを意味し、この機体がオーブの技術を使って完成した機体である事を現わしていた。

 

 ストライク級機動兵器の最大の特徴である武装換装システムも健在であり、これもまた、オーブは自国の技術で持って、新たなストライカーパックの開発に成功していた。

 

 現在装備しているのは、イエーガーパックと呼ばれる高機動型であり、ベースとなったエールストライカーの翼端に、新たにスラスターを増設し機動力を向上させた代物である。この形態時のストライクAは「ストライクイエーガー」と呼称する。

 

 そのストライクイエーガーに向かって、2機のジンがビームカービンを放ちながら向かって来る。

 

 それに対しキョウは、素早くライフルを返すと目にもとまらぬ速さで射撃を食らわせ、ジンの頭部と右腕を破壊する。

 

「おのれ、こいつがッ!!」

 

 部下達が倒れる様を見て、サトーが激昂したようにストライクイエーガーへと斬り込んで来る。

 

 振り下ろされる重斬刀の一撃を、キョウはとっさにシールドで払いのけた。

 

「こいつ、隊長機か!?」

 

 その動きの鋭さから、キョウは相手が只者ではないと察する。

 

 後退しつつ、ライフルで応戦するストライクイエーガー。

 

 対してサトーは流石に隊長機と言うべきか、機体を鋭く振り回してなかなかキョウに照準を付けさせず、ストライクイエーガーとの距離を徐々に詰めて来る。

 

 ライフルを戻し、背中のバックパックからビームサーベルを抜き放つストライクイエーガー。

 

 サトー機もまた、重斬刀を抜いて応じる。

 

 振るわれる斬撃。

 

 互いの剣をシールドで弾くジンとストライクイエーガー。

 

「ぬッ!?」

 

 サトーのジンが、一瞬体勢を崩す。

 

 その一瞬の隙を、キョウは見逃さなかった。

 

 スラスターを偏向して強引に方向を転換すると、そのまま懐へと滑り込む。

 

「クッ!?」

 

 サトーは舌打ちするが、ストライクイエーガーの速度は圧倒的に速い。

 

 真一文字に一閃される光刃。

 

 ストライクイエーガーが振り上げたビームサーベルは、ジンの左腕の肘から先を、シールドごと斬り飛ばしてしまった。

 

「おのれェッ!!」

 

 憎々しげな瞳でストライクイエーガーを睨みつけるサトー。しかし、機体が損傷している状態で戦うのは危険と判断したのか、追撃をかわしながら後退していくしか無かった。

 

 ザフト軍、テロリスト、地球軍、そしてオーブ軍。

 

 狭い戦場の中で、これだけ旗色の異なる陣営が交錯している。

 

 世界の破滅を望む者。

 

 それを阻もうとする者。

 

 戦う意味すら判っていない者。

 

 それらの者達の思惑を乗せ、ユニウスセブンはゆっくりと滅びへと向けて堕ち続けていた。

 

 

 

 

 

PHASE-06「破滅呼ぶ流星」      終わり

 




やり過ぎたという自覚はある。けど後悔はしていない(ぇー

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