機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-49「乱天霧中」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 状況は混沌としたまま、既に誰がどこにいるのかすら、把握する事が困難となりつつある。

 

 3軍が縦横無尽に入り乱れ、陣形など崩壊して既に久しい。

 

 皆が皆、その場に行き会った敵に砲門を向けるのが精いっぱいの状態であった。

 

 そのような中にあって、いち早く戦線突破に成功したのは、3隻の大和型戦艦から成る、オーブ宇宙軍第1戦隊である。

 

 司令官のユウキは3軍入り乱れた混乱状態を利用し、強引に戦線を突破したのだ。

 

 元々大和型戦艦は、「火力と装甲を持って、モビルスーツに対抗する戦艦」と言うコンセプトを持っている。この手の強引な戦線突破は、本分と言うべきである。

 

 もっとも、流石に無傷ではない。大和は対空砲をいくつか潰され、信濃はリニアカタパルトを1基失っている。旗艦武蔵も、度重なる攻撃を受けて、後部の副砲が破壊されていた。

 

「グズグズしている暇はないね。すぐに攻撃を開始して!!」

 

 ここは敵の要塞の真正面である。下手をしたら、挟撃を受けた上に袋叩きにもされかねない。一刻も早く攻撃を開始する必要がある。

 

 要塞の規模としては比較的小振りなメサイアも、これだけ接近すれば小山のような威容を誇っている。

 

 3隻は1列に並び、3連装3基9門、合計27門の主砲をメサイアへと向けた。

 

「撃てェ!!」

 

 ユウキの号令と共に、一斉砲撃を開始する第1戦隊。

 

 地球圏最強戦艦3隻による艦砲射撃。

 

 その熾烈な砲撃は、戦隊と要塞の間に割って入り砲撃していたナスカ級戦艦を巻き込み、これを一撃の元に粉砕したくらいである。

 

 メサイア目指して伸びる閃光。

 

 しかし、あらゆるものを粉砕するはずの閃光は、要塞の手前で進路を阻まれ、水が弾けるように霧散した。

 

「何ッ!?」

 

 驚いて目を剥くユウキ。

 

 見れば、メサイア全体を半透明の幕が覆っているのが見える。あの幕が、メサイアに向けて放たれた艦砲射撃を完璧に防ぎ留め、けんもほろろに弾き返したのだ。

 

「陽電子リフレクターか・・・・・・」

 

 ユウキは呆然と呟く。

 

 地球連合軍が戦線投入した防御用武装。その性能は、ミネルバのタンホイザーすら弾き返したほどである。いかに大和型戦艦の主砲であっても、撃ち抜けるのものではない。

 

 自走航行可能で、ネオジェネシスと言う比類ない砲撃力を備え、その上、防御においても完璧と言っても良い。

 

 何と言う凶悪な要塞だ。

 

 その時、執拗に武蔵を砲撃していたザク2機が、横合いから砲撃を食らって吹き飛ばされる。

 

《ユウキ!!》

 

 鋭い声と共に、武蔵を守るように1機の機体が艦橋の前で振り返る。

 

《ユウキ、いったん下がってッ このままじゃ拙いよ!!》

 

 ライアのライキリ改だ。

 

 向かってくるザクをアムフォルタスで吹き飛ばしたライア。

 

 更にライキリ改はムラマサを腰から抜き放って加速、後続する大和に向けてオルトロスを放とうとしていたザクを斬り捨てる。

 

 敵陣深く攻め込んだ事で、第1戦隊はザフト軍の猛攻撃にさらされている。いかに最強戦艦でも、このままでは危険である。

 

 だが、

 

「退いてどうするの?」

 

 恋人に対し、ユウキは強い口調で返す。

 

 ここで退いたとしても、第1戦隊の速度はモビルスーツはもとより、ザフト軍のナスカ級と比べてもそれほど速くない。安全圏に退避するまでに大損害を食らうのは必定である。

 

 何より、これは決戦だ。この戦いに敗れると言う事は即ち、オーブが滅びる事を意味する。

 

 ならば退く事に意味は無く、この場にあって最後まで諦めずに戦い続けるしかないだろう。

 

《・・・・・・判った》

 

 諦めたように、ライアは呟く。

 

 確かにユウキの言うとおり、ここで逃げるわけにはいかないのだ。

 

「ごめん、ライア・・・・・・」

《良いよ、別に》

 

 ユウキの言葉に対し、ライアは微笑を浮かべて返す。

 

 この年上の恋人は性格自体は穏やかだが、決して臆病な人ではない。戦場にあっては、常に最前線で砲火に身を晒す事も厭わない胆力を兼ね備えている。

 

 だからこそ、自分が守ってやらないといけないのだ。

 

「ライア」

 

 ユウキが、穏やかな口調で語りかけてくる。

 

「愛しているよ」

《ば、馬鹿ッ こんな時に!!》

 

 顔を赤くしたまま、ライアは叩き付けるように通信を切る。

 

 みんなが見ている前で何を言っているのか。

 

 照れ隠しの八つ当たりのように、ライキリ改の攻撃は激しさを増す。

 

 しかしそれでも、向かってくる敵の数は、一向に減る気配は無かった。

 

 

 

 

 

 自身にぶつけられる、妄執にも似た悪意。それを感じ取り、ラクスは戸惑いを隠せずにいた。

 

 恨まれる事には、別に驚きはしない。自分はそれだけの事をしていると言う自覚はあるし、そんな物は今さらであろう。

 

 だが今、直接自分にぶつけられる悪意はラクスの想像以上に執拗であり、どこかラクス個人に対する粘着質にも似たこだわりを感じ取る事ができる。

 

「あなたは・・・・・・・まさか・・・・・・」

 

 呻くラクス。

 

 自身に向かってくる赤いフリーダムの猛攻は、尚も苛烈さを増しつつある。

 

 熾烈な砲撃は、その火線の中にトゥルースを捉えようと迫ってくる。

 

 自分に向けられる妄執のような怨嗟。

 

 その奥に見え隠れする者の正体に、ラクスは気付きはじめていた。

 

《あなたがいけないよッ あなたが!!》

 

 6基のドラグーンでトゥルースの動きをけん制する赤いフリーダム。

 

 そして、動きが止まったところに、腕のアームに装備したビーム砲を叩き付ける。

 

「クッ!?」

 

 とっさに、その攻撃をシールドで受け止めるラクス。

 

 しかし、完全に防ぎとめる事ができず、トゥルースは大きく吹き飛ばされる。

 

 そこへ、トドメを刺そうとビームソードを発振して振り翳す赤フリーダム。

 

 その攻撃を、ラクスはトゥルースを強引に操って回避する。

 

「あなたは!?」

 

 その視線の先。

 

 向かってくる赤いフリーダムの中で、

 

 彼女と全く同じ顔をした少女が、憎しみの籠った瞳で、トゥルースを睨みつけていた。

 

《ラクス・クライン、あなたは、生きてちゃいけないんだ!!》

 

 激しい攻撃を仕掛けながら、ミーア・キャンベルは吐き出すように叫ぶ。

 

 ありえない事ではないだろう。

 

 ほんの3年前、当時はプラントの歌姫として慕われていたラクスが、モビルスーツに乗って戦場を駆ける事になるなど、誰も想像していなかっただろう。それに比べれば、ミーアがパイロットとしての技能を持っていたとしても、何も不思議は無かった。

 

 ミーアが駆る機体はヴァリアブルと言い、元々はザフトが計画していた量産型フリーダムのデータを流用し、ミーア専用に開発された物だ。ただし、ミーア自身のパイロット適性が飛び抜けて高い訳ではないので、武装を簡略化し、大幅なOS補正を掛けている。更に、若干機動力を犠牲にして、防御力を高めてある。VPS装甲が赤くなっているのはそのためだ。

 

 その他に、低下した戦闘力を追加武装で補っている。コメートと言うヴァリアブルの追加装備はミーティアを改良した物で、ミーティアの欠点だった大型化によるデッドウェイトを解消している。その分火力はオリジナルよりも低下しているが、機動力の大幅な向上に成功していた。

 

 ミサイルを一斉発射するヴァリアブル。

 

 対して、両手に持ったビームライフルを放ち、応戦するトゥルース。

 

 全てのミサイルは、トゥルースに届く前に撃ち落される。

 

 しかし、その爆炎を突いて、ヴァリアブルが斬り掛かってくる。

 

《あなたが、あんな事をしなければ・・・・・・》

 

 恨み言と共に斬り掛かってくるミーア。

 

 対してラクスは、トゥルースを後退させながら回避運動を行う。

 

《あなたがあんな事をしなければ・・・・・・》

 

 6基のドラグーンが、縦横の軌跡を描いて迫り、ビームを吐き出してくる。

 

 それに対し、ラクスはめまぐるしく機体を操りながら、全ての攻撃を回避していく。

 

《あなたさえいなければ!!》

 

 反撃の糸口をつかめないラクスに対して、ミーアは激しく攻め立てる。

 

 全火器を一斉展開して、フルバースト射撃を仕掛ける。

 

《あなたさえいなければ、あたしは「ラクス」でいられた!!》

 

 その嵐のような攻撃を、トゥルースは翼を翻して鮮やかに回避する。

 

 だが、それに対しても、ヴァリアブルは攻撃の手を緩めずに猛攻を加えてくる。

 

《「ラクス」はあたしよッ あなたじゃない!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アークエンジェルとミネルバの激突は、互いに一歩も譲らないまま、砲撃によって装甲を削り合う戦いが続いていた。

 

 双方ともに既に無傷ではなく、その装甲には傷跡が刻まれ、対空砲を中心に武装にも被害が出始めている。

 

 両艦共に性能が似通っており、また互いの手の内を知っている為、なかなか決定打を奪えずにいるのだ。

 

 アークエンジェルの主砲がミネルバの装甲を抉れば、ミネルバの副砲がアークエンジェルを貫く。

 

 互いのミサイルを、互いの対空砲火が1発残らず撃ち落していく。

 

 その激しい応酬が、数度続いた。

 

 しかしついに、その激戦にも決着が着く時が来る。

 

 数度の応酬を繰り返すうち、ミネルバはついに、艦首軸線上にアークエンジェルを捉える事に成功したのだ。

 

「タンホイザー、発射用意!!」

 

 タリアの命令と共に艦首のハッチが開き、中から巨大な砲門が迫り出す。

 

 陽電子破城砲タンホイザー。

 

 既にエネルギー充填は完了している。これを発射すれば、全てが終わる。

 

 その想いと共に、タリアは鋭く命じた。

 

「タンホイザー、発射ァ!!」

 

 放たれる、強烈な奔流。

 

 触れた物全てを破壊する、圧倒的な閃光。

 

「回避!!」

 

 その様子を見て、マリューがとっさに叫ぶ。

 

 が、もう遅い。すぐそこまで迫った死の閃光を前にしては、成す術が無かった。

 

 迫る死の瞬間に対し、目を見開いて見つめるマリュー。

 

 白色に染まった視界がいっぱいに広がり、

 

 次の瞬間、黄金の影が遮るように立ちはだかった。

 

「ウォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 雄叫びと共に、陽電子の奔流の前に立ちはだかるネオのアカツキ。

 

 フリューゲル・ヴィントの隊長として直掩隊を指揮していたネオだが、アークエンジェルの危機に際し、とっさに割って入ったのだ。

 

「アークエンジェルは、やらせん!!」

 

 身を焦がすほどの閃光。

 

 あらゆる物が、光の中で溶けていくような感覚。

 

 そう言えば、

 

 ふと、ネオは奇妙な既視感に捉われた。

 

 何だか、前にもこのような事があった気がする。あれはいったい、いつの事だったか?

 

 次の瞬間、ネオの意識は過去の奔流の中へと身を投じる。

 

『俺って、やっぱ、不可能を、可能に・・・・・・』

 

 ストライク、あの時乗っていた機体で、やはり今と同じように、同じ艦を守る為に陽電子砲の前に身を晒した事があった。

 

 次いで、記憶の場面が切り替わる。

 

 ベッドの横たわっている自分。それを見下ろすように、数人の白衣を着た男と、銀髪で血色の悪い男が立っている。

 

『成程・・・・・・ミオンの鷹か・・・っと、役に立ってくれよう・・・・・・』

『・・・・・・の処理は・・・・・・で過去を・・・・・・』

 

 更に、記憶は再生されていく。

 

『すぐ戻って来るさ、勝利と共にね』

 

 そう、あれは前の出撃の時にも、心配そうにする「彼女」を安心させる為に言った台詞だった。

 

 そして、

 

 更に記憶は遡る。

 

 あれはいつだったか?

 

 もう、遥か昔の事のような気がする。

 

 だが、今なら正確に、あの時の事を思い出す事ができた。

 

『地球軍第7軌道艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ』

 

 そう言って敬礼する自分に、彼女はややぎこちない仕草でこう返した。

 

『地球軍、第2宙域第5特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です』

 

 

 

 

 

 そう、

 

 

 

 

 

 今、全てを思い出した。

 

 

 

 

 

 俺の名はムウ・ラ・フラガ。

 

 不可能を、可能にする男だ!!

 

 

 

 

 

 次の瞬間、アカツキのヤタノカガミ装甲は凄まじい閃光を放ち、タンホイザーの閃光を弾き返した。

 

 同時にビームライフルを斉射、タンホイザーの砲身を撃ち抜いて吹き飛ばす。

 

 それだけではない。

 

 ネオは、

 

 否、ムウは鋭く機体を操ると、シラヌイパックから7基のドラグーンを射出、アークエンジェルを囲むように展開する。

 

 そのドラグーンを起点として、不可視の線が結ばれ、そこからフィールドを展開、アークエンジェルに向けて放たれた砲火を、全て防ぎとめる。

 

 まさに、守りを主体としたアカツキ最大の切り札と言える。

 

《もう大丈夫だ、俺はどこにもいかない!!》

 

 その力強い声は、またも大切な人を失ったのかと思っていたマリューの胸に大きく響き渡る。

 

《終わらせて帰ろう、マリュー!!》

 

 その声に、

 

 マリューは涙が零れるのを禁じ得なかった。

 

 今、はっきりと認識する。

 

 あの人が、ムウが自分の元に帰って来たのだと。

 

 

 

 

 

 オーブ、ザフト、連合の3勢力による三つ巴の激戦は、のちの世に「史上稀に見る大乱闘」と呼ばれるほど、収拾のつかない物となっている。

 

 何しろ、敵を攻撃していたと思ったら、いつの間にか背後に別の敵が現れて撃たれる。などと言う事は当たり前であり、中には機位を見失った機体同士が衝突して、双方撃墜などと言う事態まで起きているほどである。

 

 その中で、誰が有利かは、未だに定かではない。

 

 ザフト軍は未だに主力隊が戻らず、防戦一方になっている。

 

 オーブ軍は戦闘開始当初の勢いは既に失われ、ズルズルと消耗戦に引きずり込まれている感がある。

 

 そんな中で、明確に「不利」と言えるのが、地球連合軍だった。

 

 元々、地球連合軍にとって最大の強みは物量である。しかし、ダイダロスが陥落し、宇宙艦隊主力がアルザッヘルで壊滅した今、彼等に昔日の面影はない。

 

 生き残っているモビルスーツやモビルアーマーも、次々と飛来するザフト軍機の前に討ち取られ、砲火は既に艦隊にまで及んでいる。

 

 しかし、地球軍艦隊の艦艇が、砲撃を浴びて撃沈する艦が相次ぐ中、旗艦ガーティ・ルーは堅固に、艦隊中央に居座り続けていた。

 

 かつて、開戦の遠因となったロアノーク隊のアーモリーワン襲撃において母艦を務めた因縁の艦は、激しい砲撃を巧みに回避しながら砲撃を続けている。

 

 そのガーティ・ルーの艦橋に座し、クラークは泰然として状況を見守っている。

 

 既に、地球連合軍に勝機が無い事は、クラークにも判っている。

 

 元より、勝算あっての参戦ではない。

 

 ジブリールが行った、レクイエムによるプラント直接攻撃。倫理的、人道的にはいろいろと問題があるが、あれが恐らく、地球軍が勝利する事ができる最後のチャンスだったのだ。それに失敗した以上、もはや地球軍に勝機が無い事は明白である。

 

 だが、たとえ勝機が無くても、戦わねばならない時がある。

 

 地球を、そしてそこに暮らす全ての人々の生活を守る為ならば、地球連合軍は一兵に至るまで自分の命を惜しむ者などいなかった。

 

「艦長」

 

 砲火の閃光に照らされながら、クラークは尋ねる。

 

「シュナイゼル少佐とオークレー中尉は、メサイア周辺に突入したかね?」

「は・・・・・・」

 

 ラキヤのストームと、スティングのカオスが、地球連合軍にとっては最後の切り札だ。彼等の突入を掩護する事こそが、自分達がここに来た意義であるとも言える。

 

 尋ねられて、イアンは手元の時計に目を落とす。出撃してから大分経つが、それでも、予定の時間としてはギリギリの所である。

 

「恐らく、敵の妨害にあっている事が予想されます。まだ、辿りつくには至っていないかと」

「そうか・・・・・・・・・・・・」

 

 加えて、辿りつけたとしても、要塞には陽電子リフレクターが張り巡らされている。侵入は容易ではないだろう。

 

 ならば、多少なりとも掩護をしてやらねばならない。

 

「艦長、艦隊を前進させよう」

「は・・・・・・」

 

 イアンは思わず、クラークを見る。

 

 既にザフト軍の猛攻で、地球軍艦隊は損害を出し始めている。この上、更に前進したりしたら、集中砲火を食らって、早期に壊滅してしまう事も考えられる。

 

 だが、言ったクラークは穏やかな顔をしている。

 

 少しでも敵の砲火を自分達に引き付ける。それによって、ラキヤとスティングを掩護するのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・判りました」

 

 謹厳に頷くイアン。

 

 元より、バックヤードを出撃した時から、この命は無い物と思っている。ならば、少しでも有効な命の捨て場所を求めるべきだ。

 

「ガーティ・ルー前進ッ 僚艦に打電『我に続け』!!」

 

 動き出すガーティ・ルー。他の地球軍艦艇も、それに倣って前進を開始する。

 

 そこへ、ザフト軍の集中砲火が浴びせられた。

 

 

 

 

 

 かつて、あの人が死んだ時、レイはデュランダルに聞いた。

 

『ギル、ラウはどうしたの?』

 

 そう問いかけるレイに、デュランダルは僅かに寂しそうな顔を覗かせて言った。

 

『ラウは、もういない』

 

 まだ、運命と言う物を知らなかった、その頃のレイ。

 

 そんなレイを光の中に連れ出してくれた人物、それがギルバート・デュランダルであり、そしてラウ・ル・クルーゼだった。

 

 その時、レイは漠然と思った。

 

 ラウは、死んだのだと。

 

 そんなレイに、デュランダルはいつも通りの優しげな笑みを浮かべて言った。

 

『だが、君もラウだ』

 

 意味が分からないと言う顔をするレイに対し、デュランダルは続けた。

 

『それが、君の運命なのだよ』

 

 運命。

 

 そう、この闇に閉ざされた世界の中にあって、ラウと言う存在になる。

 

 そして、ラウが望んで果たせなかった事を、自分が果たす。

 

 それこそが、自分の運命なのだと思った。

 

 故に、レイは今、ここにいる。

 

 その身に課せられた、運命に従って。

 

「我が名は、ラウ・ル・クルーゼ!!」

 

 言いながら、ドラグーンの一斉射撃をフェイトに浴びせる。

 

「この世界を、終わらせる者だ!!」

 

 その声は、交戦中のシンの耳にも届く。

 

「終わらせる、だって!?」

 

 向かってくるビームを悉く回避し、ビームライフルで反撃するフェイト。

 

 その攻撃を、レジェンドは余裕の動きで回避する。

 

「あんたは、いったい!?」

 

 レジェンドが放つ反撃の砲火を、かろうじて回避するフェイト。

 

 フェイトはミストルティンを、レジェンドはジャベリンを構えて斬り込んで行く。

 

 互いの剣をシールドで防ぎ、ほぼ同時にすれ違うようにして離れる。

 

《この世界は間も無く終わる!! そして、新しい時代が訪れる。運命の名の下に!!》

 

 ドラグーンの一斉射撃。

 

「お兄ちゃん、3時方向、全速回避!!」

「判った!!」

 

 マユの誘導に従い、フェイトを回避させるシン。

 

 だが、ドラグーンは執拗にフェイトを追って砲撃してくる。

 

 ドラグーンが射かけて、フェイトがそれを回避、反撃の砲火をレジェンドがシールドで防ぐ。

 

 マユのオペレートと、ドラグーンの機動力が、ほぼ互角の競り合いをしているようにも見える。

 

《故に、お前達は消え去らねばならない!!》

 

 レジェンドを迎え撃つべく反転するフェイトに対し、レイはドラグーンを包囲するように配置、一斉攻撃を仕掛ける。

 

 それを全力で回避し、ミストルティンを掲げて斬り込んで行くフェイト。

 

 鋭い斬撃を、レジェンドはシールドで弾き、反撃のドラグーンを飛ばす。

 

《生まれ変わる、この世界の為に!!》

 

 フェイトを後退させるシン。

 

 ドラグーンの一斉掃射のせいで、せっかく詰めた間合いが、再び引き離される。

 

 フェイトとレジェンドの激突は、尚も苛烈さを保ったまま、互いに決定打を見出す事ができないでいた。

 

 

 

 

 

 ここに来るまでに、どれくらいの敵を倒しただろう?

 

 デスティニーのコックピットに座したまま、アリスはぼんやりとそんな事を考えている。

 

 その間にも手は止まることなく操縦桿を操り続け、今もまた、1機のウィンダムがアロンダイトに斬り裂かれて虚空に爆散している。

 

 ほとんど無意識に機体を操りながらも、的確に敵を屠っていく様は異様ですらある。

 

 周囲に味方の影は無い。殆ど、包囲されているに等しい状態だが、今のアリスには焦りは無い。それどころか、感情が揺らぐ事すらない。

 

 ただ機械のように、向かってくる敵を屠り続けているだけだった。

 

「・・・・・・・・・・・・何やってるんだろ、ボク」

 

 そんな言葉が、アリスの口から洩れる。

 

 信じてもいない世界を造る為に、友達がいる国を滅ぼそうとして戦っている。

 

 それが果たして良い事なのか、今のアリスには判らなくなりつつあった。

 

 新しい世界を造ろうとするザフト軍と、今ある世界を守ろうとするオーブ軍。響きだけを聞けば、どちらも良い事をしているように思えてくる。

 

 だと言うのに、なぜ互いが憎み合うように戦わなくてはならないのだろうか?

 

 そんな事をぼんやりと考えながら。ビームライフルでウィンダムを撃ち抜く。

 

 その時だった。

 

 突如、飛翔するデスティニーに対して、攻撃を仕掛けてくる機影があった。

 

 とっさに機体を翻しながら、アリスは視線をビームが飛んできた方向へ向ける。

 

 ずんぐりした3機の漆黒の機体。ドムトルーパー隊だ。

 

 ラクスとミーアの対決は凄まじい高機動で行われている為、ヒルダ達は介入する隙を見いだせないでいる。

 

 そこで、せめて2人に近付こうとする敵を排除しようと、こうして待ち構えている所に現れたのが、デスティニーと言う訳である。

 

「マーズ、ヘルベルト、あいつは例の新型だ。油断すんじゃないよ!!」

《《おう!!》》

 

 唱和しながらマーズ機とヘルベルト機は、ヒルダ機の背後に追随する。

 

 最大展開されるスクリーミングニンバス。

 

《《《ジェットストリームアタック!!》》》

 

 突撃を開始する3機のドム。

 

 対してアリスは、自身に向かってくるドムトルーパー隊を見据え、ビームライフルを放つ。

 

 しかし、

 

「無駄だよ!!」

 

 デスティニーの放った攻撃は全て、スクリーミングニンバスによって弾かれ用を成さない。

 

「クッ!?」

 

 その様子に、呻き声を上げるアリス。

 

 攻撃手段を切り替えようと、アロンダイトに手を伸ばす。

 

 しかし、その前にドムトルーパー隊は突っ込んできた。

 

 アリスの視界いっぱいに迫ってくる赤いフィールド。

 

 とっさにアリスは攻撃を諦め、ビームシールドを展開してジェットストリームアタックを防ごうとする。

 

 だが、

 

「キャァッ!?」

 

 シールドとフィールドがぶつかり合った瞬間、勢いを殺し切れず、デスティニーは大きく跳ね飛ばされる。

 

 バランスを崩して錐揉みするデスティニー。

 

 そこへヒルダ達は、更なる攻撃を仕掛ける。

 

「これで終わりだよ!!」

 

 突撃しながら、ヒルダ機の背後からマーズ機とヘルベルト機がデスティニーにバズーカで砲撃を浴びせる。

 

 しかし、

 

「ッ!?」

 

 次の瞬間、一瞬早く体勢を立て直したデスティニーは、高機動を発揮してその場から退避する。

 

《こいつ!!》

 

 嵩にかかって、砲撃を連発するドムトルーパー隊。

 

 しかし、その攻撃は全て、残像を引いて飛ぶデスティニーを捉えるには至らない。熾烈なドムトルーパー隊の攻撃も、残像をえぐる事しかできない。

 

 アリスは高速機動を発揮してドムトルーパー隊を翻弄、正面から一気に突撃を掛ける。

 

「こいつ、血迷ったか!!」

 

 ヒルダの叫びと共に、迎え撃つようにスクリーミングニンバスを展開状態のまま突撃するドムトルーパー隊。

 

 次の瞬間、デスティニーは自分の右腕を突き出す。

 

 深紅のフィールドと、デスティニーの腕が接触。

 

 その一瞬、アリスはパルマ・フィオキーナを最大出力で放射する。

 

 閃光が激しくスパークを奏で、視界全てが焼き切れるかと思うほど白色に染まる。

 

 それが晴れた瞬間、

 

 ドムトルーパー隊の最大の切り札とも言うべきスクリーミングニンバスは、対消滅の影響で完全に消え去っていた。

 

「しまった!?」

 

 呻くヒルダ。

 

 その瞬間には、アリスは動いていた。

 

 両肩のフラッシュエッジを抜き放ち、サーベルモードで一閃。

 

 2本の刃は、目の前にヒルダ機の両腕を肩から切断する。

 

「アアッ!?」

 

 悲鳴を上げるヒルダ。

 

 それを受けて、背後のマーズ機が動く。

 

《ヒルダ!? この野郎!!》

 

 飛び出すと同時に、バズーカを放とうとするマーズ機。

 

 しかし、それすらアリスは予測済みだった。

 

 マーズが引き金を引くよりも早く、両手のフラッシュエッジをブーメランモードで投擲、マーズ機の右腕と頭部を斬り飛ばしてしまった。

 

 残る1機。

 

 戻ってきたブーメランをキャッチして、振り返ろうとするアリス。

 

 しかし、その時には既に体勢を立て直したヘルベルト機が、損傷した仲間2人を掩護するように、デスティニーに砲撃を浴びせてくる。

 

 ヘルベルトはデスティニーが強敵と判断すると、撃墜よりも味方2人の撤退掩護をするべく砲撃を繰り返す。

 

 それに対してアリスは、それ以上の攻撃を諦めて後退する。

 

 どのみち、これであの3機の連携は崩せた。あとはそれほどの脅威にはならないだろう。

 

 そう判断すると、深紅の翼を翻してその場を去って行くデスティニー。

 

 それに対して、3人中2人が戦闘不能に陥ったドムトルーパー隊は、追撃を掛ける事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 進撃するラキヤとスティングを阻むように、ザフト軍機は次々と湧き出してくる。

 

 それらはメサイアに近づくごとに圧力と勢いを増し、壁のように2機の進路を阻んでくる。

 

 ストームとカオスは、それらをドラグーンで撃ち抜き、あるいは剣で斬り裂きながら前へと進んでいく。

 

《チッ こいつら、数だけは随分と!!》

 

 カオスをモビルアーマー形態にしながら、敵の攻撃をかわしつつ、兵装ポッドの反撃で撃墜していくスティング。

 

 ラキヤもまた、遠距離の敵はドラグーンで撃墜し、その間にストームを前進させると、レーヴァテインやビームシードを使って斬り飛ばしていく。

 

「スティング、まだ行ける?」

《ヘッ 俺を誰だと思ってんだよ!!》

 

 尋ねるラキヤに、頼もしい返事が返ってくる。

 

 進撃する毎に敵の圧力が増える中で、スティングの存在が何よりも頼もしく思える。

 

 目を転じれば、もう要塞は手が届きそうな場所まで来ている。巨大な岩塊は、ラキヤの視界いっぱいに広がっていた。

 

 あと少しだ。もう少しで、目的を達成する事が出来る。

 

 そう思った時だった。

 

 突如、出し抜けに起こった閃光の嵐が、ストームへ襲い掛かる。

 

「ッ!?」

 

 とっさに機体を翻して回避するラキヤ。

 

 仰ぎ見る先、そこには、

 

《チッ 外したか。相変わらずゴキブリ並みのしぶとさだな、貴様は!!》

 

 いくつもの特徴を併せ持つ、異形の機体が存在した。

 

 その姿を見て、ラキヤは目を見開く。

 

「その声はまさか・・・・・・ベイル・ガーリアンか!?」

《ベイルって・・・あいつか!!》

 

 スティングも恨みの籠った声を上げる。

 

 かつてクレタ沖海戦の直前、ベイルはスティングに対し不必要にブロックワードを使い、そのせいでスティングは戦場に出られなかった事がある。

 

 その時の戦いでアウルは戦死し、ネオは行方不明になり、そしてステラは重傷を負って、その後、当のベイルの手によってベルリンの大虐殺に導かれる事になった。

 

 そんなスティングに対し、ベイルは蔑んだ声を発する。

 

《何だ、人形野郎。貴様、まだ生きていたのか? てっきり、どっかで野垂れ死にでもしたと思ったんだがな?》

《それはこっちのセリフだ。今日こそ引導を渡してやんよ!!》

 

 スティングはそう言って、砲門をエグゼクターに向けようとする。

 

 しかし、

 

《生憎だな。俺は貴様とお人形遊びをする気は無いんだ。貴様のような木偶には、別の相手を用意させてもらった。こいつらとでも遊んでいろ!!》

 

 下卑た笑いと共にベイルが言い放つと同時に、カオスにめがけて無数の火線が飛んでくる。

 

《何ッ!?》

 

 見れば、漆黒に塗装したウィンダムが15機、カオスに向けてライフルを放ってくる。

 

 それらは連携した動きで、一糸乱れぬ統制を見せていた。

 

《嬉しいだろ。そいつ等は貴様の大事な大事な兄弟達だ。せいぜい可愛がってやるんだな!!》

 

 15機のウィンダムを操る者達。それは、地球連合軍が密かに「量産」していたエクステンデット部隊の生き残りである。多くはアルザッヘルやダイダロスで戦死したが、一部は生き残り、ベイルが指揮下に収めていたのだ。

 

 それらが、一斉にカオスへと向かっていく。

 

「スティング!!」

 

 とっさに援護に入ろうとするラキヤ。

 

 だが、その行く手を遮るように、閃光の奔流が迸る。

 

《貴様の相手は、この俺だ、ラキヤ・シュナイゼル!!》

 

 ストームに向かって突撃してくるエグゼクター。

 

 振るわれるニーズヘグの一撃を、かろうじて回避する。

 

「クッ!?」

《ウザいんだよ、貴様の存在は!! 今日こそぶっ殺して、その醜い躯を、俺自らの手で引き裂いてやるよ!!》

 

 激しさを増すエグゼクターの攻撃。

 

 一刻も早く要塞に向かわなくてはならない状況で、とんでもない邪魔が入ってくれたものである。

 

 向かってくるベイルに対してラキヤは、焦りを覚えながらも迎え撃つしかなかった。

 

 

 

 

 

 アドラー、ファルケの2機を退けた後、キラとエストは尚も単独で行動を続け、苦戦を続ける味方部隊の援護を行っていた。

 

 ストライクフリーダムの戦力は絶大であり、パイロットとオペレーターの実力も相まり、その存在1個だけで1軍にすら匹敵する。

 

 キラはエストの戦況分析に従い、フリーダムの機動力を縦横に駆使して、なるべく多くの戦線を同時に支えている。

 

 既にダース単位で換算できるだけの敵機を戦闘不能に追い込んでいるフリーダム。その存在はまさに、オーブにとっては守護神ともいうべき物であろう。

 

 フリーダムが蒼翼をきらめかせて駆け抜ける度、確実にザフト軍の防衛線は斬り裂かれて行く。

 

「エスト、次は?」

「待ってください、今・・・・・・」

 

 キラの指示に従い、戦況を分析して優先順度を割り出しにかかるエスト。

 

 状況があまりにも混戦模様である為、デュアルリンクシステムでも、戦況の割り出しに時間が掛っているのだ。

 

「できました。次は・・・・・・」

 

 OSが割り出したデータを元に、エストがオペレートを再開しようとした時だった。

 

 突如、ストライクフリーダムのすぐ傍らにいたオーブ艦が、装甲を真っ二つに断ち割られ、爆炎を発する。

 

「なッ!?」

 

 思わず、とっさにフリーダムを退避させるキラ。

 

 次の瞬間、真っ二つにされたオーブ艦全体が閃光に包まれ、炎を上げて轟沈する。

 

 その爆炎を突いて、常識外の大剣を携えた漆黒の機体が姿を現した。

 

 炎を背に、まるで全てを滅ぼす魔神が出現したかのような姿。

 

 あまりと言えばあまりに凄まじい光景に、キラもエストも、思わず茫然となる。

 

「フリーダム・・・・・・議長が目指す未来を実現する為、その首、もらいうけます!!」

 

 ジャッジメントを駆るイレーナは、叩きつけるように叫ぶと、デュランダルを翳して斬り込んでいく。

 

 対抗するように、キラもフリーダムを振り返らせ、両手にビームサーベルを抜いて構える。

 

「危険度Sクラス!! 危ない、キラ!!」

「判った!!」

 

 キラは油断なく距離を詰めながら、ジャッジメントとの距離を詰めに掛る。

 

 冷静なエストが、思わず素の感情を出して叫んでしまうほどに危険な相手である。油断する事は、即ち死に繋がるであろうと言う事は、即座に理解できた。

 

 

 

 

 

PHASE-49「乱天霧中」      終わり

 




やーっと出そろった、後期オリ機!!
と、思ったら、アドラーとファルケが既に退場済み(爆

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