機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-48「乱戦の虚空」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来、ザフト軍においては、連携攻撃をさほど重要視していない。

 

 それは、彼等コーディネイターはそもそも、自分達の能力が高いが故に個人戦闘に恃む傾向が強い事が上げられる。加えて、エース級と認定される者達からすれば、連携攻撃など、取ろうと思えば大した訓練も無しに取れるものなのだ。

 

 ザフト軍の士官学校においても、それほど連携攻撃を重視しているわけではない。

 

 それ故に、連携攻撃を重視して建造されたアドラーとファルケ、そしてそれを操るルインとアキナは、ザフト軍の中においては異質であると言える。

 

 そんな2人が、何機目かのムラサメを倒した時、それは目の前に現れた。

 

《ルイン、あれ!!》

 

 アキナに促されて振り返ると、そこには10枚の蒼翼を広げて向かってくる機体があった。

 

「あれは・・・・・・フリーダムか!?」

 

 大物である。

 

 かつてはザフト軍が開発し、それをL4同盟軍が運用した機体。一説によれば、あのラクス・クラインの乗機でもあったと言う。この場にあっては「大将首」に近い。

 

 強敵である。だが、同時に自分達の実力もまた、充分にあると自覚していた。

 

 仕掛ける相手として、不足は無い。

 

「よし、アキナ、あいつをやるぞ!!」

《了解、いつでもどうぞ!!》

 

 言いながら、アドラーとファルケはスクリーミングニンバスを展開、ツインバードストライクの態勢に入る。

 

 この時、ルイン達の認識は半分正解で半分は間違っていた。

 

 彼等が狙いを定めた機体は、正確にはフリーダム級機動兵器のトゥルース。しかし、そのコックピットに座した少女こそは、彼等が想像したラクス・クラインその人であった。

 

「あれはッ!?」

 

 連携して接近してくるアドラーとファルケに対し、ラクスは警戒するようにティルフィングを構える。

 

 そこへ、2機は機動を交差させて襲い掛かった。

 

「「喰らえッ ツインバードストライク!!」」

 

 ファルケがオルトロスとレールガンを一斉射撃、そこへ、アドラーがエクスカリバーを掲げて斬り込む。

 

 対してトゥルースは、ビームシールドを展開してファルケの攻撃を防御、更に、向かってくるアドラーと互いに剣戟を交わす。

 

 すれ違う両者。

 

 トゥルースとアドラーの大剣は、互いに相手を捉えるには至らない。

 

 ラクスは、すぐさま機体を振り返らせると、未だに背中を向けているアドラーに向けて、レールガンを放つ。

 

 だが、

 

「やらせない!!」

 

 その前に割り込んだファルケが、シールドを掲げてトゥルースの攻撃を防ぐ。

 

 その陰から、再びアドラーがエクスカリバーを翳して飛び出してきた。

 

 対抗するように、ビームライフルを放つトゥルース。

 

 しかし、攻撃は全てスクリーミングニンバスで防がれてしまう。どうやら、ドムトルーパー隊が使っている物より出力は弱いようだが、それでもビームライフル程度の威力なら防げるらしい。

 

 そこへ、ファルケからの砲撃が容赦なく浴びせられる。

 

「クッ!?」

 

 とっさに、機体を翻して回避するラクス。

 

 だが、そのせいで機体のバランスも崩れる。

 

「貰ったァ!!」

 

 斬り込んでくるアドラー。

 

 その一撃を、ビームシールドで防ぐトゥルース。

 

「クッ!?」

 

 ラクスは呻き声を漏らしながら、機体を全速で後退させる。

 

 強い。

 

 ラクスは舌を巻かざるを得なかった。

 

 アドラーかファルケ、どちらか1機なら、それほどの脅威にはならない。恐らくラクスなら、労せずして勝利できるだろう。

 

 だが、2機で連携された場合、エース級をも上回る戦闘力を発揮している。

 

 そこへ更に、ファルケが攻撃を仕掛けようとした。

 

 その時、

 

《ラクス様、お下がりください!!》

 

 ヒルダの鋭い声が響く。

 

 見れば、3機のドムトルーパーが、ジェットストリームアタックの体勢で向かってくるところであった。

 

 その様子は、ルイン達からも確認する事ができた。

 

「クッ アキナ、目標変更だ!!」

《判った!!》

 

 このままトゥルースに構っていたら、ドム隊に側面を突かれてしまう。

 

 仕方なく、2人はドム隊を迎え撃つべく反転する。

 

 翼を翻して向かってくるアドラーとファルケを、ヒルダは鋭く見据える。

 

「行くよ、野郎ども!!」

《《おう!!》》

 

 3機1列に並び、スクリーミングニンバスを最大展開する。

 

 対抗するように、アドラーとファルケも軌跡を描いて突撃する。

 

「「「ジェットストリームアタック!!」」」

「「ツインバードストライク!!」」

 

 互いに連携重視の攻撃。

 

 先に仕掛けたのは、アキナのファルケである。

 

 オルトロスとレールガンの一斉射撃。

 

 しかし、その全てがスクリーミングニンバスのよって防がれる。

 

《クッ!!》

「任せろ、アキナ!!」

 

 ルインが叫びながら、突撃するアドラー。

 

「ウオォォォォォォ!!」

 

 真正面から振り下ろされるエクスカリバーの一撃。

 

 しかし、やはり結果は同じである。大剣による一撃も、ドムを斬り裂く事無く防ぎとめられる。

 

 そして、動きを止めたアドラーに、マーズ機がビームバズーカを向けた。

 

「うわッ!?」

 

 ほぼ至近距離から、アドラーに向けて放たれる攻撃。

 

 間一髪、回避が早かった為、アドラーは辛うじて攻撃を受けずに飛び去る。

 

 入り乱れるようにすれ違う5機。

 

 アドラーとファルケは、直ちに機体を反転させて再び攻撃態勢に入る。

 

 しかし、その時には既にドムトルーパー隊も反転して、攻撃位置に着いていた。

 

 再び交錯する両者。

 

 ドムの攻撃は高機動のアドラー、ファルケを捉えるには至らず、逆にアドラーとファルケの攻撃は、ドム隊の防御を抜けないでいる。

 

「チッ ちょこまかと、すばしっこい奴等だね!!」

「何だよ、あの硬さは!? チートだろ、あんなの!!」

 

 ヒルダとルインは、ほぼ同時に相手を罵るように叫ぶ。

 

 その時だった。

 

「お任せください!!」

 

 戦場に響き、可憐な声。

 

 次の瞬間、ラクスのトゥルースが視界外から高速で駆け抜けてきた。

 

「何ッ!?」

 

 このトゥルースの動きは、完全にルイン達の予測を超えていた。ルインもアキナもこの時、完全に目の前のドム隊と戦う事しか頭になかったのだ。

 

 ティルフィングの一閃。

 

 それだけで、アドラーの手にあるエクスカリバーが根元付近で叩き折られる。

 

《ルイン、このッ!!》

 

 とっさに、トゥルースに向けてファルケのオルトロスを向けようとするアキナ。

 

 しかし、今度はラクスの方が早かった。

 

 トゥルースは両手のビームライフルを連結、ロングライフルモードにして斉射する。

 

 その一撃が、今にも発射しようとしていたオルトロスの銃身を吹き飛ばした。

 

《キャァ!?》

 

 目の前でチャージ中のエネルギーが爆発し、悲鳴を上げるアキナ。

 

 まさに、一瞬の早業である。

 

 新人パイロット2人に、ラクスは圧倒的な実力差を見せつける結果となった。

 

「クッ アキナ、一旦後退するぞッ 体勢を立て直す!!」

《わ、判った!!》

 

 ルインに促されて、機体を後退させるアキナ。連携を崩された以上、これ以上この場で戦い続けるのはかえって危険である。

 

 フリーダム(トゥルース)をあそこまで追い詰めながら口惜しくはあるが、今は仕方が無かった。

 

《どうするの? 母艦にいったん戻ろうか?》

 

 充分に距離を置いたところで、不安そうにアキナが尋ねてくる。確かに、武装が消耗している状態では、全力発揮にも支障があるが。

 

「いや時間が惜しいから、このまま行こう」

 

 状況は既に、ザフト軍にとっても予断を許されない。今は、母艦に戻っている時間すら惜しかった。

 

 そう言うとルインは、アドラーのビームライフルを取ってファルケに渡し、自身はフラッシュエッジ・ビームブーメランを抜いてサーベルモードにする。

 

 連携攻撃を重視して作られたアドラーとファルケは、こうして武装の共有も行えるのが特徴だった。

 

「よし、行くぞ!!」

《うん!!》

 

 頷き合うと、2人は再び戦場を目指して飛び去って行った。

 

 一方で、ラクスも無理な追撃はせず、ヒルダ達と合流していた。深追いは禁物である。今はとにかく、メサイアを目指さねばならない。

 

「お怪我はありませんか、みなさん?」

《ハッ 大丈夫です》

 

 代表してヒルダが答える。トゥルースもドムトルーパー3機も、今のところ損害は負っていない。まだまだ、全力発揮は可能である。

 

「判りました。では、このまま参りましょう」

 

 そう言って、ラクスが機体を反転させようとした。

 

 その時だった。

 

 突如虚空に、鋭い6条の閃光が走った。

 

 

 

 

 

 ラキヤはストームを駆り、ほぼ単独に近い形で進撃を続けていた。

 

 今回の戦いに先立ち、ドラグーン搭載以外でもストームには改修が加えられている。まず、エンジンのジェネレーターを限界ぎりぎりまでチューンナップし、機動力を底上げしている。これにより、元々高かった機動性は更に向上した。

 

 それともう一つ、左腕の装備をビームガンからビームソードに変更している。これはドラグーンを装備した結果、砲撃能力に関しては充分な物を得る事ができた反面、今度は接近戦能力を強化したいと考えた結果である。

 

 生まれ変わった、と言えるほどの大した改装ではないが、それでもストームは、決戦用モビルスーツとしてはラキヤを満足させる機体に仕上がっていた。

 

 ラキヤは6基のドラグーン、更にライフルモードのレーヴァテインを振るいながら群がってくるザフト機を撃ち倒し、更に敵陣の奥へと向かっていく。

 

 目指すはメサイア。

 

 出撃前にクラークは言った。

 

 残り少なくなった地球軍の戦力では、勝機は限りなく乏しい。それでも尚、勝を得ようとするならば、手段は一つしかない。

 

 すなわち、ギルバート・デュランダルを討ち取って、ザフト軍の指揮系統を壊滅に追いやるのだ。

 

 偶然だが、これはオーブ軍の戦略とも一致している。その為、後世、一部の戦史研究家の中には「この時、オーブ連合首長国軍と地球連合軍が連携してザフト軍と対峙していたなら、勝を得るのはたやすかっただろう」と、自らの著書の中で批判している者も少なくない。しかし実際の話、オーブ政府と地球連合軍は、今大戦中においては長らく国交断絶状態にあったことを考えれば、この時点での連携は非常に難しく、それらの批判は結果から逆算した後付け理論に過ぎないだろう。

 

 ともあれ、今のラキヤには、そのような後世の人間の批判などは眼中に無く、ただ、如何にして己がメサイアに辿りつくか、しか考えていなかった。

 

 何機目かの、立ちはだかったゲイツをレーヴァテインで斬り捨てた時、

 

 突如、進撃するストームの前に、巨大な剣を携えた機体が姿を現した。

 

「ザフトの新型!?」

 

 認識すると同時に、ドラグーンを一斉に走らせるラキヤ。

 

 対して、イレーナはジャッジメントを駆って、ストームの前に立ちはだかる。

 

「これ以上は、行かせません!!」

 

 ジャッジメントもまた、ストームに対抗するようにドラグーンを放ってくる。

 

 ジャッジメントのドラグーンは4基。ストームのドラグーンに比べると2基少ない事になる。ただし、こちらはプロヴィデンスやレジェンドにも使われている大型のドラグーンを使用している。1基に付き9門の砲を備えている為、合計で36門。火力差は圧倒的である。

 

 撃ちかけられるビームが檻のように包囲網を形成し、ストームを包み込もうとしてくる。

 

「クッ!?」

 

 対してラキヤは機体を回避させながら、とっさにドラグーンを全て引き寄せて一斉攻撃を仕掛ける。

 

 だが、その攻撃は高機動を発揮するジャッジメントを捉えるには至らない。

 

 しかも、その隙にジャッジメントはデュランダルを振り翳して斬り込んで来た。

 

「喰らいなさい!!」

 

 真っ向から振り下ろされる、超巨大剣の一撃。ブースターで加速した攻撃は、あらゆる物を粉砕して余りある威力を発揮する。

 

 それに対し、

 

「クッ これは、まずいか!?」

 

 ラキヤはとっさに、機体を上昇させてジャッジメントの大剣を回避する。

 

 長さも肉厚も、通常の対艦刀に比べると常識外に巨大なデュランダル。

 

 あんな物を食らったりしたら、たとえ装甲がPS装甲でも、剣の質量だけで叩き潰されるのがオチである。シールドで防いだとしても、シールドごと破壊されるだろう。

 

 ここは防ぐよりも、回避する事に専念した方が良い

 

 ドラグーンの追撃を回避しながら、ライフルモードのレーヴァテインで反撃するストーム。

 

 その攻撃をビームシールドで防ぎ、ジャッジメントは更にドラグーンを飛ばして反撃してくる。

 

 ストームとジャッジメントの間に存在する、圧倒的な火力差。

 

 しかし、そのビームの奔流をラキヤは巧みに回避しながら、レーヴァテインを構えて斬り込んでいく。

 

「貰った!!」

 

 対艦刀モードのレーヴァテインを振りかざすストーム。

 

 その一撃を、ビームシールドで弾くジャッジメント。

 

「クッ!?」

 

 弾かれて、ストームは大きく後退、同時にバランスも崩れる。

 

 その隙を逃さず、デュランダルを翳して斬りかかろうとするジャッジメント。

 

 対艦刀のブースターが一斉点火して、ストームに斬りかかる。

 

「まずいッ!?」

 

 斬り掛かってくる敵機を見て、ラキヤは呻く。

 

 既に回避は間に合わない。防御も不可能。

 

 絶体絶命か。

 

 そう思った瞬間、ジャッジメントの進路をふさぐように、数条の閃光が鼻先をかすめる。

 

「新手!?」

 

 とっさに攻撃を諦め、機体を後退させるイレーナ。

 

 視線を巡らせるとそこには、ストームを掩護すべく駆けつけた緑色の機体があった。

 

《ラキヤ、大丈夫か!?》

「スティング、助かったよ!!」

 

 背部から兵装ポッドを射出するカオス。それに合わせるように、ストームもドラグーンを飛ばして攻撃してくる。

 

 流石に、2機を相手にするのは最新鋭機のジャッジメントであっても苦しい物がある。

 

「・・・・・・・・・・・・仕方ありません」

 

 ライフルとドラグーンで牽制しながら、イレーナはジャッジメントを後退させる。

 

 イレーナの任務はあくまでもメサイアを、そしてデュランダル議長を守る事だ。敵を倒すのは、その為の手段でしかない。

 

 戦いはまだまだ続く。まだイレーナは、倒れる訳にはいかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当初のオーブ軍とザフト軍の戦いに続いて、地球連合軍が割り込む形で参戦した為に、三つ巴の様相を呈するようになった戦場は、混沌とした状況となっている。

 

 今や、戦況を完璧に把握している者など、1人として存在していなかった。

 

 敵と味方、

 

 否、味方と味方以外の勢力が縦横に交錯する中にあって、名も無き兵士たちの命が閃光と共に失われて行く。

 

 そのような中で、メサイア防衛に当たっているミネルバは、因縁ともいうべき艦と対峙する事になっていた。

 

「やはり、来たわね」

 

 接近する白亜の艦を見据え、タリアは低い声で呟きをもらす。

 

 モニターの中を、メサイアに向かってくる巨艦。アークエンジェルだ。

 

 この戦いが始まって以後、幾度も砲火を交えた、因縁浅からぬ艦。

 

 ここで戦うのもまた、必然と言うべきかもしれない。

 

「今日こそあれを沈めるわよ。総員、戦闘配置!!」

「ハッ!! タンホイザー発射準備、CIWS、トリスタン、イゾルデ起動、ランチャーワンからランチャーテン、1番から4番、全門ナイトハルト装填!!」

 

 鯱鉾ばった調子で敬礼し、矢継ぎ早に指示を飛ばしていくアーサー。

 

 彼も出港当初に比べれば、だいぶ頼もしくなった物である。まだ多少のぎこちなさはある物の、それはもはや御愛嬌とでも言うべきだろう。

 

 アーサーはきっと良い指揮官になる。彼自身の能力は平凡でも、彼の周りにいる誰もが、彼を支えて盛り立てたくなるような、そんな指揮官に。

 

 その為にも、今はこの戦闘に勝たなくてはならない。

 

 やがて、ミネルバの主砲、副砲、対空砲が起動し、陽電子砲もいつでも撃てるようにチャージを開始する。

 

 対するアークエンジェルの方も、ミネルバと対峙するように動き始める。

 

 その中で、マリューもまた、タリアと同じ思いで近づいてくるグレーの巨艦を見つめている。

 

「・・・・・・グラディス艦長」

 

 かつて1度だけ、モルゲンレーテの工廠で顔を合わせた事がある女性艦長。あの時マリューは、立場と名前を伏せて彼女と交流したが、同じ立場にある者としてそのあり方に深く共感を覚えた物である。

 

 それは数度の対決を経て、強敵に対する敬意に変わっている。

 

 だが、

 

「ゴットフリート、バリアント、イーゲルシュテルン起動、後部ミサイル発射管、全門ウォンバット装填!!」

 

 全ての火砲をミネルバに向けるアークエンジェル。

 

 個人的な経緯は、今は忘れるしかない。ただ、味方の勝利の為、そしてオーブを守る為に。

 

 これが最後だ。キッチリ片を付ける。

 

 2人の艦長は、ほぼ同時に同じ形に口を動かす。

 

「「撃てェ!!」」

 

 因縁ある2隻の巨艦は、同時に咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 ミネルバとアークエンジェルが砲撃を開始する様子は、付近で戦闘を行っていたフェイトからも確認する事が出来た。

 

 白亜とグレイの巨艦は、互いの主砲を叩き付けあいながら、旋回するような機動を行っている。

 

 互いの設計コンセプトが似ているせいか、ミネルバとアークエンジェルは過去何度も激突しながら、ついに決着が着く事は無かった。

 

 その事を考えると、今回の戦いもどう転ぶか判らない。

 

「アークエンジェルを掩護するぞ、マユ!!」

「判った!!」

 

 アスカ兄妹は頷き合うと、アークエンジェルを掩護するべく機体を反転させる。

 

 自分達が援護に入る事によって、アークエンジェルの勝利を確実な物にする。そう考えての行動である。

 

 だが、アークエンジェルを守るべく機体を加速させようとした時だった。

 

 突如、四方からビームの嵐を射かけられ、フェイトは急停止を余儀なくされる。

 

「お兄ちゃん、上方1時、接近する機影あるよ!!」

 

 マユの警告に、シンは振り仰ぐ。

 

 そこには、見覚えのある暗灰色の機体が、ドラグーンを従えてフェイトに向かってくるのが見えた。

 

「やらせんぞ」

 

 低く呟くとともに、レイはフェイトにビームライフルを放つ。

 

 メサイアを守るミネルバの直掩をしていたレイのレジェンドは、折よく、フェイトの姿を見付けて攻撃を開始したのだ。

 

 レジェンドの主武装である大小10基のドラグーンが一斉に放たれ、フェイトに襲い掛かる。

 

 それに対してシンは、マユのオペレートの援護を受け、巧みな機動でもって全ての攻撃を回避すると、すかさず反撃に転じる。

 

 ミストルティンを抜き放ち、斬り掛かるフェイト。

 

 対してレジェンドも、ビームジャベリンを抜いて迎え撃つ。

 

 互いの斬撃をシールドで防ぎ、離れると同時にフェイトはライフル、パラエーナ、レールガン展開してフルバースト射撃を敢行、対してレジェンドも、ドラグーンを引き寄せると一斉射撃で応じる。

 

 命中弾は互いに無し。

 

 フェイトとレジェンドは、砲火を交わし合いながら距離を置いて旋回を繰り返している。

 

「マユ、次だ!!」

「ちょっと待って・・・・・・できた、送るよ!!」

 

 マユのオペレートに従い、フェイトを操るシン。

 

 それを迎え撃つレジェンドの砲撃も激しさを増していく。

 

 シンとレイ。

 

 片や議長を否定し、片や議長を信奉する少年達は、互いに一歩も引かずに応酬を繰り返していた。

 

 

 

 

 

 出し抜けに起こった閃光を、ラクスとドムトルーパー隊の3人は、とっさに回避する。

 

 数は6。

 

 ラクスの鋭い視線は、相手の攻撃の数を瞬時に計算すると同時に、熱紋センサーに目を走らせる。

 

 そこには接近する機体の反応が、はっきりと映し出されている。

 

 しかし、

 

「1機!?」

 

 接近する機体は1機のみ。それで、あれだけの火力を持つと言う事は、量産型ではありえない。

 

 ラクスはトゥルースのカメラアイを、敵機に向ける。

 

 そこで、驚きのあまり、目を見開いた。

 

「・・・・・・赤い、フリーダム?」

 

 向かってくる機影は、確かにラクスのトゥルースと同じ、フリーダム級機動兵器だ。

 

 ただし、VPS装甲の電圧を調整したのか、装甲は鮮やかな深紅に染まっている。背中の翼も歴代のフリーダム級に比べて少ない、3対6枚になっている。

 

 更に、背部のスラスターと両腕には、ミーティアを小型化したような追加武装を装備している。

 

 その6枚の翼が一斉に射出されると、急展開して向かってくる。

 

「ッ!?」

 

 とっさに、翼を翻らせるラクス。

 

 向かってくるフリーダム級から射出された6枚の赤い羽根は、フリーダムを囲むようにして、砲撃を浴びせてくる。恐らく、ストライクフリーダムと同様の、スーパードラグーン機動兵装ウィングだ。

 

 6枚の羽は、回避に専念するトゥルースに対して、執拗に攻撃を仕掛けてくる。

 

 それに対し、機体を翻しながら攻撃を回避するラクス。

 

《ラクス様、掩護します!!》

 

 ヒルダが言いながら、ラクスの援護に赴こうとする。

 

 しかし、ドムトルーパー隊の動きをけん制するように、ドラグーンは砲撃を行う。まるで「邪魔をするな」と無言で言っているかのようだ。

 

 赤いフリーダムは、6基のドラグーンと腰のレールガン、更に両手に持ったアームのビーム砲を構えてフルバースト射撃を敢行してくる。

 

「クゥッ!?」

 

 その攻撃を、辛うじて回避するトゥルース。

 

 赤いフリーダムが装備している武装は、ミーティアより小型化されて武装も簡略化しているようだが、それでも並みのモビルスーツの火力を上回っている。

 

 更に赤いフリーダムは、アームからビームソードを発振してトゥルースに斬り掛かる。

 

 対抗するように、ラクスもトゥルースのティルフィングを構える。

 

《あなたが悪いのよ・・・・・・》

「・・・・・・え?」

 

 相手の攻撃をかわしながら、突然聞こえてきた声に、ラクスは驚いて声を出す。

 

 赤いフリーダムは、回避運動を取るトゥルースを、更に執拗に追いかけてくる。

 

《あなたが出て来たから、こんな事になった・・・・・・》

 

 赤いフリーダムの攻撃を、ラクスはビームシールドを展開して防ぐ。

 

 弾かれたように、後退する両者。

 

《あなたが、あんな事を言ったりしたから・・・・・・》

「あなたは・・・・・・・・・・・・」

 

 ラクスの中で、ある考えが急速に組み上がっていく。

 

 それは、誰よりも、他ならぬラクス自身が、想定してしかるべきはずの事柄であった。なぜなら「自分」と言う前例が、既に存在しているのだから。

 

《あなたさえ出てこなければ、あたしは!!》

「あなたは、まさか・・・・・・・・・・・・」

 

 斬り掛かってくる赤いフリーダム。

 

 その姿を眺めながら、ラクスは呆然と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラクスとドムトルーパー隊の活躍により、一度は退けられたルインとアキナだが、そのまま戦線に留まり、連合やオーブの機体を何機か撃墜して戦線に貢献していた。

 

 とは言え、混戦の状況は既にどちらが有利とも言えない状況になりつつある。

 

 砲撃の一部はメサイアにも及び始めており、ザフト軍と言えども予断を許されなくなりつつある。

 

 そのような状況の中で、ルインとアキナの前には、先ほどと同じフリーダム級機動兵器が姿を現していた。

 

「また、フリーダムかよ。いったい何機いるんだ!?」

《でも、さっきのとは少し違うみたいだね》

 

 アキナの言うとおり、目の前のフリーダムは先ほどの物よりも翼の数が少ない。その分、機体に比べて翼自体は大きいような印象を受ける。

 

 同じフリーダム級でも、別の機体である事は一目瞭然だった。

 

「何でも良い、やるぞアキナ!!」

《判った!!》

 

 突撃を始めるアドラーとファルケ。

 

 その前面に赤いフィールドが展開する。

 

「「ツインバードストライク!!」」

 

 対して、フリーダムの方でも突撃してくる2機の存在に気付き、全砲門を展開してフルバーストの体勢を取る。

 

 迸る閃光。

 

 強烈な砲撃はしかし、高機動を発揮するアドラーとファルケを捉える事はできず、辛うじて命中した攻撃も、スクリーミングニンバスに弾かれる。

 

「ハッ 効くかよ、そんな物!!」

 

 威勢の良い声を上げるルイン。

 

 フルバースト射撃は火力の面では絶大だが、敢行中は機体をある程度固定しなくてはならず、更に砲撃を開始するまでに若干のタイムラグがある。そこを突けば懐に飛び込む事も不可能ではない。

 

 ファルケがライフルとレールガンで掩護する中、アドラーが両手にサーベルモードのフラッシュエッジを構えて斬り込んで行く。

 

 奔る剣戟。

 

 その一閃を、フリーダムは後退する事で回避する。

 

 だが、

 

「まだまだァ!!」

 

 更に追撃を掛け、アドラーはフリーダムに斬り掛かる。

 

 アドラーの攻撃を、シールドを展開して防ぐフリーダム。

 

 だが、動きを止めたフリーダムの背中から、ファルケが狙い撃つ。

 

「貰いました!!」

 

 アキナの掛け声とともに、ビームライフルを構えるファルケ。

 

 しかし、それよりも一瞬早く、フリーダムが投げた何かがファルケの手にあるライフルに突き刺さり吹き飛ばした。

 

「キャァッ!?」

 

 悲鳴を上げるアキナ。

 

 フリーダムは、肘に装備した対装甲実体剣を抜き放ち、一瞬早くファルケに投げつけたのだ。

 

「クッ、アキナ、もう一回だ!!」

《り、了解!!》

 

 旋回しつつ、再びフリーダムへ突撃を開始するアドラーとファルケ。

 

 対して今度は、フリーダムは、自ら動く形で向かってきた。

 

 突撃しながらビームサーベルを抜刀、先頭のアドラーへと斬り掛かってくる。

 

「そんな物が!!」

 

 前面にはスクリーミングニンバスが張られている。いくら攻撃しても、アドラーは傷付けられない。

 

 そう高をくくった瞬間だった。

 

 突如、フリーダムは錐揉みするように軌道を変更、アドラーを仰ぎ見る形で潜り込んだ。

 

「なッ!?」

 

 驚くルイン。

 

 そのアドラーに、フリーダムは展開したパラエーナを叩き付ける。

 

「ウワァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 プラズマ砲の直撃を受け、アドラーの両腕が吹き飛ばされた。

 

「ルイン!!」

 

 相方を襲った惨劇に、思わず声を上げるアキナ。

 

 その一瞬の隙を突かれた。

 

 ビームサーベルを抜いて、一気に斬り込んでくるフリーダム。

 

「あッ!?」

 

 気付いた時には、既に手遅れだった。

 

 フリーダムが駆け抜けた瞬間、ファルケの右腕と右翼、そして頭部が斬り飛ばされていた。

 

 アドラーとファルケは、改修の際に分離合体機構もオミットしている為、損傷個所をパージして付け替えると言う手段も取れない。事実上の戦闘不能である。

 

 2機を戦闘不能にしたフリーダムは、8枚の蒼翼を広げて、その場を飛び去っていく。

 

「ちょっと苦戦してしまった。みんなが心配だ、エスト、早めに援護に行こう」

「はい」

 

 キラの言葉にエストが答えると、フリーダムは次なる戦場を目指して飛び去っていく。

 

 その先には、まだまだ終わりの見えない戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 

 

PHASE-48「乱戦の虚空」      終わり

 


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