機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

5 / 59
PHASE-02「紅騎士復活」

 

 

 

 

 

 

 

 

 外の喧騒は、既にここまで聞こえて来ている。

 

 行きかう人の顔は緊張に溢れ、怒号は空中を飛び交っている。

 

 男はゆっくりとした歩調で、人の波に逆らって歩く。

 

 着ているパイロットスーツの色は赤。

 

 其れは鮮血と炎の象徴であり、エースのみが纏う事を許された精鋭の証。

 

 衝撃と、それに続く混乱。そして、予定を中止してのスクランブル指令。

 

 相変わらず、ここは自分を飽きさせない。

 

 そして、

 

 そんな状況を心のどこかで楽しんでいる自分を発見し、少しだけ苦笑する。

 

 結局のところ、自分は根っからのパイロットであり、そしてまた、戦う事を生業とする軍人であると言う事なのだろう。

 

 だからこそ、謎の敵による襲撃と言う異常事態に対し、知らずに心を浮き立たせている。

 

 全く持って、救い難い性であった。

 

 愛機の前に立ち、ラダーに足を掛けてコックピットへと向かう。

 

 喧騒は更に激しく鳴り響いている。どうやら、敵の攻撃は更に苛烈さを増しているらしい。

 

 猶予は一刻も無かった。

 

 コックピットの滑り込みシートに座ると、馴れた手つきでシステムを起動させる。

 

 現場は工廠。この場所はまだ港である。多少離れた位置関係にあるが、問題は無い。この機体の機動力なら労せずして辿りつける筈。

 

 モニターが点灯し、周囲の状況が映し出される。

 

 ハッチ解放、進路クリア、スラスター、センサーオールグリーン、全てにおいて問題無し。

 

 発進準備が整い、シグナルが灯る。

 

 同時に、久方ぶりとなる解放感と共に、男は言い放った。

 

「アスラン・ザラ、セイバー出る!!」

 

 

 

 

 

 連結したエクスカリバーを振り翳し、インパルスはザクと対峙していたガイアへと斬りかかる。

 

 予期せぬ敵の出現。

 

 その動きに虚を突かれたステラは、とっさにザクへの攻撃を諦めて後退する。

 

「なんだッ これは!?」

 

 ガイアは後退しながら頭部のバルカンで反撃するが、インパルスはPS装甲を採用している為、その程度では毛ほども傷付く事は無い。

 

 逆にインパルスは、手にしたビームライフルをガイアに向けて放ち、牽制して来る。

 

 そこへ、スティングのカオスが、ガイアを援護する為にビームサーベルを抜き放って接近して来る。

 

「どう言う事だッ!? あんな機体の情報は・・・・・・アウル!!」

 

 もう1人の仲間を呼びよせながら、毒づくスティング。

 

 当初スティング達は、ザフト軍が開発したモビルスーツは3機と聞いていた。4機目がいるなどと言う話は聞いていない。

 

 その間にも、インパルスとガイアは激しくぶつかり合う。

 

 インパルスの斬撃を、獣型に変形して回避するガイア。

 

 同時にガイアは背面のグリフォンビームブレードを展開、インパルスに斬りかかろうとする。

 

 対するインパルスは、連結していたエクスカリバーを切り離すと、逆に斬りかかっていく。

 

 ステラは機体を後退させようとするが、インパルスを操るアリスはとっさに、左手に持ったエクスカリバーをガイアへと投げつけた。

 

 回転しながら飛んで行く大剣。

 

 ステラはとっさにガイアを人型に戻してシールドを掲げるも、命中した瞬間、ガイアの機体は大きくバランスを崩した。

 

 そこへ更に斬りかかろうとするインパルス。

 

 その姿に、スティングは相手が容易なパイロットでは無い事を感じていた。

 

 一方、インパルスを操るアリスの下にも、緊迫した声がスピーカーから響いていた。

 

《アリス!! 命令は捕獲だぞ!!》

 

 調子の外れた声で言い募って来るのは、ミネルバ副長のアーサー・トラインだ。

 

 実力至上主義のザフトにおいて、最新鋭戦艦の副長に抜擢されるくらいなのだから優秀な男である事は間違いないのだが、何かにつけて慌てふためいえいる印象しか無い為、副長と言う偉そうな肩書きの割に、今一つ貫禄が無い。

 

《判ってるんだろうな!? あれは我が軍の・・・・・・》

「あの副長、そう言う事って敵に言ってくれませんか?」

 

 現実に撃って来ている敵を相手に、一体何を言っているのか。

 

 そうしている内にも斬りかかって来るガイアの攻撃を、アリスは辛うじて回避する。

 

「だいたい、何でこんな事になったんですか!? 何で、こんな所に敵が現れたりなんか・・・・・・」

《今はそんなおしゃべりしてる時ではないでしょう!!》

 

 アリスとアーサーとの会話に割り込むように、凛とした女性の声が飛び込んで来た。

 

 その声に、アリスは思わず顔をひきつらせる。

 

「うげッ 艦長!?」

 

 相手はタリア・グラディス。ミネルバの艦長であり、アリスの直属の上官でもある。

 

《演習ではないのよッ 真面目にやりなさい!!》

「・・・・・・は~い」

 

 何だか母親にしかられたような気分になり、アリスは渋々と言った感じに返事をして戦闘に専念する。

 

 とは言え確かに、状況は油断できる物では無かった。

 

 

 

 

 

「よおーし、行こう!!」

 

 異様な仮面を被ったその人物は、鋭い声で言ってから、おどけたように付け加える。

 

「慎ましくな」

 

 その言葉を聞きながら、ラキヤ・シュナイゼル地球連合軍大尉は首を傾げる。

 

 大砲担いで「慎ましく」も無いと思うのだが。

 

 サングラスで視線を隠した少年は、仮面を被った自分の上官の事が時々判らなくなるのだった。

 

 まあ、あんな趣味の悪い仮面を好き好んで被っている方な人だから、きっと自分などには理解できない深遠な理由があるのだろう。と納得しておいた。

 

 掛けたサングラス越しに、艦長のイアン・リー少佐と視線を合わせ、互いに肩を竦め合う。どうやら、向こうも同じ気持ちであるらしい。

 

 ネオ・ロアノーク大佐はそんな部下達の失礼な想いなど知らぬげに、悠々と命令を下して行く。

 

「ゴッドフリート1番、2番起動! ミサイル発射管、1番から8番、コリントス装填!!」

「イザワ機、バルト機、カタパルトへ!!」

 

 彼等が乗り組む戦艦ガーティ・ルーの姿を捉えているザフト艦は存在しない。

 

 それもその筈。ガーティ・ルーは特殊装備として、ミラージュ・コロイドを生成する機能を搭載している。これは先の大戦中に開発されたステルス装置であり、センサーのみならず、肉眼による発見も不可能とする装置である。

 

 欠点としてはスラスターの炎までは消す事ができない事である。その為ガーティ・ルーは、外付けのガス噴射機を推進剤として航行していた。

 

 ミラージュ・コロイドは、ユニウス条約によって軍事転用が禁止された技術である。その為、ガーティ・ルーは地球軍の中でも存在が秘匿され、非合法の任務を請け負う特殊部隊に配属された艦であった。

 

「主砲照準、左舷前方ナスカ級。発射と同時にミラージュ・コロイド解除、機関最大」

「これで、少しは楽しくなるんじゃないですか?」

 

 苦笑を含んだラキヤの言葉に、ネオは見えている口元に笑みを浮かべる。

 

「その通り。判って来たじゃないの、お前さんも」

 

 少々真面目すぎるきらいのある副隊長に、ネオはそう言っておどけて見せる。

 

 その間にもガーティ・ルーは攻撃準備を進める。

 

 2基の225センチ連装エネルギー収束火線砲ゴッドフリートが旋回し、砲門を何も知らずに航行しているナスカ級戦艦へと向ける。

 

「ゴッドフリート、撃てェ!!」

 

 イアンの号令一下、4門のゴッドフリートが発射された。

 

 至近距離から直撃を食らったナスカ級戦艦は、一撃の下に機関と推進機を破壊された。

 

 青色の戦艦が、一気に火球へと変じる。恐らく乗り組んでいたクルー達は、何が起こったのかすら判らなかっただろう。

 

 そしてナスカ級が発する爆炎に照らし出されて、ガーティ・ルーは青鋼色の艦影を宇宙空間に表した。

 

 更にガーティ・ルーは、もう1隻のナスカ級戦艦に対して砲門を開く。

 

 しかしザフト軍も素人では無い。2隻目のナスカ級は回頭しつつガーティ・ルーの攻撃を回避、主砲を旋回して反撃に転じて来る。

 

「そーら、来るぞォ」

 

 対してネオは、楽しむように声を上げて矢継ぎ早に命令を下す。

 

「モビルスーツ発進後回頭20!! 主砲照準インディゴ、ナスカ級!! あちらの砲に当たるなよ!!」

 

 ネオの命令を受けて、ガーティ・ルーのフライトデッキから、次々とダガーLが発進していく。先の大戦で地球軍が実戦投入したストライクダガーの後継機である。

 

 ナスカ級戦艦からも次々とジンやシグーが飛び立ってくるが、立ち上がりは完全に地球軍が制しており、次々とダガーLの餌食となっていった。

 

 

 

 

 

 その頃、アーモリーワンの港でもハチの巣をつついたような大騒ぎとなっていた。

 

 突然の敵の襲撃。それも中と外、同時にである。混乱するなと言う方が無理であった。

 

 だが、兎にも角にも迎撃する必要がある。

 

 港に係留されていたローラシア級戦闘母艦が、ゆっくりと港口へ向かって滑り出した。

 

 外界に出てしまえば、モビルスーツを発振させる事もできるし、自ら反撃する事もできる。

 

 その時だった。

 

 突如、正面に漆黒のダガーLが姿を現わした。

 

 智謀の将と言うべきであろう。ネオ・ロアノークに隙は無かった。

 

 ネオは少数精鋭部隊故の長所と短所を、完全に把握している。

 

 時間が経てば港口から敵の増援が続々と出て来る。ならば、その港口を塞いでしまえば良い。

 

 単純かつ、最も効率の良い作戦である。

 

 ダガーLが装備したバズーカが発射される。

 

 その弾丸は、ローラシア級のブリッジを真っ直ぐに撃ち抜く。

 

 バランスを崩したローラシア級は、港口に激突して大破。爆炎が港全体を飲み込む。

 

 更にダガーLは、後続する戦艦にも次々と砲弾を撃ち込んで行く。

 

 港は次々と破壊された戦艦に埋め尽くされ、それらの残骸を撤去しない限りは使い物にならなくなってしまった。

 

 そのかすかな振動は、ザクを無断借用しているシンとカガリの下にも聞こえて来た。

 

「これは・・・・・・」

「外からの攻撃みたいだな」

 

 2人は微かな振動から、その事を感じ取る。

 

 予想できる事である。もし敵が、奪取した3機を持ちだそうとするなら、必ず外に敵の母艦が待機している筈なのだ。恐らく、内部での行動開始に伴い、外の連中も動き出したのだろう。

 

 目を転じれば、尚もインパルスと奪取された3機が激しい戦闘を繰り広げている。

 

 だが、流石に1対3ともなるとアリスでも分が悪いらしい。

 

 目まぐるしく攻撃を仕掛けて来る3機に、インパルスも押され気味になる。

 

 カオスが飛び上がると同時に、両脚からビームソードを出力、インパルスに向けて斬りつける。

 

 対して、後退する事で回避するインパルス。

 

 そこへライフルを放って来るガイアの攻撃を、倉庫を盾にして回避、そのままエクスカリバーを振り翳して斬り込もうとする。

 

 だが、その前に着地したカオスが、ライフルを放ってインパルスを牽制して来る。

 

 その為アリスは、攻撃を諦めて後退するしか無かった。

 

「クッ こいつら、何でッ!?」

 

 舌を打つアリス。

 

 元々のインパルスの専属パイロットであるアリスはともかく、スティング達は今日初めて乗った機体を、まるで手足のように操っている。

 

 このままではインパルスの、アリスの敗北は時間の問題のように思えた。

 

 その時、後退しようとするインパルスの背後から、アビスが砲門を開こうとしているのが見えた。

 

 それを見ていたシンの中で、一瞬迷いが生じる。

 

 目の前で苦戦するザフト機を援護するか、それともカガリの安全確保の為に離脱するか。

 

 カガリの護衛と言う立場を考えるなら、速やかに離脱すべきである。

 

 しかし、自分を助けてくれたザフト機を見捨てて後退して良いのか?

 

 次の瞬間、

 

「やれッ シン!!」

 

 迷うシンの背中を押すように、カガリが叫んだ。

 

 その声に押されるように、シンはザクのスラスターを全開まで吹かして突撃、今にも砲撃を開始しようとしていたアビスに強烈な体当たりを仕掛けた。

 

 吹き飛ぶアビス。

 

 そこへ更に、ガイアがビームサーベルを翳してザクへと斬り込んでこようとする。

 

 だが、

 

「やらせるかァァァァァァ!!」

 

 とっさにザクのビームトマホークを投げつけるシン。

 

 回転しながら飛んで来た戦斧を、ガイアはとっさにシールドを掲げて防ぐが、衝撃までは殺しきれずにバランスを崩す。

 

 年齢こそ若いが、シンもまた先の大戦を生き残った歴戦のパイロットである。複数の敵を相手にしても負けないだけの技量を有していた。

 

 だが、シンの奮戦もそこまでだった。

 

 先に体当たりで倒したと思ったアビスが、立ち上がって胸部のカリドゥスを放つ。

 

 至近距離から放たれた複列位相砲を前に、シンはとっさにシールドを掲げるも、そのシールドごと左腕はもぎ取られ、ザクは地面に叩きつけられた。

 

「ッ!?」

 

 二転三転するザク。

 

 その中でシンは、シートに体を固定していたので少ない衝撃で済んだが、シートに掴まっていただけのカガリは狭いコックピット内で弾かれ、壁に強く額をぶつけた。

 

「カガリッ!!」

 

 壁に頭をぶつけ、気を失ったカガリ。

 

 シンの呼びかけにも反応せず、額から血を流したままぐったりとしている。

 

「クッ・・・・・・」

 

 進退きわまったシン。

 

 その間にも、アビスはザクにとどめを刺すべく近付いて来る。

 

 万事休すか。

 

 そう思った瞬間。

 

 出し抜けに飛来した二条の閃光が、アビスの進路を遮るように迸った。

 

「なッ!?」

「えッ!?」

「また?」

 

 シン、アウル、ステラがそれぞれに驚愕の声を漏らし、上空を振り仰ぐ。

 

 そこには戦闘機形態から、人型形態へと空中で変形した深紅の機体が舞い降りて来るところだった。

 

 セイバーは倒れているザクを守るように大地に降り立つと、アビスとガイアを威嚇するようにツインアイで一睨みする。

 

「次は、俺が相手だ」

 

 コックピットの中で、アスランは静かに、不敵に言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナスカ級戦艦が炎を上げて沈んで行く。

 

 どうにか頑張った方ではあると思うが、やはり立ち上がりを制された上に、地球軍の最新鋭戦艦相手に量産型戦艦では勝負にならなかった。

 

 だが、まだ終わっていない。

 

「左舷後方よりゲイツ、新たに3機!!」

「アンチビーム爆雷発射と同時に、加速20パーセント、10秒。1番から4番、スレッジハマー装填! モビルスーツ呼び戻せ!!」

 

 接近するザフト機に対し、イアンが的確な指示を下して行く。

 

 その様子をのんびり眺めているネオに対し、ラキヤが腕時計を眺めながら尋ねる。

 

「遅いですね、3人とも」

「あいつらなら、大丈夫って思ったんだけどな」

 

 暢気な口調で返事を返すネオ。相変わらずマイペースを崩そうとしない。

 

 ザフトの新型機奪取の任務を帯びてアーモリーワンに潜入した、スティング、アウル、ステラの3人が未だに戻らないのだ。

 

 あの3人が任務をし損じたとは思わないが、それでも何らかのトラブルが生じている事は充分考えられる。

 

「失敗ですかな?」

 

 イアンが冷静な声で皮肉る。

 

「港を潰したと言っても、あれは軍事工廠です。長引けばこちらが持ちませんよ」

 

 イアンは、これ以上この場に留まる事への懸念を示しているのだ。

 

 正直なところ、タイムリミットは迫って来ている。これ以上宙域にとどまれば、体勢を立て直したザフトから反撃を食らいかねない。

 

「判ってるよ。だが、失敗するような連中なら、俺だってこんな作戦、最初っからやらせはしないさ」

 

 軽い調子で言ってからネオは席を立つと、ラキヤの肩をポンと叩く。

 

「行くぞ。出て時間を稼ぐ。イアン、その間、艦の事を頼むぞ」

「ハッ」

 

 出ていくネオとラキヤを見送ると、受話器を手に取った。

 

「格納庫、エグザスとストームが出るぞ! 良いか?」

 

 程なく、左舷のハッチが開いて赤紫色のモビルアーマーが出撃していく。

 

 鋭い鳥を思わせる外見の機体で、機体の左右上下にガンバレルと言う有線誘導式の砲台を備えた機体である。かつて地球軍の主力を務めたメビウスゼロの後継機に当たる機体である。

 

 そしてもう1機、右舷側のハッチにモビルスーツが立つ。

 

 コックピットに座ったラキヤは素早くシステムを立ち上げていく。

 

《大尉、本当にドラグーンはいりませんか? そのままでは火力面に不安が残りますが?》

「僕は大佐ほど上手くないですからね。使えない武器は持っているだけデッドウェイトになります。それなら持たない方が良い」

 

 格納庫からの通信にそう答える。

 

 発進準備が完了し、カタパルトが点灯。漆黒の宇宙空間への道が開かれる。

 

「ラキヤ・シュナイゼル、ストーム行きます!!」

 

 撃ちだされると同時にPS装甲が起動、機体の色が白、青、赤のトリコロールに染まる。

 

 同時に背部に4基備えたスラスターが点火、大きく翼を広げたような外観になる

 

 次の瞬間、ダガーLを撃破したゲイツがストームに向かって来る。

 

 だが、その動きはラキヤから見ればお粗末な程に遅い。

 

 ラキヤはストームのメイン武装であるヴァリアブル複合兵装銃撃剣レーヴァテインを、ゲイツに向けライフルモードで構え一射、正確にコックピットを撃ち抜いて撃墜する。

 

 成す術なく炎に包まれるゲイツ。

 

 ゲイツの爆散を背中越しに確認してから、ラキヤは更に機体を加速させてアーモリーワンへと向かった。

 

 

 

 

 

 シン達が乗るザクが小破し戦線離脱したものの、セイバーが加わり戦線は相変わらず2対3。

 

 ただし、カオス、アビス、ガイアの3機は既に撤収を考慮に入れ始めているので、状況はザフト側有利に傾きつつあった。

 

 加えて、セイバーを操るアスランの技量は、この場にいる誰よりも卓越していた。

 

 セイバーに向けて砲門を開くアビス。

 

 しかしアスランは、それよりも一瞬早くセイバーを飛びあがらせると、降下しつつ鋭く蹴りを放つ。

 

 セイバーの蹴りを食らい、吹き飛ぶアビス。

 

 そこへ今度は、反対側からガイアが獣形態で駆けて来る。

 

「ッ!?」

 

 その突撃に対し、アスランは一瞬シールドを構えると、そのままガイアの腹に差し入れて背負うようにして投げ飛ばしてしまった。

 

「クッ こいつゥゥゥ!!」

 

 怒り狂ったように、強引にガイアの体勢を立て直すステラ。

 

 だが、更に向かって行こうとするガイアの鼻先を、セイバーが放ったライフルの閃光が掠める。

 

 その一撃によって、ステラは再度の突撃を諦めざるを得なかった。

 

「このッ 恰好つけちゃってさァ!!」

 

 アウルが言い放つと同時に、ビームランスを振り翳して斬りかかって来るアビス。

 

 鋭いビーム刃がセイバーにつき込まれると思われた瞬間、

 

 何と、セイバーはアビスの槍の穂先をあっさりと掴み取ってしまった。

 

「うっそォ!?」

 

 絶叫を上げるアウル。

 

 その間にアスランはセイバーを操り、アビスの腹を蹴り、吹き飛ばした。

 

「ちょッ 何かあれ、凄過ぎない!?」

 

 インパルスを操ってカオスと対峙していたアリスが、セイバーの動きを見て驚嘆する。

 

 セイバーは自身の武器も殆ど使わずに、ガイアとアビスを圧倒して見せているのだ。

 

 その様子に、スティングもまた舌打ちせざるを得ない。

 

 そもそも情報では、新型は3機だったと言うのに、まさかその他に2機もいるとは。これは完全に、彼等の上官のミスである。

 

 だが、これ以上時間を掛ける事は許されなかった。

 

「離脱するぞアウルッ ステラ、そいつを振り切れるか!?」

 

 言いながら、スティングはカオスの肩に装備した武装ポッドを切り離す。

 

 ドラグーンと呼ばれる兵装システムを使用したこの武器は、言わば無線誘導のガンバレルだ。地球軍でもシステムの関係で完全な実用化には至っていない。

 

 この武器で援護しつつ、徐々に後退するカオス。

 

 これにはさすがのアスランも一筋縄ではいかず、防御を固めながら後退するしかない。

 

 無理に向かって来ようとしたインパルスにも砲撃を浴びせ、手にしたエクスカリバーを叩き折ってやった。

 

 だが、

 

《すぐに沈める!!》

 

 闘争本能にスイッチが入ってしまったステラは、スティングの指示を効かずにセイバーへと斬りかかっていく。

 

 アスランはそれを回避しながら、セイバーのライフルで反撃している。

 

 幸いな事にセイバーの攻撃はガイアを捉えるには至らないが、アスランの技量は明らかにステラを上回っていた。

 

「離脱だッ やめろステラ!!」

《私が、こんなァァァ!!》

 

 完全に聞く耳を持たないステラ。更にセイバーに斬りかかって行こうとする。

 

 その時、

 

《じゃあ、お前はここで死ねよ》

 

 アウルの嘲笑の混じった声が、ステラの脳内に響き渡った。

 

 死ぬ?

 

 自分が?

 

 死ぬ?

 

 次の瞬間、

 

《イヤァァァァァァァァァァァァ!!》

 

 耳を劈くような悲鳴が、スピーカーから流れて来る。

 

《ネオとラキヤには僕が言っといてやるよ『サヨナラ』ってさ》

「アウルッ この馬鹿ッ 余計な事を!!」

 

 スティングが叱責した瞬間。

 

《イヤッ イヤァァァァァァァァァァァァ!!》

 

 ステラは絶叫と共にガイアを飛びあがらせ、急速に戦場から離脱していく。

 

《な、結果オーライだろ》

 

 そう嘯いて、後に続くアウル。

 

 その後を、溜息を吐きながらスティングも続いた。

 

「・・・・・・やってくれたね」

 

 インパルスのコックピットで、アリスは飛び去る3機を歯がみしながら見据える。

 

 これだけ派手にやらかしてくれた連中を、みすみす取り逃がすとは。

 

 その時、

 

《インパルスのパイロット、聞こえるか?》

 

 聞き慣れない男の声で通信が入る。

 

 それが、傍らに立つセイバー体と言う事に、すぐに気付いた。

 

《確か、インパルスには換装システムが実装されていたな》

「されてる・・・・・・けど?」

 

 それが何だと言うのだ?

 

《なら、すぐに武装を換装するんだ。奴等を追うぞ》

 

 その口調に、アリスはムッとする。

 

 武装の換装には賛成だし、連中を追う事にも異存はない。元々、メイン武装であるエクスカリバーは2本とも折られてしまったのだから。

 

 しかしなぜ、ポッと出の顔も知らないような人に命令されなくちゃいけないのか。

 

《急げ》

 

 アリスの不満など一切斟酌せずに、アスランは命令を覆いかぶせる。

 

 こうしている間にも敵は逃げてしまう。一刻も早く追撃する必要があった。

 

「・・・・・・メイリン、聞こえる?」

 

 アリスは渋々と言った調子に通信機に語りかけた。

 

 

 

 

 

 インパルスの母艦であるミネルバでも、次々と入って来る被害状況の対応に追われていた。

 

 指令部との通信は不能、工廠は壊滅状態で一部の区画では有毒ガスまで発生しているとか。

 

 短く切りそろえた蜂蜜色の髪をかき上げ、タリアは痛む頭を押さえる。

 

 未曾有の大損害であると言える。しかも、状況はまだ終わっていない。つまり、これ以上被害が増える事はあっても、減る事は無いと言う事だ。

 

「艦長、これ、まずいですよね。もしこのまま逃げられでもしたら・・・・・・」

「バタバタ首が飛ぶわね、上層部の」

 

 オタオタする副長にぞんざいに言い終えてから、タリアがモニターに目をやると、赤いザクウォーリアが着艦するのが見えた。

 

 ルナマリア・ホークの機体である。ブリッジでオペレーターをするメイリン・ホークの姉である。どうやら出撃したは良いが、機体のエンジントラブルで帰投したらしい。

 

 そのメイリンが、姉の安否を気遣っているのが見えたが、彼女の気持も判る為、今はそれを咎める気にもなれなかった。

 

「それにしても、どこの部隊かしらね? こんな大胆な作戦・・・・・・」

 

 新型機奪取を狙った工作員の潜入と、それを支援するモビルスーツ隊、そして移動用の母艦、その他に支援した者達もいた筈だ。ここまでの事をやるとなると、相当な組織力が必要な筈である。

 

 地球連合軍。

 

 タリアの脳裏に、その単語が思い浮かばれる。

 

 現状、これだけの組織力を発揮できる勢力など、それ以外には考えられなかった。

 

 その時、ブリッジ背後の扉が開き、長身の男性が入ってきた。

 

「議長!?」

 

 デュランダルはタリアに向かって歩み寄って来る所であった。どうやら攻撃に際し、シェルターにも入らずに乗り込んで来たらしい。

 

「状況は? どうなっている!?」

 

 厳しい口調のデュランダルに対し、タリアは控えている秘書の女性と一瞬目を合わせてから、デュランダルに答えた。

 

「・・・・・・御覧のとおりです」

 

 工廠警備の部隊はほぼ壊滅。港口も潰されて艦隊は出港不能。

 

 強奪された3機も、交戦していたインパルスとセイバーの追撃を振り切って外壁に向かいつつある。恐らく、そのまま離脱するつもりなのだろう。

 

「まずいな・・・・・・」

 

 モニターでその事を確認したデュランダルが、そう呟いた時だった。

 

《メイリン、聞こえる? フォースシルエットの射出、超特急でお願い!!》

 

 インパルスのパイロット、アリス・リアノンからのオーダーだ。どうやら、武装を換装して追撃を続行する気らしい。

 

「艦長?」

 

 許可を求めるメイリンに対し、タリアは頷きを返す。

 

「許可します」

 

 言ってから、今度はデュランダルに向き直った。

 

「もう、機密も何もないでしょう?」

 

 インパルスはザフトの次期主力を占う重要な秘密兵器だが、こうなった以上、出し惜しみをするべきでは無かった。

 

 デュランダルもまた、タリアと同じ気持ちなのだろう。難しい表情のまま頷きを返す。

 

「ああ、頼む、タリア」

 

 名前で呼ばれた事に、ちょっとだけ複雑な思いを抱きながら、タリアはシルエットフライヤーの発進準備を命じた。

 

 

 

 

 

 その頃、ミネルバのフライトデッキに着艦しようとしている1機のザクが存在した。

 

 戦闘により腕を損失したザクは、パイロットが負傷しているのか、よろけるような調子でフライトデッキへと転がりこんで来る。

 

 指定された位置へと機体を進め固定する。

 

 だが、コックピットハッチを開いて降りて来た人物を見た瞬間、クルー達の間に動揺が走った。

 

 明らかに軍人とは思えない男女2人組が、姿を現わしたのだ。

 

「止まれ!!」

 

 少女の甲高い声が響く。

 

 ルナマリア・ホークは、ザクから出て来た2人のパイロットに対して油断なく拳銃を向けている。彼女の周囲には他の警備兵達もおり、完全に2人を包囲していた。

 

「お前達、何者だ? 軍の者では無いな? なぜその機体に乗っている?」

 

 高圧な口調でルナマリアは尋ねる。

 

 何しろ、謎の敵によって自分達の新型が奪われたのはつい先ほどの話だ。そこに来て、自軍の機体から降りて来た、ザフト兵では無い2人の男女。

 

 警戒するな、と言う方が無理な話である。

 

 黒髪の少年の方が、何かを言おうと前に出る。

 

 だが、それを制して、金髪の少女が前へと出た。その少女は頭部に包帯を巻いており、先程の戦闘で負傷していたであろう事が覗えた。

 

「銃を下ろしてもらいたい」

 

 複数の銃口を向けられながら、少女は堂々たる態度を崩さずに言う。

 

「私はオーブ連合首長国代表首長、カガリ・ユラ・アスハだ。こっちは随員のシン・アスカ三尉」

 

 オーブのアスハ。その名を出されれば、ザフトとしても無碍にはできないだろう、と言う計算の下に、カガリは続ける。

 

「この艦にデュランダル議長が乗り組んでいるのを確認した。彼との面会を希望する」

 

 その言葉に、ルナマリアを含めて居並ぶ一同は呆気に取られる思いであった。

 

 

 

 

 

 まったく、とんだ作戦になったものだ。

 

 暴走するように外壁に向かうステラのガイアを追い掛けながら、スティングはコックピットの中で毒づく。

 

 それと言うのも、正確な情報をよこさなかったネオとラキヤが悪い。帰ったらそこのところを言ってやらないと気が済まなかった。

 

 とは言え、今は別の所に問題がある。

 

 狂ったように暴れているステラは、泣き喚きながら外壁に向かっている。

 

 それと言うのも、先程アウルが言った「死ぬ」と言う言葉が問題だった。

 

 スティング達にはそれぞれ固有の「ブロックワード」が設定されており、それを耳にした瞬間、あのように暴走したり、あるいは昏倒したりして動けなくなってしまう。

 

 なぜそのような物が必要なのかは知らないが、厄介な話であった。

 

 とは言え、既に工廠は壊滅状態だ。ここまで来れば追撃も受けず、簡単に撤退できるだろう。

 

 そう思った時、視界の端に、何か小さな機影のような物が映った。

 

「何だ、あれ?」

 

 機影は戦闘機よりもずっと小さく、妙に大きな翼を持っている。

 

 と、先程交戦していたインパルスが背中の装備を外すと、その戦闘機が切り離した物を新たに装備する。

 

 すると、驚くべき事が起こった。

 

 それまで赤かったインパルスの胸部装甲が青、赤、白のトリコロールに変化し、更に手に持っていたシールドも大きく変形する。

 

 VPS(ヴァリアブル・フェイズシフト装甲)。インパルスは武装に応じて、装甲強度を変える事ができるのだ。今までは接近戦重視のソードシルエット装備だったので、多少機動性を犠牲にして装甲強度を確保していたのだが、今度はフォースシルエットを装備し、機動性が向上、引き換えに装甲強度は低下している。

 

「換装した、だと!?」

 

 それまで接近戦装備だったインパルスが、背部に4枚の翼を装備した高機動型に変化していた。

 

「逃がさないよ」

 

 不敵に言い放つと同時に、アリスはインパルスのスラスターを目いっぱい吹かせた。

 

 

 

 

 

PHASE-02「紅騎士復活」      終わり

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。