機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE―39「運命交差する宿命の戦場」

 

 

 

 

 

 

 

 シン、マユ、リリアの3人は、神妙な顔つきで通路を歩いている。

 

 シンとマユは自分達がなぜ、この場所に連れてこられたのか判らなかった。

 

 彼等の前には、モルゲンレーテの制服を着た妙齢の女性が歩いている。

 

 エリカ・シモンズだ。かのM1アストレイの主任開発者であり、先の戦いではL4同盟軍の技術顧問を務め、数々の戦場において有益な情報をもたらし、同盟軍勝利に大きく貢献した人物である。

 

 ザフト軍によるオーブ侵攻作戦が開始され、居てもたってもいられなくなったシンは、取る物も取りあえず、空いている機体で出撃しようとしていた。

 

 その矢先、マユと共にエリカとリリアに呼び止められ、ここに連れてこられたのだ。

 

 オノゴロ沖では、今尚、味方が必死の防戦を続けている。こんな所で悠長な事をしている場合ではないと言うのに。

 

 いったい、ここに何があると言うのか?

 

 尋ねてもエリカは、来れば判ると答えるだけで何も教えてはくれなかった。その為、シン達は首をかしげながらも、エリカに付き従うしかなかったのだ。

 

 リリアは何か知っているみたいだが、やはり答えてはくれない。

 

 やがて、大きな扉の前に着くと、エリカは壁際のパネルにコードを打ち込み扉を開いていく。

 

「さ、入って」

 

 エリカに促され、3人は開いた扉の中へと入る。

 

 内部には灯りが無く、奥を見通す事ができない。こんな場所に連れてきて何をしようと言うのか?

 

「いったい何なんだよ?」

 

 シンが苛立ちまぎれにリリアに尋ねるのと、ほぼ同時に室内の明かりが点灯した。

 

 急激に明るくなる室内の様子に、シンは一瞬、目を細める。

 

「あ、あれッ」

 

 マユが驚いたような声を上げたのは、その時だった。

 

 つられるように振り返るシン。

 

 そこで、目を見張った。

 

 闇のベールに包まれた最奥に、1機のモビルスーツが主を待ちわびて鎮座していたのだ。

 

 鉄灰色の装甲をしたその機体は、4本のブレードアンテナとツインアイを持つ、いわゆる「ガンダム顔」の機体だ。

 

 それに、そのシルエットには懐かしさすら覚える。

 

「イリュージョン・・・・・・・・・・・・いや、違うか」

 

 シンは呆然としながら呟いた。

 

 流麗な四肢や、背部に背負った双翼など、先頃撃墜された乗機によく似ているのだ。

 

 だが、違う部分も多い。腰にはフリーダムのようなレールガンを備え、背部にはティルフィングよりも若干短いと思われる対艦刀を2本背負っている。

 

「ZGMF-X34A『フェイト』」

 

 傍らに立つエリカが、呆然としているシンとマユに説明する。

 

「クライン派のファクトリーで開発された、新型のイリュージョン級機動兵器。バランス型の戦闘スタイルを持つイリュージョンの特性を、より先鋭化したのが特徴よ」

「フェイト・・・・・・・・・・・・」

 

 機体の名前を、シンは呆然と呟いた。

 

 と、

 

「お兄ちゃん、あれ見て!!」

 

 マユが指差した方向には、見覚えのあるシルエットが、クレーンにつりさげられた状態で持ち上げられていた。

 

「あれは・・・・・・イリュージョン!?」

 

 上半身だけになってしまった無残な残骸は、確かにイリュージョンだった。

 

 撃墜され、もはや使い物にならなくなった機体が、なぜここにあるのか?

 

「イリュージョンで使われたデータは、新しくフェイトに移植しなおしたの。デュアルリンクシステムのデータとかさ。一部、破損している物もあったから、時間かかっちゃったけど」

 

 説明したのはリリアである。彼女はここ数日、その作業に昼夜を問わず没頭していたのだ。

 

「デュアルリンクシステムが搭載されているってことは、あの機体も複座なのか?」

「うん。戦闘中に戦況を完璧に把握して処理するには、どうしてもパイロットとオペレーターが必要だから。その為には複座にする必要があるんだ」

 

 シンやキラ程の実力者なら、確かに個人でも高い戦闘力を誇る。本来ならオペレーターは必要ない。しかし、それでもいるといないとでは、状況がかなり違ってくる。シンにしろキラにしろ、オペレーターがいるからこそ、自身は操縦と戦闘に専念できるのだ。

 

「でも・・・・・・・・・・・・」

 

 マユが、小さな声を上げた。

 

 一同が振り返ると、マユは目を伏せて俯いている。

 

「マユ、どうした?」

 

 声をかける兄に、マユは悔しそうに唇を噛みしめながら言う。

 

「私がいたんじゃ、お兄ちゃんの足を引っ張ちゃうんじゃないかな?」

「マユちゃん・・・・・・」

 

 落ち込んでいるマユに、リリアも声をかける。

 

「この間の戦いだって、結局、私はお兄ちゃんを助けられなかった。それどころか、自分の役割をこなす事も出来なかった。こんな私じゃ、お兄ちゃんの役に立てないよ」

 

 イリュージョン最後の戦いになった北海沿岸の戦いにおいて、アリスとアスランの巧みな連繋戦術に翻弄され、ついには情報過負荷に近い状態に陥ってしまったマユ。

 

 また、あんな事にならないか心配なのだろう。

 

 そんなマユに対し、シンはフッと笑いかけると優しく頭を撫でる。

 

「マユはさ、あんまり真面目に考えすぎるんだよ」

「え?」

 

 驚いて顔を上げるマユに、シンは更に続ける。

 

「マユは俺を助けるって言ったけど、俺だって、マユを助けたいって思ってる。だから、俺達が戦うには、どっちかが欠けても駄目なんだ。俺とマユの2人だから、今まで戦ってこれたんだし、これからも戦っていけるって俺は信じているよ」

「お兄ちゃん・・・・・・」

 

 シンは力強く、妹に笑いかける。

 

「忘れるな。俺達が揃えば、どんな奴にだって負けはしない。俺達は最強の兄妹なんだ」

 

 あのオーブ戦の折、両親を失い2人だけになってしまったシンとマユ。

 

 多くの友人達に支えられながらも、必死で生きてきた2年間。

 

 きっとそれは、シンとマユ、2人いたからなのだと思う。もしこれが、どちらか片方しかいなかったら、きっと生きている事にすら耐えられなかったかもしれない。

 

「行こう、マユ。俺達の居場所を守る為に」

「・・・・・・うんッ」

 

 元気に頷くと、マユはシンの手を取った。

 

 フェイトのコックピットはイリュージョンと同じくタンデム複座式で、シンが操縦担当の前席に、マユがオペレーターの後席に腰掛ける。

 

 リリアが急ピッチでデータの移植をやってくれたおかげで、OSを立ち上げるとシステムは問題なく起動した。

 

「すごい・・・・・・イリュージョンよりも出力が高いよ」

 

 マユが感嘆したように呟く。

 

 フェイトはセカンドステージなどで使われている、デュートリオンエネルギーと核動力をハイブリットした「ハイパーデュートリオンエンジン」を搭載、イリュージョン等の核動力機を大幅に上回る性能を獲得するに至っていた。

 

 VPS装甲に灯が入り、ボディは蒼に、翼は白に染め上げられる。このカラーリングは、ほぼイリュージョンと一緒だ。

 

 同時に、頭上のハッチが一斉に開かれる。

 

 センサー、武装、スラスター、OS、全てにおいて問題なし。

 

 発進準備完了。

 

「行くぞ」

「うん」

 

 頷き合う、アスカ兄妹。

 

「シン・アスカ」

「マユ・アスカ」

 

 

 

 

 

「「フェイト、行きます!!」」

 

 

 

 

 

 スラスター全開。

 

 宿命の戦天使が、蒼穹に向けて飛び立つ。

 

 上空で双翼を広げると、旋回してターンする。戦場はオノゴロ方面。友軍は、今も必死に戦っているはずだ。

 

 その時、後方から接近してくる機影があるのを、センサーが捉える。

 

 戦闘機形態をした水色の機体。リリアのライキリだ。

 

「リリア!!」

《私も行くわ。掩護は任せて!!》

 

 頼もしい援軍に、シンとマユは笑みを浮かべる。

 

 フェイトとライキリは並び立つと、速度を上げてオノゴロへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 指揮権掌握の後も、カガリはアカツキを駆って戦場上空に留まり続けていた。

 

 今は1機でも機体が必要な時であるし、何より、カガリ自身が全軍の先頭に立つ事によって、オーブ軍の崩れかかった士気は回復する傾向にある。

 

 現在、侵攻してきたザフト軍の大半は辛うじて水際で防いでいるが、それでも一部の防衛線は維持できず、戦線は内陸に及んでいる箇所もある。

 

 さらに厄介なのは、ザフト軍は地中潜航可能なジオグーンを戦線投入し、地中からオーブ軍の防衛線をすり抜ける者もいる事だ。これにはオーブ軍のパイロットも手を焼かされており、正面の敵に集中している隙に、地中からモグラのように現れたジオグーンに奇襲を食らう機体が、各所で続出していた。

 

 カガリは戦場上空に留まりながら、それらの情報を統合して各戦線の補強と、増援、転進の指示を出し続けている。

 

 こうして、上空から戦場全体を俯瞰し、指揮を続行するカガリの活躍により、オーブ軍の防衛線は辛うじて復活を果たしつつある。

 

 このままなら、押し返す事も可能かもしれない。

 

 誰もがそう思い始めた頃、

 

 それは姿を現した。

 

《何だあれは!?》

《気を付けろ、速いぞ!!》

 

 アカツキの直掩に当たっていたムラサメのパイロット達から、悲鳴のような声が上がる。

 

 折悪く、現在、アカツキの護衛には数機のムラサメがいるのみである。キサカやライアをはじめ、他の機体は全て防衛線の援護に向かい、カガリの周囲は手薄となっていた。

 

 そこに、現れたのは、運命の名を冠した堕天使。

 

 アリスのデスティニーである。

 

《カガリ様、お気を付けください!! ザフトの新型が!!》

 

 カガリを守るべく、ムラサメ隊は一斉にデスティニーへと向かっていく。

 

 一方、デスティニーのコックピットでは、アリスも唖然としていた。

 

「うわッ 何あれ? 随分派手だねー」

 

 アカツキを見て、そんな感想を漏らす。

 

 どんな成金趣味のパイロットなんだろう? と考えている内に、護衛のムラサメが向かってくるのが見えた。

 

「悪いけど、邪魔だよ!!」

 

 放たれるビームを、アリスのデスティニーは残像を残しながら回避。逆に、ビームライフルを浴びせて、次々とムラサメを撃墜していく。

 

 デスティニーの残像機能に照準を狂わされ、ムラサメ隊の攻撃は悉く空を切る。

 

 冴え渡るアリスの操縦技術を前に、一般兵士では全く歯が立たなかった。

 

 遠距離攻撃では埒があかないと踏んだのか、一部のムラサメは人型に変形するとビームサーベルを抜いて斬り掛かってくる。

 

 しかし、アリスは慌てない。

 

「遅い!!」

 

 次々と斬り掛かってくるムラサメの攻撃をかわし、アロンダイトを抜刀すると、逆に次々とムラサメを斬り飛ばしていく。

 

 ムラサメでは、デスティニーとアリスには歯が立たない。

 

 そう感じたカガリは、アカツキを駆って前へと出た。

 

「ええいッ!!」

 

 ビームライフルを発射するアカツキ。

 

 しかし、アカツキの攻撃をデスティニーは高い機動力を発揮して、難なく回避していく。

 

 その様子を、カガリは歯噛みして見つめる。

 

「こいつに来られたら、オーブは!!」

 

 更に、カガリが攻撃を掛けようとした時だった。

 

《その機体、もしかして乗ってるの、カガリ?》

 

 突然、オープン回線で発せられた少女の声に、カガリは思わず動きを止めた。

 

 向かい合う、デスティニーとアカツキ。

 

「お前・・・・・・もしかして、アリスか?」

 

 カガリは通信の声に対し、呆然とした返事を返す。

 

 カガリとアリス。

 

 かつてミネルバがオーブを出る際に友情を誓い合った少女達が今、戦場にて望まぬ再会を果たしていた。

 

 アカツキのサブモニターに、アリスの顔が映った。

 

《久しぶりだね、カガリ。元気だった? て、ボクが言うのもちょっと変かな?》

 

 相変わらず物怖じしない少女の様子に、カガリも思わず苦笑してしまう。

 

「ああ、何とか元気にやっているよ。お前も相変わらずみたいで何よりだな」

 

 妙にほのぼのとした会話だけ聞いていると、ここが戦場である事すら忘れてしまいそうだった。

 

 だが、カガリはオーブの国家元首として、アリスはザフトのパイロットとしてこの場に立っている。

 

 その事が、互いの距離を物理的な意味以上に引き離していた。

 

 アリスは声を固くして、再度カガリに語りかけた。

 

《・・・・・・降伏して、カガリ》

 

 アリスの口からは、そんな言葉が飛び出してきた。

 

 対するカガリは、片方の眉を吊り上げてデスティニーを睨む。

 

《まさかと思うけど、君の実力でボクに勝てるとは思ってないよね?》

 

 不遜な物言いだが、アリスにはそのセリフを吐けるだけの実績と実力が備わっている。今やザフトのトップエースと称しても過言でないアリスを前にして、カガリの力が及ばないであろう事は想像に難くなかった。

 

 確かにカガリは前大戦の英雄であり、パイロットとしての実力も、ナチュラルとしてはかなり上位に入るだろう。

 

 だが、それでもアリスには遠く及ばない。

 

 戦えば、負ける事は目に見えていた。

 

 しかし、

 

「舐めるなよ」

 

 カガリは不敵にも言い放った。

 

「私はオーブの代表だ。私の背後には、戦火から逃げ惑うオーブの民がいる。その私が、敵を前にして逃げる事などできるわけないだろう」

 

 不退転。

 

 たとえどれほどアリスが強大であろうと、カガリは一歩も引かずに戦い続ける決意を、年下の少女に見せつける。

 

「アリス、お前の気遣いはありがたい。が、オーブを守る者として、その言葉を受けるわけにはいかない」

《・・・・・・そうだね》

 

 目の前で黄金の機体を操る年上の友人は、こんな性格であった事をアリスは思い出す。

 

 この戦いは、もう避けて通る事はできない。

 

 ならばアリスはフェイスとして、ザフトの軍人として、カガリを倒さなければならなかった。

 

《ごめん、カガリ》

「いいさ、気にするな」

 

 互いに優しい口調で言葉を交わした後、

 

 両者同時に動いた。

 

 ビームライフルを放つアカツキ。

 

 それに対してデスティニーは上昇して回避。同時にビームライフルを構える。

 

 ほとばしる閃光。

 

 デスティニーの攻撃は、確実にアカツキを捉える。

 

 しかし次の瞬間、驚くべき事が起こった。

 

 デスティニーのライフルから放たれたビームは、アカツキの装甲に当たった瞬間、あらぬ方向に弾かれたのだ。

 

「えッ!?」

 

 驚くアリス。

 

 更にアリスはデスティニー背部から長射程ビーム砲を展開して構えると、アカツキに向けて発射する。

 

 蒼空を裂いて飛ぶ閃光。

 

 しかし、その攻撃もアカツキに弾かれてしまった。

 

「・・・・・・成程、その金ピカは伊達じゃないってわけだ」

 

 アカツキの表面装甲は「ヤタノカガミ」と呼ばれる特殊装甲で覆われ、ビームを弾く性質があるのだ。まさに、守りを主体としたオーブの理念を具現化していると言える。

 

 だが、正体を看破したアリスは、すかさず攻撃方法を切り替える。

 

「なら、今度はこれだよ!!」

 

 言いながら、アリスは再びアロンダイトを抜いて構える。

 

 残像を引いて、アカツキに迫るデスティニー。

 

 対してカガリも、アカツキの腰に装備した双刃型のビームサーベルを抜いて迎え撃つ。

 

 振り下ろされるアカツキの刃を、デスティニーはビームシールドで防いで弾く。

 

 体勢が崩れるアカツキ。

 

 更にそこへ、デスティニーはアロンダイトを振り翳して斬り込む。

 

「これで!!」

「クッ!?」

 

 デスティニーの大剣の一撃を、アカツキは辛うじてシールドを翳して防ごうとする。

 

 しかし、防ぎきれない。

 

 デスティニーの凄まじい斬り込みにより、砕け散るアカツキのシールド。

 

「こんのォォォォォォ!!」

 

 咆哮するカガリ。

 

 同時にSEEDが発動、一気にデスティニーへの接近を図る。

 

 凄まじい加速力は、一時的にとは言え、アリスの反応速度すら上回った。

 

「ッ!?」

 

 その動きにアリスは一瞬虚を突かれ、アカツキの接近を許してしまった。

 

「これで、どうだ!!」

 

 デスティニーの懐に飛び込み、ビームサーベルを振りかざすアカツキ。

 

 その刃が振り下ろされようとした瞬間、

 

 デスティニーの左腕が旋回する。

 

 交錯する一瞬、

 

 次の瞬間、

 

 アカツキの左腕が吹き飛ばされた。

 

「何っ!?」

 

 カガリは、一瞬何があったのか判らなかった。

 

 アリスはアカツキに懐に飛び込まれた時、攻撃を受けるよりも一瞬早く、パルマ・フィオキーナを発動してアカツキの左腕を吹き飛ばしたのだ。

 

 バランスを崩して、高度を落とすアカツキ。

 

 その勝機を、アリスは見逃さない。

 

「これで、終わりだよ!!」

 

 肩からビームブーメランを引き抜いて、投げつけるデスティニー。更にもう1個、時間差を置いて投げつける。

 

 旋回する2個のブーメランは、アカツキを左右から挟み込むようにして迫っていく。

 

 対してアカツキは、バランスは回復したものの、とっさの事で身動きが取れないでいる。

 

 これで終わり。

 

 そう思った瞬間、

 

 出し抜けに、デスティニーを追い越す形で、二条の閃光が駆け抜けた。

 

「えッ!?」

 

 驚くアリス。

 

 次の瞬間、ブーメラン2基が一緒くたになって吹き飛ばされる。

 

 まさに命中直前だったブーメランが爆発し、爆煙が一瞬、アカツキの金色の装甲を覆い隠す。

 

 しかし、ダメージは無い。

 

 煙が晴れた時、左腕を失っただけの状態のアカツキが、何事も無かったように姿を現した。

 

 何が起こった!?

 

 アリスが機体を振り返らせようとした瞬間、背後から迫った機体に、突然、斬り掛かられる。

 

「クッ!?」

 

 とっさに、機体を後退させて攻撃を回避するアリス。

 

 駆け抜けた機体はデスティニーの脅威を排除すると、アカツキを守るようにして、アリスの前に立ちはだかった。

 

「あれは・・・・・・」

 

 思わず目を剥くアリス。

 

 青いボディに流麗な四肢、純白の双翼。

 

 撃墜したと思っていた機体が、目の前に存在していた。

 

「イリュージョン・・・・・・そんな・・・・・・」

 

 細部は変わっているが、間違いなくそれは北海でアリス自身が撃墜したイリュージョンであった。

 

 生きていた。仕留めきれてなかった。

 

 そんな思いが交錯するアリス。

 

 一方、アカツキの危機を救ったシンとマユのフェイトは、ただちにカガリに通信を入れる。

 

「カガリ、国防本部に行け!! こっちは俺達が引き受けるから!!」

《シン!?》

「カガリさん早くッ ジブリールって人を見付ければ、この戦いも終わるんでしょ!!」

 

 シンとマユの言うとおりである。

 

 フェイトと言う力強い援軍を得た今、カガリが損傷したアカツキで戦場上空に留まる意味は無い。それよりも、国防本部に行って全体の指揮に専念すべきだった。

 

《判った、頼む!!》

 

 そう言うと、カガリはアカツキを反転させて飛び去った。

 

 それを確認してから、シンはデスティニーに向き直った。

 

「久しぶりだな、アリス」

《シン、やっぱり君なんだ・・・・・・》

 

 イリュージョンに似た機体が出て来た時点で、アリスも相手が何者であるかは予想していた。

 

 何より、あれほどの技量を持ったパイロットが、そう何人もいるとは思えなかった。

 

《そこをどいて、シン・・・・・・て言っても、聞いてくれないよね》

「当然だろ」

 

 答えは、カガリと一緒だった。

 

「アリスさん」

 

 シンの背後から、マユが話しかける。

 

《・・・・・・その声、ひょっとして、マユちゃん?》

「アリスさん、ここは私達の国なんです。オーブが焼かれようとしているのを、私達は見過ごす事なんてできませんッ」

 

 毅然として叫ぶマユの声を聞きながら、アリスは妙に納得した気分になる。

 

 シンのパートナーはマユだったのだ。成程、どうりであれだけ強かったわけである。

 

 アリスはマユとは一度しか会った事は無かったが、シンとの兄妹仲はとても良いように見えた。それだけ、相性も良い事を意味している。

 

《良いよ、そういう事なら・・・・・・》

 

 アリスは言いながら、アロンダイトを構え直すデスティニー。

 

《ボクも、遠慮無く行かせてもらうよ!!》

「望むところだ、来いッ!!」

 

 対抗するようにシンも叫び、フェイトの対艦刀ミストルティンを構える。

 

 運命と宿命。

 

 似て異なる名を持つ2体の鉄騎は、自分達の信念と矜持を掛けてぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オノゴロ周辺での戦闘は、一進一退の状況が続いていた。

 

 当初は一方的に押していたザフト軍だったが、オーブ政府軍の戦線介入によって、再び五分まで押し戻されている。

 

 沿岸部ではM1隊が必死の防空戦を展開し、その上空ではムラサメ隊が強固にガードしている。

 

 海上に目を転じれば、戦艦武蔵を主力とした政府軍艦隊も戦線に加わり、ザフト艦隊と激しい砲撃戦を展開していた。

 

 存在感としてやはり大きいのは武蔵だろう。

 

 元々、大和型戦艦は重火力重装甲でモビルスーツに対抗する事を目的に建造された艦である。上面の第1装甲板の厚さもかなりの物である為、並みの砲撃ではびくともしなかった。

 

 替わって打ち返す砲撃は、ザフト艦に大ダメージを与えていく。中には1発で弾薬庫や機関を撃ち抜かれて撃沈する艦もあるくらいである。

 

 両軍ともに一歩も引かずに砲火を交わす中、アークエンジェルは因縁ある戦艦と正面から対峙していた。

 

「ミネルバ・・・・・・」

 

 接近してくるグレーの戦艦を見ながら、マリューは呟いた。

 

 どうやら、ジブラルタルからジブリールを追ってここまで来たらしい。

 

「やはり、というべきかしらね」

 

 マリューは緊張を吐き出すように呟く。今やザフト軍の希望の象徴とも言える艦である。純粋な戦力と言う意味以上に、あの艦が持つ役割は大きいはずだ。

 

 いずれにしても、避けて通れる相手でないのは確かである。

 

「イーゲルシュテルン、ゴットフリート、バリアント起動ッ 後部ミサイル発射管、全門、ウォンバット装填!! 目標、ミネルバ!!」

 

 緩やかに旋回しつつ全武装を展開、攻撃準備に入るアークエンジェル。

 

 それに対してミネルバも、アークエンジェルの接近を感知すると同時に攻撃準備に入る。

 

「CIWS、トリスタン、イゾルデ起動、ランチャーワンからランチャーテン、1番から4番、全門ディスパール装填。目標、アークエンジェル!!」

 

 命令を飛ばしながら、タリアは艦長席で薄く笑う。

 

 やはり生きていた。沈んでいなかった。

 

 前大戦時からあれほどの戦いぶりを見せた伝説の艦だ。そう簡単に沈むはずはないと思っていたのだ。

 

 アークエンジェルとミネルバは、互いに旋回しつつ間合いをはかっていく。

 

 そして

 

「「撃てェ!!」」

 

 2人の女性艦長が、ほぼ同時に咆哮する。

 

 それに伴い、大天使と女神は互いの剣を抜き放ち、相手に斬り掛かった。

 

 

 

 

 

 地上での戦闘が激化の一途をたどっている頃、宇宙での戦闘も白熱化を増しつつあった。

 

 フリーダムとジャスティス。

 

 蒼翼の熾天使と、紅き騎士は、互いに奉じる陣営の為にぶつかり合う。

 

 フリーダムがドラグーンを一斉展開、ジャスティスを包囲して攻撃してくる。

 

 それに対してジャスティスは、一気に加速してドラグーンの包囲を抜けると、アンビテクストラスフォームに連結したビームサーベルを翳してフリーダムに斬り掛かる。

 

「ジャスティス、攻撃来ます!!」

「クッ!?」

 

 エストの警告通りに接近してくるジャスティスを見ながら、キラはビームシールドを展開して斬撃を防ぐ。

 

 しかし、

 

「キラ、足!!」

「ッ!?」

 

 エストの警告。

 

 とっさに、フリーダムを後退させるキラ。

 

 一瞬の間をおいて、ジャスティスの蹴りがフリーダムの鼻先を掠める。

 

 ただの蹴りではない。インフィニットジャスティスは脛部に、ガイアにも装備されていたグリフォンビームブレードを装備しているのだ。これにより、蹴りでも斬撃を繰り出す事ができる。

 

 フリーダムのドラグーンがジャスティスを包囲するが、アスランはその前にジャスティスを後退させて砲撃を回避する。

 

「今です、キラ!!」

「判った!!」

 

 エストのオペレートが、攻撃のチャンスであると告げる。

 

 キラはジャスティスが後退した隙に、両手のビームライフル、肩のパラエーナ、腰のレールガンを展開し、6門のフルバーストを放つ。

 

 迫る虹色の閃光。

 

 それに対し、

 

「まだだ!!」

 

 アスランはリフターを分離させることで、フリーダムの攻撃を回避、同時に分離したリフターを突撃させる。

 

 このリフターも旧ジャスティスに比べれば進化している。機首部分には固定型のビームサーベルを備え、翼には頸部同様グリフォンがある。更にアスランの戦闘パターンを解析して行動プログラミングされている為、より実戦力が備わった装備となった。

 

 飛翔してくるリフター。

 

 これをフリーダムは、飛び越えるように回避。同時にビームサーベルを抜き放ってジャスティスへと斬り込む。

 

 対抗するように、ジャスティスもサーベルを構えて斬り結ぶ。

 

 接近、斬撃、離脱。

 

 キラとアスラン。地球圏で間違いなくトップクラスの実力を誇る2人のエースパイロットが、己の全てをぶつけるように斬り結ぶ様は壮絶でもある。

 

 2本のビームサーベルを構え、斬り込むフリーダム。

 

 対してジャスティスは、アンビテクストラスフォームのビームサーベルを構えて向かっていく。

 

「ハァァァァァァ!!」

 

 目にも止まらぬ、フリーダムの高速斬撃。

 

 その光景は、まるで剣閃の重囲であるかのようだ。

 

 一種、幻想的とも思えるフリーダムの攻撃は、しかし標的を捉える事はない。

 

 攻撃を食らう前に、ジャスティスは上昇してフリーダムの間合いから逃れていたのだ。

 

「喰らえッ!!」

 

 勢いをつけて、ジャスティスはフリーダムを蹴りつける。

 

「グッ!?」

「キャァッ!?」

 

 衝撃に声を上げるキラとエスト。

 

 しかし、反撃するのも忘れない。

 

 8基のドラグーンを引き戻して砲撃。余勢を駆って斬り込もうとするジャスティスを牽制する。

 

 その攻撃により、ジャスティスはフリーダムへの攻撃を断念して、防御に徹せざるを得なくなる。

 

 互いに激しくぶつかり合うフリーダムとジャスティス。

 

 両者は徐々に、大気圏の方向へと流れ始めていた。

 

 

 

 

 

 フェイトとデスティニーは、蒼穹を切り裂くようにして飛翔、接近すると同時に斬撃を繰り出す。

 

 その高速は、他の機体には決して真似できないだろう。

 

「ハァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 咆哮と共に、アリスは突撃を掛ける。

 

 アロンダイトを振り翳して斬り込むデスティニー。

 

 対してフェイトも、2本のミストルティンを構えて同時に斬り掛かる。

 

 ミストルティンは、イリュージョンに装備されていたティルフィングに比べると、長さにして3メートル短くなり、その分攻撃力も低下している。しかし、短くなって重量も減った為、取り回しやすくなっていた。

 

 互いの斬撃は、相手を捉える事無く空を切る。

 

 すれ違うフェイトとデスティニー。

 

 すかさず、シンは動く。

 

「マユ、射撃データを!!」

「はいッ!!」

 

 マユのオペレートでデスティニーの行動パターンを割り出す。

 

 同時に両手にはライフル、更に翼内に格納されたパラエーナ、腰のレールガンを展開し、フルバースト射撃を仕掛ける。

 

 ほとばしる閃光。

 

 しかし、残像を引いて飛ぶデスティニーを捉える事はできない。

 

「甘いよ!!」

 

 一旦下降するようにしてフェイトの攻撃を回避するデスティニー。同時に、海面上から一気に斬り上げるようにしてアロンダイトを振り上げる。

 

「貰ったァ!!」

 

 振りかざされる大剣の一撃。

 

 これを、シールドで防御するフェイト。

 

 だが、デスティニーのパワーを前に、防ぎきれない。

 

「キャァッ!?」

 

 悲鳴を上げるマユ。

 

 同時にフェイトは、大きく跳ね上げるようにして吹き飛ばされる。

 

 そこへ、アリスはデスティニーの長射程ビーム砲を構えた。

 

 しかし、デスティニーが攻撃準備を完了する前に、シンはフェイトの姿勢を強引に立て直す。

 

「やらせるかよ!!」

 

 腰のレールガンを展開して斉射。

 

 その攻撃が、デスティニーのボディと右肩に命中した。

 

「キャァァァァァァ!?」

 

 レールガンの弾丸は実体弾である為、VPS装甲にダメージは入らない。しかし、デスティニーは大きく吹き飛ばされ、同時に右手に持っていたアロンダイトも弾き飛ばされて海に落下する。

 

「今だ!!」

 

 デスティニーの接近戦武装は全て潰したと判断したシンは、ミストルティンをアンビテクストラスフォームに連結すると、一気に加速して斬り込む。

 

 デスティニーに斬り掛かるフェイト。

 

 対してデスティニーも、辛うじて体勢を立て直すのが見える。

 

 しかし、その手に武器は無い。アリスはフェイトの攻撃を、シールドで防ぐか回避するしか手は無いはず。

 

 シンがそう思った瞬間、

 

「お兄ちゃん、手、気を付けて!!」

 

 マユの警告に従い、シンはとっさに攻撃を諦めて機体を上昇させる。

 

 すれ違う一瞬、

 

 デスティニーが突き出した掌が閃光を放つのを、シンは見逃さなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・そういう事かよ」

 

 冷や汗交じりに、シンは呟く。

 

 デスティニーは掌に何か隠し武器を持っている。流石は、ザフトの技術と言うべきか、目の付け所が違う。

 

 最初見た時は、向こうの機体もイリュージョンに似ていると思っていたが、どうやら、コンセプト的にはかなり別物の機体であるらしい。

 

「これは、油断はできないな」

「そうだね」

 

 緊張を隠せずに言葉を交わすアスカ兄妹。

 

 一方、デスティニーのアリスも、焦りと共にフェイトを見ていた。

 

 既にアロンダイトとブーメランを失い、武装は消耗している。おまけに起死回生を狙ったパルマ・フィオキーナはかわされてしまった。

 

 ある意味デスティニーの切り札とも言うべきパルマ・フィオキーナの最大の特性は、その秘匿性にある。デスティニーを相手にする敵は、誰も掌に武装があるとは思わない事から、密着状態で使う事で相手の不意を突く事ができるのだ。

 

 しかし、奇襲が失敗した以上、次にパルマ・フィオキーナを使うときには、慎重な戦術が必要になるだろう。

 

「・・・・・・どうしよっかな」

 

 アリスはコックピットの中で呟く。

 

 このままでは勝てない。デスティニーはまだ十分な戦力を保持してはいるが、相手はあのシンだ。消耗した機体で戦って勝てる相手ではないだろう。

 

 思案に暮れた時。

 

 出し抜けに、デスティニーの背後から銃撃が駆け抜け、フェイトを牽制する。

 

「何ッ!?」

 

 飛んできたビームに対し、とっさに機体を後退させ回避するシン。

 

 視線を向けるとそこには、デスティニーを守るように駆け付けるトリコロール色の機体があった。

 

《アリス、いったん下がりなさい!!》

「ルナ!?」

 

 インパルスはフェイトを警戒してライフルを向けながら、デスティニーに通信を入れる。

 

 ミネルバで戦況を見守っていたルナマリアだが、攻めあぐねるデスティニーの様子を見て、とっさに援護に駆け付けたのだ。

 

《そのままじゃ勝てないって、あんただって判ってんでしょ!!》

「・・・・・・そうだね」

 

 悔しいが、ここはルナマリアの言うとおりだった。カガリ、シンとエース級2人を相手に戦うのは、流石のアリスでも厳しかった。

 

 後退するデスティニーとインパルス。

 

 対してシンも、追撃はせずに機体を反転させる。味方は今も防衛線を維持して戦っている。アリス達の追撃よりも、まずはそちらの救援を優先すべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国防本部の前庭に着陸すると、カガリはアカツキから飛び降りるようにして駆け出し、司令部を目指した。

 

 その背後には、キサカとライアが付き従っている。

 

 とにかく、防衛線への増援とジブリールの捜索。これを可及的速やかに行う必要があった。

 

 カガリが司令部に飛び込むと、居並ぶ将兵達が一斉に明るい顔を向けてくる。

 

 そんな中で、真ん中に置かれたパイプ椅子にはユウナが座らされており、両腕は背中に回されて手錠で拘束されていた。

 

 ユウナはカガリの姿を認めると、情けない顔で立ち上がって寄ってくる。

 

「カガリぃ~ これはひどいよォ!!」

 

 開口一番、抗議の声を上げてくるユウナ。まるで、自分は何も悪くなく、悪いのは自分以外の人間だと言わんばかりの態度だ。

 

 カガリは険しい表情のまま、拳を強く握る。

 

 そんなカガリの様子にも気づかず、ユウナは喚き続ける。

 

「あんまりだ、カガリぃ!! 僕は、君の為に、一生懸命に!!」

 

 なよなよと言い募るユウナの言葉を、カガリは最後まで聞いている事ができなかった。

 

 怒りが頂点に達したカガリは、迷う事無く拳をユウナの顔面に叩き付けたのだ。

 

「グベッ!?」

 

 床に倒れ込むユウナ。

 

 顔面から鼻血を流しながら、顔を上げてカガリを見る。

 

「か、カガリ!?」

 

 しかし、少女の双眸に怒りの炎が揺れているのを見ると、ヒッと短く呻き、言葉を詰まらせる。

 

 怯えるユウナ。

 

 背後に控えるキサカやライアをはじめ、誰もが代表首長の蛮行を止めようとしない中、カガリは湧き上がる怒りを抑えこんで口を開く。

 

「お前だけを悪いとは言わない。ウナトやお前、首長達と意見を交わし、より良い道が無いか、もっと真剣に考えなかった私も充分に悪い!!」

「そんな・・・・・・カガリ~・・・・・・」

「だが、これは何だ!? 意見は違っても、国を思う気持ちは同じと思っていたのに!!」

 

 モニターの中では、戦火に追われて逃げ惑う民の姿が映し出されている。

 

 既にかなり内陸まで侵攻されており、避難を続ける人々の傍らにはM1部隊が布陣して、最後の抵抗を続けている様子が映し出されていた。

 

「そ、それは・・・・・・」

 

 ユウナはオロオロと言葉を探すように視線を彷徨わせる。どうにか、カガリを丸め込めないか、必死に思案している様子だ。

 

 だが、カガリは逃がさないとばかりにユウナの襟首を締め上げた。

 

「言えッ ジブリールはどこだ!? この期に及んで、なぜ奴をかばう!?」

 

 その剣幕の前に怯み切りながらも、ユウナは弱々しく口を開く。

 

「だ、だから言ったじゃないかァ 僕は知らないって・・・・・・」

「ユウナ!!」

 

 更に締め上げるカガリ。

 

 それに対してユウナは、本気で泣き出しながら必死に言葉を吐き出す。

 

「ほんとに、ほんとなんだって!! 確かにうちにはいたけど、今は・・・・・・」

 

 カガリは炎が噴き出しそうな目で、ユウナを睨みつける。

 

 どうやら、嘘ではないようだ。そもそも、この男にここまで責められて尚、親しくもない人間をかばうような度胸も無いだろう。

 

 カガリは、もう用は無いとばかりに、ユウナの体を無造作に突き飛ばした。

 

「もう良い、連れていけ」

「そ、そんな、カガリ!! 僕も、一緒にここに~!!」

 

 連行されていくユウナ。

 

 その様子を背中越しに見ながら、ライアはカガリに振り返って尋ねる。

 

「良いの、アレ?」

「構わん。あいつにはもう用は無い」

 

 言ってから、それに、と付け加える。

 

「あいつには、今回の件に関する、全ての責任を取ってもらう必要があるからな」

 

 その言葉で、ライアはカガリの言いたい事を理解する。ようするに、犠牲の為の生贄が必要と言うわけである。

 

 カガリは今回の内乱とその後のザフト軍の侵攻に対する責任を、ユウナに全て被せるつもりらしい。本来なら、首謀者であるウナトがその役に最も相応しいのだが、万が一、彼が捕まらなかった時の為に、ユウナは生かしておく必要がある。より正確に言えば、戦後処理の際に開く軍事法廷において、ユウナの首が必要なのだ。

 

 非道に思えるかもしれないが、これは必要な措置である。

 

 もしこれが、首謀者無しの状態で戦争終結を迎えたりしたら、本来責任を取る必要のない中級下級の指揮官にまで、追及の手が及ぶ事も有り得る。そうならない為に責任者の首が必要なのだ。それも、なるべく大物の。そういう意味では、ユウナ以上の最適者はいなかった。

 

 これで、全権の掌握は完了した。あとはジブリールを見付けるのみである。

 

「カグヤの封鎖は完了しているな?」

「ハッ」

 

 尋ねられた兵士は、きびきびと答える。

 

 オーブが所有するマスドライバー・カグヤは、世界でも有数の規模を誇っている。これがあるからこそ、ジブリールは逃亡先にオーブを選んだのだろう。

 

 忌々しい事だが、逆を言えばここさえ封鎖しておけば、ジブリールは簡単には宇宙に上がれなくなる。あとは手隙の兵や警察、警備関係者を総動員し、他の小規模な発着場を虱潰しに探して行けば、必ず見つけられるはずだ。

 

「ともかく、一刻も早くジブリールを見付けるんだ。諦めるな!押し返せば停戦への道も開ける。今はその事だけを考えろ!!」

 

 カガリの名のもとに、意志が統一するオーブ軍。

 

 今、オーブ内戦は最後の局面を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

PHASE―39「運命交差する宿命の戦場」      終わり

 


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