機動戦士ガンダムSEED Fate   作:ファルクラム

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PHASE-24「淀んだ水のように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラスケースの向こうの少女を見つめ、ラキヤはサングラス越しに俯いた。

 

 ステラ、スティング、アウルは今、メンテナンスベッドで調整中である。

 

 調整。

 

 つまり次の戦いに向けて、メンタルを再調整しているのだ。

 

 その中には、戦闘で不要になると思われる記憶の消去も含まれる。

 

 そう、アリスと触れ合い、打ち解けた記憶さえも、今、ステラの中から消え去ろうとしていた。

 

 残酷なのは分かっている。

 

 だが同時にラキヤの中では、これで良いという思いもあった。

 

 アリスはザフトの兵士、ステラは地球軍のエクステンデット。

 

 次に会うのは、確実に戦場となる。そして、ミネルバは修理完了次第再び南下してくることが予想されるし、地球軍もまた、それを迎え撃つべく急ピッチで準備を進めている。

 

 激突は恐らく不可避だ。

 

 もしも、もう一度戦った時にアリスの記憶が残っていたりしたら、ステラの中で迷いが生じてしまうかもしれない。

 

 だから、この記憶消去は必要な措置なのだ。

 

 そう、自分に無理やり言い聞かせた。

 

 その時だった。

 

「おやおや、こんな所にいたのか、副隊長殿」

 

 聞こえてきた耳障りな声に、ラキヤはサングラスの奥で僅かに目をしかめた。

 

 複数の足音が聞こえてきたので振り返ると、そこにはベイル、ラーナ、ジャックの3人が歩いて来るのが見えた。

 

 ベイルは薄笑いを顔に張り付かせると、その視線をベッドに眠るステラ達に目をやった。

 

「まったく、こんな手間の掛かるお人形に頼らなければ戦争もできないとは、面倒な話だな」

 

 その言葉に、背後に立っているラーナが同調するように笑みを浮かべる。

 

 人形というのは、ステラ達のことを言っているのは考えるまでもない。

 

 湧き上がる不快感を感じ、サングラス越しにラキヤはベイルを睨みつける。

 

 ステラ達のようなエクステンデットの事を、一部でそのように呼んでいる輩は少なくない。現にラキヤ自身、ステラ達を「戦争の道具」として利用し、記憶の再調整まで行っているのだから大きなことは言えない。

 

 だがそれでも、ベイルのようにあからさまな侮蔑を隠そうとしない輩の事は、見ていた不快でしかなかった。

 

「用が無いなら、僕はこれで」

 

 そう言って、その場を立ち去ろうとするラキヤ。

 

 しかし、その前にベイルは立ちはだかった。

 

「まあ、そう急くな。あまり性急に判断して行動していると、器の程度が知れるぞ」

 

 小馬鹿にした口調で言いながら、ベイルは軍服のポケットから1枚の写真を取り出してラキヤの目の前に掲げた。

 

 その写真を見て、ラキヤは目を見開いた。

 

 そこに映っていたのは、楽しそうに談笑しているラキヤとステラ、そしてアリスの3人だったのだ。

 

 恐らく、先日のポートタルキウスでの一件だろう。

 

 すっと目を細め、ラキヤはサングラス越しにベイルを睨みつける。

 

「・・・・・・つけていた訳ですか。僕達を」

「当然だ。あんな危険なお人形を野に放つんだ。監視をつけるのは当たり前のことだ。で、そこで偶然、面白い物が撮れた訳だ」

 

 よくも言う。

 

 ラキヤは鼻を鳴らす。

 

 その割には、ステラが海で溺れた時に助けに入らなかった癖に。

 

 そんなラキヤに対し、ベイルは勿体つけたように言う。

 

「聞いた話ではこの女、ザフトの兵士だというじゃないか。そのような女と密会して、いったい何をしていたのかね? ああ、もしかして、お人形ごっこかな?」

 

 言った途端、ベイルとラーナは高らかに笑い声をあげる。

 

 いったい、何が面白いのかさっぱりわからないが、自分の行動がこうして監視されていたのは、不愉快極まりなかった。

 

 ベイルは勝ち誇ったように続ける。

 

「貴様、この女にこちらの情報でも流したんじゃないのか? その為にポートタルキウスで接触した。違うか?」

 

 睨み合うラキヤとベイル。

 

 やがて、ゆっくりと口を開いたのはラキヤの方だった。

 

「何を勘違いしているのか知りませんが、僕はポートタルキウスに情報収集に行ったんですよ」

 

 言いながら、ラキヤは手の中の写真に目をやる。

 

「彼女と接触したのは、彼女から情報を得ようとしたからです」

 

 完全に嘘というわけではない。アリスと会ったのは、そういう意図もあったからだ。

 

 もっとも、有力な情報は何も得られなかったし、積極的にアリスから情報を得ようと思わなかったのも事実だが。

 

 叩きつけるように、ラキヤは写真をベイルにつき返す。

 

「人の行動を邪推している暇があるんだったら、敵の弾に当たらないおまじないでも考えたらどうです? その方がいくらか建設的だと思いますよ」

 

 言い捨てると、ラキヤはその場から立ち去って行った。

 

 去っていくラキヤの背中を睨み、舌打ちを投げるベイル。その視線は、憎悪に満ち溢れているかのようだった。

 

 と、その時、

 

 兵士の1人が、ベイルに駆け寄ってきた。

 

「あ、こちらでしたか、大尉」

「何だ? 何か用か?」

 

 先程のラキヤとのやり取りもあり、不機嫌気味に振りかえるベイル。

 

 すると、兵士はややオドオドとしながらも、自分の任務を遂行するために口を開いた。

 

「あ、あの、ガーリアン大尉にジブリール氏から直接の命令です」

「何っ? よこせ!!」

 

 言いながら、ベイルは命令書をひったくるようにして受け取る。

 

 傍若無人な態度をどんな時でも崩さない彼も、流石に最上位の存在であるジブリールには逆らえない。

 

 慌てて命令書を開き、一読する。

 

「『ロドニアラボにて問題発生。自爆を試みるも失敗。ガーリアン隊は直ちに現場へ赴き、適切な対処をせよ』だとよ」

 

 言いながら命令書をグシャッと握りつぶすベイル。

 

 対してラーナは呆れ気味に、メンテナンスベッドの方を見る。

 

「随分と、間の抜けた話じゃないのさ。それってあの、お人形ちゃん達の製造工場だろ?」

「大量生産しようとして出荷前に反乱ってところらしい。自爆させようとしたが、それも失敗とはな」

 

 言ってから、ベイルはにやりと笑う。

 

「まあ良い、この間のダーダネルスの事と言い、いい加減鬱憤がたまっていたんだ。発散するにはいい機会だろ」

 

 そういうとベイルは、ラーナとジャックを引き連れて格納庫の方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲が黄昏で赤く染まり始める中、インパルスと白いザクが降り立った。

 

 深い森の奥に作られた建物は不気味な静けさに包まれ、時折聞こえるカラスの鳴き声だけがおどろおどろしく響いている。

 

「ここ?」

「ああ」

 

 コックピットから降り立ったアリスとレイは、そう言って頷きあう。

 

 2人は今日、副長のアーサーから指示を受け、ロドニアにある地球連合軍研究施設跡の調査にやってきていた。

 

 地球連合軍、特に大西洋連邦が戦争遂行の為に何らかの研究をしていた施設らしいが、情報によると何らかのトラブルで、最近になって廃棄されたらしい。

 

 しかし、まだ何らかの抵抗勢力、あるいは兵器が隠されている可能性もあるとして、2人に調査命令が下ったのだ。

 

「行くぞ」

「う、うん」

 

 レイに続き、銃を構えて歩き出すアリス。

 

 建物は意外に大きく、木立の陰からも外観を見る事ができる。

 

 近づけば、更にその不気味な全貌が姿を現し始めた。

 

 やはり、人の気配はない。

 

 しかし、その静けさにより、不気味な気配はより増していると言えた。

 

 メイリンあたりなら、怖がって近寄らないんじゃないだろうか、と考え、アリスはクスっと笑った。

 

 と、そんな事を考えていると、レイは1人でズンズンと進んで行ってしまった。

 

「あ、ちょっと、レイ待ってよ!!」

 

 慌てて追いつくアリス。

 

「もっと警戒しろ。何があるのか判らないんだぞ」

「・・・・・・判ってるよォ」

 

 説教めいたレイの言葉に、そっぽを向きながら答えるアリス。

 

 だがやはり、人の気配があるようには思えない。施設は完全に廃棄された後のようだ。

 

 2人はそのまま、開いていた地下への入口へと足を踏み入れる。

 

 内部は完全な静寂に包まれており、2人の足音以外は何も聞こえてこない。

 

「本当に、誰もいないみたいだね」

 

 アリスの声も、静寂の中で必要以上に響き渡る。

 

 だが、調査を命じられた以上、すべての施設を回る必要がある。

 

 アリスとレイは、更に施設の奥へと足を踏み入れた。

 

 きしむドアを開けて部屋の中に入ると、そこは比較的広めの空間である事が分かった。

 

 反射的に明かりを点灯するスイッチに手を伸ばすアリス。

 

 意外なことに、まだ電気は通っていた。

 

 周囲が一気に明るくなり、室内を見渡せるようになる。

 

 そこはモニターの切れたディスプレイや、何に使うのか判らないガラスケース、円筒状の水槽が立ち並んでいる部屋だった。

 

「何だろ、ここ?」

 

 訝るように周囲を見回すアリス。一つ一つ見ても、これらを何に使うのか、アリスにはさっぱり判らなかった。

 

 その時だった。

 

 背後に立っていたレイが、急に苦しそうな呼吸をし始めた。

 

「レイ?」

 

 振り返るアリス。

 

 そこで見たものは、呼吸も荒く床にうずくまるレイの姿だった。

 

「レイ!!」

 

 慌てて駆け寄って、抱き起す。

 

「レイ、しっかりして!!」

 

 必死に呼びかけるが、レイは何かに怯えるような目で、苦しそうにしている。

 

 この状態はまずい。

 

 とっさに判断したアリスは、レイを抱えるようにして施設を出ると、大急ぎでモビルスーツを停めてある場所まで戻った。

 

 レイをザクの足元に座らせると、自分はインパルスのコックピットに乗り込んで、通信機を起動させ、ポートタルキウスで停泊中のミネルバを呼び出した。

 

 ほどなく、タリアが通信機の向こうに出る。

 

《それで、レイの調子はどうなの?》

「判りません。とにかく、急に苦しみだして。ボクは何ともないんですけど・・・・・・」

 

 レイが突然苦しみだしたと聞き、タリアの声にも緊張が混じっている。

 

 実際の話、アリスにも何が起きたのか理解できなかった。アリス自身は、特に不調があるわけでもなく、今のところ息苦しさも感じていないのだから。

 

 ならばなぜ、レイだけが突然苦しみだしたのか?

 

《わかったわ。本艦も今からそちらに向かいます。問題の施設には、もう近づかないでおいて》

「はい、わかりました」

 

 答えて通信を切るアリス。そのまま急いで、レイの元へと戻る。

 

 駆け寄るとレイは、相変わらず苦しそうな顔をしている。

 

「大丈夫、レイ? お水とか飲む?」

 

 尋ねるアリスの声にも、レイは答える気力がないようだ。

 

 途方に暮れるアリス。

 

 とにかく今は、ミネルバの到着を待ちつつ、レイの様子を見ていたやる事しかできそうになかった。

 

 

 

 

 

 ミネルバが到着するとすぐに、専門スタッフの手によって、施設内にウィルスやガスが充満していないかを調べられた。

 

 レイが昏倒したと言う事から、放棄された後、何らかの有害物質が施設内に充満したことが考えられたのだ。

 

 だが程なく、どの区画にも人体に有害な物質が散布されている形跡がないことが分かると、タリアは、アスラン、ハイネ、アーサーの3人を引き連れて、内部へと入っていった。

 

 すでにどの区画にも人員が侵入し、データ取得のための調査が開始している。

 

 そんな中でアスラン達は、懐中電灯を手に奥へ奥へと進んでいった。

 

 先頭を行くタリアが、ドアを開いた時だった。

 

「うっ」

 

 一同は思わず、鼻と口をふさいだ。

 

 ムッとするような空気が、室内から流れ込んできたのだ。

 

 かなりの異臭だ。1分も嗅いでいたら吐きそうになってくるだろう。

 

 そんな中を、4人は進んでいく。

 

 そこで、見てしまった。

 

 折り重なって床に倒れる2つの死体。

 

 恐らく子供と大人と思われるそれらは、子供の方は落ち窪んだ目に血溜りができ、手足が妙な角度で曲がっている。大人の方も着ている白衣を真っ赤に染めていた。

 

 それぞれ手には、血塗れたメスと拳銃が握られている。

 

「こいつは・・・・・・」

 

 普段は飄然としているハイネも、流石に言葉が出てこない様子だ。

 

 ショックを受けながらも、一同はさらに歩いていく。

 

「いったい、何があったんでしょう?」

「判らないわ、こんな事が・・・・・・」

 

 アスランの質問に、タリアも言葉を詰まらせながら答える。

 

 ライトをあちこちに向けると、死体がそこら中に転がっているのが見えた。無数にある大人と子供の死体の中には、既に腐敗が始まっているものまである。

 

 そして、それらの手には凶器と思われるものが握られていた。

 

 その時、

 

「うわァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 先頭を歩いていたアーサーが、素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 

 振り返った一同は、アーサーのライトに照らし出された物を見る。

 

 それはガラスケースの中に収められた、子供の死体だった。体中に細いチューブを繋がれ、目はガラスのように濁った光を放っている。

 

 見れば、同じようなガラスケースがズラリと並び、性別も年代も違う子供たちがそれぞれ収められていた。

 

「・・・・・・内乱が起きたんだ、恐らく」

 

 ハイネの言葉に、タリアは頷く。

 

 ここで養成されていた子供たちが、研究員たちに対して反旗を翻した。その結果が、この地獄の惨状というわけだ。

 

 最後の手段として研究員たちは自爆を試みた形跡がある。しかし、それすら阻止されてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 ブラウスのボタンを留め、赤いジャケットを羽織る。

 

 レイが昏倒した事もあり、アリスはタリアの指示で軍医の検査を受けていたのだ。

 

 万が一、有害物質が体の中に入っていたら厄介である。

 

 だが幸いな事に、検査の結果、異常は見られなかった。

 

 着替えを終えたアリスは、別のテントから見慣れた少年が出てくるのを見つけた。

 

「レイ、もう大丈夫なの?」

 

 駆け寄ると、金髪の少年は普段のクールな表情に、僅かな笑みを浮かべて答えた。

 

「ああ、もう大丈夫だ。お前には迷惑をかけたな」

「迷惑だなんて、ボクは別に・・・・・・」

 

 アリスも、少しはにかむように応じる。

 

 仲間が苦しんでいるなら、どんなことをしてでも助けたい。それはアリスにとって、当然のことだった。

 

 その時、アスランが何か大量のファイルを抱えてテントの中へ入ってきた。

 

「レイ、もう体調は良いのか?」

「はい、ご心配をおかけしました」

 

 答えた時のレイは、もういつもの淡々とした調子に戻っていた。どうやら本当に、調子は戻ったらしい。

 

 そんな中でアリスは、首をかしげながらアスランが手に持っているものを見やった。

 

「ていうか、アスラン、何それ?」

「ああ、これか? あの施設にあった研究資料だ」

「資料?」

 

 言われてから、アリスとレイは揃って資料を覗き込む。

 

 そこには、1枚ごとにそれぞれ顔写真を添付された子供たちの資料がファイルされていた。

 

「エクステンデットは知っているな? 地球軍が俺達に対抗するために、体に改造を施した兵士を作り出しているという。どうやら、ここはその製造施設であるらしいことが分かった」

 

 言いながら、アスランは施設内で見た凄惨な光景を思い出す。

 

 研究員と思われる大人と、被験体の子供たちが争った跡。あの後、調査を継続したが、やはり生存者は発見できなかった。

 

 恐らく、子供達がつらい研究に耐え切れず、武器を奪って反乱を起こしたのだ。

 

 研究員達は自分達が作り出した最凶の獣の力を、自分達の身で受ける事になったのである。

 

「そうだったんですか・・・・・・」

 

 アリスは言いながら、資料をめくっていく。

 

 こうしてみると、人種を問わず多くの子供達が連れてこられているのが分かる。白人や黒人、アジア系やインド系の子供たちまでいた。

 

 更に読み進めるアリス。

 

 しかし次の瞬間、

 

「・・・・・・・・・・・・え?」

 

 あるページに来た時、思わずアリスは手を止めた。

 

 そこに映っているのは1人の女の子の写真と、そのデータと思われる文字や数字の羅列だった。

 

 短く切った金髪の少女。その姿に、アリスは見覚えがあった。

 

「・・・・・・・・・・・・ステラ?」

 

 それは間違いなく、先日、ポートタルキウスで出会った、はかない印象の少女だった。

 

 海が好きだと言っていた少女。

 

 楽しそうに踊っていた少女。

 

 一緒に遊んだ少女。

 

 まさか、と思いたかった。何かの間違いだと。

 

 だが、名前の表記にも確かに「ステラ・ルーシェ」とあった。こんな偶然が、あるはずがなかった。

 

 ではステラは、本当にここにいたのか?

 

 じゃあ、そのステラと一緒にいたラキヤは?

 

「アリス、どうした?」

「ッ!? な、何でもないよ!!」

 

 レイに声をかけられ、慌てて資料を閉じるアリス。

 

 その時だった。

 

 けたたましい警報が、突如として鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オーガカラミティ、ドレイクレイダー、ガイストフォビドゥンの3機がロドニアに到着した時には、既に周囲が暗くなり始めていた。

 

 だが、問題となっている研究所の周辺だけは、妙に明るくなっているのが見えた。

 

《おいおい、何だいありゃ?》

「先約がいるなんて聞いてないぞ」

 

 ラーナの声を聴き、ベイルは毒づくように言う。

 

 ジブリールから直接の命令で、研究施設の殲滅に来たと思ったら、そこには既にザフト軍の姿があったのだ。

 

 遠くにはミネルバの姿まである。

 

《どうするんだい、ベイル?》

「はッ 決まっているだろうが!!」

 

 叩きつけるように叫ぶと、ベイルはカラミティを加速させる。

 

「行くぞ、ラーナ、ジャック!! モルモット共を排除して、研究施設を全て焼き払う!!」

 

 カラミティに続いて、フォビドゥンとレイダーも速度を上げる。

 

 そのまま砲門を開こうとしたとき、停泊中のミネルバから2機、付近の森から1機、モビルスーツが上昇してくるのが見えた。

 

 セイバーとグフ、そしてインパルスである。

 

「ハッ 赤、白、黄と来たか、見た目はカラフルだな、モルモットが!!」

 

 叫ぶベイル。

 

 その間に突出したレイダーはセイバーに、フォビドゥンはグフへとかかっていく。

 

 そして、残ったカラミティにはインパルスが向かってきた。

 

「俺の相手は貴様か、白いの!!」

 

 ベイルは言いながら、カラミティのシュベルトゲベールを抜き放つ。

 

 同時にアリスも、インパルスのビームサーベルを抜いて斬りこむ。

 

「ハァっ!!」

 

 機動力に勝るインパルスが、先に間合いを制して斬り掛かる。

 

 対してカラミティは、シールドを掲げてインパルスの斬撃を防御、同時に右手のシュベルトゲベールを繰り出す。

 

「生意気なんだよ、貴様らは!!」

 

 横なぎの一閃。

 

 その一撃を、インパルスは後退して回避する。

 

「クッ!?」

 

 コックピットの中では、アリスが僅かに顔をしかめた。

 

 アスランやハイネもだが、今回はパイロットスーツに着替える暇がなかったので、軍服のまま出撃している。その為、あまり機体に強烈なGをかける事が出来ないのだ。

 

 後退しようとするインパルス。

 

 そこへ、カラミティは容赦なく斬りこんでくる。

 

「モルモットの分際で、人間様に楯突きやがって!!」

 

 振るわれる、二刀の斬撃。

 

 その攻撃のうち、インパルスは片方を盾で防ぎ、もう片方を回避する。

 

 しかし、接近戦の強化を図ったオーガカラミティの攻撃を前に、インパルスは大きく吹き飛ばされる。

 

「くあッ!?」

 

 体勢が崩れたところで、カラミティの胸部が光を帯びた。スキュラの発射体勢に入り、胸部の砲門にエネルギーを充填しているのだ。

 

「まずッ!?」

 

 とっさに操縦桿を操るアリス。

 

 インパルスが回避するのと、カラミティが胸部のスキュラを発射するのはほぼ同時だった。

 

 そこへ、更に斬りこんでくるカラミティ。

 

 対してインパルスは、押される一方だった。

 

 

 

 

 

 連続的にドラウプニルを発射するグフ。

 

 しかし、フォビドゥンはゲシュマイディッヒパンツァーを展開して防御、グフの攻撃を明後日の方向に逸らしてしまう。

 

「チィッ!!」

 

 やはりビーム攻撃は効果が無い。

 

 ハイネは舌打ちするとスレイヤーウィップを展開、フォビドゥンに対して、鋭く振りかざす。

 

 鞭による一撃は、しかしフォビドゥンがミラージュコロイドを展開し一瞬姿を消した為に、空しく空を切った。

 

 ミラージュコロイドでは、噴射炎やエンジンの駆動音まで消す事はできないが、一瞬でも視界から消えると言う事は、照準を狂わせるには十分だった。

 

 そして姿を現した瞬間、フォビドゥンはエクツァーンとフレスベルクを一斉発射する。

 

 レールガンはどうにか回避するグフ。しかし、ゲシュマイディッヒパンツァーで誘導されたフレスベルクは回避できず、シールドで受け止める事になった。

 

「クッ こいつ、厄介な物を!!」

 

 お返しに放ったドラウプニルは、やはりゲシュマイディッヒパンツァーに阻まれて効果がない。

 

 どうやら、火力戦では埒が明かないらしい。

 

「なら、これだ!!」

 

 ハイネは言い放つと、テンペストを抜き放って斬り掛かる。

 

 対するジャックもフォビドゥンのニーズヘグを構えて迎え撃つ。

 

 剣と鎌。

 

 互いの刃が交錯する。

 

「チッ!?」

「ッ!?」

 

 互いに舌を打つ、ハイネとジャック。

 

 グフとフォビドゥンは、ともに決め手を撃つ事が出来ず、ぶつかり合いを繰り返していた。

 

 

 

 

 

 アムフォルタスを跳ね上げ、攻撃を繰り返すセイバー。

 

 その攻撃を、高速で回避するレイダー。

 

「遅い遅いッ そんなのろまな攻撃が、アタシに当たるはずがないだろうさ!!」

 

 ラーナが言いながら、ヒートクローを伸ばしセイバーに掴み掛るレイダー。

 

 対してアスランは、素早く機体を後退させて回避。

 

 同時にビームライフルを放って、レイダーの動きを牽制しにかかる。

 

 だがラーナは、機体を急加速させると、セイバーの攻撃を回避。同時に両翼のビームブレードを展開して斬りこむ。

 

 鋭い突撃。

 

 その攻撃をセイバーは、かろうじて回避し、背後からビームライフルを放つ。

 

 しかし、当たらない。

 

 レイダーは巧みに回避して、セイバーの攻撃をかわす。

 

「速いッ!?」

 

 照準をロックオンできない。ドレイクレイダーは、ザフト軍が誇るセカンドステージシリーズの中では最高の機動力を誇るセイバーをも凌駕する機動性を与えられていたのだ。

 

 旋回して突っ込んでくるレイダー。

 

 対してセイバーは、回避に専念する事で、辛うじてレイダーの攻撃をかわす。

 

「ハッハー!! 動きが止まってるよ!!」

 

 勝ち誇るように笑みを浮かべるラーナ。

 

 そして、更に機体を旋回させようとした。

 

 その時、

 

 背後から、すさまじい衝撃を感じ、レイダーは大きくバランスを崩した。

 

「なッ!?」

 

 地面に叩き付けられるレイダー。

 

 ラーナは驚愕に目を見開く。

 

 毎度のように旋回して攻撃を仕掛けようとしたレイダーに対し、セイバーはそれ以上の速度で追いついて蹴り飛ばしたのだ。

 

 勿論、コックピットの中のアスランは、衝撃で内臓が締め付けられるような痛みを味わっているが、その痛みに耐えて、アスランは逆転の一撃を加えたのだ。

 

「この、よくもやってくれたね!!」

 

 怒りに任せて、レイダーのビームサーベルを抜き放ラーナ。

 

 しかし次の瞬間、一瞬で距離を詰めたセイバーが、手にしたビームサーベルを一閃し、レイダーの左腕を斬り飛ばしてしまった。

 

 

 

 

 

 空中で斬り結ぶ、インパルスとカラミティ。

 

 アリスとベイルは今のところ、お互いに致命傷となる攻撃を相手に与えていない。全ての攻撃は、機体を掠める程度で終わっている。

 

 ただ、それだけに互いに焦れ始めているのも事実だった。

 

「・・・・・・・・・・・・強い」

 

 アリスは、荒い息のままつぶやいた。

 

 パイロットスーツを着ていないため、全力を発揮する事が出来ないというのもあるが、それを差し引いても、やはり相手の力量が高いのは確かだった。

 

 一方のベイルは、憎々しげにインパルスを睨みつける。

 

「この、何てしぶとさだッ 流石、モルモットは優雅さに欠けるな。この俺の攻撃で死ねる名誉を理解できんとは!!」

 

 吐き捨てるように言いながら、ベイルは目を細める。

 

 だが、これ以上時間をかけるのが、得策ではないことも事実だった。

 

「こうなったら仕方がない。奥の手を使って、一気に決めさせてもらう!!」

 

 言い放つと同時に、シュベルトゲベールを振りかざして、突撃するカラミティ。

 

 迎え撃つように、サーベルとシールドをかざすインパルス。

 

 カラミティが振り下ろしたシュベルトゲベールを、インパルスがシールドで防ぐ。

 

 そこまでは、これまでと同じパターンである。

 

 しかし次の瞬間、カラミティの腰のギミックが動き、格納されていた隠し腕が出現した。

 

「なッ!?」

 

 目を見開くアリス。

 

 出現したカラミティの隠し腕の先端には、ビームソードが発振されている。

 

 とっさに、機体を操り回避しようとするアリス。

 

 しかし、振るわれるカラミティの攻撃の方が、一瞬速い。

 

 一撃。

 

 それによりインパルスは、背部のスタビライザーを斬り飛ばされた。

 

「キャァァァァァァァァァァァァ!?」

 

 アリスの悲鳴を聞きながら、まっさかさまに落ちていくインパルス。

 

 その後方から、4本に増えた刃を振りかざして追撃するカラミティ。

 

「尚も意地汚く生きるか、モルモット!! だが、これで終わりだな!!」

 

 その様子は、インパルスからも見る事が出来た。

 

 刃を振りかざして迫るカラミティ。

 

 対してインパルスは、翼を1枚失った事で、バランスを回復することもできない。

 

 これで、終わり?

 

 死の瞬間が迫る中、アリスの脳裏に浮かんだのは、ラキヤやステラの事だった。

 

 ステラとは、いったい何者なのか?

 

 本当に、あんな施設にいた子なのか?

 

 そしてラキヤは、なぜステラと一緒にいたのか?

 

 それらの想いが交錯する中、

 

 アリスは、目を見開いた。

 

「こんなところで、死ねない!!」

 

 次の瞬間、

 

 アリスの中でSEEDが発動した。

 

 スラスターを最大噴射するインパルス。

 

 同時に強引に機体の進路を変更、

 

 アリス自身が強烈なGで内臓が弾けそうな衝撃を受ける中、空中でカラミティと対峙する。

 

「オラァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 4本の刃を振り翳して迫るカラミティ。

 

 それに対して、

 

 インパルスは鋭くビームサーベルを一閃した。

 

 次の瞬間、カラミティの両腕は一撃で斬り飛ばされてしまった。

 

「何ィィィ!?」

 

 断面を残して斬り飛ばされた自機の手首を見て、驚愕するベイル。

 

 しかし、立ち直りも早いものである。

 

 尚も追撃しようとしてくるインパルスに、8連装スティレットの一斉発射を叩き付けて吹き飛ばすと、その隙にカラミティを後退させる。

 

「ラーナ、ジャック、ここまでだ!! これ以上の戦闘は無意味だ!!」

 

 言いながら、一気に機体を後退させるベイル。

 

 セイバーと対峙していたレイダーは片腕を失い、グフと戦っていたフォビドゥンもニーズヘグとゲシュマイディッヒパンツァーを1枚失っている。戦況は明らかに不利だった。

 

「他の奴らのミスを尻拭いするのに、俺達までやられたんじゃたまったもんじゃない。離脱するぞ!!」

 

 その言葉に従い、レイダーとフォビドゥンもカラミティに続いて後退していく。

 

 対してザフト軍は、追撃する素振りを見せる気配はない。

 

 現状、襲ってきた敵を撃退できただけで十分だった。

 

 インパルスを、ゆっくりと地上に下ろしながら、アリスはそこにある施設に目をやる。

 

 とにかく、ラキヤともう一度会って話がしたい。そうすれば、何もかもがハッキリすると思った。

 

 だが、会って、どうする?

 

 ラキヤが事の真相を否定すれば良し。

 

 だが、肯定した時は、どうする?

 

 その答えを、アリスはまだ見出すことができなかった。

 

 

 

 

 

PHASE-24「淀んだ水のように」      終わり

 


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