とりあえずどうぞ
オーディンが復活してから3日がたった。聖はユーリ達を狙われないようにしばらくアースラで匿ってもらうように頼み、一人地球に帰っていた。
足りない……。
力が、魔力が、技能もマホウも
聖は家の中で一人、頭の中で何度もオーディンとの戦闘をシミュレーションしていた。
あいつは何人ものマホウツカイを葬り去り、膨大な魔力を持っている。その中で磨き上げた
あいつに攻撃を当てるには攻撃を仕掛ける瞬間、無限の空間という防御を無くすその瞬間を狙うしかない。
これらを使い、距離を詰めて雷速装填で
しかし、雷速装填といっても魔術のチャージには1秒もかかってしまう。その瞬間に再び距離を戻されてはおしまいだ。そもそも、奴は一度これを受けている。キセキに対しては警戒してくるだろうし真っ先に壊そうとするだろう。
「やっぱマホウによる一撃の方が効果的かな。あいつは僕のマホウの能力は知らない。僕のマホウなら距離も関係なく当てることができるが、
どうすればいい。オーディンを倒すには……。ユーリに頼むか?無限の魔力を使い、無限の空間が維持できなくなるまで撃ってもらい、その間に僕が魔術を練り上げて渾身の神話魔術を……。
でも、ようやく助かることができたあの子まで巻き込むわけにはいかないよな。はぁ、僕のマホウがもっと強ければ良かったのにな」
そう言い聖は目をつむり自身のマホウの能力を思い出す。
世界樹の槍(グングニ-ル)
伝承の「決して的を射損なうことなく、敵を貫いた後は自動的に持ち主の手もとに戻る」の通りの能力を持ち、槍を放てばあらゆる概念に関係なく、『貫く』という事実が成立する。
「概念に関係なく『貫く』という事実が成立する。だけどその概念に応じて使用魔力も膨大に―」
そこで、ふと違和感を覚えた。
なんで使用魔力が膨大になるんだ?
銀河すら壊す神話魔術を貫き、無限の距離を無効化し、オーディンを射抜くためには膨大な魔術を練り上げる必要があると思っていた。
槍を放てばあらゆる概念に関係なく、『貫く』という事実が成立する。
そのように自身のマホウの能力を記憶している。
「概念を破壊するには相応の魔力が必要と思い込んでいた?マホウの能力を完全に理解していなかったのか?いや、そうしないと扱えないものだと決めつけていたのか?」
マホウというのはその宿主の心象を具現化した力だ。ならば、
「自身が限界だと思い込んでは能力を十分に扱うことができない。まさか、このマホウにはまだ、先があるのか?」
その瞬間、周囲の景色が変わった。
何もない広い空間。空にはいくつもの星々が輝き、宇宙の中心に放り出されたような感覚になる。
「もう、魔力が回復したのか」
「時は満ちた。最後の儀式を始めようか、聖」
数多の戦場を生き抜いた二人の召喚せし者が相対し、
「「―魔術兵装―ッ!!」」
最終戦争が始まる。
「はあぁぁッ!!」
聖は魔術を練り上げ。神経、筋肉、思考と全身を強化する。
出し惜しみをしていたらコイツには勝てない。最初から全力でぶつかるまで。
「ふっ。流石だな。良い魔力だ」
「―
聖は魔力を世界樹の槍に込め、瞬時に間合いを詰める。
その瞬間オーディンはその拳を引き攻撃に出ようとする。
「ッ!」
その瞬間、全本能が警告を鳴らした。
死の直感に襲われながらもその恐怖を抑え、前に出る。
「もっと、速くッ!」
オーディンが踏み込むと同時に
「―
それはオーディンが放ったただの右ストレート。
しかし、それだけで全てを吹き飛ばした。聖は一瞬にしてその魔力の奔流に呑み込まれて消滅した。
「むっ」
オーディンが振り向くと同時に蹴りを放ち、後ろからの攻撃を受け流した。
「なるほど。どうりで手ごたえがないと感じたが幻影だったか。だが、気配の消し方がまだまだだ!」
オーディンは一瞬で聖に近ずき、鋭い突きを放つ。
聖は咄嗟に槍で防いだが、吹き飛ばされる。そして、
「―
再び、神話魔術を放つ。
「ぐああぁぁっ!」
そして、
「なるほど。自身の存在を固定。いや、上書きしているのか。それが貴様の能力か」
「はぁ、はぁっ」
「だが、あらゆるものを超越する力を生み出す『
『
「私はルールを創ることができる。これで貴様はこれ以上の上書きはできまい」
「ちっ!さっきの攻防で能力を把握し瞬時に対策してきたか。予想してあらかじめ上書きしておいたがこうも簡単に気づかれるとはな」
「私は貴様と似た能力を持った召喚せし者を倒したことがある。ゆえに貴様の能力も予想がついたわけだ。この世界では私の許可なしに貴様の歴史を上書きすることは許さん」
聖があらかじめ自身に「攻撃を受けなかった」という事象を上書きしたが、この三日間で上書きできた回数は5回。残り4回死を回避できるがそれまでに終わらせなければならない。
「それでも、諦める理由にはならない!最後の一瞬まで足掻いて見せる!勝負はこれからだ、オーディンッ!」
「来い、私と同じ主神の槍を持つ者よ。その力、見せてみよ!」
「いわれっ、なくても!」
聖は
しかし、距離が無限ではなくなるであろう攻撃を放つ瞬間を狙おうにもオーディンの繰り出す途切れることのない死の旋風の前では全く近づけない。
わずか十数秒の攻防で次々と上書きが破壊されていく。
「なら、コイツで!」
聖は右手首に着けていた腕輪に魔力を流した。するとそこに埋め込まれていた三つの宝石が砕け散り、宝石に込めた魔力がマホウに流れていく。
騎士のデバイス、カードリッジシステムを応用し作り上げた道具だ。
宝石の魔力と自身の魔力を合わせ、膨大な魔術を練り上げマホウに込める。
「ほう」
聖に魔力で周囲の空間が揺れる。この世界を創る全ての概念を壊さんとするほどの魔術にオーディンは少し驚いたような表情をして右手を引き、構える。
「それが貴様のグングニルか。いいだろう。どちらのグングニルが上か試すのも一考だ」
「余裕ぶってるんじゃねぇ!これが俺の、全力全開ッ!」
「―|全てを射抜く概念殺しの主神の一撃《オーバーロード・ランツェグングニール》―ッ!!!」
「―
凄まじい爆発と共に
手ごたえはあった。全魔力を集中させた聖の神話魔術の前ではすべてが無力。確実に敵を射抜く、はずだった。
「ッ嘘、だろ……。攻撃は直撃し、マホウを貫いたはずだ!どうして生きている!?」
「確かに貴様の神話魔術は私のマホウを破壊した。普通のマホウツカイならあれを受けて生きていられるものはいないだろう」
『
「天地創造の槍が創りだす最後の理。それは永遠だ。これにより我が肉体とマホウは不滅。たとえマホウが破壊されても瞬時に再生する」
「なん、だと?」
オーディンが創造できる理があと一つあることは予想していた。しかし、それが永遠ということに絶望する聖。
魔力がもう残っていない聖に勝ち目はない。
たとえ残っていても永遠を殺す力などない。完全に詰みだ。
「終わりだ、聖。安らかに眠れ」
オーディンが魔術を練り上げる中、聖はその場を一歩も動かずに呆然としている。
(ここまでか。悪い、みんな。倒せなかったよ)
「―
深紅の魔力が放たれ聖が呑み込まれようとした瞬間、
「聖は、やらせません!!」
現れたのは深紅の翼をもつ無限を冠する召喚せし者。Unbreakable Dark ユーリ・エーベルヴァイン。
片翼を巨腕に変化させそこに膨大な魔術を込め、オーディンの天地創造の神槍にぶつける。
「―
ユーリは膨大な魔力を極限まで練り上げた一撃が天地創造の神槍とぶつかり凄まじい衝撃を生む。
「ッああああああぁぁぁ!!」
ユーリは
オーディンは思わぬ乱入者と自身の神話魔術が相殺されたことに驚いた。
「貴様は……。あの時のマホウツカイか!?なぜこの世界に!まさかあの異世界の者たちの仕業か!?」
「なんで、ユーリがここに……」
周囲にまき散らされた
「聖、貴方は私を救ってくれました。自身のマホウから目を背け破壊することしかできなかった私を止めて私をあの苦しみから救い出してくれました」
「今度は私が聖を助けます。私はもうこの力から逃げない!マホウを破壊のためではなく、誰かを救うために!これが私の答えです!!」
ユーリは自分の能力が破壊するだけのものではないと証明するようにその言霊を唱える。
「高次領域展開―魔術兵装ッ!!!」
言霊と共にその能力を開放する。
さぁ、次話も頑張るぞい!