僕たちはアースラに戻り、先の攻撃と今後の方針について話し合った。
先の攻撃を解析すると、管理局に登録されていたデータとさっきの攻撃の魔力波動が一致した者がいた。プレシア・テスタロッサという魔導師だそうだ。
クロノさんとエイミィさんの説明によると、元は次元航行エネルギーの開発を専門とした魔導師だったが、実験や素材の違法性が指摘されるなか、個人で研究開発していた次元航行エネルギー駆動炉『ヒュードラ』の実験が行われ、中規模時限震を起こした咎で地方に送られた。実験に違法性はなかったことを主張したが、地方に送られた数年後行方不明になっていたらしい。
「普段なら、あの次元跳躍魔法から割り出すことはできたんだが、アースラのシステムもやられていたんだ」
「だから捉えられなかった、ということですか。その次元跳躍魔法っていうのは?」
「次元の壁を越え、相手を狙撃する魔法、とでも言おうか……。膨大な魔力を消費する魔法なので誰でも使えるわけではないが」
「次元跳躍、か。 それで艦長さん。 これからどう動きます?」
「ジュエルシードを餌に彼女を誘い出します」
「それが最善ですかね」
ジュエルシード全て封印され、回収されている。フェイトがジュエルシードを手に入れるなら、誰かから奪わなければならない。僕は艦長さんの意見に質問を返した。
「彼女に1対1の勝負を挑み勝者がジュエルシードを総取りする、という感じですか?」
「そうです。負けても彼女の転移先を辿ればいいし、こちらが勝てばプレシアから横槍が入るはずです。その時、逆探知をして居場所を特定します」
「そうですね。それならやる価値はあると思います。」
クロノも賛成したところで、リンディさんが立ち上がる。
「プレシア女史もフェイトさんもあれだけの魔力を放出した直後ではそう動きは取れないでしょう。アースラのシールド強化もあります。なのはさん、聖君。貴方達は一休みしておいたほうがいいでしょう」
艦長さんの言葉により僕たちは次の作戦まで地球で待機になった。
日常に戻り次の日、なのはが教えてくれたがアルフ、フェイトの使い魔ががアリサに飼われていたらしい。正直どうでもいいよ。
アルフは、フェイトに虐待を加えているプレシアに戦いを挑んで返り討ちにあって逃げ出したと言うのだ。フェイトのほうはプレシアが笑えるようにとジュエルシードを集める、という願いをかなえる為、戦っていたという事らしい。なんでこんなもの集めるのかな。プレシアは。
そして作戦当日。
被害が出ないようにと海で行う事になった決戦。なのはとフェイトを戦わせると決まってから、管理局の人達もなのはを鍛えてくれたし、かなりいい勝負が出来るだろう。
ジュエルシードの反応でこっちの位置を教えていると、フェイトが姿を現した。ちなみにアルフとユーノが二人掛かりで結界を張っている。
なのははレイジングハートを構え、フェイトもバルディッシュを構える。
「フェイトちゃん、私は賭けるの。ジュエルシードだけじゃない。私が手にした魔法の力、ジュエルシードやフェイトちゃんと戦った経験、困った時支えて励ましてくれた皆。その全部を出して全力でぶつかっていく。私が私である全てを懸けてフェイトちゃんと戦う。だから始めよう、最初で最後の本気の勝負!!」
苛烈な空中戦を広げるなのはとフェイトを僕たちはアースラからみていた。
「凄いな、なのはは。 もうあそこまで戦えるようになったのか。」
「あぁ。 凄まじい才能だ。 まだ魔法に触れて日が浅いというのに」
二人の戦いを見てなのはの成長に驚いていると、隣のクロノも彼女の才能に驚いているそうだ。両者ともに互角の攻防を繰り広げていたが、フェイトがなのはにバインドを仕掛けて距離をとった。
『アルカス・クルタス・エイギアス!疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ!バルエル・ザルエル・ブラウゼル!』
なのはから距離を取りったフェイトは詠唱を行い、30発以上のフォトンスフィアを浮かべている。
『フォトンランサー・ファランクスシフト!!撃ち砕け、ファイア!!』
《Photon Lancer Phalanx Shift》
フォトンスフィアより繰り出される、フォトンランサーの一点集中高速連射。なのははバインドで動けずに、それを受けて爆煙に呑まれる。フェイトはかなりの魔力を消費したのか、肩で息をしながら爆煙を見据える。煙幕が晴れるとバリアジャケットを少し破いたなのはが現れた。
『今度はこっちの番だよ!!』
《ディバインバスター》
猛攻を耐え抜いたなのはは反撃の狼煙を上げる。フェイトはディバインバスターを防御魔法で防ぐがそれは次の一手への布石。
『受けてみて、ディバインバスターのバリエーション。』
なのはの展開した巨大な魔法陣に周囲の魔力が集っていき大きくなる魔力球にフェイトは脅威を感じて動こうとするが、今度はなのはがバインドをフェイトに掛けていた。
「ねぇクロノさん。 あれ、なに?」
「収束魔法だ。 空気中の魔力を集めて大きな一撃を放つ高難易度の魔法だ」
「あの攻撃を身動き取れないようにしなくても躱せそうにないだろ。それなのにバインドで動けなくするって……。 」
なのはの魔王のような戦略に恐怖を感じるがこれで終わったな。
『これが私の全力全開!! スターライトブレイカー!!!』
-ドゴオオォォォォォンンン!!!!-
なのはから放たれた桜色の魔力の激流は、バインドで身動きの取れないフェイトを一瞬で飲み込んだ。魔力の激流が収まるとフェイトは浮かんでいたが、気を失って海に落ちていった。
「星砕く桜光の魔砲といった感じかな。これでなのはの戦略破壊勝利、だね」
なのはとフェイトの決闘は終わった。そして予想通り再びプレシアからの次元跳躍魔法。海に落ちたフェイトをなのはが救い上げた所に、紫電が降り注ぎ、バルディッシュを破壊し、入っていたジュエルシードは虚空へと消えた。
「エイミィさん! 座標の特定は!!」
「大成功! 逆探知に成功したよ!」
なのはたちが戻ってきたころにはアースラのブリッジでは慌ただしく人が動いていて、正面のモニターには時の庭園を進む複数の魔導師の姿が映されている。
「お帰りなさい、それで、貴女がフェイトさんかしら?(なのはさんは、母親が逮捕されるシーンを見せるのはしのびないから、彼女をどこか別の部屋に)」
なのはとフェイトはブリッチから出ていこうとした時。
『プレシア・テスタロッサ! 時空管理法違反および管理局艦船への攻撃容疑で貴方を逮捕します! 武装を解除してこちらへ!』
『……』
武装局員が、プレシアに降伏を迫っていた。プレシアは玉座に座るのみ。武装局員達はプレシアの監視に数名残し、不審な部屋がないかあたりを調べていく。そして、玉座の後ろから延びる通路を発見したとき、プレシアの表情が変わった。それに気がつかず武装局員は、通路の先を検めていき、
『これは!?』
「……え?」
液体で満たされた装置に浮かぶ、フェイトによく似た少女を発見した。モニター越しにそれを見たフェイトが息を呑む。
『私のアリシアに近寄らないで!!』
『がぁああ!!』
プレシアがポッドと局員の間に現れ、局員をなぎ払った。控えていた局員がデバイスの穂先をプレシアに向け、
『撃てぇ!!』
複数の閃光がプレシアに放たれたが、プレシアが張った障壁によって届かない。
『煩いわ……』
プレシアが集めた魔力により放たれた雷が武装局員を貫いた。
「いけない! 局員達の回収急いで!!」
「りょ、了解です!」
艦長さんの指示にエイミィさんがすぐに回収を行い局員達をアースラに収容した。プレシアはポッドに歩み寄り、そのガラスに両手で触れ慈しむように撫でた。
『もう……時間がないわ。たった4個のジュエルシードの魔力で至れると思えないけど。私の全魔力を注げば……』
プレシアがなにか呟いているがジュエルシードの魔力が目的なのか? それに何に至るというのだろうか…。
『アリシアを亡くしてからの身代わりの人形に記憶を与えて娘扱いをするのも……。貴女の事よフェイト。貴女はやっぱりアリシアの偽物よ、折角アリシアの記憶もダメだった』
「ど、どういう事なの!?」
なのはが驚きの声を上げる。
「プレシア・テスタロッサはとある事故で実の娘のアリシア・テスタロッサを亡くしている。そしてそいつが最後に研究していたのが。対象の遺伝子をクローニングして対象を複製する、つまり死者蘇生の秘術。その時の開発コードがプロジェクトF.A.T.Eだろ?」
『えぇ、そして私の目的はアリシアの蘇生……それだけよ。だけどダメね……ちっとも上手くいかなかった。所詮作り物は作り物。アリシアの代わりにはならない。ただの偽物、贋作でしかないわ』
『私はアリシアを蘇生させる方法を探し続けたわ。 そして地球で見つけたのよ! その可能性を、人智を超える力を!!』
そういいプレシアが右手をこちら側に見せた。右手にはグローブがはめられていてその中心部分には宝石のようなものがついている。
(あの形状……宝石? 地球で見つけたってまさか!?)
『これと膨大な魔力の塊であるジュエルシードがあれば至ることができるかもしれない!! 究極魔法に!!!』
「究極…魔法?」
そうか。あいつはやはり……。
「プレシア・テスタロッサ……。 貴様は
プレシアを魔法使いにしてみた