ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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ペ●ソナ作戦壊滅編





phase48 おいでよ、女神の森④

「うぉおおおおら死んどけアラガミ共ぉおおおおおおおおお!!」

 

 無敵のシスコンと化したお兄様、又の名を神威ヒロキの操る神機兵からはバカスカとオラクル弾が発射される。

 ついでに地面方向へと射出された機体は脚で小型種を轢き潰し。

 バキバキと外骨格の砕ける音と肉が挽かれていく水音を垂らしながらも、

 無事着地。

 

 

 ……出来る訳もなく。

 

 

 着地と同時に片足を大破した。

 

 バッキリと根元から折れた足が僅か遠くに離れた中型アラガミ(具体的にはコンゴウ)を頭部から串刺しにする。

 だが、コアまでは届かなかったのか死亡までには到らなかった。

 

 

 

「シスコンからHへ!! 右脚損傷! けどまだ大丈夫だイケル!!」

 

  

 何が大丈夫なのかよくわからないが、この程度でくたばるクソ兄貴ではない。

 初めから脚部損傷は計算の内である。

 すぐさま上空から予備パーツが投下。

 接合面はオラクル細胞性になっている為、適合すれば神機と神機使い同様、それっぽい触手めいたもので接合する形になっていた。

 

 

 クソ兄貴が無様にも片足で必死こいて神機兵脚部を接着している間。

 

 先ほどコンゴウを貫いてぶっ飛んだ方のパーツに変化が見られる。

 そう、溶けたのだ。

 

 それどころか刺し貫いたコンゴウを内側から捕食し、その場から溶けていく。

 やがてコアまで浸食が達し――コンゴウが居た場所には何も残らずただオラクルの残骸だけが残った。

 やがてそれらも塵へと返るだろう。

 

「よっしゃ討伐1-!」

 

 正確には着地の時点で十数体キル。

 だが神機兵に搭載していた『アラガミコアカウンター』が数字を表示する。

 律儀に計測していた。

 

 

(そうだ……コレでいい……! この情報は本部に転送される……)

 

 神威ヒロキは考えていた。

 

 『前』は失敗した。あの計測結果では神機兵の有用性を示すことはできなかった。

 だが、今は違う。

 今度こそは、パイロット付きの有人神機兵。

 そして反対側には同じ数のアラガミを相手にしているであろう神機使いがいる。

 

(それにあの隊長さんに負けたくはないし……!!)

 

 そう、ただの――負けず嫌いであった。

 

 神機使いと有人神機兵の比較対象。

 同じ環境下で、世界レベルで見ても上級クラスの神機使いと比べて遜色ない結果を出せれば。

 いや、

 

 それを上回ることができたのならば。

 

 

 本部はすぐに神機兵の方へと動くだろう。

 そうなればこれより後、神機に『適性在り』と判断されたものは、神機使いではなく――神機兵パイロットとして育成され、戦場に投入されるだろう。

 もしくは、無人型神機兵が大量生産され、いずれは戦場を支配するようになる。

 

 

 ――それが、妹を救う為に自分にできる唯一のやり方だった。

 

 

 

 

 不器用にしか戦えなかった。

 

 

 

 

 

 

 だが、今回の作戦無かったことになってるのにどうやって本部にこの情報転送しているのか言及されたら一発でアウトということを本部から来た協力者(?)であるイゴー●に一任と言う名の丸投げをしている辺り詰めは甘かった。

 

 

「オラクル充填完了。喰らえ化け物共ぉおおおおお!!」

 

 銃口から出るのは――見紛うことなき『アラガミバレット』だった。

 ただしその形状は神機のそれとは違う。

 

 神機のアラガミバレットは、捕食したものを射出する――に対し。

 このアラガミバレットは、いわば『神機兵の体細胞』を撃ち出しているということになる。

 

 文字通り『肉を削って骨を断つ』戦い方――それがパーツさえそろえば補える神機兵の闘い方だった。

 

 撃ち出したオラクル細胞群が一方向に向かいアラガミを食い破っていく。

 

 カウンターの数字が一気に跳ね上がったのを見て、神威ヒロキは満足そうに小さく笑った。

 

(一撃でこれなら……ブラッドアーツをも上回る……!)

 

 もっと射撃精度を上げ、アラガミを密集形態に持ってきてコレで一気に殲滅する。

 そうすれば一度に20……いや、30体の小型種を消し炭にすることさえ不可能じゃない。

 

 彼にしては珍しいほど、高揚感で溢れかえりそうになっていた。

 もう一撃を放つために、と体勢を立て直そうとしたその時だった。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 神機兵の肝――事も有ろうに神機パーツ。

 兵装開発をつかさどる自分の専門分野がバッキリと二つに折れていた。

 

(……ヤベ……)

 

 

 

 

『し、シスコンさんどうしました!?』

「……こちらシスコン。『鉄屑ゴリラ』のイチモツが折れた……」

『……え?』(い、イチモツ?)

「根元から……バッキリいった……!」

『い、痛そー……』

「手が離れない……強く……握り過ぎた……!」

『…………』(え?え? 変態カミングアウト?)

「つい……テンション上がって……出し過ぎたんだっ!!」

『……』(野外……)

 

 

 

 

「O細胞の負荷に内部機関が耐えきれなかった畜生オレの設計ミスだよそうだよ! 吹かしすぎました誠にスミマセンしかも腕のホネ反対側から出てるしーあーもーー帰ったらまた図面ひーーかーーなーーきゃーーー!!」

 

『あ、あああああ! そ、そうゆうコトだったんですか!! び、びっくりしたぁ……』

 

 

「は? 何言ってんだか意味わかんない」

『お、お気になさらずっ///!! ちょ、ちょっと勘違いを……も、もう……!』 

「分かってる……竿の代わりは持ってきてない。というか存在しない……。だが、ここのアラガミ全部殺らないと帰れない……しょうがない、か……。

 

 

 今から景気よくぶっ飛ばす!! ちょっと離れて、終わったら拾ってくれ!!」

 

 

 

 

『は、はいぃいいいいい!?』

 

 

 ヘリのパイロットは我が耳を疑った。

 

『い、いやちょっと待って……? え……? どうしよう……? 私そんなの聞いてない……』

「シャラップ! 良いかよく聞け!! ここのアラガミを殲滅しねーと後々面倒なんだよ主に脱出経路確保とかそっち系な話が! つまり!! オレの天使が!! 危ない!!」

『て、天使……』

「そうだ天使! オレの命! 我が家の家宝!!

 だけどもうコイツは使い物にならない、だけどここで放置するとネモス・ディアナの奴らが勝手に持ってったり、極東支部にかすめ取られたり、もしくはアラガミ様達が勝手に食って進化したりしたらヤベェだろ。冗談じゃないよな。

 

 

 

 だから吹っ飛ばすんだわ」

 

『え……え……?』

 

「グダグダ言っている時間はない! というかもう装甲齧られてるからこれしかなーーーいっ!

 大丈夫! 死ぬほど痛いぞ! だが!! 幸運の女神は! オレの!! 味方だぁあああああああああああ!!」

 

『うわちょ怖』

 

 

「妹愛してるぅううううううううううう!!」

 

 

 

 

 こうして、本日二度目の……爆炎が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――と、いう光景を見ていたネモス・ディアナの人民達は感動すら覚えていた。

 

 自分たちを守るために……一命を賭して戦った戦士が、あそこにいた。

 そして、今、自分たちを守るために、その命を散らせてまで……アラガミを防ぐ壁となってくれた。

 

 ……と、見事なまでに勘違いした人民の皆さんは目にうっすらと涙まで浮かべていた。

 

 

 だから、今度は自分たちがやろう。

 

 戦い方は見ていた。

 

 そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発させればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さっきの謎マスクによって闘争心に目覚めてしまったネモス・ディアナ人民たちはプロの人民と化す。

 

 かくして、ネモス・ディアナ史上最大にして最悪、空前絶後の汚ねぇ屋内花火大会が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   □■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何が……! な、何が起こっているというのだ……!? な、なぜこんなことがっ……!?」

 

 葦原那智は困惑していた。

 

 自らが長年にわたり打ち立ててきた、自らの力と意志の象徴――『女神の森』と呼んだ街。

 

 

 それが、目の前でバンバン炎を上げている。

 

 

「…………ま、街が……! わ、私のネモス・ディアナが……!?」

 

 

 また一つ建物が吹き飛んだ。

 嗚呼、確かアレは設計に苦心したんだよな……。確か壁には特殊素材を使うんですよ!と今は亡き部下が張り切っていた。

 そのためにわざわざエイジス島まで物資を取りに行って――戻ってこなかった。

 エイジス建設時代からの付き合いで、離反する時も文句のひとつも言わずに黙ってついてきた――自分には過ぎた部下だった。

 きっと、あのまま行けば那智より優れた技術者として大成していたかもしれない男だった。

 

 

 その部下――スザキの笑顔が大空に広がり……爆音と共に消し飛んだ。

 

 

「や、やめろ……! ……やめてくれっ……!」

 

 那智は両手で顔を覆う。

 今、自分の半生を賭してきたものが――――ガラガラ、ではなく派手な起爆音と共に、崩れ去っていく。

 唯一の救いは、もう一つの半生をかけた宝が、今この場に居ないということだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あっれー? どぉーしたんですかぁ~? 那智おじさーん?』

 

 

「……!?」

 

 

『あらあらあらー……酷い惨状。これはこれは……ご愁傷様です』

 

 

「さ……サツキ……君か……!?」

 

 

 画像の荒い通信用モニターに妙齢の女性の姿が映し出される。

 メガネをかけた知的な美女。

 『女神の森』出身のフリージャーナリスト高峰サツキだった。

 

 

『あららー? コレ何ですー? 中央回線完全に取られちゃってますねー。これプログラム組んだの誰ですかねー本当情けないったらありゃしない』

 

 

 相変わらず毒舌は冴えている。

 

 

 

『さぁーてと、いつまでそんな所でへこたれている心算なんですかおじさん。

 さっさと立ち上がっちゃって下さいよ』

 

「……すまない……私が……! 全て……私の責任だっ……!!」

 

 うなだれる那智に、画面越しのサツキはにっこりと微笑みかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うるさいってんですよ黙ってくれません?』

 

「」

 

 

 

 

 

 

 

 ネモス・ディアナ総統は思わず白目。

 

 

 

 

 

 

 

『今ねぇ……謝罪も責任言及も必要ないでしょ、理解してくれてますかね? 分からない訳ないと思うんですけどねー昔フェンリルのお偉い技術者さんだったおじさんには』

 

「あ、あぁ……」

 

『謝っている暇あったら立ち上がったらどうです?

 へこんでる暇あったら前を向いたらどうですかねー?

 私、おじさんのグズグズした泣き言聞きたい訳じゃないんですよ。そんなもん拾っても三面どころか、四面、五面記事のスクープにもなりゃしないんだから。

 そうゆう訳です。一文の特にもならない、めそめそするのはもう終わり。あの子だっていつも歌ってるじゃないの』

 

「……」

 

 

 

『明日を照らすのは――勝手に昇ったり沈んだりする、『太陽』なんかじゃない。

 自分か、或は誰か――人の手で作り出される『希望』なんだって…………そうでしょう?』

 

 

「……サツキ君……」

 

 

 

 そして、那智は立ち上がる。

 

 

「ああ、そうだ……その通りだな……フッ……情けない所を見せてしまったな」

 

 

『分かればいいんですよ。

 それじゃあ、まずは皆を正気に戻しましょう。まずは回線を取り戻す、そして上げるんです。

 

 

 ……ド派手な、反撃の狼煙ってヤツをね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   □■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 反対側からでも見える程の黒煙を確認したジュリウスは、何かとんでもないことが反対側で起こったということは薄らと理解しつつも実際は何が起きているのか全く把握できていなかった。

 

 

 

「オぺレーター、状況は!?」

 

『こちらオペレーターからピクニック会長へ、シスコンが爆発しました』

 

「……そうか、分かった」

 

『ɤならご心配なく、今炭になったのはクローンです。オリジナルはまだ残っております』

 

「だろうな」

 

 

 ジュリウスは今のセリフから内容を推理する。

 

 シスコンが爆発――つまり、神威ヒロキ技官が何故か技官なのに神機兵パイロット(恐らくはɤのクローンコピー)で出撃し、かなりの数のアラガミを掃討したということ。

 

 つまり――神威ヒロキが出撃せざるを得ない状況が発生したということだ。多分内部で。

 内部で何かを起こせるのはシエル、ナナ、ロミオの潜入3名とCPのギル。

 通信がハチャメチャコードネームになっているということは今通信回線はスパイにも傍受できるようなオープンチャンネルであるはず。

 

 ならシエルは通信回線の乗っ取りに成功した――ということだろう。

 

 そしてその状況下で、人民が大人しくしていない状況を発生させること――一番効果的なのは人が集まっている場所で何かを不特定多数に対し伝達すること。

 

 

 ジュリウスの脳内で結論が出る。

 

 

 

 多分、ギルが、何か、やらかした。

 

 

 ……が、恐らくは心配ないだろう。

 作戦は上手く進んでいる。恐らくはナナかロミオのどちらかが、副隊長を奪取することに成功している。

 でなければ神威ヒロキが素直に自爆などするはずがない――。

 

 

 

 

 

『ピクニック会長。外部から『方舟』に緊急通信がはいりました。恐らくは救援要請の様です。如何致しますか?』

「無視しろ」

『……え?』

「混線によるジャミングで聞こえなかったことにしておこう。心配ない……救援要請、ということは今同じ戦域に居る、ということになる。ふっ……相手は恐らく極東支部の神機使いだろう。奴らの居場所が特定できたぞ」

『……』

「あとはバレなければ問題ない。……引き続き頼む、通信終了」

『……了解しました、ご武運を』

 

 

(わざわざフライアに救援を求めてきたという所が引っかかるが……。

 ……イザとなれば再出撃という手もある……)

 

 ジュリウスは、神機兵ヘルメットの下でロクでもない思考を巡らせながら、黒煙の昇りたつ空を見上げた。

 それは反対方向に居る自分にさえ、目視できるほど濃い煙。

 

 ジュリウスは思案する。

 

 

 

(……さっきの爆炎……見えたのが俺だけならば良いのだが…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 

「どうしようロミオ先輩!!」

「オレ……大きくなったら……指導者マクレインの為に命を捧げるんだ……」

「現実逃避してる場合ですか!! しっかりしてくださいーー!」

「いいじゃんちょっと位……。アイツ才能の使い方間違えてるよ……大した奴だよウチのマスコットは」

「……緑色なブドウ」

「それはマスカット」

「球技とかで味方に出したパスを奪うアレ」

「それはパスカット」

 

 漫才でもやらないとやってらんない。

 

 私たちは合流地点から一歩も動いていないのだ。

 

 長々と何やってたんだと言われるかもしれないがしょうがないでしょう……。ここでロミオ先輩とアーデモナイコーデモナイとやっている間に……何か地上はややこしい事態に陥り、ギルさんの共●主義的政治宣伝演説のせいで皆に思想が芽生え、更にはどこもかしこも爆音だらけだ。

 …………怖くて動けない。

 

 

「んー……多分、そろそろこの混乱に乗じてここに潜入してる工作員……平たく言うとスパイが救援に来る……かも……しんない。だ、だからさ! もう少し待とうよ!

 大体逃げるにしても神機取られちゃってんだろ? 神機は何としても回収しなきゃヤバいって」

 

 ロミオ先輩のおっしゃる通りだ。

 

 私の神機は『第三世代機』。『女神の森』は極東と繋がっている。

 多分もうここが襲撃を受けたという事実は極東支部へと伝わっているだろう。

 という事は、極東支部直属の防衛部隊か討伐部隊が派遣されてきている可能性が高い――というか絶対出動してきている。

 

 万が一にも極東支部に『フライアの機密事項』をかすめ取られるわけにはいかないのだ。

 

 そんなヘマやらかしたら……口封じとか何かそれっぽい理由で今度こそグレム局長から偏食因子停止処分のお知らせが来るコト確定だ。

 そう、ゴッドイーターに於いては……上官とは即ち死刑執行人と同義である。

 

 

 ……と、すれば……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いや、打って出ましょうロミオ先輩」

「え?」

 

 ロミオ先輩が何言ってんだコイツ……という目で私を見る。

 ……いや、ヘルメットしか見えないから分かんないんだけどね(憶測)。

 

 

 

 

「私……薄ら聞いたんです。あの暗黒労働の最中に……。

 ここネモス・ディアナには……『薬をドカ食いする奴が塔のてっぺんに居る』んだって……」

「……あー……うん。……多分極東なら50パーセントの確立で……黒蛛病だよな……」

 

 そう、聞いたのだ。

 工員の皆さんがたまーに漏らす会話や独り言。大抵はご近所の噂話だったり、仕事や上官、家族の愚痴だったりなのだが、その中にひとつ怪しげなものがあった。

 塔のてっぺんには、薬をドカ食いする奴が居る――らしい。

 

 グリム童話のお姫様か、と思ったけど。幾らなんでも童話のお姫様は薬漬けにはされてはいないだろう。

 多分、私がお薬廃人にされなかったのも……間接的には、その子のお蔭かもしれない(限りある資源的な意味で)

 だったら……。

 

 

「そんな薬中を後生大事に抱えていること……コレって不自然じゃありませんか?」

「いや……そんな変なことでもないと思うけど」

「……私もそう思いましたけど、ソレはフライアとか余裕のある『支部』内部の話だと思うんですよ。

 多分フライアでブラッドの誰かが黒蛛病やったら山ほど薬や治療技術を投与してくれると思います」

 

 当然『被験者』としての意味も含めてだろうけど、という語句は飲み込んでおく。

 

「自慢じゃないけど……私が元住んでた居住区にもかなり大きな病院がありましたし……そこではフェンリルの、特に技術関係者やその身内に対しては手厚いケアが施されるんです……」

「……? 唯?」

「……治る見込みのまるでない、そんな病気に対しても……です。

 

 

 

 

 

 …………よく知ってます」

「……」

「でも、サテライト拠点や余裕のない支部はそんなもん匿ってる場合じゃありませんよね?」

「…………」

「それでも貴重な薬剤まで投与してソイツを囲っている……と、いうことは」

「おい」

「可能性のひとつとしては、その人が重要人物であるということ。何らか特殊技能持ちかもしくはその近親者。いわば人質として『枷』にさせられているのかそんな感じで。

 もう一つの可能性は……」

「……唯……」

 

 そう。コレはずっと思ってたことだ。

 若いから? 未来がある子供もしくは若者だから生かしておいてやろう? そんな慈悲がある訳がない。

 ましてや黒蛛病。触っただけで不特定多数の人間を罹患させる致死率100パーセントの病。

 ……どう考えたって、安らかに火刑になって頂きたいものだ。私がネモス・ディアナの一般市民だったらそうする。失礼だが、生きるってだけでデメリットしか存在しない。

 

 じゃあなんでそんな危険性まで背負いこんでいるのか。

 

 考えられるのは。

 

 

 

 

「その薬中が、『極東支部』と『女神の森』の同盟に対し何か握っている――という可能性です」

 

 

「……」

 

 

 おかしいとは思っていた。

 ネモス・ディアナは確かに――自力で装甲壁を組み上げた凄い難民キャンプだ。

 だけど、あくまでも難民の群れ。

 しかも――多分だけど――私も人の事を言えた立場じゃないが、ネモス・ディアナに住む人の大半は恐らく、偏食因子にすら適合しない。

 神機使いになる可能性もなく、かといって一部を除き特殊技能を生かせる訳でもない。冷静に考えれば『使えそう』な人間をピックアップして無理やり極東の装甲壁の中にブッ込む。

 ……これが一番手っ取り早く、安上がりなんじゃないかと私は思う。

 

 ……だが、実際極東支部が行っていたのはソレとは真反対の何かだった。

 ネモス・ディアナに神機使いを送り、オラクルリソース、物資、資源の提供を行い、その上で……フェンリルに組み込むようなことはせず自治権まで与えている。

 まるで私たちがロシア支部でやった様に――だ。

 

 

 どう考えたって何かある。

 

 

 現に私たちだって――あそこに自治権をもぎ取ったのは、『フェンリルに存在がバレたらヤバい』彼らの身柄を隠す為だ。

 その対価として『感応種』の討伐とオラクル資源の提供――あと偶然ロシア支部の戦力強化。

 だがそれが使えたのはあの支部がギリギリだったからだ。ロシア支部はとにかく何でもいいから人口が欲しい、資源が欲しいと喘いでいたからだ。そこにフライアは付け込んだと言っても過言じゃない。

 

 だけど極東は違う。そんな極東支部が『同じ条件』でサテライトを保護している……。

 

 

 

「何が出てくるかは分かりませんし、何者であるのかは興味ありませんけど……ソレは確実に、彼らの同盟にとって重要人物であるとは思うんです。だから……!」

 

「……流石のオレでもそろそろ言いたいことが分かってきたぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そいつを掻っ攫って行けば!! ネモス・ディアナと極東両方攻撃できる格好の材料になるじゃないですかぁああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

「ほらなやっぱロクなことじゃなかった!! やっぱロクなことじゃなかったぁあああ!!」

 

 

「行きましょう! 場所はふわふわしてますけど『塔』なんかそうそう残ってないハズです! ネモス・ディアナの住民ならそんな大事な大事なお方のご身体は爆破しようなんか考えないハズです!だから折れてない塔っぽい場所を探していけばーー!」

「やめろっつってんだろ!! そんな人を不幸にすることするんじゃねーよ!! だったら自分の脱出手段考えろ!」

「このピンチをチャンスに変えてみせるって思考回路ですよチクショーがー!」

「お前の場合チャンスをピンチにしてるんだよ馬鹿ぁ! もう助かろうって考えて行動してねぇだろ!? 失敗したときに誰を一番攻撃できるのかっていう戦犯探しだろソレぇ!」

「だって……だってだってだってー! ブラッドの皆が助けに来てくれるなんて思わなくて……。ナナちゃん辺りなんかサパッと切り捨てそうじゃないですかぁ!! 隊長にだって迷惑かけまくってるからもう愛想つかされて諦められても何も言えない状況なんです私!

 だ、だから……もし誰も来てくれなかったらどうしよう、って一生懸命考えて……馬鹿なりに足りない頭を必死こいて使った結果なんですぅうう!」

「もう何も信じられなくなった結果なんだな……慣れないことするなよ……。皆お前のこと心配してたんだぞ……(それなりに)」

「え?」

「うんうん、ナナとかシエルとか心配してたぞー。あとジュリウスも。ヒロキさんは発狂してたぞー心配しすぎて発狂したぞー」

「……え? 隊長が……心配してくれてたんですかやったー!」

「…………だから取りあえずは、今は神機を取りに行くこと最優先な」

「……えー? 極東にパンチをかませる良い案だと思ったんだけどなー?」

「このクズが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! 生きてるな!? 神機使い……と、そっちは『本部』から来た奴か!?」

 

 

 

「ろ、ロミオ先輩コレは!」

「よっしいいぞ……何が良いって都合がいい! そうだー! オレは本部から来たんだー!」

 

 ロミオ先輩は喜々として肯定する。

 多分コレは……さっきから散々言っている……潜入工作員とやらだ!

 

 

 

 ……本当に居たんですねびっくりです。

 

 

「合流できたみたいだな良かった! 外は今かなりの混乱状態だ!」

「……あ、やっぱり」

「……だよな……」

「何でもシェルターでイキナリ演説が始まったかと思うと人民の殺る気スイッチに火がついてしまった。さらにはどっからか来た神機兵が自爆したせいで爆発すればいいんだと皆が考えてアラガミ爆破をしまくっている。 

 分かるな、外は危険だ!!」

「…………」

「…………」

 

 何が起こってるんだってばよ……?

 

「で、でも私たち神機を取りにいかないと……」

「そ、そうだよ」

「あぁ……保管庫だが、先ほど親方さんがトチ狂って自爆したようだ」

「は!?」

「終わったー」

「まさかこんなことになるなんて……」

「な、な、な……」

「アイツ……余計なことしやがって……」

「もう全部ギルさんのせいですぅうううう!」

「コレでお前も廃業かぁ……」

「ギル? 誰だソレは……アレも君たちの仲間なのか?」

「……不本意ですが」

「共に神機を並べてアラガミという共通の敵を倒しに行く、っていうのが仲間の定義なら外れているとも言えないこともないよ」

「…………そうか、アレもお前らの仕業か……」

 

 

 ん?  

 

 

 あれ……?

 

 

 

 

 そこで、コイツ見たコトあるなーと思い出した。

 

 そうだ。この人。

 

 

 ……私を連行しにきた3人の警備のうちの……一人。

 

 

 ……何かやたら殺意が高くて、隙をついて散々ぶっ殺そうとしてきた人じゃないですかやだー!

 

 

 

 

 

 

 

「動くな神機使い! この女の頭ふっ飛ばされたくなかったらな!!」

「うわぁあああああ!? 状況が覆ったーー!」

「やっべ油断した……」

「助けて先輩ーー!」

 

 ロミオ先輩の表情は見えない。

 あるのはただ、機械臭い神機兵のヘルメットだけだった。

 

 

 

「……おい、そこのアンタ。頭に拳銃突き付けてるとこ悪りぃが神機使いがそんな玩具の拳銃で殺せると思ってんのか?」

「(ハァ!? 何言ってるんですか先輩!? この至近弾なら流石に死にますよ!! オラクル細胞がそこまで万能なわけないでしょーがー!!)」

「(黙ってれば分からないし、ハッタリだから! でも信じるかもしれないから!)」

「……だろうな。テメェらは化けモンだからな……この位で死んでるとは思ってないさ」

 

 そこで何を思ったのか警備兵その3(暫定)は上着を脱いだ。

 そこには。

 

 

 

 

 細身でありながらも鍛え上げられた体躯を包む防刃服。

 ……に、巻きつけられた爆弾が。

 

 

 

 

「ええええええええええ!?」

「オウガテイル数体ならぶっ飛ばせる威力を持ってる高性能爆薬だ……これならアンタらだって吹っ飛ばせるだろ!?」

「せ、先輩コイツ……コイツ……!」

「お、おう……正真正銘の……」

「「爆弾魔だぁああああああああ!!」」

 

 

 

 自爆覚悟とは……恐れ入りました……(絶望)

 

 

 

「考え直せ! 何がお前をそうさせる!?」

「うるせぇオレは神機使いもフェンリルも大嫌いなんだよ!! こんなコトになるから来た時にぶっ殺せってオレが散々言ったのに全員悉く無視しやがって……なら自分でやるまで!! 誰も叶えてくれないなら自分自身の手で……切り拓くまでだって思ったんだよ!!」

「お願いしますせめて撃って下さい! 多分死ぬ! 即死できる!! 爆殺なんて汚い死に方はやだぁああああ!」

「勘違いすんなクソ女。今からアンタには古巣に戻ってもらうさ……ただちょっとこの重たい服を着てもらった状態でな!!」

 

 ……助けて、爆弾魔から自爆テロの強要されています。

 

「無理! 無理無理無理!!」

「うるせぇ……何なら死体を送り返そうか? そんなら駆け寄ってきた仲間も一緒にあの世行き」

「あ、それこそ無理だと思いますよ本当に。……そんな人望ないんで」

「……あー……そう」

 

 一瞬だけチラっと憐れまれた。

 ……自爆テロ示唆してきた爆弾魔に憐れまれる人生だった。

 

 

 その時、ロミオ先輩がこっちに向けて……スタングレネードを投げつけてくる。

 チカっという閃光。

 普段神機とリンクしてから使っていたせいか……うん。直視した目が非常に痛い。

 後ろの爆弾魔と一緒にのたうち回るハメになった。

 

 

「「目がっ、目がぁああああああ!!」」

 

 

 

「あ、ごめん」

 

 自分はヘルメットのせいで全然まぶしくないんだねロミオ先輩……。

 爆弾魔が落としたであろう拳銃を先輩の方に蹴る。掴むロミオ先輩。

 とかやっている間に爆弾魔がその真価を発揮すべく反対の方の手で握っているスイッチに指を掛けた。

 が……結局それは押せなかった。

 奴の指は吹き飛んでいた。

 ……え? 先輩そんなに射撃上手かったんですか……?

 

 そして羽交い絞めにされる爆弾魔。

 いつの間にか何かもう一人加わっている……。

 ……いつからそこに居たのか……あれこの人……?

 

 

「またしても警備兵……」

 

 暫定警備兵その2。

 彼は同僚を縛り上げていた。

 

 

 

「お、お前やはり裏切り者……」

「暴れんなよ……暴れんなよ……!」

「うわちょどこ触ってんだやめ」

「悔い改めて」

「ひっ……」

「ホラホラホラホラホラ~」

 

 

 

「……」

「これもうわかんねぇな」

 

 こっちの事情も考えてよ……。これじゃ台無しだぁ……。

 あぁ……もう……滅茶苦茶だよ……。

 

 

 

 

 

「えーっと……お助けスパイ(真)?」

「今度こそ信用していいのか……?」

「君たち! ここは任せ給え!! この爆弾魔は私が……性敗するッ!!」

 

 目の前に理解に苦しむ光景が展開されていることを半ば察しながらも今度こそスパイ(真)を信じようと思考停止して私は決めた。

 多分ロミオ先輩も決めた。

 先輩先輩連呼しすぎたのがいけなかったのかな……そうかな……。

 

「でも神機……」

「心配無用。神機ならこの先を北に向けて200メートル……そう、爆炎を上げているラボにあるハズだから見ればすぐに分かる!!」

「」

「」

 

 爆炎……。

 上げちゃってんじゃないですか……。

 

 

「神機大丈夫だよね……?」

「……運次第……じゃね……?」

「心配ないさ! 早く行けばまだ間に合う!! 後の事はこの私に任せてくれ!!」

 

 と、爆弾魔をガシガシと拘束しながら声を張り上げる警備兵その2。

 腕は関節をキメており、更には脚で爆弾魔の体を踏みつけている。

 結果腕には激痛、腹には鈍痛。

 

「わ、分かりました! じゃ、じゃあ後のコトはーー!」

「もうどうすればいいんだよ……とりあえず神機! 終わったら撤退! 後の事はコイツが多分何とかしてくれるハズ……! 頼みました!!」

 

 

 

 

 

 こうして、私たちはもつれあう男×2を置いて……やっと地下を脱出したのだった。

 去り際にこんな感じの声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「お前……やっぱ裏切ってやがったなクソ……!」

「……」

「オレを……そうするつもりだ……」

「……」

「くっ! 殺すならさっさとやれ!」

「そう急くな。殺しはしない」

「……ふ、ふざけるな!」

「あぁ、だがお前に私の正体を知られても困る……」カチャカチャ

「………おい? な、何をする気だ……? や、やめ……」

「端正な顔立ち、処女雪の如く白い肌……蒼穹の如く澄み渡った青い目……そして銀糸のような髪……」

「え、ちょ」

「オレは……! オレは……っ!」

「何してんすか!!やめてくださいよ本当に!」

 

 

「お前のことが好きだったんだよ!」

 

 

「アーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ……何があったのかは、見ないでおこう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

「この先……ですよねー……」

「……うん」

 

 廃墟と化した地上。

 それは、数日前に見た曲がりなりにも立ててあった家や建物の姿はすっかりと炭となり果て。

 ……今も尚、いろんな場所から何かが崩れる音や壊れる音が響くのだった。

 

 ここは、地獄ですか?

 

 思わずそんな問いすら、放ちたくなる程の……惨状が目前には広がっている。

 

 

 

 

「……行きましょう……か……」

「……おう…」

 

 いままで幾度もアラガミを退けてきた神機使いもビビる。

 一番怖いのは人災なのかもしれない……などと思えてきた。

 

 

「周囲には爆音を噴き上げる建物……いつ自爆するか分からない市民。

 そもそも顔を見られないように、って一か所に誘導してそこに閉じ込めて蓋しておくはずだったのに……。

 ……なんでこんな……! どうしてこんなッ……!」

「今更ですけどホントすいませんロミオ先輩……。どこにこんな量の爆薬が……」

「きっと『女神の森』の半分は爆薬で出来ている」

「……残り半分は……?」

「キチガイとかじゃね?」

「狂気的」

「だってここ極東だもん」

 

 極東は地獄……はっきりわかんだね……。

 

 この地獄からどうやって抜け出そうかな……と考えていると。

 となりのロミオ先輩がなにやら思案していた。

 

 

 

「……先輩、何か良い案、あります?」

 

 ロミオ先輩だって神機使いと人生の先輩だ。きっと恐らく多分有益かつ実現可能そうな脱出作戦を持っているハズ……! と思いつつ期待を込めて見つめてみる。

 だが、ロミオ先輩の答えは……少し違った。

 

 

 

 

「……なぁ、唯」

「何ですか」

「これ、脱出とあんまり関係ないんだけどさ……お前さっき言ってたじゃん? 薬中がどうのこうのって」

「あ、ちゃんと聞いてたんですね!」

「……おい」

 

 てっきり聞き流されているのかと思っていた。

 

 

「あの話の続きだけどさ……。その薬中さんがひょっとしたら『極東支部』と『ネモス・ディアナ』の同盟に関連している可能性がある……っていうのがお前の推理」

「……」

「でもそれ誰も知らなかった訳じゃん? 『本部』の直下組織の『フライア』がソレを知らなかったってコトは……本部が意図的に秘匿している可能性以外を考えると……極東が本部に隠したい情報になるよな?」

「……」

「これから極東に向かう、っていうフライアの動向は本部は掴んでいる。

 もし本部がアレなら、『ネモス・ディアナ』に注意しろとか探り入れろ、とかそういう指示、あるハズじゃん? でもそんなもんは来なかった。じゃあ本部もやっぱ把握してない『何か』があって……そのネモス・ディアナに匿われてる

 つーことはさ……」

「……」

 

 

 

 

「いや、それは置いといて」

 

「え」

 

 

 

「ゴメン話が逸れた。言いたかったのはそうゆうことじゃなくってさ……」

「な、なななんですかロミオ先輩……? 今凄い重要なことを言おうとしていたんじゃないんですか……?」

「……いや、そうじゃなくって」

「早く言って下さいよ!」

「…………だからそうじゃなくって!!」

 

 ロミオ先輩の声は震えていた。

 多分……私の顔の真っ青になっているハズだ。

 ……何だろう。

 

 

 一体何なんだろう、コレは。

 

 潜在意識が語り掛ける――やめておけ、と。

 触れるな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、『女神の森』って…………どっかで……聞いたこと……ない?」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾクッとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『え? アレ? 何? ちょっとCPO~? 勝手に通信つなげないでよ~~』

『……こちらピクニックだ。どうしたシルバーバック』

 

 

「え?」

「は?」

 

 

 突如つながるロミオ先輩の無線通信(スピーカーフォンver)

 そこから聞こえてくるのは変なコードネームだが……多分隊長とナナちゃん。

 二人のちょっと戸惑った声が、ほぼ同時に聞こえてくる。

 

 

『あれー? ロミ……じゃなくって、ショタ枠先輩にも繋がっちゃってるの?』

『あぁ、無事か?』

「うん……無事だし防水チキンも確保したけどさ……どうしたんだよゴリラ』

 

 

 嫌な予感がする。

 そう。

 

 とてつもない……何か巨大な……嫌な予感が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……こちらCPO……。俺じゃない……』

『え?』

『……?』

「……嘘だろ……」

「えっ? ……えっ?」

 

『俺じゃ……ない……。『船』にも聞いたが今……』

 

『こ、こちらオペレーター! 聞こえますか!? 全員に通達! 通信障害が起きています!!

 繰り返します通信障害が起きています! 恐らくは反撃――『乗っ取り返され』ています!!

 全員音声通信を切――』

 

 

 という、切羽詰まったっぽいオペレーター……フランさんの声がプツリと切れた。

 

 

 何だろう。

 何だろう、この感じ。

 

 

 そう……コレは……。

 

 

 『何か』……来る……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞いてください、光のアリア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 『皆さん……私には……凄く、凄く、大切な人がいます……』

 

 

『その人は……彼は……かつては恵まれた身分に居た人間だったようです』

 

 

『ですが……不幸な出来事――この世界で、本当にありふれた……でも確かに不幸な出来事によって。幼少の頃にご両親を失ってしまった』

 

 

『……そんな小さな男の子は、今――大人になって武器を取っています』

 

 

『そう……この世界を蹂躙する敵――『アラガミ』を屠り、人々を守るために』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今この瞬間も……命を賭けて……戦っています!!』

 

 

 

 

 

 

『私は……私も同じでした。母を失い……自分の中に籠って、いつ嵐は過ぎ去るのか、と……頭を低くして、身を縮こまらせて……怖くて震えているだけの、ただの女の子でした』

 

 

 

 

 

『だけど……だけど。皆さん。

 一歩でいい。

 

 一歩だけで、いいんです。……あとで後ずさっても良い、すぐに逃げ出しても良い。

 

 だけど、今――この瞬間だけは……』

 

 

 

 

 

 

 

 

『歩き出しましょう。前へ、明日へ。

 怖くても、震えていても――ただ、勇気だけを信じて。

 

 私はあの日……その人から、勇気を――戦う力を、貰いました。

 

 ……だから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今度は、私が――――。私なりの……勇気を、示したいと思います』

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞いてください―――光のアリア』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お母さんお母さんお母さん……おか、おかあさん……お母さんお母さんおかあさんおかあさんおかあさんおかあさん……!

 怖いよ……怖いよ助けてお母さんおかあさんおかあさぁあああん……!』

 

「ひっ…………」

 

『あ……あ……あ…………!』

 

 

 

 

 

 

 

 余りの事に恐怖で立ちすくむ。

 足が……笑う。

 

 泣きたいのに……叫びたいのに……。

 

 

 声が――でなかった。

 

 

 

 

 

 私ですら……こんな状態なのに……。

 

 

 

「たい……ちょう……?」

 

 

 

 

 

 

 ……きっと。

 

 

 今、ここで……一番つらいのは……。

 

 

 一番……苦しんでいるのは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほ、ほらやっぱりぃいいいいいいいいい!!

 

 

 

 

 

『どうした隊長!?』

『な、何が起こっているのですか!?』

『起きたか……おい、落ち着け! 何があった!?』

『綺麗な歌ですも……? ですがコレは一体どこから……』

 

 

 

 状況が全く把握できない幸福なブラッド後期編入組がたじろいでやがる。

 

 

 

『ジュリウス隊長! 不定の狂気に陥りました……誰か! 精神分析を!』

「コレそうゆう話じゃねぇから!!」

『おがぁさぁあああああああああああん! お、おかあさ……おかあさぁあああああああああああああああん!!うわぁああああああああぁああああっっ!!!!』

「正気に戻れナナ!!たたかわなくちゃげんじつと!! おでんパンを食え! おでんパンを食うんだーー!」

「ロミオ先輩拳銃持ってましたよね……」

「何!? 持ってるけど何!?」

「……」

「おい……無言で拳銃咥えるのはアウトぉ! やめろ! やめなさい!!」

「お願いですロミオ先輩……私にまだ……人としての意識が……残っている内に……!」

「何!? ひょっとして遂に……アラガミ化!?」

「お、抑えている内に早く!! 私は――私は―――ッ! 

 

 

 人として死にたい!!」

 

「じゃあ勝手に後で首括れ!!」

 

 

 各員セルフ発狂で阿鼻叫喚な混線。

 何が起っているのかさえ良く分かっていないギルさんとシエルちゃん。

 ただ一人対応できているのは……ロミオ先輩。

 

 そして流れる――光のアリア。

 

 

 天には澄んだ声と、美しい旋律。

 地には阿鼻叫喚と、恨めしい戦慄。

 

 

 

 

 

『一体何が……?』

『ナナと副隊長はいつもと大して変わらないが……心配なのは隊長だな』

『SAN値直葬ですか?』

『殴れば治るんじゃないか?』

『脳天直撃弾はどうでしょうか』

『それだ』

 

 

「黙れゴリラ!」

 

『も、もー! 私たちは真剣に隊長を心配して……』

 

「もーもー吠えるな黙ってろこのホルスタインが!!」

「ロミオ先輩それは流石に酷い」

 

『フッ、まるで褒め言葉ですも!!』

 

 

「やだシエルちゃんメンタル固い」

「後で説明するから! 全部説明してやるから今は何もしないでくれ頼むから本当頼むからぁ!!」

 

『もー』

『分かった』

 

 

 

 

 

『お母さん……お母さん…………お母さん…………ごめんね……おでんぱん……』

『』

 

 

 

「ロミオ先輩! あの発狂コンビが黙りました! コレはチャンスです!」

「……」(いや……違う……コレは……! 嵐の前の…………)

 

 

 

 

 ロミオ先輩がブツブツと何かつぶやいている。

 

 きっと一時的な発作が治まり、二人共現世に帰ってきたようだ。

 

 

 

 その時、ぶつり、と通信が入る。

 

 

 

 どうやらオープンチャンネルになってしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こ、こちらクレイドル! こちらクレイドルぅ! 今ネモス・ディアナ外壁第3ブロックで戦闘中……い、今外壁第3ブロックで戦闘中! 結構キツい……これ聞いてるいる奴が居たらだれでもいい! 誰か来てく……』

 

 

 

『あ』

『も』

「あ」

「……やめろ……やめろよ……? 絶対行くなよ……? 絶対だぞ……?」

 

 

 

 

 

 

 

『あれもう来たぁ!?』

 

 

 

『あ』

『……これは』

「終わった」

 

 

 

「に、逃げろぉおおおおおおおお!!」

 

 

 

 

『あ、アレは何だ……凄ぇ……コンゴウを一撃……だと!? あんな技……見たことが……。

 

 

 

 あれ……? え? やだ何でちょっとこっち来んの……?』

 

 

『がぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

 

『奇声を発している!? な、何だコイツは……!?

 ……しかも……あの顔……あの顔は――――!

 

 人間じゃない!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

「第三者からの「人間じゃない」発言頂きましたー」

「人間には見えないからなぁ……うん。そーだよな」

 

 

 

 

 

 

『まさか――まさか――――……アラガミ化か!?!?

 

 あの顔……間違えない! ……アレは……浸食だッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「違う、そうじゃない!! おま……そうじゃNEEEEEEE!!!!」

「勘違いだ―!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『どっせぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっ!!』

 

『うわぁあああああああああああああああああああ!! あべし』

 

 

 

「あああああああああああああああああああ!!」

「逝ったぁああああああああああああああああああああ!!!!」

「クレイドルぅううううううううううううううううう!!」

「やっちまったぁあああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

『も、もー……隊長ったら本当もーですもー』

『南無南無』

 

 

 

『こ、こちらオペレーター! ジュリウス隊長から――ジュリウス隊長周辺から――――っ!

 

 ビーコン反応、消えています!! アラガミ、神機使い問わずです!! 大虐殺ですっ!!』

 

 

 

 

「なんで嬉しそうなんですかフラン様!?」

「キチガイに狂気を与えた結果がコレだよクソ!!」

 

『こんな時……どうゆう顔したらいいのか分かりませんも……』

『……笑えば……良いと思うぞ』

 

「あなた達はこんな状況で何をやってるんですかぁ! 馬鹿なの!? あんたら馬鹿ぁ!?」

「……」

 

『と、言いましても』

『状況が全然分からん。……なんであのピクニックはピクニックしているんだ? 脳が』

『ナナさんも心配です。そもそもネモス・ディアナは殆ど無法地帯ですから、もう――何が起こってもいいのでは?』

『狂気の沙汰程面白い』

 

「コラぁ! 何観戦気分やってんですかアホぉ! ロミオ先輩からも何か言ってやってください! 先輩からも!

 

 ……ロミオ先輩?」

 

 あれ。なんで静かなのこの人。

 

 

「……先輩……? 大丈夫で……」

「……ご」

「ご?」

 

 

 

 

 

 

 

「ゴフっ……!!」

 

 

「ひっ……!?」

 

 

 

 

 

 

 その光景は――戦慄を覚えた。

 

 ヘルメットはいつもと変わらぬゴリラフェイスを装っている。

 だが、問題はその下……顎から首にかかるまでの場所だ。

 

 男にしては細いロミオ先輩の首筋からゴリラの顎のラインにかけて――赤い雫がぼたぼたぼたと、零れている。

 ロミオ先輩が――咳き込む度に。

 

 

 

「ロミオ先ぱぁあああああああああああああい!!」

 

「唯……どうしよう……オレ……オレ……! ……血が……止まらないんだ……!」

 

『ロミオさん、バイタル危険です!! 急ぎ回復を!!』

『どうしたロミオ!? 負傷か!?』

『いえギル……ここにはアラガミはいません……と、なると……落石やガラス片などの建築物の落下による負傷の可能性が高いかと思われます!』

『オペレーター! ロミオの怪我の箇所は!?』

『腹部に激しい損傷が!』

『……まさか……』

『おそらく……この血の減り方は……!』

 

 

『『鉄骨だ!』』

 

 

 

 

 

 

 

「……ってそんな訳あるかぁぁあ!!」

 

「ガハッ……………ゼェゼェ……」

 

「あ……あぁ先輩! ロミオ先輩しっかりしてください……! ちょっとコレ取りますね」

「唯……ゴボゴボゴボ……」

 

 自分の血で咽ている。

 

 ゴッドイーターじゃなかったら死んでた。

 

 

 

 

 

「唯……ごめんな……」

 

 

「ロミオ先輩! ロミオ先輩! 目を開けて下さい!! 

 

(ロミオ先輩が)一人欠けたら……! ツッコミが足りないんだ……!

 だから……! 頼む……!」

 

「ごめんな……オレ……(の胃)弱くて……ゴメンな……」

 

 

「逝くなぁあああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、死なねーだろ』

『流石に言い過ぎですも』

『茶番も大概にしろよそんなコトしてる暇ねぇだろうが』

『全くですも』

 

 

 

 

「黙れ! 貴様(等)にロミオ先輩が救えるか!!」

 

「やめてマジやめてそんなボケもうオレ捌ききる体力ない」

 

 

 ロミオ先輩は焦点の合わない絶望しきった顔をしていた。

 

 生きろ、そなたは美しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

『おい……見ろ……こんな所に……』

『も』

 

 

『カピバラが居るぞ!』

 

 

 

 

 

「何で!? どっから湧いた!?」

「」

 

 

 

『シエル……』

『なんにもいないですも……なんにもいないったら!』

『シエル……どきなさい』

『出て来ちゃダメですも!』

『むきゅー』

『渡しなさいシエル。人と鼠とは同じ世界には住めない』

『お願い! 殺さないで! ちゃ、ちゃんとお世話しますも……!』

 

 

「じ、自由すぎる……! ベ●ベットカーの中自由すぎるっ……!」

「ガハァァッ!」

「先輩ー! 先輩ぃいいいいいいい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 ロミオ先輩が意識を取り戻した数分後。

 

 先輩はまだ体がキツイらしく、お腹(ぶっちゃけ胃)のあたりを抑えて何とか歩いているような状況だった。

 口元は大量に吐血した痛々しい跡が残っている。

 

 もうロミオ先輩の体力は限界だ。

 こうなったらいち早く……あの半分燃えている建物にぶち当たっていくしかない!!

 

 

 

 ……と、私たちが決意を固めていたその時。

 

 

 崩壊する武器庫の中から一人の人間が飛び出してきた。

 

 

 

 男。

 

 体格的には成人型。多分、若い。

 

 重傷。

 

 ロミオ先輩に負けない位、全身が血に染まっている。

 

 

 そして腕には――神機を収納するのに使われているアタッシュケース。

 

 

 

 

「……?」

 

 

 よく見るとその青年の顔に見覚えがあることを思い出した。

 確か前……この崩壊都市に来た時……。

 

 いや。

 

 それより少し前。

 

 

 

 

 

 

「あっ……!」

 

 

 

 

 

 

 思い出した。

 

 

 あの顔、あのデコ……。

 

 

 そして……あの眉毛……!

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 名前も聞かなかったけれど、

 

 それは確かに知った人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





少々ゴチャゴチャしているのでまとめます。




=べ●ベットカー組=
シエル→自爆
ギル→戦犯。通信回路を乗っ取られたので現在役立たず。運転手さん。


=ブラッド=
ナナ→恐慌状態
唯→自称ただの煮物
ジュリウス→発狂
ロミオ→喀血


=フライア=
ヒロキ→自爆。重傷でヘリ収容
フラン→完徹でクマが酷い



こんな感じです。




次回:ペ●ソナ作戦大破編

なるべく早く頑張って投稿します。



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