「出ろ」
「……」
鉄格子の外から簡素極まりないオッサンの声が降ってきた。
ソイツが私をしょっぴいた筋肉ダルマの一体だという事に気づく。
「……」
「出ろ」
「…………」
ガァン! と鉄格子を蹴られる。
「……らないんです……」
「は?」
「すみません知らないんです私!!!!」
「……」
「あなた達が! 知りたがってる!!情報は!! 多分!! 何も持ってない!!!」
「いやそれキミが判断することじゃありませんからね」
「痛いの嫌ですー! 嫌です怖いですぅぅぅーー! な、何でも話すからーー!!」
「ゴッドイーターだろ多少痛い位がまんしなさいよ」
「そんなの業務内容にあるなんて聞いてないよぉおおーーーー!」
「諦めろ」
「ヤダぁあああ! ヤダヤダうわぁああああん!」
「うっせ」
コイツに人間の心はないようだ。
「な、何聞くんですかぁ……! 私どこに連れていかれるんですか……!? ……此処どこですか!! 私は誰!?」
「しるか」
「せめて何聞くのか教えてくれたっていいじゃないですか~……」
「なんで?」
「…………カンペ作りたい」
「あ?」
「脳内で」
「ナメてんのかコラ」
「だって……だってだってだってぇ……!!」
「シャラップ」
人のぬくもりが恋しくなってきた。
ああ、フライアが懐かしいな……。
頼んでもないのに、おでんパンを供給してくるナナちゃん。
心身ともに満身創痍で回復したいのに、お布団の中に入ってこようとなさるシエルちゃん……。
冒涜的な汚料理を勧めてきやがるギルバートさん…………。
そんなギルさんの人体改造を嗜むラケル先生………………。
↑を死ぬほど崇拝しているジュリウス隊長……………………。
……。
コレが、私の……フライアの……仲間なんだよね……。
きっと今頃ロミオ先輩は大変なことになっているだろう。
あ? クソ兄貴? アレは敵でしょ常識的に考えて。
と、居る訳もない仲間たちのことを思い浮かべ……ついでに隊長のことを思い出して薄ら涙ぐんでいる私が連れていかれた場所は意外なことにコンクリートむき出し&鉄臭い&壁に何に使うのかよく分かる器具たちが陳列しているような部屋ではなかった。
一瞬そこに入るのかなーとおもってガタガタ震えていたけど、なんと奇跡的にスルーしてくださった。
ちなみに、お隣(同じ構造)のお部屋からは誰かが何かされているような悲鳴が聞こえてきた。
どうやらお仕事中だったっぽい。聞かなかったことにする。
「入れ」
「……は、はいぃ……」
入れられた部屋は、更衣室の様だった。
……更衣室……。
……あまり良い予感がしねぇ。
「着ろ」
「ファ!?」
「着なさい」
と言って筋肉ダルマが服を差し出してくる。
……あ、テッキリ脱ぐ系かと思ってマシタ……。
そしてオッサンに差し出されたのは――――何人も着回した後のようなちょっと臭い、作業着。
と、マスクとゴム製の手袋と帽子だった。
……何が始まると、言うのでしょう……?
遠くの方で機械の音がする。
見るとベルトコンベアがゴウンゴンと唸りを上げていた。その場所で数人の男女が同じような格好で手だけをひたすら動かしていた。
その手は正確にプログラミングされたかの如く、トウモロコシの皮を剥いている。
「…………も、もしかして私……」
「じゃ作業にはいって下さい」
……こんなん、予想できるか。
トウモロコシを取る、皮をむく、コンベアに流す
トウモロコシを取る、皮をむく、コンベアに流す
トウモロコシ、皮、コンベア。トウモロコシ、皮、コンベア以下ループ。
腕が痛い。
腕輪が重い。
それだけじゃない、足が痛い。足がヤバい。
ひしひしと痛みはじめる体を自覚しながらも、心はもうしにかけていた。
こんな作業をずーっとずーーとずーーーーとやっているから……もう何も考えられなくなり……
とか思ってたら足の上にトウモロコシを落とした。
着替えちゃったから戦闘靴ではなく、そこらへんにあったちょっとすっぱい匂いのする古いスニーカーだ。
だから直撃は痛かった。
うっすらと、視界が滲んでいく。
「……~~……」
泣きそうになりながらも、手が止まってるとまた怒鳴られるのでトウモロコシを拾う、皮をむき、コンベアへゴー。
中には潰れてたり一部腐ってたりするトウモロコシさんがある、そうゆうのは段ボール箱へと投げ捨てる。
……なんか出荷とは別方向に持っていくらしい。
多少カビてたりする部分は雑巾で拭って綺麗ならコンベアに流す、汚いなら段ボールに流す。
この見極めが大事らしい。皮をむく、コンベアに流す。
このダメなとーもろこしって一体何に使うんだろーねーコンベアに流す。
酷い話だ、ちょっと形が悪いからって……腐ってるからって没にされるなんて……コンベアに流す。
コンベアに流す。
コンベアの……皮をむく……。
じゃないよ……あはは……トウモロコシを流す……。
母なるコンベアの大河に……流す……。
「ちょっと、そこのゴッドイーターのお姉さん。コレは駄目なトウモロコシね、流さないで」
「…………すんません……」
うっかり没を見逃していたみたいだった。
作業服なオバさんが私の流した没もろこしを、ヒョイっとつかみ、段ボール箱へと直送する。
「何回同じこと言わせるの? いい加減覚えて」
「…………はい…………」
オバさんは作業に戻る。皮をむく、コンベアに流す。
トウモロコシを取る、皮をむく、コンベアに流す
トウモロコシを取る、皮をむく、コンベアに流す
トウモロコシ、皮、コンベア。トウモロコシ、皮、コンベア。
「……」
……あれ……? 私……何やってんだろ……?
これ……トウモロコシ……なんだよね……?
……なんでトウモロコシなんか……剥いてるんだろ……?
こんな事をしている場合じゃない。コンベアに流す。
何か……私にはしなきゃいけないコトが……あったような気がする……。
…………けど……それって……何だったっけ……?
……。
……この馬鹿デカい腕輪ってなんでついてるんだっけ……。
何かトンデモナイことを忘却の彼方に押し込め……皮をむく、流す。
だんだん分からなくなってきた。
私は何者だったのか、何者かであったのか。
地味に薄ら分かっているのは、少し前まで内部居住区とかいう比較的運に恵まれた場所で心臓と横隔膜を動かす作業をしていたことと、そんな場所で変わらない日常をグダグダと過ごしていることに嫌気が差していたこと。
だからクソ兄貴と大喧嘩して家を出て……そこから……何だか記憶がおぼろげだ。
でも、何となく不幸だったような気もする。
仲間っぽい何かが……居たような気もする。
好きな人が……居たような気もする。
でも、全部過去の話。
今の私はこうやってトウモロコシを剥くことしか存在価値のない……そんな無意味で無価値なタダの機械にすぎない。
…………。
……いや。
…………本当に……そうなのだろうか……?
……違う。
機械だからって無意味で無価値……なんかじゃ……ない……!
きっと……きっと……このトウモロコシは何処かに出荷されて何かに使われているハズなんだから……だから絶対意味のない作業なんかじゃないんだ。
意味のないことなんか……ないんだ。
コレはきっと何処かで誰かの役に立っているんだ。
私の存在は……無意味で無価値かもしれないけど……きっとコレは誰にでもできるようなコトだけど……!
……でも誰かが、やらないといけないコトなんだ。
そう思うと、急に頭が軽くなった。
今まで求めていた――意味だとか、意義だとか、価値だとか……誰かに認めてほしい、という思いが全て……心の中から、すっと離れていくのを感じた。
まるで、ひとひら、ひとひらと花が散っていくような感覚。
それらは決して穢れることはなく、ただ綺麗なままに手放して、風に任せて運ばれていく。
……ここではない、どこかへと。
意味なんかなくてもいい。
価値なんか知らない。
だた目の前にある――トウモロコシから皮を引きはがせばいいだけなんだ。
ソレが世界を救う、ただ何も考えず私は粛々と流しつづければいいのだ。
こんな形の幸せもあるんだな、と私は理解し、悟った。
今までは自分自身を認めてほしくてたまらなかったような気がする。どこにでも居るような人間の一人で居ることが嫌で嫌で、このまま人生が終わっていくことに慟哭していたような気がする。
だけど、今ならわかる――そんなものは、どうでもいい。
だって、トウモロコシの皮をむいて流すことに……幸せはあったのだから。
と、思っていると後ろから急に肩を叩かれた。
振り返ると何だか微妙なオッサンがいた。ムッキムキだ。あの肩なら多分何時間酷使してもコンベアに流しつづけることができるだろう……恵まれた体格だと一瞬で判断した。
「お、おいゴッドイーター……そこの没の箱を運んで下さい」
「……」
言われた通りに没箱を運ぶ。
何かでかい機械の前に置く。
機械はガガガガガガと凄い騒音をたてる。
やがて……後ろから何かを吐き出す。
「……何……ですかコレ……?」
それはもう、皮をむくことさえできない、変わり果てたトウモロコシの姿だった。
そこにオッサンが一人おり、その変わり果てたカピカピになったトウモロコシをせっせとズタ袋に詰めていく。
「ん、じゃ運んで下さい」
「……は?」
「袋、運んで」
……言われた通りにズタ袋を荷車に積む。
で、先導された通りに運んでいく。
……ここまできて怖くなった。
「……あの……わ、私……どこに……?」
「入れ」
「…………え?」
目の前には大きな鉄扉があった。
ここに入れと
……何言ってるんだろう、この人。
私は……こんなことしている場合じゃないのに……。
私は……。
私は…………。
トウモロコシの皮を取って、コンベアに流さないといけないのに。
鉄扉が大きな音を立てて開かれる。
その先で私が見たモノは――――。
「あ……あっ…………!? あ…………!」
目の前に通るのは白い悪魔――達。
忘れもしない――少し前のことがフラッシュバックする。
確か、あの時もこんな……。
ううん、違う、あの時は誰かが隣にいたような気が……!?
白い羽毛と、紅いトサカを持つ……その飢えた
……異常なまでに光った目で、私を見た。
「「「「コッケェエエエエエエエエエエエエエ!!」」」」
「いやぁああああああああああああああああああああああ!?!?!?」
私は抱えていた餌袋を放り投げて鉄扉に駆け寄る。
が、すでにそこは閉まっていた。
後ろからは奴らがその
だから……目の前の分厚い扉を、気が狂わんばかりに叩いた。
何度も……何度も何度も何度も何度も何度も。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……。
「出してぇえええええええええええええ!! あけてーー! ここを開けてぇえええええええええええええええ!! 嫌っ……やだやだやだぁああああああ!! 開けて開けて開けて!! 出してぇ……お願い出して!!こ、こんなの嫌ぁああああああああああああ!!
え? ちょ、なんでこっち来るんですか……!? え、餌はそっちにあるのに!? なんで私の方に来るんですかぁ!?!? 私は食べられないのにーーーー!?!? え、ちょ……うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
そこから数時間の……記憶がない。
□■□
「で、結局アレから3日経ったんだよな」
「3日も何してたんだろーね~私たち~~」
「それは……かくかくしかじかこれこれいあいあです」
「……」
「機密事項にしていたハズの今回の一件が本部にバレて、その火消しにグレム局長が駆けずり回っていたせいだがな……。
ブラッド、総員揃ったな。まず、今の現状を確認する」
「「「「了解」」」」
ジュリウスがホワイトボートにマジック(水性)で書き入れていく。
それは『女神の森』の見取り図だった。
「……ふーん……流石は『サテライト拠点』……予想以上にアーコロジーになってんだな」
「そうですも……コレは……本当に……支部のミニチュア版のようです……」
「……」
「……ねぇー、隊長ーきいていいー?」
思わず感心するロミオとシエル。無言なギル。その中でナナは、迷いなく手を上げた。いつもの天真爛漫な彼女はへへへーと顔に能天気(っぽく見える)笑顔を浮かべている。
「あのね……どうして隊長はこの見取り図を知ってるのー?
だって、『女神の森』は極東支部の管轄下でしょー? もしかしてー……私たちの知らないところで極東支部にコンタクトを取ったりしたのー?」
(もし、そうだとしたらちょっと面倒くさいかな~……だって隊長のコトだし、
と、ナナが薄汚く考えていることを悟ったらしいジュリウスが顔色一つ変えずに肯定する。
「ナナの疑念はもっともだが……ラケル先生に誓って言おう。
極東支部にコンタクトを取った訳じゃない。コレはフライア自力で入手したものだ」
「えへへ~疑念なんてないよ~~? やだなー隊長ったら~~もっと仲間を信じてよ~~!
……じゃあソレなんで? どうやって手に入れたの?」
鋭く勘ぐってくるナナに対し、ジュリウスは、はぐらかすことも、嘘をつくことも諦めた。
「お前たちには伏せていたが……。フライアから派遣された潜入工作員から秘匿回線で伝えられたものだ」
「は?」
「え?」
「も?」
「……」
「な、なぁジュリウス? それってさ……つまりスパ……」
「潜入工作員だ。言っただろう、有人神機兵を配備する計画があった、と。その際、調査もなしで投入する訳がない。あいにく没と化したが……情報収集の為の潜入任務はまだ続いていた、ということだ」
「……あーはい、分かりました」
「スパイだってーなんかカッコイイね~~ロミオ先輩!」
(この状況下でのスパイ……なんか嫌な予感がする……)
ほぼ直感でロミオは悟った。
「……と、なると、話を戻します。
今現在の状況を整理するとこんな感じでしょうか……?
・『女神の森』上層部は『フライア』に対し、不信感を抱いている。
・前提として『サテライト』住人は『神機使い』を敵視している。
・まっ黒なウワサの絶えない極東支部の介入は避けたい。骨の髄までしゃぶりつくされる。
・隙あらばフライアを叩き潰そうとしてくるフェンリル本部にバレてはいけない。(もうバレたけど)
……でしょうか?」
「あぁ、その通りだ、シエル」
「……」
「……」
「……」
「……」
その時――――真空のような思考停止が、場に広がった。
「コレ、詰んでんじゃね……?」
「ヤバいよね~~」
「諦めてはいけません! 諦めてはいけませんとも!! ネバキバッップ!!」
「おい、隊長……確か極東支部には『クレイドル』とかいう機動部隊があったよな? ソイツも勘定に入れといた方がいいと思うぜ」
「……そのことについてだ、大まかな状況確認はシエルが言った通りで正解だが……ハッキリ言うと、実はもっと悪い。
今ギルの言った、極東の独立支援部隊『クレイドル』だが……『女神の森』に定期巡回することになっている。さらには『女神の森』には極東からの派遣神機使いも存在する。よって極東支部として警戒するべき勢力は2つあると考えるべきだろう」
「敵が増えただけじゃん!」
「……そしてフライアの感応波レーダーによれば『女神の森』周辺で感応種の反応も出ている」
「嗚呼……こ、これではまるで……『前門のヴァジュラ後門のガルム』です……」
「って言うか~四面楚歌?」
「八方塞がり……」
「手も足も出ねぇな」
ブラッド各員の顔には絶望と未来に対しての諦観が広がっていた。
「そうゆう訳だ、全員コトの重大さを理解したな?
そこで、だ。
副隊長を救出するにあたり――今回の状況で最も効果を発揮すると思われると判断した結果……。
……ナナの案が採用だ」
「やったぁーーーー! 喜びの~~おでんパン!!」
「その
「『何とかしてコッソリ〝女神の森"に潜入する案』でしょうか?」
「それだな」
「それだ」
ロミオが頭を抱えた、ニット帽がすっぽりと腕の中に収まる。
「どうすんだよぉぉぉ……」
ロミオは脳内で激しく懸念と戦っていた。
まず、神機使いは目立つ。とても目立つ。
女神の森内部の人間には多分敵視されている。しかも、極東の神機使いとバッタリ出くわす可能性もある。
つまり、素性を隠したかった。
もっと言うならば……せめて顔を見られたり個人を特定されることだけは避けたかった。
そんなささやかな願いさえ、今ここで……潰れようとしている。
「心配するなロミオ。今回はとある伝手により本部からの支援が受けられるようになっている」
「……え? マジで? 本部……支援……? ちゃんとしたの寄越すんだろうな…………?」
「も? 本部には隠した方が良かったのではありませんか?」
シエルが「もっ?」と可愛らしくコクビを傾げた。
その凄まじく無垢なしぐさは年相応の反応だった。いつもそうしていればいいのに。
「本部にも色々ある。フライアに賛成している勢力、反対している勢力、中立に立つ勢力……風向き次第の日和見勢力、などがな。賛同している側から物資支援を受けられた。あと情報も止めてくれているらしいな……全てはグレム局長の日頃の成果ということだろう」
「マジかよ局長すげえな」
「やればできんじゃん局長~」
「流石局長」
「ヤベェなグレム」
手放しでグレムを褒め称えた一同だったが、心の底ではどうでもいい、と全員思っているのは明白であった。
「そして今回『協力者』に今、来て頂いている。各員粗相のないように務めろ」
「了解、協力者……か……」(来なくていいのに)
「りょ~~か~い!」(監視役かなー? おでんパンにしといた方がいいかな~?)
「了解致しました!」
「あぁ、分かった……」(……)
その時、昇降機が降りて来る音が響いた。
ブラッド全員の注目が集まる中――ジュリウスの言っていた『協力者』であろう、一人の男が昇降機から降りて来る。
ひどく奇怪な容貌の男だった。
もう老齢に差し掛かっているように見える。
その男が、口を開いた。
「……お初にお目にかかります。
私の名は…………イゴールと申します」
「アウトォおおおおおおおおおおおおおお!!」
ロミオがシャウト。
「どうしたロミオ……。お前らしくもない。失礼の無い様にしろと……今、俺言わなかったか?」
「ジュリウス聞いてくれ!!
オレ……オレさ……今まで……今までな……ちょっと思ってたりしたんだよ……?
お前らが本部本部って言うけど、それちょっとビビり過ぎなんじゃないか、って……。
……オレが間違ってたよ! 今! ハッキリ分かったよ!!
本部は……本部の奴らは……本気で運が良ければ隙を突いてぶっ潰そうとして来やがるってなァ!!!!」
「彼は味方だと言っているだろう」
「アレが味方に見えるならお前の目は腐っている」
「ここまでやるとは~恐れ入ったね~~」
「コレ……コレ……覚醒しますよ! 私たち!」
老爺を見てキャイキャイ騒ぐ若手を横目で見ながら、イゴールと名乗った男が瞬きひとつせずに話す。
「ほう…これはまた、変わった定めを……お待ちの方々がいらしたようだ…フフ」
「お帰り下さい!!!!」
「何を言ってるんだロミオ」
「お黙り下さい!!!!」
「…ふむ、なるほど。では、貴方の未来について、少し覗いてみると致しましょう……
“占い”は、信用されますかな?」
「しません!! しないので!! お帰り下さいぃいいいいいいいいいい!!!!」
「何をさっきからそんなに慌てているんだロミオ!?」
「シャラップ! コトの重大さが分かってねぇのはお前とそこのゴリラだけなんだよ!!!!」
「重大さなら理解している……一刻も早く、副隊長を連れて……帰るんだ!!」
「そっち……もそうだけどさ……そっちじゃねぇぇええええええええ!!」
しばらく、荒れ狂うロミオが居るだけだった。
「……な、なんということはないよなオレが神経質すぎただけなんだよなそうだよな。
べ、別に……イゴールって名前でやたら鼻が長いだけのじーちゃんなんかそこらに沢山居るもんなそうだよな。偶然だコレは偶然偶然偶然偶然……!」
「イゴールさんからは、今回フライア印の装甲車が使えない為に装甲車を提供して頂いた」
「…………あっ、隊長~~その装甲車って~~もしかして~~」
「リムジンバスだ」
「えへへへへへーーやっぱりぃ~~♪」
「クソがぁああああああああああああああああ!!!!」
「こ、コレはBGMを……用意しなければいけませんとも! 全ての人の魂の●を……!」
ロミオの目は、既に沼底のように濁っていた。
最早、昔の様に澄んだ明るい色の光はない。
流石に茶番に飽きてきたジュリウスが強引に話題を戻す。
「総員聞け。フライアのレーダーによれば、翌朝『女神の森』にアラガミの波状進撃が来るらしい。……俺達はそこを突く」
「ん?」
「えー?」
「も?」
「……おい、ソレは……まさか……」
「そのまさか、だ。アラガミの群れと一緒に『女神の森』へと奇襲をかける」
言い切ったジュリウスに対し、全員一時的に沈黙を守っていた。
……一瞬冗談か?と疑ったが、青年の顔には真剣さが見える。
…………残念なことに、苦しい位大真面目であった。
どう考えても正気の沙汰とは思えない、だが、これしかない……全員がそう悟っていた。
「だとすると、一つだけ問題があります。
……その様な状況での潜入ならば、起こり得ること――『極東』の神機使いとの接触です。
その時……顔を見られていては、素性が割れることとなります」
シエルが重い口調で告げる。
胸に持っていた疑問を改めて言語化されたことで、やっとブラッドは思考を巡らし始めた。
何か方法が……素性を隠すことができる、方法を。
……せめて、顔だけでも隠す……何かを。
「そう言えば、俺の部屋にこんなモンが置いてあったんだが……お前ら、何か知らないか?」
「!?」
「!?」
「!!」
「!?!?」
ギルバートがごそり、と……『仮面』を取り出した。
否、仮面というよりはヘルメット(フルフェイス)と言った方が近いだろう……。
それは、彼らが心の奥底に封印していた。
…………『忌まわしき仮面』そのものだった。
「そ、それは……! ま、マスク・ド・ゴリラ……!?(phase33参照)」
「なんで持ってきちゃったのーー!!」
「何だお前らやっぱり知ってるのか?」
「も……も……! それは封印したハズでは……!?」
「何……だと……!?」
「何ビビってんだよ……どう見ても神機兵の頭にそっくりだろ」
どう見ても神機兵の頭にそっくりだった。
「一見分からねぇけど、よく神機兵見てるんならコレで気づく。ソレに顔も隠せる。好都合じゃねぇか。
コレ、被って行こうぜ」
「!?」
「!?」
「!?」
「!?」
「……だから、さっきから何なんだよお前ら」
「お前が何なんだよ……!? 仮面の何かに操られてんじゃないよな……!?」
「こ、コレが……英国面の力……!?」
「よもや全員マスク・ド・ゴリラになる日が来るなんて……予想外ですも……」
「ギル、お前は待機だ」
「何でだ?」
「いいから待機だ!! ベ●べットカーで待機してろ!! 絶対そのヘルメットを被るな!! いいな!?」
「……お、おう……ベ●ベットカーでヘルメット持ってりゃいいんだな?」
「お前らドサクサにまぎれてベルベット言ってんじゃねーよ!!」
「ロミオ先輩! 言ってるのはヘルメット!!」
「ややこしんだよぁあああああああ!!」
「もっともですも。紛らわしいですもー」
「それは、貴方が貴方の外側の事物と向き合った時、表に現れ出る“人格”。
様々な困難と相対するため自らを鎧う、“覚悟の仮面”……とでも申し」
「言わせるかぁ!! ナナ! その爺にそれ以上喋らすんじゃねぇ!!」
「そ、そんなこと言われても~~私困るよぉ~……」
「じゃあ、この『覚悟の仮面』人数分揃えて……早いところ副隊長を助けに行くぞ!」
「感応されんなギルゥ!! そしてお前はもうそのヘルメットに触んなッ!!」
「……手から離れない」
「もう知らない……」
大体まとまってきたところで、ジュリウスがスクっと立ち上がる。
その様は、まるで配下の兵卒たちに軍令を下す、司令官の様であった。
……実際似たようなものだけど。
「総員傾注! これよりブラッド副隊長――神威唯を奪還する!
分かっての通り今回の敵はアラガミだけではない! 繰り返す、今回の敵はアラガミだけではない!!
……各員ソレを忘れるな! そして……副隊長と共に、帰還せよ!!」
「「「「了解!!」」」」
「現時刻を以て――副隊長奪還作戦を発令する!!
作戦名――『ぺ●ソナ』!!」
「畜生がぁあああああああああああああああああああああ!!」