ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

45 / 51
phase44 未知の挙動

 今日も書類。

 

 

 昨日も書類、どうせ明日もまた書類……ずっとずっと紙束と格闘しているような気がする。

 今が朝なのか昼なのか夜なのか……もう分からない。

 窓もない、時計もない、ロビーで机に座ってずーっとカリカリカリカリカリカリ……ってやってれば人間こうなっても仕方ないじゃないかと思う……。

 

 ナナちゃんだけは正確な腹時計を持っているらしく、今が何時であるのかは正しく把握している様子。

 

 だが、ナナちゃんが……ものすごい勢いで摩耗していく精神を何とか現世に繋ぎとめるために必要不可欠極まりない大切な情報を、無条件に私たちへと教えてくれる訳もなく……というか分かった所でナナちゃんにも何が変えられるわけもなく、ただただ時間が過ぎていくだけだった。

 

 ……いや、別に何もヤバいことをしている訳ではない。

 

 私たちはただ……極東支部への書類上の手続きをやっているにすぎないのだ。

 それが凄いキツイと言うだけで。

 

 

「もうむり……しんじゃう……しんじゃう私……」

「が、頑張れー……あと少しでおわるぞー……」

「ふぇぇ……おでんパンが足りないよぉ……」

「わ、私には……おでんパンが無くとも……も、問題ありませんとも……副隊長……」

「なにー? しえるちゃーん……? そんなーーわたしのかみのけをーーもさもさやってもーなにもーないよー?」

「くんくんくんくん……んっ……コレが……副隊長の……臭い……。……ふぅ……コレで午後もイケます!!」

「…………良かったな。ナナー腹へってないー? 大丈夫ー?」

「死にそ~~」

「しぬー」

「しっかりしろぉ! 死なねーよ!! 人間そう簡単には死なないから!!」

 

 ロミオ先輩には私たちへ激高叱咤するだけの元気がまだ残っているようです。

 

 ちなみに、私たちよりも若干手慣れているっぽいギルさんは黙々と文字を書く作業に勤しんでいた。神機使い歴5年のカンがそうさせるのか、作業が始まって以来彼はあまり喋らない。

 多分そうやって必要以上に消耗することを防いでいるのだろう。体力の節約の仕方を良く知っていやがる。

 

 そしてもう一人、こうゆう作業に手慣れているであろう、隊長は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「追加持ってきたぞ」

 

 

 

「「「うわぁああああああああぁあっ!!」」」

「追加だ」

「やだーもうやだー! やだぁあああ! やだよぉおおおお!」

「ちょ、ちょっと休ませ……こ、コレ以上やったらマジで無理……オレもう無理……」

「お腹すいたよーー! 隊長~~!」

「なんだかいしきが……」

「唯ーー! ココデ寝タラ死ヌゾー!!」

 

 隣でロミオ先輩の声が聞こえる……。

 ギルさんはいいから早く寄越せ、とばかりに指をクイクイっとやっている。

 もちろん目は合わせないし声も発さない。目線は、下から動くことはない。

 だが、確実に分かったのはその目が死んでいるであろうことだった。そう……こうゆうのは……ッ!

 心を閉ざし、思考を停止し、物言わぬ機械のようになった者勝ち……ッ!

 

 

 

 

 に、対して経験値が桁違いだからか……それとも元々スペックが高いからなのか、余りダメージを負っていないらしい隊長はいつもとあまり変わらない精神状態の様だった。

 

 

「いや、コレは違う。そうだな……休憩がてら良いのかもしれないな……。全員、手を止めてこっちに来てくれ」

 

 

 ……などと、のたまいやがった。

 

 まぁ行きますけどね……拒否権ないし……嫌じゃないし……。

 むしろお近づきになれるなら嬉しいけど……できればもっと心と時間に余裕があれば嬉しかった人生でした。

 

 

 

 

 なぜこんなことになっているのか、と言うと答えはクソ簡単だ。

 

 

 

 

 

 

 今まで……こうゆうコトを丸投げしてさせて貰っちゃっていた事務員がゴッソリ減ったから。

 

 

 

 

 

 この前のフライア襲撃事件は死者こそゼロに抑えられたものの――怪我人が居なかった訳ではない。その怪我が原因でまだ復帰できない事務員さんや研究員さんも多いし……。

 

 実際、フライアがこれから人類の最前線『極東』に向かうにあたり、大幅な人員整理にあった。

 

 

 だが、この人員整理は決して悪い意味ではなく――殆どは、今と同じ待遇か栄転という形で世界各国の支部及びフェンリル本部に転属になっていた。

 それは、当たり前と言えば当たり前の判断だった。

 

 今の人類にとって『人材』というものは実は貴重品であるらしい。

 ……人のことを消耗品扱いしまくっていたあの支部や、イザとなったら多くを生かす為にバッサリと人を切り捨てているという現実ばっか見てきたせいで、イマイチ現実感が湧かないが、人と人材は別。ということなのだろう。

 つまりは人材――確かなDNA情報や身元、一定以上の教育。そして能力。支部や人類に対し貢献する姿勢やフェンリルに対しての忠誠心がしっかり把握されている有能で『使える』人間――を易々と死なせるわけにもいかない、と。実際、同じ人材を再生産するのには時間と金がメチャクチャかかる。

 それこそ、私が当たり前だと思って悠々と通っていた学校だって……この世界では、行ける人間の方が、少ないのだ。

 

 ある人は自分の意志で、またある人は戸籍のある本部や支部からの昇進をチラ…………命令により仕方なく……と言った感じに色んな人たちの疎開が進んでいる。

 つまり、これから先のフライアは本当の本当に極力数の絞られた少数精鋭のみで構成されるようになるという訳だ。

 

 

 ……ので、神機使いと言えども、今までの様に丸投げではなく「この位は自分たちでやれ」という訳になった。

 

 

 

 

 そうゆう訳で、私は改めて自分が今まで非常に甘やかされていたという事実をつきつけられたのだった。

 

 今更だけど。

 本当に今更だけど。

 

 

 

 どの道、今この瞬間、慣れない書類仕事で死にかけているという現実は何も変わらない。

 

 

 

「何ですか隊長ー」

「おなかすいたー」

「腹減った」

「私、とてもムラムラします」

「なぁシエル、自重って知ってるかー?」

「……わ、私はそこまで重くありません!! 少し大きいだけです!!」

「体重じゃねーよ!!」

「もー……?」

 

 

 隊長が箱から取り出してきたのは、簡易アルコールパッチテストに使うみたいな医療用ケースだった。

 箱の中にいくつかのシートが詰まっている。ソレを見て、やることは大体察した。

 ……アレルギー検査でもやれと言うのだろう。

 

 

 私、アレ嫌なんだよなぁ……。子供の頃、兄がやっていたのをみたことがあるけど、48時間肌に色々くっつけたりしなければならないのだ。

 

 

「隊長~? なにそれ~?」

「何って……アレルギー検査用のパッチテストですよね? 何か調べるんですか?」

「……どこかで見たことがあるような気がしますけども……?」

「私特にアレルギーなんかないけど~? 何でも食べれます!!」

「……ウナギのゼ……」

「あははははー? …………唯ちゃん何か言ったかなー?」

「何かって……な、何も言ってないイッテナイ言ってません言ってませんからはい!!」

「悪いのはこのお口かな~?」

 

 

「……」

「……」

 

 無言のギルさんと、ロミオ先輩。

 やがてギルさんが口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……P-53型偏食因子適合パッチ……だろ?」

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「何それ~?」

 

 イマイチ聞いたことがない。その物質名を言われてもパッとしなかった。

 ロミオ先輩がため息をつく。

 

「唯はともかく……ナナはさぁ、やっただろー? マグノリア=コンパスに入るときにさー」

「えー? 私そんなのやってないよ~~」

「え? ……ふーん……そーなんだ……。……まぁ、いっか。オレ、あんまこうゆうの好きじゃないな……」

「そうなんですか。ギルさんは見たコトあるんですか?」

「…………何度か、な」

 

 妙に歯切れが悪い口調。

 外部居住区ではよくパッチテストをやっている、とだけ告げる。

 

「へぇー……そーなんですかー」

「唯ちゃん知らなかったのー?」

「うん、私の居た場所じゃ見たことないよ。学校で年に一回健康診断やってたくらい」

「ふーん。どこでもやるんだねー健康診断ー」

 

 フライアはやりすぎだと思うけどね。

 

 それはそうと、ギルさんの言ってたパッチテスト、というのが引っかかる。

 外部居住区でパッチテストを頻繁に行う理由。

 

 ……。

 

 …………どう考えてもロクなことが思い浮かばない。

 

 私自身、あまり『ゴッドイーター』を知らないから何とも言えないけど……。

 『内側』には、赤紙が回ってくることが少ない。私に赤紙が回ってきて驚かれた位だ。

 かといって、ゴッドイーターの数が少なかったか、というと……現実はそんな訳じゃなかった。

 

 ……ってことは、そうゆうことなんだろう。

 

 具体的に言えば『内側』の人間は、安全が保障された環境があるために、教育や思想の統制がし易い。だから『使い道がある』って判断されている。

 少なくとも――――使い捨て以上には。

 

 そこまで考えて、私は……ある可能性を思いついた。

 

 

 

 フェンリルの庇護外――サテライト地区や、壁外の非保護人類。

 彼らとの軋轢があることは身に染みて分かっていたことだけど……その見積もりさえ、甘いのかもしれない。

 

 ひょっとしたら、外部居住区と内部居住区……そこにも、見えない壁は立ちふさがっているのかもしれない。

 

 

 腕を出せ、と言われて袖をめくって、パッチを乗せる。

 3分間待って、ソレを外す。

 

 まずはシエルちゃんと、ロミオ先輩だった。

 

「セ、セーフ……よ、よし……変わってる……!」

「見てください副隊長。この様に赤くなれば適性がある、ということです」

 

 ロミオ先輩とシエルちゃんの腕には、綺麗に四角く赤色がついていた。

 彼らはP-53に嘉されたらしい。ヨカッタネ。P-53型にも乗り換えが出来ルネー。

 

 次はギルさんが外す。

 

 

「……あれ?」

「??」

 

 そのパッチは何というか……凄い微妙って感じだった。

 半分は赤くなっているが、ロミオ先輩やシエルちゃんみたいにハッキリ色はついていない。半分位ボヤケちゃっていた。

 なんでなの、どゆうことなの。

 

「俺は元々旧型から乗り換えだ。………………まだ……残ってるのかもな……」

「そうだな、ギルの中のP-53型偏食因子が残留している可能性がある」

「ちょっと待って下さい、隊長ソレってもしかしてヤバいんじゃないでしょうか……?」

「あまり良くはないが、どの道どちらも適合しているのだから問題はないだろう。一度人体に入れた偏食因子は消えない。

 P-53型とP-66型の偏食因子がお互い干渉しあう可能性もなくはないが……そうなったらその時はギルごと処分すればいいだけの話だ」

「あ、じゃあ大丈夫ですね! 良かったぁ……」

 

 一度入れたら消せないとか怖ェエな偏食因子。

 

 

 次はナナちゃんと、私が一緒に剥がす。

 

 

「あ、あっれー……?」

「えぇ~~? 全然変わってないよー……なにこれ」

「副隊長もナナさんも変化ありませんね……」

 

 シエルちゃんの言う通り。

 全然全く、偏食はなかった。ただ、元のままの肌色が残っているだけだった。

 つまり……コレが意味するコトは……。

 

 

「私とナナちゃん……P-53型への適性……ないってことだよね……」

「ねー。ブラッドじゃなきゃどうなってたのかちょっと怖いねー!」

「そうゆうこと言わないでよぉ!!」

 

 私、ブラッドじゃなきゃ、適合試験の時点で人生終了のお知らせが通知されてたのか。

 改めて考えてみると怖……。

 

 

「ナナちゃんだってそうでしょ……」

「私、ブラッド以外に道ないよー?」

「やだ……ナナちゃん覚悟決まってる……」

「唯ちゃんと一緒にしないで」

 

 ナナちゃんの声は冷たかった。

 

 

 あとは隊長。ピリピリピリーとパッチを腕から引きはがす。

 結果は赤。適性アリ。

 

 ……まー、ですよねー。とも思った。

 基本、何をやっても完璧にこなすこのお方に死角はないらしい。

 

 それがブラッドの隊長――ジュリウス・ヴィスコティという人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  少し時間を貰えますか――と、シエルちゃんは言った。

 

 

 曰く、ここから先の極東支部はマジでヤバそうなので、メンバーの戦闘効率向上の為にと遠距離からの攻撃を重視した方がいい……との献策だった。つまりは銃を使った戦闘技術の強化だ。

 

「ちなみに、貴女はバレットエディットを積極的に使用していますか?」

「……うーん……実はあんまり……」

「そうですよね……分かりますとも」

 

 ゴッドイーターの使用する銃弾は通常兵器とは違う。もう何度目かになるけど、アレはオラクル細胞をぶっ放している。つまりは、カッチリと型にはまってはいない。その分柔軟性があり……つまりは銃の弾丸の様に、毎回弾倉に入っている数だけ同一規格の規定数の弾が撃てるという訳じゃない。

 これのメリットは弾丸の種類の幅が広がるということだ。レーザーやモルターなど、そのアラガミごとにより有効なバレットを撃つ作業が、楽ではあるのだ。

 デメリットはそのジャムの多さ。

 初期配備だったころには弾詰まりや、逆噴射という怖い事態もザラではなかったらしい。

 そのために整備が銃器とは違い専門の技術がどうしても必要となる。今では技術が進歩した為、ジャムの確立は1万分の1……と、言われているらしいけど……。

 

 一応、P-53型第一世代以降の神機にはオラクル細胞がアホみたいな弾丸を造らないように、管理するための制御機構が搭載されている。それらは『モジュール』と呼ばれる。

 そのモジュールをガチャガチャいじりまくる作業がシエルちゃんの言う『バレットエディット』だ。

 

 

 無論、そんな難しいものが私に分かる訳もない。

 

 

 

「バレットエディットはその難解さからか多くの神機使いが敬遠するようですが本当にすばらしい技術なんです。弾道や挙動の変化は立ち位置が流動的になりがちな遠距離攻撃において多くの選択肢を与えてくれますし性質を変えることで威力や範囲のコントロール、更には味方の回復効率の向上まで……」

「」

「あっ……すみません、つい熱くなってしまいました……」

「大丈夫……。……シエルちゃん、本当にバレット好きなんだね」

「…………はい、好きなんです」

「……」

「で、でも……副隊長のことも……好きです……よ……?」

 

 やだ、しえるちゃん赤くなってる……本当、可愛いなぁ……。

 

 

「そこで、ですね……」

 

 

 

 

 

 という、シエルちゃんの提案に従ってミッションオーダーをした結果。

 ザイゴードがふよふよと浮きまくる中、ヤクシャをつれて逃げ回るという任務を発注。

 シエルちゃんがザイゴードを撃ち抜いている間に、ヤクシャを連れてマジで逃げ回り、最終的にはシエルちゃんの脳天狙撃によりヤクシャは眠りについたのだった。

 

 ちなみに今回はそこらへんで暇そうにしたていたナナちゃんとロミオ先輩のコンビ+ギルさんも合わせて出撃したので、かなりの大所帯出撃になっている。

 まぁ、その辺はフライアには隊長残してきたし特に問題はないよね。

 

 

「終わったー、はやく帰ろーー……ってアレ? 唯ちゃんどうしたのー?」

「警戒」

「もう任務は終わったよー? なんでー?」

「いい? ナナちゃん……こんなね……ミッションが何も問題なく終わる訳がないんだよ……! この後絶対ヤバいアラガミが現れたりするって相場が決まってるんだから……!」

「あはは~…………。被害妄想かなー? お、おでんパンいるー?」

「いらない」

 

 後方でシエルちゃんが座り込んでいる。

 ロミオ先輩が何かあったのか、と今まさに聴いていた。

 

『どうしたよシエル? どっかケガしたー? それとも具合でも悪いー?』

『いえ私は。……それより神機が何か……』

『え? 不調? マジかよー……最近整備さん減らしたからかなー……』

『……不調というより……悪くない、変化だと……思いますが……』

『……え?』

『すみません、上手く言語化できません』

 

 

「……? 大丈夫シエルちゃん? 無理しないでね。帰ったら整備さんに診て貰おっか」

『はい! はい! 副隊長!!』

 

 シエルちゃん……本当可愛いなぁ……。

 内心でそう思っていると。

 

 

 

 

 

 

 不意に背後からガサリ、という音がした。

 

 

 

 反射的にそっちに銃口を向ける。

 音的に距離は10メートル以上離れている、だったら剣より銃で先制する方を選ぶ。

 視界を絞り、ピントを合わせた先には……。

 

 

「アモさん……アモさんや……!」

 

 アモル、という希少種のアラガミが居た。

 滅多に遭遇しない+希少素材が取れることから『幸運のアラガミ』と呼ばれる小型種。

 カサカサっとこっちに気づいたらしいアモさんは、そのまま踵を返してパタパタパターっと……だがものすごいスピードで逃げていく所だった。

 

「あー……あーぁー……まぁいいや……アモさんだしね……」

 

 アモルなら人に直接的な危害は加えない。

 と脳内で勝手に思い込み、ならいいやーと銃を下ろす。

 

 皆が呼んでいる声がする。

 そろそろ帰ろう、隊長だけ置きっぱなしにして行っちゃったから……嗚呼これから任務報告とか書かなきゃだし大変だなぁ、書類仕事嫌だなぁ……。

 

 とか他愛もないことを思いながら私は一歩踏み出……

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 したかった。

 

 

 

 

 

 が、何が起こったのか足元の踏み応えはなく……いや、あったけど……強いて言うなら薄氷を踏み割ったかのような感触をおぼえる。

 つまり……そうゆうことです。

 

 

「ほらやっぱり何かあると思ったぁあぁああああ゙あ゙あ゙゙あああああああああああ!!」

 

 

 

 

「え……えぇえええぇ!? ま、マジかーー!?」

「唯ちゃぁあああん!! そんな……! そんなっ……! そんな断末魔……あんまりだよーーーー!!」

「ナナぁあああ! 諦めんなぁ! まだ死んでねぇよ!! 人間は! そう簡単には! 死なないから!!」

「副隊長ーー!! 今! 逢いに!! 行きます!!!! とぉう!」

「早まんなシエル!!」

「止めないで下さい! 嗚呼、副隊長が……! 私の副隊長が……!」

 

 

 ……という、仲間の声が、どんどん……遠く、小さくなっていくことだけが。

 

 

 落下していく私が、最後に認識した現実だった……。

 

 

 ……これ……どこまで落ちるんだろう……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 
 








 
 


  



















   ▼▼▼







「親方! 空から女の子が!」

「なんじゃとー。飛●石でも持っとるのかーー? あー……ありゃ駄目だー可哀想だけどーーあきらめろーー
 あの高さからじゃー確実にー転落死だーー」

「……神機……持ってる……」

「マジかースゲーなー」

「……神機は……装甲壁を改修する良い素材になる!! 取ってくる!」

「マジでかー行くんかー」



 ……という誰かと誰かの話す声が、最後に聞こえた音だったような気がする。
 
 多分、落下中に意識がどっかに行ってしまっていたんだろう。
 今もこうして思考できているということは……死ななかった、ということで良いんだろう……。






 やったぁ!
 オラクル細胞凄い!! 超スゴイ!!
 ありがとう……! 今だけありがとうオラクル……!! 
 たとえ日頃捕食したりされたり、浸食してきたり、人類滅亡寸前まで追いやったりしていても今だけは感謝だ。
 神機使いじゃなきゃ面影も残さず即死するところだった。
 かなり頭が痛いし、何か後頭部が鉄臭くてヌルっとしてるし、腕が脱臼してそうな気がするけど特に問題はないはずだよねー生きててよかったー……。

 ……と、霞む視界で目を開けると。




 

「……!?」






 そこには、生傷だらけの筋肉質な上半身を晒した青年の姿が。





▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。