ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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すてきな地獄の入り口編
phase40 バアルの恵み(前編)


「……何スか、ヒロキさん……」

「あぁ、レオーニ君……実はな、俺、思ったわけよ」

「懲罰房から出てきたばっかりなのに元気ッスね……」

「ふっ、当然……! 閉所恐怖症の俺はあの後グレム局長の怒りの鉄槌を喰らい、懲罰房にブッ込まれて発狂寸前まで行くには逝ったが、こっそり持ち込んだ……まだ俺に懐いてくれてた頃の我が天使の画像で何とか正気に戻れた、という訳だ」

「……そッスか」

 

 何でオレ呼び出されたんだろうな。という疑問と共に、ロミオは目の前の青年――あのポンコツ副隊長の馬鹿兄貴を見つめる。

 万人受けする系統の端正な顔立ちにはいつだって必要以上に無駄な活気が満ちていた。

 

 ジュリウスの様な品の良さ――悪く言えば、どっか上から目線のブルジョワっぽさや、ギルの様な荒々しさもない。特にコレといった特色はないのだが、強いて言うならば嫌味もない。

 頭脳、身体能力共に優秀。であるのにも関わらずソレを鼻にかけることもなく、そのうえ常に意味不明な自信に満ち溢れている……一口に言うならば、一緒に居れば退屈しなさそう、だがその分疲れるイケメン。

 

 ソレがロミオの神威兄に対する評価だった。

 

 

 

 だが、男の美醜に全く興味のないロミオは品種改良型トウモロコシから作られたポップコーンを頬張る。

 

 

 

「最近、唯ちゃんが何か変だな、って思ったんだよ。まぁ、あの子は十分可愛いから全く問題はないけどさ」

 

 

 そしてこの兄貴、何故だか分からないがこよなく妹を愛している。

 幸か不幸か……一人の人間に対し並々ならぬ、どころか少し行き過ぎ、最早人道を踏み外している疑いすらある変態……もとい、『求道者』たちはロミオも数人見たことがあり、多少免疫はついていた。

 

 しかし、改めてみるとこの兄妹。かなり似ている。

 基本的な顔の作りや髪の質感までそっくりだ。

 

 なのに他人へと与える印象が真逆。

 

 

「確かに唯ちゃんはゴッドイーターになってから兄の贔屓目抜きにしても人間的に大きく成長した。少しだけ強くなったし、逞しくなっている」

「……」

 

 まぁ、そうだよな。と少しだけ過去に思いをはせた。

 

 神機への適合数値だけ見た時には何だこのゴリラ、と少々ド肝を抜かれたものの、実際に会ってみると予想よりはるかに引っ込み思案で、自信なさ気な雰囲気の……どこか卑屈で変な所で実年齢より子供じみた印象を持つ少女だった。

 

 まぁ世の中色んなことがあるだろうし、人格形成の際に起こったであろうことは聞かない方がいいと判断してそっとしておいたが……今となってはそのルーツが分かるような気がする。

 

 多分、コイツのせいだろう。

 

 

「だが俺があの子に感じている違和感はその類のものじゃない。成長するのも、俺に冷たいのも予想の内だ。だが少し誤算があった訳だ……それを今までの経験則、及びにデータから類推するに……」

「……はぁ」

 

 

「唯ちゃん、好きな人ができた――――んだろ?」

 

 

 思わず咀嚼中のポップコーンを誤飲、派手に咽かえり、口腔内と鼻腔で悶絶するハメになった。

 再会して僅かの間にもうソレに気付くとは……恐るべし兄、大した観察眼だ。

 流石腐っても頭脳明晰なオラクル系の技術官……もしくは、シスコンと言うべきか。

 

 

「お、図星かなー? まぁまぁ落ち着きなさいよレオーニ君」

「ゴホッ……ゲホッ……さ、サーセン……だ、大丈夫ッスよ」

 

 水で色々なものを飲み干しながら気持ちを少しだけ落ち着かせる。

 

 

「となれば……あとは、相手……だよなぁ? んー……まぁ予想はつくケドネ」

「!?」

 

 そこで神威兄は不敵にニヤリと笑う。

 何故か寒気がロミオの体中を走り回っていた。

 

 

「まず、あんま絡みがなさそうな一般研究職と事務職は除外でいい。次にあの子の性格からして何か『怖そう』な警備系もナシ。とすると一気に絞り込める」

「は、はぁ……!」

 

 ごくり、と唾を飲み込む。

 

「次に年齢だわ。唯ちゃんのコトだから……年上、だろ? 身近に居る年上の男のどれか……になるともう3択なんだわ」

「……」

 

 

 外掘りがザックザクと埋まる幻聴が聞こえた。

 これではもう、言い逃れができない。

 

 

「まぁここに呼び出している時点で分かると思うけど……残念だけどレオーニ上等兵。君は除外だ。まぁ……君は見た目によらず割としっかりしているし、人との距離をすぐに詰める……割には大事なところには絶対に他者を踏み入らせない、みたいな頑固さもあるっぽいからなー……うちの唯ちゃんにそうゆう器用な真似はできないし」

「あはは……本人の前で言うコトっすかソレ……」

「ん? 別に? だって嫌じゃないでしょ?」

「……まぁ、そッスけど……」

 

 確かに悪い気がしなかった。

 人間関係を築くにあたり、いくらか嘘や虚飾と言ったものが必要だろうが……どうやら彼にはそういったものを用意する必要はないらしい。

 別に言いたくなきゃ言わなきゃいい。言外にそうゆう含みが持たせてあるようだった。

 風変りだ、とは思うがそこに不快さはない。

 

「あとレオーニ君、身長低いしな!」

「ゔ」

「あの子のことだから自分よりデカい男が好きになるって!!」

「……」

「と、なると王手だな! 年上で長身、でもってあの子の身近に居る頼り甲斐のありそうな感じのイケメン、となると……」

「……!」

 

 

 ロミオは心の中で副隊長、もとい唯へと謝罪を開始した。

 ごめん、オレに出来るのはここまでだ……! まさかラスボスがこんな察しの良い奴だと思わなかったんだよ。悪かった、できるだけ応援も協力もするから頑張れ……!

 

 たった今ハードモードに更新されたであろう、少女の恋路に祈りとも願いともつかない思いを込めた。

 

 そして、その名が告げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギルさん、だろ」

 

 

「…………………………………………………………は?」

 

 

「ギルバート・マクレイン隊員だろ間違いない!」

 

 

「……………………………」

 

 

 

 

 前言撤回。

 

 妹馬鹿のシスコン兄貴。

 

 最後の最後、2択でコケる。

 

 

 

「……あーバレてしまったかーそーそーソウナンデスヨー」

 

 自分でも中々出来ない程、完成度の高い棒読みだったが、お兄さんは止まらない。

 

「分かるよー。だよな……仕方ないよなぁ……ギルさんカッコイイしなー。男の俺から見てもカッケェって思うもんな! 何か薄暗い過去背負ってそうだし、人を遠ざける割りには構って欲しそうだし……何よりあの滲み出てくるダメ男オーラ。俺が女なら放っておかないね! ……そう……仄暗い過去のありそうな陰のあるイケメンは特に理由もなくカッコよく見える!!」

 

 いや、そこは男でも構ってやれ。

 

 

 

 

 

 

「ってまぁーもし、もしも、だよーー? 俺がさー、女だったら何か力になってあげたいわ~……ってなって、そのままなし崩し的にフォーリンラブ~! ってするのも有りだとは思うけどさー……

 

 

 ……人が何より大事にしてきた妹に、纏わりつくクソ虫となれば、話は、別」

 

 

「…………お、おう」

 

「いや勘違いしないでくれよレオーニ君。俺は、別に……あの子のことを信じてない訳じゃないんだ。あの子はちょっと世間知らずなところがあるけど……すごく……心配だけど……唯ちゃんの選んだ奴なら認めてやらないこともないって思ってたりするんですよ。

 

 

 

 

 ………………………………まぁ、その前に一回殺し合いせざるを得ないけどな」

 

「マジっすか……ヤバいですね……」

 

「あぁ、神機使いだからと言って何も息の根を止める方法が存在しないこともない」

 

「……ヤバいっすね」

 

「そうと決まれば早速決闘の計画を練らないとな!! 相談乗ってくれてありがとな!! いやだけど、流石の唯ちゃんでも目の前で死なれたらトラウマになりかねないよなぁ……それは可哀想だよなぁ……はぁ……どうしたらいいんだ……今、俺の兄力が試されている……」

 

「……」

 

 

 

 コレで、いいんだよな?

 オレは何も間違っていないよな?

 

 ……ロミオは誰ともつかないものに、そう問いかける。

 

 当然。答えは返ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▽▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  結果から言って、やはり神機兵の運用テストは失敗だった。

 

 研究員さんたち曰く、神機兵α、β、γにはそれぞれ別々の思考制御だか戦闘プログラムだかが組んであり、その比較対象も兼ねていた……とのことらしい。

 だから3体の戦闘データの提出が求められていた為に全部そろってなきゃ意味がない……っぽい。

 私に理解できたのはここまで、そこから先は何を話しているのかさえ分からなかった。

 こうして、見事トチった私たちは始末書を書き、損害報告(全然分からない)をし、局長に廃人寸前になるまで怒られ……その末に。

 本部が出してきた指示に従い――ブラッド、神機兵の運用実績の為に人類の最前線『極東支部』に行くことになった。

 

 もちろん、皆ものすごく嫌がった。

 

 グレム局長もノリ気ではなかったらしく、『あんなアラガミ動物園に行くことになるとは……』と天を仰いでいたし、ロミオ先輩やシエルちゃんは目に見えてビビっていた。

 だが、何故かラケル先生がこの案に賛同を示しているらしく……隊長やクジョウ博士は微妙な顔で硬直していた。人間としてはあんな生命の危機を感じるような魔境に行きたくはない、だが、行かなければならない。という女神への信仰心と、人としての生存本能に板挟みとなった結果だろう。

 

 もっとも、私もロミオ先輩もシエルちゃんもそんなモノ異次元世界の話なので嫌だ怖い行きたくない、とぐずっる権利を存分に行使してやった。

 ……ギルさんとナナちゃんは特に何も言っていなかった。

 

 

 

 だが、どれ程嫌だと叫んだところで現実が覆る訳もなく。

 

 ブラッド全員どころか今回は研究員や一般スタッフにまで全員遺書を用意させて、極東行きが確定した。

 

 

 

 

 こうして、現在極東地域に突入……しちまったらしい。

 

 磨き抜かれた強化ガラス越しに薄く光指す灰色の空を見つめると……。

 

 

 空からは赤い内容物と液体に塗れたアラガミ様が、何かが砕ける様な不快な音と共に激突してくる様子が嫌でもよく見えた。核がむき出しになり、破損しているのが分かる。

 鮮やかな赤い色がガラス越しに広がっていった。

 

 今更だけど、見ていて気持ち良いものじゃない。

 

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

「今のが極東地域の空中に存在するアラガミ、ヨルムンガンドだ」

 

「……あー……はい……」

 

 時々聞こえてくる爆音や地面を軽く揺らす震動は、今この瞬間も警備兵さんたち……もとい戦闘員の皆さんが対空砲火に勤しんでいらっしゃるからだろう。

 アラガミを倒すことが出来るのはゴッドイーターだけ……というのは最早一昔前の常識になりつつある。

 確かに一般の武器でアラガミを仕留めることは難しい、だが、不可能ではない。一般的な兵器だってオラクル細胞や偏食因子を混ぜ入れることによりいくらかアラガミに有効な攻撃を入れることはできる。

 更に今回の様に、核にまで届けば仕留めることすら可能――というのは、フライアの戦闘員の皆さんの戦いっぷりとか、ロシアでオリガちゃんがやっていたことを見ればよく分かると思う。

 

 ただ、神機使いは、より効率的にアラガミを倒すことができ、その核を持ち帰ることができる……というだけだ。何もアラガミを倒すのは必ずしもゴッドイーターでなくても良い。

 ただ、ゴッドイーターを使うのが最も安上がりな方法なのだが。

 

 そう思うと何なんだろうな私たち……と思いたくもなる。

 外では二体目のヨルムンガンドが駆逐されていた。今度は中身を空中散布しながら重力に従い地面へと衝突。

 ……真っ赤だ……。

 

「と、言うわけでブリーフィングを始めるぞー! 今回のフライアの任務はーコレだぁー! じゃじゃーん!

『遺された神機』回収任務~~!」

 

 何がという訳でなのか分からないし、何でお前がブリーフィング仕切ってるのかも良く分からない。

 と言う主観はさておき、クソ兄貴が口を開いた。

 

「今回のクライアントは極東支部様です! 俺達、技術班の運送チームで、のこじんを回収しまーす。いくら神機使いでも素人が触ったら痛い目見るからね~。マジで捕食されちゃうよー? 他人の神機勝手に触った神機使いの末路聞きたいー? 冗談冗談! マジレスすると死んでる神機と生きてる神機って中々区別しにくいんだよねー!」

 

「……あっそ」

 

 だから、技術員に任せておけ、と言いたいのだろう。

 言い方と口調に殺意が湧くが言っていること自体は正しいので特に反論は出ない。

 

「という訳で『遺された神機』の回収はこっちがやります。コレは極東支部に持っていきます。依頼主なので」

「依頼?」

 

 何か思いつめたような顔面で、ギルさんが聞き返した。

 

「そうなんだよー。極東支部に今ここに居ますよーって位置情報送ったら、丁度いい、そこでMIAした神機使いが居るからそいつらの神機を回収してくれって依頼が来たって訳。早速のパシリ任務に俺達は泣きたくなるが、ここで極東支部への協力的姿勢を作っておくことは悪い事じゃない。

 ……んにしても結構難しいことをカンタンにさらっと命令してくるよねー極東支部ー。コレ支部長の顔見えるぜー! ニヤケ面の眼鏡かけた何考えてるかよく分かんないオッサンだな絶対!」

「……遺された神機……か……」

 

 ギルさんが帽子で目元を隠す。

 何だかやたら喰いついている気がする。

 神機にそんなに感情移入する人だったのかもしれない。

 

 

「で、ブラッド部隊についてはその間にアラガミの目を引き付けておいて貰いたい。……ただ、このアラガミっていうのがかなりの曲者でね……討伐する必要ないから、回収が終わり次第すぐ撤退するようにして欲しいです」

「……曲者?」

 

 嫌な予感が致しますが……。

 

 

 

 

 

 

「ハンニバル」

「は?」

「ハンニバル」

「……」

 

 

 大型種。

 接触禁忌種。

 そしてGE界で一時的にこうあだ名がついている――『不死のアラガミ』

 

 

 

「不死のアラガミと戦えって!? 無理……無理……!」

「怖いねー。そんなのが初っ端出てくる極東支部本当に怖いねー」

「副隊長、ご安心を。貴女のことは……私が命に代えましても」

「シエルちゃん……」

「副隊長……も!? な、何ですか副隊長……? あ、ああっ……そんな風にされると私……私っ……! な、なんだか胸が熱いような変な感じがします……副隊長……」

 

 

「仲いいな、お前ら」

「ふっ……仲が良いのは良い事だな」

「女の子が二人で仲良くしてるのって……いいよな……何かこう……平和っぽくてさ……お兄さんそうゆうの大好きです!」

 

 

「唯、シエルに抱き着いても良いけどホドホドにしとけよお前のポンコツが感染ったら大変。それからシエル。嬉しいのは分かるけど顔を赤らめるのは先輩どうかと思う……。ヒロキさんは常識がMIAしてるよく見ろアレは貴方の妹さんです! ジュリウスス!アレは仲良し……だけどさ……と、とにかくそうゆうんじゃねーから! そんな澄んだ目で見つめちゃ駄目だって!!」

 

「ロミオ先輩あんまり無理しないで! 過労死しちゃうよ~!」

 

 

 話が逸れた。

 

 

 

「素直に言ってくれ。ハンニバルと交戦経験のあると言う人は、先生怒らないから手を上げなさい」

「誰が先生だクソ兄貴が」

「唯ちゃん酷い!」

 

「ここは私が頑張りますとも……! ハンニバルと交戦経験のある神機使いは……手を後ろに! 武装解除をした後ゆっくりと後ろを向いて手を上げなさい!! 武器を捨てて! 少しでも反抗すれば撃…」

「シエルちゃんソレ趣旨が違う!!」

「……も?」

 

「で、どうしたらいいんだ?」

「一応、武装解除したけど……」

「ナイフはコレで全部だ」

 

「こんな茶番に付き合わなくていいです!!」

 

 

 

「レオーニ君、隊長さん、あとギルさんか……男性陣全員交戦経験あるのか、流石特殊部隊ー! 討伐したことがある人はー?」

「……お、オレはそのー……」

「その反応は~さてはロミオ先輩、討伐経験はない! でしょ!?」

「大声で言うなよナナぁ!!」

 

「俺もない。接触はあるが……討伐はできなかった」

「じゃあ、隊長さんだけか。凄いな」

 

 流石隊長頼りになるぅ! 

 

 ……ん?

 

「はい、質問です隊長」

「何だ?」

「……ハンニバルは不死のアラガミ、って呼ばれているんですよね……? ソレを一体どうやって討伐したんですか……?」

 

 それこそがハンニバルが接触禁忌と呼ばれる所以。

 核が再生する……倒しても倒してもキリがないという、不死のアラガミ。

 極東地域の神機使いなら特殊処理を神機に施す方法があるらしいけど……。

 ……。

 

 ……まさか、ね……。

 

 

 

 

「あぁ……そんなことか。ハンニバルは核が消失すると代替核を造るために自分の身体を構成するオラクル細胞を再吸収して核を再構成する。

 だから、ハンニバルの肉体を組み立てている全ての細胞を破壊しただけだ」

「……はい!?」

「ハンニバルを構成する細胞全てを破壊しただけだ」

 

 

 

 うわぁああああやっぱりそうだったぁああああ!!

 この人見かけによらず、ゴリ押し戦法と脳筋戦術推奨システム搭載型隊長。

 巻き込まれる部下としては冗談ではない。

 

 こ、個人的には……そうゆうの、嫌いじゃないけど……。

 

 

「……実のところを言うとハンニバルの核1個でいいから欲しいな~ってオレ思ってるんだけどね!!」

「お帰り下さい」

「それも唯ちゃんの神機を回復させるための措置として!」

「……え?」

 

 何それ初耳なんだけど。

 

 

 

「お兄ちゃんとしてもあまり言いたくないけど……。嗚呼妹よ、兄は泣く。

 あのな……唯ちゃん……偏食因子ってなんだか分かる……?」

 

「その位知ってるよ。偏食因子って言うのはアラガミの性質――平たく言っちゃうと自分と同種のものを食べない、とかある一定の物質だけ捕食しない、みたいな『偏食』特性を利用した因子でしょ。

 ソレを複数練り込んだものを応用したのが装甲壁とかになってるんだし」

 

 ソレは散々普段やっていることだ。

 フライアの装甲壁はそうやって出来てるし。

 

「……うん、じゃあもう……」

「で、偏食因子って言うのは神機使いが自分の神機に捕食されないために腕輪通して投与するもんでしょ。つまりオラクル細胞由来の物質でありその恩恵を受けて肉体が強化されてる……のと、あとは私たちが神機の中枢神経を制御している」

「……も、もうそこまでで良いかなー唯ちゃん、あ、あとはお兄ちゃんが説明す――」

「つまり偏食因子の一番の目的はアラガミを唯一葬ることのできる生体兵器『人工的に制御されたアラガミ』である神機を制御し、かつそのアラガミに捕食されない様に『人間の側を適合』させること。

 それが偏食因子であり……偏食、因子であり……? ……神機に捕食されない為に人体に……入れ、て……」

「唯ちゃん……」

 

 

「ま、まさか……そんな……そんな……」

 

「……唯ちゃん……」

 

 

 ちなみに、そのP-66過剰投与、もしくは投与不足の果てがアラガミ化という物騒な現象であり。

 P-66の投与が不足だった場合……私たちは自分の神機に浸食されるor捕食されて肉片と化すという事態が発生しないという……これまた痛そうな死に方が無いとは言い切れない。

 ……神機に、浸食……され……。

 

 

 

…………浸……。

 

 

 

 

 ………………浸……。

 

 

 

 

「あっ……ああああああっ!!」

 

 

 

 

 

「P-66偏食因子、偏食、つまり浸食されない為の防御、えっへへ~どうゆうことだろ~ね~~!」

「同類って見られてるのか、それともすっげーマズそうだと思われてるのかは不明だけど……」

「逆もまた然り――という訳か……」

「……神機に……浸食、か……」

 

 

 

「唯ちゃぁああああん!!」

「やだぁああああ!! そんなの嫌ぁああああっ! な、なんでソンナコトニ!? うわぁぁあああああっ!!」

「どうぞ副隊長! こんなところに手頃な鈍器が!!」

「それ灰皿だなーアランソンさん! よっしゃバッチ来ぉおおおおおおおおおい!! 妹の苦しみは!! 受け止める!! それが!! 俺が俺である理由なんだからぁああああ!!」

「ギシャァアアアアアアアア!!」

 

 

 

 

 

「つまり、前回何も考えず、オエッとなっちゃった唯ちゃんは~……吐くところが何処にもなくって何故か神機(プレデターフォーム)をトイレの代わりにしちゃって~~」

「……んでそのアイツの吐いた≪自主規制≫は当然体液な訳だから……P-66因子が混入していた……」

「で、そのP-66入りの≪自主規制≫をブッ被った神機は想定外の喰いたくもないクッソ不味い物体を口の中に突っ込まれた訳だから弱体化している……つー訳か……」

「……神威技官が起き上がったな、よし、話を続けよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神機も人も『食あたり』を治す方法はただ一つ!! そう! 上からジャンジャン流し込んで!! 下からガンガン出す!! ハンニバルの核は大物だから是非とも一個欲しいのです俺たちは!! と、いう訳でーー!

 

 ブラッドの皆さん今回の任務の目標は2つ。

 遺された神機回収、ハンニバルのコアの回収。

 

 それさえ出来れば問題なし! さっさとトンズラかまそう!! レッツゴー!!」

 

 

「……全く不本意だが総員傾注……。副隊長は今回捕食形態の使用は出来なくなっている。対象はハンニバル1体のみになる。……各員、気を引き締めて任務に当たるように」

 

 

「りょーかーい!」

「了解」

「……ゆーい……?」

「副隊長お気を確かに……」

「……うわぁああああん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 








べ、べつにギル編のストーリー展開を全然考えてない、って訳じゃないんだから……!


か、勘違いしないでよねっ!!








ともあれ、恋愛要素をブチ込んだにも関わらずお気に入り数が減っていなかったことに驚愕を覚えました。懲りずに付き合っていただいて感謝感激の極みです!

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