ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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シエルイベント回です。
















phase36 ペトルーシュカ

 

 

「と、言ったモノノー……申し訳ありません。本当にすみません。現状開発じゃ実戦投入なんか無理でした……けども! ここで退くわけにはいかねーよなぁー! という訳でーー!!」

 

 

 

 

「……実動部隊の『対感応種討伐特殊部隊』に……アラガミのコアを……持ってこい、と……?」

 

「……お気持ちは理解しますけど、お、抑えて下さい……」

 

「…………研究方が……如何に我々神機使いを、いかなる視点で見ているか、がコレでもか、という程……よく分かる事象、ですね……」

 

「い、いえ決して……軽視している訳ではありません……申し訳ありません……こちらの不手際で……はい……」

 

「……いいえ、貴官の責任を言及している訳ではありません。どうか誤解なさらずに。これも任務です不服など言おうハズもありません。……ですが、出撃ごとに我々神機使いが命を削っているのだという現実をお忘れ頂いては困ります。

 以後はこのような事は極力抑える努力はして頂けますでしょうか?」

 

「……断言はできませんが……努力は……します…………」

 

「努力……『は』する、ですか……」

 

「ぜ、全力で頑張ります……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着け、副隊長」

「気持ちは分かるけど抑えて。唯ちゃん」

「何でお前身内に対して必要以上に厳しいの?」

「副隊長……私が言うのもアレですが……幾ら何でも言い過ぎなのでは……?」

「仲良い兄妹だな。身内がフライアに居て良かったじゃねぇか、副隊長」

 

 

 

「皆さんコイツをあんまり甘やかさない!! どこまでも調子乗って付け上がりますよこのクソ兄は!!」

 

 

「まぁー……お前の兄貴だし……? 調子乗るって所は流石血のつながった兄妹――――」

「ロミオ先輩……何か言いましたァア!?」

 

「い、言ってない言ってない! ……ったく……普段大人しい癖に何なんだよアイツ……」

「分かるよ~。初等部に居たよねー。普段暗いくせに急にキレて、クラスの雰囲気を極寒へと落とし込むタイプ? 怖いねー」

「……もー……」

「香月さん印象操作上手だねー。だけどうちの子はそんな子じゃないよー! 唯ちゃんは、人一倍臆病だけど、優しい子だから仲良くしてやってな!」

「報酬次第で、らじゃー!」

「了解!」

「シエル。それは命令じゃないから従わなくていいんだからな!」

「……そうなのですかも……?」

「五月蠅い! 黙ってろクソ兄貴! ナナちゃんもシエルちゃんもこんなヤツと必要以上の会話をしなくていいんだからね! 無理しないでいいよ!」

「え~~? 私はねー。唯ちゃんとお話してるよりかは遥かに有意義だと思うよっ?」

「その……その……副隊長私は……私は……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茶番と私語も大概にしろ貴様等。神威技官、情報共有を続けて頂きたい」

 

「「「「……すみませんでした」」」」

 

 

 クソ兄貴が……。またテメェのせいで隊長に怒られたぞコラ……。もう絶対許さない。

 いつか殺す。吊るす……。

 

 という、煮えたぎる殺意を押し込めながら表面上は気にしてないよー、ハシャイじゃってごめんなさいねーという顔面を構築。

 多分、ナナちゃんとロミオ先輩も同じ演技を実演中。

 

 

 

「あー……じゃあ、まず言い訳から……聞いて下さい」

 

「言い訳? 別名:命乞いってヤツかな~?」

「聞く必要ないよ。殺そう」

「……懺悔の用意は、出来ていますか?」

 

 

 

「女の子たち……清々しい程聞く気ないねーー! だが、それがいい……。でも聞いてくれな……。あのねー!

 

……今回実戦投入ができない大きな原因の一つとしては、関節部位のアクチュータが正常稼働していないということが一番デカいのです。だが、人工知能……及び神機兵用アーティフシャルCNS-αタイプの電気信号パルスやその受容体には異常はない。問題となっているのは、その伝達体の補助である液体触媒の不足によるものです。

 この液体触媒はアラガミエキスって呼ばれているアラガミから採取できる液化オラクル凝縮体からしか精製できません。ので持ってきてもらえると非常に助かりますって言うか無きゃできない。本部や各支部に催促することもできるけど、時間がない。すぐ欲しい。じゃなきゃ神機兵テスト自体を延期せざるを得ない。……そしたら、本部にもっともっと目を付けられる最悪怖い監視員とか送られてくる可能性が微粒子レベルに存在するかも」

 

 

 ……兄の口振りから察するに。

 

 

 隊長も言っていたことだけど……ひょっとしたら、フェンリル本部は神機兵に乗り気じゃないのかもしれない。確か局長は有人神機兵は非人道的だと一部の上層部が批判、退役神機使いたちもそれに同調している……とある。

 退役神機使い達が同調――という所が怪しい。

 

 良く考えると、結局人の力に頼るのならば神機使いと大して変わんない。なら開発する意味はとくにない。だったらギルさんの言う通り……その技術や資源を使って少しでも神機を量産するか、高性能な神機を生産しろ……。

 

 ……悪く考えると、神機使いの存在そのものの有用性が崩れることを恐れている……んじゃないか、という思考が脳裏をかすめる。

 アラガミを倒せるのは自分たちだけなのだ――という誇りに固執している、可能性がある。

 だったら神機兵なんか面白い訳がない……。

 

 

 ……。

 

 

 グレム局長も焦る訳だ……。

 

 本部は『人類を救うという正義』を称えて好意的に支援してくれるわけではない……むしろ運が良ければ隙をついて叩きつぶそうとしてくる。

 ロミオ先輩じゃないけど、この分じゃ人類皆が一丸となって分かり合える日なんか当分来ないだろう。

 それこそ、おでんパンによるラグナロクでも発生しない限り。

 

 

 そして、そんなコトより気になることが、一つある。

 

 

 

 

「……液体触媒が不足した理由は?」

 

「えー……そこはー……技術的な理由でー」

 

「液体触媒が、不足、した、理由は??」

 

「……超濃度アラガミエキスが不足シテマシテー……」

 

「…………理由は……??」

 

「……答えなきゃ駄目ッスかー?」

 

「 理 由 は ????」

 

 兄の目が少しの間右往左往して揺れた後。

 きっぱりと開き直ったのか……真実を告げる覚悟が出来たのか。

 その、セルリアン色の澄んだ目を……こちらへと向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……神機兵の表皮及び強化外骨格組織に特殊なコーティングを……施しちゃったから、なんだよね……」

 

「……どんな??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………防水処理……」

 

 

 

 

 

「!?!?!?」

「!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

「はい? なんでそんな処理やる必要があるんだよ? オレさっぱり分かんねえー……いらなくない?」

「うーん……? 表皮組織、って事は外側だけじゃなくってー中の操縦部……つまり、パイロットさんが乗るところにもコーティングがされてるー……って考えていいのー?」

「も? ……なんでそんなものが……?」

「科学者の考えることはよく分からねぇな……」

 

「いや、俺もねーそう思ったのよ! 何でそんなものやりたがるのコイツ等、って思っちゃったりした訳ですよ! だけどさー、イザやってみるとなると意外と面白くなっちゃってその……あと深夜だったし……徹夜のテンションで色々やっててもう意識ねーやwってなったら気がついたらアラガミエキス全部なくなっちゃってた訳ーー!」

 

「わ、わわわ笑い事じゃないよ、そそそそそんなこここここことで素材を無駄遣いするなんて……」

「ちょオイ……唯ちゃんどうしたの? 何か呂律回ってないよ……?」

「……」

 

 

「そう言えば……私、適合試験の時にラケル先生に聞いたのですが……やたらと防水処理が充実していました……少し驚いたのですが……」

「やっぱりそうか。俺も思った。古巣で初めて受けた適合試験場はあんなに防水防水してなかったからな……まぁ、フライアは変わってるからな」

「え? オレん時は無かったぞ? ナナどうだった?」

「私の時も無かったよそんなのー二人とも何言ってるのー?」

「え?」

「……え?」

「……?」

「……ん~? どうゆうこと~~? ねぇ、何か知らない? 唯ちゃん??」

 

 

 

 

「し、しししししししし知らない! なななななな何の話だかサッパリ!! 私には!! わかんない!!」

「落ち着け、唯……! 落ち着け……落ち着くんだ!」

「知らない、知らない知らない知らない知らないしらないしらないしらないしらない……私は何も知らない覚えてない記憶にないーーーー!! 違う……違うの……違う違う違うちがうちがう……そんなつもりじゃなかったの………そんなつもりじゃ……! そんな……そんなつもりじゃなうわぁあああぁああああああああああああ!!」

「やめろ副隊長! ドサクサ紛れに兄を消火器で撲殺しようとするんじゃない! 落ち着けと言ってるだろう!?正気にもどれ!!」

「ちぇすとぉおおぉぉおぁああああああああぁああぁあぁ!!」

「副隊長ーーーー!」

「止めるな隊長さん! 俺は……俺は……! 受ける! だってソレが!! 妹の愛なんだッ!!

 

 俺を信じて……」

 

「うぉらぁあああああああああぁあああああ!!死に晒せぇええええええええええ!!」

 

 

 

 目の前が真っ赤になり、ガッシャァアアアン!という壮大な音が――――響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱお前らおかしいよ……」

「……ねぇねぇ、隊長と唯ちゃんは何か知ってるってことなのかなー? 二人だけの秘密ってヤツですかー?」

「ふ、二人だけ……秘められた密室での……!? も、もしかして……」

「シエルそれ曲解だからな」

「……どうやら起き上がったみたいだぜ、あの兄さん。頑丈な兄貴だな。情報共有続行と行こうぜ」

「うるせぇ性犯罪者。テメェ何一人だけマトモですってツラしてんだよゴリラの癖に」

「喰いついてくるんじゃねぇよ面倒なロミオだな、話が進まなくなるだろうが黙ってろタコ」

「もうお前なんか知らねーよこの変態仮面クソゴリラ」

「だから何だよその仮面って……仮面……仮面……? 何か忘れてる気が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、その不必要な『防水処理』をしたせいで……足りなくなった、でいいんだよね? アラガミエキスが。アラガミエキスが。何で全くそんなものを作るんでしょうねー、あーあーあー……ケッ」

「そう言うなってーイモウトよー……研究者なんて多かれ少なかれ皆悪ノリが大好きなんだよ!! そうゆう人間の好奇心が人の世界と未来のと破滅を引き起こすんだって!!」

「破滅は駄目だろぉ……お兄さぁん……!」

「……もー……」

「とにかくソレを持ってくればいいんだろ? なら話は早いじゃねぇか」

「そうそう! そうゆう訳だからチャチャっと持ってきちゃって下せぇブラッド様たち……ぐへへへ……もうそれでさっさと神機兵の関節トゥルントゥルンにして出撃するからさーそれで万事解決だよ」

 

 

「……防水処理……気になるなぁ~~」

「ナナちゃんこっち見ないで……!」

「……まぁ……いいよ……。私、吐かせる方法、なくは、ないから」

「尋問ですか? 手伝いますとも!」

「えへへへへ~~シエルちゃん! 絶対唯ちゃんをゲロらせようね!」

「は、はい……!」

 

「え……!? えっ……!?」

 

 

 という感じで収集がつかなくなってきたその頃。隊長がスクっと立ち上がる。

 

 

 

「本作戦の目標は目標ザイゴード30体。単純計算で一人当たり5体の討伐になる。よって広範囲索敵を為部隊を二つの分隊に分ける。α班、ロミオ、ナナ、俺に付いて来い。β班シエル、ギル……そしてお前だ、副隊長。陣頭指揮を任せる」

 

「りょ、了解しました……」

 

 陣頭指揮……字面を見ればかなりの大役……。

 ……いや、副隊長としては当たり前なのだけれども。

 

 

「忘れるな、今回はあくまで採集任務だ。だが不必要な戦闘を避ける必要はどこにもない! 各員、己の意志と判断に従い行動せよ。ブラッド部隊、出撃!」

 

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 まぁ、そんな簡単に行くわけがない。

 現実はいつだって残酷だ……。

 

 

 

『ブラッドβ。交戦外の非討伐対象――中型種、ヤクシャが戦闘音を聞きつけもの凄い速さで接近中。……120秒後そちらのエリアに入ります』

 

「やっぱこうなりますよねー……あはははは……デスヨネーー……」

 

 もうヤケクソだ。

 

 ……戦闘中のブラッドαに通信を繋ごう、助けに来てもらおう……と思ったが、何とブラッドαもヤクシャと交戦中っぽい。隊長……何のためらいもなく、討伐するって選択をしたんだぁうわぁ……。

 

 ……すでに通信機越しには悲鳴と怒号と狂笑が入り乱れている。

 

 

「想定より近かったな、片付けに行くぞ」

「待って下さいギルさん!」

「ん? どうした? 行かねぇのか?」

 

 何言ってんでしょうねこのクソゴリラは。

 何のためらいもないのか。ヤクシャって中型種だってコト、人間の4倍くらいあるデカい化け物だってこと、忘れてんじゃないかなこの人……。

 だが、こっちはまだ規定のノルマを達成していない状況。

 

 

 そう……このまま帰れば確実に死……!

 

 

「そうですギル、非討伐対象と接触した場合一時的に退避という作戦内容だったハズです」

「まぁ……だが、俺達の仕事はアラガミの討伐だ」

 

 ナイスだ、シエルちゃん。もっと言ってやれ。

 

「作戦通りに行動できない様ではより強力なアラガミと戦うことはできません」

「……だが、臨機応変に戦うべき場所もある」

 

 ……。

 

 

「ですが……!」

「今がその時だ。俺はコイツを討伐するべきだと思っている……そして、同じく作戦行動を共にする以上お前にも来て欲しい……手ェ貸してくれ」

「……それでも……貴方の言う事に賛同はでき……かねます。このままでは混戦に突入してしまいます! そうなれば理論的に考えて任務達成の確率が減少――」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、お前はどうしたいんだ? ――――シエル」

「っ……! わ、私は……私、は……!!」

 

 

 

 

 

 

『落ち着け二人共。現場での指揮権はブラッド-β4にある』

『はっ! ザマアみろゴリラー。怒られてやんのー!』

『そうそうー、シエルちゃんそんなのとマトモに会話なんかする必要ないよ~』

 

 

 突如として入ってきたα班たちの通信に、思わずほっとする。

 このままこの二人の議論……もとい口喧嘩はどうなることかと思った。

 

 ……きっと、この二人、根は温厚。

 だからこそ、お互い相手を傷付け合うようなことは――――したくなかった、ハズだ。

 

 

「……悪かった」

「申し訳ありません……」

 

 

『お取込み中失礼ですが、ヤクシャ侵入まで残り30秒です――さっさと決断すべき、かと』

「分かってるんでプレッシャーは辞めて下さいフランさぁん……」

『とか言ってる間に残り27,26,25……』

「あーー!」

「副隊長……」

「……どうする?」

 

 って言われても……。

 どうしよっか……と脳内が凍り付きそうになった時、隊長からの通信が入る。

 

 

 

 

『小型種を分断し先に対処するか、それとも、まとめて一気に相手にするか―――副隊長、お前が決めろ』

「私がですか……」

『現場での指揮権は貴様に委ねた。言っただろう? ……己の意志と、判断に従え――と』

「……」

 

 

 

『どうやら休憩は終わりの様だな……。α総員、氷結バレッド装填!! 既に片腕は落とした!! ゼロ距離射撃で銃弾を送り込んでやれ!! 傷口を狙って撃てぇぇええ!』

『いえすさー!』

『オレ……アラガミ相手とはいえ流石に非道な気がする……』

『気にするな! どうせ奴らに痛覚など存在しない!! あっても俺は気にしない!! 

 

 

 ……アラガミとしてこの世に生まれたことを後悔させてやれ!! 総員吶喊!!!!』

 

 

『『うぉおおおおおおお!!』』

 

 

 ……。

 

 ……相変わらずヒデェ……。

 

 

「副隊長!」

「決めたか?」

「あ、あー……そうでしたー、ちょっと待って……」

 

 一瞬だけ逡巡。

 だが躊躇ってる暇はない。

 ……すぐに決めなければ、この現場を動かすことはできない。

 

 自分の意志へと問いかける。

 

 

 それで自分は、どうしたいのか……を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブラッド分隊-β5、β6傾注!! これより接近中の中型種ヤクシャを迎撃する! 交戦域には小型種が2体、コレの討伐にβ6。ヤクシャ迎撃にはβ4とβ5で当たる!」

 

 

 

 

 

 

「β5、了解した」

「待って下さい副隊長!」

 

 シエルちゃんから制止の声が放たれた。

 

 

「戦力を分散する――――のですか?」

「そうだよ、シエルちゃん……ザイゴート2体、一点狙いで狙撃すれば、難しくはない。討伐後はβ4に合流。中型種討伐に加わること」

「ですが……戦力の分散は……! やはり反対です! ここは中型種よりも任務を優先した方が――」

「コレは命令です」

「……っ」

 

 

 命令、という言葉に弱い――というか脊髄反射してしまうらしい、シエルちゃんの背筋が伸びる。

 自分でも卑怯だとは思うけど……今はグタグタと議論している時間がない。

 本当時間が無い。

 

 それだけだ。

 

 

 

 

 

「――だが、それでも貴女が成したいと願うことがあるならば、止めはしない。……シエル・アランソンに告ぐ。

 

 

 もし私の命令に不服があると言うならば……今すぐ、ココで後ろから撃ちなさい」

 

 

 

 

 

「なっ……!」

「おい……!?」

 

 

 

 ……。

 

 

 ……あるぇ……?

 

 ……どうしてこうなったの……?

 

 

 

 

 ……………………今更引っ込みはつかない。このまま一気に押し通るのみ。

 

 

 

 

 

「私は1体でも多くの素材を確保したい、それが神機兵の完成に近づくなら中型種だろうが小型種だろうが関係ない! 一刻も早く神機兵を完成させ、実用段階に持っていくことが私の意志です! 推服できないのならば今すぐここで撃ちなさい!

 

 ……貴女が、自分の意志で決めることだよ、シエルちゃん」

 

 

「……副隊長……」

 

 シエルちゃんが、小さく囁いた。

 こんな命令があるなんて……と。

 

 それが一体どうゆう意味なのかは分からないが……確かに言えることが、ある。

 

 

 

 私の知っている『命令』は――――いつだって、誰かの為にと思う心と、確固たる意志が存在していた。

 

 

 

 

 私はその背中を追った、だけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『盛り上がってるところ悪いけどα2からβ4へ……ギルのバイタル情報をよく見てやってくれ……あんま無理はさせないでやってくれな……考えたらギリギリで原隊復帰したようなヤツに任務なんてこなせる訳――』

 

 

 ロミオ先輩からの緊急回線。

 そして、そこに乱入してくる―――ブツッという、雑音……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ロミオ……。あまり 副 隊 長 に 余 計 な 情 報 を 与 え る な よ ?』

 

 

 

 

『そうだよ先輩~~。き っ と ギ ル な ら 大 丈 夫 だ よ 』

 

 

 

『お、おい待てソレは俺の通信機だちょっと待……うぁああああああ!』

 

 

 

 

 威圧感、というか良く分からない恐怖感……。

 

 ロミオ先輩の通信はもう死んじゃったけど……その残された言葉を頼りにすーっと横目でギルさんのバイタル情報を閲覧する……。

 

 

 

『ギルバートさん。一撃でも喰らったら速やかに死にますね。ご武運を(嘲笑)』

「マジですか!? マジデスカー!? え? なんで!? なんでそんな体なのに戦場に出てきたんですかこのゴリラはぁああああ!!」

「神機使いになった時から……俺はもう……覚悟は、できてる……!」

「カッコよく言った所で状況は絶体絶命!! 最初っから出てくんなよギルさん 下がってろギルさん!!」

「タダじゃ……死ねねェんだよ…………一匹でも多く道連れにしてやらぁぁあぁあ!!」

「怖っ……!? 怖ぁあ!?」

 

 よくよく考えたらコイツ、数日前までミイラだったんですよね!? そんな奴が世紀の大発掘で現代に蘇ったとしても! 今! 立ってるだけでやっとなハズですよね!?

 だったらそんな体なら……最初っから戦力外だから来なければいいのに……本当来なければいいのに……!

 何なのコイツ死にたいの!? 

 ……内心、逆ギレが止まらない。

 

 

 

『その意気だギル。…………お前なら逝けるさ』

『今こそ年貢の納め時~~♪』

『ジュリウス? なぁジュリウス?? お前誰だよ……? ジュリウスだよなぁ……? ジュリウスなんだよなぁ!? ナナも悪乗りするんじゃねぇよ! 頼む唯、もうお前しかいない!!』

 

 

 

「……ぜんしょしまーす…………」

 

 

『唯ぃいいいいい!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……」

「……」

 

 

「あ、あのねシエルちゃん……その……さっきの任務は無かったことにして下さい……アレは私じゃなかった。何か別の誰かが憑依していた結果なんです、時々あるよね、雰囲気とかに流されてっちゃったりしてたまーに誰だ自分?ってなるのってねーよ、よよよよくあることだよね!? ……ね……?」

 

「……」

 

 

 

 

 ……駄目だこりゃあぁぁ……。

 

 

 

「副隊長」

「……何でしょう、アランソンさん……」

 

 

 状況から整理しよう。

 

 まず、あの後ヤクシャは……超ギリギリで何とか討伐できた、という結果になった。

 瀕死のギルさんを止め、ブラッドアーツをぶっ放し、瀕死のギルさんを助けに行き、ブラッドアーツを空振りし。ギルさんを殴って止めて、ブラッドアーツを不発にし、やっぱりギルさんを宥めて……。

 

 ……合流したα班と一緒に討伐して貰った……。

 

 

 い、色々あったが結果的に、ザイゴート30体討伐の任務は達成。

 規定量の素材採取は成功した――――と言っていいだろう。ついでにヤクシャ素材の確保も出来たことだし、悪い結果にはなっていない。

 ……が。

 

 

 

「貴女の行動は理解に苦しみます……」

「忘れて下さい……忘れて下さい……申し訳ありませんでした……」

「駄目です。忘れませんとも!」

「なんで!?」

「アレだけのことを言ったんです……簡単に……忘れられる訳……ありませんとも……」

「待って、どうして頬を染めているんですかシエルちゃん!? なんで意味ありげのモジモジしてるんですかシエルちゃん!? ちょっと落ち着いて話をしよう私たちはきっと分かり合えるはずなんだからぁ!!」

「……も?」

「もー!」

 

 という冗談はさておき、と急にマジメな顔つきにシエルちゃんは変貌する。

 

 

「ですが、納得がいきません。理論的ではない……あの命令は……作戦の第一目標とは、外れた指示でした。あなたも理解していたハズでは? ……私情が、入り込んでいることを」

「……おっしゃる通りです……」

「もぅ……だったら、次からはより安全性を兼ねて、達成可能な戦術を一つ一つ確実に組み上げていきましょう。私情を挟み込むことは冷静さを欠く判断を下すことになります……以後は注意してください」

「……は、はい……」

 

 反論の余地がまるで、ございません。

 完璧な理論です、シエルちゃん……。

 

 確かに自分の指揮能力の甘さと温さには我ながら情けなさを禁じ得ない。

 ……だって誰かを使う、なんてことやったことないし……。隊長みたいに生まれながらにして王者の風格を身に着けているわけじゃない。もしくは、シエルちゃんの様に徹底した理論を身に着けたわけでもない。

 ……それどころか、分隊指揮の最中ですら、仲間の命を預かっている――という重圧にあっぷあっぷしていた節さえある……などとすべてが終わった後に理解している。

 

 結局私はどうあがいても、凡人の域を出ることが出来ない……むしろ多分平均以下……なのかなぁ、とさえも、思ってしまう。

 

 シエルちゃんは続けていく。

 

 

 

 

「ですが……副隊長。やはり、私は作戦の指針から外れるような行動を承服することはできません。……規律と軍律の徹底が成っていない軍隊などただの烏合の衆にすぎない。各員が自分の役割を認識しつつ……組織として行動すること。それこそがあるべき姿なのだと考えます……ですが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何だか理想論っぽく聞こえるよ……シエルちゃん」

 

「……副隊長?」

 

 

 私らしくもなく、何故か声に力がこもった。

 

 

「シエルちゃんの言ってることは正しいと思う……けど、正しすぎる。正論だけが、正解とは限らないよ。

 軍律も規律も大事だけど……。

 …………人は、弱い」

 

「……ですから、規律があるのです。弱い人間が迷ったりしない様に、理性と『正しい』理論に従える様に徹底すれば不測の事態に陥っても――――」

 

 

「無理だよ……そんなの。だって、……その規律と理論に正しさはあっても――――『弱さ』は加味されてない……違う?」

 

「……っ」

 

 

「シエルちゃん。何も知らない私が言えることじゃない、と思うけど……でも、何も知らないからこそ、言えることもあるよ…………弱さを強引に切り捨てた先の選択って……どうなると思う?

 ソレが本当に正しいことなんだって――――言い切ることはできる?」

 

 

 

「……」

 

 

 

 一瞬だけ、シエルちゃんが静かに止まってしまった――ように思えた。

 ……言い過ぎちゃったのかもしれない――と僅かな後悔が襲ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では……では…………私が……私が、今まで学んできたことは……『何』だった、と言うのですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シエルちゃんが苦悩まみれの声色で呟いた。

 

 ……どこか苦い表情が浮かんでいる。

 

 ……きっと、本人も、心の底では……理解していたのだと――――思った。

 

 

 

 

 

 

「何が正しいのか分からないこの世界で……何にも縋らずに、自分だけで何かを決断出来る人間なんて……そうそう居るハズもない。人は……どんどん楽な方に流れていくもの――ではないのですか?

 だからこそ……規律で縛り上げてでも、何かに脅迫されてでも……正しくあろうと、強くあろうと! するべきではないのですか!? 私はそう信じて……!」

 

 

 

「……人が楽な方に流れていくのはブラッドの誰よりもよく分かっているつもりだよ、特に私は! でも、それじゃ……駄目だと思う。そうやって、思考を放棄したら最後…………何も自分で考えられなくなる」

 

「……」

 

 

 何も考えられなくなることの恐怖は……良く分かっているつもりだった。

 

 自分で、自分の人生を、なにひとつ選ぶことが出来ない。

 ……自分の人生を生きることが出来なくなる。

 

 生きながら、ゆっくり死んでいくような……じわじわと息がつまっていくような、窒息感。

 

 ……それだけは、嫌という程、知っている。

 

 

 

「それじゃ駄目だよ。……何かを守り抜くとか、何かを成し遂げたいとか……そうやって、自分で決めなきゃ何も成すことはできない。自分で考えて、自分で決める――――それが意志の力だって」

 

 

 それこそが、人間に与えられた最大の武器――なんだって。

 

 

「だから……」

 

 

「……でも……でも……! 私……は……」

 

 

「……」

 

 

 少し、考えさせてください。

 

 ……と、シエルちゃんはそれだけ口にして……部屋に戻ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 ……自分がどれだけ情けないか……そんなことは良く分かっている。

 

 シエルちゃんは何も悪くない――――むしろ、ある意味正しい。

 ……何も努力してこなかった私が、今まで散々頑張ってきたあの子を否定する価値なんかない……そんなことは百も承知。

 

 

 だからこそ、シエルちゃんには、ちゃんと意志を持って欲しかった。

 

 

 

 ……シエルちゃんの戦術や戦略、軍事に関する知識は本物だと思う。

 だから……確固たる意志さえあれば、私なんぞよりも、ずっとずっと優秀なゴッドイーターになれる。

 

 ……なれる、はず。

 

 

 

 

 今のままじゃ、ダメなんだ。

 

 私も、シエルちゃんも……今のままじゃ……神機兵と大差ない。

 命令とプログラム通りに動くだけの存在と……何も変わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初めて手にした意志は、あまりにも重く。

 

 手足は鉛の様に、動いてくれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブラッド隊は、内に抱えた問題を解決できないまま――――神機兵の無人運用テストは開始されようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






本日19時BS11にてGEAメテオライト編12話です!!




お気に入りがジワジワと伸びてきている今日この頃、読者様方大変ありがとうございます! あんまり期待しないで読んでいただけると嬉しいです!










11話のおさらい(箇条書き)


・グラスゴー夫婦とギースとインド人集めてメテオライト開始
・よろしい、ならば洗脳だ。

・支部長が何かやって作戦がゴタゴタに。(A班バジュラ祭りがシユウ祭りに、防衛班カムラン狩り、貴重なギースは何やってんだ……?)

・リンドウさん、ダム住人を守りに行く
・今出撃できるGEは貴様しか居ない! 出撃しろ空木!
・ポンチョを着るレンカと300秒でニュー神機

・アラガミ化するアイーシャさんとソーマ爆誕(Cパート)





……どうなるんだってばよ……。


 考えられる最悪の結末としてはレンカアラガミ化です……。本編とCパートは地味にリンクしているから無きにしも非ず。
 
 でもって色々あって第一部隊に討伐されたレンカ君からコアを取り出して新しい神機へそれが受け継がれ、彼の意志と彼らの遺志を受け継ぐ『英雄』が現れ……という展開になったらウンバボ族は絶対神を薙ぐ彼の者を許さねえ。加賀美隊長、是非鉄槌を!(被害妄想)









ともかく、主人公も視聴者も! 雌伏の時は終わった!

そろそろ無双してもいいのよレンカ君!!


メテオライトは!! 終わらねぇ!!!!
























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