無人神機兵護衛任務の鼓動が聞こえてきてます。
35話です。
…………局長室に呼ばれた。
今度は私が何をしたと言うのだ……また怒られるのか……いつまで怒られなければならないのだ……
と戦々恐々としていた私だったが、呼ばれたのはシエルちゃんと隊長も一緒だという。
3人揃って説教!? ――――という、想像もできないこともないが、一応役職だけ考えると実動部隊の隊長と副隊長、そして参謀。
……今から何が始まるのだろうか。……ブリーフィング?
扉の前に立つと、男女が言い争う声が聞こえてきた。
今すぐには入りずらい、ので、隊長の判断でドア前で待機する。
「レア博士……神機兵の無人運用のテストに、どうして反対なさるのです?」
「反対ではなく、時期尚早と申し上げているだけです……グレム局長も、なぜ許可を出したのです?」
「有人神機兵の運用が非人道的だと、本部の連中が難色を示しとるんだ。退役神機使いの連中もそれに同調しとるようだ……ここである程度の運用実績がないと神機兵計画自体の縮小も免れんのだよ……。レア博士には申し訳ないが、ここは私に免じて……な?」
「――――無人運用なんて、まだ一度も制御できていないのに……ですか?」
「シュ、シュミレートでは正常動作確認できているのですよ……!」
「実践はシュミレーションとは違います……果たして本当に上手く行くのかどうか」
「しゅ…………シュミレート段階ですらテストパイロットを意識不明に追い込む有人型よりかはいくらか人道性と安全性という面では保障できると思うんですがねぇ……?」
「何ですって……薄毛眼鏡の癖に知ったような口を!」
「か、かかか髪の話は今関係ないではアリマセンカ!? やめて頂きたい! やめて頂きたい!」
「毛根も根性もないハゲは黙っていなさい! グレム局長、もう一度ご再考を! このような髪のない人間の作った無人ドローンの実践投入が結果を出せるとは毛頭思いません! 毛髪もありません! 育毛余地もない!」
「じ、自分が女だからって……! ふ、フサフサだからって……! いくら知的で可憐でホタルの様に気高いラケル先生の身内とて容赦はしない……毟りますぞレア博士ーー!」
「やめたまえ!! クジョウ君やめたまえ!! 女に手を上げるな!! それでも貴様は男かこの馬鹿モンがぁあーー!」
「うわぁああああん!」
「そしてレア博士! あまり髪髪言うもんじゃない!! 髪のないこの世界にも救いは必要なのだよ!」
「……申し訳ありません……失礼いたします」
「本当失礼なお方ですよ!! 髪がないからって……まだ私はハゲてはいないのにぃ……くっ」
「クジョウ君……諦め給え…………すべては時間の問題だ」
「それがこの世界の定めというのならば……な、なんと残酷な……!」
…………。
……入り辛ぇ……!
「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ、以下2名入ります」
行くのですか隊長……。迷いはないのですか隊長……。
と、踏み入れた部屋は非常に住み心地の良さそうな部屋であり。壁には大量に勲章が並べ掛けてあった。
床には赤い絨毯。そしてフェンリルのエンブレム、フライアの紋章……その他色々がいくつも飾ってある。
今は曇った空が見える大きな窓を背後に、グレムスロワ局長が堂々と座っておられた。
その傍らには顔色の悪い白衣の中年男性。
広い額。薄い髪。
確か前に温泉で会った……クジョウ博士、とかいう研究職員さん。
……と。
「なんで貴官まで居るんでしょうかねぇ……? 神威技官……」
「フッ……嫌だなぁ~~、モシカシテ忘れちゃってるのー? ああ愛しの我が妹よ……。お兄ちゃんは神機兵の兵装チームの一員なのだよ! つまり、今回の件にも無関係って訳じゃあないっ!」
「帰って」
「副隊長……今は私語を慎め」
「兄妹仲が良いのは構わんが、時と場合を選べんのか貴様ら」
……W上司に怒られた。何という理不尽か。これも全部兄の所為だ。
私は悪くないから謝らない。
「既にラケル先生から聴いているとは思うが……神機兵の無人運用テスト及び、その護衛をしてほしい。詳しくは……あー…クジョウ君」
「はい、えーっと……会……ジュリウスさんと、シエルさんは確かラケル博士とレア博士の……」
言葉に詰まるクジョウ博士の言い分を察したらしい隊長が続ける。
「えぇ、我々は両博士に育てて頂きました。ですので、テスト段階の神機兵に搭乗した経験もあります」
「あぁ! ならば話が早い。要するに神機兵が戦う様子を観察しつつ、万が一の時には守って欲しいのです。なるべく一対一で神機兵とアラガミが戦う状況を作りたいので、まずは周辺エリアのアラガミを一掃していただきます」
話を聞いた隊長とシエルちゃんが僅かに眉を顰める。
「……露払いをしろ、という事ですか?」
「流石はブラッド隊長さん。……頭の回転が早くて助かりますね、チーフ?」
「えぇ、その通りですよ!」
研究職な男二人は、喜色を張り付けた顔をしていた……が、隊長のほうの表情は、苦い。
何か気に障るようなことがあるのだろうか、と一抹の不安を覚える。
……それは、シエルちゃんも同じようだった。鉄面皮を被って無表情を装っていることは分かるが、その目はどこか晴れることがない。
「そういうことだ。今回の主役はあくまでも神機兵だ、ということを肝に銘じておけ……いいな、主役は神機兵だぞ? 貴様らではないのだぞ?? くれぐれも余計なことはするなよ? 絶対するなよ?……特に神威」
「俺スかー? 何スかー?」
「貴様ではない! 妹神威!」
「局長! お言葉ですがそこのクソ野郎と私を同列に扱わないで頂けませんか!?」
「そんなこと言われるとお兄ちゃん寂しー」
「うっさい帰れぇ!」
「ややこしいぞ貴様らぁ!」
机ダァン!
局長の鉄拳槌が打ち下ろされた。
「ご、ごめんなさい……!」
「面目ないです……」
怒られると萎縮します。
昔からそうです……。
「いいな……『ブラッド副隊長』……? 貴様は再三否定するようだが、研究職に家族が居る以上……ブラッドの誰よりもよく理解している筈だ。神機兵1体1体にはかなりの費用がかかっているんだ。腕の1本でもへし折ってみろ。莫大な修理費を請求してやる……」
「そんなぁ!? ……具体的には幾ら位……」
企業秘密につき伏字。
だが、本当にかなりの額だった。
「無理です! 私そんな払えません……!」
「だから何も余計なことはするな!! そして神機兵を守り抜け! で、実績を上げろ!!」
「何という無茶なことを!?」
「貴様ならばできる!!」
「ここで応援!? まさかの応援!?」
「唯ちゃんなら出来る!」
「うるせえ! 兄貴は黙ってハゲてろ!」
「髪の話は今関係ないじゃありませんか!!」
「イチイチ喰いついてこないで下さいぃ……! ――――大丈夫、九条先生はハゲじゃないんですから……ちょっと薄くたって……私、全然気にしませんよ? だって博士は博士なんですから……」
「……えっ?」
「どうしたのかねクジョウ君、何か嬉しそうだなクジョウ君……頬を染めるんじゃないクジョウ君!」
「…………ブチ殺すぞ荒廃地が…………」
「何ですか、べ、べつに嬉しくなんかないのですから勘違いしな……いぃいぃい!? ど、どうしたのですか神威君!? い、イキナリ私に襲い掛かってくるなんてぇ!? あ、ああああ゙あ゙あ゙あ゙! 辞めてください!そんな乱暴にしたら髪がぁ……頭がぁあーー! いやぁあああああ!! 抜かないでぇえええええ!!」
「……」
ぶちぶちぶちぃ! と無言のブッチンと共に、若干の頭皮と薄い髪がまばらに舞った。
という、茶番劇。クジョウ先生のみ人生の悲劇に対し。隊長の表情は晴れない。
むしろ険しい。
「……了解しました。クジョウ博士、後程ブリーフィングで」
「ひっく……ぐすっ……ひどい……ひどい……こんな話って……うぅぅぅ……」
「では後程」
…と、恐らくは何かしこりを残したまま――話は終わってしまった。
……何か解消しきれていない、何かを抱え込んだまま。
▼▼▼
隊長から各員へ今の委細を伝えるべく。
皆して庭園に召集されていた。
「まず、本日付けで、重体につき一時除隊扱いになっていたブラッド隊員、ギルバート・マクレインが原隊復帰した。ギル。死の淵からよく帰ってきた、その幸運と精神力に敬意を表する」
「……あぁ、ギルバート・マクレイン、本日より復帰する……だが……」
何故か歯切れが悪いマクレイン氏。
浮足立つ我らブラッド隊員。
「俺は……何か……やらかしたのか……? …………ここ数日間の、記憶がないんだ……」
「気にするな大したことじゃない」
「ア……アルツハイマーじゃねーの? ……ははっ……幾ら何でも若年性すぎるって……はははは……」
「……お前ら何か隠してねぇか?」
「ギルはその……しばらく、魔王に……そう、正義の魔王に体を乗っ取られていたのです……魔王が……」
「悪運強いね~~あの状況から生還するなんて凄いよ~~……腕が鳴っちゃうんだからー!」
「…………本当に、何か隠してないか?」
「……ギルさん……」
疑わし気なギルさんは一体どこまで記憶が抜け落ちているのだろう……。
確か、ラケル先生がのたまうには……。一部記憶障害が発生するかもしれない、と言われていた。
……。
とにかく、今は――だ。
「ギルさん、過ぎ去った過去はもう戻ってきませんし、戻れません。二度と……。あの時に戻れたら、って人間後悔することはあると思います。……でも、だとしても、私たちは……未来に向かってでしか、進むことができない…………」
「……副隊長」
「……未来に向かってしか、進めないんです」
「……………副隊長……」
「進めないんです」
「……そんなもんで誤魔化されるとでも……」
「進めないんですよ……ギルさん。いつまでも終わったことに固執しない!! はい、隊長!」
「……おい」
「次のブラッドの作戦行動は神機兵護衛の任務になる、無人型神機兵のテストを行う。中型種と無人型が1体1で戦える状況の構築……そのための護衛と、周辺の脅威の一掃の命令を受けた。……各員、神機兵の資料に目を通しておく様に」
「……はぁ!? 何だよそれ!?」
「…………何かね~」
「……」
「え……? ちょ……皆、どうしちゃったの……?」
ブラッドの一同の不満タラタラの声が上がる。
まさかの展開に驚く私。
ナナちゃんはともかくとして……ロミオ先輩やミスター・お人好しまでもがカチンと来たようだ。
……え? 何で? 皆なんで……?
隊長とシエルちゃんも溜飲が下ってないみたい……だ。
「皆不満があるなら……言ってくれないと……」
「……ねぇ、唯ちゃんは何とも思わないの?」
「何ともって……何を?」
「……はぁ~……やっぱさ、お前何か『違う』よなー……まぁしょうがない、か」
「え……エェー……そうなんですか先輩……」
身に覚えのないディスられが発生している。
……一体、何がいけないと言うのか……。
「率直に感想を口にするんなら……ふざけんな、としか言えないな……。あんな木偶のお守りをするなんて冗談にしても笑えねぇ……そんなものに投資する余力があるんなら……」
「ちょ、ちょっと待って下さい! だって神機兵の開発は今、必要に迫られているんですよ……? 貴方だって見てきたハズじゃないですか……」
「……」
ギルさんが黙りこくる。
そう、実際どれ程、神機兵が望まれているのか――――ブラッドのみんなで見てきたハズだ。
フェンリルから受け入れを拒否された難民が……どんな手段を使って『自衛』せざるを得ないのか。
技術が遅れている支部が……どれ程の苦境を戦わなければならなかったのか。
あの難民たちや、ロシア支部での戦いで見てきたハズだ。
そして、今でも彼らの闘いは……まだ終わっていない。
神機兵を見て思ったのは、『コレ』が配備できれば、あの人達だって……何に縋らなくても自衛することができる。ロシア支部だって、数が少ない神機使いに無理をさせなくて済む。
だから、有人にしろ無人にしろ早く完成させるべきなんじゃないのか……。
……それが、私たちが人類の為に果たすべき義務なんじゃないのか、と思っていた……。
……のは、どうやら私だけだったらしい。
「……副隊長、逆に聞く。……ならアンタはコレを1体作る資源で……何台の神機ができると思う?」
「…………え?」
ギルさんの口から出たのは、至極当たり前のこと。
さっき聞かされた神機兵の値段が――――思いだされる。
「詳細は分からないが、俺が見る限り……人工コアが最低でも3個使用されている。神機の同一とは限らないと思うが材料は似たようなもんだろ。だったらその分見積もって3台分の神機が製造できる――だろ? 3台神機が出来れば小隊が1つできる……小さい支部1個なら十分守っていける程度の、な……」
「……で、でも……」
ギルさんの理論は、確かに自信に裏打ちされていた。
……まるで、見てきた、とでも言うみたいな口振り。もしかしたら……5年の神機使い歴の中で、そういう場所に居た経験があるのかもしれない……と憶測してみる。
「前に行ったロシア支部だってそうだ。あいつらが必死こいてやっと直した装甲壁……コイツが1体解体するだけで、同じ修復ができる」
「……」
「唯、悪いけど今回だけはオレもゴリラに賛成。……神機兵ってさ、アラガミを倒すために作られた起動兵器なんだろ? それをオレ達が守るって何かなぁ……本末転倒って感じがする。まるで……神機使いより神機兵の方が大事だって言われてるみたいな気分になるよ……やってらんないよな。オレ達だって、ここまで来るのに『それなり』に苦労してきたんだぜー?」
「ロミオ先輩まで……」
「当たり前だよ、私たち、そんなもの守るためにゴッドイーターになった訳じゃないんだから」
「……」
皆はソレで納得いっていなかったのか……とここに来てやっと理解が及んだ。
隊長とシエルちゃんも同じなんだろう。
皆、現実を分かっている……私が知らない、世界のことを。
神機使いとしての誇り。ソレが……私には、欠けていた。
多分、この意識の差はどうにもならない。
……だって、私は今までの人生の中に於いて一瞬だって「神機使いになろう」と……考えたことなど無かったのだから。自慢ではないが、その分……努力してきたこともない。積み上げてきた知識も、訓練も、今必死になって皆に追いつくために研鑽している真っ最中だ。
今までラクをしてきた分のツケなんだ――と自分自身に言い聞かせてみる。
「……それでも私は、やるべきだと思います」
「そりゃ任務だから……拒否権ねーよオレ達に」
「そうじゃない……っていうかロミオ先輩そう腐らないで聞いてください」
「何?」
「手短にしてね」
「……」
「何この期待値ゼロ感! ……ま、まぁ良いですけどね! 期待されない方が気楽ですから!」
何かが盛大に空ぶった。
「……皆の言い分は分かりました。納得いかないことも、色々無駄遣いしているってことも……。多分、ここまで積み上げてきた苦労や努力を否定されている気になっている……って言うのも分からなくもありません……。スミマセン、実際よく分かりませんケド」
「うん! 流石唯ちゃん! よく言ったね~~! ……覚悟、できてる?」
「待てよナナ、言わせてやれ……ソレがコイツの遺言になる」
「……まぁ、アンタが神機使いとしての意識が薄いのは仕方ないことだ……むしろつい数ヶ月前まで『内側育ち』の民間人だったのに、良くやってる方だろ。その辺、俺はもっと誇っていいと考えるがな」
真逆な反応の違いが実に素晴らしい部隊……。
「でも…………何もしなければ、何も変えられない」
「……そりゃな……分かってるけど」
「……まーね」
「……!」
「今のままで良い訳がないんです。……最近、私にもやっと分かってきたんです。正直……此処に来るまでアラガミなんか見たコトなんか無かった分際で何言ってんだって思われるかもですけど……。
何かを変える力があるのに、何も変えようとしないことは『罪』です。その為に……多少の矛盾や不条理、犠牲にさえ目を瞑ってでも、私たちは成し遂げるべき――――なんだと思う」
「……」
「……」
「……」
「何か言ってください!!」
無言はやめて。
マジやめて。
「唯ってそんなヤツだったんだなー意外ーー」
「オラクル細胞に脳みそ変質させられてるんじゃない~? どこぞのゴリ仮面みたいに」
「……は? 一体何を言って……仮面……? うっ……頭が……」
「ほ、ほらギル落ち着けよなーー。仮面とか何だよ本当ウケるわー……アニメ見過ぎだよナナ」
「ねぇねぇギルー? 思い出してきた~~? マスク・ド・ゴリ……」
「やめろナナぁ!!」
「私……私今……今……! ありったけの知恵を絞ってソレっぽいこと言ったのに……! 言ったのに……この部隊はぁ……!!」
「副隊長! 私はそのー……とても良かったとおもいます!」
「…………小学生並の感想ありがとうね……シエルちゃん」
「も……」
くるり、と振り返ったニット帽先輩が、何か言いたそうにしている。
……フォローを入れてくれるのか、優しいなぁ……ははっ……。
「えー……何かなぁ~……唯って意外と強い奴だったんだな、ってさ……うん」
「意外と!? …………強い!?!?」
ナニヲイッテルのデスカこのパイセンは。
「悪く言うと、意外とドライで薄情なヤツだったんだなー」
「悪く言う意味は何ですか……!?」
「何となくー?」
「特に意味のない悪意……!?」
「落ち着けって。そんな風に取るなよ……。たださ、オレが言いたいのは……」
ロミオ先輩の顔が、真面目になる。
……彼にしては珍しく、どこか真剣味を帯びた――――なのに、少しだけ悲しそうな、今にも崩れ落ちてしまいそうな表情だった。
「……非人道的だ、って言ってるわりには人間を盾にしたり……何かさ、軽く見られてる気がするんだよ……人の命ってヤツが。もし……こんな段階でさえ簡単に犠牲を払うことを厭わないんなら、この先にはもっと……人間を蔑ろにする何かが……起こるかもしんないじゃん?
……オレはそうゆうの嫌だな」
「……まっさかー……考えすぎですよー先輩」
「ロミオ先輩が真面目!?」
「……お前ら……! お前らなぁ……! もういいよ!! 人の為の自衛兵器なら人犠牲にするのって何か違うんじゃねーの、ってオレは言いたかっただけだよ!!」
「だって無人型ですよ? 起らないでしょそんなの」
「うーん……難しいこと考えるの苦手ー」
「……」
「……」
無言の先輩とギルさんだった。
先輩は何かあきれ顔で、ギルさんの方は……何か考えている様だった。
……どうせロクな事じゃないだろう。
「各員、思う所はあるだろう、だが現在有人神機兵に対し本部が難色を示している以上、無人神機兵で実績を上げるしかない。さもなければ…………この機関の存在意義自体も疑問視されかねない」
「うっ……」
身に覚えがあり過ぎる……。
勝手に壁外居住民の救助だとか……その後のロシア支部だとか……一応、感応種討伐に成功はしたけど、コアは私たちがゴタゴタしている内にアーサーさんがちゃっかり持ってっちゃったし……。
挙句の果てにはP-66偏食因子持ち出しからの、勝手な強制投与……。
……。
……そろそろ、グレム局長だけじゃなくて本部にも怒られる頃合いだろうなぁ~とは予測していましたよえぇはい。半分私の所為ですねそうですね……。
こんだけ好き勝手な行動ばかり取っていれば……流石の本部も考えるだろう……コイツら神機兵真面目に開発する気あんの?……と。
「だが、副隊長の言うことにも一理ある。この計画が成功した暁には、各サテライトや技術的に後れを取っている支部に神機兵を派遣することが可能になる。今はまだ理想の段階だろうが……その為には今、我々が可能なことを、ひとつずつ叶えていくしかない」
「そ、ソレです隊長!」
「俺という個人としても、神機兵はレア博士の宿願だ。知っての通り、マグノリア=コンパス出身としては……レア博士には恩がある。彼女の夢をここで終わらせたくはない。……そうだな? シエル?」
「…………はい、レア博士には……お世話になりましたから」
「……そうだねー、それなら頑張らなきゃ、ってなるな~」
「まぁ……うん、だよな……そうだなーあんま深く考えないでレア博士の為って考えりゃいいかー!」
嘘の様に同調していくマグノリア出身者……。
……。
これが……人望の、差……。
「有用性を疑われているならば……結果を叩きつけるまで」
「つ、強気……」
「当然だ。疑うことしか知らない本部の低能共に分からせてやる……我々の有用性を」
やはり……隊長は強気だった。
……前回の不機嫌を引きずっているからか、それとも……何か私たちに開示されていない情報も隊長だけは知っているから、なのか……。
ガラス外に広がる――――見上げた空は、鉛の色。
今にも崩れ落ちそうな程……淀んでいた。