ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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phase28 最終防衛戦

 

 【ソーンツァ作戦】

 

 

 2065年

 旧ロシア連邦東シベリアクラスノヤルスク地方で発動された大規模アラガミ掃討作戦。

 フェンリルの技術提供の下、連合軍が主導として行った『人類最大の反攻作戦』である。

 

 この作戦の目的はフェンリルと連合軍との協力によるアラガミの掃討であり、

 結果として多くの犠牲を出したものの、大成功を収めた。

 

 

                              ――『世界史用語辞典』

 

 

 

 

「……こ、ココだった……」

 

 

 何も言わず、実家から何となく持ってきた教材を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリーフィングルームには全員が集まっていた。

 

「スミマセン私が最後みたいですね……ってあれ? ギルさんは? …………ギルさんは!?」

「んー……何か体調不良(?)みたいだったから医務室ブチ込んで来た。何か本当にヤバそうだったし……まぁ……死にはしねぇと思うけど」

「二度と帰って来なくていいのに」

「……ねぇナナちゃん……ひょっとして……一服盛った……?」

 

 否定しきれない可能性を思いつき若干青ざめる私へ、香月ナナさんは何か意味ありげに微笑んだ。

 

 ……この二人、例の『ゼリー事件』から険悪。というか最悪。

 

 あの一件以来、ナナちゃんは完全にギルさんを敵……というか殺害対象にロックオンしたらしい。度々隙をついてぶっ殺そうとしている姿が目撃されている。

 

 ……あの人生きてるよね……ちゃんと生きてるよね……!?

 

 ……何か、すごく、心からのそこから……心配だ。

 

 

「ギルなら問題ない。ラケル先生が看ていらっしゃる。時間だ、ブリーフィングを開始する」

「ちょ、待って下さい隊長……! ……傍に居るのがラケル先生なんてもう嫌な予感しかしないのですが!?」

「問題ない」

「……いや……でも……」

 

 ジュリウス隊長の鋼色の目が、スッと細まった。

 

――あ、ヤバい。と直感が警報を鳴らす。

 

 

「それとも何でしょうか。貴官は何が言いたいのです?」

「何で敬語何ですかぁ!?」

「優秀で健気でホタルのように儚いラケル博士がついて居る……マクレイン隊員に、何の、問題がが起こり得ると? まさか完璧なラケル博士の技術と知識と『完全な』フライアの設備に対し疑問を抱いている訳では在りませんよね? 神威副隊長? それとも貴官はフライアの設備に何か問題が起こり得るとの情報を得ているのでしょうか?

 

 

 ……もし……そうだとすれば、私は義務として反乱分子を告発――」

「じ、じじじじ時間ですね! ブリーフィングを開始してくださいシエルちゃん!」

 

 隊長はかなり機嫌が宜しくないらしい。

 だから、私はギルさんへの心配や配慮を全て無かったことにして遥か遠くへと投げ捨てた。

 

 

「了解しました副隊長、それではブリーフィングを開始します」

 

 シエルちゃんが頷き、巨大画面に映像が投影。

 それは地図、そして恐らくは『アラガミ』を示すだろうフリップが振られていた。

 

 

「本作戦はロシアサテライト候補地付近のアラガミ。主に中型種の討伐となります。

 標的はコンゴウ8体。その他小型種は測定不能の為随時対応という形になります。

 コンゴウ種は知覚能力――主に聴覚にすぐれたアラガミの為分断、後に各個撃破の戦術を取ります。

 ブラッド、スネグーラチカの混成部隊を更に分けることにします」

 

 そこで、しゅばっ! と言う擬音が聞こえてきそうな位……勢いよく、東の彼方より来訪した黄金の騎士殿が人差し指を挙手なさっておられた。

 

「……何か?」

「ブラッド参謀殿の言わんとしていることは理解できた……そう! 人々の為にも! アラガミを倒すのだという誇り高き志とその才知も!!

 しかァしッ! 相手は闇の眷属もとい悪魔の手先……! 果たして我らの思う通りに動くかな?」

 

 意外にもまともな質問だ。

 シエルちゃんの話からすると……この作戦はかなり戦力を分散することになる。

 だとすると、正確な観測が必要不可欠な要素となる。少しでも間違えがあれば最後、少人数ではスタグレ使用による知覚遮断、後に戦域離脱しか打つ手がなくなる。

 つまりこの策は戦闘の前――分断から始まっていると言っても過言ではない。

 

 それに答えたのは、ヘルマンさんだった。

 

 

「コンゴウ種の分断はロシア支部先遣隊が行うことになっている。先遣が不可能だった場合は我々で分断を行う。……それで、いいな?」

 

 シエルちゃんが頷く。

 エミールさんも満足したらしく手を下ろし、目を閉じて得意気な笑みを浮かべた。

 ……というかソレがデフォルトの表情なのだろう。

 

「では、編成を発表します」

 

 皆が思わず身を固くする。

 

 ……戦闘規模からして二人一組か三人一組。かなりの少人数での討伐になる。

 つまり……ここで誰と当たるかが運命の分かれ目にならない……こともない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 =掃討戦・編成=

 

 

 α:ジュリウス・ヴィスコンティ、ロミオ・レオーニ

 β:アーサー・クリフォード、香月ナナ

 γ:ヘルマン・シュルツ、エミール・フォン=シュトラスブルク

 δ:神威唯、シエル・アランソン

 ε:オリガ・メドベージェワ

 

 

 

「はい! ブラッド参謀さん! 納得いきません!! 私は予備ですかー!? 此処は私の言わばホームグラウンドですよー!」

「だからこそ、です。オリガさん」

 

 納得いってない、と顔に書いてあるオリガちゃんに対し、シエルちゃんは冷静だった。

 

 

「オリガさんには今回遊撃に当たって頂きます。コレは貴女の特性を生かした結果です――ロシアの地形に精通しており、更にオラクル補充の必要のない近接戦闘が可能の神機を使用できること――その結果、ヘルマンさんか、オリガさんのどちらかに当たってもらうことになりました、が。神機の傾向を考慮した結果、ヘルマンさんにはエミールさんと組む方が合理的であると判断し……オリガさんはこちらに配属とさせて頂きました」

 

「…………そですかー……ならかんばりますね! ヨロシクです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 かなりの苦戦の末に、何とかギリギリ討伐ができた……という感じだった。

 

 

 

 

「シエルちゃん、大丈夫……?」

「……はい」

 

 通信機を作動させて報告を開始する。

 何というか流石だった。全員目標討伐に成功している。

 ……が、『タダで』という訳ではなかった。

 

 

 アーサーさんとナナちゃんは体力の限界。特にナナちゃんの方のバイタルがかなり危険値に突入しており、コレ以上の戦闘は難しい……ヘルマンさんとエミールさん達はO-アンプルが枯渇。回復錠も既に底をついている。

 隊長とロミオ先輩の方も残り3割を切っている……と。

 

『各員、討伐は完了した……が、引き続き警戒。撤退まで残り10分30秒、油断するな』

『了解……シエルちゃん、もうちょっと頑張ろう!』

『…………了解です』

 

 

 何でこんなキツいことになっていたのか……と言うと。

 

 確かに想定の作戦だと極地型コンゴウを討伐すればいい……ことになっていたハズだった。

 だが実際はそんなもんじゃなかった。

 

 想定外のヤクシャ、やその上位種のヤクシャ・ラージャが大量に集まってきたこともあり……結論から言えば少人数で乱戦状態になっていた。

 

 

『うー……キッツい……レーダー狂ってるし……どうなってんだよー!』

『落ち着けロミオ。損傷が激しい、銃形態は使うな』

 

『愚痴らないのーロミオ先輩~……』

『香月さん下がって……って言いてえ所だけどオレ後衛……クソ……』

『大丈夫です! まだやれまーす! でももう戦いたくはナイかな~~……』

 

 かなり皆消耗していることが予測できた。

 

 

 

『うむ、弾丸が切れたか……ならば文字通り鉄槌を下すのみ! 騎士は……騎士の魂は……! この程度で折れるハズもなァいッ!! そうであろうヘルマン殿!』

『言うまでもない』

『左様、我らの魂は……そう、心は居れるわけもない!!』

『……世界の胸を守る為』

『愛と正義で悪を貫く!』

 

 

 

『索敵に行かないで下さい! その場で待機しつつ警戒を続行してください!』

 

 

 元気な奴ら一部まだピンピンしているっぽい。

 無駄にSAN値が高い人達だな……と極めて関係ないところに感心。今そんなことしてる場合じゃないけど、そう思わないとやってられない。

 

「……副隊長、すみません私の失態です……」

「……仕方ないよ……シエルちゃん……。レーダー観測通りにはいかないって皆言ってたけどココまで酷いとは誰も思わなかったんだから……ああ……コレ私が居るから、かなぁ……」

 

 ロシア支部のレーダー観測機器が完全に狂っていたとしか思えなかった。

 

 ……と、いうのも分かる。なぜならこの機材はゴッドイーターが配備された時から第一線で使用されているいわば『骨董品』の類だ。もっとマシなものはなかったのか、と聞くとアーサーさんは暗い顔で言っていた。

 レーダーにしろ何にしろ、『良い』ものから喰われていくのだ――と。

 

 レーダーなんて機材は基本装甲壁と同じでアラガミができるだけ捕食したくない、と思われる各種偏食因子を混合して練り込んである……ハズだが、どうやらロシア支部の地ではアラガミですら食糧難に苦しんでいるらしく、共食いはするわ、偏食因子の塊であろうが避けて齧るわ……挙句の果てには食傷を起こしてレーダーの周りに死にかけのアラガミが散乱していた……という事態もあったらしい。

 それで結局長い間捕食されなかったものが生き残っているから使っている――という状況だ。もちろん、そんな骨董品の精度なんか初めからアテにはしていない。把握できるのはせいぜい大きさや位置――そんな情報でも無いより遥かにマシ、でありロシア支部ではレーダーと偵察によって詳細を確認している方法をとっている。

 

 

 

 ……だけど、今回は、そのレーダーが完全にイカれていた。

 

 

 

 場慣れしている筈の、アーサーさん達ですら把握できないレベルで。

 なんか……嫌な予感がする。

 ……それも、かなりのレベルの嫌な予感が。

 

 

『こちらオリガです! CPさん! 小型種残り3です! さっさと殺っちゃいますねー!』

『こちらCP。了解しました』

 

 

 オリガちゃんは今回遊撃に回ったこともあり消耗は今、展開中の部隊で一番少ない。

 それがせめてもの救いのようにさえ思える。

 

 

 ……本音を言うと、前にアーサーさんに言われたことが引っかかっていた。

 

 

 

 

『アイツは……神機の適合率が高くない。……適合率って案外重要だぜ? 数値が高ければ高いほど、安定してればしてるほど……『寿命』が来るのが、遅くなる』

 

『それにアイツの神機だってメチャクチャだ。混乱した戦況で、とにかく戦える頭数を増やさないといけないっていう状況下で……ほぼ無理やり動員されたようなものなんだ』

 

 

 

 

 

 

 ……あまり考えたくないことだが、オリガちゃんは無茶をし過ぎている。でもそれはきっと経験と技術でハンデを補っている故の結果だろう、ということも考えられる。

 

 ただでさえ偏食因子への適合率が低い……のに、最適な神機を使っていない。

 

 その末にもたらされる結果は……。

 最悪の可能性さえも考慮に入る。

 

 

 だから、私はアーサーさんとは別の意味であまり無理をしてほしくはなかった。

 あの子を失いたくない、死なせたくない――とかじゃない。もっともっと、自分本位で保心的な……すごく身勝手な思考回路で。

 そんな考えしかできない自分を心底情けなく思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな時、耳ざわりな雑音と共に、オペレーターのフランさんからの通信が入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……偵察班より入電! 作戦行動中の全ゴッドイーターに伝えます!! 中型種作戦域に乱入……肉眼で確認した限りではシユウ種――え!?』

 

 

「ど、どうしましたフランさん!?」

 

 

 ……嫌な予感は良く当たる。

 

 そして、その嫌な予感はまだ続いている。

 もう絶対ロクなことにならないって……というのが今までの人生での経験則。

 

 そう。

 

 

 最悪の予感は、よく当たるものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『このアラガミは……ロシア支部のデータベースには記載ありません……! 新種……いえ……まさか……この偏食場パルスの反応…………!?』

 

 フランさんの息を呑む声が聞こえてくる。

 

 それが、切羽詰まった悲鳴にも似た叫びに代わるまで、そう時間は必要ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全員直ちにそこから退避してください!! 『感応種』です!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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