ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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 ブラッド中心のお料理回です。

 


!!attention!!


※今回一部パロディネタをやっています。改変どころではありませんがご容赦ください。

※一部文化や物体を揶揄した表現が入りますが、悪意がある訳ではないので、あくまでテンプレネタとしてお楽しみ下さい。

※例の如く例によってキャラクターが崩壊しています。







それでも良いと言う、訓練された方々はどうぞ。




phase26 ナナの幸せのレシピ 

 

 

 

 

 

「ロミオとー!」

「ナナの~!」

 

「「性なるお部屋探索ー~-~!!」」

 

「やめて下さい!!」

 

 

 ロミオ先輩&ナナちゃんの二人が息ピッタリなコンビネーションで繰り出す謎のポーズ。

 けど、内容はスルー出来ない模様。性なるって一体何……何をしでかそうとしているのか全く持って理解ができない……訳じゃない。

 

「何だよ唯もやりたいのかよ?」

「じゃあ名前変えないとね~先輩ー。……『チームミニジャンズ』」

「何やらかすつもりなんですか!?!?」

 

 何って……なぁ? と言ったキョトン顔で顔を見合わせる童顔組。

 桃色同僚と橙先輩は仲が良いからよく一緒に居るけど……この二人、目を離すと、時々危険。

 

「お部屋探索って誰の部屋ですか……」

 

 

 予想はできる。

 

 この二人、私の部屋へは実は結構来る。私の部屋は、というと実際……よく資料や書類を出しっぱなしにして積み上げていたり、服出しっぱなしにしたり以外は割と片付いているとは思う。

 実家に居た頃からそうだったけど、私の家族は代々『小康状態を保つ』ことがあまり得意ではない。

 汚れている時はゾドムとゴモラか、と言うくらい酷いけど、一気に掃除をするタイプでそこから少しずつ汚していくのだ。家族共同で使うキッチン、リビング、居間なんかは時々私が掃除していたけど。

 ……家に誰も帰ってこない日の長い夜は子供の頃からそうやって過ごしていたから……。

 

 で。

 だから、この二人の私物が少々私の部屋に在ったりするので、お部屋探索は私は除外。

 

 だとすると。

 

 ジュリウス隊長、新入りのシエル・アランソンさん。そして……ギルさん辺りが妥当な線になる。

 そして、おそらくは。

 

 

「ギル」

「ギルん所」

「やっぱり……」

 

 ロミオ先輩が『いやがらせ』目的で行く場所なんか、そこしか見当たらない。

 

 ……とは言っても、一応理由はありそうで、隊長は気安いしブラッドは比較的距離が近いアットホームな笑顔の絶えない部隊の様だからあまり実感が湧かないが、ジュリウス隊長はれっきとした上官。勝手に部屋を漁っていいわけがない。

 怒られるだけならまだしも、下手をすればスパイ容疑か何かで査問会にお呼び出しされてしまう。

 アランソンさんの方は、まず女の子だし、来たばかりでまだ上手く馴染めていないし、やることも沢山あるので部屋の整理なんかは後回しになっているっぽい。何より、先日の騒動で変な語尾がついてしまった件について本人が一番ショックを受けて少し落ち込んでしまっている。

 勿論、加害者の方は全然反省していないのだけど。

 

 この女そろそろどうにかしないと、次はきっと、誰か死ぬ。

 

 

「だってアイツさー、何か全然打ち解けてないじゃん?」

「そうそう、何か私もそう思うんだよね~~。あの類人猿私のおでんパン拒否したし」

「……あぁ、そうだね」

 

 そう言えばしていましたね、神回避。

 

「それにヤケに人が好いつーか……何かアイツ怪しくね? あんな『お人好し』。この世界に居る訳ない」

「絶対演技だよね」

「人類皆があなた達みたいな性格じゃないんだよ」

 

 少しは他人を信じてみたらどうでしょう。

 

「だからここで奴の秘密を暴いてやろーと言う訳だ!」

「うんうん!」

「何かロクでもないことを考えているかもしれない! 信用できない!」

「うんうん!」

「だから!」

「弱みは今の内に握っておくに限る!! ってね~~」

 

 

「あ、分かりました。私、分かりましたよ! 最低ですね、最悪ですね! そこまでやればきっと、あんな良い人でも流石にブチ切れますね!?」

「それはそれで見てみたい」

「ドMなんですか!?」

「だって~、取り繕った姿見せられるより、この際思いっっっっ切りキレてる方がなんか『それっぽい』じゃない?」

「……ま、まぁそうかもしれないけど……」

 

 そりゃ、そこまでされたら誰だって怒って当然だと思うけど。

 

 でも確かにギルさんの生態……じゃない、性格はちょっと胡散臭いかな? とも思ってしまう。

 決して人の優しさに慣れてないとかそうゆう理由じゃない。別にそうゆう理由じゃない。

 

 それに距離を置かれているのも事実なような感じもする。

 

 根拠は、ある。

 ナナちゃんは前に少しだけ言っていた……『おでんパンを受け取らない人は何かに追い詰められている』……のだと。

 彼の過去は知らないし、知った所で何ができるわけでもないだろう。

 でも、確かに……何かがある、そんな気がしてならないのだ。

 そんな追い詰められている様な人間を、ましてや、仲間を、いつまでも放置出来る程、私はまだ大人になりきれてはいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とか考えているうちに、結局二人を止める機会を失った。

 

 

 

「はい到着」

「現在ギルの部屋の前に居ます~~! きゃーっ、ロミオ先輩! 見てくださいこの鍵~~」

「おぉーっと何ということでしょう、ギルの癖に一人前に人間のマネをしております!!」

「いや……ギルさんアレでも一応人間ですからね……」

「電子ロックと、腕輪認証で開く形式みたいだねー」

「何気セキュリティ固いなアイツ……」

 

 本当だ。

 

 腕輪認証はまさにゴッドイーター専用。一番一般的な所だとターミナルに付いており、そこから個人用アクセスが可能になるというある意味最強の識別コード。

 一応皆の部屋についているけど、使っている人はあまりいないと思う。ひとえに面倒くさいから。

 

 正直私や……過去にはロミオ先輩も神機使いになったばかりの頃は、テンション上がって使っていたシステムだが(というか実は誰でも一度は通る道らしいが)あまりに時間がかかるので電子ロックとパスワードだけでいいや、という風に乗り換えるのが大多数だと聞く。

 

 流石に、少し不安になってきた。

 

 ひょっとしたらギルさんは……隊長みたいに……過去にヤベェ奴にストーキングされたというトラウマでも抱えていたり……?

 

 

 

 

「ま、どうせ全部マスターキーで開くんだけどな」

「すっごーい! 流石ロミオ先輩~~! ……ソレどこから持ってきたの~~?」

「グレム局長」

「局長公認!? え? 何ですかコレ局長の許可出たんですか!?!?」

 

 マジでかグレゴリー・ド・グレムスロワ!?

 

「うん。ユノさんの音楽記憶素子全部貸しますって言ったら、快く……な」

「あぁ、娘さん……ファンなんでしたっけ……」

「ユノさん……お、おでんパン……おでんパン食べなきゃ……」

 

 

 と、いうわけで迷わず開錠。

 

 定期的にフェンリルンバのお掃除が入るとはいえ、男の一人暮らしの部屋だ。

 さぞ臭……壊滅的なことになっているんじゃなかろうか、と半分期待して足を踏み入れる……。

 

 ……けど、そんなことは何もなかった。

 

 

「殺風景」

「何もない」

「普通……だね……」

 

 コレじゃ余程私の部屋の方が小汚いかもしれない。

 

 部屋、ベッド。机。小型テーブル。電気スタンド。あと隊長以外の全員の部屋に等しく存在する端末。

 クロゼットとソファーと……あと私物っぽいのは、紅茶とティーセット。

 大人の人らしく壁際にいくつかお酒の瓶が立てかけられていた。1人の時にでも飲んでいるのだろう。

 その位であり、特に変わった所がない。強いて言うなら音楽再生機の周りが色々と充実しているから、音楽が好きなのかもしれない……または、あまり私物がまだ届いていないのだろうか?

 

 ナナちゃんは、と思うと、この似非猫耳娘、何故かマスクとゴム手袋、更にはエプロンまでも装備ときた。

 一体何をなさるおつもりなんです……? ……掃除……?

 

 

「さてとー、じゃあ香月さん。お願いします」

「はーい。ベッドの下からですね~~!」

 

 ま、まさか……!?

 

 

「れ、レオーニ上等……! こ、コレハ……!」

「こうもアッサリ出てくるとは……」

「そ……それは……!」

 

 

 

 

 国により地域差はあれどここは便宜上……極東基準にしておくと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 R18本!

 

 

 

 

 つまりエロ本!!

 

 

 

 

 

 ここ最近の最大の奇跡の発掘です! ……ベッドの下から? ベッドの下から出てきたよ……

 ……本当にあるんだ!?

 ちょっと…………感動した。

 

 

「1冊あったら30冊はあると思わないと!」

「ターミナルの後ろと洗面所と台所のエロ本ホイホイの中は見たか?!」

「何それ!?」

「唯ちゃん、見つけたらスプレーで殺すんだよ!! 叩いちゃ駄目だからね!」

「メスのエロ本は死の間際にフクロトジを産み落とすんだ……」

「だから何それ!?!?」

 

 黒くて平べったくてやたら生命力の強い、無駄にすばしっこい昆虫か何かなんですか!?

 尚、ほとんどの昆虫が絶滅or危惧種な現在でも人の集まる支部周辺には普通に出没する模様。

 

「まさかこんなアッサリと……!? あの人、やっぱり心の底から人を疑うことが出来ない人間なんだ……!」

「きっと彼女出来なかったんだろうね~……顔怖いもん。アレじゃ無理でしょ」

「姉妹が居ない環境で育って割と早いうちに母親と離れたんじゃねーか?」

 

 冷静に始まるギルバート分析。

 

「も、もういいでしょう……戻してあげましょうよ先輩……何か可哀想ですよ……?」

「わ~~見て見てどんどん出てくるよ!!」

「ナナちゃんやめたげて!! やめたげてよぉ!!」

「ここまで来たら引き下がるわけにはいかない……! はい、御開帳ーー!」

「え? え!? う、嘘ですよね先輩……!? え……えぇえええぇ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 10分後。

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

「………………」

 

 ひとことで言うなら。

 

 見なきゃよかった……と、そこに居る全員が思っていた。

 

 

 

「何これ……何……これ……」

「ナ、ナナ……戻しといてくんない? お、オレもう……なんかコレ触れない……」

「らじゃーっ!」

 

 どうやったのかゴム手袋を三重に以上に重ねたナナちゃんが音速で聖典を重ねてベッドの下へと叩き込んだ。

 壁か床が削れるような音がしたけど気にならない。

 

 今……それどころじゃない……。

 

 

「見ちゃった……見ちゃったよ……」

「ヤバい……アイツ……ヤバい奴だ……」

「ちょっと私、吐いてくるね~!」

 

 辞めとけばよかった。辞めとけばよかった、時間を戻したい、無かったことにしたい。

 ナナちゃんはトイレに駆け込んでいった。

 

 

 

「どんな闇抱えているんだよアイツは!?!?」

 

 

「私……ここまで来てもまだ分かんないんですけど……奴はドSなの!? それともドMなの!? どっちなんでしょうかロミオ先輩!!??」

「知らねぇよ聞くなよぉ!! わ、分かんないよ! 強いて言うなら……表裏一体って言うから……ドSでもありドMでもあり……」

「『緊縛美の巨人』とか『大爆走!三角木馬ライダー』なんてどんなジャンルなんですかぁ!? どっちにしろあの人畜無害な奴ほどヤバいという古の伝説は本当でしたね!!!!」

 

 綺麗な清流がせせらぐ音と囀る小鳥の歌声をお楽しみ下さい。トイレから流れてきます。

 

「それならまだマシな部類だろ……『削げ逝けア●パ●マ●』なんかあのタイトルとロゴからどうやったらあの内容を想像できるんだよ……? 後半只の拷問だったじゃん……!」

「な、何か穢れた気分……」

「な、なぁ副隊長……明日からどうやってアイツの顔見ればいい? 直視できない、できないよオレーー……こんなことに付き合わせてごめんな……本当ごめん……」

「もう言わないで下さい先輩……被虐と加虐で血にまみれた先の恍惚とした混沌世界なんてどう考えても狂ってる……」

 

 

「全部出たよーもう大丈夫!」

 

 ナナちゃんカムバック。

 と、同時に、私たちはその部屋を去ったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、いうことがあったんですよ……」

「……はぁ……」

 

 ミッションオーダー用のカウンターの前でクダを巻いてた私たちの話を聞いてくれていたのは、オペレーターのフランさんだった。

 猫目のクールビューティーでかなり大人っぽい人……だけど……この人年下なんだよなぁ……。

 

 

「成程、お話は理解致しました。皆さんが陥っているでしょう事態の深刻さも」

「ありがとうございます……」

「それらすべてを踏まえたうえで、あえて言わせて頂きます……。

 

 それを私に言って、一体、何を、どのように、助言しろと言うのですか」

 

 

「……」

 

 おっしゃる通りです。フランさん。

 

 

「えええええーーー! 一緒に考えてよーフランさーん!」

「何をですか」

「だからアイツをどうしようかってコトだよ!! ……なんか壁があるからここは強引に歩み寄ろうとしたらこの様だよ……何なのフライア……マトモなヤツ居ないの……」

 

 ロミオ先輩がうなれて、(ミッションオーダーの)カウンターにニット帽を激突させる。そして日頃からロミオ先輩が、フライア勢をどう思っているかをハッキリ表す台詞を吐きやがった。

 

「私はこれから、あの……隠れ変態ムッツリEXのオペレーションをやらせて頂く時……そうゆう話題を提供しないよう極力注意させて頂きます」

「フランさんはそれでいいかもしれないですけど!? た、確かにミッションや訓練中はそれで乗り切れそうですけど……じゃあプライベートな時はどうすればいいんですか!?」

「半径10メートル以内に入らない様にします」

「貴女はそれでいいかもしれませんけど!?」

 

 そこで、チッ……と舌打ちめいたもの……じゃない正真正銘の舌打ちが聞こえた。

 

「じゃあ、もういっそ隔離でもしたらいかがですか……それこそ拘束服でも何でも着せて」

「ちょ……幾ら何でも酷過ぎませんかね……!?」

「いや、場合によってはそれで喜ぶ可能性がある……! つか50パーセントの確立で大当たり……」

 

 何て危険なロシアンルーレット。

 

「……では薬漬けにでもしておきます?」

「どうしてそんなアッサリ怖い案が次々出てくるんですかフランさぁん!」

「いいじゃないですか……どうせ……人間……最後には皆仲良く微生物のクソなんですから。クソと化すのが早いか遅いかの違いでは? ……人生なんて」

 

 どこか投げやりな声色のオペレーターさん。

 あれ……フランさん……こんな人だったっけ……?

 

 そのとき、今の今まで黙っていたナナちゃんが、ガゴンと音を立てて立ち上がった。

 

「決めたよ」

「ナナちゃん唐突にどうしたの……? ……主語は……?」

「私、決めた」

 

 紅を帯びた目の色は、確かに決意を宿していた。

 

 

 

 

 

「ギルに……おでんパン、食べさせる!!」

 

 

 

 

 

 ……おい……。

 

 コイツ今……何言いやがった……?

 

 

 

 

「ギル……きっと色々あって病んじゃったんだよ……。だってあの人5年も神機使いやってるんだよ!? きっと、凄く辛いことがあったんだよ!」

「だからっておでんパンで洗脳しようと言うの……? そんなの……そんなの……間違ってるよナナちゃん!」

 

 何としても止めないと、どんなサイコモンスターにメガ進化なさるか分かったものじゃない! と、何と引き換えても必ず止めようとした私を、ロミオ先輩が遮った。

 

「いや……イケるかもしれない! 掛け算だってそうだろ……? マイナスにマイナスをぶつければ……プラスになる!」

「駄目ですよロミオ先輩! この場合、クソの上にクソを乗っけても、クソ山が生成されるだけです!!」

「私はナナさんに賛成致します。…………どうせ……この世は肥溜めなんだから」

「フランさんそんな人でしたっけ?!」

 

 

 ロミオ先輩の賛成、私の反対、そしてフランさんのやや投げやりな賛成の2-1を得たにも関わらず、ナナちゃんは少し不満気だった。

 

「ちょっとー。なんでそんな酷いこと言うのー? 皆、マイナスだとかクソだとか肥溜めだとか~~! おでんパンは私とお母さんの絆の証なんだからねー」

「どうせナナちゃんが魔改造したんでしょ……」

「何か言った!?」

「……な、何でもないデス……」

 

 えへん、と何故か自信満々な似非猫耳娘は露出度過多なお腹に両手をあてて、力説を開始した。

 

 

「あのね! おでんパンは元々、母親が愛する娘の為を思って作った愛情たっぷりの創作料理なんだよ! 寂しくても、泣かない! いじけない! おでんパン食べる! ってコンセプトで作られたものなの。だからきっと、ギルの冷え切った心にも届くハズなんだからっ!」

「……はい、香月さん」

「発言を許可します、神威副隊長」

 

 ここはお行儀よく挙手してみる私。

 

「対象は既におでんパンを摂取した後、発狂した被験者を数ケース目撃しています。……よって簡単に摂取するとは思えません」

 

 コンゴウだって分かる。前食べた奴が死んだのを見て、同じものを食べようとする奴なんて居ないハズだ。

 余程熱心な自殺志願者としか思えない、そして、多分ギルさんは自殺志願者ではない。

 

「だよね~、そこが問題なんだよね~~」

「はい」

「はい、フランさん」

 

 実は何気に乗り気なのだろうか、フランさんが一切表情を変えずに小さく挙手をした。

 

 

「この際、目隠しを施した上に装置か何かで強制開口、そこに強引に突っ込むというのは如何でしょうか」

 

 16歳の女の子が思い描いたとは思えない程、ひでぇ絵面だ。

 うわぁ……見えた……地獄絵図……!

 

「それも一理あるよね~~。だけどそれじゃー、本末転倒じゃない? コレはあくまで対象のヤバすぎる……もとい精神に巣食っているであろう何か混沌としたロクでもないものを取り除くことが目的です! それじゃあ、あっという間にメガ☆進化! ルート突入だよね~。という訳で却下」

 

「……そうですか……。別に期待してた訳じゃありませんけど……どうあがいたって、全部、徒労に終わる」

「悔し紛れにありそうなコト言わないで下さいフランさん! 未来予報は辞めて下さい!」

 

 最早、女性陣に期待することを辞めたナナちゃんが最も信頼しているであろう常識人……というか唯一の良心、ブラッド最後の砦になりつつあるロミオ先輩へと水を向ける。

 

 

 

「レオーニさん、何か意見はありますか?」

 

「……ベタだけど……目の前で実際に作ってみる……なんてのは……」

 

 ようやく出てきたマトモな案にナナちゃんの丸い瞳がキラリ、と光った。

 

 

「採用! それで行こー!」

「え……マジ……? けど、ナナ料理なんかできんの?」

「そこそこ!」

「……唯」

「……レトルトカレーなら……」

「…………フランさん……」

「お断りします」

「フランさん!!」

「お断りいたします」

 

 今日も、ロミオ先輩の胃痛は止まらない。

 

「でもー。よくよく考えてみたら……ギルって、アイルランド系? スコットランド系? どの道旧グレートブリテンな島国出身の人っぽいじゃない?」

 

 

 ナナちゃんがさっくりと疑問を口にした。

 ……確かに、アラガミ出現以降、ほとんどの国家は国体維持が不可能とされて政府は解体、そこはなんやかんやあって現在一企業であったフェンリルが世界政府の様な役割を果たしている……というのが現在の世界の在り方だ。

 取りあえず、フェンリルが支部を作ってその周辺の人員をテキトーに保護、または、フェンリルの専門職従事者および神機使いや軍人の世界レベルでの出張や派遣、家族の同伴や現地づ……い、色々あって国籍は混ざりに混ざっている。その結果、2070年代では私や兄の様な多国籍な混血児が産声を上げまくっている。

 アーカイブで知ったが、たった2,30年前までは『ハーフ』や『クオーター』という表現があり、一般的に使用されていたらしいが……ここまで人口の減った今、産めよ増やせよ時代でそんな些細なことに拘っている場合ではない。

 

 と、なってもやはり人間、自分のルーツは気になるものなので、今でも一応民族種別用語は残っていたりする。

 

 

「西欧系に極東のソウルフードはダメかな~って思う!」

「今更何を……」

 

 今までの犠牲者で誰も気にしてなかったじゃないか。

 老若男女関係なく、善男善女を無差別攻撃してたじゃないか……。

 

「きっとギルはドーバー海峡の向こう側の人だったから『ODEN』は慣れてなかったんだよ! だから受け付けてくれなかったんだよ!!」

「……まぁ、あるだろうな……」

「……じゃあどうするの?」

 

 カレーで代用とかするのでしょうか。

 カレーを串刺しにして、パンに挟む……カレーパン……?

 ……何か違う気がする。

 ロミオ先輩が深刻そうに呟く。

 

 

「おでんが、ゴリラの味覚に合わねぇのかも……」

「だからギルさん人間ですからね……? どうしてそんな自然にゴリラ扱――」

 

 

「話は聞かせて貰ったわっ!!!!」

 

 

 バーン、と弾けるような音と共に……自動扉が開く。

 

 そこから現れたのは派手な意匠をこらした白衣をに纏った赤毛の女性……。どこか小悪魔的な雰囲気を持つお姉様、隊長の女神のお姉様……レア・クラウディウス女史だった。

 彼女が現れると必ず、といっていい自体が起こるので足元、ついでに背後を確認してみる。

 

 ……局長の姿はなし。

 

 レア博士はまるで慈母の様にやさしく微笑む。

 

「ロミオ君、大丈夫よ……。ゴリラの食性は植物食寄りの雑食だから。果実食傾向が強いけれど……まぁ多分平気でしょう」

「それ完全にゴリラの説明ですよね……!? 食性と言う言葉は人間に使う単語ではない気がするのですが!? レア博士……!」

「そっか!! じゃあつまり……ベジタリアンなんだね!!」

「ナナちゃん曲解! 自分に都合がいい方に真実捻じ曲げて解釈するのは良くないよ!?」

「じゃあ……野菜多めなら大丈夫ってことッスか……?」

「タンパク質は虫から採取するという資料があるわ」

「虫かー……うーん……昆虫さんとかは絶滅危惧種だからな~~」

「だよなー……このご時世でしぶとく生き残ってる虫は食えそうにないよなぁ……」

「ギルさんに何させようとしているんですか!?!?」

 

 

 一体この話どこに向かっていくんだろう……!?

 性癖がヤバいから心が病んでる(可能性がある)ギルバートさんを救済するために、同じマイナス因子であるおでんパンをぶつけて食事療法しよう、という時点で何か既に狂気じみてる気がするのに、どんどんシャレにならない方向に話が進んでいっている……!

 

 

 

「決めた! 『アレ』だねっ!!」

「え? 何……何すんの……。……あっ、その手があったか、いーじゃんナナ! よしっ、『ソレ』で行こーぜ!!」

「……いいんじゃないですか? 後悔するなら少ない方にしましょう」

 

「……大丈夫かなぁ……ホントに……」

 

 

 ……ロミオ先輩、ナナちゃん、フランさん、私……。

 

 

 

 ……最終的に、いくら悩んだところで答えは出ないし。最悪、自分で食べる訳じゃないからいいか、という方向で、できるだけ楽観的に考えることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体何が始まるんだ、と開口一言目に、彼は言った。

 

 

 

 

「もう絶対許さない」

「お前はオレを怒らせた」

「逃げられると思わないでね」

 

 

「……え?」

 

 

 

 場所は、今回は雰囲気を重視してフライア庭園。

 そこにテーブル、機材、コンロを持ち込み、どこからどう見ても今から料理をする以外の何でもない空間を構築。

 各員、エプロン、三角巾の装備を整えて戦闘準備は完了。

 今回の討伐対象であるマクレイン隊員にはテーブルクロス付きの食事用テーブルに着席して頂いている。

 

「…………え?」

 

 

 何が起こっているのかまるで分かっていない成人男性。

 大人しく座っていればいいものを……必死に状況を把握しようとしているらしい。哀れだね。

 

「フランさん」

 

 

 

「……余っている鍋で……一番大きなもの……選んで……きました……。

 ……覚悟しろ……クソ野郎……」

 

 

 フランさんが鈍器を運んできた。

 

 

 

 

「まさか手っ取り早く圧力鍋とかふざけたことぬかしてないだろうなカスが」

「まさか……それは禁じ手のハズじゃ……!?」

 

 

「………………え?」

 

 

 

 まだ自分の置かれている状況を理解できない……いや、したくないのだろう。

 だが、確実に追い詰められていることだけは予感しているらしい。

 

 

 

「あんま調子こいてるとさぁ~……トマトピューレだからね~~?」

「ナナちゃんそれじゃボルシチだ」

「手? 心配すんなよ十分洗ってきたぞ畜生が」

 

 

「せいぜい……手首洗って……待ってれば……?

 

  …………最後の晩餐の……前に……」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 やがて、ギルさんは、考えることを……辞めたらしい。

 

 

「ジャガイモさんあるだけ投入だよ~~あっははははは~♪ いっぱい入ったねぇええ! 入っちゃったねぇえええええ!!」

「剥きにくいんだよクソ芋が。取りにくいんですけどこの芽……」

「ピーラーの脇で抉れボケ。無理ならザックリ包丁でやっちまえカス」

「5個切るから死ねクソが」

「8個だ8個ぶったぎってやるわくそったれ」

「ざくざくざくざくざくざくざくざくざく…………あはははは! あはははははははは!!」

 

 

 

 顔面蒼白になったギルさん。既に何か得体のしれないものを本能的に察知し、小刻みに震えている。

 

 

 

「ま、まて……落ちつけ……お前ら……? ……まず……肉だろ……? ……なぁ……!?」

「フランさん」

 

 

 無言で肉厚包丁をまな板(木製)へと突き立てた。

 決して小さくない音が発せられ、鉄の小片がまな板へと深々と突き刺さった。

 

 

 

「今回の肉類不使用野菜鍋に何か文句あるって言うんですかア゙ァ゙!?」

 

 ちなみに、ポトフは骨付き鶏肉や牛肉の塊を自ら煮込むという宗派も存在し、お水からグツグツグツと気楽にやると良いという意見もある、ちなみに、その場合スープは大変肉の旨味が染み出して深い味わいになるが、肝心な肉の方がパッサパサになって微妙……という事態も起こりえない訳でもないからそのあたりは個人の好みの世界になる。

 

 

 ギルさんは横で包丁をグリグリと、まな板に抉り込む危ない女を目を見開いて凝視していた。

 もし……一瞬でも目を離したら……と思うと恐らく気が気じゃないんだろう。

 

 

「!? ………? …………??」

「……いいから……黙って見てれば宜しいのです……。

 もう少しで……できたての……ほっかほかの…………煮込み料理……。……出来上がりますから……

 

 ……せいぜい今の内にお腹を空かせて座ってて下さいよ…………?」

 

「…………」

 

 

 ギルバート・マクレインはコクコクコクコクコクコクコク、と必死に首を上下に動かした。

 

 

「あはははは! 人参3本入れちゃうよ~~あはははははははははははは!!」

「面取りと隠し包丁忘れんなゴミ虫」

「野菜の角薄く削げよ……火が通りやすくなんだよボケ」

「刻んであげるね刻んであげるね刻んであげるね刻んであげるね刻んであげるね」

「切り過ぎてんじゃねぇよダボがァ!!」

「丁度いい大きさ逃したら串が刺さんねぇんだよビチクソ野郎ォ!!」

「ホザイテろどう考えても人参3本とか入れ過ぎなんだよ畜生がぁあああああああ!!」

「投下!! 投下!! 投下!!」

「玉ねぎは煮バラねぇ様に爪楊枝で止めとくんだゴルァアアァァアアア!!」

「キャベツは芯付きんのまま入れてー」

「ねぇ……ギルさん……選ばせてあげますよ……? 味付け何が良いですか? 工場現地直送の合成食品添加物沢山揃えてきましたよーー!」

 

 

 コンソメ一択だと思うけどね。

 

 

「……」

 

 

 あまりのショックで ギルは きぜつ している。

 現実を見たくないらしい。精神力の弱い男だ。

 

 

 

「フランさん」

「聞こえてまァーーすゥーーかァァァアア!?!?!?!?」

 

 連続無言のまな板ドンドンドン。

 意味不明な脅しに対し……ギルさんは覚醒からの恐慌状態に。

 

 

「……う…‥いい……」

「発言は大きな声でお願い致します」

 

 

 

 

「もう……いい……煮込め……! 煮込んでくれ……!」

 

 

 

 涙声になっていた。

 

 

「え~~? 何か早過ぎないかな~?」

「……この程度で折れるとか……」

「い~じゃん、本人が煮込めって言ってんだからさぁ……お望み通りにしてやろうぜ?」

「さっさと溶けろよクソコンソメが……水3リットル位入ってんだよボケ……一体何人分作ってんだよぁああああああ!!」

「はいはーい。さっさとスープ間引くよ~~まびき♪まびき~♪」

「おい……何してんだよさっさと蓋閉めろァ!! 旨味と臭いが漏れんだろうが!!」

「ひっ……ご、ごめんなさい……」

「いいからさっさと蓋ァ!! ……おいハーブ類は入れたんだろーなー?」

「はい、その辺で隊長が栽培してる草をテキトーに突っ込んどきました」

「合法ハーブ合法ハーブ」

「草……」

 

 

 

 

「おい……おい…………セロリは……? セロリは……どうなったんだよ……!? さ、さっきまでそこに……!?」

「フランさん」

「チッ……」(ダァン!)

「……っぅ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、しばらくして(約15分ほど)……コトコトコト、と火にかけた鍋から、心地よくリズムを刻む音が聞こえ……その前に何か圧力鍋の蓋が不協和音を奏で始めた頃だった。

 

 

「うんうん、煮えてきたね~~いい感じいい感じ!」

「ちょっと煮崩れてないかなぁ……? コレ大丈夫?」

「平気だろ。ナナ、串の準備してある?」

「うん! 見て見てー。はいコレー! じゃ~~ん! 揚げパスタ~~!」

 

 

 

「「「え?」」」

 

 常識的なモンが出てきた……。

 

「何ー? 何か文句があると言うのかね」

「だって木だったじゃ……」

「何か文句があると言うのかね」

「……」

 

 

「今回は、洋風なので、油で軽く挙げたパスタを串にして通しまーすっ! だってこの方が合ってるでしょー? これを通して……と。コンソメ風味のジュレをかけて……はいっ! 完成でーっす!!」

「今回のパンは厨房からパチってきたバゲットなんですよ! 焼きたてなんですから早く食べないと冷めちゃいますよー」

「普通に美味そう……ナナ! やればできんじゃん!」

「えへへっ……! はい、どうぞ、ギル召し上がれ~」

 

 ギルさんはすぐには動けないでいた。

 

 

 

 

「フランさん」

「……どうぞ、お召し上がりください」

 

 

 座るギルさんの前に食器と共にバゲット(と呼ぶのにはかなり小さいただのミニチュアフランスパン)に挟まれた……西洋のおでん、とも言うべきフランスの煮込み料理。

 名付けて、『ポトフパン』が供された。

 

 

「……」

 

「すっごくおいしいから、食べてみてよ~~!」

「これ……本当に美味しそうですよ! ギルさん」

「何かお前ばっかズりぃ……別に羨ましくないけどさ」

 

 

「フランさん」

「どうぞ、ご遠慮なさらずに」

 

 フランさんがワイングラスに水を注ぎ入れた。

 お酒、って訳にもいかないし、紅茶やコーヒーが合うとは思えないから……という選択だろう。

 

 

「わざわざ……コイツを……俺に……?」

「そうだよ。だってギル、おでんパン……中々受け取ってくれないじゃない? ……だからね……食べ……にくいのかなぁって……私、思って……お醤油とか……苦手な人なのかな、って……」

「……ナナ……」

 

「でね、頑張って色々考えたんだよ……! ねぇ、ギル……コレなら食べられるよね……?」

「……」

 

 ギルさんは切れ長の目を数回ぱちぱちと閉じたり開いたりする。

 何が起こったのか分からない、という呆然から、だんだん……信じられない、という表情へと変わっていく。

 

「……お前ら……わざわざ……俺に……?」

「はい……ギルさんの為に……皆で、色々調べたんですよ?」

「まぁー、言う程じゃねーけどな」

「え~? ロミオ先輩が一番熱心だったじゃ~ん!」

「ばっ……そ、そりゃどうせ作るんだったら良いモノにしないと……ってあぁもうニヤけんなよぉ!!」

「本当ロミオ先輩って素直じゃないんだから~~」

「う、うるさい……!」

 

 ギルさんは黙って、帽子の鍔を深く下げてしまう。

 流石にそろそろ分かってきたことがある。……この人がこうゆう仕草をする時は。

 

 表情を、見られたくない時――だ。

 

 

「ギルさん……言いたくないこと、簡単に言えない様なこと……は、確かにあると思います。

 だから……そんなに急がなくてもいいと思うんです。……時間をかけないと、分かり合えないことって……

 ……あるから」

 

 

 

 ……だから

 

 

 

「こうやって少しずつ――仲間になっていくんじゃ……駄目ですか?」

 

 

 

 

 

 建前だとか、カッコつけた言葉だとか、そうゆうモノはとりあえず全部捨てた。

 かわりにぶつけたのは、自分の言葉と……自分の本音。

 

 

 すぐに分かり合うなんて私たちには多分無理だ。誰だって見放されたくない、見限られたくないという気持ちは確かにある。

 失望される位なら……初めから、歩みよらなければいいという諦めと恐怖と妥協。そう言ったものと…‥何とか折り合いをつけて、皆『自分』を守って生きている。

 

 ……そういったものが分からない訳じゃない。

 だけど……だけど……少しずつなら、毎日1ミリペースずつでなら。

 

 

 ……頑張れるんじゃないか……と思う。

 

 

 だって、私は。

 

 

 

 …………『副隊長』だから。

 

 

 

「……ギルさん」

 

 

 ギルさんの無骨な手が、皆で作った渾身の創作料理――『ポトフパン』へと伸びていく。

 訓練や戦闘で負傷しまくった切り傷や傷痕だらけの指先が、ソレを掴んだ。

 

 先輩とナナちゃんと私の期待と緊張を込めた目……とフランさんの何の感情もない目が集中する。

 

 テンションとノリと勢いだけで作った結果……全然味見してないけど……煮込み料理だし大体どんな風に作っても基本おいしくなるのだから失敗はしないハズ……! 

 

 ……ハズ……だと……思う…………。

 

 

 

「……食べにくい」

 

「そ、ソレは……おでんパン最大の弱点……!」

「うるさいな~~今改良中なんだから見ててよね!」

「もっと何かいう事ねぇのかよタコ」

「ロミオ先輩は憎まれ口を叩かなーーい!」

「本当デスヨ」

 

 

 別に食べれなかった訳じゃないんだ良かった……という安心感からか、一斉に脱力して無駄口を叩き合う私たち。

 特に、ナナちゃんは、大好きなおでんパンをやっとギルさんが受け取ってくれた、と……本当に、本当に今日だけは無邪気に喜んでいた。

 何だかんだで口喧嘩相手を心配していたロミオ先輩も嬉しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとな」

 

「なっ!?」

「えぇ!?」

「お、おい……嘘だろ!?!?」

 

 ギルさんはまた帽子の鍔を下ろした。

 

 

「やった~~~~! ギル今のもう一回! もう一回!! 今度はちゃんと録音するからーー!」

「ギルさんが……ギルさんが……? ギルさんが……!?」

「良かったね、唯ちゃん! まだ『ありがとう』って自然に言えるうちは……治療の見込み……あるよ……!」

「諦めていたギルさんにも心にある一筋の希望が……!」

「言い過ぎだよお前ら!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▽▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訳も分からず、はしゃぐ三人を見て苦笑が漏れるのが分かった。

 

 悪い奴らじゃない……そんなことは、とっくに分かっている。

 ただ、自分が頑なだったのだ。

 

 誰かを受け入れることに。

 そして、また失うことに。

 

 

 それが『拒絶されている』と誤解されていたのだろう……と、ギルバートは思った。

 あながち間違った解釈ではない。

 

 

 

「皆さん、心配してたんですよ?」

 

「あぁ……アンタにも迷惑かけたな」

 

「……手間ではありましたが……迷惑のかけられ甲斐があったか否かは

 

 これからの貴方次第になるでしょうね」

 

 フランというオペレーターは悪戯っぽく挑戦的に笑ってみせた。

 

 

「穂口は作りました。あとは、貴方がお決めになって下さい。……どんな部隊にするか、なるか、はまるで未知数ですが……どうか、後悔のない選択を」

 

「……分かってるさ」

 

 どうやら、年齢以上に大人びているらしい。

 『何となく』であるものの、重くて苦しい過去や抱えた事情を察して、気を回し、そして重荷にならない程度に背中を押す……というかなりの高等技術をやってのけた。オペレーター恐るべし……という現実に一切気づくことなくギルバートは素直に礼を言った。

 所詮脳筋族なこの青年に、人間の……特に女性の繊細な感情の機微を読み取ることは当分不可能。

 

 

「まぁ……どうしても何かお返ししたい、というのなら……同等のモノを返すことをお勧めしておきます」

 

「……俺の手料理?」

 

「妥当では?」

 

 ナナさんは大食いでロミオさんは味に五月蠅いところがありますから、難易度は高めになりますが。とオペレーターの少女は付け加えた。

 

 

「どうしても、と言うのであれば……おひとりで3人前は厳しいでしょう……。

 

 ……手を貸さないこともありませんが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、人類は思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え? ギルさん? ギルさんが今度は料理作ったんですか!?」

「嘘~~? 今流行の男の手料理って奴ですか~~!?!?」

「フランさんが手伝ったんだってよ! ギル成分を無視すればフランさんの手作りってコトに……!」

 

 

 

 そう、忘れていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 『世界』から『国家』が消えて、早20年もの月日が経とうとしていた。

 自国、という概念を失い、とりあえず近くにフェンリルの支部ができたからそこに住むわーという風に固まって生きていた人間たちは……必然的に文化というものが混在する中に生きていた。

 

 だから――人類は、忘れていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その……『忌まわしさ』を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それどころか、この時、私たちはあろうことか……ギルさん、って基本的に手先が凄く器用そうな人だから、意外と上手なんじゃないかな……なんて異次元世界の幻想を抱いていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、有り得ない……有り得ない……!? ど、どうして……何故……? どうしてこんなことに……??」

 

 

 

 おかしい、とこの時点で気づくべきだった……。

 

 普段冷静沈着で、何があっても動じない、ミスの少ない優等生……優良オペレーターなフランさんがここまで取り乱しているという、異常事態に。

 

 

 

「あ…ありのまま今起こった事をお話します……!

 

『わたしはやつの前で料理していた

と思ったらいつのまにか終わっていた』

 

 な……何を言っているのかご理解頂けないでしょうと思いますが私も何をされたのか……。

 

 頭がどうにかなりそうでした……!催眠術だとか超スピードだとか……そんなチャチなものでは……。

 

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わいました……!」

 

 

 

 

「何言ってんだこの人……」

 

 ポルってやがる。

 

 

「副隊長、お、お気をつけて……! アレは魔のモノです……! 唯さん……あの闇は……あの闇は……そう簡単に祓えるものじゃな……」

「フランさん!? フランさん大丈夫ですか!?!? ……気絶しちゃった……!?」

「ちょ……何この急展開……」

 

 

 その存在を……知らなかった訳じゃないのに。

 

 ……楽観的になりすぎていたのだと思う。

 

 私らしくもなく。

 

 

「どうした?」

「ギルさん! フランさんが急に――……!?!?」

「貧血か? そこの長椅子に寝かせて――」

 

 私たちは、思わず言葉を失った。

 

 ギルさんの、持ってきたモノ……その料理……いや、物体に。

 

 

「ぎる……さん……それまさか……」

「……まさか……」

「……」

 

 

 あぁ、コイツか。とギルさんはフランさんを担ぎながら――

 

 何の悪意も籠っていない、1ミリたりとも邪気の入る隙のない――純粋に善意だけの笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ウナギのゼリー寄せ』だ」

 

「…………!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お 分 か り 頂 け た だ ろ う か 。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見た目からして最悪!!!!」

「kひc83えy34い7tr……」

 

 

 どこから取り寄せたのか今じゃもう希少な淡水域に生息するヌルヌルのお魚さん……表面に粘液とレクチンを分泌する細胞をもっている長細いお魚さん……ウナギさんをブツ切りにして……。

 

 

 ……コレ以上の描写は精神衛生上よろしくないので控えさせていただきます。

 

 

 

「狂気だ……」

「狂ってる……極めて冷静に狂ってやがる……!」

「何をアホなことを」

 

 まるで正気なのが逆に怖い。

 

 

「……冒涜だよ」

「……ナナちゃん……あんまり刺激しないで……!?」

「これは……冒涜だよ!!」

 

 流石の香月さんもガチギレ。

 

 

「おい……本当大丈夫か? ……一応医務室行くか……。悪いお前ら。

 

 

 

 勝手に食っててくれ」

 

 

 食器は片づけるから置いといてくれてて良いからな……という微妙に優しい心遣いの元、マクレイン氏は昏倒したフランさんを担いで医務室へと向かうのだった……。

 

 死刑宣告をされた、私たちは……一抹の後悔を抱いていた。

 

 どこで間違っちゃったんだろう……やっぱり、冒頭でロミオ先輩とナナちゃんを止めておけば良かったのかな……? そうすれば、こんなことには……ならなかったの、かな……。

 

 でも、もういいや。

 

 

 

 ……どうせ、すぐに。終わることだから。

 

 

 

 

 

「……頂きます……」

 

 

 

 口を開けたことは覚えている。

 

 その後、今までの人生で起こった出来事が脳裏に蘇り――――そこから先は、なにがあったのか……

 

 

 ……気が付いたら、皆で仲良く入院してた。

 

 

 

 




 濃厚なギルさん回でした……すみませんでした……(賢者モード)。



 
 ここで、読者の皆様へアンケートを実施しようと思いまして、活動報告の方で募集をさせて頂きます。

 内容は『キャラクターエピソード』の募集についてです。

 極東勢がまだ出てきていない状況で申し訳ありませんが、そろそろネタを仕込んでおきたいので……。

 気長にやっておりますので、いつでもドウゾ。


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