ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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やっと主人公が副隊長になります。


25話デス。






phase25 副隊長就任 

 コツン、と石床を踏み鳴らす。

 

 流れるような銀色の髪を頭の両脇で結い上げた少女――シエル・アランソンは、僅かな緊張と胸の大半を占める期待でフライアを歩いていた。 

 まだ慣れない、右腕の重みに少したじろいだ。

 黒い腕輪。一生外せない、枷。

 そして……神機使いの証。

 

 今日からは、新しい日常がある。

 夢にまで見た日々がある。

 

 今までのすべての研鑽はこの時の為に存在したのだ……そう思うと、思わずワクワクせずにはいられなかった。

 軍人はいついかなる時でも冷静であれーー時には冷徹であれ、とシエルは日ごろ心がけてはいたが、今だけはこの思いを抑えきれそうにない。

 少しだけなら、許されるだろう……と今日だけ、今だけ、と自分を甘やかしてみる。

 少しだけ、少しだけなら……と。

 

 何より今日は、『また』……あの人達と会えるのだから。

 

 

「1枚、2枚、3枚……」

 

 

 誰かが何か数えているのだろう――そんな声が聞こえた。

 きっと、誰かが書類か何かを数えているのだろう……と通り過ぎようとして足を止めた。

 

 今の声……どこかで、聞いた覚えはなかっただろうか。

 

 まだ少年だった『彼』が成長していたら、ひょっとしたらこんな感じの……。

 

 

「……っ」

「7枚……8枚……」

 

 もしかしたら? そうなのかも??

 男性が変声するということは知識では知っているし、大人の男が低い声で話すことも分かっている。

 でも、それが『彼』の姿とどうしても重なることはなかった。

 少年、とはいえ――幼少期はあまり男女の差が無いにしても――まるで、女の子の様な人だったのだから。

 

 ジュリウス、は。

 

 

「9……! い、1枚足りない……だと……!?」

「ジュリ……」

 

 後ろ姿しか見えなかったけれど、見間違えるハズはなかった。

 

 あの頃と変わらない……特徴的な髪型と、光の当たり方次第で金髪にも見える亜麻色の髪。

 でも、身長はとても伸びていた。

 それに……全体的にがっしりとしていた。

 

 少し残念なような、寂しいような、切ないような気がしたが……やっぱり、嬉しくて、少しドキドキした。

 

 

 ジュリウスはそこでガックリ膝をつく。

 どうかしたのだろうか? とシエルは一瞬不安に襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「足りない……! ラケル先生が……足りない!!」

 

 

「…………」

 

 

 

 そこで流石ジュリウスと言うべきか、こちらの気配に気づいたらしくクルリ、と首をその体勢のまま回転。

 シエルとジュリウス、二人は何年かぶりの再会を果たすことになった。

 

 

「久しぶりだな、ラケル先生の付き添いではなさそうだな」

「えぇ、任務は更新されています。正式にブラッド隊員として招聘されました」

 

 ジュリウス、はすくっと何事もなかったかのように立ち上がった。

 中性的な美貌はそのままで……ガッツリ成長した姿はまさに育成大成功と言えるだろう。

 

「ようこそ、シエル。フェンリル極致……フライアへ。ブラッドとも引き合わせよう、手続きをすませて来ると良い」

「了解しました。『隊長』」

「……そうか、お前にもそう呼ばれることになるのか……。……少し、寂しいな」

「……!」

 

 ジュリウスはどこか寂しそうな笑みを浮かべた。

 

 一体どこで覚えたんだそんな表情……!? とざわつく胸中を悟られない様に鉄面皮を被るシエル。

 表情筋という表情筋を引き締めて、絶対的でかつ完璧な無表情を装う努力――大丈夫、多分気づかれてはいない。

 

 

 

 

「これは忌々しき事態……ラケル先生が足りないなどということが何故……」

 

 そしてやはり先生一筋。

 

 去っていくジュリウスの広い背中を見つめながら、シエルはそっと口にした。

 

 

 

「あなたも、お変わりなくて……何よりです……」

 

 

 本当に変わってなくて良かった!!

 

 誰にも気づかれない心の中という場所で、シエル・アランソンは一人、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ▼▼▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 3歳年上の兄は、何でもできる人だった。

 

 

 子供の時にはちょっと体が弱かったけど、運動神経良かったし、ケンカでもスポーツでも誰かに負けている所を見たことが無い……のに、成績はいつもダントツ。

 そこまで何でもできる癖に嫌味が無く、それどころかコミュ力半端ないし、おまけに性格良いし更には、モテた。

 親の転勤だらけで一か所に落ち着くことがなく、よってあんまり友達が出来なくって苛められていた私はよく庇ってもらった……なんて過去もある。

 

 良い『お兄ちゃん』だったとは思う……それこそ一片の文句の付け所もない程の。

 

 

 私は……。

 

 私は……そんな兄のことが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰れぇえええええーーーー!!!!」

 

 

 大っ嫌いだった。

 

 

 

 

「あっはははははー! 久々の兄妹の再会にトンでもないコト言うね唯ちゃーーん! お兄ちゃん会いたかったよ!! 可愛い妹に会いたかったよ!!」

「何で居るの何で来てんの!?

 私は……私は……っ! アンタが嫌だから真っ当な人間の体捨てて! 人体にオラクル細胞入れて! 神機使いになってまで家から出たのに!?」

「兄の愛は深いよっ!」

「失せろ……! 貴様などもう兄ではない……!」

「残念だったなマイシスター、お兄ちゃんは滅びない! 唯ちゃんがこの世にある限り、何度でも必ず、しつこく蘇るであろう」

 

 大っ嫌いだった。

 大事なことなので2回言いました、コレだと過去形みたいですね。言い直さなくちゃっ♪

 

 大嫌いです。クソ兄貴が。クソ兄貴のことが、超絶大大大嫌いです。

 

 何も私だって最初から嫌いだった訳じゃない。むしろ本当に小さい頃は多忙な両親にあまり構ってもらえなかった分、いつも兄にくっついていたから傍から見れば仲の良い兄妹に見えなかったこともないだろう。実際優しかったし面白い兄のことが好きだったような気がしないでもない訳じゃない。

 

 だけどね。

 何にしても。

 

 

 私が数時間ほどかけてやっとこなしたようなコトを、兄はたった数分でマスターする。

 子供の時からどんなに頑張っても、どんなに努力しても。兄が鼻歌交じりにやったことには勝てないどころか、同レベル完成度にすら及ばない。

 結果、子供の頃から父と母にはついぞ、『凄いね』だとか『良くできたね』という褒め言葉を言われないまま私の幼少期は過ぎ去ってしまった。

 代わりに言われ続けた褒め言葉は。

 『頑張ったね、唯ちゃん』だ。

 

 

 ぶっちゃけ私が人格形成に失敗した原因に確実に一枚かんでいるであろう人物……それがこの兄なのだ。

 

 想像して頂けるだろうか? 物心ついた時分より常に、『あの』神威の妹として勝手に過剰に期待され、そして勝手に無駄に失望され、その都度自分のスペックの悪さを指摘され続けているという驚異の経歴が。

 

 

 

 だが今回は引き下がるわけにはいかない。こんな私だって多少なりとも成長はしたのだ。アラガミだってこの間接触禁忌種だって倒せた。

 

 兄貴一人位、ここで葬って見せる。

 

 

「い、今の私はね……! このフライアが家! で! この『ブラッド』が私の家族なんだよ! 新しい兄弟!! だからアンタはお呼びでな」

 

 

 

 

 

「え? 何? ……お前と? ……兄弟……?」

「こっちから願い下げだよ~~」

「悪りぃ……そうゆう趣味は……」

 

 

 

 

「」

 

 

 ブラッドの皆は容赦なく言い放った。

 

 ……酷くないデスカ? 流石に酷くないデスカ……?

 

 家族はないにしてもさ……せめて仲間だと思ってた……。

 思いたかった……。

 

 

 

 

「すっごいねー。まるでクローンみたいだね~! 初めまして、香月ナナです~唯ちゃんをいつもお世話してまーっす!」

「うちの唯ちゃんをドウモドウモー! この子メンドクサイから大変でしょー」

「それはもう」

「不運が服着て歩いてるみたいッスよ」

「分かる分かる。唯ちゃん不幸重力ヤバいから! だが、俺が来たからにはもう心配なぁい!」

 

 兄が人を不愉快にさせる笑顔を浮かべた。

 何かノリが良いロミオ先輩とアザトイナナちゃんはすっかりちゃっかりと意気投合してるっぽい。いつも必要以上に明るい兄と波長が合っているのかもしれない。ギルさんは割愛。

 

「ナナちゃん、先輩! そんな奴と会話しないで! クソが伝染るよ!」

「平気だよ~唯ちゃんと兄妹なんでしょ? クソなら慣れてるよ~~」

「女の子がクソクソ言うんじゃありません。そして自分のお兄さんをクソ扱いは辞めなさい唯」

 

 ロミオ先輩にとてもマトモな注意されてしまった。

 そこで、少し、頭が冷える。

 多少冷静さが戻ってきて真っ先に思い浮かんだことは……コイツ何でココにいるのか、ということだった。

 

 

 

 実は、私。クソ兄貴には勿論、両親にさえ今どこに居るのか伝えていない。

 というか伝えちゃいけないのだ。守秘義務というヤツで。

 当然というか何というか、ここまで来ればアホな私でも理解が出来るように、そもそもゴッドイーターには敵が多く、同じ人間であってもあまり良く思っていない人が多い。むしろ運が良ければ隙をついてぶっ殺そうとしてくるタイプの人間も少なくない。

 となれば、おいそれと情報を漏らすわけにもいかないのだろう。特に極致化開発局フライアは一般的な支部とは一線を画す。

 何もかも特例であるがために、秘匿するべきことも多い。だから両親は私がフライアに所属していること、そしてゴッドイーターであること、は知っているがそれ以上のことは知らないハズだろう。

 

 例えば(送ってないケド)私が家族や友人へと電子通信を送る時は、今いる場所や部隊内の個人情報、ブラッドアーツや神機兵のことについては検閲が入る。

 また、(やってないけど)家に置いてきた私物や、何かを送ってもらいたい時はフライアではなく、一度本部の管理室からこちら宛てに届くように手配される。もちろん盗聴機や盗撮機がないかどうかの検査付きで。

 

 以上諸々の事情からフライアに関する知識はむしろ一般のフェンリル職員と大差がないハズ――と踏んでいる。

 

 そうでないと、彼らにも危険が及んでしまうから。

 

 

 

 

 

 

 ……というフライア側からの手厚すぎる配慮があったハズなのだが。

 

 そこまで考えて、急に怖くなった。

 

 

 

 

「い、一体どうして……どうして此処に……」

 

 

 なぜ、兄は此処にいるのです……!?

 

 

 

「ふっ……ふふふふふ……! 知りたい様だな唯ちゃん……何故、お兄ちゃんが此処に居るのか、を……!」

「ほ、本当だよ……!? な、何で……クソ兄貴ナンデ!?」

「それはな……」

「そ、それは……!?」

 

 

 ごくり、と喉が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「偶々!! 転職した先が……フライアだったからーーーー!!!!」

「…………ハァ?」

 

 

「いやあのねー。お兄ちゃんもビックリだよ~。あの後……お兄ちゃんはキミのことを全力で探したんだ。妹がどこに居るのか、そして……どんな神機使いになっているのか。不眠不休で全力全開で捜査したんだ」

「キモい……から死んで……?」

「だけど全然見つからなかった……! 唯ちゃんの為に、俺は外部居住区の探偵や不法武器商人や元軍人やフェンリル内部のあんな奴やこんな奴。極東支部の知り合いとかに連絡とって最終的には変な宗教団体まで行って聞いてみたんだけど」

 

 ここまでは想定済みだ。

 だから兄やそのやたら多い知人、友人たちに目撃されない様に奴らの行動パターンを完全に把握、予測した上で引っ越しと荷造りをしたのに。

 

「その為にお兄ちゃんは胸に七つの傷を負う羽目になってしまった……」

「なんでその時死ななかったの!?」

 

 まだ世紀末と呼ばれるのには20年くらいあるハズだ。

 

「でもね、唯ちゃん。お兄ちゃんは諦めなかったんだよ!」

「何で!?!?」

「いや~タマタマねー。神機のオラクル設計やってたらさー、フライアから是非来てくれ、ってお達しが来ちゃって。最初は胡散臭いしキナ臭いし何か臭いから断ろうかと思ったんだけどさー、フライアって唯ちゃんの居る場所じゃーん! と言うわけでその場でサインして捺印して来たと言う訳」

「うそでしょ……」

 

 フライアぁあああああ!! フライアぁああああ!!

 個人情報握ってるんだから家族関係まで調べてるハズでしょうに……! わざと!? わざとなの!?

 罠だ……これは罠だ……! 誰かが私を陥れるために仕組んだわなななななry

 

 

「仕事頑張ってたら……研究成果認められたし、昇進したし、給料上がったし、何より大事な妹に会えたじゃん……嗚呼、完璧すぎて自分が怖い」

 

 そう考えられるお前の精神構造が怖い。

 そして何より現実が怖い……神よ……なぜあなたはこのクソヤロォに無駄な知能指数と才能を与え給もうたのですか……。

 

 

 

 

 

 

「御高説ありがとうございました。神威技官」

 

 ぱちぱちぱちー! と、ブラッド一同からの盛大な拍手が兄へと送られた。

 嘘でしょ、何で……何で……? と信じられないような思いがこみ上げる。

 ほぼ死んだような目でピクニックな隊長殿を見つめる……。

 

「貴官の肉親への愛情に感服致しました」

「たい……ちょ……?」

 

 貴方は私の味方ではなかったのですか。

 

「貴官ほど優れた人材が、公私共に私の部下を支えて下さるのであれば、もう何も心配いらない」

 

 

「ナニイッテルノデスカ!? 貴方まさか自分の部下を売る気じゃ……!?」

「ゆーいーちゃーん~~。上官同士の会話にぃー、一兵卒が口を出さな~~い! これ社会の常識なんだからっー!」

 

 復活のおでんパンを口に突っ込まれた。

 

「お任せくださいヴィスコンティ大尉。必ず期待に応え、そして期待以上の成果を出してみせます」

「それは頼もしい」

 

 出さなくていいから早くソイツを強制送還……。

 

 

 

「あ、あの……」

 

 部屋の隅からか細い女性の声が聞こえた。

 今まで聞いたことのない音声から、消去法で新人さんの声だと全員が理解する。

 

「その……」

 

「シエル。固くならなくてもいいのよ。……何にしても、これでブラッドはようやく全員揃いましたね。

 

 これからあなた達はその身に宿した『血の力』を以て、あまねく神機使いを……そして、救いを待つ人々を導いてあげてくださいね……ジュリウス」

「はい、先生」

「さぁ皆に……って何を勘違いしているのですジュリウス? 私のジュリウス……!? 今そこでヨツンヴァインにならなくても良いのですよ……! た、立ちなさい……」

「……っ!」

 

 隊長が……ラケル先生の意図を読み間違えたなんて……。

 

 明日は天から槍が降ってくるかもしれない。

 

 

「これからブラッドは戦術面における連携を重視してゆく。

その命令系統を一本化するために、副隊長を任命する」

 

 あぁ、成る程。

 そこでやっと合点がいく。この時期の新人の入隊、しかも、マグノリアコンパス出身のエリート。

 更にはジュリウス隊長と面識があるっぽい女の子。だからきっと隊長は、シエル・アランソンさんを副隊長にしようと思って連れてきたのだ。

 だが、隊長はアッサリとアランソンさんの前をスルー。

 そして一歩ずつ足を進めていく。

 

「これまでの立ち回り……にはこの際目を瞑るとして」

 

 ……嫌な予感MAX。

 

「早くも血の力に目覚めたこと……神威唯、お前が適任だと判断した」

「……」

「副隊長、やってくれるな?」

 

 頭が真っ白になった。

 何を言われているのか脳が理解を拒絶した。

 やけに大きな心拍数を頼りに、だんだんと現実感が戻ってくる。

 そして、言われた言葉も。その意味も。

 

 

 

 

「む、無理です!!!!」

 

「やってくれるな?」

 

 今度は肩を押さえつけて不気味な笑顔を浮かべていた。

 

「お願いです隊長! 正気に戻って考え直してください!!」

「大丈夫だ……きっとお前ならやれるさ……やれる……やればできるさ……」

「できるできないの話じゃありませんよ……! 無理なんです! 私が副隊長になんかなったら……そんなことになったりなんかしたら……

 ……巷で囁かれているような終末捕食は起きて、世界は崩壊して、挙句の果てにはユノさんまで降臨してくる事態になりますですよ!?!?」

「……!?」

 

 ビクっ、と『あの悪夢』を知っているナナちゃん、ロミオ先輩、そして隊長が急に後ろを振りむいて安全の確認をする。

 あ、そうだよね。怖い話とか心霊現象系のTVとか見てると背後が気になっちゃう系統な人なんだね皆……。

 とか思ったのもつかの間、隊長のSAN値は復活した。

 

「大丈夫だヤツは居ないヤツは居ない歌姫なんか居ない……副隊長やってくれるな?」

 

 テコでも動かねぇつもりか……。

 

「だ、大体……! 隊長職はそちらのアランソンさんみたいな……しっかり教育を受けたエリートじゃないと駄目なんじゃ……」

「ですから、私は副隊長の補佐に回ります」

「そ、ソウデスカー」

 

 第一次悪あがき戦、アッサリ敗退。

 

「そ、それに! ……単純にキャリアの問題ならロミオ先輩やギルバートさんの方が適任だと思いますがぁ……」

「……人が気にしてることをアッサリと……」

「唯ちゃんさぁ……」

「ひぃ!? ご、ごごごごめんなさい……! そんな視線だけで人を殺せそうな目で見ないで下さいぃ……!」

 

 ロミオ先輩は血涙を流していた。

 ナナちゃんもジト目で私を睨んできた。……あぁ、もうどうして私って……。

 

「コレ……! コレだよコレ……! コレが唯ちゃんだよ……! うぅ……お兄ちゃんもう感涙の極み」

「帰って」

 

 兄は脳内補正で居なかったことにして、縋るような視線を紫色の長身の青年へと向ける。

 お願いしますギルバート様、神様仏様マクレイン様……! 今この状況から私を救って下さるお方は貴方様しかいらっしゃらないのです……!

 口には出さずに、心の中全力土下座で思わず彼へと、祈った。

 

 

 

「まぁ順当だろ、ナナはアレだし、ロミオは頼りないしな」

「……」

 

 性格はいい奴なんだ……いい性格なん……だけどな……。

 本当それだけなんだなこの紫ゴリラ。

 

「うるさいよ! お前の方がよっぽど有り得ないよ!」

「前にも言ったが、お前は敵と距離開けすぎだ。その癖、被弾率が高いってのはどういうことだ?」

「イノシシ馬鹿に言われたかないねー。第一皆の射線の邪魔になってることに気付いてないの?」

「……皆って誰だよ」

 

 イラッときたロミオ先輩とギルさんの特に意味もゴールもない口喧嘩が勃発してしまった。

 他人のこうゆう不毛な争いが好きじゃないナナちゃんがひらっと躱していく。

 

「私じゃないよー」

 

「……俺だよバーカ!!」

「あ、すいませんー……実は私もですー」

「俺もだ」

「……え……え……マジで……? マジで……?」

 

 だって本当に時々マジで邪魔なんだもんコイツ。まさかの援護射撃にロミオ先輩が一番オロオロしている。

 

「そうか……悪かった……以後気を付ける……」

 

 ギルさんはしゅん、としてしまった。 

 ……何か申し訳ない。けど本当のことだしギルさんだから何かいいや――ということにしておく。

 

 

 

「……わ、分かりました……やります……副隊長……」

 

「!?」

「え!?」

「なっ!?」

「おおっ!」

 

 

「何ですかそのリアクションは!?」

「…………!?」

「一番ビビってませんか隊長!?」

 

 信じてくれるんじゃなかったのか。幾ら何でもその反応はないでしょうと思うのですけども。

 

「やるときはやりますよ……私だって……」

 

 本当はここでもう少しグダグダやっていたい私も居るんだけど。

 でも、それじゃ駄目なんだ。

 

 いつまでも進歩のないままの私ではいられない。……最近、少しだけやっと前向きになれたのだから。

 もしかしたら、流されているだけなのかもしれない。

 だとしても、流されているだけでも良い。だって、それは――

 

 何も変わらないことより、ずっとずっとマシなハズなのだから。

 

 

 ……と、思ってはいるんだけどね。

 

 

 

 

 

「うん! いいんじゃない!! お兄ちゃんは嬉しーーィ!」

「帰れ!!」

「唯ちゃん副隊長記念! お兄ちゃんもハリキっちゃうぞー!!」

「黙れ!!」

 

「ヒロさーん。お近づきの印です! どうぞどうぞ~~シエルさんもどうぞー」

「私物の受け取りは規則では書類を通してでないと――」

「お、香月さんありがとう。丁度2日何も食ってなくって腹減ってたんだわー……あっひゃひゃひゃ……ひゃ……、……!?」

 

 あとは知ってのこの展開。

 

 

「も……もももももももももももももももももーーーー! もーー! もももももー!」

「シエル、大丈夫か? 水だ」

「も……ぷはぁー……あ、ありがとうございますも……も!? もももも!?」

「シエル!? シエーーーール!?!?」

「わー、ジュリウス隊長のこんな大声聞いたの初めて(棒)」

 

 

 

 

「わぁい、アバンギャルド……。でも止まらナーーイ! 何故かやめられナーーイ! 止まらナーーイ!!

 おでんおでんおでんおでんおでんおでんおでんおでんおでんおでんでででん」

 

 

「ナナちゃんグッジョォォォオヴ!!!!」

「あはっ♪ 肉親なのに酷いね~唯ちゃんは~~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 次から、ちゃんとやります。

 






この前気づいたのですが、ハーメルンのサイトで誤字脱字機能が付いたのですね!
矛盾無数さん。誤字脱字指摘ありがとうございました! 


次回はブラッド中心日常回になります。



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