ピクニック隊長と血みどろ特殊部隊   作:ウンバボ族の強襲

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食べることも、
誰かのために生きることも 誰かのために死ぬことも、
誰かを許すことも 、それがどんな形をしていても

みんな、誰かと、繋がってる


     ―エイジス島に残った非公式の音声記録より


神機使い、始めました編
phase00 適合試験


 今まで、自分の人生を生きていなかった。

 

 

 取りあえず、今のところの生涯に不幸があったわけじゃない。いや……むしろ、恵まれていた。

『こんな時代』にごく普通に家があり、家族があり、高校に通っている、普通の女子高生。

今だから分かる、私はとんでもない幸運に恵まれていたのだ。

 

 外の世界には、嵐は吹き荒れている。

 

 両親はいつも言っていた。外の世界は嵐なのだ、と

 こうして何重にも壁に囲まれている此処は安全なのだ、と

 外の世界には『アラガミ』が居る。異常な気象が次々発生し、飲み水や空気ですら汚染されている。大多数の人間はそんな場所に住んでいる。

 そのあと、必ずこう付け加えるのだ。

 だから、貴女は此処に居なさい。貴女はとても幸せなのだから。

 

 私は、その言葉に何の疑問も抱いていなかった。

親は正しい、と思っていた。彼らの言葉は正しいと思い込んでいた。

だから親の勧め通り高校に行って、教師の言うとおりに勉強をして、家柄も人柄も優れた友人達に囲まれていた。このまま上の職業専門校か大学に進学し親と同じ様にフェンリルかその系列企業で勤め人になるのだろうとぼんやり思っていた。

いや、本当は考えてすらいなかったのだ。

 

それは、とてつもない幸運なんだろう。

ほとんどの人間が今定職につけない、だから私のように決まりきった道があり安全な居場所がある人間は少ない。そんな「幸せ」を分かっていなかったわけではない。

 

 ただ、自分にはまだ可能性があるんじゃないかと信じたかったのだ。

 夢を見てみたかったのだ。

 

 だが、勇気がなかった。

もし失敗したらどうする、このまま歩いていけば『安全で真っ当な』人生があるのに、と。

 きっと皆認めてくれる、お父さんもお母さんも褒めてくれる。そのうち普通の恋愛をして、結婚をして、家庭を築く、全てが喰われていくこの世界で誰もが羨む安定した安全な人生……それを捨てたくなかった。

 

 そんな時だった、『赤紙』――神機適合通知が届いたのは

 

 

「気を楽になさい……そう緊張することはありません。なぜなら、貴女は既に、選ばれて此処に居るのですから……」

 

「は、はい……」

 

 部屋の上層部の拡声器から柔らかな女性の声が響く。

そこで私は我に返る。

少し感傷的になっていた様だった。緊張していないといえば嘘になるのだが。

 

「今から貴女には、対アラガミ討伐部隊『ゴッドイーター』の適合試験を受けてもらいます」

 

 きれいだけど、少々暗い声が霧散する。

床がせり上がりそこから台が現れた。乗せられていたのは一振りの黒色の刃。

 

「あぁ、試験、と言っても何も恐れる必要はありませんよ。特別なことをするわけではないのですから……さぁ、そこに手を」

 

 そこ、というのは神機の柄の先にある枷のようなもののことだろう。

ゴッドイーターの象徴ともいえる『腕輪』にあたるものになる、そこでやめておけ、と兄の声が蘇る。

 

 

 

「アレはそんな世間が思っているもんじゃない」

 

 どうして、お兄ちゃん?

 

 

「お前はアルコールパッチ位のものだと思っているんだろうが違う、神機と体を繋げるんだぞ、失敗したら確実に死ぬ……それも……マトモな死に方なんかできない、酷いとそのまま肉片に……」

 

 

 でも、適合したって通知が来たのに……?

 私にしかできない、ってことなのに……?

 

「そんなもの分かったもんじゃない……あいつら(・・・・)は適合率が7割を超えてる者には全員送っているんだ! 何もお前がやる必要はないだろ」

 

 お前がやる必要は無い? 私にしか、できないコトなのに?

 

 

 ガチリ、という音と共に腕輪が手首に嵌った。一瞬肉片になる、という言葉が思い出されて寒気が走るが……その兆候はなさ気だと信じたい。

 

「終わり……なのかな?」

 

 返答はない。

あ、これで終わりなのかな? ……と、思ったとき

 

 天井部の機械がスライドして開き中からドリル状の鉄塊が出現した。

「え」

 リプライズする、兄の声。

『失敗したら確実に死ぬ……それも……マトモな死に方なんかできない、酷いとそのまま肉片に……』

 納得しました、お兄様。

あのドリルが打ち降ろされればさぞ痛いことでしょう……痛いで済むのでしょうか、済めばいいですね。

 

「エェエエーーーー!?」

 

 私は、暴れた。

検査台の上でこの上なくみっともなくもがいてみせた。しかし、手首を腕輪で挟まれていたため大した動作には成り得ない。

 

「離してぇぇぇえ! 無理、無理無理無理! やっぱ無理ですごめんなさいーーー!」

『恐れることはないのです……神があなたを選んだのですから……』

「ドリルなんて聞いてないですぅうううう!」

『……少し、静かにしましょうか……』

 

 何ということでしょう、検査台から不思議な機械音。左右手足胴体部分からアームが伸びてきたではアリマセンカ! 

 しかもご丁寧に接触部分はシリコンカバーでコーティングされてある、嬉しいことに無駄に肌に優しい仕様。

 

「も、もしかしてのもしかして?」

『ご想像通り』

 

 きっとスピーカーの向こう側で彼女は満面の笑みを浮かべたことだろう。想像した通り機械が作動、私の両手両足肋骨骨盤あたりをアームがガッチリと固定する。

 

――――そのせいで全く体が動かない

 

『では、貴女に神の祝福があらんことを……』

「ま、待ってやっぱり待……」

 

 ドリルがすさまじい高速回転。金属と金属のこすれあう、甲高い音と共にギロチンのように垂直落下をしてきた。

 

「うわぁあああああああ!?あぁああああっ!?」

 

 痛いなんてもんじゃない。

 やばい、これはやばい。目の前が赤くなったり白くなったりするヤツだコレー!

 

「痛い痛い痛い痛い痛いぃぃいいいいいい!」

『耐えなさい、耐えるのです。その先にあなたの未来があるのです』

「無理無理無理無理無理ーーーーー! 死んじゃうーーーー!」

『どうしても耐えられないなら……素数を数えてみては如何です?』

「ひぃいいいいっ! い、いち、にー、さ、さんっ! 四は違う、四は違うちがうよぉおおおおおおおおおお!」

 

 もう何言ってるのかよくわからない。

全身の汗が吹き出し、狂ったように全身をよじり――たかった。

 

「いだいいいたいいたぁあああああぁあいいぃいいい!?」

 

 できないのは自業自得だ。だって、機械で全身固定されているのですもの。体を動かせさえすれば多少痛みを和らげられるのになぁ……などと、妙に冷静にアホなことを考えている。こんな落ち着いていられるのは、何か痛すぎて逆に痛くなくなってきたからだろう。

 

『適合失敗か!?』

『いいえ、よく御覧なさい』

『だがこの苦しみ方は尋常じゃ……っ! 痙攣してる!?』

『まぁ……大脳ニューロンの過剰な発射による癲癇、のようですね……医療スタッフの皆さん、出番ですよ』

 

 

 

 あぁ、私がこんなに痛いのに何か喋ってるよスピーカーの向こうの人……。

けど、意識が何だがぼんやりしてきた。うっすらと景色が明るくなって、ぼやけていく。

白衣の人間たちがたくさん覆いかぶさり、『これ何本に見えますか!?』と盛んに指を振っている……あぁ、6本ぐらいに見えるわソレ。

 そんな中、妙にリアルに女性の声が響いた。

 

 

 

 

『おめでとう、これであなたは神を狩る者……『ゴッドイーター』になりました』

 

 多分、ただの事実確認なんだろうが今の私には女神の啓示のようにさえ、聞こえた。

神機適合、ゴッドイーターになりました。

 

やっと自分の、人生が始まるんだ……。

 

 

そこで意識はフツリと途切れた。

 

 

 

 

 


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