TALES OF THE ABYSS~猛りの焔~ 作:四季の夢
こちらの方も頑張らせて頂きますので、宜しくお願いします。
テイルズ新作が発表されましたね。このところ、新キャラが前のキャラに似ている様に感じてしまう私です。
同日
現在、タルタロス
あの後、シンク達を撒いたフレアは数時間ほど逃げ回っていた。艦内でオラクル兵に発見もされたが、増援を呼ばれる前にその意識を奪う等して対処している。
しかし、このタルタロスは構造も一部複雑で無駄に広く、昇った先が行き止まりと言う事もあり、フレアは少し苦戦を強いられている。
(既にレプリカ導師は敵の手に落ち、タルタロスの外にいるだろう。……死霊使いはともかく、ルークとティアはまだ殺せない筈だ。さて、このままブリッジに行くべき……隠れるか)
現状では自分が動く必要はなく、フレアは何処かで隠れる様に考え始めた。自分だけでカイツールに行くのは容易だがルークを置いて行くわけにはいかず、神託が動き始めるのも得策だ。
そうと判断すれば、フレアは何処に隠れるか考え始めた時だった。
「お困りですか、フレア様?」
「ほほう、早い到着じゃないか……ガイ」
声のする方をフレアは向くと、外の屋根から器用に顔を出す一人の金髪の青年が顔を出した。
その人物はファブレ家の使用人のガイであった。ガイはフレアの言葉に頷くと、辺りを警戒しながら通路へ入り、フレアへ頭を下げる。
「ご無事の様ですねフレア様」
「当然だ。ルークも別行動だが無事の筈だ……しかし、よくこの場所が分かったな」
数日が経っているとはいえ、的確にタルタロスの場所へやって来るのは難しい。フレアがガイへその事を問いかけると、ガイは頷いて説明を始める。
「御三方がマルクト方面に飛んだのは判明していたので、俺が陸地から、ヴァンが海からマルクトへ捜索をしていました。そんな中で見かけた不自然な魔物の群れと、襲われている戦艦。なんとなく気になったら案の定でした」
「良い判断だったな……しかし、続きは一旦部屋に入ってからだ。オラクル兵がまだ周囲を俳諧している」
フレアはガイへそう言うと、近くの人の気配のない一室にガイと共に入る。部屋は兵士の部屋の様で簡易なベッドや引き出し付きの棚が備えられていた。
そして、フレアは部屋の隅にある椅子に腰を掛けるとガイから話し掛けられた。
「ところでルークは? こんな状況下、アイツが不安にならない訳がありません」
「ルークは侵入者であるヴァンの妹ティア・グランツ、そして死霊使いジェイド・カーティスと共に行動している筈だ。まあ、あの二人には釘を刺している、少なくともルークを死なせんだろう」
はっきり言えばルークが死ねばフレアがどんな行動をするか、ジェイドが分からない筈がない。暴れた所でジェイドも戦うかも知れないが、フレアはリグレットの言葉を覚えていた。
『一番厄介だった死霊使いはラルゴが力を封じた』
その言葉で、ジェイドが封印術の類を受けたのだとフレアは容易に予想できた。なんだかんだで人を使う事が上手い故に他者を見下している節もあるジェイド。その為、相手が格下と油断して封印術を喰らったのだろう。
それでもルークを守るのには十分な実力はあるだろうが、フレアには絶対に勝てない。つまり、ルークの死はジェイド達にとって自分達の作戦失敗と死を意味するのだ。
「ヴァンの妹、やっぱりか……あの方の面影がある訳だ。……けど、こんな状況で大丈夫かアイツ。……本気の人との殺し合いなんてルークができるとは思えない。アイツが戦わないで済んでれば良いんだが」
最初の方は聞こえなかったが、ガイは後半の方はフレアにも聞こえるように呟いた。
ここに来るまでにガイはマルクト・オラクルの兵と魔物の死体を見かけて来ている。中には既に音素化する程に損傷が激しいものもあった。
訓練された普通の兵士ですら嗚咽ものだ、屋敷の中で自分に優しい世界しか知らないルークが何ともない筈がない。ガイはルークの事を心配するが、フレアのその言葉に首を横へ振った。
「それは無理だろう。死霊使いは任務の為ならばどんなモノでも道具とし、手段を択ばない純粋な軍人だ。ルークもティアも数少ない戦力、利用しない訳がない。それに、ルークもプライドだけは高い、おそらく死霊使いに上手く誘導されて戦う事にしたのだろうな」
まるで自分の目で見た事を言っている様なフレア。その言葉にはいつも説得力があり、ガイも気味が悪いと思ってしまうほどだ。
しかし、それでもルークが生きていると思っているのは彼の自分への自信や経験からなのだろう。
(……分かっているとはいえ、一応、今はルークがあんたの弟だろう)
ルークを心配しているのかどうかも分からないフレアの態度にガイは不信感を持った時の事だった。部屋の伝声管から聞き覚えのある声が響き渡る。
『死霊使いの名において命じる! 作戦名”骸狩り”始動せよ!』
声の主はジェイドであった。そして、ジェイドのその言葉が辺りに響いた直後、艦全体から鈍い音が響き渡ると明かりなどが一斉に消えた。
「これは……タルタロスの動力源が落ちたのか?」
「……時が来たな。行くぞ、ガイ。ルーク達も出入口に向かっている筈だ」
フレアの言葉にガイは頷き、二人は部屋を出て出入口を目指すのだった。
▼▼▼
それは、フレアとガイが部屋を出てオラクル兵を何人か斬り捨てながら、左右に分かれている通路の奥へ着いた時であった。
二人は一人の少女と一匹の成獣ライガと出くわし、思わず足を止めた。
「ライガ!?……あと、子供?」
「ヒィ!!?」
フレアは成獣のライガの存在、そして桃色の髪をした少女が一緒にいる事に驚き足を止めるが、ガイは少女の存在に気付くと小さく悲鳴を上げて先程通ってきた通路を後ずさりで一気に戻ってしまう。
勿論、突然の事態に驚いたのは二人だけではなく向こうも同じ事であった。
「ッ!?」
少女は二人に気付くとビクリと身体を震わせ、反射的にライガの背に乗って目の前にいるフレアの顔を見上げた。
少女の服装は神託の騎士団の物であり、フレア達にとっては敵だ。しかし、少女はお世辞にも剣が持てる様な力強い身体ではない。明らかに譜術士向けだ。
その為、黙らせるだけならばフレアにとって成獣ライガを含めても容易な相手なのだが、少女は侵入者であるフレア達を見て叫ぶ事もしなければ攻撃もしてこない。
寧ろ、何故かジッとフレアの顔をずっと見ている。
(……誰だ?)
目の前の少女に覚えなどない。会った事が一度でもあるならば何かしら記憶に反応があるが、それすらないと言う事は完全な初対面。
相手が自分を一方的に知っているだけならば、本当に自分にはどうしようもない。そんな事をフレアを考えていると、少女は小さく何か呟いた。
「……ママ……見逃してくれて……ありがとう……です」
「なに……?」
聞き間違いがなければ、ママを見逃してくれた事で少女はフレアへお礼を言っている。しかし、その言葉はフレアには更に混乱する事になった。
見ず知らずの少女の母親を助けた覚えはない。いや、人を何人も助けた事があるがその中の一人だとしたら分かる訳がない。
町の中、道中、そういう環境で女性だけでも何人助けた事か、少なくとも見逃してくれてと言っている以上は何か特別な状況だったのだろう。
だが、フレアが考え込み、目の前の少女に何か聞こうと思った矢先、少女はそれ以上は言わずにそのままフレアとガイに何もせずに立ち去って行く。
フレアはそんな少女の背中をただ見守る事しか出来なかった。
「……なんだったんだ、今の少女は?」
「本当に覚えがないんですか?」
いつの間にか近くに戻って来ていたガイがフレアへ聞くが、覚えなど本当にない。フレアは首を横へ振る事しか出来なかった。
「ああ、あんな目立つ髪もしているんだ。覚えているなら既に思い出している」
「まあ、ライガも一緒でしたし目立ってましたね」
まるで他人事の様に言うガイ。そんなガイに溜息を吐きながらフレアは彼を見た。
「……俺が言えた立場ではないが、そろそろ女性恐怖症を治す努力を始めるべきだな。いつまでもその調子では、跡取りを残せず一族の復興はできんぞ」
「……うぅ、痛い所を。――はぁ、俺って本当にお嫁さんもらえるのかな」
フレアの言葉にガクリと肩を落とすガイ。彼も色々と複雑な物を抱えているのだが、やはり気にはしている様だ。
「しっかりしろガイラルディア。それではあの男を殺せん。――それに元は良いのだ、あとは心を癒せば時が解決してくれる」
フレアの言葉に若干複雑そうな表情をガイは浮かべると、話の方向を先程の少女の事へ戻す。
「そ、そういえば……さっきの女の子は本当になんだったんだろうな? 少なくとも、向こうはあなたをご存じだった」
余程にテンパっているのかガイの口調はルークと話す感じになって来ていた。しかい、別にフレアはそんな事は気にしないので特には言わない。
「しかし、俺には本当に心当たりがない。流石に魔物が同行している少女なん――」
そこまで言った瞬間、フレアの中にある答えが過った。神託・魔物・少女、これによって導き出される答え、それにフレアは心当たりがある。
「まさか――『妖獣』のアリエッタか!?」
先程、アリエッタらしき少女が立ち去った方向を見ながらフレアは呟き、それを聞いたガイも驚きを隠せなかった。
「妖獣のアリエッタ……!――まさか、噂には聞いてたがあんな女の子が六神将なのか?」
神託騎士団所属・アリエッタ響手。通称・六神将『妖獣』のアリエッタは総員約20名の第三師団を率いる師団長である。
最低でも兵士が二千はいる他の師団と比べ、アリエッタの第三師団の戦力は一目見れば弱小に見える。これは、アリエッタ自身の心も幼い事もあり、数千人の兵力を指揮できないからだ。その為、兵力20名は事実上全員が彼女の補佐官みたいなものだ。
しかし、彼女の真骨頂は別にある。それは魔物と会話が出来る事にある。幼い頃、魔物に拾われて育てられたアリエッタをヴァンが見つけ、その能力を開花させたのだ。
魔物との会話・アリエッタ自身が持っていた譜術の才能、これが合わさった時、第三師団の兵力はアリエッタの友達である魔物の数となり、現状の様に第三師団は戦艦一隻を落とす程の部隊となる。
「噂は聞いていた。――そして、あいつの話が正しければ今の彼女の年齢は16だった筈だ」
「じゅ、16!? あんな小さいのにヴァンの妹と同い年なのか。――若干16歳で魔物を操れ、譜術の才もあるのか。他の六神将同様、彼女も見かけで判断できない人物か」
ガイは色々とギャップがあって困惑した。見た目は幼いが、タルタロスで起きた惨劇に彼女も加担しているのも事実。本人が理解しているのかは怪しいが、ガイは困惑と共にどこか虚しい表情を浮かべていた。
そして、ガイがそう思っている時、フレアはある事を思っていた。
(妖獣のアリエッタ……アイツが唯一認め連れていた人物。――そして現在のオールドラントで、魔物と会話する術を持つ唯一の人間。――その才、是非とも配下に置きたいものだ)
フレアにとって、魔物の意志を理解出来るアリエッタは駒としては一級品だ。フレアの表情は徐々に冷徹なものとなり、彼女を自分の配下に置きたいと考える。―――他の”二名の”六神将同様に。
そんな風にフレアとガイがそれぞれ考えを思っていた時だ。二人の耳に銃声が届く。
タンッ!――タンッ!
一発目と二発目の間にあまり間がない程に素早い銃声を聞き、フレアとガイはその音の方へ一斉に掛け出していった。
▼▼▼
現在、タルタロス【出入口前】
そこではルーク達とイオンを取り囲むオラクル兵数人、そして六神将・魔弾と妖獣と対峙し戦いを繰り広げていた。
「オラァッ! 火を吐け!!」
「ミュウゥゥゥゥゥ!!」
ルークは火を吐くミュウをオラクル兵の方へ向けながら振り回し、ルークの必死さとミュウの火にオラクル兵も思わず怯んでいた。
「お、おおぅ……!」
「な、なんだこいつ!? 聖獣であるチーグルを振り回しているぞ!」
「なんと罰当たりな!」
まさか、ここまでダアトの象徴であるチーグルを神託騎士団の前でする者がいようとは、オラクル兵達の怯みは半端なかった。
そして、もう反対側ではティアとジェイド、そしてリグレットと戦いを繰り広げていた。
「リグレット教官!? どうしてあなたが!」
「ティア! 何故、お前がここにいる!?」
「――!」
ティアとリグレットは顔見知りだった。それもただの顔見知りではなく、ティアに軍人としての技術を教えた言わば師弟関係にある。
そんな二人が敵対関係として出会い、互いに困惑している間にジェイドはリグレットへ槍を向けながら迫る。
「ッ!?――流石は死霊使い、封印術に掛けられてもこの身体能力は恐れ入る」
「そちらこそ……ラルゴがまだ生きている事を教えて頂いてありがとうございます」
ジェイドが封印術に掛けられている事を知っているのは、敵方では直接使用したラルゴだけだ。それをその場にいなかったリグレットが知っている事が意味するのはラルゴの生存。
どうやらジェイドは封印術によって感覚が掴めず、ラルゴへ対して詰めを甘くしてしまった様だ。
ジェイドとリグレットは互いに武器を双方の顔に向けて対峙していると、出入口の一個上のフロアから漸く追い付いたフレアとガイが身を乗り出して下の状況を確認する。
咄嗟の判断を求められる今の状況、この状況で最善なのは導師の身柄の保護、そして少し離れているアリエッタの身柄を抑える事だ。
イオンの身柄を抑えればジェイドも遠慮はせず、アリエッタも六神将である為に人質としても有効活用できる。
「導師とアリエッタ、どちらに行く!」
「導師イオンで!」
互いに考えていた事は理解していた事で、フレアがそれだけ言っただけでガイはそう返答し、刀を抜いて導師イオンの周辺にいるオラクル兵の真上へ飛び降りて奇襲をかけた。
咄嗟の事にオラクル兵は反応できず、武器を落とされガイに蹴飛ばされてその場に倒れ込む。
「ガイ様、華麗に参上! ――うちの坊っちゃんを虐めるなら、まずは使用人の俺が相手をしてやるよ!」
「ガイ!」
親友の登場にルークは驚きと安心の表情を浮かべた。イオンもガイが庇うように後ろにし、突然の事にリグレットは意識をそちらへ向けてしまった。
「しまった、導師を――!」
「――戦場では常に視野を広く持つものだぞ」
ガイとイオンへ意識を向けていたメンバーだったが、発せられた声のする方向を向くとそこにはアリエッタの首筋を後ろから片手で掴むフレアの姿があった。
既にフランベルジュもその姿をさらけ出しており、周辺にいるライガと兵士はその高濃度な第五音素に怯んで動けなくなっていた。
「アリエッタ……!」
「ごめんなさい、リグレット……」
自分が捕まった事は悪い事だと分かっているしく、アリエッタは今にも泣きそうな声でリグレットへそう言うと、ジェイドが彼女の方へ槍を更に向けた。
「形勢が逆転しましたね。――武器を捨てなさい。他の兵士にも同じ様に!」
「……仕方あるまい。武器を捨てろ!」
やれやれと言った様にリグレットは武器を捨てると、他の兵士もその言葉に剣を地面に捨てた。
「君も、ライガを大人しくさせておけば手荒な真似はしないと約束しよう」
「……少し痛い……です」
「それは我慢するんだ」
掴まれている首が少し痛むらしく、アリエッタはフレアへそう言うが、だからと言って放す訳にもいかず我慢する様に優しく諭した。
能力的にも欲しい人材でもアリエッタには出来るだけ悪い印象は与えたくない。なにより、彼女はフレアの唯一の親友の忘れ形見でもある。敵味方とはいえ過剰な乱暴はしたくはない。
「それで、次は何が望みだ?」
「兵士達と共にタルタロスの中に入ってもらいます」
ジェイドの言葉にリグレット達は頷いて素直にタルタロスの中に入り、最後にアリエッタとライガもタルタロスの中に入るとジェイドは外側から扉を閉めて手動でロックした。
「これで少しは時間を稼げるでしょう……」
「ですがジェイド、親書はアニスが持っています。――そのアニスと離ればなれに……」
今回の和平で最大の要の一つである新書、それがアニスと共に消えてしまった。不安そうにするイオンだが、ジェイドは特に慌てた様子もなく眼鏡を整えた。
「彼女も優秀な兵士です。そうそうやられはしませんし、こういう時の為に合流する場所も決めております。――我々は彼女を信じてその場所へ向かいましょう」
「……生き残りも期待は出来んだろう。――船員の数は?」
何の意味もない問いだろうが、恐らくは誰かしら聞きたいのだろうと思いフレアはジェイドに問いかけると、ジェイドは再び眼鏡を弄りながら話し出した。
「総員は約200名、紛争回避の為に目撃者は一人もいないでしょう」
「に、200人も人が死んだのか……」
ルークは恐怖、そして実感できない命の喪失に虚しい表情でタルタロスを見上げる。それだけでない、ルークはこの戦艦で人を一人殺してしまった。
殺してしまったのはオラクル兵。しかし、そうでもしなければルークが殺されていた。間違いではないが、命を奪ったと言う事実がルークには辛かった。
そして、ジェイドがロックしている間にティアからその事を聞かされていたフレアは、一人見上げるルークに語り掛けた。
「怖いか、ルーク?」
「兄上……俺、外の世界がこんなだったなんて知らなかった……命が簡単に無くなるなんて。――俺、人を殺しちまった!」
ルークは不安そうな顔でフレアへ見上げた。手には力が入っており、色々と必死であると同時に混乱している事が分かる。
「大変だったなルーク……だが、魔物や盗賊は報奨金がでる場合もある。私怨ではない限り罪にもならない。お前は命が危なかったんだろ?」
「けどよ! 人を殺しちまったんだ……!」
「……ルーク、まずは落ち着け」
フレアはルークを傍に寄らせると、その頭を優しく撫でて口調も優しく話し掛けた。
「色々とあり過ぎたな。お前は気にしなくても良い……だが、お前がそれを背負うならば、俺もその罪を背負おう。――たった一人で背負うなルーク。俺やガイだっているんだ」
「兄上……ガイ……」
「……キラン!」
兄の言葉にルークはフレアとガイをそれぞれ見る。何故かガイは顎に指を当ててポーズを決めているのは謎だが、任せろと受け取って良いだろう。
(それに……罪だけならば、あの女も背負う事になる。――分かっているな?)
フレアは心の中でそう呟きながら、誰にも分からない様にティアへ視線を送った。そして、その視線に気付いたティアは静かに頷く。
その表情には罪悪感などが浮き出ていた。
『そうか、ルークが人を。――しかし、それは元を正せば君の責任だ。ルークを守れと俺は言った、だがルークはしなくても良い殺しをしてしまった。……背負ってもらうぞ』
『……はい』
これは先程、ジェイドがロック中にフレアとティアが話していた内容だ。フレアにとって、今は大事なのはルークとレプリカ導師の二人だ。
ティアに関しては利用できれば良い方であり、障害になればいつでも消すだけだ。
「そろそろ行きましょうか」
ジェイドはこれ以上ここにいてまたオラクル兵達と戦う事を避ける為、少しでも離れる事を望んでいる。どの道、いつまでもここにいる訳にも行かないのは事実。
ジェイドの言葉に頷き、フレア達も移動を始めようとした時だった。近くの草むらから数人のオラクル兵が飛び出し、フレア達へ剣を構えながら突撃して来る。
「逃がすと思うか!」
「いけません! イオン様は下がって下さい!」
隠れていたであろうオラクル兵の奇襲だったが、ジェイドは素早くイオンを下がらせて槍を構えた。フレア達もそれぞれの武器を構えて迎撃態勢を取るのだが、一人だけ構える事もできない人物がいた。
「に、人間……!」
先程、人を斬ってしまったルークは人が相手と言う事に恐怖し、剣を握る事ができない。それに気付いたティアはルークの傍で杖を構えた。
「ルーク! あなたは下がって! あなたは人とは戦えないわ!」
ティアが庇うようにルークを自分の後ろに移動させたが、ルークはまだ身体が動けない。それに気付いたフレアはオラクル兵の剣を受け止めながらガイへ呼びかけた。
「ガイ! ルークを援護しろ! ティアだけでは分が悪い!」
「少しだけ……お待ちを!」
フレアの言葉にガイも何とかしようと自分が相手するオラクル兵を切り捨て、ルークの下へ向かおうとするが別のオラクル兵がそれを遮る。
「くそ! 一体、何人いるんだ!」
「やってくれますね……」
ジェイドも流石にこの数は予定外だったらしく、数人だけだと思われたオラクル兵はいつの間にか10人を超えており、オラクル兵はジェイドとフレアに戦力の大半を差し向ける。
「死霊使いと焔帝を狙え!」
「数で押せば倒せん敵ではない!」
オラクル兵達はそう言って士気を高めながら円で囲む様に二人に迫った。そして、フレアとジェイドは間にイオンを挟みながら互いに背中合わせで目の前のオラクル兵に武器を向けていた。
「カーティス大佐、あなたは数で押せば倒せると思われている様だ。そろそろ退役されたらどうですか?」
「おや? てっきり私は若いあなたが嘗められていると思ってましたよ」
こんな時でも互いに嫌味を言い合う二人だが、互いの表情は怒る処か冷静な笑みを浮かべている。そして、一定の時間が経った瞬間、二人は同時にオラクル兵へと掛け出して行く。
「天雷槍!――炸裂する力よ! エナジーブラスト!」
ジェイドはまず目の前のオラクル兵に槍を突き刺した瞬間、そのオラクル兵に雷が落雷しオラクル兵は鎧ごと焦げて息絶え、ジェイドは素早く詠唱をして少し離れたオラクル兵に譜術をぶつけた。
「爆連拳!――魔神炎!」
フレアは拳に第五音素を溜め、目の前のオラクル兵の懐に飛び込み拳を腹に放つとオラクル兵の腹部に連続の爆発が襲う。小さな爆発とは言え、連続の爆発によって吹き飛んだオラクル兵はそのまま動きを止める。
また、オラクル兵を一人に攻撃をあてた瞬間、すぐさまフレアはフランベルジュを振って離れたオラクル兵へ炎の斬撃を放ち、オラクル兵はそのまま火だるまとなる。
「甘いですよ!」
「練度が足りん!」
囲んでいたオラクル兵を次々に倒して行くジェイドとフレアによって敵の数は徐々に減って行き、ガイとティアもそれぞれの敵を片付け終えた所であった。
「先に仕掛けて来たのはあなた達よ。悪く思わないで……」
ティアは自分が殺した同僚の亡骸を見下ろしながらそう呟いていると、ガイがようやくティアへ合流を果たす。
「大丈夫か!……ってあれ? あんた、ルークはどうした!?」
「えっ!」
ガイの言葉に驚いてティアは自分の後ろを振り向くと、そこには先程までいた筈のルークの姿はどこにもいなかった。
どうやら、ティアが戦っている間に離れてしまった様で、二人は慌てて辺りを探すと剣の打ち合いの金属音が二人の耳に届く。
ティアとガイがその場所を向くと、そこではルークとオラクル兵がまさに戦闘を行っている状況だった。
「烈破掌!」
ルークは僅かな音素を手に溜めてオラクル兵目掛けて破裂させると、オラクル兵はそのまま吹き飛ばされて地面に倒れるが気を失ってはおらず、剣も未だに握っている。
しかし、ルークはそれ以上の事はせず、剣を腰の鞘に納めるとオラクル兵へ言った。
「し、勝負は着いた……もう、なにもするなよ……!」
その言葉を聞いたオラクル兵は驚き、その声が聞こえたティアとガイも信じられない表情で驚き、ルークへ叫んだ。
「ルーク! 逃げて!!」
「下がれ、ルークゥ!!」
「……え?」
これは模擬戦でもなければ訓練でもない。本当の戦闘、命のやり取りなのだ。そんなルークが言った事で戦いが終わる筈がない。
そして案の定、ルークが目を逸らした隙をオラクル兵が見逃す筈もなく、オラクル兵は再び斬りかかった。
「死ねぇぇぇぇぇッ!!」
「あっ!?」
ルークは反射的に剣で防ごうとするが、剣は先程納めたばかりで手には何も持っていない。ルークは事実上の丸腰と変わらない状況になっていた。
防ぐ術もない敵の攻撃にルークは死の恐怖によって身体が硬直し、回避ができない。ルークは反射的に目を閉じてしまった。
「ああッ!!」
叫びながら見えない痛みに怯えるルーク。このまま斬られてしまうのだと思ったのだが、その痛みはルークには来なかった。
その変わり、ルークの手に何か液体の様な物が付着する。一体、何が起こったのか、ルークは恐る恐る目を開くと、そこには――。
「テ、ティア!?」
自分を庇うようにオラクル兵に斬られるティアの姿があった。先程の液体はティアの血だったのだ。
「クソッ!」
駆けつけたガイがすぐさまオラクル兵に斬りかかり、オラクル兵はその攻撃を直に受けてしまう。
「ガッ――!」
オラクル兵は擬音の様な声を発しながら倒れ、血まみれになりながら息絶えた。そんなオラクル兵をルークは怯えながら見ると、今度はすぐに倒れたティアの方へ意識を向けた。
ティアが斬られたのは腕であったが、切り口から血が流れ出ておりルークは怯えながらティアへ呼びかけた。
「ティ、ティア! ごめん! お、おれ……斬れなくて! 剣を収めたら相手も戦わないと思って! けど、こんな――!」
自分の責任・甘さ・未熟さが招いた結果、自分の代わりにティアが斬られてしまった。その事実にルークは声を震わせながら叫んでいると、ティアが薄らと眼を開けてルークを見た。
「ティア!?」
ティアの瞳に映ったのは、ずっと我儘を言っていたお坊ちゃまではなく、今にも泣きそうな幼い子供の様な表情をしたルークの顔だった。
一言叱ってやろうと思ったが、そんな表情をされたら言えるモノも言えない。何より、日頃の過労も合わさって眠くて仕方ない。
だが、ここはやはりルークの為にも一言、何か言ってやらねばならない。
「……馬鹿」
何とか考えて出た言葉がそれであり、それを言い終えるとティアはそのまま気を失ってしまった。
その後、残りのオラクル兵を片付けたフレア達も合流すると、ティアを手当てしながら急いでタルタロスを離れて行くのだった。
End