TALES OF THE ABYSS~猛りの焔~   作:四季の夢

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お久し振りです。
投稿が遅くなった詳しい理由は、ペルソナの方の最新話。それの前書きを見て頂ければ幸いです。

一言で言えば、現実が"負"でした。


第十五話: 激突! カイザーディストR

 現在:イフリーナ【牢屋】

 

「ヒック……! うぅ……イオン様……!」

 

 イフリーナの牢屋。その中の一室でアリエッタは涙を流しながらイオンの名を呼んでいた。

 

「うぅ……さっきのは……」

 

 泣きながらも自分を慰めようと近くにいてくれる魔物を撫でながら、アリエッタは先程までの揺れや轟音を思い出す。

 魔物に育てられただけあり、アリエッタの耳もそれなりに良く、轟音の中に混ざって叫び声などがあったのは分かった。

 同時に潮の匂いに混じって漂う血の匂い。戦いが起こっているのはアリエッタにも感じることが出来ていた。

 だが彼女が不安なのは、それによっての自分の命の危機とかではない。

 この戦闘でイオンの身に何かが起こっていないか、それが不安なのだ。

 

「アリエッタ……イオン様の傍にいられない……守ってあげられない……!」

 

 イオンの危機に何も出来ない自分。それが不甲斐なく、アリエッタが更に涙を流した時だった。

 

「どうした……?」

 

 牢屋の扉が開き、そこからフレアが心配した様にアリエッタの下にやって来た。

 フレアは自分が管理しているだけあり、鍵を開けると牢の中へと入ってアリエッタの傍で膝を付いた。

 

「フ、フレア……イオン様……イオン様は……!」

 

 アリエッタは不安な表情を隠さず、人形を抱いていない開いている右手でフレアの服を掴む。

 前に話した事もあって、アリエッタはフレアへ心を前よりは開いてくれている。

 その為、今の彼女とならばフレアの言葉にも多少の信憑性を持ってくれるだろう。

 

「安心して良い。イオンは無事だ。彼の周りをルーク達と光焔騎士達が守っている。彼の身に何か起こる事はない」

 

「うぅ……本当……ですか?」

 

 フレアの言葉を聞いてアリエッタはぬいぐるみを持つ手を強めた。

 元々の彼女の性格なのだろう。泣き虫と言うか、不安がると言う感じ。

 

「あぁ……大丈夫だ」

 

 フレアはアリエッタを落ち着かせるように優しく言い。そのまま彼女を優しく抱きしめると、アリエッタを自分の肩辺りに顔を埋めさせながら、背を優しく叩く。

 

「イオンを心配するのは分かる。君はとても優秀な導師守護役だったとイオンが言っていた。――だから、そんな君の身に何かあればイオンが悲しむ」

 

「!」

 

 アリエッタはその言葉を聞くと、意味を理解した様に落ち着きを取り戻し始める。

 同時にフレアの優しい口調、そして温もりもあって段々と眠りについてしまう。

 疲労や泣き疲れたのだろう。そんな様子のアリエッタを備え付けの簡易のベッドに寝かせるとフレアは鍵を掛け直して牢を後にした。

――瞬間だった。

 

『ああぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 何やら間抜けな叫び声がフレアの耳に届いた。

 

 

▼▼▼

 

 現在:イフリーナ【後方・甲板】

 

 ご自慢の音機関と共にルーク達を襲ったディスト。

 彼の今の気分はハッキリ言って……最悪だった。

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 自分でも間抜けな叫び声だと分かっていても止める事は出来なかった。

 

 華麗な紹介をしようと自称の二つ名『薔薇』を名乗れば、鼻タレやら死神やら言われ。

 目的の音素盤を隙を突き奪い返すと、もう全て覚えたから良いとジェイドに馬鹿にされ。

 挙句の果てにはたった今、最高傑作の音機関【カイザーディストR】にジェイドが水属性の譜術を放った事でさぁ大変。

 放電しながら明らかにカイザーディストRが動きに異常をきたしたのだ。

 

「なんて事をするんですか! 防水加工しているとはいえ、そんな大量の水を放てば壊れてしまうじゃありませんか!?」

 

「完全に壊されたくなければさっさと退きなさい」

 

――次はありませんよ。サフィール?

 

 ドスの効いた声でディストにジェイドは言い放ち、その迫力に思わず椅子から落ちそうになるディストだが、そこは腐っても六神将。

 負けて堪るかと言わんばかりに怒鳴り返す。

 

「だまらっしゃい! このカイザーディストRに幾ら注いだと思ってるんですか!!」

 

「そんなガラクタに大金注ぎ込んだの?……あほくさ」

 

 ディストの言葉にアニスは心底呆れた様子で言い放った。

 作ったのがディストとはいえ、何だかんだ中身は高性能。だが、アニスの様に良さが分からない人から見ればガラクタでしかないのだ。

 

「音機関はガラクタじゃないんだぞ……」

 

 メンバーの唯一の音機関マニアのガイだけが擁護するが、その呟きを聞こえている者は誰もいなかった。

 しかし、こうなると面倒なのは状況だ。全く話が進まない事に業を煮やしたのルークだった。

 

「おい! ジェイドにアニス! アイツはお前等の”身内”なんだろ! だったら早く何とかしろよ! これは兄上の戦艦なんだから巻き込むんじゃねえよ!」

 

「……はぁ。ディストのせいで変な誤解を受けてしまいましたね」

 

「ディストの身内って……ハァ……」

 

 ルークにディストの身内認定されたジェイドとアニス。

 二人は余程ショックなのか、溜め息を吐きながら肩を落とす。

 そしてそんな誰が見てもショックを受けていると分かる態度。それにディストが黙っている筈がなかった。

 

「ムッキィィィィ!! どこまでも馬鹿にして! 行きなさいカイザーディストR!! 私に楯突く者はジェイドだろうが導師だろうが叩き潰しなさい!!」

 

 音声認識も可能なのだろう。

 ディストの声に反応する様にカイザーディストRは再び激しく動き始めた。

 相変わらず放電し、動きも最初の頃の繊細さは影もないが逆にそれが危険を呼ぶ。

 

『!……!!!』

 

 カイザーディストRはルーク達だけではなく、周りにある物と言う物全てに攻撃を行い始めたのだ。

 それを一言で現すならば”暴走状態”しかない。

 

「マズイ! 完全に暴走してるぞ!? さっきの旦那の攻撃で中の基盤や部品に異常が起きているんだ!」

 

「……やれやれ。このままではあの焔帝に修理代を請求されかねませんね」

 

 戦艦とはいえ巨大な鉄の塊が暴れれば無傷で済むはずもなく、ジェイド達がいるこの甲板の一部にも被害が出ていた。

 床は凹み、吹き飛ばした音素砲は砲身が変形している。

 そんな中、主犯格のディストを身内にされた以上、色々とフレアの耳に入ればまた何か言ってくるに違いないとジェイドは考えていた。

 

(まぁ……その時は護衛の事を出す事にしましょう)

 

 ジェイドはそう思いながら槍を出現させた。

 いつまで経っても来ないフレア本人と光焔騎士達。神託の盾と魔物に手こずっているとも思えるが、それでもここまで導師を放っておくのはナンセンスとしか言えない。

 ジェイドは反撃用の言葉を考えながら、目の前の馬鹿を素早く撃退する事にした。

――時だった。

 

「この野郎! 兄上の戦艦をこれ以上やらせるかよ!」

 

 ジェイドが仕掛けるよりも前にルークが飛び出したのだ。

 頭に血が上っているのか剣すらも抜いておらず、その様子にティア達も慌てて止めに入る。

 

「ルーク! あなた一人で勝てる相手じゃないのよ!?」

 

「待つんだルーク!」

 

「ルーク!」

 

「ご主人様!」

 

 ティアやガイ。そしてイオンとミュウも止めようとするが、ルークも無策な訳ではなかった。

 

「大丈夫だって! あの鉄ゴミは水に弱いんだろ! だったら試したい事があんだよ!」

 

 ルークは自信満々に答えたが、他のメンバーは日頃のルークの性格と無知を知っている為、ハッキリ言って不安を拭う事は出来なかった。

 

「ティア。ルークは第四音素を扱えるのですか?」

 

「い、いえ……基礎知識は教えましたが音素自体の扱いについては特には……」

 

 ティアが教えたの一般的な基礎知識と簡単な応用だけだった。  

 音素そのもの扱いについては馬車では難しく、野宿中もそんな暇はなかった。

 故に第四音素の譜術や技をルークが扱えるとはティアには思えなかった。

 

「ならば、あの自信は……」

 

 ジェイドはティアの言葉を聞いて更に分からなくなった。

 焔帝ならばまだしも、目の前の貴族のボンボンであるルークが何か出来るとはジェイドは全く思っていなかった。

 しかし、それを踏まえてもルークの自信はあり過ぎていた。

 本当に策があるのか。それともやはり何も理解していない世間知らずのご子息なのか。

 ジェイドが万が一に備えて構えを取った時、ルークは右手に力を込め始める。

 

「いっくぜこの野郎!!」

 

 ルークは適当に音素を込め、それを破裂させる技『烈破掌』の構えを取る。

 だが烈破掌は、所詮初心者向けの技である。小さな衝撃を生むのがやっとの技では六神将ディストが造った戦闘用音機関の装甲を破れない。

 

――ただの衝撃では。

 

「砕けちまいな!」

 

 烈破掌の構えのままルークは、音素を溜めたその手をカイザーディストRの周辺に存在する青き第四音素のサークルへと向ける。

 そして、そのルークの行動に漸くティアとジェイドが彼の意図に気付く。

 

「あれは第四音素のFOF(フィールドオブフォニムス)!?」

 

「音素を変異させるつもりですか……!」

 

 音素濃度が濃い場所で発生すると言われる現象。それが”フィールドオブフォニムス”通称FOFである。

 濃度の濃い第1~第六音素がサークル状の形で現れる現象であり、自然環境でも発生する事があれば戦場で譜術士達が放った譜術によって発生する事もあると言われている。

 

 それをルークは知っていたのだ。馬車でティアから聞き、それを今思い出した。

 そして第四音素のFOFに反応した事で烈破掌が”変異”する。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 ルークの叫びに呼応するかの様に掌に集まる音素の塊、それは大きな氷の塊へと姿を変えた。

 それはティアから学んだ知識を生かしたルークの機転。それから生まれた新たな技――。

 

絶破烈氷撃(ぜっぱれっひょうげき)!!」

 

 新たな氷塊を砕き、その衝撃で相手を吹き飛ばす技。それが絶破烈氷撃だ。

 破裂させる音素が氷塊となり、掌よりもやや大きめの氷塊がルークの前に現れる。

 

――だが。

 

「駄目だ! あれじゃいくら第四音素でも効果は薄いぞ!?」

 

 ルークが放った技。それを見たガイが焦る様に叫んだ。

 それはあまりにも小さかったのだ。ルークから放たれた氷塊、それは人間に対して行えば多大なダメージを与えた事だろう。

 だが巨大な鋼鉄の装甲を突破するには威力が足りない。

 事実。ルークがカイザーディストRへ放った氷塊の大きさは敵の全身は疎か、アームすらにも匹敵していなかった。

 

「クソッ……!」

 

――これ以上、兄上の船を好きにさせるかっつうの!

 

 氷塊の小ささには流石にルークも気付いてはいた。自分が劣勢である事にも。

 しかし今、勝手に戦場にしている場所は兄フレアの船だ。

 ジェイド、アニス、ディスト。他人の都合で尊敬する兄の船を好き勝手にされるのをルークは我慢ならないのだ。

 だがそれ程の想いを持っても現実は非情だ。

 

「ハァーハッハッハッハッハッ! ジェイドならばまだしも、所詮は焔帝の付属品でしかない貴様にやられる様なカイザーディストRではありませんよ!」

 

 ディストが勝利を確信した様に叫ぶ。

 ルークの耳にもティアやガイ、そしてイオンとミュウが心配する声が聞こえる。

 ついでにジェイドの溜め息も聞こえた。また勝手に見下されているのだろう。

 

「力が……力が足りねぇ……!」

 

 出し切る事の出来ない不完全燃焼な感覚。掌も長時間氷塊を維持している為、徐々に悴んでき始めた。

 

――誰でも良い。力を貸しやがれ……!

 

 それでも諦める事をしないルークの心の叫び。――諦めの悪さがなる様にしてその”好機”を掴む。

 内ポケットにしまっていた”それ”がルークの叫びに呼応する様に青く光り輝いた。

――瞬間、ルークの氷塊が爆発する様に破裂し、そのまま氷は浸食する様に拡大。そのままカイザーディストRの全身を包み込む。

 

「なっ!?」

 

「何が起こったの!?」

 

 

 ジェイドとティアが目の前の光景に驚き叫ぶが、そんなメンバーよりも驚いたのはディストだった。

 ディストは目の前の氷漬けにされたカイザーディストRに慌てて近付くが、カイザーディストRはピクリとも動かなかった。

 

「アァァァァァァァァ!!? なんですかこれは!? あ、ありえない! あり得ませんよ!!」

 

 ディストは椅子に仕込んでいた整備道具を取り出し、カイザーディストRを包む氷を砕こうと道具で何度も叩いた。

 しかし氷はビクともせず逆に叩き続けた道具にも氷が纏わりつき、まるで”意志”を持っているかの様に浸食してそのまま氷漬けとなってしまう。

 そんな事態にディストは反射的に手を離したが、氷漬けになった道具は地面に落ちると同時に砕け散り、その光景にディストは背筋を凍らせる。

 

「ヒ、ヒィィィィ!!?……そ、そんな馬鹿な! 本当にありえない!?――何故だ! 何故、お前にこれ程の第四音素を扱える! アッシュですらここまでの音素を扱う事は出来ないのに!」

 

 余程信じられない事なのだろう、ディストはルークと氷像となったカイザーディストRを交互に見ながら叫び続ける。

 眼中にすらなかったルークから受ける痛手、それにディストは信じる事は出来なかったが理由はそれだけではない。

 

――何故だ? 何故、あんな”出来損ない”如きに……!

 

「……ふぅ! ふぅ!――なんなんですか貴方は!?」

 

 落ち着かせる様に呼吸を整えながらディストは目の前で座り込むルークへ睨み付ける。

 そして睨まれた本人は、ディストからの問いに過剰な音素の使用に疲れ果てていたが根性で睨み返し、表情はざまぁみろと言わんばかりだ。

 

「へっ!……ルーク・フォン・ファブレ様だ!――兄上の戦艦で暴れやがって……このダサ眼鏡野郎……!」

 

「なっ!? この若造が……!」

 

 ハッキリ言ってディストは己の優秀な能力以上にプライドが高い。

 故に眼中になかったルークからの侮辱、それを受け入れる事など出来る筈もない。

 

「出来損ない風情が私にモノを言うんじゃありませんよぉぉぉぉ!!」

 

 激昂しながら右腕を掲げたディストは譜術をルークへ放とうとした。

 

――時だった。

 

『――!?』

 

 カイザーディストRを包む氷に不意に亀裂が走る。

――瞬間、巨大な轟音と共に光が放たれた。どう控えめに言っても”爆発”したとしか言えず、近くにいたルークはガイが一早く気付いて助けたがディストにはそんな相手などいる筈もない。

 その結果、ディストがカイザーディストRの爆発に呑まれるのは必然であった。

 

「ギャアァァァァァァ!!!」

 

 爆発に巻き込まれ海の彼方へと吹き飛んで行ったディスト。その威力からして普通ならば生きてはいないだろう。

 しかし……。

 

『ジェイドォォォォォォ!!! この程度で私は諦めませんよぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

 爆発に呑まれ、更には戦艦イフリーナから落ちて海に叩き落ちたにも関わらずディストの声は確かにルーク達の耳に届いていた。

 普通ならば死んでいるだろうが、それでも元気な声を出すディストにルーク達は絶句する中でアニスとジェイドだけは違った。

 

「うわ……やっぱし生きてる」

 

「生命力だけならばゴキブリと張り合えますからね……」

 

 不本意だがディストとは長い付き合いの二人。

 性格から生命力まで察する事は容易であり、二人がそんな事を思っているとルーク達のいるこの場が騒がし鳴り始めた。

 

「ルーク!」

 

「ルーク様!?」

 

 荒れた甲板を進みながらフレアと光焔騎士達がルーク達の下へとやって来た。

 気付けば辺りの戦闘音は止んでおり、フレア達との合流が戦いの終わりを物語っていた。

 

「遅くなって済まない……援軍を向かわせようにも、此方にも六神将が現れてしまってな……」

 

 フレアのその言葉にルーク達の表情が変わった。

 

「はぁ!? 兄上の所にも六神将が行ってたのかよ!?」

 

「死神ディスト以外の六神将まで……二段構えの作戦だったのか……」

 

 ルークはフレアの心配をし、ガイはディストのインパクト故に他の六神将の奇襲に、してやられた、そんな思いが読み取れるような困惑の表情を浮かべた。

 また他のメンバー達も同じような表情を浮かべており、ガイ同様に今回も危機一髪だった事を理解していた中、ジェイドは一人、冷静に頭を動かしていた。

 

「ところで……被害の方はどうなのですか? 光焔騎士の被害やアリエッタ……そして戦艦イフリーナ。イオン様以外にも神託の盾が狙うものは多かった筈ですよ?」

 

 光焔騎士はフレアの私兵だがキムラスカ側からしてもマルクトへの脅威とさせている重要な戦力だ。

 

『キムラスカの一兵卒には一人で当たれ。白光騎士、光焔騎士には五人で当たれ』 

 

 マルクトにもこんな言葉がある程にファブレの私兵団は恐ろしい存在だ。

 しかし、それでも彼等も人だ。殺せば死ぬ存在。故に今回の様にマルクト側が起こした被害でなくとも万が一があればキムラスカ側はマルクトを非難するだろう。

 どんな下らない事でも敵国を攻撃する材料はあった方が良いのだ。

 そしてそんなジェイドの問い掛けに対し、フレアはジェイドの方へ顔も向けずに語り始めた。

 

「アリエッタは今も牢にいる。光焔騎士もイフリーナも損害と言う損害はない……最初の砲撃で実質、勝負はついていた」

 

「どういうことですか……フレア?」

 

 フレアの言葉にイオンが聞き返す。

 既に彼に従う気もない六神将・そして彼らが率いるオラクル兵達だが、それでも教団のトップはイオンなのだだ。 

 特攻を前提とした作戦にイオンも思う事があるのだろう。その表情は暗く、そして悲しみがあった。

 そんなイオンにフレアは如何にも”察した”と言う様な雰囲気で頷き、話し始めた。

 

「騎士達の話では砲撃を掻い潜り、イフリーナへと侵入したオラクル兵達は練度が低かった様だと……そう聞いております。導師イオン、恐らくは今回の兵力の大半が”新兵”だったのでしょう……死神と鮮血の両名の為の捨て駒。そう考えればタルタロス襲撃時よりも戦力が少なすぎる理由が頷けます」

 

「そんな……」

 

「酷い……」

 

 フレアからの言葉を聞いて流石にイオンもティアもショックを隠せず、アニスも何処か表情は暗かった。

 その中でイオンは尚更だ。

 

「僕が無力なせいですね……僕がもっとしっかりしていればこんな事には……」

 

 新兵。つまりはそれでも兵士であり、死ぬ事と隣り合わせである以上は今回の事も仕方ないと言えるだろう。

 しかし、イオンはそう簡単に考える事が出来ない。

 兵士と言っても一つの命。それを使い捨てる様な行いに指導者であるイオンのショックは大きく、それは周りから見ても察せる程であった。

 すると……。

 

「気にすんなってイオン。先に兄上の戦艦を攻めて来たのは向こうなんだぜ? まさに自業自得じゃねぇか」

 

「で、ですが……」

 

 顔を下げているイオンへ、ルークがティアに肩を借りながら怠そうに言うがイオンの気分は晴れないでいる。

 そんなイオンにルークは空いている左手で頭を掻き始めると、小さくもしっかりとした言葉で呟く。

 

「……別にお前が命令した訳じゃねぇだろ?」

 

「!」

 

 ルークの言葉にイオンが顔を上げ、そのままルークの方を向くと先程と同じく髪を弄っていたが周りからは照れ隠しにも見えた。

 

「……六神将共やモースって奴が勝手にやってんだ。師匠やお前の言う事を聞かないんだから悪いのアイツ等だろ……つまり……まぁあれだ。お前は戦争を止める事だけを考えれば良いって事だっつてんだ!」

 

 途中から恥ずかしくなったのだろう。ルークなりの慰めだった様だが、柄じゃないと本人の自覚によって結局はいつも通りの感じになってしまった。

 だが、ルークが言ってることも間違いではない。それを補強する様にジェイドも続いた。

 

「言い方はややあれですが……大方間違ってはいませんね。大詠師派の目的が親書とイオン様の時点で今回の様な事は再び起こるでしょう。――どの道、我々が出来る事は戦争を阻止する事しかできません」

 

 実際、大詠師派の襲撃理由はジェイドの親書と導師イオンの身柄。

 この二つがある限り襲撃はされるだろう。バチカルに辿り着くその時まで。

 故にイオンがしなければいけないのは一つしかない。

 

「そうですね……」

 

 ジェイドの言葉も聞いて己の使命を思い出したのだろう。

 イオンは表情はまだ完全には晴れていなかったが、最初よりは良くなっていた。 

 

「ルークもありがとうございます」

 

「えっ! い、良いんだよんな事は!?」

 

 不意に礼を言われた事でルークもテンパる。

 誰かに礼を言われる事自体が彼の環境故に殆どなく、そういう事への免疫がないのだ。

 そんなルークの様子にティアやガイ、そしてミュウが楽しそうに笑っている。

――その時だった。

 

(!……あ……れ? 身体……が……)

 

 不意にルークは身体に異常な重さを感じ、口に出そうともしたがそれよりも先に意識が既に沈んでしまった。

 そしてルークが突然気を失った事で最初に気付いたのは肩を貸していたティアだった。

 いきなり重くなった事でルークの異変に気付く。

 

「ルーク!?」

 

「ルーク!――いかんな。すぐに部屋を用意しろ!」

 

 ティアが声を出し、フレアも急いでルークの傍によって脈等を調べると脈は大丈夫だが顔色は悪く、急いで近くの光焔騎士に部屋の準備を伝えると、光焔騎士達は急いでその場を後にする。

 

「ルーク様……あんな凄い第四音素を使ったから疲れちゃったんですね」

 

「ルーク……頑張ったな」

 

 アニスとガイがルークが倒れた原因と思える先程の第四音素の攻撃を思い出す。

 文字通り並の威力ではなかった先程の一撃。最近まで音素の基礎知識もなかったルークが使用すれば気を失うのも無理はなかった。

 

「……その話は後で詳しく聞こう。今はルークを運ぶのが先だ。――ティア」

 

「はい!」

 

 ティアとタイミングを合わせてフレアも開いている方に肩を貸し、そのまま移動を始める。

 これで取り敢えずイフリーナでの戦いは落ち着きを取り戻し、他のメンバー達も肩の力を抜き始める事が出来る。

――ただ一人を除いて。

 

(……)

 

 ジェイドだけがフレア。そしてルークの後姿をジッと見詰めていたのだった。

 

 

 

 

END


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